暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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文字通り人食いの森。土地勘がない人間が入れば生きて帰れないのが本作のネメドの森です。

小細工なしで人を殺せる魔物が無分別に大繁殖し、どこからでもエサを狙って襲ってきます。


人食いの森
序、安全経路をつくれ


信頼を得る、か。

 

正直ここまで状況が悪いと、それどころではないと思う。弱めのフィルフサに匹敵するかも知れない強さの魔物。それがちらほらいるくらいの魔郷だ。此処でこれだと、東の地はいったいどんな場所なのか。

 

あたしは踏み込むと、熱槍五千を束ねた収束熱槍を魔物に放つ。

 

全力で放り込んだ熱槍は、五枚に達するシールドを瞬時に展開した、なんだかよくわからないなんの魔物かもよく分からない相手を貫き、瞬時に焼き尽くす。遅れて、爆発が巻き起こされる。

 

ばらばらと飛び散ってくるそれは、生き物の残骸とは思えなかった。

 

レントがかなり手酷く手傷を受けている。

 

足が八本、背中に多数の棘をもっていたその魔物は。どちらかというと哺乳類に見えたのだが。

 

目は複眼で、口は縦に裂けていて。

 

更に鎌鼬の魔術を使って来たので、手傷が増えたのだ。

 

全員に薬を配る。

 

それで、一旦手当てをする。

 

これで、南の農村への道に出ると言われている大物は全て片付いたか。

 

少しだけ形が残っている死体を調べる。

 

やはり、体内から人間の残骸が出てくる。南の農村は相当にやられていたのだ。エサになったのは、これは戦士だけではないだろう。戦士以外の人間も、相当数が魔物に食われていたのだ。

 

辺境の集落で、こういう状態になると破綻が近い。

 

かといって、こういう集落は幾つも見てきた。

 

破綻してしまった集落も。

 

だから、それについて此処が特に過酷だとは思わなかった。いずれにしても、今切迫している危険を排除できたのならそれでよし。

 

皆の手当てを終える。

 

クリフォードさんが手をかざして、周囲を確認。

 

「多分だが、これでもう大物はいないぜ。 雑魚はまだいるみたいだが、俺たちを警戒してくれているな」

 

「それは結構。 後は定期的に間引けば人間と距離を置くようになるね」

 

「ああ」

 

頷くと、まずは里の人達を呼んできて、取引のために護衛する。

 

漁村まで行くと、かなり人数がいるし、船を経由して物資も入ってきている。農村へ行けなくなっていると漁村の人達も心配していたが。

 

何しろ途中の道がまずい。

 

それについては知識もあったようだが。

 

どうにもできない。というのが現実であったようだ。

 

勿論それを責めるつもりは無い。

 

彼処は強力な魔物のエサ場になっていたし。

 

多少の腕利きを数人集めた程度では、返り討ちが関の山だったのだから。

 

二刻ほど掛けて、農村の人を漁村に送り。

 

物資に取引を、バレンツの人間を介して行う。やはり医療品やミルクなどが足りていないようだった。

 

取引を横目で見ながら、かるく話をしておく。

 

「それでディアン、北の里の方は」

 

「多分だけど北の方はここまで酷くはないぞ。 ただ魔物がやっぱりいて音信不通だし、北の人も困っているのも事実だと思う」

 

「それぞれの集落は、自分の事で手一杯というか、身近な魔物すら排除できていないのが実情か」

 

「ああ、悔しいがそうなる」

 

ディアンも、今の状況を良くは思っていないようである。

 

ただこれは、五百年前からずっとこうで。魔物に人間は押されっぱなしなのは変わっていない。

 

この辺りでは、三年前にかろうじて保たれていた均衡がついに崩れてしまった、という感じであり。

 

このままいけば、いずれあの農村は十数年もしないうちに破滅。

 

漁村やその北の里。

 

それどころかフォウレも、危うかった可能性が高いだろう。

 

そして一度放棄された集落に人が戻るケースはあまり多くない。魔物が縄張りにしてしまう事が多いからだ。

 

そういった魔物を追い払える使い手は限られている。

 

今の人間は、それくらい状況がまずいのである。

 

「しかしすごいな。 デアドラ姉もどうしようもないって認めているくらいに危険な魔物どもだったのに、ライザ姉が来てから次々に倒れていくぞ」

 

「まあ、あれ以上の魔物とやりあってきたからね。 ただあたしも油断したら危ない相手ばかりだけど」

 

「それでもすげえ。 このままこの辺りから魔物を全部排除できないかな」

 

「全部は無理だろうね。 それに……」

 

魔物といっても、その定義は基本的に人間を小細工なしで殺せる存在の事を指す。

 

だから、森の中で普通に生活している生物も、多くが魔物になるし。

 

それらを殺し尽くしたら、森が今度は破綻してしまうだろう。

 

それは人間の勝利と言えるのだろうか。

 

あたしには、そうは思えなかった。

 

取引が終わり、荷車いっぱいの荷物を積み込んだ人を連れて、農村まで戻る。途中で魔物に遭遇したが、雑魚ばかり。全て蹴散らしておしまいだ。まだ舐めて掛かっているようなのは、全て潰しておく。

 

そうすることで、多少は安全になる。

 

無事に農村まで人を送り届けた後、ボオスが村長に話を聞く。

 

やはりスーツだと暑いのだろう。

 

汗をずっと拭いながら、村長はボオスと話していた。

 

「本当に助かった。 いずれ礼はさせて貰います」

 

「その時は期待しています。 それよりも、彼方の平原は大丈夫ですか。 森だけではなく、彼方も危険なのでは」

 

「踏み込むとまず生きて帰れませんが、彼方の魔物は森のと違って村の中に侵入するほどではありませんね。 あの辺りには大きな狼の魔物がいて、縄張りに入らない限りは攻撃されません。 迂闊に縄張りに入ると、気がつかないうちに皆殺しにされてしまいますが……」

 

「なるほど、分かりました。 一旦は其方は保留として、森の方の危険な魔物を排除します」

 

ボオスが話を切り上げて、戻ってくる。

 

危険な魔物はほぼ森由来か。

 

それはそれとして。

 

恐らくその魔物とは、フェンリルか、それに近い奴だろう。

 

いずれにしても厄介極まりないが。

 

いずれ退治しなければならないだろうなと、あたしも思う。

 

ともかく、これで一方向の安全は確保できた。

 

次は、北の集落への通路を確保しなければならない。一度フォウレの里に戻る。フォウレの里の周辺も、決して安全ではないのである。

 

案の場、デアドラさんと複数の戦士が出て、ラプトルの群れと交戦していた。少しデアドラさん達が不利か。

 

デアドラさんはかなり強力な強化魔術の使い手の様子だが、それでも相当に苦戦している。

 

ラプトルが大きいのだ単純に。

 

即座に加勢する。背後から廻られたラプトルの群れは、たちまちにレントとボオスにそれぞれ一体ずつ斬り伏せられ。あたしの熱槍の直撃を受けて数体が火だるまになる。

 

形勢が一気に逆転したのを見て、大きなラプトルが吠える。

 

そうすると、さっと生き残りは逃げ出す。

 

逃げ足は兎に角速くて、とてもではないが追い切れなかった。

 

「ありがとう、助かった」

 

「負傷者を。 すぐに手当をします」

 

「しかしデアドラ種拾い長」

 

「大丈夫だ。 この人の薬の力は、私が実際に体で確認している。 傷が溶けるように消える」

 

戦士達はやっぱりあたしに懐疑的なようだが。

 

すぐに薬を出して、手当てをすると。傷が本当に消えて無くなるのをみて、それで黙り込んでいた。

 

これで、多少は態度を軟化させてくれるといいのだが。

 

アンペルさんはかなりやり口が強引なので、こう言う事は殆どしない。

 

実は、一つ前に閉じた門の時も。

 

現地の人と揉めていたのである。

 

クーケン島に来た時も、やり口が強引だったこともあってつるし上げにあい掛けたし。元々対人関係は苦手なのかも知れなかった。

 

「ほ、本当に傷が治るぞ」

 

「回復魔術が児戯に見える……!」

 

「錬金術師殿、礼を言う。 また負傷者が出た場合には頼む」

 

「分かりました」

 

フォウレの戦士達と合流して、そのままアトリエまで戻る。倒したラプトルはそこで捌いた。

 

大半の肉と皮はフォウレの方に渡す。その代わり爪とか牙はこっちで貰った。

 

そんなもの何に使うんだという顔を戦士達はしていたが。さっきの薬の快復力を見たからだろう。

 

それ以上は何も言わない。

 

戦士達を見送ると、デアドラさんは話を振ってくる。

 

「農村の方に辿りついて、しかも周辺に出る大物をあらかた駆除してくれたそうだな。 礼を言う」

 

「いえ。 それで、今度は北の里への道の安全を確保してしまうつもりです。 その後は、漁村周辺も掃除しておきます」

 

「何から何まですまないな」

 

「此方のためでもあります。 こう魔物が多いと、調査も出来ませんので」

 

頷くデアドラさん。

 

無償奉仕は尊い行為だが、世の中にはそれを理解出来ない存在も多数いる。だから、敢えてこうしてこっちにも利がある事だと言っておく。

 

そうする方が、人間は理解しやすいとあたしは知っているし。

 

デアドラさんも、警戒しないだろう。

 

事実、無償奉仕を装って、大量の金を巻き上げるような詐欺師も存在している。ただより高いものはない、などという言葉が出来る所以だ。

 

これだけ過酷な世界でも、人間は互いに憎しみ傷つけ合う。本当にどうしようもない話である。

 

幾つかデアドラさんに、この近辺の大物について聞いておく。その縄張りについても、である。

 

なんでも村の少し東の辺りに、かなりの数の魔物がたまり場にしている場所があるという事で。

 

それは出来るだけ早めに片付けて欲しいらしい。

 

なるほど、そっちも処理が必要か。

 

それに、村の少し東というと。

 

例の禁足地に行くのに邪魔になる。どちらにしても、処理が必要な相手だ。

 

「東か……苦手なんだよな」

 

「ディアン、詳しく聞かせてくれる?」

 

「おう。 あの辺りは、植物の魔物がいて、とにかくくさいんだよ。 でっかい花があって、それの蜜を好んで吸っているらしくて」

 

「恐らくはマンドレイクの変種ね。 大きな花というのは、これのことかしら」

 

セリさんが、植物魔術で大きな花を出して見せる。

 

というか、ぎょっとするほど大きな花だ。

 

「そ、そう、これだ!」

 

「これはラフレシアといってね。 この臭いで虫を呼び寄せて、花粉などを媒介してもらうのよ」

 

「凄い臭いだな……」

 

「ええ、まあそうね。 ただ臭いというのはそれぞれに意味があるものよ」

 

セリさんがラフレシアを引っ込める。

 

さて、それはそれとして。

 

まずは、順番だ。

 

「北の里を優先する。 皆、休憩が終わったらそっちの経路を安全にするよ」

 

「おう」

 

「私、ちょっと仮眠してきます……」

 

限界らしいフェデリーカがベッドに向かう。

 

ディアンが、舞いには助けられているからか、文句は言わない。

 

ただ、フェデリーカが自分と大して年も変わらない事に気付いているのか。聞いてくる。

 

「フェデリーカさんは、舞いの他には何が出来るんだ」

 

「あの子は戦士と言うよりも本職は職人だよ」

 

「職人か! 色々作れるのか!?」

 

「手先は器用だけど、基本的に細工物だね。 サルドニカって大きな街の、実質上の一番偉い人」

 

へえと、吃驚した様子でディアンがなんども驚く。

 

一番偉い人。

 

年も大して変わらないのに。

 

そう驚いているのがよく分かる。

 

「それは確かにさんをつけて呼ばないとな!」

 

「本当はあたしもそうするべきなんだけれどね。 フェデリーカに、名前で呼んでくださいって言われていてさ」

 

「そうか……」

 

「とりあえず、ディアン。 休憩は問題ないかな」

 

平気だと、元気が有り余っている様子でディアンは言う。

 

この子は戦闘を見ていて分かるが、どんどん成長している。流石に一を見て十を知るという程ではないが。

 

それでも相当な才覚の持ち主だ。

 

戦闘でも少しずつ貢献度が増えてきているし、装飾品の強化込みとは言え、既に単純に倍の戦力は得ていると判断して良いだろう。

 

ただ、レントの方が強化魔術はあたしよりも詳しい。

 

「いいから少し休め。 そのままだと筋肉がずたずたになるぞ」

 

「そうなのか」

 

「俺も強化魔術使いだが、大丈夫だと思っているときに無理をすると、体の方が壊れたりする。 少し横になって休んでおけ。 特に今の年齢で体を壊すと、後で取り返しがつかなくなるぞ」

 

「分かった。 レントさんが言うならそうする」

 

認めた相手にはとても素直、か。

 

この子の良さでもあり悪さでもあるんだな。

 

そう思って、あたしはしばしタオとクリフォードさんと、先に戦略を練っておく。この辺りの魔物はかなり手強い。

 

しっかり慈善に下準備をしておかないと、油断すると一瞬で死ぬ事になるだろう。

 

皆が休憩している間に、地図を見ながらどうするかをああでもないこうでもないと話し。その間にトイレも済ませておく。

 

そして、しっかり休憩をとってから。

 

また安全経路の見回りに向かう。

 

だいぶ、大きな魔物の気配は減ってきたが。それでも小さい魔物はいるし。それもかなり頻繁に仕掛けて来る。

 

縄張りが混乱している弊害だ。

 

大物がいなくなって、そこに浸透してきた小物が。人間を侮ってしかけてきている、と言う事である。

 

前に見たジョージという老蛇は、恐らく状況が見えているのか、ずっと木の上でひなたぼっこしている。

 

血気盛んな小物に仕掛けられ続けても面倒だからだろう。

 

蛇は瞬発力には優れているが持久力は殆どダメなので、一撃必殺の狩りに特化している。しかも相手に近付くときは音もなく、ゆっくり移動する。それは持久力に劣るから、である。

 

年老いている事もあって、あの老蛇はそういう事も分かっていると言うことだ。

 

或いは本能かも知れないが。

 

あたしはそこまで蛇には詳しくないので、ちょっとなんとも判断がつかない。

 

何回か農村への道を行き来して、今日はそれで切り上げる。小さめのラプトルの群れを丸ごと駆除し。

 

更にフォウレの里の近郊もある程度片付けて。

 

食べられる魔物も倒したので、肉は燻製にしてフォウレの里に卸しておく。里の東にある危険地帯についても二度ほど出向いたが、確かにあまり行きたくない場所だ。臭いが酷すぎる。

 

この近辺のマンドレイクは音波攻撃を得意としていないようだが、殺傷力があるところまで圧縮した臭いを炸裂するように放ってくる。場合によっては、金属を切断する程の圧力で、だ。

 

体そのものも大きいので侮れない。

 

何度か掃討作戦をしないとまずいだろう。

 

夕方に、戦いを終えた後。

 

皆が風呂を順番でこなす。水は何度か替えて、その度にあたしが沸かし直した。まあすぐに終わるので、大した手間でもない。あたしの魔力も枯渇するまで酷使したわけでもない。

 

あたし自身も風呂に入って、悪臭を落とす。

 

これは悪臭対策がいるかな。

 

そう風呂で、リラックスしながら考えているのは。もう一種の職業病かも知れなかったが。

 

皆相当に参っているようだったので。

 

いずれにしても対策は必要だ。

 

消臭剤はそれほど作るのが難しく無いのだが。問題は全部臭いを消すと、こっちも奇襲を防ぎにくくなることだ。

 

地の力では、魔物は人間を越えている。

 

だから魔物なのである。

 

今はどんな大物がいるか分からない以上、それは出来るだけ避けたい。

 

そうなると、戦闘後に臭いを消すこと。

 

それにマスクしかないか。

 

マスクはまた作り直すしかない。以前、「北の里」という王都の近くの遺跡で色々とあって作ったが。流石に当時使ったものは此処に持って来ていない。

 

ただ作り直すのは簡単だ。

 

臭いは緩和できるし、それでいい。

 

風呂から上がると、夕食にする。今日は比較的美味しく食べられる猪肉が入った。とはいっても、背中までがあたしの背丈の倍もあるような奴だったけれども。まあ、魔物としては比較的ぬるい方だ。

 

明日の話を、食事をしながら軽くする。

 

明日は朝一に農村まで行って、経路を確認。

 

更には重点的にフォウレの里の東の駆逐作業を実施。その後、余裕があったら北の集落の様子を見に行く。

 

流れは以上だ。

 

話を終えると、ディアンが言う。

 

「ライザ姉、なんだかいつもしっかり動きを決めてから出かけるのか。 それが強さの秘密か?」

 

「いや、その場で状況に応じて対応を変えることも多いよ。 むしろそれを柔軟に出来る事が、強さにつながると思う。 その点では、あたしはまだまだ判断ミスが多いね」

 

「はー。 そうなのか……」

 

「特に自分を強いと思い込んだら絶対にダメだよ。 そう考えていると、絶対に足下をすくわれるからね」

 

分かったと、気持ちいい返事。

 

ディアンについての評判は、既に彼方此方で聞いている。

 

暴れる事しかしらない。

 

乱暴者。

 

そういった内容ばかりだ。

 

だが何となく、それについては分かってきた。ディアンはフォウレの里のあり方に不満なのだ。

 

それについては、あたしも同じだったからよく分かる。

 

ましてやディアンは験者やデアドラさんを尊敬している。尊敬している人が、どうしてこんな理不尽な体制を続けるのかが分からない。だからこそに、余計に暴れるのだろう。

 

今、あたしを尊敬しているディアンは、なんでも説明をされて。それを飲み込むことで、理不尽ではないと感じている可能性が高い。だから気持ちよく返事が出来ると見て良い。

 

恐らく験者やデアドラさんも、ディアンが納得するまで「どうしてそうなのか」を説明するべきだったのだろう。

 

色々と難しいな。そうあたしは思うのだった。

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