暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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竜風の事実が明らかになった以上、中間報告が必要になります。

門を経由して簡単にフォウレには戻れるので、フォウレの里に避難勧告が必要となるのは当然。

優先度が高い順に、問題を解決しなければなりません。


2、竜風について

どう竜風について説明するか、移動しながら考えておく。

 

そも竜風は、自然現象に近いものだった。ドラゴンは本当に死の寸前に自我を得るんだな。そうあたしは驚かされる。自我のないドラゴンが、安らぎを求めて死ぬために旅をする。

 

それをとめる事は出来ないし。

 

とめるのこそ、摂理に反するだろう。

 

元々宥めの精が存在していて、災害なんて起きないようになっていた。

 

それについても、納得が行った。

 

城が出来てから、災害は起きなくなった。

 

そういう記述が、城の中にあったのだ。

 

それはつまり、あの城を建てたフォウレの里の先祖達が、竜風の災害を抑え込むのに成功していたのだろう。

 

あの不自然な斜面は、ドラゴンが飛んで抜けられるように、距離を敢えて開けていたのだと思う。

 

ドラゴンは壁を見て上昇する。その時に、災害のエネルギーは大半が空に逃がされていたのだろう。

 

だけれども、宥めの精がいればこそだったのだ。

 

神代の錬金術師が宥めの精、フィーの同族を皆殺しにしてしまった。だから、災害で出るエネルギーが桁外れに増えた。

 

結果、定期的に大災害が起きるようになった。

 

どこまで世界に迷惑を掛けたら気が済むのか。

 

本当に、苛立ちで爪でも噛みたくなる。

 

ともかく、一度オーリムを離れる。総長老を借りる事、数日で戻る事を、側近の二人に告げる。

 

側近の二人はじろりと「総長老」を見たが。

 

カラさんは、引き継ぎはしてあると言って、文字通りけろりとしていた。

 

この様子だと、側近の二人は色々苦労しているんだろうな。

 

そう思って、あたしは呆れつつも皆で門を潜る。

 

すぐに、城の中に戻る。

 

魔物の気配はかなり薄くなっているが、想定通り時刻は昼少し前だ。ディアンが、跳び上がって喜ぶ。

 

「戻った! 門を通るときは、もう戻れないかと思ってたんだぜ!」

 

「はあ。 私も同じでした……」

 

「フェデリーカ、此処はまだ安全じゃないよ。 まずはフォウレの里まで戻って、そこで少し休もう」

 

クラウディアが諭して、フェデリーカが気が抜けるのを防ぐ。

 

先行していたクリフォードさんが、大丈夫だと手を振って来る。そのまま、例の頭巾を被せて、警戒装置の側を抜けて。

 

裏口から抜ける。

 

破壊された城の跡を見て、カラさんは呻く。

 

「この荒っぽいやり口、奴らじゃな」

 

「はい。 最初はフィルフサの攻撃によるものを想定したんですが、違いますよね」

 

「ああ、時系列があわぬな。 激しい戦であったのだろう。 多くの命が此処で消えたことが分かる」

 

カラさんが、大きなため息をつく。

 

ずっとこんな調子で殺し続けて来たのだから、それは感覚も麻痺するだろうな、と。

 

あたしだって、農業や畜産をしてきたから、命を奪うことは日常だった。だが、だからといって感覚は麻痺していない。

 

「タオとやら」

 

「はい」

 

「人間の世界では、同族同士で殺し合うのが普通なのか」

 

「五百年前に古代クリント王国が破綻するまではそうだったようです。 今の何十倍も人がいたので、相対的に命が安かったんだと思います」

 

クリントか、とカラさんがぼやく。

 

古代クリント王国については、カラさんも当然知っている。連中が神代の模倣者だった事も。

 

だから、それがフィルフサに手を出して破滅して。

 

人間がやっと同族で積極的に殺し合わなくなったと聞くと、色々と複雑なのだろう。

 

ただ、人間は増えればまたすぐに殺し合いをはじめるとあたしは考えているし。

 

恐らくカラさんも、それを見抜いているとみた。

 

森に出たので、ディアンがカラさんに危険地帯を教えながら歩く。最初どう呼んで良いのか困惑していたディアンだが。

 

流石に相手が験者以上の超凄い長老だと聞くと、さん付けでもちょっと恐れ多いかと思ったのか。

 

長老と呼ぶようになった。

 

カラさんも、それで良いようである。

 

「あの辺りは泥沼があって、あぶねえんだ。 長老も気を付けてくれ」

 

「何、最悪の場合は水の上を歩くでな」

 

「そんな事が出来るのか、すっげえ!」

 

「出来るには出来るが、水の下には大きな魔物がわんさとおろう。 まあ、あくまで最終手段じゃよ」

 

そうだろうな。

 

森の中を行く。別に短時間で強い魔物が補充される訳でもない。ともかく、フォウレの里まで、淡々と戻る。

 

フォウレの里に戻ると、カラさんは興味津々に目を輝かせて、辺りを見回す。ちょっと寄っただけだ。

 

本番はこれからである。

 

此処から、竜脈について調べる。カラさんとアンペルさんが、それで連携して動いてくれる。

 

まず、クラウディアとボオス、あたしが三人で、験者の所に。

 

丁度一週間で戻った事について、験者は時間に正確だと褒めてくれたが。

 

デアドラさんが来たのを見て、あたしが咳払いして。何かあった事に気付いたようだった。

 

「それで、何か成果はあったのか、ライザ殿」

 

「はい。 竜風について分かりました」

 

「!」

 

「竜風は、簡単に言うとドラゴンが指定の地点を飛ぶ事によって生じる災害です。 普通ドラゴンが飛ぶだけだと被害は起きないんですが、竜脈に沿って強力なドラゴンが飛ぶ事が分かったんです。 一定期間に一度起きるのは、それだけ強力なドラゴンが少ないから、ですね」

 

デアドラさんが、詳しくとぐいぐい来る。

 

それはそうだろう。

 

あたしも、それについては分かっている事を話す。

 

「お城に竜脈の起点がある事は既におわかりかと思います。 問題は其処からどういう風に被害が広がるか、です。 今、竜脈について詳しいアンペルさんが、専門家と調べています。 今日……遅くても明日には分かります」

 

「そうか、助かる」

 

「験者様。 それで対策は如何しますか」

 

「ともかく、被害がどう広がるか調べるしかない。 竜脈というと、確か現在のこの里にもあったな」

 

それはそうだろうなとあたしは思う。

 

フォウレの里の機具も、魔石を用いて動かしているものだ究極的には。種の内部構造を調べる事は、フォウレの里ではタブーとなっていたようだが。それでも、竜脈の近辺は、生活に色々と都合がいい。魔力を際限なく引っ張り出せるし。何より魔術を使う人間は、竜脈の近くで生活すると、それだけ体調も良くなるし、魔力の制御も簡単になるからである。

 

誰もが魔術を使える今の時代。

 

自然と竜脈に沿って生きるようになるのは、当然のことなのかもしれない。

 

「とにかく、今日明日には結果が出ます。 最悪の場合は……里の場所を引っ越すべきかもしれません」

 

「分かった。 先に分かっていれば対策も出来る。 ともかく、よく調べてくれた」

 

「それにしてもドラゴンが原因などとよく分かったな」

 

「それは、色々と資料がありましたので。 里の人には内緒ですよ」

 

デアドラさんが、むっとする。城の中を漁ったことを理解したからだろう。

 

だけれども、今の里の人間の命が第一だ。それに暗黙の了解として、城の調査をする事も告げてある。

 

あたしとしても、完全に手を汚さずに発掘が出来るとは思っていない。

 

度が越した行為をすれば神代のゴミカスどもと同じになるが。

 

だからこそ、あくまで人のためと考えて行動しなければならないのだ。

 

「竜風の際にドラゴンを見た者は今までにもいた。 いずれにしても、説明が必要になるだろうな」

 

「どうなさいますか、験者様」

 

「うむ……ともかく今のうちに考えておく。 ライザ殿、被害の範囲について調べて欲しい。 フォウレの里だけの問題ではないからな」

 

「はい。 任されました」

 

敬礼すると、すぐに験者屋敷を出る。

 

待っていた皆と、調査に出る。カラさんが言うには、竜脈から竜脈を目指してドラゴンは飛ぶらしい。

 

里から少し離れた所で、カラさんが長めの詠唱を始める。

 

聞いた事もない言葉による詠唱だ。ただ、全身からエーテルが物理的圧力を伴って吹き荒れるほどのとんでも無い魔力である。

 

オーレン族は老衰で死ぬのでは無く、病で死ぬ。

 

そういう話をされたが。

 

確かにこれは納得出来る。

 

体が全盛期に比べて小さくなっていても、カラさんの魔力はまるで衰えていないどころか。

 

どの人間の魔術師よりも上だろう。

 

詠唱が終わり、たたんとリズムを踏むようにして、カラさんが地面を踏む。見た事も無いほど巨大な魔法陣が天地に出現し。それがカラさんの頭上で合体。数度回転した後、幾つかの矢印が出現していた。

 

矢印の大きさが竜脈の強さ。

 

長さが距離か。

 

タオが、それを説明されて、即座に地図を見る。何カ所かは、実際に足を運べるようである。

 

これにフォウレの里にあった竜脈を加えれば、次の竜風での被害が分かる、というものなのだが。

 

タオが印をつけた地点を見ている限り、六割以上の確率で、竜風がフォウレの里を直撃する。

 

というのも、城。

 

更に城からかなり近い地点。それもフォウレの里の方に竜脈があるのだ。

 

これは其処にドラゴンを誘導しているのも同じ。

 

更に、膨大な力を蓄えたドラゴンが、わざわざ道をそれる必要もない。門を飛び出してきたドラゴンは、それこそ一直線に飛ぶだろう。

 

六割以上と思ったが。

 

これは、ほぼ確定か。

 

勿論違う方向に最初から飛ぶ可能性もあるが。

 

タオが、幾つか矢印を地図に書き加える。

 

それはグロテスクなほど、フォウレの里を竜風が直撃する説得力を持って、描かれていた。

 

「カラさん、ありがとうございます。 タオ、これまずいよね」

 

「まずいね。 これは洪水の直撃を受けるのと同じだ。 多分家を多少強化した程度ではどうにもならないと思う。 空間を空けるのに使う余剰魔力だ。 下手をするとフォウレの里なんて跡形も残らないよ」

 

「タオさん、何かしらの手はありますか?」

 

パティとしても心配なのだろう。

 

パティは他人に偏見をほぼ持たないのが強みだ。フォウレの里の人達の事情を聞いて、どうにかアーベルハイムで出来る事はないかと即座に申し出た程である。

 

ボオスも、見ていて感心するとまで最近は良く口にする。

 

「幸い、すぐに竜風が来る訳じゃないからね。 この辺り……少し不便になるけれども、引っ越しするしかないよ」

 

「やれやれ。 クラウディア、金でも出してやるか?」

 

「うーん、集落単位でのお金の拠出となると、即座に話は出来ないかな」

 

クリフォードさんの提案に、クラウディアも難色を示す。

 

分かっている。

 

竜風についての話をクラウディアが持ち出したとして、バレンツ商会にどれだけ話を通せるかどうか。

 

時々クラウディアは余裕を見てはバレンツ商会に出向いて雑務をこなしているようだが。

 

本来だったら、毎日かなり遅くになるまで仕事をして、やっと商会が回るものなのかも知れない。

 

今の時代、人間が極めて少なくて。

 

それで仕事量もコンパクトにすんでいるということだ。

 

「とにかく、この地図は分かりやすい脅威だと思う。 それで丸投げだけするのか?」

 

「ちょっと困ったね。 何か案はある?」

 

「俺は、自分達で村を引っ越すべきだと思う」

 

真っ先に意見を出したのはディアンだ。

 

そのまま、意見を聞く。

 

「ライザ姉や長老のおかげで竜風のことが分かった。 それだけで、凄い事なんだ。 これ以上甘えたらいけない。 俺はそう思うんだ」

 

「うん、その通りだね」

 

「とにかく、俺から験者様に言ってみる。 この地図を見て、フォウレの里を移動しないと多分どうにもならないことはよく分かった。 俺たちが、自分達で判断して決めないといけない事なんだ」

 

ディアンがそう言う。

 

少しずつ、ディアンは変わり始めている。

 

明らかに敬意を払うべき存在がいること。

 

唾棄すべき存在もいること。

 

外に出て見て、ディアンは短時間でその両者を見ている。フォウレの里は、ディアンにとっては前者なのだろう。

 

だとすれば、自分で守らなければならない。

 

自分で変えなければならない。

 

その意思は、貴ぶべきだ。

 

「すぐにフォウレの里に戻ろう。 もしもフォウレの里から支援を申し出てきた場合は、クラウディア、頼めるかな」

 

「その場合は商会に話を通すよ。 ただ、ディアンの言葉通りに、まずはフォウレの里の意思を決めてから、だね」

 

「おう、なんとか説得する」

 

ディアンは張り切っているが、難しいのは分かりきっている。

 

パティも険しい顔をしている。

 

もっと規模が大きい集団の改革をして、その困難さを思い知らされたからだろう。フェデリーカだってそうだ。

 

フェデリーカだって、サルドニカをもう少しまともにするには、腰を据えて当たりたかっただろう。

 

それも出来なかった事を考えると、やはり色々と厳しいと感じるのだろう。

 

「ライザ、それで何も干渉はしないのか」

 

ボオスが聞いてくる。

 

ボオスから見て、ディアンは不安が多いのだろう。力ばっかり有り余った乱暴者として周囲からはまだ見られている。

 

そんな乱暴者が、よそ者とつるんで変な事を言い出した。

 

そう取られかねない状況なのは、確かに事実だ。

 

だけれども、あたしは首を横に振る。

 

「まずはディアンに任せよう。 どうしても無理なら、あたしとクラウディアとボオスと、他にも皆の力を借りるよ」

 

「……」

 

カラさんは何も言わない。

 

少なくとも、今のやりとりに裏などがないことを見ているのだろう。

 

あたし達を探っている。

 

状況次第では即座に。

 

まあ、それもあたしは分かっている。基本的に、カラさんに何かしらの隠し事をするつもりはなかった。

 

 

 

フォウレの里に戻ると、急いでディアンが験者屋敷に行く。ディアンの妹分や弟分らしい、半裸で体に化粧をしている子供達が、話を聞きに来る。ディアンは子供には人望があるらしい。

 

まあ、わからないでもない。

 

ディアンが心配だという子供もいる。

 

子供の相手は得意だ。

 

丁寧に言い聞かせる。

 

ディアンは今、外で大きな情報を手に入れてきた。フォウレの里にとってとても大事な情報だ。

 

それをどうにかして、験者と話し合って、どうにか通さないといけない。

 

験者を説得した後は、里の大人達。

 

ディアンにとっては大仕事だ。

 

それを為せなければ、フォウレの里はあまり良い結果にならないだろう。そう告げると、子供達はディアンを応援するつもりになったようだった。

 

今は、それでいい。

 

ただ、本当に幼い子の中に、障害が出ている子が目立つのはいただけない。確かにもっと早く外の血を入れるべきだったのだ。

 

験者が決断したことは間違っていなかった言える。もう何世代か近親での交配を続けていたら、もっと酷い事になっていただろう。

 

まだ幼いのに、片足が動かない子がいて。粗末な義足を使っていたので。あたしが作る。これは、未来分の投資だ。

 

義手や義足は古式秘具をみて色々と解析した。

 

アンペルさんのものほど立派なものではないにしても、今の木を適当に組み合わせた粗末なものよりはマシになる筈だ。

 

すぐに作って、曲がってしまっている足に合わせて調整する。

 

しばし不安そうにしていた子供だが。

 

ちゃんと歩けるようになった事に気付くと、ぱっと顔が明るくなる。他の子供の様子も見る。

 

やはり色々と障害がある子がいる。対応できるものは対応しておく。色がきちんと見えていない子もいるようだ。

 

これはどうすればいいのか。目を取り替えるのは、いくら何でも厳しいだろう。

 

「義足は年に応じてこれ、続いてこれを使うようにしてね。 最終的にはこれを使えば大丈夫だよ」

 

「何度も交換しないといけないの?」

 

「体が大きくなるからね」

 

義足はかなりしっかり作ったので、子供が走り回っても大丈夫な筈だ。手入れの仕方と壊れた場合の対応についてもメモを残しておく。この辺りは原始的な生活をしているように見えて識字率は悪くない。

 

メモを残しておけば大丈夫だろう。

 

問題は視覚に障害がある子だが、それについてはカラさんがアドバイスをくれる。

 

「恐らくは特定の色が見えておらんのじゃろうな。 そればかりは、脳に作用する魔術を自分で工夫するしかなかろう。 強化魔術だと、上手くやれば補える事があるのだが」

 

「なるほど。 魔術の系統は?」

 

ちゃんと見えていない子は、強化魔術だという。だとすると、カラさんの方が対応できるかも知れない。

 

カラさんが目が良くない子に丁寧に魔術を教え込んでいる。強化魔術は我流の傾向が特に強く、タオのように頭脳強化をしていたり、レントのようにパワーと耐久力の強化に全振りしているケースもある。

 

カラさんは魔術の極みにいる人だ。見た感じ、どの系統の魔術も固有魔術のように好きに使えるようである。

 

はっきりいってインチキレベルだが、それは元から人間より優れている体の持ち主が、千何百年も体を鍛え抜けばそうなる。

 

すぐにコツを掴んだらしく、子供が色々と試している。

 

後はどう訓練すればいいかのアドバイスをカラさんがしていた。

 

それはそうとして。

 

験者屋敷の方に意識を向けるが。

 

ふむ、やはり揉めているな。

 

験者に対して話をしているディアンだが、多分村の古老達を交えて話していて、それで騒ぎになっているのだろう。

 

験者屋敷の方から怒鳴り声が聞こえている。騒いでいるのは老人か。

 

この土地を捨てるなんてとんでも無い。

 

父祖から受け継いだ土地だ。

 

そんな怒鳴り声がする。

 

実際には違う。

 

彼等の父祖が受け継いだのは此処じゃない。

 

話を聞く限り、何度も竜風で壊滅しているのだ。その度に場所を移して、それでたまたま今回は相性が良い土地に当たったに過ぎない。

 

ひょっとすると、だが。

 

古代クリント王国滅亡後、フォウレの里の民が戻ってきたとき。

 

竜風が直撃した森が、半壊していて。

 

たまたま住み着いた土地が、里の最初の入植地になったのかも知れない。城があんな有様ではとても住めなかっただろうし。可能性はある。

 

長い旅の生活で疲弊していたフォウレの里の人々は、そんな災害が起きる土地だと言う事を失念し。

 

それから何度も竜風に襲われてきた可能性すらある。

 

ディアンは相当に頭に来ているようだが。

 

験者の怒鳴り声は聞こえなかった。

 

主に怒鳴っているのは老人ばかりだ。

 

「手を貸すか?」

 

ボオスが言うが、首を横に振る。

 

これはディアンが言った通り、フォウレの里で解決しなければいけない問題なのである。ならばあたし達が首を突っ込む話ではない。

 

あたしは子供の玩具などを直して回る。

 

次世代の人間には、せめて少しはマシな思いを持って貰いたいし。何より外への偏見だってなくして欲しいからだ。

 

神代の人間は己の欲と力を最優先して、それで何とも思わない連中であったようだが。だから世界は最終的にこうなった。

 

あたしは、同じ轍は踏ませない。

 

あまりウィンドルを放置も出来ない。当面はフィルフサを潰して回るのが最優先となるからだ。

 

だが、一日だけは待つ。

 

そう、あたしは決めていた。

 

 

 

夜になると、ディアンが戻って来た。

 

相当にタフなディアンだが、疲弊しきっているのが分かった。風呂を湧かしておいたが、無言で入る。

 

クラウディアが用意した菓子を食べ始める。

 

誰も、声は掛けなかった。

 

ディアンも相当に参っているのが分かる。

 

元々里の人間の頑迷さには相当に参っていたのは分かっていた。頭にも来ていたのだろう。

 

少しはあたしの言葉は聞いてくれるようにもなり。

 

それで里が変わり始めたのだと、どこかで喜んでいたのだ。

 

だが。

 

だからこそに、知ってしまった。

 

実際には、渋々ながら変化に応じていただけだったのだと。

 

よくなど思っていなかった。

 

人間は年を経れば経るほどそうだが。今まで自分がやってきたことを、真っ向から捨てる事は難しい。

 

特にこんな周りが危険な魔物だらけの土地で、必死に生きてきた人間にはそうなのだろう。

 

そうでなくても人間はそういう生き物なのだ。

 

閉鎖性を詰めすぎて、子供に異常が出始めているのに。それでも余所と関わり合いになりたくない老人達。

 

勿論それには、長い迫害と放浪の歴史も噛んでいる事は分かっている。

 

だがそれにしても、ディアンには辛いのだろう。

 

あたしより先に、ボオスが声を掛けていた。

 

「ディアン。 上手く行きそうか」

 

「わからねえ。 ボオスさんは、クーケン島ってとこの次期当主なんだよな。 ライザ姉も其処の住人なんだろ」

 

「ああ」

 

「もしもライザ姉と意見が対立することになったらどうするんだ。 ライザ姉って、ちいさな集落どころで収まる器じゃない。 この世界を変える人間だ。 そんな英傑と対立した場合は、どうするんだ」

 

また、難しい事を聞くな。

 

あたしはちなみに、ボオスとは上手くやっていける自信がある。

 

だけれども、ボオスの子孫とまで上手くやっていける自信はない。

 

子供の性格が親と真逆なんて当たり前の事だ。

 

英傑が子育てに失敗するなんて珍しくもない事である。

 

子供が親に似るとしたら、だいたい悪い所ばかりだ。

 

クーケン島でそれは散々見知っているから、あたしは無責任なことをいうつもりはない。

 

ボオスは少しだけ考え込んでから、言う。

 

「ライザと俺は散々昔は対立していてな。 まあどっちも悪かったんだが、くだらない事で意地になっていた。 色々あって和解できたが、今でもその時の事を思い出すと、冷や汗が出る」

 

「ボオスさんでもそうなのか。 ライザ姉でも」

 

「俺の生まれたクーケン島でも、物わかりが悪い老人はなんぼでもいた。 老人がみんなそうではないがな。 それで物わかりが悪くて攻撃的な老人ほど権力を握っていたりして、それで困らされたものだ」

 

「此処と同じなんだな……」

 

ディアンは相当に落ち込んでいる。

 

だが、顔を上げる。

 

どうやって仲直りしたのか、聞かせてほしいと。

 

ディアンは咳払いした後、昔の話を始めた。

 

四年前の、乾期の話。

 

ちょっとあたしには、こそばゆいかも知れない。他人の目から見た、あの夏の日の思い出の話だった。

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