暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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見る人が見ればすぐに分かる苛烈な戦闘の跡。

そして種の正体がプレイヤーからすれば一目でわかる事もあります。

攻め手側……神代の錬金術師は、つまるところ近代兵器をものともしなかったということですね。


3、攻めと守り

流石に遺跡が古すぎる事もあって、本などは残っていなかった。残っていたとしても、魔物が後から全て台無しにしてしまったり。

 

或いは価値もわからず全て荒らしてしまったのだろう。

 

そして風雨が何もかもを洗い流した。

 

フォウレの里の民は、恐らくだが。

 

あの城の守り側の人間の子孫だ。

 

そうなると、神代。それも下手すると千三百年くらい……そんな時代から世界を放浪して。

 

各地で細々と生きてきた事になる。

 

それで機具の知識……神代の道具の知識なのだろうが。それを継承していたのは凄いとしかいえない。

 

ディアンの話によると、恐らくは今の験者が、各地で定着した同族からも話を集めて、機具の知識を更にブラッシュアップしたとみて良いが。

 

回収出来た種は、ディアン曰く使えるもののかなり力が失われているらしい。早速解析させて貰う事にする。

 

力、か。

 

そも相手を殺すための力だ。

 

それを考えると、それが失われているのは良いことなのかも知れない。

 

しかし、今このフォウレの里の生命線になっている機具の動力源でもあるのだ。

 

元々兵器として相手に投射していただろうものだ。

 

それを動力源にしたという事は、本来あった動力を回収したり、或いは活用する技術を既に失ってしまっているのだろう。

 

そう考えてみると、これを一概に否定も出来ない。

 

形を変えて、もっと効率よく機具を動かす方法を考えるべきか。

 

いや、ダメだ。

 

フォウレの里の人には、そもそも「種」を使って動力にする程度の技術と知識しか残っていない。

 

それが残っているだけでも凄い事なのだ。

 

そう考えると、それを頭ごなしに否定して、原始的な生活に戻れとかいうのは論外としかいえない。

 

機具にしばらくは頼り。

 

やがて別の動力で機具を動かせるようにしていく。

 

それまでは、どうにか機具と種でやっていけるようにする。

 

その助けをするのが、現実的だろう。

 

それにだ。

 

古くは殺戮の為の道具だったとは言え。

 

あたしにも、これをどうやって投射したのかが分からない。

 

恐らく投射のための道具は、全て攻めこんだ側が破棄してしまったのだとみていい。役に立たなくなった種だけが、放置されていたのだろう。

 

エーテルに種を溶かして研究する。

 

その間、ディアンは隅っこで膝を抱えていた。

 

それはそうだ。

 

この里の事に反発はしていたが。

 

そもそも種がこんなろくでもない代物だったとは、思ってもいなかったのだろう。

 

流石に知識のある人間が見て、即座に兵器でしたと断言されたら、衝撃だって受けるだろう。

 

今の時代は、アーミーがあった時代の何十分の一しか人間が生きていないのである。

 

そんな時代で、如何に効率よく人間を殺すかなんて話をされたら、それは衝撃を受けるのが普通だ。

 

今の時代、人を殺して面白がるのは匪賊かならず者くらいで。そういうのも、アーミーがあった時代に比べれば本当にごく少数だろう。魔物の脅威が凄まじく、とてもそんなことをやってはいられないからだ。

 

あたしも匪賊を駆除した事はあるが、ああいうのは其処まで人間にとっての脅威ではない。

 

嘆息すると、分析を続ける。

 

やはりというか。

 

音を超えるような速度で、どうやってかこれを投擲。そして投擲した先で、相手の装甲を貫通しながら爆発。

 

更に言えば、毒物をまき散らして念入りに殺傷する。

 

そういうものだったのだとよく分かった。

 

あの鉱山は、城を守っていた側が掘っていたものだったのだろう。この辺りに存在した小国だったのかも知れない。

 

小国であったとしても、今の王都なんかよりもずっと人がいたのだろうが。

 

古代クリント王国の記録は、去年王都で散々みた。

 

その当時の人間は、勝った側が負けた側の全てを奪い尽くすのが当たり前だった。古代クリント王国がたまたま勝ち残っただけで、他の国も大差なかった。

 

恐らくは、神代も。

 

あまり考えたくは無いが。

 

神代の人間にとっては、神代の錬金術師が登場するような。神代の錬金術師が、自分達は神にもっとも近く、全能にもっとも近く、強いから何をしてもいいと考えるような土壌は。

 

当たり前のものだったのではあるまいか。

 

だから、登場すべくして神代の錬金術師達は登場したのか。

 

そう思えてくる。

 

少し休憩を入れる。

 

クラウディアが焼いてくれたクッキーを食べる。それで、しばらく無言で頭を冷やす。紅茶も淹れてくれたので、有り難くいただく。

 

「王都のものと比べるとずいぶんと味があっさりですね」

 

「お砂糖とかは控えめにしているの。 口に合わない?」

 

「いえ、とても美味しいです」

 

隣でパティが褒めているが。

 

今、隣にパティがいる事に気付いていた。

 

どうも最近、色々見えすぎるようになってきている。その代償か。隣に誰がいるのかも、時に見えなくなっている。

 

それは良い事だとは思えない。

 

クラウディアに礼を言うと、調査に戻る。

 

いずれにしても、種の中に充填されていた力の正体は理解出来た。

 

セプトリエンほどではないが、かなり圧縮された魔力の塊だ。それは消耗する。ただし、圧縮の度合いが凄まじかったので、簡単には無くならなかった。

 

古代には魔力を圧縮する何かしらの技術があったのだろう。

 

ただ、それは古代クリント王国くらいの時代には、既に失われていた。

 

連中はフィルフサを動力源として、つまり家畜としようとしていた事がわかっている。つまり、それくらい困っていたと言う事だ。

 

この時代は、違った。

 

神代のメインストリームでは無い国家ですら、魔力の圧縮は当たり前にやっていたということだ。

 

問題はそれがどうやったのか分からない。

 

その辺に転がっている魔石なんかも、魔力の圧縮の結果生じているが。魔石程度では、こんな圧縮率はたたき出せない。

 

少し考えてから、セプトリエンをセットしてあるトラベルボトルに潜る。其処で、劣化版のセプトリエンを回収出来る。

 

回収するのはちょっとでいい。

 

出現する魔物の戦力が尋常では無いので、あまり長居は出来ない。あの森の魔物と同等くらいには強いのだ。

 

すぐに引き上げて、回収してきた劣化セプトリエンを、何倍にも希釈。そうすると、拳大の石が、一抱えもある岩になる。

 

それを、そのまま種に詰めてやる。

 

実の所、種の機能の大半……殺戮兵器としての部分は、機具では活用していないとみていい。

 

ただ、あの機具。

 

大きさから考えても、種を丸ごと取り込んで、そして動力源として使うための仕組みが内部にあるのだろう。

 

「ライザ姉、使える種を作れるんだな」

 

「今できた」

 

「そうか……」

 

「ただ、問題が幾つかある。 これを量産する方法が必要になるかな」

 

それも、だ。

 

ただ量産するだけではダメだ。

 

恐らくだが、機具の性能では、種の動力を殆ど垂れ流していた。機具を改良して、動力を垂れ流すことなく使い。

 

更にこの種の動力を、漏出し放題にするのではなく、適切に使えるように調整する必要もある。

 

ついでに、量産も必要になるだろう。

 

「今まで使いきった種は、どこかに捨てていた?」

 

「フォウレの里の裏手に、種の墓場がある。 そこでうめて供養してる」

 

「……埋めているのは、恐らく危険があるって知っているからなんだろうな」

 

「やっぱり俺許せねえよ。 これ、人間を粉々のバラバラにして、直撃しなくても毒で殺すような代物なんだろ。 そんなんに頼っていていいのかよ」

 

ディアンが怒る。

 

まあ、気持ちはわかる。

 

だけれど、クラウディアが静かに諭していた。

 

「道具ってのはね、使い方次第なんだよディアン」

 

「クラウディアさん、でもよう」

 

「ディアンの斧だって、人間の頭を切りおとしたりたたき割ったりできるでしょう。 そうしなければいいだけなの。 魔物を殺して、人間を守るためだけに使えば良い。 この種も、同じだよ」

 

効率はちょっと悪いけれどね。

 

そうあたしは内心で付け加えたが、まあそれを言うつもりもないだろう。

 

さて、と。

 

思いついた。

 

実は、魔石の力を漏出させずに、長期間用いる技術だったら、既にあたしは知っている。去年王都で見た。

 

封印を守っていた魔石は、半壊してしまっているものもあったが、それでも数百年ももったのだ。

 

フィルフサを封じるという大役を果たしながら、である。

 

ならば、魔石をコーティングしてやれば良い。

 

加工して、種の起爆部分に収めるようにした魔石を。コーティングする。コーティングの技術はそれほど難しく無い。

 

多分、ある程度魔術が使える人間と。

 

その辺りで集められる素材があれば、出来る筈だ。

 

丁寧にコーティングして、魔力の漏出を抑える。

 

ついでに、毒物鉱石の部分はカット。無害なだけの石に置き換えてしまった。

 

それにしても、城の中に草木が生えていないわけである。

 

この毒物鉱石が、城の地面にわんさか埋まっていたのだから。

 

ともかく、これで研究は終わったとみて良い。

 

次は、門の確認だ。

 

「ディアン、これで最悪の事態に備えての切り札は用意できたと思う。 明日は門について調べる。 案内を頼めるかな」

 

「ライザ姉、本当に何でも出来るんだな。 なんだか暴れていただけの俺がバカみたいだ」

 

「いいんだよ。 あたし達だって、錬金術に出会うまでは、ずっとディアンと同じようなものだったんだから」

 

その言葉は、あたしの本音だ。

 

それにディアンは、弱い者いじめの類は一切しなかったという証言も得ている。

 

それで、充分だった。

 

 

 

翌日も、森の魔物を駆逐しつつ、城に潜る。

 

案の場、昨日は夕方くらいから斥候が入っていたらしいのだが。タオの提案通り、そうそうに退散して正解だった。

 

鉢合わせた可能性も、低くは無かっただろう。

 

城の中に入り、建物を順番に調べて行く。

 

問題の装置がある辺りは、慎重に調べるとして。城の中の魔物は、出来るだけ駆逐していった方が良いだろう。

 

工房、という建物を見つけた。

 

内部を調べて見るが、やはり魔物の巣だ。巨大なワームが住み着いていたが、即座に焼き切った。

 

森の魔物に比べると、戦力は一段落ちる。

 

それに、倒してもどうせすぐに次が住み着く。遠慮無く駆逐してしまって大丈夫だろう。

 

調べて見るが、ここも中身は空っぽだ。

 

「見事なまでに何も残っていないね」

 

「掃除までして引き払いました、って雰囲気だな」

 

タオとクリフォードさんがぼやいている。

 

タオによると、この工房の文字は、恐らく「攻めた側」の言葉。

 

つまり元からあった別の用途の施設を接収して、自分達で使っていたものではないか、ということだ。

 

ある程度の施設はあったのかも知れないが、綺麗に引き払われている。

 

要するに、此処での用事は果たした、ということだろうか。

 

無言で他も調べて行く。

 

綺麗に何もかも引き払われている場所ばかりだ。

 

ある場所で、大量の人骨を見つけた。乱暴に燃されて、積み重ねられたという風情だ。

 

これは恐らくだが、守っていた側の人間の成れの果てだろう。

 

勝ったから、皆殺しにして。

 

此処に積み上げて、燃やして処分した。

 

そういう乱雑な扱いだった。

 

戦った相手への敬意なんて、微塵もない。そういう時代だったのだと、一目で分かる光景だった。

 

ただ、フォウレの里の人達は生きている。

 

そうなってくると、この亡骸は。

 

非戦闘員を逃がすために、最後まで盾になって残った戦士達だったのかも知れない。

 

「攻めた側と守った側がいるとして、そもそもなんで戦争なんかが起きたんだ。 それがよく分からないな」

 

「石版とか、碑文とか、そういうのはない?」

 

「ない」

 

クリフォードさんがぼやくくらい、何も出てこないそうだ。

 

そうか。

 

この城は、本当にどうしてアーミー同士の殺し合いの場になったのだろう。

 

竜風という災害でもびくともしない城を、此処まで壊して。更には内部を造り替えるほどだ。

 

それだけのコストを掛ける意味が、攻める側にもあった筈である。

 

どうにもその理由が見いだせず、あたしは困る。

 

しばし調査をしていると、パティが見つける。

 

「タオさん、ライザさん、クリフォードさん」

 

「ん? 何かみつけた?」

 

「文字とかではないんですが、この辺り、ちょっと変じゃないですか?」

 

「……」

 

タオとクリフォードさんが駆け寄って調べる。

 

確かに妙な場所らしい。

 

何かが建てられていたが。

 

まるごと撤去された。

 

そういう雰囲気だと、タオは言う。

 

「むしろライザの担当じゃないかなこれ」

 

「ん? 魔術系ってこと?」

 

「そうなるね。 羅針盤とか使える?」

 

「できない事はないけど、あれって古すぎる思念は拾えないよ」

 

王都近辺でも、実際「星の都」の跡地で確認している現象だ。古すぎる思念は、霞のように消えてしまうのだ。

 

よほど強い情念でもない限り、拾う事はできない。

 

ただ、ふと気付く。

 

手を地面につけてみて、それで理解していた。

 

「ああ、なるほど。 確かにあたしの専門分野だわこれ」

 

「流石だね。 それで?」

 

「竜脈だよこれ」

 

「!」

 

此処は、地面近くに竜脈が来ている。触ってみて分かったが、かなりの魔力が自動的に溢れている。

 

理解出来た。

 

此処に、あの「種」の心臓部を加工している場所があったのだろう。

 

それに、だ。

 

竜脈と門は、かなり関係が近い。

 

セリさんが言うには、この城から来たと言う話だったし。この近くにやはり門はあるとみて良い。

 

門の存在だけでも確認はしておきたい。

 

「ディアン、問題の装置の場所、教えてくれる」

 

「ああ。 でも気を付けてくれよ。 人間に対しては、もの凄く敏感に働くんだ」

 

頷いて、城の奧に。

 

数度の戦闘があったが、どれも森の魔物に比べればどうってこともない。奇襲を仕掛けて来るケースもあるが。

 

クラウディアとクリフォードさんが容赦なく場所を暴くので。

 

後は、むしろ奇襲をこっちから仕掛ける側だ。

 

通路の天井に潜んでいたり。

 

部屋の奥で擬態していたり、色々だったが。

 

どれも即座に焼き払っておしまいである。

 

魔物の死体も、全て回収しておくか、処理しておく。後から来る種拾いに、不審に思われるのも困る。

 

調査しながらの作業だ。

 

思った以上に時間が掛かる。

 

例えこの城が、城壁くらいしか残っていない。ほぼ張りぼてだとしてもだ。

 

タオが言うには、内部にある建物などの構造物は、あらかた「攻めてきた側」に破壊されたようだという。

 

残っているのは、城壁と、一部の箱だけ。

 

だから、城の中身はほとんどがらんどうに感じてしまう。

 

「あれだ」

 

ディアンが指す。

 

ただの棒に見えるけれども、かなりの角度をカバーしていて。そして探知しているようである。

 

しばし観察させてもらう。

 

フォウレの里にある機具とは、出来からして違う。

 

多分だけれども、攻めてきた側が、そのまま残したものなのだろう。

 

自分達にも有用だと判断して。

 

神代の道具、ということだ。

 

機具にとってはご先祖様、というわけである。

 

「同じものが幾つか里にもあるんだが、動力が種とは違うらしくて、城にあるこれしかほとんど動いていないんだ。 動いてはいるが、精度がかなり低いらしくて」

 

「ライザ、構造は分かりそう?」

 

クラウディアに言われる。

 

しばし手をかざして見ているが、やがて何となく理解出来た。

 

熱源を感知する場所と、その範囲がどれくらいという話を聞いて。それである程度ぴんときた。

 

あれは機械で出来た目だ。

 

人間が使っている目ほど精度はよくなくてもいい。

 

ただ何かある事に気付いて。

 

それが人間ならば反応する。

 

それだけで良いのである。

 

奧には、何かある。

 

かなり建物が無事で残っている……というかかなりちぐはぐだ。巨大な城壁に囲まれた構造体だが、そこにある扉には。

 

例の竜の紋章が刻まれている。

 

決まりだな。

 

「あの扉だけ、後でつけたんだね。 これ見よがしに、あの紋章まで刻んで」

 

「うん。 これではっきりした。 この城を攻めて取ったのは、あの群島の奧の宮殿を作った人間と同じか、同じ集団、或いは同じ文化の持ち主だね」

 

「戻ろう。 あの装置、微妙に動いているのを確認できた。 騙す方法についても、思いついた。 多分上手く行く」

 

「ただ気を付けろ。 奧に大きな気配がある。 何回か話題になった、城の主だろうぜ」

 

クリフォードさんが、いるだろう敵について、話してくれる。

 

上等だ。

 

勿論存在している事は分かっていたから、戦う覚悟もしていたし。

 

城の外では、小山のようなサイズの魔物ともやりあったのだ。

 

今更、それで負けるとも思わないし。負けるようだったら、この先進めないのも、また然りだった。

 

 

 

アトリエに戻ると、ディアンを呼びにデアドラさんが来た。

 

昨日の斥候が、魔物の数が思ったより少ないと報告したことで、種拾いが久々に出る事になったのだ。

 

それで験者が号令を掛けたらしい。

 

「ライザ殿達が、森の魔物をかなり減らしてくれたおかげで、我等だけでも種拾いが出来そうだ。 ディアン、同行しろ。 お前の力も必要だ」

 

「分かった。 行ってくる、ライザ姉」

 

「行ってらっしゃい」

 

ディアンを送る。

 

あまりディアンとしては良い気分じゃないだろうが。

 

それでも、不審ではないように立ち回って貰う必要がある、ということだ。

 

あたしは淡々と装置をつくる。

 

あの見張りの装置を騙すには、単純に目を塞いでしまえば良い。

 

元々、人間を確認できたときだけ反応しているようなのだ。だったら、人間の反応がなければ、誰も問題にもしないだろう。

 

目を塞ぐ方法は簡単。

 

熱を誤認させれば良い。

 

装置の形状からして、それほど「目」の部分は大きくもない。

 

神代の頃だったら、異変に気付かれたかも知れないが。

 

残念だが今のフォウレの里の技術力では、それに気付きようがないのである。

 

「フィー、ちょっといい?」

 

「フィー!」

 

フィーに出て来て貰う。

 

フィーは結構重いモノを持ち運びできる。

 

実際、パティが滑落事故を起こしたときに、救助することに成功しているのである。自分の体重よりも遙かに重いものを抱えて飛べるのは、翼に強い魔力が篭もっているからである。

 

生物としてのスパンがそうだからか、成長している様子は殆ど見られないが。

 

それでも、もうあたし達の言葉は全て理解出来ている。

 

魔力に対する危険反応とかは、あたしよりも高いくらいで。

 

実際サルドニカでのフェンリル戦では、随分助かった。

 

「これを抱えて、あたしが指定したものに被せられる?」

 

渡すのは、頭巾のようなものだ。

 

あたしが作った布に魔法陣を織り込んで、常時熱を発する事が出来る。それで、あの監視用の装置の目を丸ごと塞いでしまうのだ。

 

フィーは、フィッと胸を張ってみせると。

 

実際に容姿した更衣用の服かけをあたしが指定すると。それにすぐに頭巾を被せて見せた。

 

よし、上出来だ。

 

「はい、良く出来たねフィー。 本番は明日。 同じようにするんだよ」

 

「フィー!」

 

「考えましたねライザさん。 フィーにやってもらうのなら、危険を一切なくその頭巾を被せられます」

 

「本当だったら、これだとダメなんだけどね。 今の時代だと、もうあの装置をまともに扱えていないから」

 

フェデリーカに、事情を説明。

 

フェデリーカは、恐らくはロストテクノロジーというものを知っているからだろうか。それで、事情を察して黙り込むのだった。

 

いずれにしても、これで準備は整った。

 

帰り道には、毎度この頭巾を外してやれば良い。それもフィーには難しく無いだろう。

 

手を叩いて、皆の視線を集める。

 

「明日はまた大一番になる。 城に住み着いている大物の魔物が、どんな奴かは分からないけれども、かなりの難敵だと思う。 そいつを排除して、門が存在している事を確認する」

 

「門があった場合は、どうする?」

 

「門の状態を確認して、それからだね。 状況から考えて、十中八九自然門だとは思うけれど……その場合も、アンペルさんに門を封じる装置を作ってもらう必要が生じてくると思う」

 

どっちにしても、アンペルさんが必要だと言う事だ。

 

あたしでもできない事はないのだが、門と関わってきた年月はアンペルさんの方が上で、出来ればアンペルさんの意見を借りて対応をしたい。

 

理論は分かるのだが。

 

門の状態を見て、適切な対応を下す事に関しては、アンペルさんの方が上である。

 

「その、門の向こうにはフィルフサって恐ろしい魔物がたくさんいるって話でしたけれど……」

 

「今回は門はまだ潜らないからそれについては心配しなくても良いよ。 あくまでまだ、だけれども」

 

「フェデリーカ、フィルフサがこっちの世界に出て来ているような状態だったら、あんなちゃちな門では防げません。 フォウレの里も含めて、この辺りがとっくに更地になっていると思います」

 

パティが脅かすようなことを言うので、フェデリーカが真っ青になる。

 

パティもひょっとして、フェデリーカに嗜虐心を刺激されているのか。

 

いや、そんな事もあるまい。

 

多分この子のことだから素だ。

 

「パティはフィルフサという魔物と戦ったんですよね」

 

「はい。 恐ろしい魔物です。 森の魔物と違って、生物としてのあり方が根本的に私達とは違いますね」

 

「特徴は聞いていますが、私なんかで役に立てるんでしょうか」

 

「フェデリーカの舞いで三割以上皆の力が底上げされます。 それは戦力が三割増しになると言うことで、大いに役に立っています。 ライザさんの装備品の能力上昇率が異常なだけで、フェデリーカは戦略的にいる意味が大いにありますよ」

 

パティらしい論理的な言葉だ。

 

軍学的に理路整然とした説明を聞かされて、フェデリーカはしばし困惑していたようだが。

 

ありがとうございます、とだけ返していた。

 

種拾いから、ディアンが戻ってくる。

 

すぐに話は共有しておく。

 

明日、あの門をどうにか調査して。内部を調べる。それだけが伝われば充分だ。門を調べるときに、十中八九城の主との交戦が起きることも。

 

「いよいよだな。 種拾いを大勢殺してきた奴だ。 倒せば、俺たちもきっと認めて貰える」

 

「城の外で交戦したって事にするかな。 タオ、パティ、奴が出現したら、城の外まで引っ張り出せる?」

 

「分かった。 任せてよ」

 

「タオさんの護衛はしっかりやります」

 

敵の誘引には、快足のタオが適任だ。

 

タオだけではなく、パティもついてくれれば心強い。

 

さて、此処からだ。

 

「ディアン、それで城の主ってのはどんな奴か聞いている?」

 

「でっかい人型だって話だ。 金属みたいな体を持っている魔物で、凄まじいパワーで硬くて早くて手に負えないらしい。 しかも人間を好んで食うって事だ」

 

「ゴーレムの類種か? それにしても人間を食うってのはどういうことだ?」

 

「伝承が歪められて伝わっている可能性は否定出来ないだろうね。 いずれにしても、種拾いが全滅させられたことがあるって事は、かなりの難敵だとみて良いだろうし、油断は禁物だよ」

 

タオがタオらしく注意するが。

 

それにしても、人間を喰らうゴーレムか。

 

金属や鉱石で体が出来ているとすると、去年王都の遺跡で似たようなのと交戦したが。

 

もしも神代の。それも神代全盛期のゴーレムだとすると、更に戦力は上だとみて良いだろう。

 

そうだ。

 

「セリさん、此方に来たときに、それらしいものは見ませんでしたか?」

 

「いいえ。 植物魔術で壁は一息に越えたし、そういう魔物らしいものは見なかったわ。 神代の人間が作ったゴーレムは何度か見てきたけれども、もしもそれが暴れ出したのだとしたら……」

 

いや、分からないとセリさんは言い直す。

 

あたしは、何となく分かる。

 

この土地に住んでいた人間を追い出して、後から居座った者達がいる。その者達は、何処かに消えてしまったようで、痕跡はないが。ともかく、城は其奴らに一度乗っ取られたのだ。

 

だとすれば。

 

その城を乗っ取った奴が放置して行ったゴーレムだったら、どういう命令が下されるだろう。

 

考えられるのは一つ。

 

フォウレの里の住民……正確にはその先祖だが。

 

皆殺しにしろ、だ。

 

セリさんが城を通ったときは、まだフォウレの里は再建されていなかったのだと判断して良い。

 

古代クリント王国が終わって、やっとフォウレの里は長い長い流浪の旅から解放されたのだ。

 

ただ、城は魔物に占拠されていた。

 

それに、フォウレの里の民の帰還に、ゴーレムは気付いたのかも知れない。

 

まあ、あくまで仮説だ。

 

実際には、現物を見てみないとなんとも言えないが。

 

「神代のゴーレムの場合、飛び道具をもっている可能性も高い。 誘引はくれぐれも気を付けてね、タオ」

 

「うん、分かってる」

 

タオも既に百戦を経た歴戦の戦士だ。

 

後は、明日。

 

油断せず。

 

充分に、敵に備えて出向くだけだ。

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