暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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ウィンドルはオーリムでは珍しく、現地住民であるオーレン族が組織的抵抗を継続できている土地で、相応の戦力が揃っています。

千年以上生きるオーレン族の精鋭でも、しかし迂闊にフィルフサの群れには手出し出来ません。

そこでライザが出る事になります。

今まで幾度も群れごとフィルフサを潰して来たライザが。


2、フィルフサの群れは何かを守る

小型のフィルフサは、オーレン族の里。聖地ウィンドルというのか。其処のすぐ側まで来ている。

 

姿も様々。

 

空を舞うフィルフサは殆どいないが、これはオーレン族が積極的に叩き落としているのが要因らしい。

 

確かかなり大きなフィルフサだったし、存在するだけで危険と判断しているのだろう。判断は間違っていない。

 

フィーは置いていこうかと思ったが、止める。

 

フィーの魔力探知はとても優れていて、フェンリル戦では何度も助かったくらいである。だったら、つれて行く。懐に今回も入って貰う。

 

里の側にいる小型のフィルフサで、雨が降っていないとやはり強い事を再確認する。どれも頑強で、コアを砕かないと死なない。徹底的に攻撃を加えて、小型のフィルフサでも容赦なく潰しきる。

 

それでやっと殺せるのが、面倒なところだが。

 

一体倒せば、それだけオーレン族が有利になる。

 

そう言い聞かせながら、掃討戦を行う。

 

激しい戦いを続けていると、大きいのも出てくる。あれは大きなトカゲみたいな奴だ。口を開くと、音を超える速度で、舌を放ってくる。

 

クラウディアが即応。

 

矢を放って、舌を弾く。そうでなくても、レントが弾いていただろう。

 

動きは鈍いが、とにかく頑強だ。

 

突貫したあたしが、蹴りを叩き込んで、それが凄まじい勢いでトカゲみたいな奴の横腹を抉り。形を歪ませる。

 

奴の反対側から、装甲が吹っ飛んでばらばらと吹き飛ぶが。

 

それでもコアに致命傷は入らなかったらしく、尻尾で反撃してくる。

 

体に大穴が開いているのに平然と動くフィルフサを見て、フェデリーカがひっと悲鳴を上げるが。

 

これは説明していた通りだ。

 

だから、恐怖には耐えて貰う。それだけである。

 

トカゲがまた舌を放とうとするが、レントが頭を叩き潰す。そして、アンペルさんの空間切断魔術が数度突き刺さって、それでやっと動かなくなる。

 

小型のが次々に来る。

 

中型のも。

 

猿に似ているのが来る。手に鋭い爪が生えていて、凄まじい勢いで跳躍しながら、空中殺法を仕掛けて来る。

 

激しい戦闘がしばらく続いて、一刻ほど敵を始末し続けて。

 

それで、やっと辺りが静かになっていた。

 

「掃討完了。 ただしまだ将軍も出て来ていない、と」

 

「す、すこし休憩させてください……」

 

「フェデリーカ、これを」

 

へたり込んでいるフェデリーカに、パティが栄養剤を渡している。ディアンは平気そうだが、それでも相当に汗を掻いているのが分かった。

 

一度集落に戻って休憩。

 

橋を下ろせるようになっていて、それで出ては仕掛けているようだ。毎日何体倒すのを義務にしているとか、そういう話をしていたっけ。

 

そして此処はオーレン族の最精鋭が集まった土地。

 

小耳に挟んだだけだが、将軍どころか王種も倒した経験があるらしい。それは凄いというのが本音だ。

 

あたし達は、四年前のクーケン島近郊での戦闘では、大雨なしでは100%勝てなかったし。

 

それ以降も、全うに戦えばこの有様だ。

 

魔術が通じないと言うのがとにかくきつい。

 

しかも魔術が通じないからといって、物理的に弱いかというとそうでもない。首を叩き落としてもしなない生物なんていないなんて良く言うが、此処にはいるのだ。

 

休憩を挟んで、再度出る。まずは、将軍を潰したいが。フィルフサの群れ複数が周囲にいるのは確定。今戦闘している群れは、恐らく南東部を専門にしている集団なのだろう。北東部には、こっちを伺っているフィルフサがいるが、それだけ。恐らく「斥候」だと思われるが。こっちに対して何もしてきていない。

 

此処は普通に雨があって、乾期もこない。

 

それもあって、フィルフサも迂闊に仕掛けては来られないのだろうとは思うが。

 

ともかく、蹴散らす他無い。

 

坂になっている。

 

これは攻め下る時は楽だが、撤退時は大変だ。

 

レントが大岩を抱え上げると、坂の下に叩き落とす。複数のフィルフサが巻き込まれるが、それでも次々に上がってくる。坂を叩き落としていると、見えた。将軍だ。あいつが、この辺りの群れを指揮しているとみて良い。

 

王種を守る親衛隊であり、その麾下にてフィルフサを指揮する司令塔。奴を倒せば、少なからず混乱を引き起こせる。

 

将軍は通常の群れであれば60と聞く。疲弊していても20くらいは少なくともいる筈だが、この辺りのフィルフサは相当に消耗している様子だ。

 

だったら、そこまでの数はいないとみて良いだろう。

 

楽観では無い。

 

単なる客観である。

 

爆弾を投擲。

 

殺傷力が高い欠片をばらまくクラフトの、更に強大にしたもの。クラフトリオ。単純な物理的衝撃なら、こいつが最大火力を出せる。

 

耳を塞いで。

 

叫んでから、起爆。

 

同時に、辺りを衝撃波が蹂躙していた。

 

坂の上にいるあたし達はともかく、下にいるフィルフサどもは猛烈な衝撃波の直撃を受けたはず。

 

それに耐えるのは、恐らく。

 

凄まじい勢いで、将軍が坂を登ってくる。ダメージも軽微。丁度良い。想定通りの状況だ。

 

少し下がる。

 

将軍を単騎に孤立させ、集中攻撃を仕掛けて仕留める。対フィルフサ戦の基本だ。ましてや、この坂で。下では将軍の配下が壊滅的なダメージを受けている状況である。

 

念の為、もう一発クラフトリオを放り込んで、炸裂させておく。とどめというべきだ。将軍が、凄まじい唸り声を上げながら迫ってくる。此奴の唸りも、生物的な威嚇などではないだろうが。

 

ともかく、接近してきた所を囲み、突貫をレントが受け止める。

 

少数だけ、フィルフサが随伴して追いすがってきたが、それらはリラさんが躍りかかって、片っ端から叩き伏せる。

 

あたし達は、将軍だけを相手に集中する。それも、かなり装甲にダメージを受けている奴だけをだ。

 

それでも強い。

 

しばしの死闘の末に、どうにか仕留めるが。一度撤退し、休憩するべきだろう。幸いと言うべきか。倒れた将軍を解体しながら見る。周囲のフィルフサが、算を乱して逃げ散っていく様子を。

 

今日は、もう一戦くらいできそうだな。

 

坂を下って、もう一当て出来そうだ。

 

そう、あたしは判断していた。

 

 

 

坂の下に降りる。フィルフサは仕掛けてこない。この辺りを統括していた将軍が倒れたからだろう。

 

勿論時間を掛ければ再進出してくる可能性が高いが、その間に戦線を押し上げさせてもらう。

 

休憩を入れて、充分に疲れは取れた。

 

雑魚は仕掛けて来るが、今の時点で大物の姿はない。それでも強い。ディアンが、頭を潰しても腹を潰しても平気で動くと嘆く。

 

タオがアドバイスをしていた。

 

「一度装甲を剥がして、コアを探すんだ。 コアが露出さえすれば、それを叩き潰せば倒せるよ」

 

「なるほどな。 潰すんじゃなくて、コアを露出させるのか」

 

「そういうこと」

 

「ありがとうタオさん。 やっぱり経験はなんにでも必要だな!」

 

坂を下りた先は、なんだろう。

 

見た事がない結晶や、それにこれは。

 

機械の残骸か。

 

色々ある。手にとって見ていると、声を掛けて来たのはオーレン族の戦士だ。歴戦の戦士らしく、体中に傷跡がある。男性戦士だが、屈強な筋肉がついているわけではない。恐らくだが、魔力による倍率が尋常ではないのだろう。この辺りは、リラさんと同じだ。

 

「錬金術師ライザリンだな」

 

「はい。 ライザと呼んでください」

 

「俺は青爪氏族のメドだ。 この辺りのフィルフサを担当していたのだが……半日もかからず、将軍を仕留めたのは凄まじいな。 フィルフサの王種を四体も仕留めたと聞いているが、それは噂では無いと言うことか」

 

まあ、本職にそう言われると謙遜してしまうが。

 

ともかく、この辺りについて聞く。

 

メドさんは、この辺りで戦いを続けていたらしいが。神代の錬金術師は直に見たわけではないという。

 

比較的若い世代だそうだ。

 

「ただ、話は聞いている。 此処から北に行ったところに、奴らの根城の一つが存在しているそうだ。 中はフィルフサが当然いて、王種の存在も確認できているとか」

 

「なるほど、集落北西の主がそれみたいですね」

 

「この南には、少なくとも二つの群れが存在している。 気を付けてくれ」

 

「分かりました。 ありがとうございます」

 

比較的穏やかな人だが。

 

恐らくだが、古代クリント王国や、神代の錬金術師の凶行を見ていないから、なのだろうと思う。

 

機械類を調べていたタオだが、断言する。

 

「非常に古いものだ。 神代のものでも、千三百年以上前のものだとみて良い」

 

「よし、後で持ち帰ろう。 解析する」

 

「でも、それって警戒されないですか?」

 

パティがそうもっともなことを言うが。

 

問題は他にある。

 

今、神代の錬金術師がどういう手を使ってくるか、まだ読み切れないのだ。

 

それと、テクノロジーは悪では無いという事もある。

 

使った人間が悪である。

 

勿論、悪にしか使いようが無いテクノロジーも存在はしているだろう。だが、これがそうは限らない。調べて見ないと、何とも言えない。

 

「分かりました。 ただ警戒はされると思います」

 

「大丈夫、こういうのを持ち帰って、解析するって話はしっかりしておくよ」

 

「妙な事にならないと良いんですが」

 

パティが不安そうだが。

 

この辺りは、バカみたいな社交界だの上流階級の礼儀作法だのを見てきて、警戒している故なのだろう。

 

一応は貴族令嬢なのだ。

 

本人も馬鹿馬鹿しいと思ってはいるようだが。

 

「それでどうする。 そろそろ時間的に危険だとみるが」

 

「フィー!」

 

クリフォードさんの言葉に、フィーも同意。

 

確かにそれもそうか。もうすぐ夜が来る。そうなると、ただでさえ不利なフィルフサとの戦いは、もっと不利になるだろう。

 

「分かった。 もう一当てして戻るよ」

 

「ライザ、一つ提案がある」

 

「どうしたんですかリラさん」

 

「今の戦士もそうだが、武器の供給が追いついていないようだ。 もう少し関係を構築できたら、皆の為に武器を新調したり、調整してやってほしい」

 

それは、もちろんだ。

 

此方としても、オーレン族とは仲良くやっていきたい。

 

この世界のルールに縛られる厳しい人達であることは分かっているが。同時に、彼等が誇り高い番人である事も分かっているのだ。

 

欲望優先の人間が、世界を破滅させかけた。

 

それも何度も。

 

だからあたしは、欲望優先の価値観を是とはしない。

 

勿論オーレン族となるつもりはないが。むしろ人間より親しみを持てるのは、間違いの無い事実だ。

 

周囲を威力偵察して、フィルフサの群れをある程度片してから戻る。

 

アトリエで風呂と食事を済ませて。それから寝る事にするが。やはり、アトリエを監視しているのだろう。

 

そもそも睡眠が殆ど必要ないらしいオーレン族である。

 

ずっと、アトリエに対する監視と、警戒の視線があるのが分かるのだった。

 

 

 

翌朝。

 

早くから体操をして体を温めていると、カラさんが来る。

 

何をしていると聞かれたので、体を温めて戦いに備えていると答えると。カラさんは、面倒だなと呟いていた。

 

「体のつくりが違う事は分かっていたが、そなたほどの戦士でも、そんなことをしないと戦闘に支障をきたすのか」

 

「まあ、人間は一日の四分の一から三分の一は寝ないと体を壊すくらい、本来は脆い生物ですので」

 

「それでありながら、フィルフサの王種を四体も仕留めるとはな。 早速昨日も将軍を倒していたと報告を受けている。 中々に大したものよ」

 

「いえ。 どの戦いも必死でした」

 

勿論これは謙遜ではない。

 

カラさんはにこにこと笑顔を浮かべているので何とも掴みがたいのだが、多分あたしを監視しに来ている。

 

多分だが。

 

神代の錬金術師と同じ穴の狢だと判断したら、即座に殺すつもりだろう。

 

勿論あたしも、無抵抗で殺されてやるつもりはないが。ともかく、違うと言う事を今は行動で示さないといけない。

 

パティが起きだしてきた頃には、雑談を終えてカラさんは消えていた。というか、本当に消えたかのような動作の速さだ。

 

千八百歳と言っていたか。それも最低でも。

 

それだけの年月、技を磨き続けると、ああなるのか。それも、人間よりもずっと個としての能力が高いオーレン族が。

 

まさに武の極みだな。

 

そう思って、あたしは感心していた。

 

パティと軽く打ち合わせをして、アトリエに。

 

朝食を済ませて、すぐに出る。将軍が倒れたからか、昨日の主戦場辺りには、フィルフサの数は少なく。更に前線を押し上げる事が出来る。リラさんが、フェデリーカとディアンに警告をする。

 

前後左右、上下、全ての方向を常時警戒せよ。

 

勿論あたしも理解している。

 

今は人数も多い。

 

最前衛はレントが務めるが、最後衛はリラさんに務めて貰う。これはレントが、既にリラさんも認めるタンクとして有能な存在になっているから、である。荷車を中央に、左右にはクリフォードさんとパティがそれぞれつく。どっちも既に歴戦だからだ。

 

坂を下って少し進むと、洞窟が見えてくる。

 

かなり複雑な地形になっているようで、立体的に地形が交錯している。見た事も無い素材も多数ある。

 

何より、この辺りは土壌が母胎になっていない。

 

フィルフサにやられてしまうと、土壌そのものがフィルフサの母胎になる。そして土壌からフィルフサがどんどん増えていく。王種や将軍などは簡単にはいかないようだが、雑魚はそれでわんさか湧いてきて、文字通り土地をあっと言う間に食い尽くす。

 

それが為されていないと言う事は。

 

少なくともこの辺りは、オーレン族が苛烈な戦いで、ずっとフィルフサに好き勝手をさせていないということなのだろう。

 

古代クリント王国があの門を利用しなかったのは確実。

 

だとすると、やはりフィルフサは神代の生物兵器だった可能性が高いな。

 

そう思いながら、あたしは少しずつ道を切り開く。フィルフサとの戦闘はひっきりなしに起き。

 

中型、大型も仕掛けて来る。

 

どれも生半可な魔物よりも遙かに強い。

 

皆に引き渡したグランツオルゲン主体の装備でも、どうにか対応できるか出来ないか、というレベルだ。

 

更にグランツオルゲンの質を上げるしかないのか。

 

これだけの性能に引き上げていても、なおもこうも苦労するとは。

 

無言で戦いを続けて、昼少し前に切り上げる。

 

大型二十五体を含む、かなりの数のフィルフサを仕留めたが。ボオスがかなりの深手を負って、一度撤退を決めたのだ。左腕がぶらんぶらんになっていて、薬を相当に消耗してしまった。

 

ボオスも相当に腕を上げているのに。

 

ともかく傷は塞ぎ、増血剤で対応はしたが、ボオスの消耗がひどく、これ以上今日は戦わせられない。

 

仕方が無いので今日は休んで貰う。

 

畜生と、ボオスはぼやいていた。

 

ただ、フィルフサに弱体化を掛けずにやりあっているのだから、仕方が無いとレントが言う。

 

レントがボオスをそういう風に慰める程の状況だ。

 

誰も、何も言わなかった。

 

昼過ぎからも、フィルフサを次々と倒して行く。少しずつだが、勢力圏を拡大していく。

 

出来れば大雨を降らせてしまいたい所だが、それだとウィンドルの集落に少なからず影響が出る。

 

ウィンドルは全て踏みにじられた土地ではない。

 

だから、大雨で全て流すような戦いは、出来なかった。

 

しかしながら、フィルフサの群れは母胎となる土を作れず、各地で消耗している状態でもある。

 

状況は五分五分だろう。

 

タオが概ねの地図を作る。一から全て作らなければならないからそれなりに大変なのだが、タオは流石で、片手間で仕上げてくる。

 

クリフォードさんもそれにアドバイスして、短時間で誰にも分かりやすいのを作って来るのだから、大したものである。

 

ウィンドル周辺の水に囲まれた土地を囲むようにして、フィルフサの群れがいる。それについては、既に黙視している。

 

今あたし達がいるウィンドルの東から北に1、南に2。その内の一つは、カラさんが言っていた集団だろう。

 

ただ、攻撃性が思ったほど強くないように思う。

 

なんというか、グリムドルで交戦した群れのような、凄まじい渇望を感じられないのである。

 

ひょっとすると、フィルフサの性質が違うのか。

 

いや、それもデータが足りない。判断するのには、もっとまともな情報が必要になってくる。

 

二日目も夕方まで激しく交戦し、それで切り上げる。多少の不肖は出たが、とりあえず寝て体力を回復するようにと言ったボオスほど、手酷く傷を受けている者はいない。将軍も追加で一体仕留めたが。

 

フィルフサの密度が上がり始めている。種類も多彩で、取り込まれた生物の要素が、透けて見えるのが色々複雑だった。

 

アトリエまで戻り、回収してきた素材などを調べておく。

 

非常に不可解な素材が多い。

 

溶けない氷。ちゃんと水なのだが、ちょっとやそっとでは溶けない。調べて見ると、特殊な成分が含まれているようで、それで常温でも水にならないようなのだ。

 

多数の宝石。クラウディアが欲しがったので分けるが、幾らかは自分で分解して調査してみる。

 

凄まじい勢いで鉄にくっつく砂。

 

恐らくは磁石の性質を持っているのだろうが、一度くっついてしまうと外すのが大変である。

 

他にもよく分からない素材が山ほどある。

 

それに、機械も点々と落ちていた。既に朽ちたらしい建物跡らしいのも、見つけた。一つを見て、フィーがもの凄く怯えたのだが。なんだったのだろう。

 

ともかく、地図を作りながら戻る。

 

ボオスはちゃんと眠っていたようだが、それでも薬の効果覿面。夜のミーティングには参加する。

 

そうすると、カラさんがまた、アトリエに来た。

 

総長老は暇なのかなと一瞬思ったが、違うなこれは。

 

恐らくだが、あたし達を最大級警戒している。それくらい、神代の錬金術師は色々この人達に直接やらかした、ということだ。

 

先に機械について説明しておく。

 

技術については罪はない、という話も。

 

カラさんは、それを笑顔で聞いていたが。目は笑っていない。

 

全く油断していないと言う事だ。

 

ただし、多数のフィルフサを屠っているのも事実。

 

今。あたし達を殺すつもりもないようだが。

 

「指定された地点へは現在確実に侵攻しています。 フィルフサの数から言って、確かに王種はいそうですが、随分と群れが疲弊していますね」

 

「ふむ、それを理解出来る程度には交戦していると言う事じゃな」

 

「はい。 ただ、今までの交戦では、基本的に大雨を人為的に起こしました。 土砂降りの中で交戦して、やっと倒せるのが実情でした」

 

敵の群れは大侵攻を引き起こすくらいに充足していた。つまり数がそれだけ多かった、と言う事だ。

 

この近辺の群れは、オーレン族の間引きによって増える事が出来ていない。雨も降っているから、というのもあるのだろう。

 

質は今まで交戦した群れに決して劣らないが、それでいながら数があまり多くは無い。既にあたし達も、将軍と素でやりあって倒している。

 

あれは本来だったら、大雨の中で戦って。随伴の雑魚を倒さなければ。近付く事も厳しかっただろう。

 

ディアンには話してある。

 

昔、大侵攻の下準備に偵察に出てきていた将軍に、あたしの総火力を叩き込んだ事があると。

 

それでけろっとしていたという事実も。

 

それくらい将軍は強い。

 

ものによってはドラゴン以上の実力を持っていて。古代クリント王国のアーミーすら踏みにじったのだと。

 

勿論、その時に戦った将軍が、「蝕みの女王」を守っていた最強の個体であったことは忘れていないが。

 

それを抜きにしても、他の将軍にも。

 

当時の総火力程度では、通じなかっただろう。

 

「技術に罪はないというが、そなたはその技術を再生させたらどうする。 好き勝手に拡げるつもりか?」

 

「そのつもりはありません。 絶対に人間は悪用する。 それを前提に、技術の回復をします」

 

「ほほう?」

 

「残念ですが、人間はどうしても悪事を考える時に頭を一番使うんです。 オーレン族はそれなりの数と接しましたが、種族として本当にそうではないことを理解して、羨ましいとすら思います。 オーレン族になるつもりはないし、なれませんけれども。 思考回路が違う事は良く分かっています」

 

あたしは咳払い。

 

別に人間の悪口を言っている訳でもなんでもない。

 

あたしだって悪ガキだった頃は、如何に大人の裏を掻くかばかり考えていたし。

 

大人になってからは、法やルールの裏を掻く人間が偉い見たいな風潮があるのをみて、うんざりしていた。

 

真面目に生きる人間を馬鹿にして後ろ指を指したり。

 

酒も煙草もやらない、真面目に生きている夫を「つまらない」とか言って、浮気している女だって見てきた。

 

そういう場合、女の方が同情されるというどうしようもない状況を。

 

真面目に生きる人間が多いほど社会は良くなる。

 

そんなことは分かりきっているのに。

 

どうも人間は、自分だけは不真面目にいい加減に生きたいと考え。甘い汁を独占したいと思う。

 

その過程で他者を殺す事を何とも思わない。その他者には同胞すら含まれる。

 

それが残念ながら、平均的な人間というものだ。

 

あたしの舌鋒を聞いて、カラさんは面白がっているようだが。

 

ただ、それが本心から来ているものか、見極めようとしているのも分かった。

 

あたしだって、それは裏を掻くような事はするが。

 

それにしたって、裏を掻くやり方が正しいなんて、今更思っていない。

 

「大人」と称される人間が、実際には殆ど世の中にいないのと同じで。

 

人間はこれだけの破綻と破滅を経ても、種として変わろうとしていない。それはとても恥ずべき事だと思うが。

 

人間にその自覚はないようだとも、あたしはもう色々と諦めていた。

 

自分だけは違う存在になろう。

 

そうは思っている。

 

ただし、それは生きづらいとも理解はしている。

 

幸い、あたしの此処にいる仲間達は、あたしと考え方が似ている。

 

ダーティーなやり方を時々やるアンペルさんだって、いきなりそういったやり方を仕掛けるわけでもない。

 

昔は軽蔑する側の人間だったボオスも、捻くれていただけで。今はしっかり指導者をやろうと真面目に勉強している。

 

個としての人間は、変わりうる。

 

だから、あたしは。

 

種としての人間は信用しない。技術も野放しに拡げるつもりは無い。

 

個としての人間は信用する。

 

故に仲間でいるうちは装備を貸すし、力も貸す。

 

だが人間は変わる。

 

パティに、もしも圧政を敷くようになったら首を貰うと釘を刺したのもそれが理由である。

 

あたしはもう年も取らない体になりつつあるが。

 

今後は、人間を監視する必要があると思う。

 

古代クリント王国や神代の錬金術師集団の思想を受け継ぐ者達がまた現れた時には。即座に全てを殲滅するために。

 

オーレン族との交友を進めるにしても、何千年も掛かる事は覚悟している。

 

それには「思想を受け継ぐ」ではダメなのだ。

 

簡単に思想は変遷してしまうのだから。

 

高潔な思想ほどそうだ。

 

一方で、欲望に堕落した思想は全く変わらず受け継がれる。

 

つまり、人間とはそういう生物なのだと、諦めるしかないのである。

 

「なるほどのう。 意外にそなたは人間に対して苛烈にものを考えているようだな」

 

「恐縮です」

 

「もう少し見定めさせて貰おうか。 状況次第では、すぐにでも首を貰おうと思っていたのだがな」

 

「一つ聞いても良いですか?」

 

笑顔のままクラウディアが挙手。

 

カラさんは、笑顔で頷く。

 

こうして笑顔を浮かべている様子は可愛らしい女の子のようだが。時々凄まじい老獪さや、冷徹な視線が目に宿る。

 

オーレン族も、何度も人間に騙されるつもりはないのだろう。

 

「グリムドルなどの復興が始まっている事については、どれくらい知っていますか?」

 

「おう、そういえばグリムドルから安全を知らせる使者が来ていたのう。 風羽の生き残りによるもので、此処の風羽の生き残りと嬉しそうに再会しておったわ。 グリムドルを守る霊祈の生き残りを中心に、纏まっていると言う事だったが」

 

「良かった。 それが四回の戦闘の一つの結果です。 それからもライザは、あの土地に出向いては、支援を続けています」

 

「ふっ、少なくとも今の時点では信用しても良いかもしれんのう。 それにライザ。 そなたの体には、生物の繁殖本能が感じられん。 既に人間を止めはじめているようだな。 確かに世界を見守るものとしてのあり方としては、ありなのだろう。 ただ、そのまま腐らずにいられるかな」

 

カラさんも厳しい事を言う。

 

だが、それでも、やらなければならない。

 

オーレン族はそもそも思考回路からして人間と違うから出来ている。あたしも、良い意味で変わらない存在になるには。

 

やはり、思考回路からして。人間と逸脱しなければならないのかも知れなかった。

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