暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

66 / 200



古今東西どこでもそうですが、血の味を覚えた……つまり人間を殺して喰らった獣は何が何でも駆除しなければなりません。

ヒグマによる大規模な食害なんかは有名ですが、虎やライオンがいる国でもたびたび大規模な食害が起きます。惨禍は目を覆うばかりです。

「適切に距離を取る」

それ以外に、人間と他の動物が上手くやっていく方法は恐らくないのだと思います。





古城に埋もれるもの
序、瀑布と泥濘


警戒色で体を覆っているラプトルの群れを倒す。途中から逃げに転じようとしたが、勿論逃がさない。

 

人間に対して、声を聞いただけで逃げる。

 

それくらいにしておかないと、共存は不可能だ。

 

勿論その後は、人間側でもしっかり森に対して一線を引いて対応する事が必要になるのだが。

 

この辺りでは、魔物の方が絶対有利という状況が続きすぎた。

 

他の弱めの魔物が見ている。

 

人間が如何に恐ろしい存在か、をだ。

 

事実、いきなり初見殺し系の攻撃をしてくるものや。魔術を使ってくるものも存在していた。

 

それらを悉く、創意工夫と早期警戒を組み合わせて退けてきている。それらを魔物に見せておけば、こう判断させられるのだ。

 

人間に手を出すのはリスクが高い、と。

 

ともかく今あたし達がやるべき事の一つがそれだ。

 

ラプトルの群れを全て片付けると、それらを捌いて。必要なものは荷車に積み込み、アトリエに戻る。

 

一番大きい奴は、文字通り見上げるほどの巨体だったが。それも今のあたし達なら負ける相手ではない。

 

ここまで育つのに、多分数十年は掛かる筈。

 

ラプトルは群れで動く魔物だが。

 

人里近くでは、此処まで大きいのは普通出てこない。

 

また、成体になるまでの成長は早いのだが。

 

それ以降は、成長が鈍化することも既に分かっている。

 

それもあって、これほど成長したラプトルを倒せたことは、大きな意味がある。

 

歴戦の個体で、人間を獲物としか認識していなかった上に。

 

長い年月を掛けて、対人間の戦術を学んできていたのだろうから。

 

ただ、この辺りが密林で。

 

豊富に餌を取れるという事情もあるのだろう。此処まで大きくなるのは。

 

倒す度に、タオがメモを取っている。

 

そして、アトリエに戻って時間が出来ると、論文にしてまとめているようだった。

 

王都はこれから変わる。

 

だから学者として、できる事はしておくべきなのだろう。

 

パティもタオの質問に、てきぱき答えていて、最近は本当に連携がとても良くなって来ている。

 

それを思うと、あたしもこの二人はもう普通の夫婦よりも仲が良いのだなと思う。

 

結婚当初くらいしか仲が良くないパターンは幾らでも見る。

 

うちの親みたいにずっと仲が良いケースもあるが。

 

三年もすればだいたい夫婦は仲違いを始めるものだ。

 

それはあたしも、幼い頃から周囲の家で散々見てきているので。

 

そうならないでほしいなこの二人はと今から思うばかりだ。

 

まあタオもパティも、自省と自制をがっつり出来るタイプだし。もう遠慮も無いだろうから、大丈夫だろう。

 

これがお気持ちを最優先で動くタイプだったり。

 

相手を上か下かで判断する事しか出来ないような低脳だったら。

 

そうもいかないのだろうが。

 

ラプトルのしがいなどをコンテナに収めると、すぐにまた密林に。

 

少しずつ道を開いて、奧へと進む。

 

今度は異常に腕が長い猿がお出迎えだ。

 

かなり素早い上に、頭上から立て続けの連撃をしかけてくる空中殺法の使い手だが。それも別にそこまでは苦労はしない。

 

そもそも頭上からの攻撃なんて、慣れているからだ。

 

別に今更苦戦はしない。

 

それだけが武器なら、だが。

 

ともかく仕留めきると、先に進む。

 

大蛇が死んで、死体が腐敗していた。死んだのは、大きな傷が原因らしい。倒した相手は、殆ど喰わずにいったようだ。

 

それはそれで腹が立つな。

 

不愉快だから殺すだけ殺した、か。

 

人間のチンピラか。

 

無言で森を行く。腐っている死体にふれるつもりはない。フェデリーカが口を押さえて黙り込んでいたが。

 

自分の速度で、修羅場に慣れていけばいい。

 

それは何度も言っているし。

 

フェデリーカも頑張っているようだから、それについてどうこうは思わない。

 

更に先に進むと、かなり大きな猫科の動物が出てくる。

 

縞模様は、恐らく密林に特化した感じなのだろう。

 

猫科というとかなりしなやかで動きも速いイメージがあるが。それも実の所、人間の七倍から八倍の重さくらいまで。

 

それ以上になると、しなやかに動く事はかなり難しくなってくる。

 

こいつはちょっと大きくなりすぎた種類だ。此方を伺って距離を取っているが。レントが前に出ると、明らかに後ずさって。

 

それで逃げていった。

 

「追わないの?」

 

「放置で。 もしも距離を取って伺って来るようならば、その時に対処します」

 

「……」

 

セリさんが、こくりと頷いた。

 

それでいいと言うのだろう。

 

そのまま、更に奧へ進む。

 

森の雰囲気が変わってきた。地面がかなりしめっている。タオが手を横に。止まって、という合図だ。

 

クリフォードさんが手慣れた様子で木に上がって、それですぐに降りて来た。

 

「どうやら森を抜けたようだぜ」

 

「やっとか……」

 

ボオスがぼやいた。

 

此処からは、生態系が変わると言うことだ。

 

頷くと、あたしは先に徹底的に警戒してから、前に出る。皆も、一段階警戒レベルを上げていた。

 

不意に、森が途切れた。

 

拡がっているのは、これは沼地か。

 

ロープを腰に結んだパティが前に出る。これは、一番身軽だから、だ。足が速いタオと比べても、パティは体が更に軽いし、とにかく反応速度も早い。

 

そこで、前に出て、様子を見るということだ。

 

一気にパティの背が縮む。

 

底無し沼か。

 

即座にパティを引っ張って引き戻す。

 

水がそれほど深く溜まっているようには見えなかったが。沼地が其処にあるのは事実のようだった。

 

「助かりました、みなさん」

 

「いや、こっちこそ。 やっぱりこの辺り、かなり危ないみたいだね。 ……奥の方のは、あれは川かな」

 

「この辺りはかなり危ないから、近寄らないようにしているんだ。 俺たちも奧にはいかないで、基本的には森に沿って動くようにしてる。 それも一歩ずつ」

 

「よくこんな所を移動しようって思えるな……」

 

ボオスが、ディアンに呆れてみせるが。

 

ディアンは、此処しか行く場所がないという。

 

まあそうなんだろうな。

 

此処だと、大型の魔物も迂闊には足を踏み入れられない。事実見ていると、それほど大きな魔物は、湿地帯にはいないようだ。

 

セリさんが植物魔術を展開して、近くに根を張り巡らせる。それで、辺りの状態を見てくれる。

 

「なるほどね。 地盤が完全に死んでいるわ。 この辺りは実質水が表に出ていないだけで川よ」

 

「確か、地下に水が流れているタイプの川もあるんだよな」

 

「そうなるわ」

 

レントの質問に、セリさんが頷く。ただし、と付け加えた。

 

この地下川は、非常に地上に近く。地面がただ見えているだけの場所。

 

雨が降ると、すぐにそれも表に出る。

 

つまるところ、見えている地面は殆どが嘘だと言う事だ。

 

しばらく辺りを調べると、それでも人間程度が埋まらずに進める場所はあるようだ。ただそれも、あまり進むのは進められないが。

 

此処を進むためのエアドロップの改良が必要かも知れない。

 

あたしはそう思って、先にメモをしておく。

 

それと、この近くを進むのはあまり褒められた行為では無い。森の方から攻められると、非常に危険な事になる。

 

一度森の中に戻ると、右手に川を見ながら、進む事にする。この先に、城の裏手に出る場所があるとディアンは言う。

 

今日も密林の中で魔物を駆逐するとフォウレの里では言ってある。

 

今、手に入れるべきは、役に立つ種と、役に立たない種、この二つだ。フォウレの里ではそれらは手に入れられない。

 

だから、城に入って入手する。

 

とはいっても、ディアンの話によると、掘って出てくる量は年々減っている、ということだが。

 

使い切った種に関しても、里の倉庫でしまってあるらしく。

 

そして、更に言えば。

 

五百年掛けて使った種の量が、フォウレの里の倉庫にしまえる程度しかない、と言う事も意味している。

 

フォウレの里は小さいと言っても、それでも五百年となると、二十五世代くらいにはなるだろう。

 

あの機具をずっと動かしていたのだとすれば、相応の量を消耗した訳で。

 

やはり神代の動力源。

 

そう簡単に枯渇するものでもないのだろうなと思う。

 

だとすると、純粋に燃料だとかそういうものではない、ということか。

 

ともかく現物を見ないと、何とも言えないのがもどかしい。

 

ある程度進んだ所で、川の中に巨大な影が見えてきた。

 

あれだ。

 

皆に気配を消すように指示して、相手を伺う。

 

川の中で、長い触手……いや鼻だろうか。ともかく、その小山のような巨体は、体を流して洗っているようだった。

 

体は四足獣で、この間倒した巨獣とはだいぶ違っている。

 

ただしそもそも体の側面についた目は片側だけでも四つ有り、恐らく目は八対。足も四本だが、それ以外にもなんだか巨大なひれみたいなものが体の横に複数ついていて。背中には威圧的なひれもある。

 

半水棲、というわけだ。

 

「あれが大人しい奴かな?」

 

「そうだライザ姉。 俺たちはあいつのことを川の王って呼んでる」

 

「王様か。 なんだか虚しい響きだね」

 

「基本的に手を出さなければ何もしてこない。 縄張りも川の向こう側だから、俺たちとしても手を出す事はないんだが……前に一度大暴れしたことがあるらしくて、その時は逃げるしか無かったそうだ」

 

そうか、としか思わない。

 

獣には獣のルールがある。

 

どういう事情で怒るかなんか、知れたものじゃないのだ。

 

だから、今は放置しておく。

 

暴れ出したら殺す。

 

それだけだ。

 

「フィー!」

 

「……そろそろか」

 

フィーの警告。空を見る。曇っていてかなり微妙だが、それでも影の方向から、今の時間がどれくらいかは分かる。

 

撤退開始。

 

雨がいつ降ってもおかしくないという事もある。残念だが、今日はここまでだ。

 

帰路も、安全圏までは無駄口は控える。

 

そして案の場、帰路でも魔物は襲ってくるので、全て片付ける。待ち伏せしていた大きな百足の魔物を仕留めたところで、今日の戦闘はしまいだった。

 

アトリエに戻り、明日以降の対策を話す。

 

地図を拡げて、タオが説明する所によると。やはりあの倒した巨獣の縄張りの範囲がかなり広かったようで。

 

森の広範囲で魔物が移動を続けていて、活発な争いが起きているようだ。

 

あたし達に仕掛けて来るのも、その一環であるらしい。

 

そうなると、しばらくは移動する最中にずっと、決して弱くない魔物に襲われるということだ。

 

「ディアン、もう一体の巨獣は、どの辺りをうろつく傾向があるか分かる?」

 

「城の近くに来ることは滅多にないぜ。 前に追われたときに、城に逃げ込んでやり過ごしたことがあるんだ。 あのばかでかい奴、城には絶対に近付こうとしないんだ。 なんだか怖がってるみたいだ」

 

「案外怖がっているのかも知れないよ」

 

「よく分からない」

 

ディアンの言葉ももっともだ。

 

ただ、あの巨獣が元々森に適応した生物だったとは思えない。

 

ディアンによると、「川の王」ではないもう一体は、倒した巨獣とほぼ同種のような姿らしいから。

 

そうなってくると、そいつも。

 

神代の生物兵器の可能性が高い。

 

だとすると、神代の施設には近寄らないようにされていても不思議では無いだろう。

 

いずれにしても今の時代には必要ない存在だ。

 

森を好き放題荒らすあの戦い方からしても、許しがたい。

 

行きの駄賃に処理する。

 

それしかあるまい。

 

ただ、気になることもある。

 

ディアンが言った通りの魔物の動きがあるとして。

 

それで、あたしの予想が当たっていた場合。

 

神代の技術は、それほどということになる。あんな小山みたいなサイズの魔物が怖れる程に、的確に調教できると言う事だ。

 

フィルフサも、神代に生物兵器として使っていた頃は、或いは制御出来ていた可能性も高い。あくまで神代の生物兵器なのではないかと言うあたしの仮説が当たっていた場合だが。

 

そうなってくると、神代の錬金術師達は、その気になれば文字通り世界なんて簡単に滅ぼせたことになるだろう。

 

実際その残りカスみたいな古代クリント王国が、オーリムを実質上破綻にまで追い込んでいるのだから。

 

フィルフサを人為的にコントロールして、自由自在に滅ぼす対象を決められるのだとしたら。

 

はっきりいって想像を絶する脅威だ。

 

そして、そんな力をもった人間が。

 

自分を神に等しい存在だと錯覚するのもまた、不思議な話ではないのかもしれなかった。

 

「とりあえず、巨大な奴の縄張りと、動きで知っている事をディアンの方で教えてくれる?」

 

「ああ、ライザ姉がいうなら。 倒すのか?」

 

「倒す。 それに……」

 

そろそろ出来るかもしれない。

 

今まで、収束熱槍を叩き込む奥義は、色々とバージョンを作って、試験的に何が強いか試してきた。

 

最近はセプトリエンを複数種類手に入れられるようになり。

 

魔力増幅用の杖も使って、さらに魔力を増幅できるようにもなってきた。

 

フェデリーカの舞いによる強化も上乗せすれば、そろそろ手が届きそうなのだ。

 

あたしの魔術の、究極に。

 

今まで使っていたのは、去年くらいに使っていた集大成型の、グランシャリオの発展型だった。

 

そのグランシャリオも、周囲を制圧するための制圧型。

 

あたしが使っている足技と組み合わせての収束投擲型。

 

周囲から相手を追い詰めるタイプの収束型。

 

この三種類が基本だった。

 

だが、この間の巨獣は、あたしが全力で投擲した収束投擲型と、更にはツヴァイレゾナンスの連続攻撃で殺しきれなかった。

 

これにセリさんの奥義と、皆の猛攻も加わっていたのに、だ。

 

あの巨獣と同等の戦闘力を持っているのが後二体。

 

更には、連中ですら神代のテクノロジーを怖れているのだとしたら。もっと上の火力が必要になる。

 

例えば、発生した事象をそのまま否定するような防御とかを、貫通するような、である。

 

「そろそろ、あたしの奥義に、新しく名前をつけるときかもしれないと思ってね」

 

「根本的なバージョンアップだね!」

 

「うん……」

 

クラウディアは嬉しそう。

 

クラウディアは非常にその辺りマイペースで。技を磨いてはいるが、基本的に矢をおっきくすること、飽和攻撃すること。それだけしか考えていないし。それをどんどん磨いている。

 

他の皆も、それぞれの奥義は強化しているが、それ以上でも以下でもない印象を見ていて受ける。

 

あたしは、神代の連中が使うような意味不明な技術に対しても、それを打ち抜ける術式を作っておきたい。

 

あたしの素の力だけでは無理だが。

 

あたしが自分用にカスタマイズした装備品を加味すれば。或いは。

 

無言で、手を見る。

 

多分出来る。理論も出来ている。

 

あたしが、それに手を掛けた時。

 

本当にあたしは、神代のクズ共と同じにならないのだろうか。自分を神と錯覚してしまわないだろうか。

 

今の不安は、そこだけだった。

 

「フィー……」

 

「ありがとう、フィー」

 

心配そうなフィーの声。

 

それだけで、大丈夫だ。

 

あたしは腹を痛めて子供を産む事は、今後ない。

 

かといって、子供がいないかというと、そんなことはない。

 

子育ての経験がないかというと、そうでもない。

 

それに、田舎暮らしで出産の補佐とかもして来ている。近所の幼い子供の面倒を見たりとかも。

 

子供に夢を見ることもないし。

 

子育てに夢を見ることもない。

 

ただ、知っている。それだけの話だ。

 

「とりあえず、今日は解散。 あたしはもうちょっと研究してから寝るわ」

 

「ライザさん。 なんなら、この件が終わったら王都に来ませんか? いや、王都という名前も、変えてしまうつもりではありますが」

 

パティのお誘い。

 

王都を中心に、世界を少しずつ良い方向に変える。

 

数年掛けて、あの王都に立憲君主制というものを導入し。更に今後、世代を経て民主制というものを導入していきたいとパティは考えているようだ。

 

今はそれはできない。

 

王政と貴族制に誰もが慣れきっている。それが張り子の虎であると分かりきっているのに、だ。

 

そういう新しい世界の変革に。

 

あたしのパワーが必要だと、パティは言うのである。

 

「足は運ぶよ。 いずれにしても、世界中を色々回らないといけないし」

 

「パティ、結構アクティブですよね」

 

「そらそうよ。 幼い頃から野営とか魔物との戦闘とか、間近で見て鍛えられてるんだし」

 

「私を野生児みたいに言わないでください……」

 

フェデリーカに対するあたしの言葉に、呆れるパティ。

 

まあ、それでもいい。

 

ともかく、あたしとしても。パティの改革につきあうのは、まんざらでもなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。