暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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アンペルさんとリラさん合流です。

今ではライザの方が戦闘力も錬金術師としても師を越えていますが、研究者としてはアンペルさんはまだまだ現役です。

フィールドワーカーで戦闘力も高いクリフォードさん、とにかく生き字引のタオ。そして豊富な経験と錬金術師の視点から情報を割り出すアンペルさん。

この三人のスペシャリストが、謎の解読を加速するのです。


3、師の解放

機具が一気に元気になった。

 

そう、里が湧いているのが聞こえる。

 

森の中で、凶悪な擬態マンドレイク……木に擬態して、背後から強襲を仕掛けて来るタイプのもの……を数体仕留めて、戻ってくると。

 

老人も若者も喜んでいた。

 

機具の元気がどんどんなくなっている。

 

それは新しい種を持ち込めなくなった上、いいものは外に売っていたのだから、当然だろう。

 

それが一気に改善したのだ。

 

それは現実問題として、喜ぶだろう事はあたしにも推測できる。

 

それはそれとして、此処からだ。

 

験者は約束を守る。

 

そう考えるが、最悪の事態に備えて準備もしておく。

 

最悪の場合。

 

フォウレの里と、世界全てを天秤に掛けなければならない。

 

アンペルさんについては、おかしな動きがないように、クラウディアに音魔術で監視して貰う。アンペルさんの側にはリラさんもいるし、簡単にやられるようなことはないと思うが。

 

それでも何事にも絶対はないのだ。

 

最悪の場合は、里の人間を全員強制的に昏倒させて、しばらくは身動きを取れないようにする。

 

霧状にして噴射する強力な睡眠薬と、その解毒薬を作っておく。

 

またマスクを作って、皆の分を渡しておく。

 

先に話をしておく。

 

験者が此方を裏切った場合。

 

もしくは、験者に反対する人間達が里の主導権を握って、アンペルさんとリラさん、それにあたし達を排除に掛かった場合。

 

どうするかを。

 

その場合については、ディアンすら反対しなかった。

 

皆殺しなんて意見だって出てもおかしくない所を、皆を強勢昏倒で済ませることにしたのである。

 

それで不満が出るのだったら。

 

あたしとしても、これ以上は面倒を見られない、というのが本音だった。

 

後は力尽くとなるが。

 

ただそうはなりたいと、今は願うばかりである。

 

願うのも、何に願うのだろう。

 

主体的な信仰が存在していない今だ。

 

そういった信仰も、殆どが錬金術文明に殺されたのかも知れない。

 

ため息をついて、様子を見る。

 

少なくとも今日中に収束はする筈だ。

 

外で見張りをしていたクラウディアが、戻ってくる。音魔術で、験者屋敷の内部で何が起きているかを見張っていたようだが。

 

案の場、まだ数人の老人とその取り巻きが、強硬に反対しているようだった。

 

「種に手を入れるなんてとんでもない。 種は神聖なもので、そもそも売る事だって許されなかったなんて言っている人達がいるみたいね」

 

「うちの島の古老と同じだ。 現実がはっきりしたのに、まだお気持ちで文句を言っていやがった」

 

ボオスが吐き捨てる。

 

あたしもそれは実際に見ているので、何処も同じだな、という意見しか出てこないのだが。

 

まあ、それはいい。

 

兎も角問題は、その先である。

 

「それでどう。 上手く行きそう?」

 

「ライザの活躍もあって、大多数は賛成派に回っているよ。 機具を更に改良出来るというのなら、と言う声も多いみたい。 孫がおかしな体に生まれてしまって、という老人が何人か泣きついていたりもしてね」

 

「血が濃くなりすぎている状態は、本当に切実なんだな」

 

「今だから話すけれど、俺の親もじいちゃんばあちゃんも、みんなまとめてイトコ同士だったんだ。 そんなのが続いてる。 どこの家でも、生まれる筈だった兄弟姉妹がいないんだ。 それは、そういうことなんだよ」

 

ディアンが、ヤバイ話をしてくれる。

 

みんなそんなだという。

 

酷い場合は甥や姪との結婚すらある。

 

このまま行くと、最悪兄妹婚までしなければならなかっただろう、とも。

 

験者が血を入れる方針を採ってくれなければ、恐らくフォウレは自滅していただろうとも、ディアンは言い切っていた。

 

確かにそれはそうだ。

 

クーケン島でも、イトコ婚はあったが。確かにイトコ婚はリスクが高いのは、エドワード先生も言っていた。

 

あたしも産婆がその場で乳幼児をダメだと判断して締めてしまうのは、クーケン島で見ている。そういった子供は、明らかに体がおかしい以前の問題で。

 

重篤な異常があって、長くは生きられないのが一目で分かった。

 

産婆がその場の雰囲気で子供を殺すようなケースもあるが。見た瞬間生きられないと分かるような子供がいるのも事実なのだ。

 

畜産をしていたあたしはそれを知っているし。

 

生かす事が出来ないのだったら、特にリソースが少ない社会だったら死を選択するケースがあるのだろう事も分かる。

 

だが、錬金術で体を治せるのなら。

 

その悪習も、いずれは。

 

ともかくだ。

 

今、優勢なのは改革に賛成派。

 

今はそれで、満足するしかなかった。

 

クリフォードさんが挙手。

 

「俺が見張る。 皆、先に休んでくれ。 今日はこれから何が起きるか分からないからな」

 

「適当な所で俺に代わってくれ。 俺も見張りをする」

 

「そうだな。 じゃあ俺、レント。 もう一人くらい見張りをしてくれると助かるが」

 

「それなら俺がやる。 少しは体力をつけないとまずいからな」

 

ボオスが挙手。

 

では、それで頼む事にする。

 

一番危ないのは早朝と言う事だ。

 

なんでも夜討ち朝駆けなんて言葉があるように、夜襲というのは、実際には人間が一番疲弊している起きる寸前を狙うものらしい。夜中に攻撃をすると、攻撃側も周囲が良くわからなくて、同士討ちになりやすいのだそうだ。逆に早朝だと、寝起きで誰もが判断力を低下させているし、其処を強襲すれば、最大限に混乱させられる。

 

フォウレの里の人達は、魔物相手に戦闘は重ねているものの、人間相手の戦闘経験はそこまで豊富でもない。

 

だからそれが分かるかは分からないが。

 

ともかく、備えはするべきだろう。

 

一番危ない早朝は、結局クリフォードさんが見る事になり。最初はボオス、次はレント、最後にクリフォードさんという見張りの順番になる。

 

こういった野営や、それに近い状態での見張りは、今までにも何度もやっているので、別に困る事もない。

 

すぐに決めて、皆夕食、風呂と順番に済ませておく。

 

このアトリエの機能は、それだけ全て網羅しているのである。

 

後は寝る。

 

験者のお手並み拝見。

 

アンペルさんを解放して貰い、機具を直せば。まあ黙認という形でだろうが、堂々と城を調べる事が出来る。

 

それで、後は充分だった。

 

 

 

翌朝。

 

起きて朝の身繕いをしてから外に出ると、クリフォードさんがしっかり見張りをしてくれていた。

 

森の方の魔物の気配もとにかく薄くなっている様子だ。

 

「もう大丈夫ですよ。 二度寝してきてください」

 

「じゃあ、言葉に甘えるぜ。 徹夜ってのはロマンに溢れているように思えるが、実際には生活のリズムも壊すし、寿命も削るからな」

 

「……」

 

本当にロマンが大好きなんだなこの人は。

 

だけれども、ロマンに本気で命を賭けているのも事実だ。

 

そんな人を嗤うつもりもない。

 

ともかく、体を動かして、温めておく。次に起きて来たパティが、並んで体操をする。

 

「おはようございます」

 

「うん。 里の様子からして、多分験者の説得は上手く行ったのだと思う」

 

「そうだと良いんですが。 確かにクリフォードさんが安心していたようですし、大丈夫だとは思いたいですね」

 

「まったくだ」

 

レントとボオスは少し遅くまで寝ていて貰う。

 

そのまま朝食を手早く済ませる。朝のキッチンは戦場だが。クラウディアとフェデリーカは、生き生きと其処を回している。

 

いっそ、キッチン要員でも雇うか。

 

そう思うほどである。

 

朝食を済ませて、それで今日の会議をしていると、デアドラさんが来る。クリフォードさん達三人はいないが、皆揃っているのを見て。デアドラさんは、呆れたようだった。

 

「本当に場慣れしているな。 その様子だと、いざという時に備えていたな」

 

「まあ、あたし達も自分の思うとおりに事態が動かない事なんて、嫌と言うほど経験していますので。 それでどうでしたか」

 

「最後まで強硬に反対した人間も、これ以上血が濃くなると里が終わるという意見には黙ってな。 里に新しい血を入れるための切り札である機具を改良して、里が更に豊かになるという意見に、中立派もなびいた。 それで、アンペルとリラの釈放が決まった」

 

「おお……」

 

良かった。

 

あたしが喜んでいるのを見て、デアドラさんは短く刈り込んでいる髪を掻き上げていた。初めて人間らしい所作を見せたかも知れない。この人はとにかく、戦士としての自分を磨き上げすぎていて。

 

人間らしい反応を殆どしなかったのだ。特にあたし達の前では。

 

多分次の世代の験者か、種拾いの長だからだろう。

 

「最初から、あの二人の救助が目的だったんだな」

 

「正確には、話をした門……異界の門の調査が目的でした。 しかし、フォウレの人々の生活を乱すつもりもなかったんです。 アンペルさんは……あたしの師匠は。 門の位置を調べる能力には長けているんですが、どうにも周囲との連携や、地元の人との連携が苦手でして」

 

「世界を滅ぼすほどの危険な魔物か。 ライザ殿ほどの英傑がそういうほどならば、確かにこの世界に現れてしまってはどうにもならなかっただろうな」

 

「今までに四度交戦しましたが、此方の世界に来られていたら全てが終わっていたと思います」

 

無言になると、デアドラさんは少しだけ思考を巡らせ。

 

そして、ディアンを一瞥して。

 

それで戻っていった。

 

フェデリーカが、胸をなで下ろす。

 

「相変わらず抜き身の刃みたいな人ですね」

 

「あれでも家ではゆるっゆるなんだけどな。 家事も殆ど出来ないし、マッパで辺りをうろついたりしてるし」

 

「ディアン、貴方一緒に住んでるんですか?」

 

「というか、デアドラ姉は親がいないような子供の面倒をまとめてみているんだよ。 俺以外にも何人もいた。 当面は実力的にも種拾いの長はデアドラ姉の時代が続くらしくて、験者に言われたらしいんだ。 子供の面倒を見ることで、他人の指揮をする力を磨いておけ、ってな」

 

なるほどねえ。

 

それに、血が濃くなって弊害が出ているフォウレの里だ。

 

それはそれで、ありだったのだろう。

 

いずれにしてもデアドラさんは、家ではそんなユルユルだったわけだ。

 

ディアン達と一緒に暮らしていた一人、少し年下の女の子がデアドラさんの家事をほとんど肩代わりしていたらしいのだが。

 

この間、フォウレの里に畑が拡がっている例の村から来た男性が、その子を嫁にしたそうである。

 

なるほど、人間関係が狭い。

 

クーケン島と結構この辺りは似ているなと、あたしも思う。

 

いずれにしても、これでアンペルさんは戻ってくる筈だ。まだ油断は出来ないが、それでも。

 

ともかく、しばし待つ事にする。

 

昼少し前に、アンペルさんとリラさんが戻ってくる。

 

アンペルさんは、余計なことをと一言だけぼやいた。

 

そして、あたしが作ったアトリエの内部を見回して、絶句していた。

 

「一日も掛からずこれを建てたと聞いていたが、更に腕を上げているな」

 

「まあ、それなりに。 今までも遠征先で、アトリエには苦労しましたから、パッケージ化したアトリエを即座に組めるように、色々やってたんです」

 

「すまんが、風呂を借りて良いか。 一応風呂には入れていたんだが、それでもかなり頻度は少なくてな」

 

リラさんが開口一番に言う。

 

まあ、当然いい。

 

アンペルさんも、その後で入るようにと、先に釘を刺しておく。

 

アンペルさんも、後はタオもそうだが。

 

風呂なんて後回しにして、基本的に研究を優先するのだ。まずは風呂、食事。それで休んでから、機具を改良して貰う。

 

それで、やっと城に入れるようになる。

 

全部順番通りに進んでいる。

 

ただ、先に話しておく事がある。

 

「門の存在は確認してきました。 開きっぱなしですが、恐らく門の向こうにフィルフサはいませんね」

 

「どうしてそう判断した」

 

「私の判断よ」

 

セリさんが挙手。

 

セリさんが植物学的な見地からの話をすると、それでアンペルさんも即座に納得してくれた。

 

多少、余裕が生まれたかも知れない。

 

ただ、それもいつふみにじられるか分からない。

 

さっさと風呂や食事、休憩を済ませて貰う。

 

その後は、あたしも立ち会いの下、験者の屋敷にクラウディアとボオスも伴って出向く。

 

そこで、機具を一緒にアンペルさんと直す。

 

既に図面についてアンペルさんも頭の中で引いていたらしく。験者が見せてくれた図面に対して、即座に此処をこうするという話をして。実際に改良して見せた。改良部材は、事前に話を聞いていたあたしが、アンペルさんと手分けして作った。

 

そうすると、今までぎこちなかった機具が、すぐに動くようになる。

 

元々これは、魔石をそのまま取り込んで動いていた機械であり。そこに本来とは違う「種」を組み込んで無理に動かしていたのが要因で、寿命も縮めていたし、本来の性能も出せていなかった。

 

その組み込む過程で図面に歪みも生じた。

 

それを改善したのがこれとなる。

 

もしも、もっと村の体勢が安定化したら。

 

種を使うのではなく。

 

魔石を使う機具に、改良を試みて欲しい。

 

そうアンペルさんが話をしている。

 

験者は腕組みをして、話を聞いていたが。まだそれは難しいと、言葉を返していた。

 

それもわかる。

 

アンペルさんを解放するのにも、これだけ村の老人達が反対したのである。

 

「種」を使わないなんて話をしたら。

 

それこそ何が起きるか分からない。

 

今まであたし達に協力的だった老人すら、掌を返す可能性がある。だから、少しずつやっていくしかないのだ。

 

「次の世代の験者に、その話は引き継ごう。 いずれにしても、新しい機具については、次からは指定された設計図の通りに作るとする」

 

「頼む。 部材の強度からして、それで何百年ももつものになる筈だ」

 

「何もかもすまないな」

 

「此方こそすまなかった。 私をとっくに越えている弟子の行動を拘束してしまったばかりか、強行したばかりに無駄なトラブルまで抱えさせた。 貴方方ともう少し丁寧に話をしたうえで、堂々と城を探査出来るようにするべきだった」

 

アンペルさんがミスを認めている。

 

あたし達の前では結構素直なのに。

 

実年齢は百歳を遙かに超えているらしいのに、まだ変わろうとしているのか。

 

そう思うと、あたしも嬉しい。

 

アトリエに戻る。

 

ともかく、験者が新しい機具を見せて、それを里の皆に納得させるまでは、動かない方が良い。

 

特にアンペルさんとリラさんは、顔も覚えられている。出歩かない方が良いだろう。

 

まずは、アンペルさんの義手を調整する。

 

壊れているのではなくて、あたしの技術が上がっているので、更に微細に動かせるように手を入れておくのだ。

 

また動きが良くなる。

 

アンペルさんは目を細めて、更に細かく動かせるようになった手をぐっぱぐっぱしていた。

 

「どうですか具合は」

 

「素晴らしいな。 ほぼ完璧に近い。 だが、完璧になった所で、もうライザには及ばないさ」

 

「どうせ二人はしばらくは動けないので、先にこれを。 少し話しましたが、エミルという人の残した手記です」

 

「どれ……」

 

アンペルさんが、解読に入る。

 

中身の暗号が極めて難解だという話をすると、そうだろうなとアンペルさんは言うのだった。

 

「エミルは言葉を組み合わせるのが得意でな。 錬金術の腕前でも私と互角以上だったが、それ以上に暗号を作ったり、それを解いたりするのが好きだった」

 

「まさか……」

 

「そうだ。 私の腕をこうした張本人だよ。 私が唯一、あの腐りきった王宮の中で、友だと思っていたのがエミルだった」

 

実は、まさかというよりやはり、というのがあたしの感想だったのだが。

 

それについては、そうだというつもりはない。

 

ともかく、外に狩りにでる。

 

もう少し遠出をして、ディアンが危険だと認識している辺りの魔物を徹底的に駆除して回る事にする。

 

最後の巨獣、川の主だったか。行く途中に見かける。

 

相変わらず川の中で、ぼんやりと水に浸かっていて。鼻らしい長い触手みたいなのを振るって、水を体に掛けている。

 

あれも暴れ出すと同じように危険だというし。

 

いずれは戦う時が来るのかも知れないが。今は、その必要もないだろう。

 

城のあるあたりから、更に上流に出ると、湿地帯になった。この辺りは、底無し沼にもなっていないそうである。

 

それでも警戒しながら、辺りを調べて行く。

 

見た事がない薬草がかなりある。回収させて貰うが。ただ、この辺りは全域がひたひたになっていて。セリさんが言う所の、地下の川になっている場所も多い。つまり、どこが底無し沼になっているか、分からないと言う事だ。

 

最前衛はパティに出て貰う。

 

これは身軽な上に、動きも素早いからだ。最悪の場合、底無し沼から即座に引っ張り挙げられる。

 

クラウディアも音魔術を展開し貰って、周囲の地面を地質から探って貰う。

 

これだと、沼に潜んで襲ってくる魔物だっているはずだ。

 

そういう相手に対応するためには、事前に音魔術で探知をしておくのが最適解と言えるだろう。

 

クリフォードさんが、不意にパティの手を引く。

 

クラウディアが、あっと声を上げていた。

 

「危なかった。 その先、表面だけ硬くて、底無し沼を隠しているようだわ」

 

「おっそろしい場所だな……」

 

「私が警告のために植物魔術を使っておくわ」

 

セリさんが魔術を展開。

 

棘だらけの、威圧的な植物が其処に生えてくる。なるほど、これはとても分かりやすいというか。

 

次に来た時も、一目で分かる。

 

「わかりにくい底無し沼は、この植物を生やしておく。 ディアン、貴方も里に戻ったら、話をしておいて」

 

「分かった。 しかしみんな本当に凄いな。 ライザ姉が、さんをつけて呼べっていうわけだぜ」

 

「ライザもすっかりその辺り厳しくなってきたな」

 

レントが苦笑している。

 

まあ、あたしもたまにクーケン島で子供らの面倒を見ているし。

 

それで、過去のあたしらと接していたアガーテ姉さんの気持ちも分かり初めて来ている。

 

「大人」なんて存在は、実際には存在していないのかも知れない。事実子供を産もうが家庭をもとうが、いつまでも精神が幼稚な人間は多いのだ。

 

ただ、それでも経験を元にアドバイスは出来る。

 

「とりあえず、一度戻ろう。 今日は魔物を積極的に狩る必要もないと思うし」

 

「その前に、お客さんみたいだよ」

 

「そのようだな」

 

クラウディアに、クリフォードさんが返す。

 

周囲の沼にざわめく気配。長細い魚が、多数顔を見せる。なる程、縄張りに入り込むのを待っていたか。

 

まあいい。

 

これらを片付けて戻るとする。

 

ディアンがいうには。この先に聖地の一つがあるらしい。

 

ひょっとすると、其処に足を運ばなければならなくなるかも知れない。

 

聖地に辿りつく前に命を落とす者も多いという話だし。

 

少しでも、その可能性を減らすために。

 

あたし達が、地ならしをしておく価値は、充分にあるのだった。

 

 

 

翌日の夕方。

 

験者とデアドラさんが、アトリエに来る。

 

城の調査の許可と同時に。幾つか、注意をされた。

 

「城の調査については、黙認させて貰う。 だが、里の人間を無駄に刺激する可能性がある。 くれぐれも幾つか注意して欲しい」

 

「聞かせてください」

 

「夕方以降には種拾いが入る。 それまでに必ず撤収する。 また、城の調査をした際に、痕跡は残さない。 後、どうやって対人探査装置を誤魔化した?」

 

「それについては秘密です。 どうせあたし達以外に再現はできないので、心配はしなくても良いかと」

 

嘆息する験者。

 

まあいい、というのだろう。

 

ともかく、咳払いすると験者は続けた。

 

「城を中心に探索するとして、しばらく掛かりそうなのか」

 

「そうですね。 かなり時間は掛かると思います。 ただ……」

 

「ただ?」

 

「それでも、一週間くらいを目処に戻ります。 アトリエは、しばらく触らないようにしておいてください」

 

了解した、と験者は言う。

 

とりあえず、これで全て準備は整った。

 

ボオスが、験者とデアドラさんが帰った後、話を聞いてくる。

 

「一週間ってなんだ」

 

「ああ、それは当然、門を潜るからだよ。 フィルフサがいるかどうかは確認して、いるようなら全部ぶっ潰す」

 

「おっ! やるきだなライザ姉!」

 

「言っておくが、フィルフサは今まで見てきた魔物よりも更に格上だぞ。 ライザがまず大雨を起こして、それで対応できるようになるような相手だ。 浮ついた気持ちでいると、本当に死ぬぞ」

 

ボオスが逸っているディアンに釘を刺す。

 

まったくの事実なので、それを知らないフェデリーカ以外全員が頷くのを見て。ディアンも戦慄したようだった。

 

今まで交戦してきたとんでもない魔物の数々よりも更に上。

 

そう言われれば、確かに腰が引けるのも当然だ。

 

フェデリーカもびびりまくっている。

 

「ただ、門の先はセリさんがいうには、オーレン族の最精鋭がいるって話だし、もし彼等と連携出来れば、少しはマシに戦えるかも知れない」

 

「なんだと!?」

 

「奏波氏族を中心とした、オーレン族の精鋭部隊よ。 私も其処で育って、それでフィルフサとの交戦も経験したの。 此方に来たのは、奏波氏族が守る土地以外の汚染が酷くなってきて、守るのが難しくなってきたからよ。 丁度良い。 現地で解毒のための植物の性能を試せるわ」

 

セリさんは、そういえばずっとそのために植物の改良を続けて来たのだ。

 

確かに試したいのも分かる。

 

リラさんは、奏波氏族……と呟いていた。白牙氏族のリラさんとしても、遭遇経験がないとすると。

 

余程の長老的な氏族なのだろう。

 

ともかく、幾つかの打ち合わせをして。それで門への突入作戦を決めておく。

 

門があるなら、最優先対応目標だ。

 

それについては。

 

あの四年前の乾期に。フィルフサの脅威を知ってから、ずっと変わっていない事だった。

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