暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
地図を見ながら、指示を受けた方向を確認する。デアドラさんは流石で、密林の中にも土地勘があるようだった。
デアドラさんと同格の戦士が何人かいて。
その戦士達が戦死したのがいたかった。
それが事実なのだろう。
実際、密林の中でこれほど魔物が強大化するまでは、なんとか突破出来ていたわけなのだから。
禁足地についても、危険だから立ち入り禁止になっていると言う事は。
逆に言うと、足を運んで危険であることを確認していたのだろう。
物見櫓の上に上がって、方向をチェック。
そこから、フルパワーで跳ぶ。
跳躍はあたしの得意技の一つ。
足技を主力にしているのだ。足腰は相応に鍛えている。昔もよくこうやって偵察をしたっけ。
空中で何度か爆発を熱魔術で起こして、落下速度を軽減する。そして、着地でダメージを受けないようにする。
呆れ気味に、それをデアドラさんは見ていた。
「身体強化魔術の専門家でもないのに、なんという跳躍の高さだ」
「いえ。 それよりも、こういう拡がった木が見えましたけれど、それですか?」
手で形を作って見せると。デアドラさんは頷く。
そうか、それか。
ちょっと厄介そうだ。
大きな木が見えたのだが。其処に行くまでに、密林の中を複雑な経路で通らなければならない。
ちょっと今の一回だけでは、覚えきれなかった。
もう二三度跳躍して、地図に書き記しながら、状況を分析する。
最悪の場合木を突っ切って行く事も想定しなければならないが。それは出来れば避けたい。
更に問題だと感じたのは、森の中に巨大な魔物を複数。
この地点からも見えた、ということだ。
更に森の奥には、巨大な河がある。
以前見た、オーリムの。王都近くから行った場所の規模ほどではないが、かなりの川幅である。
その河の手前側が広く湿地帯になっていて。
その広さもまた、非常にえぐい。
ただどうも手が入った湿地に思えるのである。これは、何かあるのかも知れない。
「まずいですね。 密林の中に相当にやばそうな魔物が数体見えましたよ此処からでも」
「あれらは基本的に触らないようにと先祖からずっと言われて来ている。 森の守護者というよりも、手を出した場合見境なく暴れて手がつけられないからだ。 一度あれらの一体を奧の河に誘導して押し流したことがあったが、それも何度も上手くは行かないだろう」
「……」
誰も考える事は同じか。
水の勢いというのは凄まじく、巨大な魔物でも抵抗できない事がままある。昔のフォウレの里の戦士達は、恐らく大きな被害を出しながらそれをやって。
それでいながら、割に合わないと判断したのだろう。
それと。
奥の方に城みたいなのが見えた。
あれは恐らくだが、十中八九アンペルさんらが調べていた場所だと判断して良さそうである。
それについては、藪蛇になるから言わない。
とにかく、順番に一つずつ片付けて行かないといけないだろう。
魔物の大きさと姿について、説明をしていく。
タオとクリフォードさんのどちらかが知っているかも知れないからだ。
だが、二人も良く知らないらしい。
そうなってくると、完全に未知の相手か。戦うのは相当に大変に思えるが、やるしかないだろう。
「最低でも小山みたいなのが三体いると。 全部と戦う必要はありそうか」
「いや、出来るだけ戦闘は避けよう。 動きが遅そうな一体についてはどうにでもなりそうではあったけど」
「あくまで希望的観測だね」
「うん……」
レントも、流石に密林の中に姿が見え隠れしている巨大な魔物相手に、連戦したいとは思わないようだ。
ただ、それはあたしも同じである。
これらを連続で倒すのは。四年前の対「蝕みの女王」との戦闘を思い出す。
あれはあたし達が未熟だったせいもあって、しかも「蝕みの女王」の麾下軍団が兎に角粘着質だったこともあって、とにかくしんどかったのだ。
二度はやりたくない。
四度フィルフサの群れを滅ぼしたあたしだが。
実は最初のあの群れとの戦いが、相対的に一番厳しかったと今でも思っている。
あの大きさの魔物となると、フィルフサの将軍並みの力があってもおかしくはない。
いずれにしても、連戦は厳しい相手だった。
「そういえば、フェンリルはいましたか?」
「視界にはいなかったかな」
フェデリーカが、それを聞くとそうでしたかと。本当にほっとした様子である。
ただ、これはあくまで何度か跳躍してあたしが目で見た範囲では、の話。
これ以上は、跳躍での偵察はあまりにも無理がありすぎる。何かしらの対策が必要になるだろう。
それにフェンリルがいた場合、大きさからしてあれら巨獣とはだいぶ違うだろう。
此処から跳躍しても見つからなかっただけの話で、いてもおかしくはない。
とにかく、もう何度か跳躍して、地図に手を入れていく。
数年は奧へ入っていないのだ。
どうなっていても、不思議ではないのだから。
着地して、それで一度休憩。あたしも散々飛び跳ねれば、それはそれとして疲れるのである。
デアドラさんは、後は頼むと言い残して、戻っていく。
まあ、あたし達の事はまだ疑っているようだが。
これから仕掛ける事についても、疑ってはいないようである。
アトリエに入って、作戦会議。
地図を拡げて。タオがある程度書き起こしていく。
「この辺りとこの辺り、もう一度確認してくれる? 通れない可能性があるんじゃないのかな」
「分かった、丸つけておいて。 休憩後にまた跳ぶ」
「ごめんライザ」
「事前調査で手を抜けば死ぬのはあたし達みんなだからね。 こればっかりは仕方が無いかな」
それでも、疲れるのも事実ではあるのだが。
しばし、フェデリーカが焼いてくれたお菓子を黙々と食べる。クラウディアの作るお菓子に比べて、王都のものよりは味が薄く。もうちょっと濃い感じだ。あたしの語彙力だとその程度の表現しか出来ない。
神代の頃は物資もテクノロジーも有り余っていたから、こういうお菓子も更に繊細な味付けとか、豪華な造りとか出来たのだろうが。
今の時代は、物資も限られているし。
人間が全世界で押されている状況に変わりが無い。
だとすると、こういう風に、お菓子にも限界が出てくるのは仕方が無かろう。
「ま、まずかったですか?」
「いや、美味しいよ」
「神代の頃のお菓子は、それはもの凄く種類が豊富だったらしいよ。 発掘されたカタログを見た事があるんだけれども、それは色とりどりで美味しそうでね」
「そういうのを食べていた人達なのに、話を聞けば聞くほど心が貧しいのはなんなんでしょうね」
ぼやくフェデリーカ。
あたしもそう思う。
ともかく、休憩を入れて。また跳ぶ。タオは結構駄目出しが容赦ないので、なんどでもやっておかないと。
その間に、ボオスとクラウディアはディアンと一緒にフォウレの里の中を回って、コネ作りをしてくれている。
根回しをじっくりやっておいて。
いざという時に、此方に対する悪感情が爆発しないようにしておくのだ。
今の時点で、フォウレの里の人達にとって、あたし達は技術的にも戦力的にも全く分からない存在でしかなく。
その畏怖が距離につながっている。
別に距離があるのは悪いこととは限らないのだが。
それでも、今回の行動では、下手に距離を作る事は色々とまずいのだ。
タブーか何かを踏んで、それで一気に感情が爆発する可能性も考慮しなければならないのである。
できるだけ相手の長所も短所も、調べておかなければならない。
夕方になって来た。
地図を散々直したが、やはりそれでも近場にいかないと分からないものだらけだとタオは言う。
それでも前よりはマシだと思って、一度これで切り上げる。これ以降は森が暗くなって、どこに何があるか知れたものではなくなる。跳んでも無駄だ。
しばらく調合して色々と調べていると、先にクラウディアが戻って来た。くすくす笑うので、どうしたのか聞いたら。
ボオスをこの村にくれないかと言われたらしい。
まあ、外の血を入れるのは有用だ。
ボオスが巧みに交渉する上に、戦士としても悪くないのを見て、そう判断したのだろうが。
残念ながら、それは無理だ。
「ボオスも困っていたんじゃない?」
「うん、まあね」
「ボオスさんが来てくれれば心強いのは俺も思うんだけど」
「いや、あいつ好きな人がいるから。 だけど本人の前で言ったらダメだよ」
しばしぽかんとして。
そうだったのかと、ディアンがぼやく。
そして、こういう所でボオスは無茶苦茶義理堅い奴なのだ。きっとキロさんへの感情は、今後も変わらないだろう。
ボオスが戻ってくる。随分と疲れているようだったので、何も聞かない事にする。
夕食の後、明日から密林の奥に仕掛ける話をして。
それで、今日は終わりだ。
明日が、本番になる。
(続)
いよいよ問題の本丸に取りかかります。
ちいさな目標をクリアして足場を作り、大きな問題に取りかかる。
堅実なやり方です。ライザの豪快な戦闘スタイルは、あくまで戦闘面だけの話なのです。