暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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さて新しく出現した問題。

原作でもライザは信頼出来る友人を呼んで最初から対応は全力投球で行っており、鈍っても二度にわたってフィルフサの大侵攻を防いだだけの成長は見せています(なら鈍らないで欲しいけど)。

本作でも最初から全力で動くのは同じです。

ただ、本作では原作で声が掛からなかった人も来る事になります。頼もしいことに。


3、皆が来る前に

作りあげたゴルドテリオンをベースに、剣を打つ。

 

ボオスに頼まれたのだ。

 

護り手の戦力の拡充を頼むと。

 

今回の一件、長引く。

 

それをボオスも理解したのだと思う。

 

百年前に似たような事件が起きたときは、半年くらいは異常が続いていたらしい。それについては、タオが確認している。

 

つまり何も誰も手出ししないと、半年くらいは異常が続くとみて良い。

 

その間、島の交易には大きなダメージが出る。

 

そうならないように、さっさと対策はしなければならない。

 

それだけじゃあない。

 

ボオスとタオと、アガーテ姉さんと一緒に出向いて確認したが。聖堂の更に西には、明らかに多数の魔物が徘徊していて、攻撃に備えるように警戒していた。それも、歴戦の戦士のように統率が採れた動きで、である。

 

ヴォルカーさんが見たら、目を剥くのではあるまいか。

 

魔物はそれぞれ好き勝手に動く。

 

ラプトルのように、ある程度統率がとれた動きをする魔物もいるが、それも所詮は稚拙な連携に過ぎない。

 

今見ているのは、まるで護り手や、ヴォルカーさんが鍛えた戦士達のような連携で動いている魔物の群れだ。

 

次にあたし達が攻め寄せても、撃退してやる。

 

そういう気配を、ビリビリ漂わせていた。

 

これは、簡単にはいかないな。

 

そう思って、あたしは一度引き上げる。

 

幸い此奴らは、この浅瀬と群島を守る動きをしている。それに、周囲の魔物も集まってきている。

 

もう少し人数が集まったら、全部まとめて一網打尽にしてやる所だが。

 

少なくともロングレンジでの戦闘を出来るクラウディアとクリフォードさん。何より頑丈な前衛として動けるレントがいないと、この数は相手にしたくない。

 

あの翼と槍持つ魔物も、クラウディアが来たら、遠距離攻撃を試してみたいのである。

 

それでたたき落とせるようなら。

 

或いは、一気に活路が見いだせるかも知れない。

 

偵察から戻ると、護り手の皆に武器を分配する。

 

渡したのはオーソドックスな剣と槍だが。だからこそに使いやすい。

 

それぞれにサイドアームとしての剣と、槍を支給する。

 

アガーテ姉さんが。念を押していた。

 

「これらは基本的に今回特例として配布する武器だ。 今回の危機が収束し次第、回収する」

 

「分かりました!」

 

「うむ」

 

アガーテ姉さんは、相変わらず厳しいな。

 

そう思う。

 

確かにこれらの装備は、普通の戦士が使うには過ぎた装備だ。ちょっと扱いを誤るだけで、手指どころか手足ごとさっくりなくなる。

 

ともかく、警戒装置と検問をあわせれば、これで問題はしばらくは生じないだろう。

 

先にオーリムに行くかとボオスに話を振っておいたが、首を横に振られた。

 

「今は忙しいだろう。 後で余裕が出来たら頼む」

 

「そう。 良いんだね」

 

「ああ」

 

ボオスはそんな風に、素っ気ないのだった。

 

実は、既にオーリムには足を運んだ。

 

あたしとしても、キロさん達には状況を伝えておくべきだと判断したからだ。

 

今、グリムドルには四十人ほどのオーレン族が集まって、復興作業をしている。既に畑も出来ているし、彼方此方に木々も生えている。完全に表土が禿げてしまった土にも、下草が生え始めていた。

 

水も豊かに戻り。

 

フィルフサは近付く事も出来ない。

 

遠くから、此処を目指して逃げ込んできたオーレン族の民も、少しずつ増えている。

 

グリムドルは、復興しつつあるのだ。

 

此処でも、水害を引き起こせる堤防トラップは仕掛けてある。

 

使い方についても訓練したし、幾つか緊密な動きはしているのだ。

 

キロさんは、百年ごとに起きる異変というものについては、知らないし興味も無いようだったので、それで別にいい。

 

こっちの世界の問題だ。

 

キロさんが、知らないのは当然だし。

 

何より時間感覚が全く違う。

 

百年前は、キロさんはグリムドルで一人、ずっとフィルフサ相手の戦いを続けていたはずで。

 

そもそも此方に来る手段すらなかっただろう。

 

それに半年かそこらで収まる問題なんて、オーレン族の時間感覚からすれば、一瞬である。

 

むしろキロさんが興味を持ったのはセリさんだ。

 

緑羽氏族と聞くと、それだけで興味を見せた。

 

セリさんの一族は、それだけ緑化のスペシャリストとして知られていると言う事で。

 

いずれグリムドルにも来て貰って、緑化作業を見て欲しいと言う事だった。

 

それに、他の幾つかの件についても、情報の交換をキロさんとは約束している。

 

一番の情報については、人間とオーレン族との交配についてだ。

 

キロさんは、情報を持っていた。

 

古い時代に、どうもそういう例があったらしい。

 

やはりか、とあたしは思った。

 

人間とオーレン族は、姿が似た収斂進化とよばれるタイプでは無く、どうも亜種にちかいと感じていたのである。

 

話を聞くと、古い時代にそういう伝承があったとかで。

 

やはり、母親側に大きな負担が掛かって、すぐに命を落としてしまった、ということだった。

 

なお、今グリムドルにいるオーレン族の女性に、妊娠中の人はいない。

 

もしも子を授かった人がいたら、連絡してくれる。

 

そういう話であったが。

 

いずれにしても、まだ先になるか。

 

ボオスには、これらの話は黙っておく。

 

ボオスとキロさんの話だけではない。

 

問題を全て片付けた遠い未来の事。人間とオーレン族が、協調して一緒に歩けるようになる時代が来たら。

 

その時には、子供を作ったら母親側が死ぬような悲劇は避けなければならない。

 

ともかく、資料が必要だ。

 

アンペルさんとリラさんも、今はその気配はないが。もしも二人が結婚するようなことがあれば。

 

悲劇を避ける為にも、早めに話はしておかなければならなかった。

 

クーケン島に戻る。

 

忙しそうに、ボオスはブルネン邸に戻っていく。

 

戦士として当てになるようになったが。

 

ボオスが公的に戦士として振る舞うのは、多分これが最初で最後では無いのかと思う。

 

門の対策、フィルフサの王種対策で、この一年の間二回の戦いの時も、ボオスには参戦してもらったけれども。

 

それはあくまで公的な振る舞いでは無い。

 

一個人としての行動だ。

 

今後、ボオスはクーケン島を背負って立つ。

 

それを考えると、色々と厳しいだろうなと言う事は容易に想像がつく。

 

「ボオスも、せっかく剣士として腕を磨いたのにね」

 

「禊ぎだって言ってたよ」

 

「うん?」

 

「ボオスってさ。 ライザや僕に冷たく当たってたことを、結構後悔しているらしいんだ」

 

そうか。

 

まあ、それならば。そうでないよりもずっと人間的にマシだと思う。

 

話をそのまま聞く。

 

「それでね。 本当の仲間になるためにも、しっかり一度、同じ立場で冒険をしておきたいんだって。 戦士としても、しっかり戦っておきたいんだってさ」

 

「パティと同じで、根は真面目と言う事だね」

 

「うん。 まあ、四年前まではちょっとボオスもおかしくなっていたんだよ」

 

「それは分かる」

 

まあ、あれはあたし達もボオスも悪かったのだ。

 

禊ぎをしたいというのなら、それをとめるつもりもない。

 

ボオスは一戦士として協力し。

 

あたし達はそれを受け入れる。

 

それで、禊ぎとしては充分だ。

 

そういえば、ランバーが仕事をしている。最近は秘書官としてすっかり落ち着いていて。奥さんを貰った事もあって、ブルネン家に対する忠義も評価されているようだ。

 

剣技については、アガーテ姉さんが認める程で。

 

今でも、護り手にたまに剣を指導している。

 

「ランバーも、すっかり雰囲気が変わったね」

 

「ランバーも道化を演じる必要がなくなったからね。 ボオスもそれを理解しているんだと思う」

 

ボオスもランバーを信頼し。

 

ランバーも敬意を持ってボオスに接している。

 

そういえば、子供が少し前に生まれたのだが。難産だったので、あたしが薬を提供したっけ。

 

今は産後の肥立ちも良くて、何の問題も無い。産婆も最初は難しいかもしれないと言っていたのだが。

 

逆子だった子も、ちゃんと産まれてきて。

 

今では、少しずつ言葉が喋れるようになってきている。

 

元気な女の子だが。

 

将来はどうなるかは、まだちょっと幼すぎて分からない。

 

「じゃあ、あたしはアトリエに戻るよ」

 

「僕はちょっと本をそっちに運ぶね。 僕の部屋、ちょっともう狭いように思えてさ」

 

「アトリエは図書館じゃないんだけどなあ。 まあ、皆で好きに使う取り決めだもんね」

 

「というか、アトリエのコンテナが凄いよ。 本が傷む恐れがないんだから」

 

それが目的か。

 

まあ冷気の魔術を常時掛けるようにしていて、傷みやすいものも傷まないようにはしているが。

 

確かに、本もそれで痛む事は無さそうだ。

 

最初の第一陣だけは、あたしも手伝う。タオが部屋から大量の本を運び出していくのを見て。

 

タオの両親は、ゴミでも見るようにタオと本を見ていた。

 

タオが王都で学者になることも。

 

その学者になるために役立ったこれらの本も。

 

自分から見てどうでもいいから、どうなろうと知った事じゃない。むしろゴミでしかない。

 

視線にそういうものが篭もっていて。

 

親子の関係は千差万別。

 

親から子への愛が必ずあるわけではないと、あたしは思い知らされる。

 

だけれども、今更胸ぐら掴んで怒鳴る気にもなれない。

 

タオも既に両親には色々諦観を持っているようで。

 

それについては、何も言わなかった。

 

これは、タオがパティと結婚しても、この二人には知らせる必要はないだろうな。そう、あたしは思った。

 

 

 

アトリエで物資を調合補充して、空いた時間で知り合いの家を回る。皆が来て、調査を本格化させるまでに、やれることは全て片付けておくべきだと判断したからだ。

 

エドワードさんの医院を訪れる。あたしの薬の質が向上したこともあって、余程の事がない限り病人は治るようになった。流石に末期のものはどうにもならないが。それでも、エドワードさんが厳しいといった患者が治ったケースが何回かある。

 

薬を納入して、最近の話を聞く。やはり医師のなり手は少ないらしく。

 

エドワードさんも後継者が欲しいそうである。

 

「まだ現役じゃないですか、エドワードさん」

 

「そうだがな。 後十年後は、体が動かなくなりはじめる。 二十年後は、正確な判断が出来るかどうか……」

 

そう、寂しげに言うエドワードさん。

 

なるほどな。

 

タオに、王都で良さそうな人間を探して貰うと言う手もあるか。そうでなければパティでもいい。

 

エドワード先生は、あたしを見ると、ため息をつく。

 

「なあライザ。 此処を継いではくれないか」

 

「ごめんなさい。 それはできません」

 

「分かっている。 だがな、そうとさえ言いたいほどなんだ」

 

「……」

 

エドワードさんは、良識的な医師だ。

 

ちゃんと患者と向き合い、治療して、そして健康になるのを見て本当に喜んでいる。美味しい料理を作って、それを食べた人が笑顔になるのを喜ぶ料理人と同じ。そういう善良な、理想的な医師だ。

 

だからこそに後継者は難しい。

 

こういう他人のために人生を捧げられる人には、人間は中々なれない。

 

洗脳して人間をそう仕向ける外道もいるが。

 

そんなのは論外として。

 

この人のように、自主的にそうなれる人を、恐らくこう呼ぶのだと思う。

 

聖人と。

 

もしも、あたしがこれから錬金術で子供を作り。

 

その子供が、医師の適正を持っていたら。エドワード先生に紹介するのだが。

 

まあ、それも先の話だ。

 

あたしが自分に処置した不老についても、効果が目に見えてくるのがいつかはちょっと分からない。

 

それに、あと一つ。

 

あたしはやらなければならないことがある。

 

ドンケルハイト。

 

知られる限り、最高の薬効を持つ薬草の発見だ。

 

今までも、少量は発見できているが。これが生で生えている状態のものが欲しい。どうしてもこのドンケルハイトの持つ最高の薬効機能が、錬金術の奥義とも言える賢者の石の作成には必須なのだ。

 

「これから、タオとパティに相談してみます。 王都は前にもいいましたが、閉じたカビが生えた井戸に等しい場所です。 目端が利いた人間には、自主的に脱出する人も増えています」

 

「分かっている。 だが、それがいつになることか」

 

「弱気にならないで。 エドワード先生が、どれだけ島の人を救ってきたか。 他の人が忘れても、あたしは覚えていますから」

 

「そうだったな……」

 

どうにも弱気になっているようでいけない。

 

ともかくあたしは、他の人の家も見に行く。

 

畑が不作になっていると言うことで、肥料を分ける。父さんが最高の肥料だと絶賛してくれたものだ。

 

直接使って、手入れの仕方を教える。

 

それで、充分だろう。

 

他にも、久々に湯を沸かして欲しいと頼まれたので、瞬間で終わらせる。更に腕が上がったねと褒められたが。

 

まあ、これに関しては、実戦で散々鍛えているのだ。

 

今更である。

 

勿論あたしは万能じゃない。

 

出来る事を、出来る範囲で出来るようにしている。

 

それだけだ。

 

島を回って、それでアトリエに戻る。

 

ひょこんと懐からフィーが顔を出す。基本的に、島では大人しくしているように告げてあるフィーだが。

 

アトリエではある程度自由に飛び回っている事も多い。

 

それに、ドラゴンの要素と近付くようになってから、だいぶ力強くなってきたようにも思う。

 

ただ大きさはそれほど変わらないし。

 

もしも大きくなるとしても、何百年も後だろうが。

 

また、やはりフィーは殆ど糞便をしない。

 

恐らくだけれども、やはり大気中の魔力を食べているのが大きいのだと思う。

 

ベッドで転がって、ぼんやりとする。

 

フィーがおなかの上に乗ってきて。

 

小首を傾げる。

 

まあ、可愛いものだが。

 

今は、ちょっと考え事を優先したい。

 

「フィー。 今考えている事があってね」

 

「フィー?」

 

「人間の要素ってのは、既に抽出できているんだ。 人間のおなか……子供を育てる仕組みについてもね」

 

「フィー……」

 

これについては、実際に色々調べた。

 

多数の魔物を捌いて、体の構造を見た。

 

元々産婆の手伝いをしているから、どうやって子供が出来て、生まれてくるかも知っている。

 

更には、匪賊をしていたような女を殺した時には。

 

体を捌いて、体内の仕組みを徹底的に調査した。

 

その結果、空間把握には自信があるから。

 

人間がどうやって子供を体の中で育てて産むかは、完璧に理解した。

 

また性行為を用いずとも、人間の要素を抽出して。其処から人間を作り出す事も可能にはなった。

 

だが、今それをやろうとは思わない。

 

少し前に、やろうと思った事がある。

 

だが、その時にアンペルさん達から連絡が来て。門と、その向こうで蠢くフィルフサを始末しにいった。

 

それから時間がとれずに研究を進められていない。

 

それに、あの島々が出現した。

 

あれを考えると、当面研究は出来ないだろう。

 

何よりも、だ。

 

研究というのは、多数の失敗という成果の果てに、進展するものである。

 

既に出来る事は分かっているが。

 

成功させたとしても、その先に何が待っているかは分からない。

 

いずれにしても、やるのには時間がいる。

 

何よりも、ただ普通に人間の子供を作るのでは意味がないだろう。それについては。あたしはずっと前から考えている。

 

人間は、変えなければならない。

 

「明日にはみんなが来るよ」

 

「フィー!」

 

「そうだね。 嬉しいね」

 

「フィーフィー!」

 

飛び回るフィー。

 

力は少し強くなったかも知れないが、殆どおもくはなっていない。或いは生体で。このサイズなのかも知れないが。

 

ともかく、それらの細かい情報を、エンシェントドラゴンの西さんからは聞き出せなかった。

 

それは少しばかり、悲しい話だ。

 

「今日はちょっと早めに寝るかな」

 

「フィー!」

 

疲れも溜まっている。

 

何よりも、明日からが本番だ。

 

だからあたしは、早々に寝ることにする。

 

なお、元々薄かった性欲だが。

 

寿命を無くす薬を作って飲んで以降。

 

完全に、ゼロになっていた。

 

 

 

フロディアが顔を上げる。そして、合図を察知して、商会を出た。

 

既に夜中だ。

 

どうやら、同胞が何人か来たらしい。

 

クーケン島の近くで、ついに例のものが動き出した。予想より少し遅かったが、いずれにしてもだ。

 

邪悪なる神代の錬金術師が作り出した、最悪のシステム。

 

近年は100年に一度ほどだったが。古代クリント王国の時代は、二十年に一度ほど起きていた。

 

そもそもあの現象に対応する目的もあって、この辺りに人工島をという計画が持ち上がったのである。

 

古代クリント王国の錬金術師どもが神として崇拝した神代の外道どもへの道。

 

それが出来るのだから、無理もないとは言えたが。

 

合図を見て、指定の場所に行く。

 

クーケン島の端。少し前まで水没していた辺りが、集会所だ。基本的に、人目につかないように色々と処置はしてある。

 

来ている面子は、「同胞」の主軸だ。

 

「ガイア。 久しぶりです」

 

「フロディアか。 久方だな」

 

最古参の同胞。

 

眼帯をしている、最古のもの。ガイアが来ている。

 

同胞は基本的に同じスペックだから、経験値がものを言う。ガイアは既に四百年以上活動を続けており、戦闘経験値も同胞の中でトップだ。

 

更にガイアが産んだ子も同胞には多く。

 

それで尊敬は、自然に集めていた。

 

他にいる面子も、同胞の主軸を担う者ばかりである。

 

既にライザリンに対しては、Cプラン。到達までは監視に留め。それから協力を仰ぐものと決めている。

 

ただ、ライザリンはここのところ、急激に人間離れして来ている。

 

フロディアも、それを報告したはずだが。

 

「計画には代わりは無い。 これから幾つかの事前に確保してある拠点に分散し、ライザリンとその仲間の行動を監視する」

 

「了。 それで、コマンダーは」

 

「現在、別行動中だ。 サルドニカで問題が起きていると言う事でな」

 

「サルドニカ……」

 

一応形式上はロテスヴァッサ王国の第二都市となっているが、実際には独立国家である、工業の街。

 

かなり新しい街で。

 

衰退著しい人間の世界では、発展を現在続けている珍しい都市だ。

 

だが都市を動かしている動力源となっているものはさび付き、枯渇が近付いており。

 

都市の名物となっている巨大な歯車は、さび付いてしまっている有様である。

 

今は硝子ギルドと魔石ギルドが対立しており、それをまとめていた工房長(事実上の街の長である)がなくなって若年の後継者が後を継いだこともあり。上手く行かない場合には、下手をすると街の分裂、内戦の危機まであるという。

 

コマンダーは、その問題を解決に動いている現地チームを支援するために出向いたとか。

 

「しかし、仲良くなるのが得意なコマンダーですが、人間関係の調整は得意でありましたか」

 

「いや、コマンダーの仕事は別だ。 街の混乱をかぎ取った大物が何体か動き出している。 匪賊もな。 それらの処理だ」

 

「なる程、納得しました」

 

「それで、此方の状況だが」

 

フロディアは頷く。

 

悪魔が、動いている事を報告。

 

そうすると、ガイアはふむと鼻をならしていた。

 

「確か悪魔は、もっと後に本来は動く存在であったと認識しているが……」

 

「今まで集めて来たデータではそうですね。 しかし、今回の「鍵」は、どうもライザリンに対してかなりの関心を持っているようです。 或いは「門」の難易度を上げているのかも知れません」

 

「可能性はあるか。 奴は自分の創造主と思考回路が同じように調整されている。 それから独立した「母」の方が異端だ」

 

「「母」の方はどうでしょうか」

 

現在もリソースをフルに使って、ハッキングの途中だと聞いて。フロディアはそうだろうなと思った。

 

ライザリンと協力して、全ての問題を灰燼に帰す。

 

それを為すには、交渉のカードが必要だ。

 

何より、鍵は今まで多数の錬金術師を返り討ちにしてきた凶悪なシステムだ。その歴史はログを辿る限り、神代からである。

 

つまり古代クリント王国時代より更に古くから。

 

更に技量のある錬金術師を潰して来たということだ。

 

ライザが勝てるように。

 

最大限のバックアップもしなければならない。

 

そのためには、必要な処置だと言えた。

 

「時にミズチの姿が見当たらないようですが」

 

「産休だ」

 

「そういえばそろそろだと言っていましたね」

 

「ミズチがいないのは少し不安ですが、まあどうにかなるでしょう」

 

ミズチは、東の方で活動している同胞の戦士だ。

 

剣術に関するデータを取っている同胞で。東の方で独自発達した剣術や武術を回収して回っている任務を持っている。

 

ただし、東も衰退が著しいのは同じ。

 

現在では各地で魔物に蚕食され。

 

去年も一つ、大きな街が滅ぼされている。

 

だからこそ、技術の回収が必須なのである。

 

同胞の仕事は、こういった技術の回収にもあった。

 

「現時点で集まっているメンバーで、監視任務は行う。 それでは、解散とする」

 

「はっ! 希望たるアインのために!」

 

「同胞のために!」

 

敬礼をかわすと、さっと全員が散る。

 

フロディアも、仕事に戻る。

 

バレンツ商会を掌握しているルベルトに接近して、後妻の地位に収まれるようなら収まる。それがフロディアの仕事の一つだったが。

 

ルベルトは妻以外の女に興味を見せず、最後までそれはなせなかった。

 

だが、それはそれで別にかまわない。

 

バレンツ商会内部で、一定の地位は確保した。

 

特にバレンツの時期当主であるクラウディアの最も信頼するライザとのパイプになるこのクーケン島での管理職を任されたのは大きい。同胞の間でも、それで充分だと判断され。以降は特に何も言われていない。

 

同胞のやり方は、基本的に身内に対しての成果主義ではない。というか、皆の能力が完全に横並びなので、そういう事をしても内紛を引き起こすだけだと全員が理解しているからだ。別に王族に取り入って権力を得たところで、どうでもいい。ロテスヴァッサの王族そのものがはっきりいって操り人形であり、権威そのものががらんどうだからである。ついでにいうと、ロテスヴァッサを改革しうるアーベルハイム家には、既に大きな影響力を同胞は手にしている。

 

焦る必要もないのだ。

 

今もデータを取るために時々同胞は子供を人間との間に作っているが。

 

このやり方ではダメだろうと、以前データを見たフロディアは判断している。

 

ともかく、今は人間との間に子供を作っても無駄だし。

 

フロディアも、作りたいとも思わなかった。

 

かといって、「母」の同胞生産力にも限界がある。結果として、フィルフサを駆逐する事、魔物を押し返すこと。

 

両方の作戦を同時執行するのは難しい。

 

一つずつ、やっていくしかないのだった。

 

任務に集中する。

 

上手く行けば、全てが終わり。全てが変わる。

 

その転機が、近付いている。

 

フロディアだって、門を通りかけているフィルフサの群れを潰す作戦には以前参加した事がある。

 

王種を討ち取るまでに大きな被害を出して、非常に悲しかった。

 

同胞を失えば悲しいのは人間と同じだ。

 

転機が来て。アインが救われ。同胞が救われれば、これ以上の事はない。それくらいの事は、フロディアだって考えているのだった。

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