暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
まずは荒事開始。
この近辺の強力な魔物を駆逐する事になります。
なあなあでどうにかなっている原作と違って、この世界では魔物が人間に対して圧倒的優位で、どこも魔物に脅かされているのが普通なのです。
巨大な蛇がいる。
別に敵対的ではなく、あたし達が行くとずるずると這って密林の奥に消えていった。あれはあたしの歩幅十歩分はあった。
動きもそれほど速くなく、普通の蛇がいわゆる「蛇行」をするのに対して、なんというかそのまままっすぐ進んでいたようだった。
超大型の蛇にはたまにある動きらしい。
体が巨大すぎて、ああやって動くしかないそうだ。
全身も緑色で、森に溶け込む姿をしている。
それはどういうことかというと。天敵がいるということだ。
今の時代、デカイというだけではそこまで強い存在にはなり得ない。あの蛇も、ラプトルの群れにでも襲われたら、あっというまにディナーだろう。
「ジョージのとっつあん、今日も大人しいな」
「あの蛇はジョージって言うんですか?」
「おう。 この辺りの主だ。 人間には基本的に敵対では無くて、余程の事がない限り襲ってこない。 ただ、もう寿命だな……」
「へ、へえ……」
フェデリーカが困惑しているが、まあ土地によって色々な違いはあるものだ。
さて、それはそうとして。
あの蛇が逃げたのには理由がある。あたし達だけじゃない。
あたしが顎をしゃくると、皆が戦闘体勢になって、すぐに陣形を組み替える。ディアンはなんだろうと見ていたが。
茂みから、立て続けにそれが飛び出してくる。
鼬か。
いや、違う。
もっとずんぐりとしていて、ずっと大きい。それに、体はどちらかというと熊に似ている。
四つ足だが、背中まであたしの背丈の五割増しはある。
足も重厚で、下手な熊よりも大きいだろうこれは。
それが十数体ほど。
展開も早く、半包囲してきて、唸りを上げている。
「ラーテルだ!」
「なるほど、こんなのがいるってことは、確かに街道を行くどころじゃないな」
「片付けるよ」
「分かった!」
殺気が炸裂する。
ラーテルは、あたし達を皆殺しにして、昼飯にするつもりだ。だが、そうはさせるものか。
最初に仕掛けるのはセリさんだ。
植物魔術を展開。
地面の下から、一斉に食虫植物がラーテルとやらに襲いかかる。それで出鼻を挫かれたラーテルだかが、あわてて飛び退くが。
こっちは既に、全員が動いている。
レントが、困惑している一体の頭を、唐竹にたたき割る。
人間の腕力ではできっこないが、グランツオルゲンで更に強化している大剣と、レントの剣腕。
更にはあたしの作った装飾品による強化で出来ている。
食虫植物に食い千切られている仲間を見て困惑しているラーテルに、それぞれが攻撃を開始。
混乱している群れは、最初の半包囲への展開が嘘のように次々仕留められていくが。
一旦混乱から飛びずさった大きい一体が、吠える。
というか、唸るような、大きな音だ。同時に、巨大な氷の柱が多数、奴の周囲に出現する。
なる程、氷の槍か。
ボオスが足止めしていた一体を、踵落としで蹴り砕いたあたしも、詠唱を即時に行う。そして、巨大な氷の柱を。それも人間ほどもある奴を。
そのまま熱槍で迎撃。
強烈な熱と冷気が激突したことで、爆発が起きるが。
その爆発を、クラウディアが音魔術で吹き飛ばした。
音は指向性を持つとこう言う事が出来る。
爆発をもろに浴びたラーテルが悲鳴を上げてのたうつ中、ボスは第二射を即座に用意。流石にこんな危険な場所で暮らしているだけの事はある。
しかし、これは攻撃用ではないな。
あたしは突貫。ボスが一瞬だけあわてるが、もう遅い。
それでも、氷の術を即座に切り替えて、壁にして展開して来るのは流石だろう。
あたしは跳躍。
熱魔術による爆発を利用して加速。
そのまま、中空から、更に威力を増した蹴りを、氷の壁に叩き込み。貫き粉砕していた。
勢いも殺さず、ボスをそのまま激しく蹴る。
巨体が吹っ飛ぶ。
首が折れた手応えがあった。
どうと地面にボスが倒れると、わっと残党が逃げようとするが、そうはいくか。
セリさんが植物魔術で、今度は射撃。
鋭い針みたいなのが射出されて。ラーテルの全身に突き刺さる。それでも三体が逃れるが、タオが追いついて、手負いの一体を仕留める。更にクラウディアが速射して、二体を次々に射倒していた。
群れを全滅させた。これでいい。
「よし、処理開始」
「処理?」
「皮を剥いで、肉を燻製にする……といいたいけれど、これ食べられる?」
「いや、肉が臭くてとても食べられない」
だろうな。
一部の肉食の動物は、肉が臭くて食べられたものではないのだけれども。このラーテルとやらもそうだった、ということだ。
ならば、皮をいただく。
体もばらして、骨とかも回収しておいた方が良いだろう。
てきぱきと吊して処理をしていく。肉を食べないので、血抜きはしない。肉はそのまま焼いて、肥料にするために腐らないようにだけの処置はする。
ディアンが不思議そうにしていた。
「ライザ姉、獲物の処理になれてるな」
「毛皮はだいたいどれも役に立つけれど、錬金術の素材になるからね。 それにものによっては交易品にもなる」
「よく分からないけれど、価値があるって事か」
「そういうこと」
不慣れな様子のディアンに、タオがついて指導する。ディアンは戦闘での飲み込みの良さが嘘のように不器用だが。
まあ、それが普通だ。
戦闘では才覚が明確にあるのだから、他はぶきっちょでも仕方が無い。
何でも出来る奴なんていない。
一人旅をしているレントも、気がつくとずぼらな食事ばかりするという話だし。一人暮らしすれば立派になるとか成長するとか大嘘だ。結婚すればとか、子供が出来れば、とかと同じ都市伝説である。
あたしも色んな集落を周り、王都も見て来て。
たくさんの人間に関わってきたから、そう断言できる。
「それにしても、逃げる魔物まで追う必要があったんですか?」
「あれは人間を襲い慣れている雰囲気があったからね。 それに手負いにしたら、逆恨みを募らせるだけだよ」
「なるほど……」
フェデリーカもまだまだ戦士としてはこんな感じだ。
ともかく、死体の処理を終えて、戦利品をアトリエに持ち込む。
いまやっているのは、南にある集落への街道に出る魔物の駆逐だ。ラーテルの群れを片付けた事は、先にデアドラさんに報告しておく。
ディアンが昂奮して凄かったというので、デアドラさんはちょっとだけ目を細めていたようだった。
「デアドラ姉、ライザ姉本当に強いぞ! ラーテルのボスが作った氷の壁を、苦も無く蹴り砕いて、ラーテルもそのまま蹴り倒したんだ!」
「そうか。 それにしても、大量の毛皮だな」
「余るので、なめした後に其方に提供します」
「そうか、助かる」
かなり向こうに譲歩しているが、それで別にかまわない。
ラーテルの肉は、錬金釜に放り込んで発酵を促進して、そのまま肥料にしてしまう。確かに美味しくはなさそうだ。
それよりも骨だ。
頑丈な肉体を支えるからか、とても分厚くて頑丈だ。
これは何かに使えるかも知れない。
内臓にはこれといって面白いものもなかった。それに、人間の残骸も入ってはいなかった。
それだけは、良かったのかも知れない。
肥料はセリさんに引き渡して、一旦休憩してから、また街道の方に行く。
さっきのジョージという老蛇が、木の上でひなたぼっこをしているのが見えた。
巨大な蛇は、それこそ大きめの獲物を食べると一年くらいは食事をしなくても大丈夫らしいが。
それはまた、随分と燃費が良い話である。
人間なんて、二三日まともに食事をしないと身動きが取れなくなるし、最悪死に到るのだが。
それにしても。殺気に満ちている森だ。
もっと奧には更に強大な魔物がわんさかいるんだろうと思うと、これは先が思いやられる。
行き交う人達も命がけだ。
ディアンも安全な道なんてないと言っていたし、これは二三日は此処を往復して魔物狩りの必要があるか。
クラウディアが警戒の声を上げる。
「ライザ」
「!」
「おっと、俺より気付くのが早かったな。 非常に巧妙に気配を消していやがる」
クリフォードさんがブーメランに手を掛ける。
茂みの中に巧みに擬態して隠れているそれは、巨大な……さっきのラーテルなんて一呑みにしかねないほどの巨大な……なんだろう。
カエルに似ているが、あれはちょっと雰囲気が違う。
向こうも此方が気付いた事に気付くと。
いきなり、殆ど音速で舌を飛ばしてきて。
フェデリーカを狙ったそれを、一瞬の差でクリフォードさんが手に持ったブーメランで弾き返していた。
「おっと、やらせねえよ」
カエルみたいな魔物は、舌を回収すると、立ち上がる。
六本も足があり、全身から触手が展開する。緑に完全に紛れていたが、触手は赤黒く、烏賊の触手のように棘がついている。あれは掴まれたら、怪我どころか肉を持って行かれるだろう。
しかもかなり大きい。
肉を持って行かれるどころか、触手に掴まれたら、最悪そのまま握りつぶされて死ぬな。
そう思いながら、あたしは詠唱を開始。
魔物は六本の足を素早く展開して、驚くほど素早く動く。触手も舌も、ひっきりなしに飛んでくるが、その度クリフォードさんが対応する。
あたしは詠唱しながら、様子を見る。
この様子だと、魔術をもう展開している。セリさんが植物操作で引っかけようとするが、相手は巧みにかわす。
レントが斬りかかるが、残像を抉るだけだ。
なるほど、そういうことね。
此奴が使っているのは、多分限定的な予知能力だ。
あたし達の周りを回りながら、高速で連続して攻撃を仕掛けてくるカエルみたいな魔物。触手による殴打で、レントが吹っ飛ばされる。ボオスが対応できずに、剣を一本弾かれていた。
覇王樹を柔軟に踏み越えると、中空から触手を立て続けに放ってくるカエルもどき。ディアンがそれを一つ、弾き返してみせるが。もう一本が、セリさんを直撃。吹っ飛ばしていた。
立ち上がったレントが。セリさんを襲おうとした舌を、雄叫びを上げながら弾き返すが、血が額から出ている。
更に、立て続けに来る触手と舌。
しかも巧みに周囲の障害物を避けている。こいつは手強いが、だが。
あたしが詠唱を終える。
周囲に展開した熱槍、一万。
そしてそれは、以前使っていた……周囲から一点に向けて殺到するタイプのものだ。それを見て、足を止めた魔物は。全力であたしに向けて跳んでくる。まあ、それしか活路はないよな。
あたしも詠唱の制御で、対応できるものではない。
だが、クラウディアが、一瞬早い。
あたしの前に躍り出ると、バリスタみたいな矢を叩き込む。
初めてクリーンヒットが入る。
カエルが悲鳴を上げて、地面に落ちる。だがそれでも、足を動かして逃れてみせるのは流石だが。
あたしの熱槍制御は、それも見越していた。
未来が限定的に見えるなら。
それでも対応できない攻撃を叩き込む。
簡単な話である。
万の熱槍が全方位からカエルみたいな魔物に襲いかかる。魔物は覚悟を決めたのだろう。
触手を振るって、更に自身でも全力詠唱。触手の出す音で詠唱補助。
それで、全身を鋼鉄のように固めたようだが。
そんな程度であたしの熱槍を防げると思うな。
炸裂。
音が世界から消え。
つづけて、爆風が辺りを蹂躙していた。
カエルみたいな魔物の蒸し焼き、1丁上がりだ。だが、かなり皆手傷を受けた。すぐに薬を出す。
ボオスが青ざめて呻いている。セリさんも調子が良くない。
ボオスは腕の骨をやられていたし、セリさんは肋骨を折っていた。すぐにあたしが薬を選んで塗り混む。
腕を固定して、そして薬で回復を促進させるのだが。
これは一旦今日は引き上げるべきだな。
あたしの薬でも、骨折は治るのに二三刻掛かる。この敵の質だと、正直全戦力を投じないのは愚策に等しい。
カエルみたいな魔物を解体するが、腹の中からさび付いた髪飾りみたいなのが出て来た。それをみて、ディアンがあっと呻く。
「この辺りで行方不明になった里の種拾いのものだ……!」
「そうか。 こいつが相手だったなら仕方が無いよ」
「……この人、俺の理解者だったんだ。 良い戦士だったのに……」
「お墓を作って、これを一緒に埋めてあげよう」
ディアンが肩を落としている。
多分、ディアンよりだいぶ年上の女戦士だったのだろうな。
そう思うと、デアドラさんも頼りにしていた戦士だったのかも知れない。
腹の中からは、他にも人間のものらしい残骸が幾つも出て来た。それらは荼毘に付してしまう。
この辺りで、人間を襲うことを常態化させていたのは間違いない。
恐らく、今後はこんなのがわらわら出てくる筈だ。
この辺り、サルドニカよりも状況が悪いな。
あたしは、そう思っていた。
カエルみたいな魔物を解体したが有用な部品は見つからず。皮も使い物にならなさそうだったので、焼いて処分し、肥料にする。
髪飾りはあたしが錬金釜で綺麗にして、それでデアドラさんに話をする。ディアンはとても悔しそうに俯いていた。
「そうか。 これはロザリのものだ。 仇を討ってくれて礼を言う」
「この辺りは、過酷なんですね」
「ああ。 だが、錬金術師殿達はこの辺りでも平気でやっていけそうだな」
「この魔物との戦闘で負傷者が出たので、今日は切り上げます。 この様子だと、まだまだ掛かりそうです」
頷くと、デアドラさんと一緒に墓地に行く。
里の奧に墓地があって、それでデアドラさんが何か言うと、屈強な戦士達が集まって来た。
女性戦士も屈強な人が多く、腹筋は基本的に割れている。
あたしとクラウディアだけが参列する。
他の人は、皆回復と荷車からの積み卸しをしてもらった。
墓は既に作られていた。
もう戦死と判断されていたのだろう。
墓の前で、デアドラさんが、ロザリという人に朗々と呼びかけて。それで何かしらのかけ声を掛けた。
あたしとクラウディアは、胸に手を当てて、見た事も無い死者に敬意を示す。
戦士達は雄叫びを上げると、墓の前で何やら踊り始める。ディアンも、それに加わっていた。
しばしその踊りが終わると、また朗々とデアドラさんが何かしらを言う。
タオだったら分かったかも知れないが、あたしには分からない言葉だった。
それが最後になって、戦士達がぞろぞろと行く。
ディアンが、大きくため息をついていた。
「終わりだ。 行こうぜ、ライザ姉。 これでロザリ姉も、冥府に行けたはずだ」
「この辺りの風習では、あんな風に死者を送るんだね」
「余所では違うって聞いているが、此処ではそうだ。 まず最初に冥府の番人にああやって戦士の長が呼びかける。 その後、番人を喜ばせる舞いを皆で踊って、それで死者が冥府に行けるように番人の機嫌を取るんだ。 験者様とかの偉い人が死んだ場合は、菓子をその場で焼く。 冥府の番人は菓子が好きだ。 その後、冥府の番人に言づてを頼むんだよ。 冥府の王に、勇敢な戦士をよろしくお願いしますって」
随分と具体的な風習だな。
というか、こういう信仰が残っているのは初めて見るかも知れない。今までは漠然としたものしか見てこなかったから、とても新鮮である。
「戦士以外はまた別の方法で葬るの?」
「おう、何種類かあるぞ」
「なるほどね。 ともかく、あたし達の仲間はああやって葬られないようにあたしがどうにかする。 ディアンもね」
「頼りにしてる」
そうだな。
アトリエに戻ると、タオに今の話をクラウディアがして。そして、タオが目を輝かせてメモしていた。
その後タオが、他の死者を送る方法についてディアンに聞いて。それを全てメモしていた。
その間に、レントが里の人間が利用しているらしい小川で、魚を捕ってきてくれた。結構派手に貰っていたのに、骨一つやっていないのは流石である。
魚をクラウディアが蒸し焼きにして、それでみんなで食べる。みんなで食べられるくらいの大きな魚だった。
今日は大事を取るが。
明日は更に魔物狩りを加速させる必要があるだろう。
この辺りの人が脅かされている危険を考えると。出来れば一日で、全部まとめて片付けてしまいたいほどだった。
何よりも、確定で門がある。
セリさんの話によると、即座にフィルフサが出る状態ではないという事だが、それも今も同じかは分からない。
なにしろ五百年以上も前にこの土地を離れたそうなのだから。
あまりもたついていられないのも事実だった。
次の日。
朝から、多数の魔物を相手にする。
骨折を一日で回復出来るあたしの薬の効果にボオスは呆れていたが。ともかく、皆で確実にこの辺りの魔物を削る。
昼過ぎまでにそれなりに強い魔物を含めて三度戦闘し、いずれの戦闘でも負傷者を出した。
話に聞いていた以上の魔郷だ。
東の土地は此処以上だと聞くから、更に凄まじいのだろう。
そう考えると、ちょっと色々と複雑な気分にもなる。
今倒したのは、手が長い猿みたいな魔物だ。口は凄い牙が並んでいて。この牙は、或いは使えるかも知れない。
猿みたいではあったけれども、人間とは恐らく別種の存在だ。
解体してみると、骨とかの造りが、人間とは似ても似つかなかった。
他にも、カラフルなラプトルを仕留めたが。
カラフルなのは、警戒色だと一発で分かった。
明らかに毒を持っていたし、ラプトルが代名詞にしている蹴爪も、明らかに紫に染まっていた。
蹴爪を喰らったら、毒を貰うのも確定と言う訳だ。
厄介な相手である。
こんなのがゴロゴロいるのでは、この辺りの人達も、安心して等暮らせないだろう。
更に言うと、此処は禁足地ですらない。
禁足地はもっと危険な可能性が高かった。
ディアンがかなりへばっているのが見える。
あたしは平気だが、それでも現状の限界が見えてきた感はある。ディアンに水をレントが渡している。
レントはこう見えて、とても面倒見がいい。
舞いを待っているだけでも、かなり神経がすり減らされるらしく、フェデリーカは言葉もない様子だ。
一度などは接近してきたラプトルに、危うく首を食い千切られるところだった。
間一髪でタオがラプトルの首を叩き落としていなければ、命はなかっただろう。
ただラプトルにしても、命がけで戦っていて、エサを得るために必死なのだ。
あまり、責める気にもなれない。
アトリエに戻る。
ラプトルの毒爪や、毒そのものを溜めている毒腺。更には猿みたいな魔物の牙とか、使えそうなものは錬金釜に放り込んで、ある程度使いやすいように加工をしておく。毛皮もかなりいい。
ラプトルの皮は、これはこれでかなり上質だ。
派手すぎる見た目だが、なめしが良ければ長期間もつだろう。あらかた回収はしてきたので、里に納品して。残りは管理をクラウディアに任せる。
食事を取って、休憩。
かなりグロッキー気味のフェデリーカだが。それでもまだ若いのだ。しっかり食べると、元気を取り戻してはいた。
「食事の後、少ししたらまた出るよ」
「おう。 とりあえず南の集落まではこれでいけそうだよな」
「いや、これだけの密度で魔物がいると、そうはいかないだろうな。 魔物が消えた分、縄張りを他の奴がすぐに埋める」
「そうなんだな」
クリフォードさんの博識に、ディアンは驚いている。
体につけている戦闘用の化粧と、刺青に似たようなシンパシィを感じるのかも知れない。クリフォードさんはなんだかんだで全力で道楽をするために生きている人だ。今もロマンを求めて命を賭けている。
だから、逆に色々知っている。
色々修羅場も潜っているのである。
フェデリーカは、逆に新しいものがどっと来すぎてパンク気味だ。
ともかく、フェデリーカがちょっと心配だったので、栄養剤を飲ませておく。興奮剤は最後までとっておく。
あれは結構危険なので、出来るだけ飲むのは最後の手段にした方が良いから、である。
再び魔物狩りにでる。
大きな猪が出たが、多少大きい程度だ。勿論魔術も使うが、所詮は猪である。この面子の敵ではない。
順番に片付けて行く。
大物は、もう出なかったが、代わりに怖いもの知らずの雑魚が何度も仕掛けて来た。だが、それも育つと危険な存在に成長しうる。
だから、全て処理する。
そして、森を抜けた、
ある程度平原と呼べる場所が拡がっている。
森から出て来たのを見て、柵に貼り付くようにして守っていた戦士が、驚いていた。
見かけはあたし達と殆ど変わらない。
フォウレの里が、やはりかなり特殊な場所なのだと言う事がわかる。
「あんた達、どうやって森を抜けてきた!」
「ようギナムのおっさん」
「お前……ディアンか! 三年ぶりだな!」
「大きくなっただろ!」
ああ、大きくなったな。ベテランの戦士が、そう言ってディアンに笑顔を見せる。
すぐに戦士が集まってきたので、ボオスが出て、事情を説明。すぐに村長が出て来た。
スーツを着ているのはこの人だけだ。
そうなると、この辺りにはまともな服が殆ど来ないのだろう。王都の機械は直したばかりだ。
品が流通するのは、特にこんな状態では時間が掛かるだろう。
「森の魔物を多数片付けてきた、だと!?」
「ああ、荷車を見てくれ。 だが、まだ此処に到達するのに成功しただけだ。 まだまだ魔物を処理しないといけないが」
「途中に巨大な人食いの魔物がいただろう。 あれに何人もやられて……」
「カエルみたいな奴なら仕留めた」
おおと、戦士達が声を上げる。
そうか、こっちでもやられていた人がいたのか。ともかく、あたしは手をかざして、里の様子を見ておく。
結論はすぐに出る。これは危ない。
孤立している集落で。かなり広い平地が拡がっているものの、それを生かす余力がない。
危険な森に対して壁を作るのが精一杯で、人を行き来させられないから。物資も当然行き来できないのだ。
もちろん森を焼き払うとか論外だ。
怒り狂った魔物の群れに、今の人間は対抗できない。文字通り殲滅するまで魔物は人間を殺し続けるだろう。
「この経路をまずは安全にするよ」
「分かった。 皆、聞いての通りだ。 まだ魔物が多数いるから、しばらくは守りを重点的に固めてくれ。 今日明日くらいで、面倒そうなのは片付けるから、その後に戦士の護衛をつけて、港やフォウレに商売に来てくれ」
ボオスが里の人々にそう説明する。
すぐに意図が伝わるので有り難い。こういうのを専門に王都で学んできたのだろう。
「分かった、助かる。 幾つも足りない物資があったんだ」
「そこにいるのはバレンツの人間だ。 足りない物資があるようなら、リストアップしてくれるか」
そうかと、嬉しそうな声。
クラウディアは頷く。クラウディアにしても、これは商機。
最初は商売はあまり利益が出ないが。そこに拠点を作る為の先行投資として、それは考えるものだという。
この一帯はバレンツにとって販路が出来ていない地域。
特産品などを得られれば、人間の行き来も流通も活発に出来る。長期的に見れば、バレンツにもこの辺りにも得だ。
難しい話は二人に任せて、あたしは皆の怪我を確認する。
まあ、この程度なら大丈夫だろう。ある程度で切り上げて貰って、すぐに魔物の駆除に戻る。
そして夕方までに更に八回の戦闘を行い。
多くの魔物を駆除して、皮やら肉やらを、アトリエに運び込んだ。
二度大物と交戦して、かなり手傷も受けたが。いずれもが、このあたりでは名前を知られている魔物だった。
厄介な相手だったが。
方向性も見えてきた。
一度アトリエに戻り、コンテナに荷物をつめながら軽く話をしておく。
「この辺りの魔物って、人間を殺戮する事よりもひょっとして森を守護することを優先している?」
「そういえば、そう見えるな。 ただ人間は生活するだけで森を開き海を荒らす。 魔物とは結局相容れないのだろうが」
クリフォードさんがぼやく。
セリさんは、それに対して少しだけ考えてから付け加えた。
「今の人間の生活方法では森との共存は厳しいわね。 そもそもとして数が多すぎる」
「こんなに減ってもですか?」
「そう。 元々数を集めて生活するのが基本なのよ人間は」
その後何か言おうとして。
セリさんは黙り込む。
オーレン族くらい個体が強ければ、それはオーレン族のように人間は森と共存する事は出来ただろう。
だが一部の強靭な個体以外は基本的に脆弱なのだ人間は。
それに脆弱な個体を生かしてきたからこそ。
あれ。
そういえば、脆弱な個体の得意分野を生かして社会を上手く回してきた人間が。それがまた、妙な事に陥ったものだな。
神代の錬金術師の理屈は、それを真っ向否定するものだ。
それでありながら、オーレン族の行き方ともまた違う。どうしてなのか。
個としての最強は何をしてもいいと考えたからか。いや、それも違うような気がする。錬金術師も神代には集団になっていた筈だ。流石にあの扉や宮殿、何より群島。一人の錬金術師が作ったとは考えにくい。
空を浮かぶ島なんてものまで神代にはあった。それが落ちた遺跡も見た。
それだって、一人で作るのには無理がありすぎる。
何故に、神代の錬金術師はそんな愚かしい考えに陥った。それを知らないと、奴らと接するのには早いのか。
「ライザ姉、どうしたんだ」
「いや、なんでもない。 弱き者の盾になるのがあたしたち戦える者のやることだよ。 さ、明日も魔物を狩ろう。 いずれまた強い魔物が出てくるだろうけれども、ある程度地元の戦士達も対応できる段階まで魔物を減らしたら、今度は北の集落に向かわないとね」
「弱き者の盾か。 ライザ姉はやっぱりすげえな。 俺はどうしても、そんな風に断言は出来ない」
「誰だってそうだ。 自分は強いとか思い込むと特にな」
レントがそう言う。
まあ、レントはザムエルさんの件で色々あったし、言葉の重みも違うか。
ともかく、周辺の魔物を狩っていく。
全ては、それからだ。