暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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4、時代の一つの節目

パティが街道の警邏から戻ってくると、父であるヴォルカーも戻って来ていた。少し疲労の色が見えるが、まだ父は戦士としても一線級である。ただ、戦士としての仕事は、既にパティが全て引き受けていた。

 

この間手合わせをした。

 

そして、父は認めてくれたのだ。

 

既に自分より上だと。

 

そう認めてくれて、本当に嬉しかった。

 

だけれども、メイド長の方が更に強いのも明白なので、ちょっとパティとしては複雑でもあったのだが。

 

ともかく、軽く執務室で話をする。

 

「王都の急激な変化に王室は対応できていない。 近いうちに王室は瓦解するとみて良いだろうな」

 

「そもそも政務もろくにしていなかったような者達です。 例えば象徴として意味があるような存在であったのならそれもよかったでしょうが。 しかし現状の王室は、五百年前にただお飾りとして据えられただけだと誰も知っています。 しかも当時は執務をしていた貴族達は、今はほぼ行政にも関与してもいません」

 

「その通りだ。 そろそろ、動く時が来た」

 

「はい」

 

既にアーベルハイムに忠実な戦士達は集めてある。

 

対人戦の訓練もしっかり積んでおいた。

 

貴族達の中でも、反アーベルハイム派は去年。ライザさんがまだ王都にいる時に、あらかた片をつけた。

 

今の貴族共は、殆どが実質上は商人だ。

 

アーベルハイムに逆らう気概など、持ち合わせていない。

 

「近くアーベルハイムは公爵になるそうだ」

 

「確かロテスヴァッサの定義だと、公爵は王族と血縁がある場合に爵位をもてるのでしたね」

 

「ああ。 だがそんなものは混乱期に作られた曖昧なものでしかない。 私は王族と血縁を持つつもりもない。 鏖殺するつもりもないがな」

 

王族には、「名家」としてただ街の片隅で暮らして貰う。不自由なくだ。

 

そのつもりだと、父は言う。

 

それでいいと思う。

 

パティもタオさんと話して、色々と聞いている。

 

神代は幾多の国が割拠したが。

 

滅ぼした国家の王族を迫害した場合、反対派がその王族を旗頭にして反旗を翻すような事が多いそうだ。

 

逆に王族を丁寧に扱った場合。

 

その王族を旗印にして、反乱が起きることは滅多にないのだとか。

 

「決起はいつになりますか」

 

「その前に話をつける相手がいる」

 

「……彼女たちですね」

 

「ああ」

 

入れ、と父が言うと。

 

メイド長が、全く同じ顔の一族を。つまり彼女と同族の。貴族達を制御し。ロテスヴァッサを事実上まとめてきた一族を、何名か部屋に招き入れた。

 

一人はカーティア。

 

事実上ロテスヴァッサの戦士達のまとめをしている凄腕だ。

 

何回か共闘した時に、その凄まじい剣腕は目にしているし。

 

何より彼女は、ライザさんを認めている。

 

ライザさんも、カーティアについては優れていると手放しで絶賛していた。パティもそれについては同意見である。

 

「事実上この国……正確には王都を支配している王家について、君達の意見を聞きたい」

 

「そろそろ、この国については膿出しが不可能な段階まで来ています」

 

彼女たちの長である、少し前までハデン公爵家を取り仕切っていたメイド長、ウィルネアがそう言う。

 

ただウィルネアは本当に「彼女ら」の主かは分からない。

 

どうも、彼女らはそれぞれ同格に近い状態で振る舞っているようなのだ。しかも、集会などは確認できていない。

 

たまにふわふわした雰囲気の優しそうな女性と話をしている所を目撃されているようなのだが。

 

その人物が、何者なのかも分からない。

 

パミラと名乗っているようだが。いつもプディングを探して食べ道楽をしている戦士ということしか、アーベルハイムでも掴めていない。

 

殆ど彼女らについては、分かっていない事ばかりなのだ。

 

「アーベルハイムが以降主導権を握るのであれば、我等は協力します。 それで、即位をするつもりですか」

 

「王位か。 そんなものは正直興味が無いな」

 

父はそう言うが。

 

ウィルネアは、メイド長と同じ顔のまま、淡々とそれを却下。静かに要求を突きつけてくる。

 

「いずれにしても、最高指導者になっていただく必要がありますが」

 

「それでは市長、というのでどうだろうか。 王都アスラアムバートは、現在は人類最大の都市だが、ただそれでしかない」

 

「いえ、それでは緩やかながらもこの世界に存在している、「統一政権」であるという建前が保てません。 現在は何処の都市も自立する実力もないので問題が起きようがありませんが、もし今後人類が持ち直した場合、火種になる可能性があります」

 

「そうだな……」

 

パティが視線を向けられる。

 

タオさんに色々な政体について聞いたっけ。

 

それによると、国王を毎回血縁で選出する君主制でなく。君主を民が選ぶ方針もあるとか。

 

だが、いきなりそれをやると、国の混乱が大きい。

 

だとすると、国王と民で政治を行う方針を採り。

 

徐々に国王を民が選出する仕組みを導入していくのが良いのではないのだろうか。

 

これについては、ずっと考えていた事だ。

 

「立憲君主制はどうでしょうか」

 

「詳しく聞かせてくれ、パティ」

 

「はい。 内容については……」

 

タオさんに説明を受けた内容について、話をしていく。

 

民が全部政務を見る方針は、最終的には議会民主制とかいうらしいのだけれども。それをやるには、民に知識がなさすぎる。

 

当面は君主制を続け、民に教育と自立心を持って貰う必要がある。

 

そのためには、民の中から優れた人材を抜擢する事もあり。

 

立憲君主制を当面を敷くのが良いだろう、というのがパティの考えだ。

 

現状から若干民主制によった形だが。

 

これが現実的だろう。

 

急な改革をしても、それに耐えられる力が今の王都にあるとは思えないし。

 

いきなり王政がなくなると言っても、混乱する民の方が多いだろうし。

 

タオさんに政治の勉強を教わりながら、色々と話をしたのである。

 

「立憲君主制には憲法が必要となりますが」

 

「憲法については、タオさ……コホン。 私の師匠が色々と集めてくれています。 それから最適解を抜粋するべきだと思います」

 

「それならば、賢人を集めておこう。 パティ。 法に詳しい賢人を集めてくれ。 出来るだけ急いで法についての整備が必要になる」

 

「分かりました」

 

一応、憲法についての説明もしておく。

 

父はそれについて頷くと、意外にあっさり受け入れてくれた。

 

そもそもだ。

 

父は元々民草の一人。戦士の一人だった。母もそうだ。

 

父に戦士として、誰も貴族出身の人間は勝てっこなかった。それもまた、事実だった。

 

王政というよりも。

 

血縁を最重要視する思想そのものがばかげているのだ。父だってもっと制度がまともだったら、母を死なせる事もなかったのではないのか。そういう恨みが、ずっと心の奥にあるようだし。

 

パティとしても、もっと優秀な人間を、血縁など関係無く抜擢したい。

 

こういう考えも、血縁なんぞクソ喰らえな当世の傑物。ライザさんという実例を間近で見ているからなのだが。

 

ともかく、血縁や生まれた時に持っていた資産で未来が決まるような社会を、少しでも変えなければならない。

 

すぐに全部変えるのは不可能だが。

 

少しずつ。

 

そう。

 

パティの次の世代くらいには、変えるようにしたい。

 

ただ人間が持っている邪悪なエゴは、そういった変化を受け入れないだろう。

 

ライザさんみたいな英傑の方が例外なのだ。

 

パティも、それはしっかり理解出来ている。

 

ただ、既に物事は動き出している。

 

メイドの一族が、さっと動き出す。

 

これだけで、既に王都の命運は変わった。

 

ただ、どうして彼女らが主体的に全てを変えていかないのか、それはパティには疑問ではある。

 

今までも実質的に王都の政務を回してきたのは彼女らだ。

 

それだけじゃない。大きめの都市にはだいたい彼女らがいると聞くし。

 

人類が必死の防戦を行っている「東の地」では、彼女らが最前線で凶悪極まりない魔物の群れを食い止めているという話だ。

 

ところがこれほどのスペックの持ち主でありながら。

 

彼女らは主体的に何かを変えようという動きを見せない。

 

ひょっとして、何かしらの理由で維持に特化している存在なのか。

 

いずれにしても、パティには分からない事も多かった。

 

すぐにパティも動く。

 

いずれにしても、彼女らだけに頼ってはいられない。

 

それに、王都に巣くっている無能な貴族達は放り出す他に無いとも思う。

 

パティも貴族は間近で見てきたが。

 

あれらは優秀とは程遠い。

 

もとの金という地盤があってもあの程度しかない存在だ。

 

元々優秀な人間に投資すれば、もっと良い成果を出せるのは明白である。

 

すぐに賢人を集める準備をパティはさせながら、考える。

 

ライザさんだったら、もっと派手に王都を改革しただろうな、と。

 

それに、今また大きな問題に対応しているのだとも聞く。

 

その場にいって、世界の危機だったら一緒に立ち会って対応したい。

 

そうも、パティは思う。

 

だけれども、残念ながら今は動けない。

 

まだ当面は。

 

しかしそれが終わったら。

 

そう、パティは思うのだった。

 

 

 

(続)







クーデター開始です。

アーベルハイムによって、腐敗しきった王都が乗っ取られ、既得権益層はあらかたドブの底行きです。

まあ仕方がないですね。誰かがやらなければならなかったことですので。
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