暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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原作では何度もクーケン島に戻って、彼方此方出かけた成果を宮殿の奧の扉に試すことになります。

その途中で神代のくだらなさが徐々に可視化されていくわけです。

原作でもライザがブチ切れる程に。


3、新しい鍵

クーケン島に戻った。

 

数日の船旅は忙しく。魔物を撃退したり、鍵の研究をしたり。船を乗り換えたりと、色々と手間も多かった。

 

途中立ち寄った港で、水と食糧を補給する際に、近場にいた魔物を撃退して。その時に、結構大きな熊を倒した。

 

毛皮が真っ赤に染まっている、十五人を殺したとか言う人食い熊で。周囲の住民に多大な被害が出ていたから。

 

あたしも容赦なく、熱槍で粉々に消し飛ばした。

 

頭と手足の一部くらいしか残らなかった。

 

それなりに大きな熊だったけれども。大型の魔物と比べてしまえば非力も極まりない。こんなのに苦戦するくらい、人間が弱体化していると言うだけだ。

 

人食い熊の頭を港町に持っていくと、それで随分と感謝されたし。

 

クラウディアが交渉して、水と食糧を少し割引して貰ったので。それで、随分船旅で出る食糧が美味しくなった。

 

海上で襲ってくる魔物があまり強力では無かった事もあって。クーケン島に辿りついたときに、船がボロボロとか。

 

船員が疲労困憊とか、そういう事もなかった。

 

とりあえず、皆は一旦解散。

 

レントはしばらく考え込んでいたが、自宅に向かったようだった。あの様子だと、ザムエルさんと何かあるな。

 

そう思ったが、レントももう立派な大人だ。

 

あたしが口を出す事じゃない。

 

あたしは、バレンツ商会に出向いて、手紙を確認する。連絡網にやはりアンペルさんとリラさんは反応していないようだった。

 

「やっぱりダメね……」

 

「この様子だとトラブルに巻き込まれたとみて良いだろうね。 リラさんがいるから、捕まって首チョンパとかいう事はないだろうけど」

 

「ライザ、どんどん発想が過激になってるね」

 

「まあ、色々あったしね」

 

クラウディアはむしろ楽しそうだ。

 

クラウディアにしても、アンペルさんだけならともかく、リラさんもついていて。辺境集落の村民程度にあの二人が殺される事はないと分かっているのだろう。

 

二人が消息を絶ったのは、南の土地だ。

 

また船を使って行くのだが、サルドニカよりかなり遠い。

 

更に一応ロテスヴァッサの勢力圏という事にはなっているのだけれども。そもそもとして古代クリント王国ですらあまり興味を持たなかったような土地で。密林が拡がり、相応に強力な魔物が彷徨く魔郷であるらしい。

 

それを考えると、やはり足を運ぶべきか。

 

門があった場合、手遅れになる可能性が否定出来ないからだ。

 

あたしも、自宅に戻る。

 

フェデリーカもつれて行こうかと思ったが。フェデリーカはセリさんが群島にあるアトリエの方につれて行くそうである。

 

なる程、それもまた良いか。

 

先にそっちに慣れておくのも手だ。

 

自宅に戻ると、いつものように父さんが畑を耕していて。畑と会話していた。あの境地になるのには、随分と時も掛かっただろう。

 

だけれども、誰もが認める凄い野菜を作るのだ。

 

母さんは、あたしを見るとため息をついていた。

 

「なんだか、また気配が鋭くなっているね。 たくさん魔物を殺したのかい?」

 

「それも含めて色々あったよ。 一人仲間も増えた」

 

「そうかい……」

 

「父さんも。 畑と話が終わったらあたしと話そう。 お土産もあるし」

 

母さんがあたしの事にも、錬金術にも理解が無い事は、もうどうしようもない。

 

前はドス黒い反発を感じもしたのだが。

 

今はもう、それはもう仕方が無い事だと考えて諦めるようになっている。

 

それで別にかまわないと思う。

 

あたしの人生はあたしの人生。

 

母さんの人生は母さんのものだ。

 

錬金術に興味を持たないというのなら、それでいいだろう。錬金術の恩恵だけ欲しいが、錬金術に興味を持たないというのは、それはそれで不愉快だが。だから、それに関しては反発する。

 

食事を用意してくれる。

 

母さんはそこそこ料理が上手だが、あくまでそこそこだ。

 

ザムエルさんが一番荒れていて、レントが家にいられなかった頃、レントの分も作っていたこともある。

 

食事を作る手際は悪くない。

 

サルドニカから持ち帰った幾つかの保存食を渡しておく。ピクルスはなかなかおいしかったのでお勧めだ。

 

軽く、サルドニカであった事を話す。

 

そうすると、父さんは笑顔でそうかそうかと頷き。

 

母さんは、どこまで本当なのかと、疑っているようだったが。二人とも実戦経験者である。

 

あたしが更に実戦を重ねて来たことは、それは理解出来たのだろう。それについては、疑っていないようだった。

 

「それで父さん。 水の調子は」

 

「だいたい良い感じかな。 ほとんど以前の……水が大量に使えるようになる前の水準に戻ったと思う。 ただまだもう少し苦みがいるかな」

 

「分かった、サンプルを作って来るよ。 それにあわせて調整する」

 

「頼むよライザ。 ライザの作る淡水化装置?とかいうものを疑っているわけじゃあないんだ。 だが、クーケンフルーツの僅かな味が、クーケン島の外貨獲得に大きな影響を与える。 ライザがバレンツと取引しているお金も随分還元して貰っているけれど、それだけじゃダメなんだ」

 

その通りだ。

 

あたしはあくまで第三勢力として、ブルネン家にも古老達にも好き勝手をさせないために蓄財をしている。

 

バレンツも、半分はあたしとの取引があるからクーケン島に根を下ろしているが。

 

逆に言うと残り半分は、クーケンフルーツがあるからである。

 

少なくとも、クラウディアが生きている間は、バレンツが態度を変えることはないだろう。

 

あたしも、もうそういうスパンでものを見ている。

 

夕食は取るが、寝るのは小妖精の森近くにあるあたしのアトリエで。

 

それについては、父さんも母さんも何も言わなかった。

 

タオはサルドニカで回収した本を、こっちのアトリエには持ち込んでいないらしい。タオもタオで、パティに気を遣っているわけだ。

 

このアトリエであたしと二人っきりになるのを避けているという訳だ。

 

大人としての対応をしていると言う事で立派だ。

 

そこまで気にしなくてもいいと思うのだが。

 

パティとしても、今王都で大掃除の真っ最中であり。あの真面目なパティが、愚痴を書いてくるくらいなのである。

 

これ以上心配事は増やしたくないのだろう。

 

ロテスヴァッサ王国が、アーベルハイム国になるまで、あと何年だろう。

 

その国がどういう政治制度を取るのかはしらないが、今より王都がマシに。王都と経済的に関係している都市や、周辺集落が少しでもマシになってくれればいいなと思う。

 

あたしは鍵の最終調整をしながら、黙々とそんな事を思った。

 

もう、時間か。

 

フィーが袖を引いたので、気付く。

 

風呂に入って、寝床に潜り込む。

 

鍵は、もう少しだ。

 

「吸収」と「保護」については、ほぼ出来たと思う。

 

ただ、問題はその先だ。

 

あの門、この程度でどうにかなる代物だとはどうしても思えないのである。

 

「頑強な外殻」については、もうほぼ仕上がっているし。明日中には多分完成品を作れるだろう。

 

明日は、クーケン島をかるくぶらついて。

 

問題が起きているようならば。

 

その解決に、協力しようと思っていた。

 

 

 

翌朝。

 

いつものように、朝早くから起きる。

 

フェデリーカがセリさんと来たので、ちょっと驚く。フェデリーカは、困惑した様子で、アトリエを見る。

 

「ほ、本当にこっちにもあるんですね。 しかもこれを最初の四人だけで作ったんですか、それも僅かな時間で」

 

「王都にはアトリエの機能だけがある部屋を持ってるから、サルドニカのもあわせて四つアトリエがあるんだよ」

 

「……すごい。 別荘をたくさん持っているかのようですね」

 

まあ、それもそうか。

 

中に入って貰う。

 

以前、クラウディアに古いピアノを送って貰ったので、それを修理して置いてある。なお、あたしはセンスがないらしく、ピアノはさっぱりだ。フェデリーカはと思ったら、ピアノを開けて、調律を始める。

 

なる程、職人だ。

 

こういうのも出来るのか。

 

「凄いね。 ピアノ出来るんだ」

 

「父が色々と習い事はさせたんです。 サルドニカにもピアノはあって……。 人間がこれだけ追い込まれている世界なのに、こんな複雑な機械が残っているのは奇蹟だから、保存しようって。 色々仕込んでくれて」

 

「調律が終わったら聞かせてくれる?」

 

「えっと、引く方は素人以下で。 すみません」

 

そっか。まあ職人だし、そうかも知れない。

 

ただ、クラウディアが来たら、引いてくれるかも知れない。

 

笛も相当な技量だが、クラウディアはピアノも上手い。去年、門を閉じた後に軽く此処に来た事があるのだが。

 

その時に、ピアノを調律して、それで引いてくれた。

 

調律が終わったので、後は解散。あたしはクーケン島に。セリさんは、アトリエの周辺の植生を確認し。薬草についてないか調べるそうだ。フェデリーカはそれについていって、戦闘の支援と、薬草の知識を覚えるそうである。

 

生真面目な子である。

 

そういう生きていくのに必須の知識は、それこそ必死に覚えるだろう。サルドニカに伝えて。

 

それが後に誰かを救うかも知れない。

 

クーケン島に出向くと、遠くでがつんと音がした。

 

なるほど、案の場やり合ってる訳か。

 

無言で、レントの家に行く。周囲の住民が、さっと避けているのが分かった。昨日から、なのだろう。

 

レントの家は、奥まった所にある。

 

ザムエルさんは、護り手最強のアガーテ姉さんと力量はほとんど変わらない。酒に溺れる前だったら、もっと強かったかも知れない。

 

だから荒事の時はどうしても頼りにされた。

 

クーケン島にも与太者は来るし。

 

強い魔物が出るときには、ザムエルさんに声が掛かることも多いのだ。

 

だから、追い出す事は出来ず。

 

かといって怖いから、こういう所に閉じ込めた。

 

ザムエルさんは、若い頃は人々を助けて廻っていた。

 

それが、見かけから忌避されて。

 

身持ちを崩して。

 

やっと落ち着いたクーケン島でも、こんな扱いを受けている。それは、色々とねじれるのも仕方が無いのかも知れない。

 

ともかく、覗くと。

 

まあ、そうだろうなと思った。

 

ザムエルさんが。あの大巨人が、尻餅をつかされている。かなり手傷を受けているようだ。

 

レントは平然と立っている。

 

勿論無傷だ。

 

素手での殴り合いをしていたようだが。それでも、もう力量の差は明らかだった。

 

ガタイはザムエルさんの方が上なのに。

 

酒に溺れて、すっかり鈍りきってしまった今のザムエルさんでは、レントに勝てないのも仕方が無いのかも知れない。

 

「立てよ。 その程度で沈むほどヤワじゃねえだろ」

 

「……」

 

ザムエルさんは血を吐き捨てると、立ち上がる。

 

だが、レントが容赦なく間合いを詰めて、拳を鳩尾に叩き込んでいた。

 

酒臭い息を吐きながら、前のめりに倒れる。

 

あの大巨人が。

 

もう為す術も無い。

 

手を出すつもりは無い。

 

これは、レントとザムエルさんの問題。そして、ザムエルさんも、レントが言った通り。

 

この程度で沈むほどヤワでは無いのだ。

 

「畜生、拳が重くなりやがったな……」

 

「……もういいな」

 

「ちっ。 負けは負けだ。 話してみろ」

 

「旅先で母さんに会った」

 

あたしは無言で様子を見つめる。

 

あたしはレントとは家族ぐるみのつきあいで、レントは義理の兄みたいなもんである。その割りには常にあたしが行動の主導権を握っていたが。

 

ザムエルさんもあたしには絶対に暴力を振るわなかったし。

 

父さんと母さんに頭が上がらなかった事もある。

 

要は、此処に居合わせる資格がある。

 

レントは言っていたな。前に門を閉じた時に、母さんと会ったと。その時に、手紙を受け取ったのだと。

 

ザムエルさんに、レントが手紙を突きつける。

 

舌打ちして、ザムエルさんが受け取る。しかし、その手紙には何も書いていないようだったが。

 

「白紙か。 綺麗さっぱり関係を清算しようっていうわけか」

 

「違うな。 酒に狂ってるから目の前のものも見えなくなる。 少なくとも俺には意図が分かったぞ」

 

「何だと……」

 

「酒を抜いて考えるんだな」

 

レントが、後は任せると視線を送って、使っている宿に。

 

あたしは薬を取りだすと、ザムエルさんの手当てを始める。ザムエルさんは、なんども悔しそうに歯ぎしりしていた。

 

「俺の若い頃くらいに強くなりやがったなあの野郎。 俺には似ても似つかないと思っていたのによ」

 

「ザムエルさん。 レントはザムエルさんと同じ悩みを抱えたんですよ」

 

「何だと……」

 

「去年王都で再会したとき、すっかり現実に打ちのめされていました。 ザムエルさんほどではないにしても、あのタッパでしょ。 どれだけ人を助けても、怖がられるだけ。 それで、結構効いたんですよ」

 

舌打ちするザムエルさん。

 

元々ザムエルさんは、周囲から怖がられていた。幼い頃からそうだったらしいと、父さんと母さんに聞いている。

 

だが、父さんの話によると。

 

子供の頃のザムエルさんは、他の奴が嫌がるようなゴミ掃除とかも率先してやっていたし。

 

魔物退治とかでも、何のためらいもなく最前線に出ていたらしい。

 

父さんは言った。

 

人間のかなりの多くの割合で、自分より上か下かでしか相手を判断できない輩がいる。

 

そういう輩は、食事を出す相手を自分より下だとみるし。片付けをする相手を下だとみる。

 

そういった連中にとって、ザムエルさんは理解出来ない恐怖だったのだと。

 

圧倒的に強いのに、「下」にやらせれば良いことを自分からやる。

 

それがその手の「上か下か」でしか判断できない人間の目には、ただの恐怖にしか映らないのだと。

 

こう言う話は、大人になってから響いてきた。

 

猿以下の人間が結構いること。そういう輩は、確かにそういう思考回路を持っている事。

 

そしてザムエルさんは、そういう輩に追い詰められたことも。

 

レントもそうだ。

 

結局、この親子は似ていたのだ。

 

「ライザ、この手紙……何も書かれていない手紙の意図が分かるのか」

 

「分かります」

 

まあ、これくらいは分かる。

 

というか、ザムエルさんは酒のせいで感覚が鈍りすぎている。

 

それだけの話だ。

 

「お酒を抜いてください」

 

「簡単に言いやがる。 声が聞こえて仕方がねえんだよ」

 

「声?」

 

「どいつもこいつも、俺が助けたら悲鳴を上げて化け物とか叫んだり。 ガキは泣き出す、女は殺さないでとか取り乱す。 魔物を倒したら、悲鳴を上げて逃げる。 報酬は投げて寄越しやがる。 人間を常食しているだとか、素手で人間を引きちぎって殺すだとか、好き勝手な噂を流しやがる。 そういうのを真に受けた役人が、武器と人数を揃えて捕まえに来た事もありやがった」

 

思った以上に壮絶だ。

 

ずっとそれらの過去に苦しんできたのか。

 

確かに、最初からどうしようもない、更正の余地もないカス野郎はいる。

 

だけれども、そうでない人が怪物になることもある。そういうのはだいたい強いか弱い立場の人間だ。強い場合は負の成功体験を積み重ねていった結果、化け物が生じる。弱い場合はあらゆる否定と迫害が、その人を化け物に変える。

 

ザムエルさんは化け物になりきってはいない。ギリギリ踏みとどまっている。

 

化け物を作るのは、人間の集団だ。

 

人間は、やっぱり種としては愚かすぎるのである。

 

こういう事例を見ていると、あたしはそう結論せざるを得ない。

 

「酒を飲んで酔っている間だけは、そういう声が聞こえなくなる。 だがな……もう……聞こえはじめていやがる」

 

「分かりました。 ちょっと待っていてください」

 

「なんだよ畜生……」

 

「ちょっと、作って来ます」

 

どうせ、まだサルドニカから回収した資料をタオが調べきるのには時間が掛かると見ていい。

 

だったら、身内を助けるのもあたしの仕事だ。

 

アトリエにすぐに戻る。レントには必要なかったが。実は、以前エドワード先生と、話をしたことがあったのだ。

 

心に酷い傷を受けた人のために、作るもの。

 

それは、薬でもいいだろうが。薬が効かないくらい心が傷ついている人には、むしろもっといいものがあるかも知れない。そう考えて、少しずつ作っていたのだ。

 

そうして、あたしは作る。

 

まずは、酒を中和する薬。

 

これに関しては、別に難しくも無い。酒は元々毒物で、体内で分解されている。

 

それについてはエーテルに溶かして調査して知った。体の中で分解されるプロセスも、である。

 

それを促進してやれば良い。

 

ただ、ザムエルさんは心の傷を酒でどうにか抑え込んでいる状態だ。

 

其処に酒を取り除いてしまったら、きっと壊れてしまう。

 

ザムエルさんは、クーケン島の出身。

 

そして、若い頃には今の家ではなくて。最近は島の傾きが是正されたことで、沈まなくなった旧市街に住んでいた。旧市街にあった家はもう沈んでしまった。ザムエルさんが父さん母さんと傭兵に出て、帰ってきたときにはそうなっていたらしい。

 

よし、出来た。

 

後は、これを使って貰うだけだ。

 

すぐにクーケン島に引き返す。

 

薬はとっくに効いていて、ザムエルさんはぼんやりと座り込んでいた。何度も酒瓶に手を出そうとしていたが。

 

それを必死に堪えているようだった。

 

「ザムエルさん」

 

「おい、なんだそれは」

 

「いいから」

 

あたしが作ってきたのは、両耳を塞ぐものだ。上でバンドがついていて、それがしなるようになっている。

 

魔物の筋繊維から作ったバンドで。良くしなる上に強度も申し分ない。長さも調整出来るようにした。

 

耳を覆う部分は、これもまた魔物の皮から作った柔らかい素材で、耳を痛めない。

 

そして、其処から聞こえるのは。

 

「……」

 

ザムエルさんが、黙り込む。

 

そう、海の音だ。

 

ずっと幼い頃、その音を聞いていれば、静かでいられただろう。

 

ザムエルさんの両親は早くに亡くなったそうだが。少なくとも幼い頃、ザムエルさんは両親とそれほど不仲だったとは聞いていない。

 

しばし黙っていたザムエルさんは。

 

あたしが渡した酒の中和薬を、煽って。後は横になって眠ってしまった。

 

それでいい。

 

こわごわ覗いている住民に、大きく咳払い。

 

「ライザ、ザムエルさんは大人しくなったかい」

 

「お前だけが頼りなんだよ。 最近はレントも大きくなって、なんだかおっかなくてねえ」

 

ちょっと、代わりに噴火しそうになったが。

 

どうにか笑顔を作る。

 

そういう態度が、ああいう怪物を作ったんだ。

 

そう、怒鳴り返してやりたかった。

 

人間は異物を迫害して、そして怪物に仕立て上げる。それで怪物にやられたと被害者面をして、異物を死にまで追い込む。

 

この島の人間もそれは同じだ。

 

アンペルさんがつるし上げを受けた時にそれをはっきり悟ったような気がするが。

 

てか、今。

 

ブチッと心の中で音がした。

 

「ザムエルさんは、昔からああでしたか?」

 

「いや、それは……」

 

「皆で怖がるから、ザムエルさんはああなったんです。 ザムエルさんは元々は、人が嫌がる事も進んでやり、戦いで命を賭けて最前線に立てる。 そんな立派な人ではありませんでしたか?」

 

むしろ静かに。

 

周囲の人々に諭す。

 

それで、皆黙り込む。

 

そうだったことを、今更ながらに思い出したのだろう。

 

「怪物を作り出すのは、そうやって周りで勝手に作り出した幻想です。 ザムエルさんは、周り全員にそうやって怪物に仕立て上げられた。 だから今も酒を飲んで暴れるしかない。 それを忘れないようにしてください」

 

あたしも、ちょっといい加減に手が出る寸前だったので、そうしっかり諭す。

 

誰も、反論はしてこなかった。

 

勿論、生まれながらに邪悪な輩は存在しているだろう。

 

だが、大半の壊された人間は。

 

周りに壊されるのだ。

 

そういう現実があるのに、自己責任であるとするには問題がありすぎる。自己責任論は、人類が編み出した他責思想の極限であるともいえ。人類のあり方を貶めているとすら言える。

 

色々な人間を見て来たから言える。

 

自己責任論は、自己責任論の皮を被った、社会システムのミスによって生じる人間に。社会システムのミスを押しつける、最低の思想だと。

 

あたしはアトリエに戻る。もう、ザムエルさんは大丈夫だろう。多分、数日以内には、手紙の意図に気付けるはずだ。

 

鍵の調整をしていると、レントがアトリエに来る。

 

「ライザ、色々と助かった。 ありがとうな」

 

「んーん」

 

「結局俺とお前は男女としては縁がなかったが、家族としては本当に頼りになる。 今後も頼むぜ」

 

「そうだね。 あたしがもう少し色事に興味があったら、少しは違う結果になっていたのかも知れないけど」

 

まあそれはレントもだが。

 

お互いに苦笑いすると、レントはアトリエを出ていった。

 

そのまま、あたしは調合を続ける。

 

そして、翌日。

 

群島の方のアトリエで、皆を集める。鍵の調整が終わったからである。

 

作り出した鍵を見せる。

 

前は青白く透けていて何とも頼りない鍵だったが。今度のは力強く、白く鍵が輝いている。

 

三つの要素をしっかり仕上げてきた。これで、恐らくはかなり違う鍵になる筈である。

 

「そうなると、門を開けられそうかい?」

 

「やってみないと何ともいえないですね。 ただ、可能性はあると思います」

 

「くう、それはすげえ! ロマンだぜロマン!」

 

「相変わらずですね」

 

クリフォードさんがまた昂奮しているが。

 

実の所、あたしも結構楽しみではある。

 

この新しい鍵、さっきから何度か試しているのだが。竜脈から魔力を吸い取る事で、強力に変貌する。

 

鍵そのものが、生半可な装飾品もびっくりの強力な性能を発揮するのだ。

 

魔術を何重にも重ね掛けしたような、である。

 

何回か試験をした後、実戦投入をするつもりだ。

 

そして上手く行くようなら、皆に配布する。

 

場合によっては、身に付けているコアクリスタルから使う道具に加えて。それぞれがこの鍵によって、強力な効果を得られるはずだ。

 

更に言えば。

 

それだけの魅力的なエサを、神代の何者か分からないが、ぶら下げてきたと言う事でもある。

 

勿論タダの筈がない。

 

古代クリント王国が模倣した神代の最悪の連中がこの鍵を寄越してきたのだとすれば。その目的は、どうせ絶対にろくでもない。

 

それは断言してもいい。

 

ともかく、罠に今は敢えて足を踏み入れる。

 

その目的次第によっては、罠ごと敵の全身を引き裂いてやる。

 

あたしを罠に掛けてあっさり捕らえられると思ったら大間違いだ。場合によっては存在そのものから消し去ってやる。

 

オーリムでの惨状を見ているあたしとしては。

 

古代クリント王国が模倣した存在と言うだけで、許し得ないのだ。

 

「それでは、一旦辺りの確認をして、それで足場を堅め次第、再びあの群島の奧の宮殿に向かおう」

 

「分かりました」

 

「よし。 全員で動くか? それとも一旦偵察に別れるか?」

 

「私がさっき音魔術で探索した範囲だと、特に強大な魔物が出現している気配はないよ。 ただ……大きなワイバーンが相変わらずいるね。 今の時点では、此方に注意を向けている様子はないけれど」

 

ワイバーンか。

 

今の時点の戦力だと、多分負ける事はないだろうが。それでも、戦力を分散していると面倒か。

 

分かった。

 

あたしは、地図を拡げると、皆に告げる。人員分配と、それぞれの行動ルートについてである。

 

エアドロップは既に複数用意してある。それだけの時間があったからだ。三班に分かれて調査して、危険な魔物の出現などを調査し。それから合流。

 

特に時間は掛けない。逆にそれで、短時間で遭難なりなんなりの問題が発生した場合に対処できる。

 

「ワイバーンがいる島は避けるんだね」

 

「それ以外にも、大物がいると判断したら接近は中止。 即座に皆と合流して。 勝てると判断しても」

 

「ええと、結構慎重なんですね」

 

「当たり前だよ。 散々痛い目にあってきてるし」

 

クーケン島近くといっても、此処は完全に未知の領域だ。

 

王都近辺の遺跡探索でも何度も酷い目にあったが、この辺りはあの遺跡と同等か、それ以上に危険な仕掛けが施されている可能性がある。

 

ピクニック気分で足を踏み入れて良い場所ではない。

 

皆の班分けを終えると、あたしはクラウディアとともに移動を開始。フェデリーカはセリさんとクリフォードさんと一緒に行動して貰う。レントとボオスとタオはも別チームとして行動だ。

 

「音魔術は常に限界範囲まで調査して」

 

「うん、分かってる」

 

クラウディアは全力で範囲探索を続けてくれている。

 

あたしはそれに頷くと、エアドロップを膨らませて。群島の間の海域を、移動し始めるのだった。

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