暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
クーケン島近郊に突如出現した群島。それはある意味必然の存在ではありました。
ライザは調査を開始します。
一年前より成長した自身の技を生かし。同じく成長している仲間とともに。
序、橋頭堡確保
もう人間相手なら、あたし達の敵じゃない。
あたしは、別に驕りではなく。客観的にそう認識していた。
達人級の相手が束になって襲ってきたらそれはそれで問題だが、そういう事態はまず起きない。
対人戦の達人は今の時代いない。アンペルさんの話によると、百年前には存在していたらしいのだが。
それもいつの間にか、いなくなってしまったそうだし。
魔物の群れに一斉に秩序だって襲いかかられると面倒だが。
それもフィルフサみたいな真社会性生物でもない限りは、大丈夫だ。例えばラプトルなんかはかなり連携した狩りをするが。
それも群れが大きくなっても、精々数十匹である。
問題は、明らかにそれ以上の数の魔物が。組織だって襲ってきた場合。
だから、整然と陣を組んでいる魔物を見て。
レントがひゅうと口笛を吹いていた。
「流石にライザとアガーテ姉さんが不覚を取るのも納得だな。 この辺りの魔物が、全部集まっているんじゃないか」
「というわけで、前衛よろしくねえ」
「それで、例の翼持つ魔物というのは」
「姿が見えないね。 或いはこっちの戦力が充実したと判断したのかも知れない」
ま、どうでもいい。
この間とは此方の戦力が桁違いだ。この程度の数だったら、今回は問題にならない。
ともかく、蹴散らすだけだ。
レントとタオ、クリフォードさんが前衛に出る。セリさんが詠唱を開始。あたしも、大火力制圧用の魔術の詠唱を開始する。
去年はグランシャリオと名付けていた最大奥義だが。
それについては、改良を重ねて更に殺傷力を上げた。
一年で出来る事は全部やっていたのだ。
ただ、ここではまだ使う必要もないだろう。
魔力量はあれから増えていない。
だから、空に出現する熱槍は、およそ二万。
ただ、身に付けた錬金術の装飾品による強化の倍率は上がっている。
だから同時展開出来る熱槍の数は同じでも。
連射がきくようにはなっていた。
魔物が、突貫してくる。
文字通り地鳴りがするような勢いだ。
それに対して、クラウディアが多数の矢を一斉に射掛ける。
音魔術で出現させる分身の数は更に増えていて。文字通り射手の集団が、周囲に出現し。それらが多数の矢を正確無比に射掛ける。
魔物がそれを突破しようと襲いかかってくるが。
豪腕でレントが振るった大剣が、まとめて前衛を赤い霧に変え。
タオが突撃して、機動力で掻き回す。
クリフォードさんが右に左にブーメランで殴りつけ、魔物を吹っ飛ばして、詠唱の時間を稼ぐ。
先に詠唱を終えたのは、セリさんだった。
地面から噴き出した無数の蔓が、魔物に襲いかかる。
それらは、口を開くと、魔物にかぶりついていた。
食虫植物か。
それとも、肉食性の植物を従えたのか。
恐るべき地面からの強襲に、魔物達が流石に困惑する中。
レントが大上段から一撃を叩き込み。一団の中で特に大きかったラプトルを、真っ向から唐竹にたたき割る。
タオの剣術は充分に冴えていて。
これならもう、学者として廃業しても、トレジャーハンターとしても傭兵としてもやっていけそうである。
選択肢がたくさんあればあるほどいい。
そう思いながら、あたしは叫ぶ。
「行くよ大きいの!」
「さがれ! 巻き込まれるぞ!」
「今日の天気は……晴れのち隕石!」
わっと、空から降り注ぐ、隕石ならぬ熱槍の雨。
それぞれが、石造りの家屋複数を瞬時に溶かし尽くす程の火力を有している。
空に向けて防御を展開する魔物もいる。
本当に組織だって動いているな。
呆れるが。
だが、そんなもので、あたしの大火力制圧魔術を破れるか。
これは奥義ですらない。
ともかく、一撃が広域を瞬時に火の海に変える。直撃した魔物は火だるまになったり、炭クズになったり。
そうでない魔物は、甲高い悲鳴を上げながら、転がり回っていた。
掃討戦に移行。
あたしは熱槍で辺りの魔物を駆逐しながら、指示を飛ばす。完全に隊列を崩した魔物が、それぞれ逃げ散り始める。
どうも洗脳されていたように見える。
強烈な恐怖に曝されると、洗脳も解けるのだろう。
まあ、この辺りに集まった魔物を、まとめて駆除しておくには良い機会だ。
背中を徹底的に撃つ。
クラウディアも、それは同じ考えのようで。
多数の分身体とともに容赦なく矢で逃げる魔物の背中を撃ち。とにかく徹底的に蹴散らすのに終始した。
二刻ほどで戦闘は終わった。
見渡す限り、黒焦げになった魔物、死体になった魔物の山である。
ただ、深追いは避けた。この辺りはまだ地形がよく分かっていないからである。
結果として、浅瀬に逃げ込んだ魔物や、散り散りに逃げた魔物は、殺しきれなかった。これだけの数を、周辺から引っ張り出して片付けられたのは可とするべきだが。まあ、八分勝ちというところか。それで充分である。
何より、大きいのはいたにはいたが、皆で総出で掛からなければならないような大物は存在しなかった。随伴戦力を削った、くらいに考えておくべきだろう。
すぐに解体を開始。
大きいのから順番に捌いて、内臓や皮の中でも無事なものは取っておく。肉は即座に片っ端から燻製にして。
後から来た護り手に、ピストン輸送して貰った。
今回損害を出した商人達に半分ほどはくれてやるのだ。
こっちとしては別に対して困ってもいない。
今後、商人との良い関係を作る為に必要な投資になるのなら、これくらいはやすいものである。
何より、凄まじい数の魔物がいると、実際に分かりやすく示せるだろう。
これで、バカをする連中もいなくなる。
手分けして魔物の残骸を処理して周り。
それで、一旦今日は引き上げる。
レントはクーケン島で宿を取っているとかで、其方に止まるそうだ。そもそもアーベルハイムから結構お給金を貰っているので、それで問題ないだろう。
クリフォードさんも同じ宿に泊まるとか。
クラウディアはバレンツ支部になった、あの屋敷でしばらくは生活するらしい。
タオは実家でしばらくは寝泊まりするとか。これはそもそも、本の整理が必要だから、である。
結果、アトリエにはあたしとセリさんだけになる。
セリさんは、アトリエに入るとフードを取り。そして、あたしが今まで集めた本を読み始めていた。
「セリさん、此方の世界の本に興味が出て来たんですか?」
「たまに読むようになりはじめただけよ。 それなりに金はあるし」
「ふむ?」
「クリフォードに誘われて、アーベルハイムの警備の仕事に協力するようになりはじめたの。 それで金を貰うようになった。 それだけよ」
そうなると、多分パティ辺りの進言か。
いずれにしても、無言で本を読んでいるので、邪魔はしてはまずいと思って声は掛けない。あたしはその間に、ちまちまと調査をしていく。
今、調査をしているのは。
錬金術での生物発生についての仕組みだ。
タオに送って貰った資料によると、これはホムンクルスと呼ばれる技術であったらしい。ホムンクルスについては聞いたことが以前もあったのだが。資料によって具体的に内容を知ったのは大きいと言える。
古くは魔術の延長線上……いやもはや呪術に近い代物であったそうで。
不衛生なナマモノを使って作り出す事が出来るという思想だったようだが。
実際に神代の錬金術師は、人間の要素だけを分解し。
それを組み合わせて作っていたそうだ。
ただ、決定的な欠点が生じていたようで。
どうしても完成型には至らなかったようだが。
あたしとしても、同じ欠点で命をなくしたくはない。
それで今、生物の要素の調査をしている。
今までもナマモノを釜のエーテルに突っ込んで、要素ごとに分解したことは何度でもある。
薬などを作る時が顕著だ。
今やっているのは、その要素の更なる細分化である。
今まで以上に、エーテルに対する精密な操作と。
空間把握が必要になってくる。
ただ、集中しすぎると、周囲の声が聞こえなくなる。
そういうときは、フィーがあたしに促して。
それで正気に戻してくれる。
それが最近の、常になっていた。
ふむ。
あたしは自分の髪の毛を今、エーテル内で分析しているのだが。どうも生物というのは、極限まで細分化すると、同じようなもので出来ているようなのである。
もっと更に細分化すると違っているようなのだが。
ともかく、ユニット化したものを組み合わせているのが生物。
そういう印象を受ける。
ただ、それもまだなんとも。自分で分析した結果である。或いは、何かしらの専門器具でも使うべきなのだろうか。
「セリさん」
「何かしら」
「御髪を一本いただけますか?」
「……」
セリさんは何をするつもりだと視線を向けてきたが。
あたしは、錬金術での調査について必要だと説明。
嘆息すると、セリさんは髪の毛を一本くれる。
オーレン族の人達は、殆どが美しいプラチナブロンドだ。ただ、例外も当然いる。
グリムドルや王都近郊からいける異界で見たオーレン族の人達の中には、金髪の人や、青が混じった金の髪の毛の持ち主もいた。
あたし達から見て同じように見えるだけで。
多分オーレン族から見れば、人間はだいたい同じに見えている筈だ。
そういうものだ。
種族の違いというものは。
貰った髪の毛をエーテルの中に落として、分解して要素を確認する。
魔力量が多い。
同じようにして、以前アガーテ姉さんからも髪の毛を貰った。他にもウラノスさんやエドワードさんなど、親しい人からも、髪の毛は貰って調査した。オーレン族だと、キロさんにも同じように資料を貰ったが。
こうやって調べて見ると。
やはり極限まで細分化してみると、オーレン族と人間は本当に似ている。
腕組みして、考え込んでしまう。
「それで何の研究をしているの?」
「腹を痛めずに子供を作る研究です」
「不思議な事をしているのね」
「理由は色々あるんですけれど……未来を見据えての事ですね。 フィルフサを片付けて、それで人間社会をどうにか制御出来るようになったら。 オーレン族と人間が関わる時代が来ると思うんです。 その時、恐らく相当に生物として近い人間とオーレン族の間に、子供が出来る可能性がありましてね」
続けろと、セリさんは視線で促してくる。
セリさんはリラさんほど猛々しくは無いが、いざ戦うとなるとそれ以上に容赦がない所がある。
こういう所は、オーレン族も性格が多様だ。
「オーレン族の女性は、妊娠期間が10年もあると聞いています。 人間の十倍……もしもオーレン族と人間で子供を作った場合、母親の負担がとても大きくなるでしょうね。 下手をすると命を落とす可能性も高いです」
「そうね。 確かに人間と私達は殆ど変わらない。 その可能性は、将来的にはあってもおかしくはないわ」
「そこで、まずは合いの子について研究して……それで、更には母親側の負担を減らすための研究もと、順番にやっていくつもりです。 それには命が失われることがあってはならない。 ものの試しでやっていいことではありませんからね」
だから、こうやってまずは研究を進める。
人間やオーレン族の再分割した要素を組み合わせて作り出した人工生命。勿論それはそれできちんと責任をもたないといけないだろうが。
それでも、無責任に交配させて。
それで結果を見る、というような非人道的な行動よりマシだ。
勿論倫理に全く引っ掛からないかというと疑わしいとも思うが。
命をダイレクトに危険にさらすよりは。
こういう妥協点を見つけ出して、必要な所で犠牲を出す。
その考えは、重要だと思う。
恐らくだが、あたしが農家の娘で。
間引きを時々しなければならなかったから、こういう思考が出てくるのだと思う。
農業も畜産も同じだが、どうしても間引かなければならない命がある。
だけれども、人間で同じ事をやりだしたらおしまいだ。
古代クリント王国の錬金術師や。
エンシェントドラゴンの西さんがいっていたような、神代の錬金術師集団と同じになってしまうだろう。
だからあたしは、妥協点を探し出して。
順番にやっていく。
それだけの事なのだ。
セリさんは、その説明を聞くと、嘆息する。
「なるほどね。 ただいずれにしても、あまり道を踏み外さないように、常に気を付けて欲しいわね」
「努力します」
「ん」
セリさんは読書に戻る。
あたしは更に魔力の操作精度を上げるべく、釜に向かう。
やろうと思えば、この要素同士を組み合わせて子供を作り出すことは可能で。恐らくある程度の期間生かしておく事も出来る。
ただ、まだそれをやるつもりはない。
セリさんには、今の一連の会話で、釘を刺されたように感じたからだ。
それに、絶対の自信がつくまで、これをやるつもりはない。
それが、あたしにとっての、けじめの付け方でもあった。
魔物の要素についても、同時に調べは進めて行く。
やはり魔物も、人間と細分化していくとかなり似ていく。
それだけじゃない。
爪とか骨とか。そういったものも、生物の部品としてのものを細分化していくと、人間のものと似ている。オーレン族のものとも。
ひょっとしてだけれども。
生き物は殆どの場合。
細分化すると、こういった細かい部品は似ていて。
それの組み合わせの違いによって変わってくるのだろうか。
その可能性も、否定出来ない。
だとすると、あたしはとっくに禁忌に踏み込んでいるのかも知れない。そうなると、余計に気を付けなければならないだろう。
研究の時間が終わったので、アトリエで栽培している薬草を回収して、薬を作っていく。
効果は去年の頃よりも更に上げる事が出来ている。
傷を治す薬だけではない。
伝染病の対策薬。増血剤。強心剤。色々な要素の薬を、順番に作っていく。
それを一瞥して、セリさんはちょっとだけ安心したようである。
あたしがかなり危険な研究をしているだけではなく。
誰もが助かる研究もしていることを、これで確認できたからかも知れなかった。
ともかくあたしは、黙々と研究を進めていく。
そして、適当な時間になると、フィーが諌めてくる。
「フィー……」
「おっと、こんな時間か」
「フィッ!」
「セリさん、晩ご飯はどうします?」
セリさんは、任せると言う。結構なペースで本を読んでいる。
この様子だと、タオが送ってきた本も読んでしまうかも知れないな。そう思う。
いずれにしても、セリさんも、畑を使いたいだろうし。
それについて、手配をしなければならないだろう。
クラウディアが来る。
夕食にパイを持って来てくれていた。
有り難い。
三人で夕食にする。
セリさんとクラウディアは、殆ど絡む機会がなかったようだが。以前一緒に戦った仲である。
別に、壁がある様子もない。
「苦手なものとかがあれば、言って下されば善処します」
「大丈夫。 貴方の作るパイは美味しい」
「ありがとうございます。 とても嬉しいです」
「……」
オーレン族の味覚の好みも、人間と同じで千差万別。
ゲテモノの類もリラさんは平気でぱくりと行くようだが。それは別に美味しいからやっているわけではなく。
フィルフサだらけの過酷なオーリムでの戦いで生き延びるために、身に付けていった事だ。
「バレンツで困っていることはある?」
「今の所は大丈夫だけれど……」
「やっぱり何かあるんだ」
「西の浅瀬の出現で、交易に影響が出ているのは事実ね。 どちらにしても、クーケン島に来ることになっていたと思うわ」
そうか。
それなら余計に、さっさと問題を片付けなければならないな。
パイを食べ終えると、泊まっていくかと聞くが。
クラウディアは首を横に振ると、船を一人で漕いでクーケン島のバレンツ商会支部に戻っていった。
あたしは、アトリエの風呂に入ると。
風呂の使い方をセリさんに教えて。
後は。ただ黙々と眠った。
明日からも、当然だが。
忙しくなるのだから。