暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
原作でも散々苦戦させられる扉です。
コレを作った神代の錬金術師は試験をしてやるとでも思っていたのでしょうね。その驕りは原作でもアンペルさんに看破されていた通りです。
しかも突破した先があれですからね……
さて、何度目か。
宮殿がある島に出向く。魔物はやっぱりいない。鳥などは少し来ている様子だが。此処にある植物はあらかた作り物だ。
何の役にも立たない。
そういう事もあって、鳥が居着くことはないようだった。
常に最大限の警戒を払いながら、宮殿に。
他の場所も既に調べたが、これといって変わったものはない。ともかく今日は、ついに扉にもう一度挑む。
気取ったアーチ型の階段を上がり。
奧への回廊を進む。
やはり、これが海底にあったと思うと、不可解な気分だ。まだ残念だが、神代の技術全てを解析は出来ない。
それにこれらの技術。
恐らくは才能に強く依存している。
それに、だ。
以前、何度か錬金術師の手記を見た。去年くらいから。クリフォードさんが見つけたものを、送ってきてくれたのだ。
それを見る限り、やはり100年くらい前に生き残りがあらかた死ぬまで、錬金術師はいるにはいたのだが。
其奴らは、自分達の技術を暗号化して秘匿していたらしいのだ。
それでは、技術なんて残るわけがない。
暗号化なんて自己満足だし。
そもそも技術を継承しなければ、それで途絶えてしまう。
神代の頃は、潤沢な人間がいて。その中にいる才能のある者達が、たまたまそれでも継承できていたのかも知れないが。
そんなものは、いつまでも続くはずがない。
そう思いながら、あたしは。
竜の紋章が刻まれた扉の前に立っていた。
相変わらずばかでかい扉である。
「ほ、本当に私のと同じ模様ですね……」
「みんな、周囲を警戒。 最大級。 どこから何が出るか分からない。 足下も含めて、全方位を警戒」
「了!」
「わ、分かりましたっ!」
一糸乱れぬ統率を見せる他の皆と違って、まだまだフェデリーカは慣れていないが。じき慣れる。
あたしは石版に触れて、多分これだろうなと判断。
取りだした鍵に、魔力を吸い上げる。
予想通りだ。
一気に鍵がみちみちと音を立て始める。それだけ強大な魔力が注ぎ込まれている、ということだ。
なるほどね。
何となく分かってきた。
これ、まだ正解じゃないんだ。
ともかく、鍵が安定するまで待って、それで。鍵を手に取る。凄まじい力を内包した鍵だが。
これは恐らく、まだ足りていないとみて良いだろう。
それに、この扉。
でっかいし頑強そうだが、神代のものとしてはちょっとちゃちすぎる。もっと色々、他に技術をひけらかすようなことをする筈だ。今まで痕跡を見て来た神代の連中だったら、である。
地下のホムンクルスの展示だけでもああだったのだ。
此処だけ、こんな分かりやすい扉を置いてあるのは。あからさま過ぎるし、おかしすぎるのだ。
「ライザ、かなり落ち着いているね」
「クラウディア、あんまりにもこの扉、ちゃっちすぎると思わない?」
「そうだね。 今までの神代の遺物や遺跡と比べると、どうしても妙に原始的というか、ただ見かけ倒しだね」
「そうあたしも思う」
鍵をすっと扉に指す。
同時に。
扉が、唸りを上げて、開きはじめていた。あたしはそのまま、立ち尽くして様子を見る。奧に気配なし。
魔物が周囲から来る様子もない。
あの悪魔みたいな奴もいない。
あれが何かしら仕掛けて来るかと思っていたのだが、その様子もない。だとしたら、やはり。
「周囲に魔物の気配ないよ」
「俺もそう感じるな」
クラウディアとクリフォードさんがそれぞれ言うので、あたしは頷いて、足を前に進める。
扉が開いた先には。
それこそ、何も無い空間が、ただ其処に拡がっていたのだった。
部屋というには大きすぎるが。
それはもはや、倉庫のようだった。
部屋に踏み込む。
レントとフェデリーカは外の警戒を続けて貰う。クラウディアもそっちを担当してくれるそうだ。
クリフォードさんとタオが、早速部屋の右左に散る。
あたしは周囲を見回し。
彼方此方に、散らばっているものを一瞥していた。
メモ。本。手帳。
いずれも、回収しておくべきだろう。
人の痕跡がたくさん残っている。
だが、何となく分かるのだ。
ここに来た人間の、ヒステリックな痕跡。八つ当たりのように、魔術をぶっ放した跡すらある。
だいたい分かってきた。
此処までは、錬金術師は殆どたどり着けたとみて良い。ただ。ここから先に進めなかったのである。
勿論あたしも、此処が決着の土地だとは微塵も考えていない。
最初にやるのは、荷車に此処に残ったものを全て回収することだ。本に触る際には、ブービートラップがないかも確認する。幾つかには仕掛けられていたが、あたしが全てその場で解除した。
錬金術師が、必ずしも魔術に優れている訳ではない。
ブービートラップを仕掛けた錬金術師は、多分それほど魔術にも優れていなかったし。何よりも、相当に精神的に参っていたのだろう。
いずれにしても、本もメモも、全て確認しておく。
壁の方も、色々仕込まれているようだった。
「魔術トラップ見つけたぜ! 解除しておいた!」
「流石。 それで、どうですか」
「うーん、殆どが殴り書きだな。 愚痴を書いていたり、ああだこうだと落書きしていたり。 一応、全部メモはとっておくぜ」
「お願いします。 ゼッテルが足りなかったら言ってください」
そのまま、部屋を調べて廻る。
またトラップだ。解除。本当に雑だな。何というか、憂さ晴らしに仕掛けていったような感じだ。
この部屋、本当に何だ。
多分此処が終端ではなく、此処に何かヒントがあるのだろうとは思うが。それ以外は、まったく分からない。
部屋そのものに魔術的なものは一切感じない。
感じるとしたら、むしろ……。
外に出る。
扉をじっと見上げる。この扉の部分に、なんだかとんでもなく強い魔力と、それ以上に悪意を感じる。
これは気のせいだろうか。
気のせいだったらいいのだが。
しかしながら、どうにもなんとも。扉はもう開きっぱなしだ。これが今更閉じる事はないのだろう。
閉じるときは、多分あたしが諦めて。
この群島を離れる時。
そうだろうと思う。
ただ、あたしは此処を攻略する。
この群島そのものに、とんでもなく強い悪意を感じる。地下のあのホムンクルスの亡骸をみて、その悪意は更に強くなった。
此処は存在していてはいけない場所だ。
あたしは、部屋に戻る。何か、見落としがあるかも知れないからだ。
しばらくそうやって、あたしは見て回る。
学術的な事はタオとクリフォードさんに任せるとして。
あたしは錬金術師として、何か気付けないか。
そう思うからだ。
ある程度見て回って、天井をふと見る。
何というか、粗雑な造りというか。
いかにも何か此処に隠していますというような。
或いは。
いや、この部屋はフェイクか。
だが、フェイクだとする根拠が欲しい。いずれにしても、これらの書物を解析するのが先か。
ほぼ一日掛けて、隅から隅まで調べる。
途中何度かアトリエに戻って、回収したメモや本は全て其方に移す。前に来た錬金術師は、他人の書いた書物にはまるで興味が無かったのだろうが。あたしは、そういう事もない。
夕方に、一度引き上げる。
扉は、もう閉まることもなく、ずっと開いたままになっていた。風が吹き込む様子もない。
恐らくは宮殿の内部として扱われているというか。
外部の風とかが入り込まないのだろう。
どうやってそうしているのかさえ、あたしには分からなかった。
夕食を取りながら、まずは皆で分担して解読作業に入る。
此処からどうするか、だ。
まずはあたしの見解を、皆に述べておく。
「あの部屋はフェイクだと思うね」
「ライザさん、あの扉を苦労して開けて、その奥にあるものがフェイクというなら……何か根拠はあるんですか?」
フェデリーカの疑問は当然のものだ。
フェデリーカもあたしを責めるようにそう言ったのではない。
タオも、ボオスも、クリフォードさんも同意見のようだが。ともかく、順番に話をしていく。
この群島に彼方此方に見られるテクノロジーを見せびらかすような仕掛け。
特に宮殿のある島は顕著だ。
更に言うと、それでありながら、錬金術師を間引くためと考えられるような仕掛けも彼方此方にある。
古代クリント王国の錬金術師は、アーミーと一緒に来たようだが、それも納得だ。これでは、戦闘に自信がない錬金術師は、どうにもできなかっただろう。
幾つも不可解な点はあるのだが。
ともかく最大級に不可解な点は。
これだけ苦労して扉を開けさせておいて、奧は空っぽの部屋、と言う事だ。
階段下には、ホムンクルスを魅力的なエサとして展示しているような連中が、である。
悪意を持って嘲笑うにしても、この群島そのものを作りあげたのだとすると、仕掛けが大がかりすぎる。
何よりもあたしが見た感応夢の事もある。
「あの扉の所には何かあると思う。 ただしあの部屋そのものはフェイクと見て良いと思う」
「そうだろうな。 確かに何というか、散々思わせぶりにしておいて、ここぞという所でいきなりはしごを外すような感じだ」
「……私はちょっと違う感触かしらね」
セリさんが。ずっと黙っていたセリさんが言う。
セリさんは当世具足が気に入ったらしく、今も着ている。流石にアトリエでは兜は脱いでいるが。
戦闘の時も、更に力に強化が掛かるから、これで良いらしい。
クラウディア用に、何とか白銀色に仕立て直した当世具足もあるのだが。激しい戦闘が予想されるときしか着てくれないので。愛用しているセリさんやクリフォードさんは色々あたしとしても有り難い。
作ったものを愛用してくれれば嬉しいし。
何よりもデータが取れるというものもある。ダメだったところは、早めに直して行きたいのである。
セリさんは皆を見回すと告げる。
「どうにも罠のように思えるわ」
「罠」
「ええ。 撒き餌漁というかそういうもの。 エサをばらまいておいて、何かを捕まえようとしているような仕組み。 それと同じ臭いがする」
「ふむ……」
あたしの感応夢とも一致するか。
あの感応夢は、怒りと絶望が強すぎて、最後の瞬間しか分からなかった。ただ、何かしらの罠の可能性は高い。
頷くと、あたしは方針を決める。
「タオ、クリフォードさん、解読をよろしく」
「了解」
「任せな。 ただし暗号化されているものはどうにもならないぞ」
「そういうのはあたしに回して。 錬金術師達の愚痴とか不満とか、そういうのがまずは見てみたい」
意外にそういうのが、突破口になるのはあり得る事なのだ。
それをあたしは、幾つもの事例から知っている。
ともかく、無駄にも思えるかも知れないが。あの部屋から回収してきた本をそうやって分別するのだ。
暗号化されている本は、あたしがどうにかする。
何冊か目にしたが、暗号化というのは自分の頭の良さを誇示するようにして作る事が多い。
そしてそういうのは、意外とあっさり解けるときは解けてしまうのだ。
ただ、これはあたしの特性かも知れない。
あたしの得意とする空間把握と、暗号解読は単純に結びついているのかも知れないし。或いは、それとは違う才能なのかも知れないが。
その間、あたしは錬金術の研究を進める。
アネモフラムだけではなく、いっそのことと他の爆弾類も強化しようかなと考え始めているのだ。
今まで交戦してきたゴーレムや幽霊鎧。
それどころかフィルフサですら、神代の錬金術師にとっては、玩具同然だった可能性がある。
どれだけ準備をしていても、足りないのだ。
だからあたしは準備を入念に行っておく。
いずれにしても、しばらくはアトリエに篭もりだ。
それも先に見越して、クラウディアに頼む。
「食事の買い出し、頼める?」
「わかったわ。 結構掛かりそう?」
「それなりに。 あの扉を開ける事が出来た錬金術師となると、少なくとも四年前のあたしよりも上だと思うし。 それぞれ考え方も……大きくは違わなかったんだろうけれど、それぞれ理論構築は違っただろうからね」
「それなら、私も行って来ます」
フェデリーカも行ってくれるらしい。
まあ、いわゆる女子力が高い組に任せるのが良いだろう。ただ、それだけではダメだとも思うが。
後でフェデリーカには買い出し以外にも、群島の魔物の駆逐作業を頼もうと思う。
勿論単騎で行かせても死ぬだけだから、レントやボオスと組んでもらうが。
さて、作業開始だ。
淡々と作業を進める。
そういえば、タオ用にも当世具足は作っておくか。
それも含めて、しばらく時間が必要だと、あたしは判断していた。
ライザさんが黙々と調合を始めたのを見て、フェデリーカは雰囲気が鋭いな、と思った。
やはり分かっていたけれども、次元が違う魔物が当たり前のようにいて。それと当たり前のように戦い打ち倒している。
いつも戦い慣れている、と言う事だ。
それと、皆ひりついているのはなんでだろう。
やはりフェデリーカには知らない事が多いのか。
前に少し聞かされた、サルドニカの南を更地にした恐ろしい魔物とやらと、関係しているのだろうか。
話半分くらいにしか思っていなかったのだけれども。
それも、ライザさん達の実力。
それでもあれだけひりついているのを見ると。
どうにも冗談だとは思えなくなってくるのだった。
クラウディアさんと買い物に出る。
バレンツの重役をしているクラウディアさんは、フェデリーカのようなお飾りの人形とは違う。
元はただのお嬢様だったらしいのだが。
ライザさんが時々口にする四年前の冒険を経て覚醒。今ではすっかりバレンツの次期当主に相応しい存在になったようだ。
ただしバレンツでは、クラウディアさんが婿を選ぶ様子がないことを心配しているらしいのだが。
それについては、なんとなく分かる。
ライザさんと一緒にいるクラウディアさんがとても楽しそうで。
充実しているように見えるからだ。
好きな男でも出来れば話は変わってくるのだろうが。
クラウディアさんには、それこそライザさんという人との出会いが、運命のターニングポイントだったのだと思う。
買い出しをする。
これでもフェデリーカは料理はそれなりに出来るというか、知識はある方だ。
職人なので、こういうのは一応身に付けやすかった、というのもある。
流石にクーケン島は、魚介類が新鮮で豊富だ。
信じられないくらい大きいお魚も売られている。
競りが行われていて。
フェデリーカより大きなお魚が、その場で切り分けられて売られているのを見た。
サルドニカから西に行ったところにある港町でも、似たような光景を見るが。此処の方が、より活力があるようにも思う。
恐らくバレンツとの関係構築が上手く行っていて。
販路に多くの商人が関わっているから、経済が活性化しているのだろう。
発展しているといいながら。
職人が技術に溺れて。もっとも大事な実用品を作る人間よりも、鑑賞用の品にこだわってしまっていたサルドニカとは。
この辺りも、違っているのかも知れなかった。
「買い物はこれくらいで良さそうね。 アトリエに引き上げましょう」
「はい。 クラウディアさんは、その……小間使いとかは使わないんですね」
「王都で色々と良くないものを見たからね。 少なくとも今やっている事は、小間使いとかを介入させると面倒だから。 いざという時は自分で出来ないといけないと思っているの」
「そうなんですね……」
自立しているな。
そう思って、感心する。
クラウディアさんは、恐らくルックスとか持っているスキルとかを総合して、高嶺の花になってしまうタイプだと思う。
だけれども、それはそれとして。
本人がそれを気にしている雰囲気がゼロだ。
この人は花のように見えるけれども。
戦闘時の凄まじい火力や飽和攻撃を見る限り、むしろ獣王というのが近いのでは無いかと感じる。
その当たり、愛玩動物扱いだったフェデリーカとも立ち位置が違うんだな。
そう思って、ちょっとだけ悲しくなった。
アトリエに戻る途中は、「護り手」というクーケン島の自警組織が巡回している事もあって、魔物も出ない。
借りているエアドロップで帰るが、クラウディアさんは操縦も楽々こなしている。こんな難しそうな道具なのに。
これでは、下手な商人は、クラウディアさんに勝てる要素が一つも無いだろうな。そうフェデリーカは感じた。
フェデリーカもお飾りとはいえサルドニカのトップを任されていたのだ。そう操り人形だった。
だから、計算は出来るつもりだったのだが。
これは、とてもではないが勝てる気がしない。
アトリエに入り、荷下ろしをする。
タオさんとクリフォードさんは、本を並べてああでもないこうでもないと白熱していた。外ではセリさんが薬草を大量に育てている。魔術で育成を促進して、何か試験をしているようだけれども。
具体的に何をしているかは、ちょっと怖くて聞きづらい。
セリさんは必要がなければ喋らないタイプだし。
少し見えている指先とか。
後は羽毛らしいのが生えている手元とか。
人間なのかちょっと不安になる。
特に爪の構造が完全に人間と違っていて、鳥のように見えるので。少しフェデリーカは苦手意識があった。
食事の下ごしらえをしようと思っていたら、レントさんに声を掛けられる。ボオスさんも来るらしい。
「群島の掃除に行く。 フェデリーカ、手伝ってくれ」
「はい!」
分かっている。
手伝いというよりも、訓練だと言う事は。
そのまま外に出る。
エアドロップで、今いる塔のある島から移動して。他の島に。ちいさな島には、まだまだ探索しきれていない場所もある。
一応目立つものは調べたのだが。
ライザさんはずっと釜の前で何か調べているし。
タオさんとクリフォードさんは激論を交わしている状態だ。
魔物の駆逐は、広範囲でやるものだとこの間聞かされた。
倒しても倒しても余所から来る。
だったら、広範囲で倒して、それで絶対数を減らすしかない。特に大物は、先に仕留めておく。
そういう戦略的な話をされて。
ライザさん達が、そうやって戦略的に魔物を仕留めてきた事が理解出来たし。
実際にやっている事を見て、それで手慣れているとも感じた。
上陸して見回っていると、やはり魔物が来る。
これは、なんだろう。
魔物は、基本的に小細工なしで人間を殺せる生き物を指す。
だから大きめの家畜も広義では魔物に分類されるらしいが。今目の前にいるのが、何の魔物なのか、フェデリーカには分からない。
強いていうならば、二足で立っている生物だが。
ラプトルに近いけれども、全体的には全く違う。
数は四。
レントさんが剣に手を掛けると、即座に襲いかかってくる。
フェデリーカは両の鉄扇を拡げる。
これも何度か順番にライザさんが改良してくれて、今は更に舞いやすくなっている。しかも、戦闘で打撃武器として使えるとも言われた。
流石にこの鉄扇で敵を斬るのは勇気がいるが。
それでも、いずれは接近戦もこなせるようにならないとまずい。
ともかく、舞う。
ボオスさんはかなり戦士としては皆に劣ると自重していたが。見ているとなかなかどうして。二剣を上手く使って、上手に立ち回っている。その動きは、充分に熟練の戦士のそれだ。
数の不利をものともせずに、レントさんが立て続けに三体を斬り伏せ。
そしてボオスさんも、最後の一体を倒していた。
「後ろだ!」
「!」
あわてて地面に飛び、そして前回りで受け身。
フェデリーカがいた地点を打ち抜くようにして、巨大な口がばくんと閉じていた。後ろの地面を喰い破り、姿を見せたそれは。
蛇のようで蚯蚓のようで。
やっぱり、正体がよく分からない。
鋭い鳴き声を上げるそれ。
音を立てる蛇はいると聞くが、鳴く蛇はいないと聞くから、蛇ではないのだろう。
レントさんが一撃を叩き込むが、柔軟に体をしならせて、それを防ぎ抜いて見せる蛇みたいな魔物。
ボオスさんが横に回り込むが、うなりを上げて尻尾を上から叩き付ける。
間一髪かわすボオスさん。
立ち上がって、フェデリーカはまた舞い始める。
心臓がばくばく言っているが。
それでも動く事は出来る。
だったら舞え。
今のフェデリーカの体術では、この大物に有効打なんて与えられない。鉄扇で殴っても、攻撃だとすら認識されないだろう。
だったら、こうやって、二人の力を跳ね上げるしかない。
舞いは元々神楽といって、神に捧げるものだったらしい。
神がいるのかは、フェデリーカには分からない。
こうやって舞っていると、とても心が高揚する。中には入り込む人もいる。
古くは薬を入れて更に興奮状態を高めていたそうだ。
そうやって見えるものが神だったのだとすれば。
それは、恐らく神ではなく。
人間の脳内に存在するものであって。
老人が熱心に崇めているような神なんて、存在しないのだろうとフェデリーカは思う。
こういう所がかわいげがないのだと思うが。
ライザさん達は、フェデリーカを随分と可愛がってくれる。
だったら、それに答えなければならないだろう。
かっと口を開けて、魔術を発動する蛇っぽい魔物。衝撃波が来る。とっさに両腕で顔を庇ったが、思い切り吹っ飛ばされた。
レントさんとボオスさんは。
レントさんが。今のをかわすと、大上段から一気に蛇っぽい魔物を切り伏せ。更に、ボオスさんが踏み込んでからの一撃で、胴体を両断していた。
大量の青黒い血が噴き出し。
どうと倒れる蛇っぽい魔物。
レントさんが、ふうと嘆息する。フェデリーカは、なんとか受け身は取れたけれども。自分も血が一杯出ていることに気付いて。それで悲しくなった。
「すぐに手当てを。 出来るか」
「はい、やってみます……くっ」
「頭を揺らされたな。 図体だけの奴で良かったぜ。 これで面倒な能力を持ってたら、守りきれなかったかもしれねえな。 まだ腕が未熟だって思い知らされる」
ぼやきながらも、ボオスさんは無傷。フェデリーカは貰っている薬を両腕の傷に塗り込む。
肌がえぐれて筋肉まで行っているが、それでもすぐに傷が溶けるように直っていく。額の傷も本来だったら一生ものだと思うが。それもすぐに直った。
「腹とか頭とか打っていないか。 後で面倒な事になりやすい」
「問題ありません」
「そうか。 一応、後でライザに見てもらってくれ」
頷く。
フェデリーカはまだあまり役に立てない。少しでも経験を積んで、それで先に進むことを考えなければならなかった。