暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
ライザのアトリエシリーズでは、門の行き先である異世界オーリムが最悪の侵略性外来生物フィルフサに汚染されている事もあって、とにかく最優先で封じないといけない代物です。フィルフサは数も戦力もライザの世界の生物とは人間も含めて比較にならず、拡散されると現在の人間では対応できませんので(これは原作でも本作でも同じです)。
その門のスペシャリストであるアンペルさんを加えたことで、本格的な調査が始まります。
序、門の調査
アンペルさんとリラさんの解放。フォウレの里との友好関係の確立。ネメド地方の危険な魔物の駆逐。更には、黙認とは言えフォウレの里の聖地の調査の許可。
これら全てを達成した。
勿論、ネメドには多くの人間に牙を剥く魔物もいるだろうが、そもそもネメドの民はフォウレの里の者も含め、人間の領域ではない場所に住んでいる。そういった場所に不要に足を運ぶ方がまずい。それについては、こういった危険地帯では周知している筈だ。
魔物の肩を持つつもりは無いが。人間も考えて動くべき場所なのである。この辺りは。
アンペルさんとリラさんと合流して、まずは情報のすりあわせをする。ある程度の情報はアンペルさんにも送っていたのだが。
竜の紋章の刻まれた門。
不可思議な鍵。
何段階も仕込んである「解答」。
更には、此処にも同じ竜の紋章がある。
それらについて説明し、実際に資料も見せる。竜の紋章といっても、同じような意匠ではなく、ぴったりと一致している。
間違いなく突然出現した群島を作った人間と。
ネメドの森にある城を侵略した人間は。
同じ文化と思想、技術を持つ集団だ。
古代クリント王国の頃は、ネメドもクーケン島も等しく領内であり、強大なアーミーが周辺に存在していた。
それを考えると、同じ以上の領域を神代の強大な帝国がもっていないのは不自然であるといえる。
今みたいに、形だけロテスヴァッサ王国が全土を支配している、なんてこともないのである。
城から回収してきた本も見てもらう。
そういえば、どうしてあっさり入る事が出来たのか。
アンペルさんは、恐らくはこうだろうと仮説を披露した。
あの殺戮ゴーレムが、フォウレの里の人間に反応したように。
神代の人間がいなくなったから開いた。
隠蔽も機能しなくなった。
なるほど、確かにそうだ。
あれほどの荒っぽい攻撃を城が受けていた。更にはあんなゴーレムを配置するくらい、城の抵抗は激しかったのだろう。
だとすれば。
その程度の技術はあっても、不思議ではない。
「本の内容について確認しましたが、殆どはフォウレの里の民についての歴史や文化についてですね」
「ああ。 竜風についての説明はないのか」
「ドラゴンが現れる、くらいしか。 少なくとも神代の頃は、里に大きな被害は出ておらず、城を作ってから被害も出なくなったという話が載っているくらいです」
「不可解だな」
アンペルさんも、それに関しては仮説を出すのを避けた。
仮説と言うのは、不完全な状態から組み立てた説だ。知識が増えれば、当然それを撤回する勇気も必要になる。
まあ、仮説を出すだけなら問題は無い。
仮説と言う言葉を理解出来ないようなバカが、それを拡大解釈して喚くかも知れないが。
そんなものは放っておけば良い。
「セリ=グロース。 それで植物学の見地からも、門の向こうが安全である事は確定なんだな」
「ええ、間違いないでしょうね。 ただ、門の向こう全てが安全とは思えないけれど」
「奏波氏族という伝説の氏族とは、どういう役割を持っている。 それに、どういう場所に住んでいた」
「具体的な役割については聞いた事がないわ。 ただ神代の頃から此方の世界の人間と争っていたようよ。 周辺には複数のフィルフサの王種に率いられた群れが存在していて、巨大な運河を作って水を流し、それと交戦していたわ」
運河と水か。
確かオーレン族の氏族は、それぞれに役割があると聞いている。
奏波氏族という人達が何をしている集団なのかは分からないが、ともかく現地で話を聞くべきだろう。
セリさんも五百年以上前にここに来たのだ。
それなら、今は状況が違う可能性も高いのである。
とりあえず、明日の朝に門に調査に出ること。
状況次第では封じること。
少なくとも聖堂は作ること。
これらを話しあった後、皆休む事にする。
ただ、リラさんには話がある。
リラさんとアンペルさんは、利害関係で結びついているとは言え、一緒にいる時間も長い。
研究成果について、話しておくべきだ。
内容について話をしておく。
人間とオーレン族が交配可能であること。その場合、母親に激甚な負担を強いること。これは妊娠期間の長さが原因である事。
この世界とオーレン族は、神代の頃、更には古代クリント王国の時代。二回にわたって、大きな衝突を起こしている可能性が高い。
三度目の今回こそ、交配可能なこの二つの種族は、しっかり話をしておくべきなのだ。
もしも今度こそ友好的な関係が構築できた場合、交配するケースも考えられる。ただ、生きる時間が違い過ぎる。
オーレン族にも人間にも、負担は決して小さくないだろうが。
「なるほどな。 交配可能か……」
「何か思い当たる節があるんですか?」
「いや、なんでもない。 とりあえず、どうすればいい。 アンペルと交わったことはないし、そのつもりもない。 子供を作る事も当然考えていないが」
「アンペルさんに限った話ではないですが……。 今、母胎の方の負担を減らすための薬を開発中です。 とにかく問題になる妊娠期間の解決をするべく、オーレン族の胎児は成長を早く。 人間の胎児は成長を遅くするつもりです。 今調整をしていますので、何かありそうなら話をしてください」
リラさんは頷く。
それにしても、含みがある話だったな。
一応、リラさんの髪の毛も貰っておく。エーテルに溶かして、最小要素まで分析するのだ。
セリさんの髪の毛は同じように分析済。
出来るだけ、多くの人のデータが欲しいのだが。最近は忙しくてオーリムでオーレン族と交流できておらず。
あまり多くの人の髪の毛は得られていない。
あたしも研究をある程度で切り上げて、休むとする。
翌朝には、早朝に起きて。少し後に起きて来たパティと、一緒に外で軽く体を動かす。パティの剣撃はさらに冴え渡っているが。
恐らく人を斬ったのだろう。
凄みが加わっているのが、動いているのを見て感じ取れた。
人を殺せば腕が上がるわけではないが。
少なくとも、必要に応じて人を斬ることで、何かしらの枷が外れるのは事実だ。パティの事だから悪人外道しか手に掛けていないだろうし。それが良い方向に向かったのは、良いことだと思う。
朝のミーティングを済ませると、全員で森に。一度アトリエは閉じて、必要な物資は荷車二台に分乗して詰め込む。一台はアトリエ用の資材だ。
状況に応じて、拠点を作る可能性が生じてきている。
アンペルさんとリラさんが加わった事により、装備の刷新もしたが。これについては既に慣れている。
グランツオルゲンが魔術強化用の金属ではなく、強力な素材として活用出来るのを見て、アンペルさんも驚いていたようだった。
「これほどライザが腕を上げているとは。 師匠などと言われると、気恥ずかしくなってくるな」
「またまたご謙遜を。 まだまだアンペルさんはあたし達の師匠ですよ。 リラさんと同じで」
「そうだな……」
そんな事をいいながらも、森に入ると皆静かになる。
フェデリーカもかなり慣れてきていて、もう無駄口は殆ど口にしなくなったので。布を噛まずにいてもらう。
何度も通った安全経路を進んで、城の裏手に。
もう入口から入っても良いのだが、まだフォウレの里の人達は説得が済んだばかりだ。刺激はしたくない。
験者としっかり話し合って問題全部解決するまで、どれほど手間暇が掛かったか。
だからこそ、油断だけはしてはいけないのだ。
何回か戦闘するが、更にリラさんも加わっている。アンペルさんも、皆と並ぶ戦力はある。
すっかり質を落としているネメド森林の魔物くらいだったら、問題なく始末する事が出来る。
処理も手際よくぱっぱと済ませる。
城の裏手から、城に入り。
フィーに、例の装置に頭巾を被せて貰う。
後は、皆で無言のまま、監視装置の横を通り抜け。扉の前に。確かに、竜の紋章だ。アンペルさん達は、この門を確認する前に一度戻り。それで捕まったらしかった。
クラウディアが、音魔術で壁を作る。
それで、やっと話す事が出来る。
その間も、レントとクリフォードさんは周囲を警戒してくれる。
「なるほどな。 これと同じ紋章が意図的に作られるとは考えにくい。 それで鍵で開くと。 そこまで一致しているわけだな」
「はい。 こんな鍵を使う時点で、別の文明による産物とは考えにくいですね」
「しかもこの扉は後から据え付けたと。 自己顕示欲の塊のようだな……」
アンペルさんが吐き捨てる。
恐らくは、ロテスヴァッサの王宮に集められた連中は、古代クリント王国の模倣者。つまり神代の模倣者である古代クリント王国の、更に模倣者だった訳だ。
だから、思想も似通っていたし。
アンペルさんを実験動物くらいにしか見なかったのも、色々と納得出来る。反吐が出る話である。
そんな中、どうしてエミルと言う人が裏切ったのか。
或いは最初から裏切るつもりで、友好関係を作るフリをしていたのか。そこまでは、あたしには分からないが。
ともかく、鍵を使って扉を開き。中に。
幾つかの植物について、セリさんが説明をする。リラさんは、ごくりと生唾を飲み込んでいた。
「すまん。 平常心を欠きそうだ。 これらの植物は、フィルフサにふみにじられる前に、白牙の里で見た事がある。 懐かしくて、飛び出して行きそうだ」
「オーリムには普通にたくさんある植物ですものね。 此方では土壌があわなくて二世代以降は出ないのだけれども」
「門を確認しよう」
アンペルさんが、リラさんに声を掛ける。
普段は鉄みたいな雰囲気のリラさんが、すっかり呆けている。だけれども、それも仕方が無いのかも知れない。
リラさんがこっちに来たのは確か六十数年前。
それまで、白牙の仲間を失い、オーリムで孤独にフィルフサと戦い続けていたし。何よりも、古代クリント王国の連中の凶行も目の前で見てきているのだ。
如何に戦士の一族とは言え、許せない事はあるだろうし。
ずっと孤独で戦い続けていたのだ。変わり果ててしまった世界で。
いつか、白牙の里も復興したいが。
それには、残念ながらまだ手が足りない。
ともかく、門の前に。
この自然門の周囲は、王都近辺の状況と似ている。その話をすると、アンペルさんはむうと声を上げていた。
「王都の自然門と言えば、エンシェントドラゴンが、自身の罪について残留思念で悔恨していたのだったな」
「はい。 この状況、似ていると思いませんか」
「確かにな……」
「……ともかく、門を制御出来るように、聖堂を作りましょう」
ああとアンペルさんは頷くと。
準備してきた石材を、皆と一緒に動かし始める。ディアンにも指示して、石材を運んでもらう。
完全に放置されていた門だから、別に何もしなくてもいいとは思うのだが。
この向こうの状態が分からない。
今、最後の拠点が陥落しようとしている寸前かも知れない。あたしも水を準備してきているくらいだ。
だから、どれだけの準備をしても。やり過ぎとは言えないのである。
聖堂そのものは、何度も作っている。
自然門と遭遇する事は滅多にないとアンペルさんはいっていたが。
そもそもとして、門を封じに掛かる場合。その聖堂が破損している場合も多かったのだ。クーケン島の件と同じように。
だから、嫌でも聖堂のシステムは理解したし。
作るのにも慣れた。
黙々と聖堂を作りあげ、昼前には完成する。何度か確認して、門を閉じたり開けたりする事は可能となっていた。
「すっげ。 こんな訳が分からない現象なのに、本当に石を積んで魔術を刻むだけで、どうにかできるんだ……」
「技術そのものに罪はないんだよ。 事実、こうやって危険極まりないものを、封じ込むことだって出来るんだから」
「そ、そうだな。 ライザ姉の言う事は基本的に間違ってないけど、凄い説得力を感じるぞ」
「ふふ。 すっかりライザの弟子ね。 アンペルさんの孫弟子かな」
くすくすとクラウディアが笑う。
とはいっても、あたしは別にディアンに何か教えたつもりはないのだが。
門の制御が出来ることは確認。
頑強に開いていた自然門が、あっさり閉じる。
自然門だろうが、閉じる事が出来ることは、王都近辺での経験で分かっている。そもそも竜脈の力があっての門で。門そのものは、自然門が維持されることだって、余程条件が整わない限りは起きないのだ。
よし、では門の向こうを確認する。
勿論、オーレン族の人達が、手荒い歓迎をしてくる可能性もあるので、セリさんとリラさんが先に行くことにする。
この門は、状況から考えて、竜の紋章を刻んだ錬金術師達が使った筈だ。連中がオーレン族にどんな狼藉を働いているか、知れたものではない。直接連中になにかされていないセリさんですら、錬金術師に強い感情を抱いているほどなのだ。
リラさんが生唾を飲み込んでいる。
門なんて、何度も潜っているはずなのに。
「リラさん、この先は危険な可能性があります。 前衛の戦士として、お願いします」
「分かっている。 いや、フィルフサを怖れているわけではないんだ。 この植物は、フィルフサの大繁殖とともに、まっさきに消えたものだった。 それが生きていると言うことは、この先にフィルフサの魔の手が及んでいない可能性が高い事を意味している。 それは……平和だった頃のオーリムがあるのではないかという錯覚を、私にさせてしまうんだ」
「……やっぱり、懐かしいんですね」
「ああ、その通りだ。 如何に白牙氏族が戦士の一族で、フィルフサを抑え込む仕事をしていたとは言え。 それでもいつも殺し合いをしていたわけではない。 穏やかな時間だってあった。 もう……五百年以上も経験していない」
そうだよな。
こっちに来てからだって、門をずっと探していたのだ。
門を閉じる過程でずっと悶着だって起こしていただろう。フォウレの里での出来事なんて、むしろ穏やかで静かなものだったに違いない。
だから、あたしは茶化すような事は何も言わない。
リラさんが踏み出す。セリさんも。
レントがそれに続いて。そして、あたしも、門を潜っていた。
門を潜るライザ達を確認。
遠距離から監視する装置を用いていたロミィは、即座に連絡を入れる。相手はコマンダーである。
「ライザ達が、門を潜りました。 対応については、このまま監視でよろしいのですね」
「ええ、問題ないわー」
「あの先にいるオーレン族は奏波氏族を中心とした精鋭。 上手く行けばそのままつぶし合ってくれるかもしれませんね」
「恐らくはそうはならないでしょうねー」
冗談めかして言うと。
コマンダーはそう断言した。
そうか、とロミィは思い、監視装置をきる。そもそもこの監視装置も、次元を跨いだ別世界までは追跡出来ないのだ。
オーリムでは、一部同胞がオーレン族と連携をしているが、それも限定的な行動にすぎない。
オーレン族はやはり同胞を見ると警戒するし。
フィルフサを倒した後でも、やはりどこか警戒しているのが分かる。
彼等には何となく分かるのかも知れない。
同胞が何処かいびつな命であり。
自然の摂理から歪んで作りあげられた存在、ということを。
ロミィだってそれは分かっている。
だが、自然の摂理から外れていたら、死ななければならないのだろうか。それこそ何だかもやもやする。
ロミィは同胞のため、何より希望たるアインのために活動してきたという自負があるし、自我が極端に薄い自覚もある。
人間と接しているときの人格は作りあげた薄っぺらい仮面であり、それは要するに一種のペルソナだ。
だが、自我が薄いから。
作られた命だから。
だから、どうにでもしていい。
そういう考えがまかり通るのだったら、それこそ神代の錬金術師達とまったく同じではないのか。
今此処にいて、自我を持っていて。
それで世界のために尽くそうと考えている。
ロミィはそういう存在だ。
そういう存在が、不自然に作られた命だから排除して良いと言う理屈がなり立つのだとしたら。
この世界は一体、どれだけお偉いのだろうと、悪態だって零れそうになる。
これも、ずっと人間と接し。
ずっと仮面を被ってきた故の弊害なのかも知れない。
ふっと笑うと、ロミィは門に監視装置のターゲットをセットし、そのまま商売に戻る。
港町で商売をしていても、今は不自然では無い。
これでも相応の商会を回している身だ。
人間としての経歴もロミィは持っている。それが、何か悪いことだとでもいうのだろうか。
そう、時々ロミィは思うのだった。