暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
フォウレの里ではアンペルさんとリラさんが捕まっていますので、それを救出する事が目的となります。
力尽くならライザ達の実力なら秒で終わるんですが。
相手に非がある訳でもないので、そんな事はしません。
この辺り、人間を止めはじめていても、ライザはしっかり倫理を持っています。
正義感の強さは変わっていませんが。
翌朝。
あたしはしっかり起きて、外で体を動かし。ついでに瞑想して、魔力も練っておく。
朝一番に急ぎ足でデアドラさんが来る。
そして、やはりというか。
驚愕で固まっていた。
「ライザどの。 これはどうやったのだ」
「錬金術によるものですよ。 家の構造体を全部作り出して、順番にくみ上げたんです」
「そ、そうか。 まったく分からないが、里の人間がいきなり建物が出来ていると驚いている」
「あたし達は戦闘も出来ます。 対処に困っている魔物や、困りごとがあったらまとめておいてください。 対応できる事はすぐにやりますので」
頷くと、デアドラさんはそれでもアトリエを周りから何度か見て。
それで、困惑しながらも戻っていった。
里の人間が、アトリエを指さしてわいわいと騒いでいる。
物見櫓まである。
そんな声まで聞こえるが、まああたしとしてはどうでもいい。
ともかく、順番に作業をしていくだけだ。
皆が起きだしてきた。ディアンもアトリエの中を走り回った後、外に出て来て目をきらっきら輝かせて、アトリエを見る。
「すっげえ! 夜の間は分からなかったけど、無茶苦茶しっかりした家だ!」
「壁なんかも簡単には壊れないようにしてあるよ。 まあその様子だと試したかな」
「ああ。 本当に凄いんだな。 よし決めた。 あんたの事を、これからライザ姉と呼ばせてくれ!」
「……分かった。 じゃあディアン、これから他のみんなはさんをつけて呼んで。 みんな得意分野ではあたしと同じスペシャリストだからね」
分かったと、ディアンは素直に答える。
なんというか、からっとした子供だな。
だが、捻くれている事も無いし。この様子だと弱者に暴力を振るうこともないのだろう。
戦闘は相応にできる事が分かっている。
だったら、こっちでも支援しておくか。
「しばらくはついてくるよね」
「おう! 色々とライザ姉のやることを見ておきたい!」
「じゃ、武器とか貸して。 強化しておく」
「強化出来るのか!」
わくわくしながら、背負っている斧を渡してくるディアン。斧と言っても斧の刃が大きいタイプではなく、どちらかというと小ぶりの柄が長い斧だ。
レントとの戦闘で見せた野性的な動きを、この斧で補助しながら戦うのだろう。恐らくは回転運動ともっとも相性が良い武器、というわけだ。
ただこの斧を得物にしていると言う事は、師匠がいるな。
恐らくはあのデアドラさんか。
この辺もあたし達と似ている。
アガーテ姉さんとデアドラさんは、雰囲気も何処か似ている。背負っているものの雰囲気である。
若かろうが関係がない。
ちなみに子供が出来ると親はしっかりするとかいうが。
そんなものは親次第。
人によって違うのだろう。
武器を強化していると、いつも以上に起きるのに苦労してきたらしいフェデリーカが、ふにゃふにゃになっている。
クラウディアがもう料理を始めていて。
珍しくボオスがそれを手伝っていた。
肉はある程度燻製を持って来ている。この辺りは、魔物も出来るだけ肉は急いで燻製に処理した方が良いだろう。
そう思いながら、ディアンの装備を作っていく。
あの野性的な動きを考えるに、生傷が多いのも納得だ。
レントともう一人壁をするとして、いわゆる回避盾をやれるかも知れない。
セリさんはちょっと今は壁役も攻撃役も忙しいが、防御はそれほど元々得意ではないように思う。
だったらディアンが育ってくれれば、壁をもう一枚増やせるか。
まずは靴。
それから手袋。
ベルト。
あまり暑さの中でも問題ないなと思いつつも、体熱を下げる魔術も入れておく。体熱が上がりすぎると、ばてるまで早くなる。
ましてやこんな密林ではなおさらだ。
後は、コートもいるか。
「すげえ。 ライザ姉、こんなものも作れるのか」
「靴、使い方を教えるから履いてみて」
「おう!」
ディアンは既にあたしを信頼していて、素直に言う事も聞く。というか、この様子だとまだ背も伸びるだろう。
だから、調整出来るようにしてある。
足の大きさにあわせての調整。ぴったり調整出来て、しかも脚力も上げる。外で試すように言って、それから他の装飾品も渡す。
全力で跳ぶと、ディアンは中々高く飛べるようだ。
これはかなり頼もしいな。
そうあたしは感心。あの漁村で、ディアンの強さが話題になっているのも納得が行った。屈強な漁村の者達が認めるくらい、強化魔術を極めていると言うことだ。
靴の感触を聞いて、微調整をする。
調整をしながら、ディアンに聞いておく。
「強化魔術は誰に習ったの?」
「験者様だ。 験者様も若い頃は彼方此方を旅したらしくて、その頃に地力で鍛え上げたらしい。 デアドラ姉も俺と同じように、験者様に習ったんだってよ」
「なるほどね」
我流から独自の流派まで鍛え上げたタイプか。
既に一線から離れて久しいようだが、あの人もこういう里の出身者、というわけだ。
それに昨日ディアンが言っていた森の中の狼、フェンリルの可能性が高い。
複数いる場合、各個撃破しないととても戦いにならないだろう。
狼は群れを成す生物だ。
一匹狼、なんてのもいるが。
狼である以上、群れを成していると考えるのが自然だし、そう考えておいた方がいざという時に対応もしやすい。
何が出て来ても対応できるように、準備はしておく。
手袋もつけて貰う。
自動体力回復と、傷の回復の効果もつけておく。
ディアンは先頭で敵に突貫していくタイプだ。それも被弾を怖れずに。
だからベルトには、防御の強化を入れておく。
他にも、斧にも持ち手の防御を強化する魔術を中心に刻み直しておいた。グランツオルゲンでの強化も行ってある。
しばし、ディアンの試運転を確認。
「ほんとにすげえ! 何倍も強くなった気がする!」
「実際には1.5倍ってところかな。 とにかく、力を過信したらダメだよ。 もしも魔物退治をするなら、雑魚戦からならしていこう」
「ライザ姉って慢心しないんだな」
「色々酷い目にあったからね」
これは事実だ。
あたしだって、最初はバカ丸出しで。
だから、ボオスと四年前まで対立することにもなった。
一度走り始めると止まらないとか言われる事もあるけれども。あたしとしては其処まで暴走しているつもりもない。
とくに今は、多くの命まで預かっている身だ。
特にフェデリーカは、もしも死なせたりしたらサルドニカの人々にあわせる顔がない。
朝食にする。
案の場ディアンはむっしゃむっしゃと食べるが。食べるのを見て、クラウディアは嬉しそうだ。
料理が好きな人は、美味しそうに食べてくれると嬉しいと聞くが。
そういう状態なのだろう。
あたしもむっしゃむっしゃといただく。
タオが呆れていた。
「いつ見ても凄い食べっぷりだね……」
「これで全く太らないっていうんだから凄いですね」
フェデリーカは鳥みたいに小食なので、見ていて不安になってくるが。まあ戦闘ではしっかり舞えている。
前線に立つ必要はまだない。フェデリーカは精神力をつけて、戦闘慣れをするのが先だ。それにはまだ戦闘経験が足りていない。
そしてそれは、別に恥ずかしい事でも何でも無い。誰でも最初は素人なのだから。
ただ、前線で戦うのなら、それ相応の肉もいる。
幸いフェデリーカはしっかり考える頭を持っているので、いずれ克服していけば良いと思うが。
さて、此処までは問題なしと。
次は里の出方。それにアンペルさん達の現状についてだ。
アンペルさんについて具体的に捕まっている場所とかは分かるかと聞くと、ディアンは分かると答えた。
あの験者屋敷だという。
そういえば工場みたいな構造体があると思ったが、なるほど。そういう事だったか。
裏手には恐らくだが、里における牢屋があるのだろう。
験者屋敷には恐らくデアドラさんも含めた、フォウレの最大戦力が詰めていて。彼処でダメなら何処もダメ、という感じだろうか。
「それでどうするんだ。 助けるのか」
「助けるけれど、今は一旦動きを待つ。 アンペルさんとリラさんが捕まったと言う事は、何かしらの考えがあっての事だろうし」
「そっか。 実はアンペルさんもライザがそういうだろうと言ってた」
「ふふ、まあ師弟だからね」
アンペルさんはもうあたしは自分を超えていると良く言うけれど。
それがどこまで本気で言っている事なのかは分からない。
アンペルさんは利き腕をダメにされてしまっている。それをダメにしたのが、あのエミルと言う名前の錬金術師と同じ存在かどうかは分からないが、少なくとも一緒にロテスヴァッサの王宮で百年前に働いていた錬金術師だろう。
義手をつけても、どうしてもハンデになる。
それが分かりきっているから、あたしはどうしても、アンペルさんが卑下するのはもったいないと思うのだ。
「一応、接触だけなら出来るぞ」
「まだいい。 里の人間は最大級に警戒してる。 クラウディアの音魔術を使えばいけそうにも思うけど、見た事がない機械がたくさんあって何とも言えない。 二人がそもそも調査がばれた仕組みも知っておきたいし」
「はー、色々考えてるんだな」
「色々危ない橋は渡ってきたからね。 とんでもない強さの魔物の群れと戦った時もあるし、どう考えても勝ち目がない相手とやりあわなければならなかった事だってある。 色々工夫して勝ってきたけど、それもいつも上手く行くとは限らない」
とりあえず、ディアンの話である程度分かった。
この里の人間は、多分アンペルさんやリラさんが探しているものを知らない。そして二人は、多分入ってはいけないと言う場所に行ったのだ。
しかもセリさんが此処には門があると言っていた。
セリさんが此処の門を何かしらの形で使ったとしたら、それは何百年も前。
古代クリント王国破綻の頃か、もうちょっと前か。どっちにしても、この辺りは今とはまったく光景が違っていたはずだ。
「時にセリさん。 その手、変わってるな」
「そうね。 羽毛に爪の生え方も貴方とは違う」
「ああ。 すげえ魔力を感じるし、身体能力も強いんだな」
聞いてはいけないことをと顔に書きながらフェデリーカがあわてたが、外をロクに知らないディアンには別におかしな事でもないらしい。
肌の色も髪の色も目の色も違う人間が、ここには来るのだ。
手足が少し違う人間が来るくらい、別に不思議でもあるまい。
さて、そろそろか。
験者が直接アトリエに来る。デアドラさんも一緒に来た。
験者というのは里長とか長老とか村長とかみたいな最高位の敬称らしいので、そう呼んで欲しいそうだ。「さん」とか「様」はいらないらしい。ただ身内の間では、最高の敬意を払う意味で「様」をつけて呼ぶそうだ。
つまりまだ身内だとは思われていないと言う事だ。
「これをたった一晩で。 凄まじいな……」
「中も見ていきますか。 此処での用事が終わったら開けますので、前哨基地として活用してくださって結構ですよ」
「助かる。 此処を修復するのには、一月はかかると思っていた。 魔物の動きは最近若干鈍いとは言え、その間襲撃を受けたら対応できなかったからな」
クラウディアがお茶を出す。
験者とデアドラさんが茶と茶菓子に手をつけながら、軽く話してくれた。
「まず里の周囲の何カ所かで魔物が縄張りを拡大している。 この里を守るだけで精一杯の我等は、討伐に出る手がない。 近隣の集落とも連携をしたいが、情報のやりとりすら命がけだ」
「我々はここに来る際、一度も魔物の襲撃は受けませんでしたが」
「それはディアンが案内したからだろう。 ディアンが通ったのは、此処と港を結ぶ安全経路の筈だ。 魔物がどうしてか近寄りたがらない細い道があって、それがいつしか街道になった。 だがその街道は、此処と港をつないでいるだけなのだ」
そうか、やはり此処も大変なんだな。
咳払いすると、験者は言う。
「里の戦士達は皆警戒している。 錬金術師というと、先に問題を起こした者もそう名乗っていたからな。 だから、警戒を解くためにも信用を積んで欲しい。 馬鹿馬鹿しいかも知れないが、これは何処の集落でも同じような話だ」
「分かりました。 タオ」
タオが地図を拡げる。
頷くと、験者が幾つかの箇所を指さして、何処に何がいるかを説明してくれる。まずは魔物狩りか。
それもいいだろう。
「薬の入手や建物の修復も出来ますけれど」
「薬か」
「凄いぞ験者様! 俺も何カ所かの傷につけたんだが、溶けるように傷が治った」
「そんな大げさな」
デアドラさんも、丁度何カ所かかすり傷がある。この密林での生活だ。やむを得ないだろう。
あたしは失礼して、というと。
持ってきてある薬を塗る。
傷が溶けるように消える。
ぎょっとした様子で、デアドラさんは傷をみて。触ったりもしたが、完治である。
まあ、誰もが驚くよなこれは。
クーケン島のエドワード先生は、いつもあたしに薬の納品を頼んでいるくらいだ。老衰とかの摂理に沿った死以外はだいたい助けられると、いつも感謝される。
まあ最近はあたしがクーケン島周辺の魔物を片付けて廻っているおかげで、怪我人も著しく減ってはいるが。
「これは。 錬金術は建物を建てるだけでは無く、怪我も消せるのか」
「信じがたい……」
「症状に応じて薬は作れますよ」
「……分かった。 ただ、まずは順番だ。 魔物の退治を先に頼む。 薬も、その後に納入して貰おう」
そういえば。
験者は随分とゆっくりと喋るようだが、これは恐らく威厳を保つためなのだろうな。
験者がデアドラさんをつれてアトリエを出る。見送った後、ディアンがぼやく。
「験者様は若い頃、外を旅して彼方此方で色々見聞きしたって言うのに。 どうしてあれはだめこれはだめって、里の皆を縛るんだろう」
「……考えられるのは一つ。 危険だと言う場所が、本当に洒落にならないということなんだろうね」
「そんなのは分かってるよ。 だけれども、竜風も近いかもしれないって言うのに、このままじゃ何もできない。 里だって、どんどん枯れていずれはおだぶつだ」
「まあまあ。 ライザの辣腕は見たでしょ。 今はまず、指示を受けた魔物の狩りに出向こう」
クラウディアが笑顔のままそう言うと。
妙な圧を感じたらしく、ディアンは黙る。
そして、ああと、一言だけ呟くように返事していた。
案の場と言うか。
環境が変わっても、ディアンは真っ先に戦闘をしたがったので、まずは今戦力が上がった状態で動いて貰う。
アトリエの側に、魔物の毛皮などのジャンクをかき集めて作った的を準備する。
的と言っても、それなりに頑強で、あたしでも壊すのはそれなりに苦労するものだ。
的の大きさは成人男性ほど。魔物にしては小さいが、まずはこれでいい。
フェデリーカが舞い始める。
全員分の強化を余裕でこなす事もあって、この子の舞いの魔術は強力だ。しかも他にも色々と舞いはあるらしいので、今後実戦投入をしてほしい所なのだが。
ともかく、ディアンに舞いでの強化を掛け。
早速的に攻撃させてみる。
予想通り、派手に空振りしていた。
それでも着地で尻餅をつかなかったのは、相当な才覚があるからだろう。
困惑した様子で、ディアンは的を見ていた。
「あ、あれっ!?」
「力が装備類込みで1.5倍、フェデリーカの舞いも込みで合計二倍くらいにはあがっているからね。 なんどか練習してみて」
「お、おう!」
二度目は掠り、三度目は斧ががっつり的の頭を捕らえた。
次にあたしは、地面に円を幾つか描いて、其処を自由に移動出来るか確認して貰う。
これもだ。
行きすぎたり足りなかったり。
それでも短時間で調整していくのは、流石だろう。
周囲にちいさな集落しか無いとはいえ、逆にそんな状態でも生き残り。この辺りで強いと認識されているだけの事はある。
ガタイはあまり関係無い。
今の時代は、魔術込みでの総合力がものを言う。
実際例のメイドの一族なんて、あたしよりずっと背が低いし筋肉量も多いようには見えないけれども。
多分それぞれがレントと良い勝負をするくらいには強い。
そういうものなのだ。
「強くなったはずなのに、うまくいかねえ!」
「いや、これだけいきなりでやれれば充分だよ。 それと素足での行動になれてた?」
「ああ、あっついからな」
「足の裏、怪我しやすかったでしょ。 どれだけ皮が分厚くなっていても、人間の皮膚なんて脆弱なものだからね」
ふんふんと頷きながら、ディアンは順番にやっていく。
いずれにしても、いきなり実戦に出ていたら、足を引っ張った。
それは本人も理解出来たのだろう。
しかし、逆に言うと。
持て余すほどいきなり強くなった、と言う事も意味をしているのだが。
しばらく色々やってならしていると。
デアドラさんが来る。
「ディアンが随分良い動きをしているな」
「あたしが作った装備品による強化が入っています。 ただディアンの場合、素の能力が高いので、防御と回復系を中心に強化を入れていますが」
「そうか。 錬金術師殿は、いにしえの神々のようだな」
「いえ」
デアドラさんは、まだあたしを名前では呼んではくれないな。
それだけ警戒していると言う事だ。
ただ、警戒しているなりに、様子は見に来ている。
いずれにしても、まだまだ心を簡単に許してはくれないだろう。
「基礎訓練をやらせているのは、やはりいきなり能力が上がったからか?」
「はい。 このまま実戦に出すと、下手をすると初戦で戦死もあり得るので」
「だろうな……」
「大丈夫、そういう事はさせませんよ」
頷くと、デアドラさんは戻っていく。
動きにかなり慣れてきたディアンに、もう少し複雑なステップを踏ませてみる。
やはりパワーが倍になっているというのはかなり大きく。才覚が明確にあるディアンでも、慣れるのに苦労していた。
ただ、それもそうは掛からない。
基礎的な動きを色々と一刻ほど練習させる。
その間、里の人々はこっちをずっと見ていたようだった。
ただ、デアドラさんが叱咤して、仕事に戻らせている。
そしてあたしも、その間里を観察させて貰った。
話通り。かなり里の中は文明的に動いている。王都よりも機械の密度は高いくらいだ。
昨日は灯りくらいしか気にならなかったが。
井戸のくみ上げは機械が行っているようだし。
また、水車の管理も同じく。
更に、驚くべき事に上空を何かが旋回して見張りをしている。
あれは間違いなく機械だ。
「機具」と呼んでいるようだが。それは想像以上に優れたテクノロジーを有しているとみて良い。
多分ヴォルカーさん辺りが見たら、絶対に欲しいと言うだろう。
農作業も、かなり機具がやっているようである。
こういう多湿の場所の農作業はかなり手間暇が掛かる。雨が大量に降る分、向いている作物があたし達がいる場所とはかなり違っているのだ。
そういった作物を、丁寧に機具が世話している。
この里には、恐らくだが。
神代の文明が、いびつな形ながら生きている。
下手な都市よりも、ずっと文明的だ。
恐らくだが、験者はこれを見て育ち。外の現実を見て来て、それで機具を外に売る事を判断したのだろう。
それによって、里に人を招いて。新しい血を混ぜることも考えたのは疑いない。
ボオスが戻ってくる。
かなり渋い顔をしていた。
ボオスは里の人間と商談が出来ないか、様子を見てきたのだ。クラウディアがこういうのをやるべきかなと思ったのだが。
クラウディアは今、音魔術で周囲を警戒している。このアトリエは守りを固めているとはいえ、かなり魔物の領域に突出しているからである。
「ボオス、どうだった?」
「クーケン島と同じだ。 それも昔のな。 きりきりするような排他的な空気があって、ろくに商談どころじゃない。 それにこの里、あの機具とやらのせいで、思ったよりずっと文明的で、それを本人達も自覚していやがる。 どっかで外の人間を見下しているようだな」
「辺境の集落あるあるだね」
「まったくだ」
ボオスが嘆息する。
験者はどちらかというと進歩的な性格のようだが。里の長としても、この里に根付いた色々と良くないものを簡単に吹っ切るわけにはいかないのだろう。
いずれにしても、これは面倒だ。
アンペルさんが苦労したのもよく分かる。幾つもクリアしなければならない課題があって。
百戦錬磨のアンペルさんでも、そこを見誤ったのだろう。
まあ、それでも多分致命的な事態になっていないだけ、凄いと言うべきだが。
「それで、どうだディアンは」
「いいよ。 回避盾としても攻撃役としてもいけるねあれは」
「逸材だな」
「……フェデリーカと同じく即戦力だよ。 ただ、血の気が多いから、それを上手に制御しないと死ぬけど」
あたしだって、血の気は結構多い方だ。
だからこそ、戦闘では必要以上に冷静になるように心がけている。
一度しくじると簡単に死ぬのだ。
魔物だって、死ぬわけには行かないし。此方を殺せる武器を幾つも持っている。
だからこそに、冷静でなければならない。
初見殺しの魔術や能力持ちも多いからである。
「よし、ライザ姉、出来たぞ!」
「うん、良い感じだね。 じゃあ、的に対して、得意な攻撃を叩き込んでみて」
「よしきた!」
セリさんに頷く。
セリさんが植物操作の魔術を使って、魔物を象った的を動かす。最初はゆっくり。
ディアンは野性的なしなやかな動きで跳び上がると、的に綺麗に横殴りの一撃を入れていた。
パンと、鋭い破裂音がする。
それでも的は平気だ。
「すげえ! 良い感触だ!」
「力を入れすぎないでね。 加減を間違えると、自分の骨を砕いちゃうよ」
「分かってる!」
「速度を上げるよ」
セリさんが、的の速度を上げる。
それでもディアンはついていく。うん。これは才覚がある。
レントも舌を巻いていた。
「これは伸びしろが大きいな。 二十歳を超える頃には、俺たちよりも強くなってるんじゃないのか」
「そうかも知れないね」
その時には、頼りにさせて貰うよ。
そう、あたしは内心で呟いていた。