暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
船が来る。
フィーは既に察知しているようで、大喜びでぱたぱた飛んでいた。
フィーの存在は、クーケン島でも既に知られている。普段はあたしの懐に入っているけれども。
老若男女関係無く、フィーにはある程度の人気があった。
知能が高いから、ではないだろう。
悪意を察知できるし。
何よりも、善良な相手に人なつっこいからだ。
以前ザムエルさんが、フィーの様子を見て、酒を呷るのを止めて。それで、自宅に戻ってしまったことがある。
酒に溺れて我に忘れる前。
まだレントが幼かった頃の事でも、思い出したのかも知れなかった。
船が港に入り、降りて来たのは。
既にフル武装状態のそのレント。
背は、流石にもう伸びていない。
それにクリフォードさん。クリフォードさんは、愛用のブーメランを、更に色々彩色していた。
前は非常にシンプルな彩色の木製のブーメランだったのだが。あたしが要所を金属で補強し。
今ではすっかり凶悪兵器と化している。
身の丈ほどもある巨大ブーメランは、クリフォードさんの分身であり。固有魔術の伝播先でもある商売道具だ。
更にセリさん。
人前で顔をさらしたくないのだろう。
顔をフードで隠しているが。あたしを見て、少しだけにこりとしてくれた。
そしてクラウディア。
クラウディアは、ぱっと笑顔を浮かべて、あたしに抱きついてくる。
「ライザ!」
「久しぶりだねクラウディア。 三ヶ月ぶりかな」
「ふふ、そうだね」
三ヶ月前に、門をアンペルさんとリラさんが発見。
その向こうにいたフィルフサと王種を殲滅する際に、クラウディアとは一緒に戦闘した。
三ヶ月前には去年王都近郊での「伝承の古き王」との戦闘に参加したメンバーは、セリさん以外のほぼ全員が参加している。
セリさんは戦闘後に来て、しばらく門の向こうの調整をしていたのだが。
それには、アーベルハイムが人員を出して。門の見張りをしてくれたようだった。
いずれにしても、去年以降、一年ぶりというわけではない。
まずは、これで充分か。
パティがいないが、それは仕方が無い。
パティはちょっと今、王都の状況が忙しいので来られない。それについては、手紙でもう貰っている。
それと、タオは一月くらいで一度戻して欲しいとも。
例の論文の件だ。
それについては、あたしも分かっている。
今ではこれだけのスペシャリストがいるし、遺跡関係の専門家にもクリフォードさんがいてくれる。
タオを戻す事は。あたしもしっかり把握していた。
パティは三ヶ月前の戦闘でも、もうあたし達にそれほど引けを取らないほどの戦士に成長していた。
一番伸びる時期に、最高の戦闘経験を積んだからだ。
最近はヴォルカーさんが、上機嫌でお酒を飲んでいる姿をたまに見かけるという。
パティが滅茶苦茶戦士として成長したこと。
何よりその夫候補のタオが、アホ揃いの王都の貴族の子弟とは別物の傑物であること。
この二つが、本当に嬉しいかららしい。
ただパティは、再婚して欲しいと手紙で何度か愚痴っていた。
あたしに愚痴を手紙で言えるくらいに、既に仲良くなっているとも言えた。
タオとボオスが来る。
「そろい踏みだな。 今回の一件、最大緊急案件と判断して、精鋭を揃えて対処に当たるだったか?」
「そういうこと。 じゃあ、手分けして動こうか」
「俺はしばらく、航路の再編制と、それによって生じる混乱の抑え、それに商人達との対応に当たる」
「助かるわボオスくん」
ボオスが面倒なのを買って出てくれたが。
ただ、ボオスは咳払いした。そして、皆を手招きして、声を落とした。
「実はな、サルドニカから来ている商隊のトップが、そもそもサルドニカの工房長だって話はしたよな」
「うん。 サルドニカの事実上のトップなんだよね」
「それが調べて見たが、現在サルドニカは麾下の筈の硝子ギルドの長と魔石ギルドの長が事実上牛耳っていて、トップは完全に舐めて掛かられているそうだ。 今回の件も、体よく追い払われたんじゃないかと俺は睨んでいる」
第二都市でもそんな感じなのか。
王都の腐敗と指導者層の無能っぷりにあたしは呆れ果てたのだが。
まあ、このご時世だ。
それに、勢いがあると言っても、出来て百年以上経過している都市である。
腐敗が表に出始めるのは、そろそろだろう。
それにだと、ボオスは更に言う。
「サルドニカ近辺は、最近強力な魔物が出るようになっていて、自治戦士とか言ううちでいう護り手みたいな連中が対応できていないらしい。 特に強力な狼が問題になっているそうでな」
「ふうん……」
「ともかく、もう少し俺が調べておく。 お前らは、西の浅瀬と、群島やらを頼む」
「ふふ、頼もしいなあ」
クラウディアが、後で商談について話したいと言うと。
ボオスも、にやりと笑うのだった。
どんどんモリッツさんの仕事を肩代わりしていくつもりらしい。
まだ一時的な帰郷に過ぎないが。
完全に仕事が終わって、王都から帰還したときには。
すぐにでも、クーケン島の指導者として。モリッツさんの後を継ぐつもりなのだろう。
モリッツさんも、それを悪いとは思っていないようだった。
遠くに見える。
髪を綺麗に切りそろえた、とにかく育ちが良さそうな子。
肌が浅黒くて、そして所作が兎に角何もかもしっかりしている。
ボオスが言うには、あの子がサルドニカの名目上の指導者らしい。
年齢的には現在のパティと大差無さそうだ。
あの都市で指導者を押しつけられているとなると、大変だろうな。
あたしは同情しながら、アトリエに移動する。
クリフォードさんとセリさんを、あたしのこっちでのアトリエに案内するのは初めてだったか。
ともかく軽く状況を説明しながら、アトリエに。
何、この人数くらいなら、問題なく入る事が出来る。
「未知の魔物に突如湧いて出て来た島か! くう、ロマンを感じるぜ!」
「またその病気……」
「いやー、わからねえかなロマンの良さ!」
「分からないわ」
セリさんと、少し仲良くなったのだろうか。
クリフォードさんが例の発作を起こしていると。
セリさんがそれに突っ込みを入れている。
くすくすと笑うクラウディア。
パティがいたら、きっとフィーと楽しそうに話していたことだろう。
アトリエに皆を案内。
機能について説明する。クラウディアは、懐かしそうに目を輝かせて。辺りを見ていた。
「此処は私の第二の家よ。 本当に懐かしくて、涙が出そう」
「何度かクラウディアと一緒に仕事をしたんだが、どんどん仕事の時は怖くなってるんだぜ」
「そうしないと舐められてしまうのだもの。 商人なんてヤクザ者と同じで、舐められたら結構致命的なのよ」
「だそうだ」
レントが肩をすくめる。
そんなクラウディアだが、ここに来ると四年前の子供みたいな表情を浮かべていた無邪気なクラウディアに戻ってくれる。
それはあたしとしても嬉しい。
皆の分の菓子を焼いてくれるというので、それはクラウディアに任せる。
その間にあたしはタオが作った地図を拡げ。
皆との、作戦会議に入っていた。
(続)
というわけで作戦開始です。
今回は最初から相応の戦力が揃った状態。しかもスペシャリストもしっかりいます。
かくして戦いは始まります。
ライザにとって、最大最悪の邪悪との戦いが。