暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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原作では二度交戦しているライザとフィルフサ。この作品では、更に複数回フィルフサと交戦して門を閉じているライザ達です。

既に門を見つけた場合の対応については手慣れています。

フィルフサ相手に正面戦闘は今のライザ達でもリスクが高すぎるのでやりません。

やるのは水攻めです。

やらなくて済むのならよいのですが。


2、門の先にある門

あたしは途中で水を準備していく。

 

四度のフィルフサとの戦闘。

 

その際には、必ず土砂降りにして。それで地形的な有利を取った。そうしないと、フィルフサの万単位の群れには勝てないからだ。

 

フィルフサは単独でも魔物として強く、その上生物急所が存在していない。将軍はそれぞれがドラゴンと同等かそれ以上の強さ。王種に至っては、弱体化していても苦戦しなかった事がない。

 

王都で交戦した王種が一番強かったが、それ以降二度倒した王種も、いずれ劣らぬ強者だった。

 

そんなのが、まだまだオーリムにはいるはずだ。

 

だから、水を吸い込み、放出する道具は今も用意してあるし、いざという時の切り札として用いる。

 

古代クリント王国の人間は、水を根こそぎ奪うのにそれを用いたが。

 

あたしは精々数日雨を降らせるだけだ。

 

それでかまわない。

 

フィルフサを滅ぼすには、それで充分だからだ。

 

水についても、すぐ近くに山ほどある。

 

その一部を拝借する。

 

なお、使わない場合は戻す。それだけの話である。

 

森の中を流れている大河から、水を吸い上げているあたしを見て、クラウディアが言う。クラウディアも、四年前の乾期以来、何度もフィルフサとの戦闘に参加し勝利している、フィルフサキラーの一人だ。

 

「門が閉じられている場合は、その時はその時で工夫がいるね」

 

「うん。 ただ封印の仕組みはあたしも分かってる。 それに……」

 

セリさんが言うには、その門を通って此方に来た。

 

その門の向こうには、オーリムでも最強格の戦士達が集う最後の砦があるということで。今も其処を守って、フィルフサを防いでいる可能性が高い、ということだ。

 

勿論、今の状態は分からないが。

 

アンペルさんは此処に来た事がないという話だし。ずっと放置されていた城の奥にある門に、今更封印がされている可能性も高くないと思う。

 

そしてフィルフサが溢れていないと言う事は。

 

そのオーレン族の人達は、無事だと信じたい。

 

まあ、ともかくだ。

 

城にいって、現状を確認する。それだけである。

 

水、確保完了。

 

城の中に。

 

まずはフィーに、対人検知装置に頭巾を被せてもらう。これで、ひとまずは問題はないだろう。

 

問題はその次である。

 

竜の刻まれた門の前に出る。しばらくタオとクリフォードさんが周りを調べたが、結論を出していた。

 

「この門はダメだな。 開くための機構がない」

 

「少なくとも機械的な仕組みで開く門ではないよ」

 

「だとすると、この見せつけている模様もある。 これだろうね。 ……皆、さがって」

 

あたしが鍵を取りだす。まだ力を取り込んでいないものだ。

 

そして、それを門にかざすと。

 

見る間に鍵が青く染まる。

 

この先には、余程強力な竜脈があるとみて良い。そのまま、鍵は門に吸い込まれ。そして、門を開けていた。

 

無言で、見守る。

 

門はいとも簡単に開いていた。セリさんは植物魔術で足場を作って、無理矢理乗り越えたらしいのだが。

 

レントを先頭に、前に。

 

クリフォードさんもクラウディアも、敵影なしと知らせてくれている。ならば、信用して良いだろう。

 

奧へ。

 

ゴーレムがいたらしいくぼみがある。普段はここで膝を抱えて座っていたのだろうなというのが分かるくらい、大きな何も草が生えていない土地がある。それどころか、何種類か機械もあった。

 

動力でも補給していたのかも知れない。

 

どちらにしても、迷惑な話だ。

 

神代の錬金術師達がどこに行ったのかは知らないが、玩具は片付けてから帰れと言いたい。

 

わざと残したにしても、もう追い払った相手だ。更に必要がなくなった土地だ。

 

そこの所有権を主張するために殺戮機械を残すなんて、ちょっと色々と異常すぎる。どこまで欲が強いのか。

 

奧に歩いて行くと、植物がある。

 

「セリさん、これは……」

 

「ええ、間違いない。 オーリムのものよ」

 

「やはり……」

 

「それもこれは一年草で、この土地では根付くことはあっても繁殖することはないわ。 つまり……何処かから飛んできて、短時間根付いていると言う事よ」

 

なるほどだ。

 

そして、門の奥の空間は、奧へ続いていた。

 

この構造、王都近くのあの自然門に似ている。あれも地下から洞窟になって、地上に入口が伸びていた。

 

此処は洞窟でないだけで、坂になっている。最深部には、やはり間違いない。

 

黒い穴だ。

 

それは開いている。今も。

 

間違いない。

 

自然門だ。

 

周囲に古代クリント王国が開けた門に見られる「聖堂」の構造体が存在していない。つまり、これは。

 

王都近郊にあったのと、同じものだとみて良い。

 

それよりも気になるのは、竜風というものを防ぐ事が出来ていたという記述だ。周囲を確認する。

 

確かに、派手に地面が定期的にえぐれている様子だと、タオが言う。壁などにも、定期的にダメージが入っている様子だと、クリフォードさんが調べてくれた。

 

だとすると、百年に一度だかの頻度で、此処から台風以上の災厄が来ているのは間違いが無さそうだ。

 

問題はそれがどうして、だが。

 

それについてはちょっと分かりようがない。

 

エンシェントドラゴンの西さんともう少し会話が出来ればまだ可能性はあったのかも知れないが。

 

西さんもあの時、最後に伝える情報だけしか伝えられなかった雰囲気だったのだ。

 

残留思念として、あたしとある程度会話できただけでも、エンシェントドラゴンの最後の意地だったのだろう。

 

その伝えた情報が不完全だと言う事で、あたしは別に怒る事はない。

 

「間違いないわ。 この辺りのは、ごく最近に生えているオーリムの植物ね。 どれも一年草で、こっちでは環境が違うから繁殖が出来ないわ」

 

「そうなると、向こうはフィルフサに踏みにじられていないって事だな」

 

「……よし。 後はアンペルさんとリラさんを解放しよう。 その後、門を潜って、様子をみる事になりそうだね」

 

「やれやれ、やっとだな」

 

レントが呟く。

 

遠回りを続けたようにも思うが。

 

フォウレの里近辺から多数の魔物を駆逐した。それだけでも、充分過ぎる成果だとみて良いだろう。

 

誰も不幸せにならない結果なのだ。

 

それを馬鹿にする奴は、あたしが許さない。

 

ともかく、一度戻る。門は簡単に閉じた。あたし達が出るのを待っていたかのように、である。

 

鍵を簡単に作れる奴でないと、通すつもりは無い、とでも言うつもりか。

 

とことん不愉快だ。

 

「これ、砕いちゃおうか」

 

「気持ちはわかるが、今は止めておけ」

 

ボオスが釘を刺す。

 

まあ、あたしとしても冗談だ。

 

此処を砕くのはできない事もないだろうが、種拾いの人達にばれる。さっさと城を離れ。

 

その際に、しっかり頭巾も回収しておいた。

 

 

 

昼過ぎ。

 

何体か魔物を帰りの駄賃に片付けてくる。大物はどんどん減ってきているし、水場でのんびりしている巨獣や、サルドニカにいたフェンリルと同種らしい大狼は基本的にあたし達に仕掛けてはこない。

 

混乱する縄張りの中、魔物が多数仕掛けては来るものの。

 

質は目だって落ちてきていた。

 

「それで、ライザ姉。 どうするんだ。 アンペルさんとリラさんを出して欲しい言っても、験者様が聞いてくれるか?」

 

アトリエで昼食をしながら、ディアンが言う。

 

あたしも同意見だ。

 

だから、幾つかカードを用意しておく。

 

「まず第一に、機具についての調整をさせて欲しいと申し出るつもり」

 

「確か種の改良が出来るって話だったよな」

 

「そういうこと」

 

レントの言葉に、あたしは順番に話す。

 

アンペルさんも、機具の改良を進めている。あたしはもう、種の改良はした。

 

正確には、元々種は兵器だったのであって、それを兵器では無い使い方をしているのが種だ。

 

それをより、動力の抽出用として特化させる。

 

素の状態で出来る魔石では、どうしても機具は動かせない。今、種に詰まっているくらいの密度の魔石でないと無理だ。

 

だから、魔石も準備しておく。

 

魔石というのは不思議なもので、放置しておいても基本的に魔力を放出しつくしてなくなるようなことはないし。

 

どんどん魔力を吸い込んで大きくなる。

 

ただそれにも限度はある。

 

だから一定以上にまでは膨らまないし。こういう密度が高い魔石は、現在では人為的に作り出せない。

 

種が消耗品となった由来だ。

 

「問題は機具を里の人達が大事にしていることだね」

 

「うん。 今の験者が輸出するようなことをし出す前までは、この方法は使えなかったと思う。 便利な道具と同時に、信仰対象だっただろうからね」

 

「そうか、験者様が里をある程度変えてくれていたから、出来る手なんだな」

 

「そうだよ」

 

あたしは皆に説明しておく。

 

いずれにしても、験者の方でも、既にあたし達の行動は見ている。里の人間も、相当数があたし達に好意的だ。

 

此処で、ノーとはいえないだろう。

 

ある程度打ち合わせをした後、験者屋敷に出向く。

 

デアドラさんもいたので、丁度良い。

 

今日もデアドラさんは、種拾いに行くのだろう。

 

験者さんは、ある程度見抜いているのか。それとも何にも動じない風を装っているのか。

 

いつも通りの雰囲気だった。

 

「ライザ殿。 良く来てくれたな」

 

「はい。 今日は用件があって来ました」

 

「伺おう」

 

「里で使っている機具、拝見しましたが……改良出来るかと思います。 特に種を長持ちさせる事が出来るかと」

 

なんだとと、デアドラさんが驚き。験者の視線を受けて、咳払いして黙り込んだ。

 

まあ、そういう意見が出るのはよく分かる。

 

あたしとしても、今の験者が改善したとは言え。この里の風通しの悪さは、感じていたからだ。

 

昔のクーケン島も、こんな感じだったんだろうなと思う。

 

そういう意味では、験者は出来る範囲で、里をよくしてきたのだろう。

 

老人達の言動に、頭を悩ませながら。

 

「古くなっている種を拝見しましたが、仕組みは分かりました。 なんなら、すぐに改良版を持って来ます」

 

「ふむ。 多数の魔物を倒して安全を確保してくれたライザ殿のいうことだ。 更に里のために此処までしただいて、言葉もない。 だが、ここまでただでやってくれるとは思えない。 何が目的だ」

 

「それでは、まず二つ条件を飲んでいただきたく」

 

「……聞こうか」

 

あたしは順番に言う。

 

城の調査をさせて欲しい。

 

これについては、どうも城が「竜風」の起点となっている可能性が高い、ということがある。

 

どうやら験者もそれは何となく知っていたようで、腕組みした末で。

 

デアドラさんを呼んで、何か耳打ちしていた。

 

デアドラさんが、ため息をつく。

 

「城に既に入っているのだろう。 城の魔物が露骨に減っていた。 種拾いの戦士達は楽で良いと喜んでいたが……」

 

「城のものには、基本的には手をつけていません」

 

「ああ、そうだろうな。 種はいつも通りの頻度で出ていた」

 

ここでいう城のものとは、フォウレの里の生活に必要なもの、という意味だ。

 

実際あの良くわからないカバーが掛けられた書物なんて、今更フォウレの里の人にも必要ないだろう。

 

「竜風は、百年に一度程度の頻度で起きるという話でしたが、その現象の根本的な原因を突き止めないと、次にいつ起きるのか、何処に被害が出るのか、分かりませんよ。 それをどうにか調査したいとあたしは思っています。 こういう災害は、他人事ではありませんので」

 

それともう一つ。

 

捕まっているアンペルさんの解放をお願いしたい。

 

あの人は古代文明のスペシャリストだ。

 

あの人と、護衛のリラさんの支援があれば、更にこの解析の確率が上がるとみて良いだろう。

 

最初から、これが目的だったのだが。

 

種の改良をまず行う。

 

種の性能を見た後、今度は機具の改良をしているアンペルさんを解放して。機具の性能を上げる。

 

フォウレの里は豊かになる。

 

そしてあたし達は、フォウレの里の災厄を取り除く。

 

順番に説明すると、験者は腕組みした。

 

「その流れは分かった。 だが不可解な事がある。 君といいアンペルという錬金術師と言い、こんな僻地で何を調べる。 確かに我々はいにしえの民の子孫だが、だからといってそれが何かの価値があるのか。 機具にしても、私も世界各地でこれ以上の性能の機械があり、だましだましとはいえ使われているのを見てきている。 そこまで画期的なものではあるまい」

 

「……他に聞いている方はいませんね」

 

「他言無用にと言う事か」

 

「はい」

 

まあ、話しても良いだろう。

 

こちらも説明しておく。

 

500年前。

 

古代クリント王国が滅びたときの話。それについては、話半分に験者も知っていたようだが。

 

当然、オーリムとフィルフサの事は知らなかった。

 

この辺りは被害を受けなかったのかも知れない。被害を受けた地域は、住民が全滅するような打撃を受けていたようだし。サルドニカを見る限り。

 

門を見つけ、閉じる。

 

門は古代クリント王国が作ったものだけではなく、どういう理屈か自然に出来るものもある。

 

いずれにしても今やオーリムはフィルフサが跋扈する魔界であり。

 

其処への門は放置出来ない。

 

開きっぱなしになっていれば、いつフィルフサが侵攻してくるが、知れたものではないのだし。

 

もしも侵攻に対して打つ手が遅れたら、人類は今度こそ本当に滅亡するのだ。

 

古代クリント王国の頃は、今の数十倍もの人間がいて。それで押しとどめるので精一杯だったのである。

 

あたしも今まで四度交戦した相手だが。

 

毎回、楽に戦えた事などない。

 

それについて話をすると、験者は納得が行ったようだった。

 

「なるほど、アンペルという錬金術師は、それが目的だったのか。 確かにそんな話をしても、信じるものはおるまい……」

 

「験者様、このような話を信用するのですか」

 

デアドラさんの視線は厳しい。

 

戦士としてあたし達を信用はしてくれていたが。こんな与太話をされてもと、顔に明らかに書いている。

 

これが与太話だったら、どれほど良かったか。

 

「古代クリント王国の破綻については、私も世界の各地を廻っているときに不審な点は幾つも感じていた。 どうしても世界を回れば気付けるおかしな事が多いのだ。 強勢を誇った古代クリント王国が、どうして跡形もなく滅びたのか。 何らかの禁忌に手を染めたという事については見当がついていたが、全てが合点がいく」

 

「そうなると自然門?というものがあの城にある可能性があると? しかし何とも不可解な話だ」

 

「古代クリント王国は、模倣者だったことが分かっています。 恐らくは……この里の先祖を、あの城から追い出したのと同じ者達の」

 

「!」

 

「そんな事まで分かっていたのか」

 

デアドラさんが黙り込む。

 

こんな短期間で、そこまで突き止めるとは思っていなかったのだろう。やはり里の人間の、古老や中心人物の間では周知の事実だったのだろう。

 

ため息をつく験者。

 

あたしは、気持ちの整理を待つ。

 

験者は色々背負うものが多い人なのだ。だから、待つ。そういうのも、分かるようになってきている。昔はそれが分からなかった。

 

「分かった。 君達がアンペルの同志だと言う事は最初から分かっていた。 だが君達は、フォウレの里の事情を汲んで、最大限の譲歩と、救出のための条件まで整えてきた。 此方としても聖地という場所が実際に今はどうなっているのか、自力で確認も出来なかった有様だ。 其処に入れるようにしてくれた上に、更に今後の生活の支援までしてくれるというのなら。 何も言うことは無い」

 

「では、種の改良版をまず持って来ます。 それで良いですか?」

 

「ああ、頼もう。 ……それにしても早急な手段を採らなかったのは何故だ」

 

「現実問題として、門があるとしても、この状況だったら開いていないか、もしくは何かしらの理由でフィルフサが入ってこられない状態なのは見えていました。 アンペルさんは元々ああいう人ですので、搦め手での攻略が苦手でして」

 

あたしの故郷でも、似たような事があった。

 

そういう事を言うと、デアドラさんはそうか、とだけいい。験者さんは、大きな溜息をつくのだった。

 

「研究者というのは、どうにも偏屈で人間的にも偏っている人が多いな。 ライザ殿ほどの英傑が師と仰ぐほどの存在であるのなら、もっと人間的に大きなものを想定してしまうのだが」

 

「人間なんて、総合力は大して変わらないんですよ。 何か尖っている人間が、尖っているほど天才って言われて。 その分欠落しているものです」

 

「そうか、そうかも知れないな」

 

「では、失礼します。 順番にタスクをこなしましょう」

 

戻る。

 

験者は、約束は破らないはずだ。

 

というのも、クラウディアとボオスと事前に話したのだが。おそらく験者の懸念事項は、アンペルさんやあたしのもくろみが分からなかった、というものである。

 

だから先にもくろみを話して、それで胸襟を開いて話したのだ。

 

それで全て想定通りに進んだ。

 

「恐らく」の確度は、これで「ほぼ間違いなく」に格段に向上したのだ。

 

勿論それでも外れている可能性はある。最悪の場合は、フォウレの里とやりあわなければならない可能性もあるが。

 

まあ、その場合は覚悟を決めるだけだ。

 

あたしもこれでも、いろんな人を見てきた。

 

くだらない人間もたくさんいたが、幸い験者はマシな方。会話がしっかりできない人間なんて幾らでもいるし。自分のルールでしか世界を見ない人間はもっと多い。こういう辺境の里長としては、出来すぎている程だ。

 

あたしだって、人の心を全部理解できるわけでもないし、むしろ鈍い方だ。

 

だけれども、側にそれがある程度わかる人もいるし、色んな状況を見てきた。だから出来る。

 

経験というのは、それだけ大きいのである。どんな優秀な素質を持つ人も、経験に恵まれなければ大成は出来ないだろう。

 

種の改良レシピは、実の所この里でも再現出来る所にまで落とし込んである。

 

錬金術だとぱぱっと終わるが、普通にも出来る所まで落とし込んだ。

 

魔石を成形する。出来るだけ質がよいものがいいか、この辺でも普通に取れるものはあるし、なんならサルドニカ辺りから輸入すれば良い。サルドニカ近辺にも特産品はあるし、なんならフェデリーカがいるので、その話を此処でしてもいいし。

 

種の一部を開いて、その成形した魔石をはめ込む。この時入れる魔石は、出来るだけ種の形に合わせた方が、もちがよくなる。

 

最後に魔石の力を流出させないように、合金を作る。

 

合金は鉱山の街で作れる。大した難易度の合金ではないし、魔法陣を彫り込むのだって同じく出来る筈だ。

 

其処で成形して、魔石を覆って、一箇所だけから魔力が漏れるようにする。

 

これで動力としては、段違いにいいものに仕上がるのである。

 

以上。

 

ディアンが、廃棄されていた種を幾つか貰ってくる。それを、錬金術でぱぱっと仕上げて改良する。

 

そして、すぐに験者屋敷に持ち込む。

 

験者が少しだけ様子が変わった種を見て、厳しい目つきになった。そして機具と呼ばれる装置……ここではどうやら糸繰り車のようだが。それから、古い種を外して、あたしが改良したものをセットする。

 

取り出しもセットも、機具を圧迫しているのが一目で分かる。

 

なんというか、糸繰り車にしては大がかり過ぎるのだ。

 

動力を無理矢理つけたという大型さで。

 

これを考案した人は、それなりに考えてはいたのだろうが。大きすぎて、人力が必要なくなった分。場所を取るし、重くもなるし。

 

何よりずっと働かせている結果、壊れやすくもなる。

 

さて、アンペルさんはこれをどう改良するつもりか。

 

設計を見直しただけでは駄目なような気もするが、まあともかくだ。

 

新しい種をセットした瞬間、糸繰り車がいきなり元気になる。それを見て、立ち会っていたデアドラさんが驚きの声を上げていた。

 

「錬金術師殿の実力は知っているつもりではいたのだが、まさかこれほどとは……!」

 

「大げさですよ。 機具が元気になりすぎますので、出力を少し抑えた方が良いかと思います」

 

「うむ、調整する」

 

手慣れた様子で、験者が装置を弄って、糸繰りの速度を下げる。元々は最大に設定していたらしいのだが。

 

種から魔力が無尽蔵に漏出していたと言う事もある。

 

それで最大設定にしていたのだろう。

 

「これだけ動きが良くなると、種の消耗も激しくなるのではないか」

 

「今後は使い切った種を自力で再生出来ます。 こちら、やりかたです」

 

「種を危険を冒して拾いに行かなくても良くなるのか」

 

「はい。 この里と、周辺の里の技術。 更には質がいい魔石さえ確保できれば、幾らでも」

 

験者が目を押さえて、頭を振っていた。

 

今までの苦労の歴史は何だったのだろうと言うのだろう。

 

デアドラさんも、言葉がないようだった。

 

だが、これはあくまで人が少なかったから。変化を受け入れるのを拒んでいたから、というのもある。

 

それと今回の件で、確信できた。

 

恐らくだが、古代クリント王国の破滅の前に。もう一段階、人間は破滅の歴史を経験している。

 

おかしいと思ったのだ。

 

神代の技術が、どんどん劣化しているのは周知の事実だった。なんでそんなことになったのか。

 

自己顕示欲の塊みたいに、あの竜の紋章を刻んで行った錬金術師集団は何処に消えてしまったのか。

 

死んだのかは分からないが。

 

急にいなくなったのだろう。

 

恐らく時代を悪い意味で引っ張っていた連中が消えたことで、残ったのはメインストリームから外れていたり、才覚で劣っていた錬金術師達ばかり。

 

何かしらの破滅が起きたのか、或いは一気に技術力の進歩が止まったのか。

 

少なくとも、古代クリント王国が登場した頃には、世界を統一していた国家なんてものはなくなり。

 

多くの国家が、血で血を洗う殺し合いをしていた。

 

そういう時代が来ていたのだ。

 

レシピを渡しておく。

 

験者も専門家だ。ひと目見て、内容を理解したようだった。

 

そして、困惑以上に驚愕していた。

 

「これは。 こんなに簡単に、種を改良出来ていたのか」

 

「今まで種は、動力源の魔石の力を漏出させてしまっていました。 この機具は少し調べて分かりましたが、魔力を動力にしていて、それを周囲に適当に拡散させる仕組みのせいで、殆どの力を浪費してしまっていたんです」

 

「……我々の努力不足だったのだな」

 

「というよりも、外からの知恵を拒む時間が長すぎたんだと思います。 それと現状に満足する時間が。 これだったら、もっと外から技術者を積極的に呼んでいれば、いずれ解決は出来ていた問題だと思いますね」

 

あたしの指摘に、験者は大きな溜息をついていた。

 

験者は、里に新しい風と血を入れるべく、非常に苦労をしたはずだ。だが、そもそも先代までの験者は、それとは真逆の方向で生きていた。里の血が濃くなりすぎて、破綻する寸前まで行っていたから、験者の改革はある程度上手く行ったが。

 

それでも無人になったフォウレの里に戻ってきた流浪の民は。

 

新しいものを受け入れるには疲弊しすぎていたし。

 

技術や知識を再編するだけで、力を使い果たしていた。

 

それもまた、事実だったから。

 

新しいものを受け入れる柔軟性を失い、更には過去の遺産の是非を見直す力も失ってしまっていたのだ。

 

いずれにしても、約束だ。

 

験者が、皆に話すといって。そして時間をくれといってくる。

 

一昼夜で、アンペルさんを解放してくれるらしい。

 

あたしはその間、更に森で魔物を駆逐してくると告げる。もう少し、恩を売っておきたいのだ。

 

デアドラさんは、それを聞いて若干呆れたようだった。

 

「我等にとってはもはや死に等しかった巨大な魔物二体、城への路を塞いで鉱山への道も通れなくしていた巨大マンドレイク、その他多数の魔物もしとめてくれて充分過ぎるほどだ。 誰にもこれは話していないが、城の中の魔物も多数仕留めてくれた。 それなのに、まだそんなに働いてくれるのか」

 

「さっきも話した通り、城にスムーズにいけるようにするのは、あたし達にとっても必須なので」

 

「そうだったな……」

 

力は使いようだ。

 

フォウレの里の人々の先祖を、この辺りから追い払ったのも錬金術師だったが。

 

今、彼等の希望を見せているのも錬金術なのだ。

 

神代の錬金術師は、力さえあれば何をしても良いと考えるような、精神が幼児以下の連中で。しかも力を自分の欲求を満たすためにしか使わなかった。だから、何処かで破綻したのか、破滅したのだろう。

 

あたしは、その轍は踏まない。

 

あたしは錬金術師として。

 

錬金術の使い方を間違えるつもりはなかった。

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