暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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本作でのボオスは、戦闘面よりもむしろ調整役として活躍します。

戦闘面でも二刀を用いた戦闘スタイルで奮闘しますが、どうしても個人武勇はレントやパティに劣ってしまうので。

本人も調整が出来る事の強みはしっかり理解しています。


3、一通りの安心のために

漁村にボオスを交渉役で残し、漁村の西側に出る。

 

朝の内に、鉱山の里への道を再確認しておいた。そっちは多分、フォウレまで来る経路くらいは安全だろう。

 

密林の方に踏み込んだらどうなるか分からないが。

 

少なくとも大物が来る気配はない。

 

密林を調査するのはこれからだ。

 

ただでさえフォウレの里は色々と面倒そうだから、念入りに準備をして動かないと危ないのである。

 

漁村を出て西に行くと、なるほどなるほど。

 

魔物がかなりの数闊歩している。

 

漁村の戦士が、危ないから気を付けろと言っていたのも納得出来る。

 

ディアンが手もなく捻られたことは既に知られている様子で。ディアンが子分になっていると言う噂も流れている様子だ。

 

だからこそ、危ないぞというくらいで済ませているわけで。

 

普通だったら死にたいのか馬鹿野郎と怒号が飛んでくるくらいの危険地帯だ。

 

「どうみる?」

 

レントが聞いてくる。

 

あたしは頷くと、手をかざしながら敵戦力を分析。

 

満遍なく強いが、今の時点では大物の気配はないか。

 

ならば片付けてしまおう。

 

ボオスが戻ってくる。

 

この先にある橋は、復旧の目処も立っていない、ということだった。まあそうだろうなと思う。

 

復旧についてはあたしたちの自腹でやる事は、ボオスに先に伝えてある。

 

ボオスも、架橋には何度かつきあわせている。だから、できる事は分かっているし。そのまま伝えたようだった。

 

では、片付けるか。

 

かなりの数だが、消耗しすぎない程度に、少しずつ削って行く。

 

ラプトルの群れを相手にしているとき、横やりを入れてくる他の魔物はいない。ということは、あの槍と翼を持つ奴はこの辺りには出ていないと言う事だ。

 

縄張りの範囲が魔物にはあり。

 

それをおかさない限りは、基本的には複数種類が同時に仕掛けて来る事はない。順番に片付けていき。

 

片付けた後はすぐに捌いて、売れるものは漁村で売ってしまった。

 

ラプトルは皮が。

 

鼬は価値が落ちるが肉。毛皮はそれなりに売れる。

 

ただ鼬の場合、寄生虫避けか泥を浴びているケースがあり、そういうのも落とすのが売り物としての最低条件になるが。

 

無言で魔物を片付けていき。かなりの魔物を処理する。

 

漁村の側に洞窟があり。

 

そこに、大きなサソリが住み着いていたが。普通に仕留められる範囲内だ。毒針のついた尾を振り回してくるが、クラウディアが速射して弾き返し。レントが尾を斬り飛ばす。

 

更に、鋏をセリさんが植物魔術の蔓で押さえ込み。

 

あたしが別に頑丈でもない胴体を蹴りで打ち砕いて。それでおしまい。

 

サソリの甲殻はそれほど硬くもない。

 

これが毒針を持っていない姿がよく似た「カニムシ」等になると、甲殻が硬くて非常に厄介だったりするのだが。

 

毒をもっているサソリの方が実は大きくなってくると与しやすいというのは。色々と面白い話だ。

 

ただサソリは一匹ではなく、何匹も出てくる。

 

そしてサソリは魔術は使えるが、残念ながらあまり頭も良くない。

 

毒をもっているというのはそれだけの大きなアドバンテージで、他の魔物もそれを知っているからサソリとの戦闘は避けたがる。

 

それを利用して、此処を巣穴にして、繁殖していたというわけだ。

 

勿論旅人が襲われればひとたまりもない。

 

相手の気配を察知できるような旅人ばかりではないし。護衛を雇える商人ばかりでもない。

 

雇った護衛が、魔物より強いわけでもない。

 

そういうものなのだ。

 

洞窟を抜ける。

 

まだまだ魔物がいる。

 

あたし達が姿を見せると、首を伸ばして警戒したのは、大きめの鹿だ。鹿は草食だが、草食でも人間に対して強い敵意を見せる魔物は多い。

 

鹿は殆どの場合家畜化が出来ずにいるが。

 

それは性格などに問題があったりと、色々とある。

 

今見えている鹿の群れは、かなり大きくて。多分人間の十倍以上は体重があるだろう。あれで人間に敵意剥き出しとなると。

 

充分な脅威になる。

 

一度離れる。

 

縄張りに踏み込まなければ仕掛けてこないはずだ。ディアンが不思議そうに聞いてくる。

 

「ライザ姉、どうしてしかけないんだ?」

 

「洞窟の漁村側の安全を確保することに注力する。 あれは明日以降かな」

 

「なんだよ。 戦いたい」

 

「我慢我慢。 どうせ明日には嫌でも戦う事になるんだから」

 

「そっか!」

 

嬉しそうだな。

 

まあそれはそれでいい。

 

鹿肉はかなり高く売れる。相手も人間を見て距離を取るのでは無く、積極的に仕掛けて殺しに来るのなら。

 

その場で仕留めるだけだ。

 

悪いが距離を取って共存ができるならそうするが。そうできないのなら排除するしかない。

 

この世界で、人間は。

 

そうしないと、そもそも滅んでしまうのだから。

 

漁村側で、魔物を駆逐して回る。やはりまだまだいる。

 

大きな蝙蝠が飛び交っている。

 

あれは病気を媒介するから、噛まれたりすると危険だ。勿論人間を見て襲ってくるようなら仕留める。

 

そして襲ってきたので。容赦なく叩き落として。

 

後は魔力が強く篭もっている翼だけ切りおとして、焼いてしまった。

 

病気を多数持っている蝙蝠の肉は、食べるにはリスクが大きすぎるのである。

 

 

 

二日掛けて、漁村周辺の魔物を始末する。

 

鹿は案の場近付いた瞬間襲ってきたので、残念だが群れごと駆逐した。魔術を足に集めて、凄まじい勢いで突貫してくる強力な魔物だったが。今のこの面子だったら、倒すのにそれほど危険はない。

 

油断さえしなければ、だ。

 

突進を受け止めようとしたディアンが吹っ飛ばされて。慢心ダメ絶対と結構強めに叱ったが。

 

ちゃんと以降は慢心しなくなったので、そこを褒める。

 

ディアンはちゃんと話は聞くので、それでこういう失敗をしなくなるのだったら安いものだ。

 

あの突進、ディアンに防御強化の魔術が篭もった装飾品を渡しておかなかったら、致命傷になった可能性が高い。

 

鹿の角は飾りじゃない。

 

人間の体なんて、特にさっき交戦した鹿くらいになってくると。簡単に貫いてしまうのだから。

 

鹿肉は、漁村で売ってしまう。

 

かなりの高値で売れた。鹿の皮も。

 

内臓の一部も売れたが、生で食べるのは絶対にダメだ。どんな寄生虫がいるか知れたものではない。

 

捌いている間も、蛇くらいある寄生虫が内臓から出て来て、フェデリーカが卒倒しかけたほどで。

 

大きいのでもそれなのだ。

 

小さい寄生虫は、それこそわんさかいるのが現実なのである。

 

それで、橋に到達した。

 

既に破壊されて落ちてしまっているが、これは恐らく魔物の手によるものだ。風雨による劣化ではない。

 

基礎部分を、タオとクリフォードさんが調べる。

 

橋は落ちているが、基礎部分は無事だ。

 

「様式はこれは神代のものだな。 やはり錬金術関係か?」

 

「僕はそう思います。 見てください、この辺りの石材の組み合わせが……」

 

「おっと、みろこの模様。 ええとだな……あった。 これだ」

 

「おっ。 流石ですねクリフォードさん。 ええと何々……」

 

楽しそうな二人。

 

レントが側で護衛し、クラウディアが音魔術で最大警戒。どこから魔物が来るか、知れたものではないからだ。

 

その間にセリさんが、植物魔術を使って、足場を組み。

 

更に水中からの奇襲を防ぐべく、硬度が高い植物を張り巡らせて、結界を展開してくれる。

 

あたし自身は近くを見て周り、川の中から奇襲してくる魔物に備える。

 

川そのものは、橋が架かっている地点からかなり下にある。

 

手をかざして遠くを見ると、美しい湖があって、水がきらきらと輝いている。湖の中央にある島には、何かしらの遺跡もあるのが見えていた。

 

「ディアン、この辺りはもう禁足地?」

 

「いや、この辺りは確かデアドラ姉も何も言わないはずだ。 こっから北に行くと、誰も住まなくなった村みたいなのがあって。 そこにはよく分からない道具がたくさん落ちているんだ。 その辺りくらいから禁足地だかって入ってはいけない場所扱いだな。 もっと小さいときに、その近くまで行ったことはある。 でも、魔物が一気に元気になってからは、もう行っていない」

 

「……調べる価値はありそうだね」

 

「ああ」

 

ボオスがぼやく。

 

フェデリーカには、新しく覚えた舞いを試して貰っている。集中力を上げるためのものだ。

 

元々フェデリーカの舞いは神降ろし。

 

それによって、様々な神を降ろす。この間の冬操作も、そういった神の一柱であるのだとか。

 

今やっているのは、学問の神様の神降ろし。

 

それによって集中力を高めるのだそうである。

 

どこまで本当かは知らないが、ともかく効果はある。舞いの魔術に、そういう理由付けをしているだけの可能性もある。

 

魔術に自分ルールを組み込むことで、火力を上げたり性能を上げたりする魔術師は良くいるのだ。

 

よくあるパターンが、使うと寿命が縮む術とか。一日に何回までしか使えないとか。

 

フェデリーカの場合は、神降ろしの設定が大事なのだろう。

 

タオとクリフォードさんがホクホク顔で戻ってくる。

 

そして、軽く打ち合わせをした後、橋の修復に掛かる。

 

足場はあるので、落ちても即死とはいかないだろう。順番に橋桁を渡して、更に橋の石材を組み合わせていく。

 

あたしも釜を今回は持って来ているので、その場で調合。

 

幸いこの辺りでは、もう危険は考えなくていい。

 

遠くではかなりばかでかい何かが飛んでいるようだけれども、あれが鳥にしてもワイバーンにしても、此処に危険はないとみて良いだろう。

 

石材を加工して、運んで組み合わせて貰う。

 

基礎からやらなくていいので、むしろ楽だ。

 

橋を順番に組み立てて行き、そして床をしっかり固める。元々の構造だけでもいけるのだが。其処に建築用接着剤と、あたしが組んだ合金もあわせて、がっつりと固めておく。もう架橋は何度も皆こなしている。

 

ディアンには、最初は見稽古だと告げてあるので、じっと皆の動きを見ている。

 

今度はフェデリーカには、いつもの戦闘時の舞いを待って貰う。皆の力を引き上げるものだ。

 

それで更に、架橋はスムーズに行う事が出来た。

 

一刻ほどで橋が完成。

 

若干アーチが掛かった、綺麗な橋だ。手すりもしっかりつけて、簡単には落ちないようにしてある。

 

神代のものとはちょっと違うが。基礎部分の色などとは出来るだけあわせておいた。模様がない橋だが、アーチの曲線は相応に美しく仕上がったと我ながら思う。

 

「どう、クラウディア。 綺麗に出来た?」

 

「橋の造詣は綺麗だよ。 ただちょっと無骨かな。 私はもう少し白くて華奢な方が好きだけれども、街中の橋ではないから仕方が無いかな」

 

「そうだね。 魔物が上に乗っても落ちないようにしたから、まあこれでいいのだと思う」

 

「後は強度だな」

 

レントの声に、頷く。

 

ディアンに、橋の其処を抜いてみろと、けしかける。

 

うきうきの様子で出向いたディアンが、思い切り跳躍してから、斧をフルスイング。

 

がつんと弾き返されていた。

 

「うおっ! すげえ!」

 

「もう加減の方も大丈夫だね。 今の、加減をきちんと出来ていないと、腕の骨を折ってたよ」

 

「分かってる! しっかし本当にライザ姉はすげえな! なんどもなんども思う!」

 

「ありがとう」

 

苦笑いしながら、ディアンを戻す。

 

橋の床を確認するが、傷一つなし、と。

 

実は橋の石材に強化魔術が掛かっているので、橋そのものの強度が上がっている。周囲の魔力を吸い上げて、橋の自動修復も少しずつ行われるようになっている。

 

それだけ強力な橋だ。

 

まあ、壊れる事もないだろう。

 

そのまま、もう少し進む。

 

魔物も、橋が出来て仰天したのか。昨日まで、この辺りの魔物が散々駆逐されたのを見ていたのか。

 

距離を取って逃げるものもいる。

 

かなり大きなラプトルが、のしのしと出てくる。手下らしいのも引き連れて。

 

これを片付けて今日は終わりかな。

 

そう思って、あたしは号令を掛けていた。

 

 

 

漁村周辺の魔物を掃討するまで、更に二日。

 

その間、鉱山の街と、農村への街道も、何度も往復して、魔物が増えていないことは確認した。

 

農村に嫁いだ人は、上手くやれているようである。

 

血が濃くなって困っているのは、農村の方も同じであったらしく。余所から来た人間は歓迎する風潮があるようだ。

 

これは確かに、体がおかしい子供が増えてくれば、自然にそうなるだろう。

 

ともかく今まであたし達が片付けた魔物が。それだけ辺りを乱していたこと。そしてこれは世界中で起きている事。

 

どっちも事実。

 

どうにかなんとか共存出来るところまでもっていきたいのだけれども。

 

その日は遠そうである。

 

フォウレに戻る。

 

里で、回収してきた鹿皮や角などを納品しておく。橋を作ったという話を聞いてデアドラさんは眉をひそめたが。

 

ディアンがすぐにつれて行って。

 

デアドラさんは、無言で戻って来た。

 

「ライザ殿。 その錬金術でできない事はないのか」

 

「死人を生き返らせることは無理ですね。 摂理を超えてしまっている病人を助けるのも無理でしょうね」

 

「そうか……」

 

「建築はあたしの得意分野ですので、だいたいは出来ますよ。 ただ……」

 

竜風というのが近いとして。

 

その破壊の威力がどれくらいか分からない。

 

だから、やっていない事。

 

見ていないこと。

 

これらについては、対応できるかどうかは分からない、とだけはしっかり言っておく。

 

あたしも何もかもやってみないと分からないのだ。

 

デアドラさんは少し考え込んでから、後で仕事を頼むといって、験者屋敷に戻っていった。

 

ディアンは子供達を集めて、あたし達の戦いぶりを話しているらしい。

 

子供達も、里の近くにまで来ている強大な魔物には恐れを成していたから。それをばっさばっさと撃ち倒したあたし達には、相応に感謝をしていたようだ。

 

具体的にどう倒したのかを聞くと、喜んでいた。

 

それはそうだ。

 

子供達にとって、魔物は時に親兄弟の仇であり、絶対悪だ。

 

それが倒されたというのなら、嬉しいに決まっている。

 

あたしもそれを止めるつもりは無い。

 

さて、そろそろか。

 

クラウディアに頷く。クラウディアも、声を落とした。アトリエに歩きながら、音魔術で周囲に音が漏れないようにして話す。

 

「験者屋敷を念入りに音魔術で調べたけれど、多分変な機具はないと思う。 デアドラさんらの手練れが警戒しているんだろうね。 その警戒も、だいぶ緩んでいるとみて良いと思うよ」

 

「……後一手かな。 戦士達が里をある程度離れる状況を作りたいけれど……」

 

「それなら考えがあるかな」

 

アトリエで、クラウディアの話を聞く。

 

ちょっと悪辣で、苦笑いしてしまう。

 

勿論誰かが死ぬような事にはならない。それについては、責任を持つ。

 

ただ、アンペルさん達と軽く話せる時間は限られているし。ディアンとあたしが、短時間だけだろうが。

 

「よし、頼もうかな」

 

「ただ、デアドラさんはまだ信じていないよあれは。 もうちょっと色々と仕事をこなさないと、絶対に見つかると思うね」

 

「……そうだね。 あの人、アガーテ姉さんと殆ど変わらない手練れだ」

 

「うん、強いね。 バレンツで雇いたいくらいだよ。 フォウレの中核の戦士だろうし、それも無理だけどね」

 

さて、此処からだ。

 

しばしして、皆がアトリエに戻ってくる。

 

そのタイミングで、デアドラさんがアトリエに来た。恐らく正式なものだろう。書状をもっていた。

 

それなりに良い紙だ。

 

機具で作れるのかも知れない。

 

「一つグレードが上の仕事を頼みたい」

 

「分かりました。 確認させていただいてもよろしいですか?」

 

「ああ。 見てくれ」

 

「どれ……」

 

内容について、だ。

 

まず、竜風が起きるのは恐らく十年以内である事が。様々な兆候から分かってきているという内容が、つらつらと記されている。

 

若干回りくどいが。

 

この辺りを巻き込む危険な災厄だ。

 

通りすがりのあたし達にも、警告する意味があるのだろう。竜風については、周囲の集落にも共有しているようだし。

 

更にそれで、やはり住居を強化するのに、木材が足りていないという。

 

この辺りの密林にある木々は、どれも木材としてはあまりいいものではない。水が多すぎるし、強度が足りていないのである。

 

本来は漁村の辺りから木材を仕入れて、それで使うほどだそうだ。

 

潮風に晒されている木々の方が、強いくらいなので。

 

ただ、例外があるという。

 

あたしが橋に強化魔術を掛けたように。媒体として使い、魔法陣を刻んで家の強度を強化出来る素材。

 

それが、森の中にある。

 

フォウレの里で、神体として崇めている木だそうだ。

 

この木は勿論壊していいものではなく、周囲に落ちている枝などを集めてくるそうなのだが。

 

今は、そこまで行く術がない。

 

密林の中は危険な魔物だらけで。

 

ディアンがいう種拾いですら、行く事を今は禁じられているとか。

 

「つまり、密林の中で、その木に行くまでの道を確保して欲しい、ということですね」

 

「回りくどくてすまないな。 フォウレだけではなく、周辺の街まで魔物の脅威から解放してくれたライザ殿だから頼める。 それに……」

 

「それに?」

 

「この神体への道は、我等の聖地への道を開くために必要でもある。 恥ずかしい話だが、魔物が多すぎて、種拾いに出向く聖地にすら近づけないのだ」

 

ああ、それでか。

 

動いていない機具があると思ったら。

 

種という、植物の種とは違う動力を使うと言う話はディアンからも聞いていたのだけれども。

 

それすらが足りず、動かせずにいるというわけだ。

 

その種についても調べたいのだけれども。

 

ちょっとそれには、下準備が色々といるか。

 

種の現物を見せろといっても、デアドラさんは警戒を解くどころか強めるだけだろうし。

 

アンペルさんの救出が遠のくだけだ。

 

それに、アンペルさんとリラさんを助ければそれでいいというものでもない。

 

別に邪教を崇めているわけでもないこの里を放置して去るわけにもいかない。

 

近くには門もある。

 

どうどうと功績を重ねて、ぐうの音も出ない程にフォウレの里にあたし達を認めさせた上で。

 

アンペルさんとリラさんを、解放して貰う。

 

それくらいの気持ちでいないと、今後この世界を変える事はできないだろう。

 

「分かりました。 明日から、密林内部での魔物掃討作戦に取りかかります」

 

「極めて危険な場所だ。 気を付けてくれ。 昔は私と同じくらいの使い手が何人もいて、それでどうにか聖地までの道は確保できていたのだがな。 それもあの巨大なマンドレイクや、他にも強力な魔物が多くでて、少しずつ倒れていってな。 今では私のような経験も浅い若造が村の種拾いの長という有様だ」

 

「……どうにかします」

 

頼むといって、デアドラさんは出ていく。

 

やはり、色々背負っている人だ。

 

両肩の重荷を下ろせるのは、多分かなり先だろうなと思う。ディアンが愚痴る。

 

「マジの話をすると、ライザ姉にもらった道具類を外して、あの舞いもなかったら、デアドラ姉は今の俺より強いんだ。 それなのに、あんなにいつも凹んでる。 里を守るのが精一杯だってのは分かるけど、だからこそ悔しいんだ」

 

「それで、アンペルさんやリラさんに興味を持ったの?」

 

「ああ。 ライザ姉と同じくらい凄いと思った。 リラ姉の強さは、俺なんか足下にも及ばないのが分かったからな! だけど、二人はどうして抵抗もせずに捕まったんだろう……」

 

「二人はね、色々世界中でやることをやってきたんだよ。 時期が来たら話す」

 

頷くディアン。

 

ともかく、明日からは更に危険な魔物とやりあうことになる。

 

この周辺の集落の安全は確保できた。

 

ならば、守りは終わりだ。

 

攻めの時間である。

 

それと、もう一つ。

 

クラウディアが、今、農村とフォウレで幾つかの約束を取り付ける、大きめの取引の仲介をする話を進めてくれている。

 

さっき話したのはそれについてだ。

 

フォウレは密林の中という事もあって、作物については余所から入手しないとコストが嵩んで仕方が無い。

 

今までは漁村から入手していたらしいのだが。作物があまり取れないのはそっちも同じである。漁村の人だって作物は食べるので、割高になってしまう。

 

果実などはあるのだが、それだけでは体を壊す。栄養のバランスが明らかに壊れるからである。

 

そこで農村との交流が回復した今。

 

漁村もそうだが。後は鉱山の里も含めて。緊密な連携が必要になってくるわけだ。

 

農村については、平原の方に進出したいと考えているようだが。現時点では戦士の手が足りず、畑すら荒らされる事が頻発している有様であるというのは、あたしも実際に見て確認してきた。

 

つまり、この取引には、フォウレの験者を含めた、偉いさんが殆ど出るとみて良い。

 

アンペルさんと接触するのは、それが好機だ。

 

ただ、それもあたしが信頼出来る存在だとフォウレにもっと認識させないと、まだまだ失敗する可能性がある。

 

この辺りの人々と対立して、無駄な戦闘をするのは避けたい。

 

もし最悪の事態になったら、後悔しても後悔しきれない。

 

戦えば勝つ自信はあるが。

 

別に殺さなければならないような人々でもない。

 

人間を平気な顔で殺して時には食う事すらある匪賊でもなんでもないのだから。

 

「皆、聞いて。 そろそろアンペルさん達と接触するチャンスが来る」

 

「!」

 

全員が緊張する。

 

それはそうだ。

 

フォウレの里の人達と、最悪敵対する事になるのだから。ただ、あたしは基本的に最大限穏便に事を済ませるつもりだが。

 

農村との取引の話。

 

その際、あたし達のほぼ全員がそっちに出向く事も告げる。

 

ただ、これをやる前に、フォウレの里の人間を、可能な限り信頼させなければならないし。

 

何より験者を含む主要な面子が、農村に出かける好機をつくらないといけないだろう。

 

それについては、あたしもしっかり考えている。

 

勿論あたしが農村に来て欲しいと頼まれる可能性もあり。

 

その場合は、あたしの代理を誰かに頼む事になる。その時は、適任はタオだろうと判断する。

 

タオも、それを聞いて分かったと頷く。

 

ともかく、これからが正念場だ。

 

「今までの情報を総合する限り、密林の中には、あのサルドニカで交戦したフェンリルがいる可能性がある。 あれよりも強いかも知れない」

 

「ちょっとあいつは洒落にならなかったな……」

 

「とにかく、気を付けて。 皆、気を抜かないで。 もう少しというタイミングが一番危ないからね……」

 

ディアンとフェデリーカを除いて、皆歴戦の戦士だ。

 

だから、油断することはないとは思う。

 

だが、あたしも皆を無為に死なせる訳にはいかない。それだけのものを背負っているということだ。

 

故に、徹底的に注意を促す。

 

皆のリーダーシップは、あたしが取っているのだから。

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