暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
弱々しい男が、つれて行かれる。別に武力だけが指導者の資質ではないだろう。だが、パティから見て。あの男が指導者に向いているとも思えなかったし。
よく貴族などを正当化する人間が口にする「金持ちは優秀」だの、「優秀な教育を受けているから優秀になる」だのの理屈が、一つも生かされているとは。あの無気力な様子からは、とても思えなかった。
元々、王都なんて大した規模ではないのだ。
神代の話は聞いている。タオさんから、幾つも話を聞いて来た。
今の何十倍も人間がいた時代。
その頃には今の王都アスラアムバートなんて地方の都市に過ぎず、当時の王都には何百万、もっと多くの人がいたのだとか。
国全体では人間の数は十億を超えていたとかいう話で。
しかも、それでも古代クリント王国の頃にはかなり神代よりも減っていた、ということだ。
神代の頃栄えていた街の辺りは汚染物質塗れで、魚も住まない川や何も生えない荒野が拡がっていて。
おぞましいまでに歪んだ生物が多数住み着いている。それはもう、魔物とすら呼べないような、何か哀れな存在だという。
そういった時代を夢見るのは、人間の性かも知れないが。
パティはそうはなりたくなかった。
王はつれて行かれた。
これから屋敷の一つに移り、そこで蟄居することになる。
王をつれて行ったのは、アーベルハイムのメイド長の同族達。
役に立たない王の代わりに、ずっと彼女らの一族が政務を実質上執っていた。ただしその政務は、現状維持が主な目的だった。
百年前の錬金術師集団の暴走の際にも、実際に錬金術師達を粛正したのは彼女らである可能性が高いようだが。
それについて、パティはどうこうというつもりはない。
王都みたいな孤立した都市が、ずっとやれていけているのは彼女らのおかげだ。
ライザさんがあらかた問題を片付けてくれたが、それは五百年で溜まりに溜まった膿である。
そして、今。
最後の膿が、玉座を去った。
しばらく玉座は空にするという。
お父様が直接其処に座るのでは、反感も買う。しばらくは、政務の安定に力を注ぐそうである。
子供はパティがいる。
だが、パティとしては。自分が王になるよりも。
立憲君主制をそうそうに進めて。王がいなくても政務が廻る国に、していきたいと思っていた。
お父様が来る。
子飼いの戦士を左右に連れていた。
出来ればクリフォードさんやセリさんもいてくれれば心強かったのだけれども。まああの人達がいなくても大丈夫ではある。
「お父様」
「ほぼ無血で終わったな。 王都の人的資源は限られている。 最悪の場合、市街戦と言うのもあり得たのだが」
「それがなかったのは幸いです。 華々しい武勲などよりも、皆の生活が踏みにじられない事だけが大事です」
そう胸に手を当てて言う。
それは、ライザさんと一緒に、去年の激闘を制したパティの偽りのない本音だ。嘘ではない。
パティにとって、あの戦いは、本当に得がたいものだった。
酷い目にもあったけれど、それはそれとして。この世の底を見てきたし。世界の隣にある邪悪と。その邪悪の犠牲者も見てきた。
最悪の状態に人間が墜ちると。
どのようになるかも、しっかり把握した。
それだけで、充分過ぎる程だった。
お父様はマントを羽織るが、ただそれだけだ。
元帥杖なんてものをもつケースもあるらしいが、アーミーが存在していた頃の習慣だそうで。
そんなものがとても組織できなくなった今。
全く意味がない習慣になっていた。
「ライザ君の話は聞いている。 また……例の危険な魔物絡みの案件についているそうだな」
「はい。 二度あれから参加しましたが、私ももう一度行って来たいと思います」
「私ももう子供を新しく作るつもりは無いし養子を取る予定もない。 お前だけが私の子だ。 お前の意思が強い事は既によく分かっているが、頼むから命を無駄に散らしてくれるなよ」
「はっ……」
最敬礼をすると、感謝する。
もう、くだらないしがらみは終わりだ。
まあ、結婚するまではタオさんと何かするつもりもないけれど。
ライザさん達と。タオさんとも。また一緒に冒険できるのは、本当に嬉しい事だ。
それを察して、認めてくれたお父様にも感謝している。
タオさんは、今度の戦いが終わったらしっかり王都に根付いてくれるはず。その時はきちんと結婚したい。
貴族なんて基本的に政略結婚の世界だ。
だからパティのような恋愛結婚なんてものはあまり良く思われないかも知れないが。王都は変わる。
変えるのだ。
アーベルハイムのメイド長が、王都の南口まで送ってくれる。
そこから港に向かって、今はフォウレという里にライザさん達は逗留しているらしい。話に聞いているが、アンペルさんらが捕まっているそうで。しかも門があるという。門から即座にフィルフサが溢れる可能性はあまり高くないそうだが。去年の戦いも含め、三度のフィルフサとの戦いを経験したパティは、油断をするつもりは一切無かった。
門で、しっかり大太刀を確認し。
ライザさんが作ってくれた、正装でもある胸鎧も確認する。
髪の毛は前はツインテールに結っていたが、今はポニーにしている。これは単純に、戦闘で動きやすいからだ。
靴は元々戦闘を想定されるので、ヒールではなくきちんとしたものを履いている。これもライザさんに貰った奴の性能が高すぎて、今では手放せない。馬鹿馬鹿しい社交界だのにでなくて良くなったのが大きいのかも知れないが。
後は、一人で行ける。
これでも、ライザさん達と、フィルフサ相手に戦ったのだ。一度ならず。
「ありがとうございます。 後は一人で行きます」
「念の為に、港で船に乗るまではカーティアがお供します」
「……分かりました。 それではお願いします。 お父様の警護をしっかりお願いいたします。 今、お父様は王都にとってもっとも大事な人です」
「お任せを」
カーティアが来たので、メイド長に敬礼して、後は街道を行く。
ライザさんのように荷車を使うほどの荷物はないが、それでも背負っていくので、それなりに重量はある。
サバイバルの知識があって良かったと思う。
虫はいまだに苦手だけれども。
前みたいに、血の気が引くほどでもなくなっていた。
王都がどんどん後ろになっていく。
カーティアが、少し後ろをついてくる。これは貴人になったパティへの気遣いなのか、それとも。
いずれにしても、今でも実はメイド長の方がパティより強い。三回に一本取れるかどうかだろう。
カーティアも似たような実力だ。
安心して、背中は任せて良い。
「この辺りの魔物は、すっかり大物が出なくなりましたね」
「ええ。 貴方やライザ殿のおかげです」
「あの人は当代の英雄……いえ、超世の英傑です。 今後は、王都でも礼を尽くさないといけませんね」
「王都の民は特に感謝しているようです。 機械類があらかた修理されたのは、本当に良かった」
頷くと、港へ急ぐ。
最高に尊敬している人でもあるが。
やはり戦友でもあるし。
何より、一緒にいて面白いのがライザさんだ。タオさんと会えると言う事もある。気が浮つかないように、気を付けなければならなかった。
(続)
クーデター完了。
ロテスヴァッサ王国は事実上滅びました。
本作ではタオは先に王都で論文関連の用事を終わらせているので、以降は集中してライザの側で対神代に全力集中できます。
パティも婚約者を手伝うため、ライザの目的も敵も知っているため、合流を急ぎます。
既に人間としてはこの世界最強の剣士の一角なのですから。