暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
ついに問題の廃城に到着するライザ達。
原作では此処は、なんだかんだでお世話になる場所なんですが。初回の訪問時は面倒な魔物の配置で苦労する場所でもありますね。
こんな場所で生命線になる資源を収穫しなければならないとは。フォウレの里の人も大変です。
翌日は一日を休息と装備の修復、更には薬や爆弾の補填に当てた。それだけ激しい戦いだった、ということだ。
特にフェデリーカは完全に参っていて、一日ほぼずっと眠っていたが。これは責める事は出来ない。
元が職人で、戦士ではないのだ。
あんなのを相手に、あれだけ自分の役割を果たせる。
それで充分過ぎる程だろう。
あたしは黙々と調合をしていたが。
外で、パティとディアンが組み手をしてきたらしい。レント立ち会いで、だが。
どうも同じくらいの力ではないかとディアンは計ったらしく、それで勝負を仕掛けたようなのだが。
パティの勝ちだったようだ。
まあ、それはそうだろう。
お座敷剣法しかしらないような人間と違って、パティはヴォルカーさんと一緒に前線でずっと戦って来たのである。
実戦はそれなりに経験しているディアンだが、それでもあくまで「この辺りでは無類に強い」という程度。
流石にフィルフサ戦までこなしているパティよりは劣るだろう。
「それにしても、どうして私を選んだんですか?」
「……ライザ姉は総合的な筋力は俺より弱いが、他の全部が俺とは比べものにならないほど強い。 他のみんなも似たような感じだ。 フェデリーカさんはそもそも前線で戦うタイプじゃない。 そうなると、ボオスさんとパティさんが俺に実力が近いと思った。 ボオスさんは見ていて、頭を使うタイプだと思ったから、パティさんを選んだ」
「なるほど。 それで戦って見てどうでしたか」
「強いな。 あんた師匠がいるんだろ。 俺もその人に鍛えて欲しいな」
考えておきますとパティは言うが。
師匠というのは、多分ヴォルカーさんじゃなくて例のメイド長だ。
だから少しだけ嬉しかったのだろう。
その辺りは、あたしにも分かった。
「ディアン、私の事はパティと呼んでください。 年もかなり近いですから」
「いいのか。 でもあんた、王都の偉いさんなんだろ」
「そういう考えは捨てるようにしています。 もしも私の行動を偉いと思ったのなら尊敬して欲しい。 それだけです」
「分かった、じゃあパティと呼ばせて貰うな!」
なんだか嬉しそうなディアン。
なお、タオの婚約者である事も告げてはあるので。必要以上になれなれしくしないようにも、一度釘を刺しておいた。
勿論この辺りにも婚約の概念はある。
それで、充分に話は伝わっていた。
さて、此処からだ。
幾つかやるべき事をやっておく。
皆の装備を修復すると同時に、昨日の巨獣の中からも回収出来たセプトリエンの解析をしておくのだ。
セプトリエンは収束した魔力が、尋常ではない密度の魔石になったものだというのは分かっているのだが。
それにしても、それぞれが違う上に。
どうも構造が一致していないように思う。
つまりセプトリエンというのは、きらきら輝く石を「宝石」なんて呼んでいるのと同じであって。
それっぽいものをそう呼んでいるだけ。
そしてそれっぽいだけで、錬金術の秘奥に必要なものではないか、という疑念があたしにはあるのだ。
この疑念が正しい場合。
ある恐ろしい結論に辿りつく。
ひょっとすると、錬金術と言うのは。世界の神秘に触れる力などではなく。属人的な力に過ぎず。
人間の力をある程度拡張するためだけにある、学問というものとは違う存在なのではないか、という結論だ。
これについては、アンペルさんにもまだ話すつもりはない。
アンペルさんとは、何度か話して。手紙でもやりとりしたが。
錬金術の基本は、最初に教わった事。
無からの有の創造だ。
だけれども、本当にそれは正しいのか。
釜に満たす物質化したエーテル。様々な素材。それら含めて、錬金術に必要なものは色々とある。
それに最高の素材であるセプトリエンからして、そもそも此処までふわっとしたよく分からないものなのだ。
そこには無からの有の創造なんて概念は無い。
というか。無から有を創造するというのは、文字通りの神の業だが。
それはつまり……自分を神に近い存在だと考えていた神代の錬金術師が、得意げに定義しただけの事ではないのだろうか。
だとすると、錬金術は魔術の究極版であり。
人間のテクノロジーを遙かに超越した魔術が、単にテクノロジーに競り勝ってしまったというのが事実ではないのか。
そういう疑念が浮かんで来てしまうのである。
或いは、だが。
別の世界の錬金術は、それはそれで違うものなのかも知れないが。
それについては、もう見てみないとなんともいえない。
ともかく、巨獣は仕留めたのだ。今日は休む。セプトリエンの研究を進めることで、グランツオルゲンの研究も同時に進む。
それだけで、ある程度は満足するしかなかった。
翌日。
やっと皆動けるようになった、ということで。フォウレの里に、森の中の魔物を駆逐してくると言って、里を出る。
今日から、城に入ることを想定して動く。
だから、ちょっと緊張する。
「竜風」という、百年に一度くらいの間隔で、この土地を襲う恐ろしい災厄。
それすらも耐え抜く城が、何かしらの方法で破壊されたというのである。
1300年前の、神代全盛期の城だったとすると、何がどうすればそんな事が出来るのか、ちょっと想像もつかない。
何がいるかも分からないから、慎重にいくしかない。
森の中に入る。
皆、すっと緊張する。
陣形の中央にいるフェデリーカに、耳打ちする。
「大丈夫フェデリーカ。 無理だと思ったら、一日くらい休んでいてもいいよ」
「いえ、少しずつ体力はついてきています。 それに、私よりも年下の子が頑張っているのを見ると、負けていられません」
「ん、その意気だ。 だけど無理をしていると判断したら、さがらせるからね」
「はい」
フェデリーカの潜在能力は高いと思う。
昨日は一日休んでいたが、そもそもこの子は職人だ。それでこれだけ戦えるのなら、充分だろう。
途中何度か魔物が仕掛けて来るが、もうこの森の気配にも慣れてきた。短時間で、魔界に適応してきている自分に、苦笑いしてしまう。
湿地の近くに出て。
それで大雨が急に降りだしたので、あわてて皆を下げる。
案の場、湿地はあっというまに川になり、轟々と凄まじい音を立てて水が流れ続けている。
恐ろしい光景だ。
魔物が流れていくのが見える。
結構大きいラプトルだが、この川の流れにはとても逆らえないのだろう。しかも川の魔物も、そんなラプトルを襲っている余裕すらないようだった。それくらい、川の流れが凄まじいのだ。
戦慄する中、それでも一旦距離を取って、安全圏までさがる。
其処から、森の中を再度行く。
一昨日巨獣とやりあった辺りに出向くと、セリさんが少し良いかと言って。また手入れを始めた。
地盤から砕かれていたし。
やはりそれなりに此処の手入れは必要だと言う事だ。
しばし周囲を警戒。その間一度雨は止んだが、続いてすぐにまた雨が降り始める。先に比べると小降りだが、天気が無茶苦茶なのはこの辺りでは当たり前だ。知らない植物には絶対に触るな。
それもセリさんが、皆に厳命していた。
スペシャリストの言葉だ。
何より恐ろしい植物の魔物は、皆が何度も目にしている。今更、それに感情的に反発する者もいなかった。
「また手入れをしておいたわ」
「なあセリさん、ちょっといいか」
「どうぞ」
ボオスが疑念を呈する。
ボオスは頭が基本的にいいので、分からない事は分かるまで聞くようだ。感覚的に理解するあたしや、もとの頭が次元違いにいいタオと違うから、そうするようにしているらしいのだが。
ちょっとあたしとしては、その言葉は褒めすぎだと思う。
ボオスのやっている事は、立派である。
「この森の自然な状態って、どういうものなんだ。 最終的に、何を目指しているのか教えてくれ」
「……この森が安定していると言えるのは、そうね。 ラプトルをはじめとする、明らかに戦力過剰な魔物が全部いなくなって、周囲の植物とあまりにも生態が違うマンドレイクの仲間もあらかたいなくなった場合ね。 元々こう言う場所は見ての通り雨が激しすぎる事もあって、土壌がとても弱いの。 森として頑強そうに見えるのはただの錯覚で、実はとても脆い場所なのよ」
「そうなんだな。 俺にはむせかえるような緑と、恐ろしい力が支配する絶対的な場所に見えていたんだが」
「よくいう「生態系の頂点」なんてものは、環境が変わるとあっというまにその支配の座から滑り落ちるものよ。 この森もそう。 環境が代わりでもすれば、この森はまたたくまに不毛の地になり果てるでしょうね」
セリさんの言葉は、それだけ鋭く、そして恐ろしい事実も告げていた。
先に進む。
魔物の襲撃は何度かあったが、幸いそれほどの大物はいなかった。
昨日倒した巨獣が好き放題に倒した木などが彼方此方に見られたが。既に腐食し始めていて。
新しく木が根付いていた。
それについては、セリさんは何もいわなかった。
恐らく、この辺りは大丈夫と判断しているのだろう。
ほどなくして、森の中から、城の上の方が見え始める。
裏手に出たのだ。
それをあたしは悟っていた。
この辺りにも、強力な魔物が出ると事前に聞いている。クラウディアとクリフォードさんが周囲を最大警戒。
地面も空も警戒する。文字通り全方位を警戒しておかないと、いつ命が吹っ飛んでもおかしくない場所なのだ。
「ライザ」
「!」
気付く。
近くの森の奥。
赤い大きな狼の姿。毛がとげとげしく逆立っているそれは、間違いない。サルドニカで交戦したフェンリルだ。
だが、そいつはあの時のフェンリルと違って、此方に対する敵意はないようだった。じっと此方を見ていたが。
やがて視線を背けると、のそりと森の奥に消えていく。
凄まじい威圧感を感じた。
サルドニカにいた奴よりも、強かったかも知れない。だが、どうして戦闘を避けた。
「いっちまったな」
「……帰路を襲うつもりかも知れない」
「いや、それはないかな」
ボオスの言葉に、タオが応える。
あのフェンリルの実力は、恐らくはサルドニカにいた個体と同等かそれ以上。
一昨日などに倒した巨獣を除けば、この森の頂点だろう。だとしたら、疲弊を狙うなんてまどろっこしいことをせずに、そのまま襲ってくるはずだ。それで勝つだけの自信もあるだろう。
だが、戦闘を避けた。
ということは、何かしらの意図があるのかも知れない。
「ひょっとすると、あのばかでかいのを倒したのを見ていたのかもね」
あたしの言葉に、ボオスがなんだよそれという顔をしたが。
森に生きている生物だという自負があるのだったら。
あんな無茶苦茶な破壊者の存在を、許しておくとは思えないのだ。
しかし彼奴の戦闘力、サルドニカにいた空間操作能力持ちのフェンリルでも及んだかどうか。
多分それ以上だっただろう。
かといって、あのフェンリルが群れて戦う魔物とも思えない。
可能性は、否定しきれなかった。
ともかく、道が出来ている。
其処を行く。
森の中の道も、不可解極まりないのだが。ともかく、ついに森を抜ける。
そこには、派手に抉り取られるようにして破壊された、無惨な城壁が存在しているのだった。
この辺りは、基本的に種拾いもこない。監視装置も動いていない。
だから、ある程度動き回ってもばれないはずだ。
そうディアンが言うと。タオとクリフォードさんが、即座に動き出す。あたし達は、まずはその護衛だ。
破られている城壁は一枚だけじゃない。内側に向けて、何枚も城壁があって。その全てが喰い破られていた。
それだけじゃない。
この破壊跡。
1300年前の城だと言う事だが。神代に穿たれた破壊跡が残るというのは、いったいどういう事だ。
セリさんが、懐かしそうに目を細めていた。
「私は此方の世界に来た時、此処から抜けて、森の方に出たのよ。 後は川沿いに降って、それから植物魔術で舟を作って、陸沿いにこの地を離れたわ」
「五百年前もこうだったのか」
「ええ」
レントの言葉に、セリさんはびっくりするような返事をする。
まあ、それも不思議では無い。この人は多分千年以上も生きている。実際に、五百年前のこの場所を見ているのだろう。
「ライザ。 驚くべき事だよこれ……」
「ん、分かりやすく教えて」
戦慄した様子で、タオが戻ってくる。そして、皆を見回した後、砕かれている石材を持って来た。
それほど驚くべき事なのか。
クリフォードさんも戻って来て、頷く。
「入口辺りの城壁と、材質が違うのが混ざってる」
「うん? どういうことだ」
「この城、途中から作り直されたのと、元からあったのが、ごっちゃになってるんだ。 特にこの辺りは顕著で、壊されたのがそのままにされてる感じ。 入口辺りのは、作り直された部分だと思う」
「何……どういうことだそれ」
タオはしばし口を押さえて考え込んだが。
やがて言う。
「違う文明二つが、ここで衝突したんだ」
城の入口……正確には裏口で立ち往生する。この破壊跡、例の竜風というもののせいかも知れないからだ。
しかし、調べるほどそうでは無い事が分かってきた。
まずこの城は、タオが言ったように元からあったものを、誰かが蹂躙したようなのだ。それも、かなり手荒いやり方で。
破壊の痕を見せられる。
確かにこれは凄まじい。恐らくだが、相当に錬金術で強化をかけた魔術を、何十人がかりで叩き込んだのだろう。
とんでもない高熱で、普通だったら耐えられる材質が、溶けてしまったようである。
徹底的に破壊されているが。
門の側ということで、懸念されるフィルフサは、恐らく違うと見て良さそうだ。というのも、フィルフサによる大侵攻だったら、文字通り全方位が更地になっている筈だ。この城は、明らかに一方向に穴が開けられている。
丁寧に調べるタオとクリフォードさん。二人の護衛をしながら、周囲を調べる。
魔物もかなりの数がいるが、仕掛けて来るかは時々だ。この城の中を縄張りにしている魔物は、どうも薄暗い所が好きなようで。城の中の、中庭のようになっている光が当たる場所には出てこない。
代わりに彼方此方に点在している詰め所のような建物は、ほとんど魔物の巣窟になっていて。
入る度に、交戦しなければならなかった。
いずれも面倒なのばかりが出て来たが。それでも正直、勝てない相手ではない。種拾いの人間は、何か言われているのかと聞くと。
ディアンが、おうと答えてくれる。
「昔はあの辺りにある建物から、種を回収していたんだ。 だけれども、それが尽きてしまって。 それからは、この辺りから外に掛けて、埋まっている種を回収するようになったんだ」
「積まれていた。 埋まっている。 どうも扱いが妙だね……」
「ああ。 動力源だったらそんな粗雑に扱うはずがない。 しかも二つの勢力がぶつかったとなると……もう片方の財産を、略奪し尽くしたんじゃないのか。 神代の連中って、技術だけ進んだならず者みたいな奴らだったんだろ」
「……その価値も感じなかったとか」
今まで断片的に得られた情報を整理するに。神代の錬金術師達は、自分達の思考こそ正義。それ以外は全て劣等、間違っている。そう考えていた節がある。
古代クリント王国などの、神代の影響を強く受けた錬金術師は特にその傾向が強かったようだ。
だとすると、系統違いの技術なんて、見向きもしなかった可能性はある。
辺りを調べて、ある程度安全を確保。下手に動き回らない方が良い。
奥の方には、アンペルさん達が引っ掛かった奴がある。ディアンがいうには、もっと奥だと言う事だけれども。
まだ城に入っているという話はしていない。
「そういえば、種拾いの他の班と鉢合わせという可能性はないんですか?」
「ないぞ。 基本的に危険すぎるから、種拾いはみんなでまとまって動くんだ。 数年前からそれもできなくなって、城に入ることも難しくなったけど」
「新しくやるとしても、ディアン抜きではやらないって感じ?」
「いや、今は俺抜きで動くかも知れない。 それでも、幾つかしきたりがあるんだ。 今は空に陽が出てるだろ。 基本的にしきたりでは、夕方から夜に掛けて動いて、種を拾ってすぐに帰るようになってる」
種拾いは、種がある範囲を徹底的に知り尽くしていて、建物の構造なども頭に入れているらしい。
更には、どこにどういう魔物が巣くっているかも知っていて。
それらを頭に叩き込んでから出るそうだ。
そうなると、数年ぶりとなると、同じ常識が通用するか分からない。
「タオ、痕跡は残さないように動いて」
「分かった。 ……これ、神代の文字で見た事がある。 主流じゃなくて、傍流になっているようなものだ」
「錬金術文明ではない文字だな。 ええとなになに……」
メモを開いて、解読し始めるクリフォードさん。何かの大きめの建物の前に出た。其処に何か書いてある。
あたしは距離を取って、様子を見守る。
やがて、二人は解読して見せる。
「倉庫だね。 なんだか聞き慣れない言葉が幾つもあったけれど、アーミーの用語かも知れない」
「昔は今の何十倍も人間がいたんだろ。 アーミーがどこの国にもあったらしいし、不思議じゃないぜ」
「そうだね……」
レントの言葉に、タオが頷く。
考え込んだ後に、皆で中に。案の場魔物の強襲を受けるが、既に内部の様子はクラウディアが音魔術で調べていた。
あたしが先に爆弾を放り込んで置いて。
足を踏み入れるふりをして。巨大な蜘蛛の魔物が出てきた瞬間に起爆。一瞬で氷漬けになった人間の十倍はある蜘蛛を、レントが一撃で叩き砕いていた。
部屋の中は強靭な糸だらけだ。
火を使うと酸欠になりかねないので、冷気爆弾で部屋を完全に爆破して。中にいた蜘蛛の眷属は全て駆除する。
まあ、残念ながらわかり合えない相手だ。
処理を終えて、中に足を踏み入れる。
蜘蛛の糸は、同じ太さだったら鋼鉄以上の強度を誇る。しかもこのサイズの蜘蛛だと、それが縦横無尽に走っている。鉄線が張り巡らされているのと同じだが。強烈な冷気で冷やされた蜘蛛の巣は、簡単に粉々に砕けていた。
あたしが熱魔術で、人間が活動できる温度に戻したのも効いているかも知れない。
冷やされて温められて、温度差に耐えられなかったのだ。
蜘蛛の巣を、セリさんが植物魔術で豪快にどける。
餌になった魔物の残骸に混じって、やはり誰かの遺品らしいものもある。持ち帰らずにおく。
これなら、誰かがとっていく事もないだろう。
「部屋の中は、何も無いな……倉庫だって話なのに」
「うん、おかしいね。 他の部屋も調べて見る?」
「……気になる事がある。 今日は種だけ回収して、後は痕跡を消して戻ろう。 ディアン、駄目になっているのでいいから、種は見つかりそう?」
「おう。 基本的に、この線に沿って、此方から掘っていくんだ。 あの辺りはもう掘り尽くしていて、徐々に此方に向かって掘っていたんだが。 多分この辺りなら……よし、これだ」
ディアンが、手慣れた手つきで掘り出す。
地面から出て来たのは、これは何だ。
円筒形に、円錐がくっついている。大きさは一抱えもある。それも円錐は比較的緩やかで。なんというかこれは……。
禍々しい。
ディアンが淡々と説明する。
「昔は箱に入って縦に並べられてぎっしり詰まっていたらしいんだ。 今はこうやって地面から掘り出す。 これは……かなり状態がいいな。 或いはそのまま使えるかも知れない」
「……此処の部分の金属、ひょっとして」
「ああ、間違いない」
そう、それは。一目で分かった。鉱山の山にあった、毒物にしかならない鉱石。
だとすると、これは。
何かしらの力で、投射する兵器だとみて良いだろう。
渡されて持って見ると、かなり重い。円筒の底の方が潰れてしまっている。というか、全体に大きな負荷が掛かっていると見て良い。
「なるほど、やっぱりこっちを先端にして投射したんだ。 でも本来は投射されて炸裂していただろうこれが、何らかの形で無効化されて地面に落ちて……それで長い年月で埋まったんだね」
「うん? どういうことだ、ライザ姉」
「これは恐らくだけれども、何かしらの機械を使ってこう勢いよく投射して、敵を殺傷するために使っていたんだよ。 この辺りの金属は、相手の装甲を貫通するため。 内部には、毒物として更に相手を殺傷できるための金属が詰まっていて、相手に着弾すると同時に炸裂していたんだと思う。 此処に動力の元になるような力が溜まっていたんだろうね。 それは恐らくだけれども、相手に着弾したときに炸裂して、更に殺傷力を上げるためのものだったんだと思う」
「えっ……」
ディアンがフリーズする。
この子のこんな反応、初めて見た。
あたしの発言を聞いて、青ざめているのはフェデリーカだ。あたしが言ったことを疑っているとは思えない。
これがとんでもなく恐ろしい兵器で。
それもまったく通じなかった。
この城を攻めた相手には、である。
タオが、咳払いした。
「そろそろ一度撤収しよう。 痕跡を消して、足跡なんかも全て消して、城を出るよ。 そうしないと、種拾いのために斥候をしに来ている人と、鉢合わせるかも知れない。 ライザの発言は多分間違いないと思う。 だけれども、詳しい解析はあとでアトリエでやろう」
「そうだな。 皆、順番に城の裏手から出てくれ。 足跡は俺が消して回る」
「お願いしますクリフォードさん」
「行くぞディアン。 考えるのは、後にしろ」
レントがディアンの手を引っ張る。
その瞬間、ディアンが、ドス黒い怒りを吐き出していた。
「俺たちが宝だと思っていたものは、ただの殺しの道具だったってことか。 それもライザ姉の話を聞く限り、相手をどうやって苦しめるか、それだけ考えて作られたような」
ディアンの怒りももっともだ。
人間だって、魔物に対して戦わなければ、生きていけない。殺すための道具は、極めて非人道的だ。
それでもこの「種」に篭もった殺意は尋常じゃ無い。
防がれたにしても、どうやったかは分からないが、相手の方が上手だっただけであって。恐らくは人道だのなんだのが理由ではないだろう。
この激しい破壊跡。
更には状況証拠。
この城は、攻められたのだ。攻めたのは魔物ではないだろう。恐らくは人間だとみて間違いない。
そしてこの種は、守りの側が使ったもの。
戻りながら、完全に無言になったディアンを守るようにして、急ぐ。
ともかく、今はこれを研究する。
そして、一度、仕切り直す必要があった。