暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
神格化の果てに起きる事などいつも決まっています。
自分達以外は人間にあらず。
当事者までそれを信じるようになった時、どれだけの非人道的な行為でも起こされるのです。
人間とはそういう生き物。
現実の歴史でも、分かっている範囲だけでも万年それが続いて来ました。
水槽の中に満ちているのは未知の液体。それに浮かんでいるのは、ずっと長い時間を経た死体だろう。
だが、妙な形状に思える。
タオが、冷静に分析をしていく。
「ざっと見た所、十代後半の女性に思えるね。 背格好はライザよりちょっと背が低めでやせ形。 足跡は少なくとも、800~900年は前のものだよ」
「つまり、神代の頃に来た錬金術師は、此処に到達していたって事だね」
「その本人でしょうか」
「いや、違うな」
フェデリーカが骨を見て青ざめているが、クリフォードさんは冷静である。
円筒形の装置を分析している。
「此処に神代の文字がある。 タオ、分析出来そうか」
「クリフォードさんもお願いします」
「ああ、任せておけ」
二人は専門分野が違う。
タオは知識と理論で攻めるタイプ。
クリフォードさんは勘と経験で攻めるタイプだ。
そして二人とも、遺跡に関しては間違いなくスペシャリストである。
あたしとしても、安心して任せてしまって良いだろうと思う。
あたし達は周囲を警戒。
ボオスは、じっと死体を見てぼやく。
「ここに千年近く前に人間が来たって事は、あの死体は千年以上あんな風に浮かべられていたってことか?」
「あの容器を見る限り、多分入れられたときには骨だったんだと思う」
「どういうことだ」
「水……かは分からないけれど、透明度が高い液体が循環しているでしょ。 普通だったら死体が崩れて、水か何かがグズグズに溶けた血肉で汚れると思うね。 或いは骨も含めて、死体が容器の下に溜まるか。 あの骨は恐らくだけれども、標本に近いものだと思う」
それを聞いて、ボオスが舌打ちした。
あたしも同じように腹が立つ。
神代の人間だ。
人体標本なんて、ろくな目的で作る訳がないのである。
タオが解読を済ませる。
ただ、やはり流石に全てではないようだった。
「此処に辿りついた……鍵……。 此処に叡智の欠片……無能な……奴隷? 有能な……奴隷……見本? 更に励め……?」
「恐らくだが、此処に辿りついた奴を最初の文章で褒めている。 ライザ、お前のその強化版の鍵。 それについての話だろうな。 だが、その割りには妙だ。 こんな場所があったら、古代クリント王国時代の錬金術師が足を踏み入れない筈がない」
「うん、それは思う。 あたしが作った強化版の鍵くらいだったら、連中は恐らく再現出来ると思うからね」
「だとすると何だ。 ええと続けるぞ。 次の文章は、此処にある死体をベタ褒めする内容だな。 叡智の結晶……この骨が? ただ無能な奴隷とこの骨を指している訳では無さそうだが……」
クリフォードさんが少し腕組みして考え込む。
タオが。メモを取りながらそれに捕捉した。
「恐らく文章的には次とつながっていると思いますね。 此処に否定の意味がある。 そうなってくると、恐らくは無能な奴隷と違う有能な奴隷として、この見本を見せてやっている、そういうところでしょうね」
「相変わらず反吐が出る連中だ」
「同感です」
フェデリーカは、じっと骨を見つめていたが。
やがて、視線を逸らした。
「ひどい……」
「みんなそう思ってるよ」
「いや、そうじゃないです。 奴隷なんて、最低も最低の人間の扱いなのに。 死んだあとも、こんな風にさらし者にされて。 まだ若い女の子だったというなら、本当にあんまりです」
「……そうだね。 その通りだと思う」
フェデリーカの意見はごく全うだ。
だからこそ尊いと言える。
こういう意見がしっかり出てくるから、まっとうな感性の持ち主は非常に重要なのである。
「タオ、警備装置の類はある?」
「ううん、大丈夫だと思う」
「機械類については、恐らく維持装置だけしかついていないね」
「……皆、離れろ。 危ないぞ」
ボオスが、フェデリーカをさがらせる。タオもクリフォードさんも、メモを取り終えると、すぐにさがった。
あたしは前に出ると、指先に熱を集中。詠唱して、更に集中を加速させていく。
そして、空気がばちばちと音を立てるほどの超高音の熱の刃を指先に作る。
あまり実用的ではない技だ。実際問題、熱槍をぶん投げるか、熱槍で飽和攻撃した方が敵には効果的だから。
近接戦闘は足技があるし。
わざわざ手慣れていない剣技なんか使う必要がない。
故に実戦では使わないが。
こう言う場では、切断用に使う必要があるかも知れない。そう思って、習得はしておいたのである。
閃。
一瞬で、円筒形の容器が上下両断されて。斜めにずり落ちる。
そして、液体が辺りにぶちまけられた。
液体に触らないように注意を促す。サンプルは、あたしが回収しておく。
更に、横にも穴を今の一閃で開けた。まあ正確には二閃だったというわけだ。
液体がほとんど外に出ていく。
そして、液体が容器を出終えると。
中で、力無く遺体が横たわっていた。
熱魔術で遺体を乾かした後、回収する。装置はまだ動いているようだったが、別にどうでもいい。
布で包んで、外に運ぶ。
この遺体は、クーケン島で荼毘に付して埋葬しよう。
そう、あたしは決めていた。
装置を調べるタオとクリフォードさんを残して、一旦あたしとフェデリーカだけでクーケン島に戻る。
まあ、この道中くらいだったら問題ないだろう。
死体があった。
そういう話をすると、そう、とだけクラウディアはぼやいた。
この辺りにも、行き倒れの死体はいくらでもある。遠征の途中で、潰されて食い荒らされた馬車の残骸とか、何度も見る。荷物だけではなく、引いていた馬も、乗っていた人間もみんな、である。
それだけこの世界は過酷だ。
行き倒れの死体を回収して、島で埋葬すること何て珍しくもない。
ましてや墓場は、四年前に大量に遺体を回収して、荼毘に付した。
死は、すぐ近くにあるものなのである。
墓場の番人に話を通して、遺体の処理をする。
墓場の番人は年老いた男性で、墓場の管理を丁寧にしているので評判は良い。遺体を人目見て、普通のものではないと即座に察したのだろう。それに、十代後半の女性だと言う事も、すぐに理解したようだった。
すぐにとってある燃料を使って、死体を燃す。
やっと、あの窮屈な場所から出られた。
死体をそのまま地面に埋める信仰もあるらしいが。
ちょっとそれについては、この人がどういう信仰を持っていたのかは分からないから、勘弁してもらうしかない。
荼毘に付すのはそれほど時間も掛からない。
専用の炉で、一気に燃すだけだ。
それが終わると、綺麗に焼かれた骨が残る。それを砕いて、壺に入れて。跡は、無縁墓地に葬る。
手を合わせて、来世の幸福を願う。
あたしは基本的に信仰は興味が無いが、死んだ人に敬意を払う意味でこう言う行動はする。
それくらいは、別にしてもいいだろう。
フェデリーカも、手を合わせて。同じようにしていた。
サルドニカでも、この辺りはあまり変わらないのだろう。
遺体の始末を終えると、また群島にとんぼ返りする。
丁度調査が終わったので、合流してアトリエに一度戻る。余裕があったら今日中に宮殿の奧を調べるつもりだったが、これは今日はまとめに徹した方が良いだろう。
皆が地下室から出て。レントが石柱を外すと。何も無かったかのように、地下室への階段が消える。
それを見て、ボオスが怒りを込めて呟いていた。
「命を弄ぶだけじゃなくて、見せてやったからもう帰れってわけか。 どれだけ傲慢な連中が此処を作ったんだ」
「同感だけれども、まずは戻ろう。 彼処にはもう用はないからね」
「ああ。 ライザ、俺もいい加減我慢できなくなってきた。 俺にも神代の錬金術師だとかは一発殴らせろ」
「分かってる。 みんな同じ気持ちだろうし、粉々にしてやろう」
まあ、これだけの所業だ。
誰も気持ちは変わらないだろう。
アトリエに戻って、それで皆で話をする。
あたしは、まずは釜であの液体の分析からだ。液体を分析して分かったのは、恐ろしい純度の水だということである。
水には細かい生き物とか、色々な余分な成分が入っている。
それで死体は水に入れているとそれで腐るのだけれども。あの死体は、最初から骨にされていて。
凄い高濃度の水に入れられて。
それで、そのまま残っていたのだろう。
正確には水だけではなく、他にも成分が入っている様子だが。これも恐らくは、死体を綺麗に保管するためのものだ。
タオが、皆に話をする。
「地下室にあったのは、ここに来るだろう錬金術師に対するエサだったとみて間違いないと思う。 ただ、それだとどうしてライザが千年近くぶりにあの空間に入れたのかがよく分からない」
「俺にはだいたい見当がつく」
「クリフォードさん、話してみて」
「ああ。 無能有能という言葉があっただろ。 それにあの悪魔野郎の言葉もだ。 要するに、神代の連中は、自分と同じメンタリティの人間が、錬金術師をやっていたと確信していたとみていい」
なるほど、それは確かに納得出来る。
問題は、その先だった。
「そして神代の錬金術師どもは、自分達を世界でもっとも優秀な存在で神に近いと盲信していた。 そんな連中が認める相手は、自分達に近い力を持つ存在……ということだろうな」
「つまり千年近く前以降、九百年前に彼処に入った奴以外に、ライザに近い才覚の錬金術師は出ていないって事か」
「そうみて良いだろう。 実際古代クリント王国の連中は、中途半端な神代の模倣しか出来なかったんだろう」
フェデリーカが困惑している。
ついていけていないということだ。
タオが咳払いして、話をまとめる。
「つまりこうだね。 神代の錬金術師にとって有望な……どういう意味で有望だかは分からないけれど、神に近いと思っている自分達に近い存在にだけあの扉を開けるようにしておいて、更にはあの死体を見せて、更に発憤させる意味があったと」
「あんな非人道的なものを見せて、何を喜ぶ人がいるんですか」
「落ち着いてフェデリーカ。 時代によって人間の考えは変わるんだよ。 古代クリント王国についてはあたし達もかなり調べてきているんだけれども、自分達以外の国の人間を、人間と見なしていなかった。 他の国を滅ぼすと奴隷化、そうでない者は皆殺しだったの」
黙り込むフェデリーカ。
哀しみと怒りが腹の中で煮えくりかえっているのが分かる。
それでいい。
あたし達は、連中の所業を嫌になる程見てきている。
だから、今更だけれども。
この子はこれからだ。
もっと酷いものを見て行くことになる。
レントが、咳払いして、疑問を呈する。
「それにしても、要は有能な奴隷の見本とやらを見せたわけだろうが……何が一体有能なんだ?」
「それについては、メモをした部分で見当がついてきた」
タオが、数字の一覧を見せる。
それは何のことやら分からなかったけれど、クラウディアが先に気付いたようだった。
「まさかと思うけれど、これって人間としてのスペック?」
「うん、恐らくはそうだね。 このスペックがそのまま本当だとすると、あの骨にされた遺体は、生前はレントと互角かそれ以上の戦闘面での実力があったと思う」
「マジかよ……」
「それだけじゃない。 多分だけれども、あんな風に見せびらかしていたって事は。 神代の人間は、あの骨にされた人を「作れた」んじゃないのかな」
そうか。
確か錬金術の奥義。
あたしも調査して、調べているもの。
ホムンクルス。
あれが、現物だったのか。
古代クリント王国時代の錬金術は半端な代物で、神代のように都市を空に浮かそうとして出来なかった程度のものに過ぎなかった。
兵器なども。例えばゴーレムや幽霊鎧なども、神代のものと比べると格段に性能が落ちたことが分かっている。
とてもではないが、人間を作り出す事が出来たとは思えない。
いずれにしても、外はもう暗い。
手を叩いて、一度話は切り上げる。
夕食の時間だ。
クラウディアが促して、フェデリーカと一緒にキッチンに立つ。あたしは外に出ると。無言でうろうろ歩く。
そして、見かけた大きな石の塊を。
そのまま蹴り砕いていた。
分かっていた。
去年、残留思念で見て、古代クリント王国の時代は。どこの国も似たようなものだったことは知っていた。
仁義なき殺し合いのあとに最後に立っていたのが古代クリント王国だった。
それだけだった。
恐らくだが、他の国の錬金術師も、大した違いはなかったのだろう。
アンペルさんがそういった「普通の錬金術師」に対してあまりにも異質だった。
その影響を強く受けたあたしが異端の中の異端で。
それで、だからこそリラさんやセリさん、キロさんとも仲良くやっていく事が出来ているのだ。
でも、それが異端だというのなら。
異端で一向にかまわない。
ホムンクルスを奴隷と称し。便利な奴隷としてとても有能だという事でサンプルにして。そのサンプルをエサにして、他人を釣ろうというような連中。
あたしは絶対に許さない。
少し、体内の魔力を練る。
瞑想して、体内の魔力を練り上げて、怒りを混ぜて体内を循環させる。
強烈な熱量が体内を駆け回っているのが分かる。
この怒りは。
神代の連中に叩き付ける。
そして、この熱量の循環で、色々と思いつく。
多分頭も良く回転している、ということなのだろう。それでいい。アトリエに戻ると、釜に向かって、色々と試す。
今までまだ未完成だった四属性合成爆弾。それもいいのだが。更にローゼフラムの上を作れるかも知れない。
熱量を収束するだけじゃない。
先に燃えやすいものを周囲にぶちまけて。
それをコントロールすることにより、更に燃焼の火力を上げることが出来る筈だ。
名付けてアネモフラム。
うん。作りあげておきたい。
夕食が出来たので、いつもより更に食べる。アネモフラムの構想はもう出来た。恐らく問題なく仕上げられる筈だ。
「明日、扉に向かうよ。 まだ扉の奥に何があるか確認できるかは分からないけれども、それでも皆気を付けて」
がっつり食べた後、注意を皆に促しておく。
この戦力だったら、余程の相手でもない限りは勝てると思うが。
それでも、念には念を入れなければならなかった。
夢を見る。
感応夢だ。
久々に見るな、これも。
そう思いながら、ぼんやりと夢に身を任せる。
誰かが口論している。
唾を飛ばして喚いているのは、まだ若い男性だ。痩せていて、それで非常にヒステリックに叫んでいた。
叫んでいる内容はあまりわからない。
だけれども、怒りが籠もっているのが分かった。
何となく、思考が伝わってくる。
何故だ。
全ての謎は解いた。
私こそ、神々の座に加わるに等しい存在の筈だ。それなのに、どうしてそうしようとしない。
それに対して、極めて機械的な返答がある。
……をしなさい。
そういう答えだ。感情も何も無い。言葉は柔らかかったが、それは命令だった。
喚きながら反論しようとした男性が、いきなり取り押さえられる。取り押さえたのは、複数の……なんだこれ。
幽霊鎧か。いや、見た事もない形状だ。ひょっとして、神代の。元になったものか。
ともかく、泡を吹いている男性が、そのまま押さえつけられ。だが、暴れていたが。やがてその目が恐怖に見開かれた。
完全に動けなくなった所で、何かの機械が頭を押さえつける。
止めろ。
そう叫んでいるのは分かった。だが、止めるはずがない。
筒が迫ってくる。その先端は鋭く尖っていて。
男の頭に突き刺さり。
脳みそを。
目が覚める。
頭を振る。
これ、多分あの。千年近く前に、あの地下室に入った人間の意識によって引き起こされた感応夢だ。
ベッドから半身を起こして、無言のまま口を引き結ぶ。
あの死体を……恐らくホムンクルスのサンプルを見て、それで大喜びで調査に向かうような下衆だ。
それが当時のスタンダードだったとしても、あたしは其奴のことを絶対に認める事はない。
ただ、あの末路。余程強い思念が篭もっていた。そして、絶望と恐怖の中、脳みそを吸われた。
脳みそを好んで食う魔物はいる。人間の臓器では一番うまいらしい。なんでも匪賊の中にも、殺した人間の脳みそを食うような輩はいるそうだ。まあ、そんな輩は見つけ次第駆逐するが。
ただ、そんな事のために神代の人間が。明らかに夢の状況証拠からして。神代の存在がだ。恐らく神代の錬金術師だろうが。
脳みそを食うためだけに、わざわざ錬金術師なんてよびつけるか。
どうにも、そうとは思えないのだ。
何のために脳みそを。
そういえば、人間の思考はどこから来るのか。古くはそれで議論が起きたことがあったとかいう話を、以前に聞いた事がある。
古くは心臓がそうなのではないかと言われていたらしいが。
後代に色々な発見があって、脳から来るものであるらしいという結論になったとか。
そうやって考えて見ると。
あれは、ひょっとして。頭の中身を全部回収されていたのではないのだろうか。
魔術で頭の中身を覗くことが出来るが、それは全てではない。だとすると、あの機械的な言動は。
無言で考えるが、結論は出ない。
ともかく、今するべき事は、分かっている。
あたしが異端なのかもしれないが。
ともかく、このままでは錬金術師はだめだ。錬金術というものが。欲望を充足させるためのものとなっている。
有能で便利な奴隷?
はっきりいって反吐が出る。
例えば、完全に機械としてそういうものを作るのなら、それはそれでありだろう。ホムンクルスを作るにしても、一緒に荒廃した世界を切り開くために共に歩く存在を作るのであればありだろう。
あの展示の仕方は。
完全に、商品に対するものだった。
嘆息すると、顔を洗って外に出る。今日もあたしが一番早く起きている。
軽く体を動かす。石を蹴り砕くくらいで、足にダメージはない。そんな程度の柔な鍛え方はしていない。
体を温めた後は、瞑想して。
皆が起きだしてくる頃には、釜にエーテルを満たして。昨日思いついたアネモフラムについて研究を進める。
アネモネの花を思わせる爆発を引き起こすから、アネモフラム。
過去の技術を取り込むのは大事だろう。
技術が一度失われると、それを再建するのは何世代もかかる。
王都での惨状を見ているあたしとしては、技術に罪はないと思う。
だけれども、技術に胡座を掻いて。
他の全てを蹂躙するような思考回路の持ち主は、この世にいてはいけない。
神代の連中がまさにそれだ。
まだ、神代の錬金術師共が、どこかで生き延びている可能性はある。実際この群島も、それに関わっている可能性が高い。
だから、連中と会敵したとき。
いつでも蹴り砕けるように。
準備は、全てしておかなければならなかった。