暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ネメド編開始です。

此処にあるフォウレの里は原作からしてかなり凝った土地で、ボディペイントしている文明拒否系の人が住んでいると思いきや、実は神代とは別系統の古代文明の継承者だったり、しかも技術を売って外資入手源にしていたりします。

それはそれとして、近くにある森は危険が満載。

色々と面白い土地ですね。


未開と未解
序、異境の地


一応此処もロテスヴァッサ王国ではあるのだが。そもそも気候が根本的に違うな。そう、あたしは思う。

 

彼方此方を旅する人から聞く。

 

場所によっては、恐ろしく寒く。雪が建物より高く積もるらしい。

 

更には、時期によっては一日中夜が明けない日がある地域すらもあるとか。

 

そういった不可思議な場所と同じように。

 

既に船上で暑い。

 

もうすぐ陸が見えてくると言うことだが。

 

この辺りの集落では、半裸で生活している人が珍しく無いと聞いて。それも納得してしまった。

 

手をかざして見ると、空の色すら若干違う。

 

また、昨日辺りから、不意に大雨が降る事が増えてきていた。

 

艦隊から船が離れて、もうすぐ半日か。

 

あたしも、そろそろ降りる準備を皆にするように告げていた。

 

船に併走するように、大きな海蛇が泳いでいる。本当に蛇なのかは分からないが、意外と大人しい魔物だ。

 

勿論目の前に人間が墜ちてきたら食べるだろうが。

 

船を襲ってバラバラに、なんて事をすることもない。

 

大蛸や大烏賊もそうなのだが、凶暴さが過大評価されている魔物はコレに限らず存在している。

 

勿論こういった魔物も、腹の居所が悪ければ襲ってくるだろうから。

 

油断をするつもりもない。

 

やがて大海蛇は「一緒に泳ぐ」のに飽きたのか、船の側を離れていく。

 

軽く手を振って、その様子を見送った。

 

「お……」

 

見えてきた。

 

とても森の密度が高いのが分かる。

 

それに臭いも変わった気がする。

 

手をかざして見ていると、やがて側にフェデリーカが来ていた。

 

「この辺りの民は、私達よりも更に肌が黒いそうです」

 

「そりゃそうだろうね」

 

「?」

 

「日焼けってするでしょ。 あれって日の光に含まれる有害なものを防ぐためらしいんだよね」

 

これについては、以前遺跡から出て来た情報でわかったらしい。タオが群島が出る前にまとめて手紙で送ってきたので、目を通していた。

 

前から確かになんで日焼けをするのか不思議ではあったのだけれども。

 

そんな風な仕組みがあったのかと、驚かされた。

 

こういう暑くて日差しも厳しい地域だと、最初から肌が黒い方が有利だろう。だから、肌が黒い。

 

ただそれだけの話である。

 

「東の地は暑いんだっけ?」

 

「いえ、四季がしっかりしているらしいと聞きます」

 

「ふうん……」

 

「サルドニカに最初に来た人達は、此処ほどではないけれどもそれなりに暑い地域から来たらしいです。 それで、私にその名残があるのかも知れませんね」

 

まあ、それはあっても不思議ではないか。

 

千年前くらいが神代だと言われているが。

 

どうして神代が終わったのかはよく分かっていない。

 

更に、人間の文明の痕跡は、もっとも古いものだと10000年以上も遡る事が出来ると聞いている。

 

それだけ長い時間が経過しているなら、住んでいる土地に適応しても不思議じゃない。

 

そもそも生物は長い期間を掛けて、住んでいる土地に有利なように適応して行く存在であるらしい。

 

そう考えると、別におかしな話ではなかった。

 

やがて、船が陸に近付いて行く。

 

見えている建物は、木造が中心のようだ。

 

まあ、何となく分かる。

 

石造の家は、基本的に密閉性が高いのである。

 

それはプライバシーが守られる意味もあるのだが。

 

しかしながら、こんな暑さでは、やっていられないだろう。

 

別に木造を悪いと思うつもりは無い。

 

実際問題、あたしが各地に建てているアトリエだって、木造と石造のハイブリッドなのである。

 

それぞれ良い所を、土地にあわせて採用していけば良い。

 

それだけの話だ。

 

程なくして、接舷する。

 

船から最初に船員達が下り、タラップを桟橋に降ろして。それでやっと人が行き来をし始める。

 

この辺りはかなりの魔郷と聞いていたが、住んでいる人達もみんな背が高くて、筋骨たくましい。

 

まあクーケン島でも、漁師とそうでない人は見るからにガタイが違ったけれど、そういうものなのだろう。

 

船を下りて、荷車を皆で順番に降ろす。支払はクラウディアがやってくれるので、桟橋から先に。

 

桟橋の辺りはまだ深いが、すぐに水深は浅くなっていくようだ。

 

この様子だと、海が急激に深くなっているのだろう。

 

港は水深がある程度ないと成立しないのだが。

 

特にこう言う大きめの船が入ってこれるという事は、この辺りも海の底はかなり遠いのかも知れない。

 

レントが降りて来たので、聞いてみる。

 

「彼方此方旅をしてきたんでしょ。 この辺りは来た事がある?」

 

「一応な。 あんまり長居はしなかったが。 ただやっぱり魔物が手強かった記憶はあるぜ」

 

「そうだろうね……」

 

集落以外は全部森。

 

そんな雰囲気だ。

 

そもそも土地が非常に豊かな上に、水も日の光も激しい。

 

そうなれば植物だって、散々育つ。

 

魔物だってわんさか湧いてくるだろう。エサがそれだけあるのだから。

 

人々が暮らしているのが不思議なくらい。

 

こういった場所で、既に人間が滅びてしまった土地も当然存在していた。そう思うべきなのだろうな。

 

あたしはそう考える。

 

セリさんが、目を細める。

 

「懐かしいわね、この辺り」

 

「来た事があるんですか」

 

「ええ。 生きてまた来るとは思っていなかったけれどね」

 

「……」

 

そうか。

 

それはまた、大変な話だな。

 

セリさんも、此方の世界に来る時に色々とあったと聞いている。だとすれば、そういう覚悟で各地を渡り歩いていても不思議ではないのだろう。

 

いずれにしても、今聞く話ではないな。

 

そう思って、桟橋を渡る。桟橋に長く留まるのはあまりよろしくない。見た感じ、入り江に作って大きな魔物が入るのを出来るだけ防ごうとはしているが。

 

これだけ急激に深くなっている事を考えると、魔物が足下から来る可能性は常に考慮しなければならない。

 

陸に上がって、それで荷車を運び上げて。

 

それで船を送る。

 

クラウディアは、ここでちょっと商談があるらしい。バレンツとしてもあまり来た事がない土地だ。

 

今のうちに、商業の足がかりを作っておきたいそうである。

 

しっかりしている。

 

ボオスもそれについていく。

 

恐らくだが、クラウディアに学ぶ事が多いと考えているのだろう。

 

「ボオスさんとクラウディアさん、一緒にいる事が多いですね」

 

「まあボオスには好きな人がいるし、あいつ凄く律儀だからそういう関係には絶対にならないけどね」

 

「えっ……」

 

「そういう話興味あるの?」

 

フェデリーカが。あたしが笑顔を向けているのを見て、首を必死に横に振る。

 

まあ、興味を持つのはいい。

 

あたしはもう結婚とか子供を産むとかするつもりはないけれど。他の人がするのをとめるつもりもない。

 

「荷物の品降ろしに手間取ってるな。 俺、少し手伝ってくる」

 

「分かりました」

 

クリフォードさんも桟橋の方に戻る。

 

恐らくアレは小遣い稼ぎだろう。

 

あたしは実は皆に生活費とか色々渡している。特にクリフォードさんは可変性の高い契約をしているとは言え、元々かなり羽振りが良いアーベルハイム直参の傭兵である。こっちに来て貰ったからには、それなりのお金を払うのが当たり前。

 

勿論それで困るような資産をしてはいない。ただクリフォードさんも、自分で好きに出来るお金は増やしておきたいのだろう。

 

トレジャーハントが仕事だと言っているクリフォードさんだが。

 

実際には、トレジャーハントはお金ばかりかかるし。

 

しかもクリフォードさんは一攫千金とかに特に興味がなさそうな人である。だから、稼げる時に稼ぎたい、というのは分かる。

 

目を細めた。

 

視線を感じていたが、どうも近付いて来たようだからだ。

 

別に敵意はないようだが。

 

視線を向けてきているのは、比較的小柄な少年だが。あれは相当に肉体強化の魔術を練り込んでいる。

 

今の時代、見かけと戦闘力がまったく一致しないのだが。

 

これは相当に強いな。

 

小柄な少年は全身に刺青みたいな模様をしているが、コレは多分魔術的な化粧だとみた。

 

化粧をすることで魔術の効果を上げる人間はいる。もの凄い格好をしているように見える場合もある。

 

この少年も、どうやらそういう類の化粧をしているようだった。

 

戦士の中には、相手に名乗りを上げることで戦闘状態に自分の精神を切り替える者も多い。

 

化粧も、ある意味そういうものだ。

 

クラウディアに化粧を教わりながら、そういう話を聞いた。

 

まあ、そうなんだろうなと思っただけだが。

 

「おい、お前。 ライザってのはお前だな」

 

「正確にはライザリン=シュタウト。 それで貴方は?」

 

「なんでもいい! 俺に力を見せてみろ! とにかくなんだか気にくわねえ!」

 

「無茶苦茶ですね……」

 

フェデリーカが呆れる。

 

レントが前に出た。

 

どうやら、少年の意図を理解したようだった。

 

「俺はそこにいるライザの仲間だ。 ライザは俺より強い。 まずは俺を黙らせてみな」

 

「おうっ!」

 

少年が体勢を低くする。

 

勿論武器は使わない。単なる殴り合いだ。

 

少年が低い体勢を取ったのは。長身の相手には、その方が戦いやすいからだ。大男を倒すのには、足をまずどうにかして、次に頭。

 

あたしもそれなりに喧嘩は嗜んだので、それくらいは分かる。

 

勿論それ以外にも手はあるが、本当の殺し合いになりかねないのでやらない。

 

あくまで喧嘩を売られたのであって。

 

レントもそれを心得ている筈だ。

 

あたしとしては、見ているだけでかまわない。

 

じりじりと間合いを計っていた少年だが。

 

不意に、突貫して、レントの手前で跳ね上がる。身軽で、柔軟な体を利用した野性的な動きだ。

 

更にそのまま旋回して頭に蹴りを叩き込みに行くが、残念ながら力量が違い過ぎる。全ての動きを読んでいたレントは軽く少年の足を掴んで。それでひょいと真上に放り投げていた。

 

足を千切る事も可能なくらいのパワーと力量差がある。

 

更に落ちてきた少年に、レントがタックルを浴びせる。

 

砂浜に吹っ飛んだ少年が、完全に尻餅をついていた。今ので伸びずに尻餅をついたということは。最低限対応できる程度には少年の技量が高いし。

 

レントもそうできるように加減したと言う事だ。

 

レントがその気になっていたら、少年を全身粉砕骨折くらいまで追い込めていただろう。

 

「どうだ、これで充分か?」

 

「お、おい、ディアンが負けたぞ!」

 

「すげえなあいつら。 しかもあの女、あの大男より強いとか聞いたぞ……」

 

「どこかの凄腕の傭兵か?」

 

ざわざわと人々が騒ぐ。

 

あの少年はディアンというのか。見た目同様の獰猛な性格のようだが。ただ、これは恐らく。

 

あたしの名前も知っていたと言う事は、可能性は一つしか無い。

 

「すげえな。 ライザリンってそっちの姉さんは、あんたより強いのか。 俺はディアン。 この辺りの集落の者だ」

 

「ああ。 俺はレント。 ライザが強いのは、魔術も込みならだがな」

 

「はー。 まいった。 俺も魔術は込みだし、俺の負けだ」

 

「納得したのなら何よりだ」

 

手を貸すレント。

 

立ち上がると少年は、声を落として遠くにいる民衆に聞こえないように言ってくる。

 

「怪しまれないように接近するために力試しをさせて貰った。 アンペルさんって人とリラさんって人に頼まれてる」

 

「ああ、やっぱり。 それでその様子だと、面倒ごとに巻き込まれてると」

 

「凄腕の戦士を連れて行くって事で、二人がいるフォウレの里に案内できる。 来てくれるか?」

 

「おっけ。 ただし、ちょっと待ってね。 人数がそれなりに多いから、まずは皆に集まって貰わないとね」

 

小首を傾げるディアン。

 

まずはクリフォードさんが戻ってくる。そして、クラウディアとボオスも。

 

どうもディアンは直感的に相手の強さをある程度把握できるらしく、目を輝かせていた。

 

「すっげえ。 強い奴らばかりだ。 俺より弱そうなのはお前だけか?」

 

「ま、まあ私はあんまり強さに自信はないです」

 

「フェデリーカは支援魔術専門だよ。 今の所はね。 実戦では皆の力を跳ね上げてくれるから、真ん中において守る事を考えないといけないの」

 

「そっか!」

 

ディアンは粗暴な言動と裏腹に、意外に素直な子供だ。

 

こう言う奴は基本的に荒れた挙げ句に取り返しがつかない暴虐を働いてしまう事も多く。そのまま賊などに落ちていくこともあるのだが。

 

多分保護者がしっかりしているのだろう。

 

それは、この少年にとって幸運な事だったのかも知れない。

 

ともかく、少年、ディアンか。

 

道案内をしてくれるというので、ついていく。この辺り、かなり暑いと言うこともある。

 

道行くと様々な見た事もない木が生えている。うにも、とんでもなく肥大化しているようである。

 

それだけじゃあない。

 

見た事がない植物が多数。

 

これは面白いな。

 

あたしはそう思いながら、彼方此方を見て回る。ディアンが不思議そうに小首を傾げている。

 

既に漁村からは離れて。人目がないと判断したのだろう。

 

「なあ、アンペルさんも言っていたんだけれどよ、錬金術ってなんだ?」

 

「ディアンと言ったな。 もう少し……」

 

「いいよ、口の利き方はその内覚えていけばいいから」

 

ボオスが苦言を口にしようとしたが、あたしはとめる。いきなり萎縮させる方がまずいだろう。

 

錬金術は、ものを要素まで分解して、再構築する技術だ。

 

作ったものを見せておく。ディアンに最近傷を受けたか聞く。この様子だと、生傷が絶えないだろうし。

 

見せてもらった傷は、何カ所か。

 

あたしが作った薬を塗り込むと、即座に消えていた。

 

「おお! すっげえ!」

 

「あたしも最初に錬金術の薬を見たとき、同じ感想だったよ。 今ではあたしが作る側だけれどね」

 

「アンペルさんもすげえのを色々使ってた! やっぱりあんた弟子なんだな!」

 

まあ、まだ何というか子供だが。

 

それでも、最低限相手には敬意を払えるらしい。

 

いや、この様子だとアンペルさんをいきなり呼び捨てにして、リラさんにシメられた可能性も高いが。

 

村から離れると、すぐに密林だ。ある程度高地に出ると、ディアンが指さして、色々と教えてくれる。

 

「此処から南に行くとさっきの漁村。 時々魔物が出るけど、魚がうまい。 あっちは農村が拡がっているけど、魔物だらけで、畑も時々荒らされてた。 俺は農村に時々出かけて、魔物を退治して駄賃を貰ってた。 だけど時々手に負えない相手もいて、そういうときは悔しいけど逃げる。 最近は農村へ行ける状態じゃないくらい魔物が増えて、何人も道中でやられた。 今、農村がどうなってるか分からない」

 

「ふむふむ」

 

「漁村から西に行くと、すごい荒れ果てた場所があって、その北には禁足地って場所があるんだ。 なんでも古い時代に作られたお城だとかいうのがあるらしいんだが、験者様の話によると、手練れをつれて行っても生きて帰れないくらい危ないし、城に辿りつくまでが凄く大変らしい」

 

「なるほどね……」

 

タオが今の話を聞いて、地図を拡げてメモを入れている。

 

この地図も途中で購入したものだ。

 

ざっとしたネメドの地図が記されている。

 

実は古い時代の方が地図は信頼出来る精度で作られているらしく、測量などの技術も失われているらしい。故に古文書から地図が出てくると重宝されるそうだ。

 

その一方で、苛烈な戦いの結果地形が変わってしまっているような事もあるのだとか。

 

そういう場合の事を考えると、地図を増やして、それを都度書き換えるのが大事であるらしい。

 

「俺たちの村であるフォウレはこの北だ。 もっと北に行くと、採掘場があって、色んな水晶が取れる。 古い時代は、山が火を吐いていったって話だ」

 

「休火山か。 そうなると、鉱石も色々取れそうだな」

 

ボオスが呟く。

 

クラウディアは、その辺りは抜け目なく、もう調べている様子だ。今は、ディアンに喋らせるつもりなんだろう。

 

何よりタオがメモを取っている。

 

取り残しはあるまい。

 

「それで、フォウレから東に行くと森だ。 この森は深くて魔物が多くて、でっかい狼の魔物が出るって言われてる。 とんでもなく強くて、俺たち「種拾い」の中でも一部の人間しか入ってはいけないって言われているんだ。 奥の方は、「種拾い」でも入ってはいけないって事になっていて……不自由だ」

 

「ふむ……」

 

「森の北に、俺たち「種拾い」が種を拾う場所があるんだ。 そこにアンペルさん達が足を踏み入れて、それで気付かれたらしい。 二人とも逃げようと思えばそうできるらしいのに、なんでか捕まって……」

 

「あの二人だから、すぐにでも逃げられるって判断したんだろうね」

 

そうなのか、とディアンが大喜びする。

 

この子なりに心配していた訳だ。

 

まあいい。ともかく、やる事は一つずつやっていくいかない。アンペルさん達と話すためには、まずはフォウレとかいう村に入り込んで、少しずつ情報を集める必要があるだろう。

 

何事も、焦っては台無しになりやすい。

 

此処は、大事だからこそ。慎重になるべきだった。

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