暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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引っ越しが必要。相手は自然災害だから。

それが分かっていても、因習村は簡単には動けないものです。


3、移転へ向けて

朝一に体を動かしていると、ディアンが起きだしてくる。多分色々考えていて、目が覚めるのも早かったのだろう。

 

一緒に体操して体を温めると、行ってくるとディアンは言って、朝飯だけ食べてすぐに験者屋敷に向かった。

 

カラさんが、いつの間にか側にいた。

 

この人の隠行、凄い技術だなと感心する。出来れば十年以内に追いつきたいが、はてさて。

 

「わしはどちらかというと老人の側なのだがのう。 しかもオーレン族は、恐らくこっちの人間より頑迷な筈だが。 それでも、先代もわしも、周辺の統率に苦労した事はないのう」

 

「文化が違うんですよ」

 

「そうか。 まあそうであろうな」

 

「恥ずべき文化は継承するべきではありません。 あたしはそう思います。 今、フォウレは変わらないといけないはずです。 でもそれは、自分でやらないと」

 

手を貸してくれと言ってくるならそうする。

 

だが、もしも竜風に巻き込まれて滅びたいというのなら。

 

勝手にそうしてくれというしかない。

 

強制的に移住させる手もあるが。

 

それは恐らく、何世代にもわたる恨みを招くだろう。

 

例え目の前で竜風がフォウレの里があった場所を滅ぼしたとしても、である。

 

ドラゴンをオーリムで殺すという手もあるが。

 

それはいくら何でも厳しい。

 

もう年月を超越してしまった可能性が高いあたしだが。ずっとウィンドルに貼り付いている訳にもいかないし。

 

何より死を迎えるためにこの世界に飛ぼうとするだけのドラゴンを殺すのは、気が引けてくる。

 

そもそも宥めの精であるフィーの一族を、神代の錬金術師どもが皆殺しにしなければ、こんな災害は起きなかったのだ。

 

フィーは周囲を飛んで回っている。

 

空気が良いのか、気持ちよさそうだ。

 

多分この辺り、ドラゴンと相性が良いのだろう。

 

竜風で吹っ飛ぶ訳である。

 

「それでどうする」

 

「今日一日は待ちます。 それで駄目なようなら、ウィンドルでのフィルフサの討伐が一段落するまで待って、それでまた様子見に。 それでも駄目なようだったら、もう知りません」

 

「割と非情だな」

 

「その時は、あたしが考える事ではなくて、むしろパティやその父上が考える事になってくるからですね。 強制移住をさせるにしても、放っておくにしても、災害が起きた後にどうするか考えるにしても、もうそれは統治者の仕事であって、あたしの仕事ではありません」

 

カラさんの言う通り、あたしも割と非情なのかも知れないが。

 

誰も彼もは救えないのだ。

 

残念だが。

 

フォウレの里の人達のために、時間と労力を全て使うわけにもいかない。そういうものなのである。

 

あたしは無言でアトリエに篭もると、今日は調合を続ける事にする。皆の装備の刷新をしておく必要がある。薬や爆弾を増やしておく。当たり前の話で、これからフィルフサの大軍と連戦することになるのだ。

 

カラさんには、隠し事はやめておいた方が良いだろう。

 

それで、この近辺で回収した水を、切り札としてもっている事を告げる。最悪の場合は土砂降りを起こして、それでフィルフサの群れを弱らせることも。

 

カラさんは、無言でそれを聞いていた。

 

この人は時々笑顔が消えて無表情になるが。

 

その時も、そうだった。

 

「大水による弱体化は、フィルフサには最高に効果的であろうな。 だが……」

 

「分かっています。 周囲への被害も甚大極まりないです。 幸いウィンドル近辺のフィルフサは相当に削られていて、恐らくあたし達でも大雨抜きでどうにか出来ると思います。 ただ、もう守るべきものが一切無くなってしまった土地では、それが最適解かも知れない、とあたしは考えています」

 

「既に試したのか」

 

「グリムドルや他三つの土地で、フィルフサと戦う時には。 それらの土地では、既に守るべきものがありませんでしたから」

 

カラさんは腕組みしてじっと考え込む。

 

そして、やむを得ぬかと、呟いていた。

 

それから、あたしがやる錬金術を興味深そうに見る。エーテルの物質化、ものの要素ごとの分別、合成。

 

それらを説明しながらこなして行くと、なる程と考え込んでいた。

 

「魔術に関してはエキスパートですよね。 ひょっとしたら、才能があるかも知れないですよ」

 

「いや、わしには幾つかの才能が欠けておる。 途中までは出来そうだが、全部そなたと同じようにはできまいて」

 

「そうですか……」

 

「まあ見ていて面白いものではあるな。 そなたらがいう神代の者どもは、錬金術をやる所を絶対に他人に見せなかった。 故にどうやってあのような驚天の装備を作り出しているのか、分からなかったからのう」

 

そうか。まあそうだろうな。

 

自己神格化を始めていたのだとすれば、なおさらそうだ。そういう存在は、基本的に自分の事なんて見せはしない。

 

あたしは淡々と爆弾も薬も増やしておく。

 

コアクリスタルで使う分もあるが、それだとやはり魔力を膨大に吸い上げるので、限界があるのだ。

 

コアクリスタルの調整も行っておく。

 

既に古式秘具とて、完全に手が届かないものではない。

 

というか、古式秘具を改良することも増えてきている。

 

既に古式秘具は、特別なものでもなんでもない。

 

あたしは、そう思いながら、調整を続ける。

 

昼少し過ぎ。ディアンがまた、疲れきった様子で戻ってくる。埒があかない。そう顔に書いていた。

 

フェデリーカが菓子を焼いて出す。紅茶も。

 

ディアンは礼を言うと、菓子を食べて。無言になった。

 

甘いのだろう。

 

フェデリーカが甘く作ると言っているのを小耳に挟んだ。

 

恐らくだけれども、頭の疲れを取るためだ。

 

ディアンはしばらく無言になると、紅茶で菓子を流し込み、トイレに。あたしは、その様子を横目で見ながら。

 

調合を続けていた。

 

「若者も苦労しておるのう」

 

「カラさんは若い頃はどうだったんですか?」

 

「激動であったよ。 連中が来たからな」

 

「!」

 

そうか、それもそうだろうな。

 

カラさんがまだ若い頃に神代の錬金術師が到来。丁度今のリラさんやセリさんと同じくらいの年であったそうだ。

 

先代の総長老の融和策を見て、神代の錬金術師は優しいとか理性的だとか一切考えずに、ただ舐めて掛かった。

 

優しいと言う言葉は、神代の錬金術師に取ってはただのカモの蔑称だったのだろう。

 

総長老にカラさんは何度も諌言したそうだが。

 

最終的には、武器を取ることを決めた総長老とともに戦い。総長老も、仲間の多くも目の前で失い。

 

そして生き残った者の中で、カラさんが一番年を取っていることに気付いた。

 

奏波氏族の長老として、オーリムの総長老として。

 

以降は指揮を執る事になった。

 

フィルフサとの終わりのない戦いの指揮を。

 

王種を倒した事もあるが、たった数度だけ。

 

犠牲だけが増える時もあって。酒に溺れることもあったそうである。

 

それでも今では、ある程度余裕を持って振る舞える。

 

それもまた、人生だと理解したからだそうだ。

 

あたしは、カラさんのために装備を作ろうかと言ったが、断られる。

 

やはりカラさんは、まだ錬金術の装備に対する忌避感が強いのだろう。何しろ怨敵が使っていた装備だ。

 

だが、あたし達が遣う事に対して、不満の言葉もないようである。

 

他人を尊重できる。

 

それだけでも、この人は大半の人間より立派だなと、あたしは思うのだった。

 

そして、夕方が来た。

 

ディアンが戻ってくる。

 

ずっと怒鳴り合っていたようだったが。少し前から、その調子がトーンダウンしてきたのが分かった。

 

どうやら、験者が重い腰を上げたようなのである。

 

それで、老人達も、勢いが削がれたようだった。

 

「甘い菓子、さっきの、少しくれるか」

 

「幾らでもどうぞ」

 

「すまねえフェデリーカさん」

 

ディアンは菓子を貰うと、乱暴に口に突っ込む。

 

ちょっと好みからすると甘すぎるからだろう。

 

無言になって、しばらく黙り込んでいたが。やがて紅茶で喉の奥に流し込んでいた。

 

「験者様が、声を掛けた。 その瞬間、老人共が黙った。 どうして験者様は、最初からそうしなかったんだろう」

 

「恐らく、双方の言い分を全て聞くべきだと思ったんだろうね」

 

「それが上に立つ者の役割って奴なのか」

 

「「全て聞く」というか、「全て知る」がそうなるのだと思います」

 

パティが補足。

 

ボオスもそれに同意して頷いていた。

 

パティが、順番にディアンに説明する。

 

上に立つ人間は、己の欲望よりも、客観的にものを見る事が大事なのだと。

 

まず全ての出来事を私情なしに分析して、どうすればみんなにとって一番いい結果が出るのか、考えるべきなのだと。

 

その通りだ。

 

パティの思考は理想的だ。

 

偉大な王様の伝承は今も伝わっているが、殆どの人間が興味を持つのは、ラブロマンスやら勇ましい征服劇だとかだ。

 

そんなものよりも、どう善政を敷いたかが大事だろうに。

 

今パティが言っているのは、そういう事だ。

 

王都の腐りきった貴族を反面教師にして、パティは此処まで考えるように至った。

 

その理想が崩れたときには、最悪の暴君になるかも知れないが。

 

その時のために。

 

あたし達がいるのだ。

 

「分かった。 パティさんも、王都だかいう凄く大きな街の偉いさんだもんな。 話はしっかり聞いておくべきだと俺も思う。 「知る」、か。 老人は確かに色々知ってる。 だけど、ライザ姉の言う通り、意固地になると、知っていてもどうにもならなくなるわけなんだな」

 

「そうです。 そういった人達の意見をどう調整するかが大事なんです」

 

「験者様は凄いよ。 俺はそれは分かってた。 だからどうして里の状態を改善しようとしなかったのかが歯がゆかった。 だから暴れてた」

 

それも分かっていた。

 

知っていたよというと、ディアンは無言になる。

 

分かっていても、どうにもならなかったのだと。

 

今になって、理解出来たからだろう。

 

分かってはいた筈だ。

 

それでも、しっかり形になって分かったから。余計に辛いのだ。

 

いきなり叫ぶディアン。

 

びっくりはしない。

 

感情が爆発するのは、分かっていたからだ。

 

勿論、助けてくれというのでなければ、助けるつもりは無い。

 

「行ってくる! やっぱり里を移動する事を考えないとダメだ! どう考えても、そもそも此処は後から住み着いた場所だし、竜風が起きる度に引っ越しだってしてるんだ! それなのに此処に固執して、フォウレの里が滅んで良いなんて言うのは間違ってる!」

 

その通りだ。

 

その結論を出せただけでも立派である。

 

ディアンに、声を一つだけ掛けておく。

 

「明日の朝、またウィンドルに向かうよ。 フォウレの里で皆を説得するために残るか、あたし達と行くか、決めておいて」

 

「そんなの決まってる。 ライザ姉と一緒に行く。 ウィンドルに大繁殖していたあのフィルフサとか言うバケモノ、ライザ姉が言った通り、こっちの世界に来させたら文字通り世界の終わりだ。 あれが元々ただのコケだか草だかの一種だったかなんて関係ねえ。 ともかく、俺がみんなと一緒に全部やっつける。 今晩中に片付けるから、みんな頼む、その間だけ待ってくれ」

 

ディアンが行く。

 

あたしは、男の出陣だなと思った。

 

それを止めるつもりは無い。

 

ディアンは今、本当の意味での戦士になり。

 

大人になったのかも知れなかった。

 

子供がいようといまいと、精神が幼稚なままの人間なんて幾らでもいる。それを思うと。

 

ディアンはあの年で、大人になろうとしていて。それを果たそうともしている分。そういう自称大人よりも、ずっと立派なのだろう。

 

あたしは咳払いして、皆に声を掛けておく。

 

「普通に過ごして、明日に備えて。 明日から、またウィンドルで対フィルフサ戦にいそしむことになるから」

 

「他にも幾つもやる事がある」

 

クリフォードさんが挙手。

 

まだ情報が足りない、というのだ。

 

神代の錬金術師か、その子孫か、よく分からないが。どうしてあたしに鍵なんて渡して、ちょっかいを掛けて来たのか。

 

神代の錬金術師の足跡が、今までに無い程濃く残っている場所だ。

 

何か重要な情報が得られるかも知れない。

 

そうクリフォードさんは、順を追って説明する

 

流石だ。

 

この辺り、年の功である。

 

「確かにそうですね。 そうなると、ウィンドル北東にあると言う城をまず調べるべきでしょうか」

 

「いや、奴らの研究所は、何カ所かにあった。 一番目立つ北東の拠点は、むしろ引き払われているやもしれん」

 

「そうなると、やはりフィルフサの排除が最優先になるということですね。 不自然に多く配置されている西側も気になりますね」

 

「いずれにしても、われらは千三百年も戦い続けて、それでも数回しか王種を倒せておらぬ。 そなたらがウィンドル周辺のフィルフサをまとめて片付ける事が出来たら、一気に状況を進展させ、各地のオーレンの民とも連携を取れるであろうな」

 

なるほど、確かにそれもそうだ。

 

今は伝令専門の一族が、必死に細い線をつないでいるだけだが。上手く行けば、各地に孤立しているオーレン族を救い、ウィンドルの地に連れてくる事も出来るのか。

 

王都近郊の門から行った先にも、生き残りはいた。

 

その後に潰した群れ二つのテリトリにも、生き残りは少数だが存在していたのだ。確かにオーリム全体の事を考えると、それはありだろう。

 

いずれにしても、夜更かしは出来ない。

 

アンペルさんは、ずっとエミルと言う錬金術師が残した資料に目を通している。

 

暗号解読に手間取っているらしい。

 

エミルと言う人は、暗号を作るのが得意だと言っていて。アンペルさんは、その癖を知っているそうだが。

 

それでも苦戦していると言う事だ。

 

あたしもほどほどの所で風呂に入って、切り上げる。

 

いつの間にか怒鳴り声は聞こえなくなっていた。理性的な話し合いに移行したのだと信じたい所だ。

 

ディアンが戻って来たのは、夜遅くだった。

 

自分用のベッドに入って眠ったらしい。

 

この様子だと、きっと上手く行ったんだな。

 

そう、あたしは思うのだった。

 

 

 

翌朝。

 

出立の準備をする。

 

ディアンに、何があったのかはきちんと聞く。それによると、験者の一声もあって、引っ越しが決まったそうだ。

 

地図を見て、移動する先は此処から少し離れた地点。

 

あたし達がウィンドルから戻った辺りで、現地の視察と切り開く作業の手伝いを頼むかも知れない、と言う事だった。

 

まあ、それくらいだったら全然かまわない。

 

どうせウィンドルは短期間で調査しきれないだろう。フィルフサの群れ七つがまだ近辺で健在となると。

 

それに神代の連中が残した傷跡が、そこら中に残っている場所だ。

 

徹底的に調べれば、奴らのやり口をもっと良く理解出来る可能性が高い。その好機を逃すわけにはいかなかった。

 

出る前に、デアドラさんが来る。

 

そして、皆を見回して言う。

 

「また城の調査に出るのだな」

 

「はい。 話し合いはまとまったようで何よりです」

 

「験者様の言葉あってのことだ。 実際験者様が行動しなければ、このままフォウレの里は血が濃くなりすぎて、やがて腐り果てていただろう。 それに、ディアンが主張したとおり、元からずっとここに住んでいたわけでもなんでもない。 だとすれば、移動する事は別におかしくもなんともない。 洪水が起きるのに、住む場所を変えないと言い張るようなものだ」

 

良かった。

 

デアドラさんは少なくとも、あたし達が調査した竜風の予想被害範囲については疑っていないようだ。

 

それだけあたし達の調査能力と、色々なものを作り出す力を信頼してくれた、ということだろう。

 

何より多数の魔物を仕留めてきた事が決定打、と言う訳だ。

 

「とりあえず、今度は前回より滞在が長くなると思います。 その後にフォウレの里に戻ると思います」

 

「了解した。 竜風がいつくるかは分からないが、すぐ起きるものでもないだろう。 その間に、里の引っ越しについては考えておく。 いっそ農村と合流するのもありだという意見も出ていてな」

 

確かに、それもありなのだろう。

 

フォウレの里と行っても、流浪の民がずっと苦労して。それが五百年前の古代クリント王国破綻を機に再度集まった集団に過ぎない。

 

だとしたら、血族主義なんてのはとっくに失われているし。

 

何より農村の辺りは竜風の被害から大きく外れている。

 

人間が著しく数を減らして、魔物に対応できる能力が激減している今。

 

そうやって、人は少しでも集まって。

 

対応力を上げるべきなのかも知れなかった。

 

ともかく、フォウレの里を再び出る。子供らが見送ってくれたので、それがむしろ嬉しかった。

 

森を行く。

 

途中魔物が何度も仕掛けて来るが、別に困る事もない。来次第全て片付ける。巨大な魔物……川の王だったか。相変わらず水に浸かって、鼻らしい長い触手で背中に水を掛けている。

 

怒らせなければ無害だというのなら、今は戦う理由もないだろう。

 

遠吠えがする。

 

あれは、山の方か。

 

漁村の西側から北上すると禁足地だと聞いている。その先に、あの遠吠えの主がいると言う事だ。

 

或いはだが。この森に住んでいるあの巨狼は、一体だけで。

 

この地方全域に、広く巨狼は分布しているのかも知れない。

 

だとすると、他の巨狼は攻撃的な可能性もある。

 

サルドニカ近くで交戦した巨狼の戦闘力を考えると、油断だけは絶対にしてはいけない相手だ。

 

程なく、城の裏手につく。

 

フィーに頼んで頭巾を被せて貰い、監視装置を黙らせると、門を通ってウィンドルに向かう。カラさんは、ずっと興味津々の様子で、何もかも珍しそうに周囲を見てにこにことしていた。

 

ただ、城の中の争いの跡を見る時は。

 

じっと黙り込んでいたが。

 

ウィンドルに到着すると、当然オーレン族の村は無事だ。ただ、側近二人が即座に来る。二人とも、あまりいい雰囲気ではなかった。

 

「総長老、戻りましたか」

 

「如何した」

 

「西側のフィルフサの群れが攻勢に転じています。 例の泉が脅かされるかも知れません」

 

「なんじゃと……!」

 

勿論、無策でいたわけでもないだろう。

 

咳払いすると、側近の内、男性の方が言う。

 

人間の主観からすると若々しいオーレン族だが、相応に貫禄がある。恐らくは、それなりの年を重ねているということだ。

 

リラさんやセリさんも貫禄はあるのだが。

 

それとは違う方向性の貫禄である。

 

「錬金術師ライザリン。 総長老が信頼しているということで、そなたを疑うつもりはない。 フィルフサへの対応、協力してくれるか」

 

「勿論です。 一旦荷物の整理をさせてください。 すぐに出ます」

 

「うむ……」

 

アトリエはそのまま残してある。

 

ちょっと忙しいな。

 

そう思いながら、フォウレの里周辺で回収してきた素材などをコンテナに詰め。荷車に爆弾と薬を詰め込んで。すぐに戦場に出る。

 

ウィンドルの西側は、緩やかな丘陵地帯になっていて、相当数のフィルフサがいる。我が物顔に歩いている中型や大型。小型も相応の数がいて、辺りを睥睨しているようだった。

 

さて、駆除だ。

 

あたしは全員に、突撃と指示。

 

そして、此方にフィルフサが気付く前に、既に数体を屠り。集まってくるフィルフサを、片っ端から始末していく。

 

中型や大型は簡単に退治できる相手では無いが、それでも数がそれほど多く無い。どんどん増援が集まってくるが、オーレン族の戦士達も出て来て交戦を続ける。負傷者。すぐにレントが壁になり、フィルフサの猛攻を防ぎ。ボオスが負傷者を担いで、荷車の側に。あたしが傷を診て、即座に薬を塗り込む。

 

ベテランらしいオーレン族の戦士だが、フィルフサ相手だと命がけだ。傷が見る間に消えていくのを見て、驚きに目を見張っていたが。あたしは声をきちんと掛けておく。

 

「傷は回復させましたが、体が全てすぐに戻る訳ではありません。 此処は任せてさがってください」

 

「人間に、しかも錬金術師に助けられるとは……」

 

「いけハラ。 無駄に命を散らせるな」

 

「はっ、総長老!」

 

カラさんに指示されて、すぐに後方にさがるハラという戦士。リラさんが最前衛で大暴れしているが、その実力に他のオーレン族の戦士も舌を巻いているようだ。あたし達と一緒に、フィルフサの群れを幾つも潰して来た熟練の戦士だ。

 

ずっとフィルフサと戦い続けて来たウィンドルの戦士達と比較しても、全く見劣りしないのだろう。

 

集まって来た。

 

あたしは爆弾を投擲。起爆。

 

まとめて数十体を巻き込んで、全部まとめて吹き飛ばしていた。小型中型のフィルフサだったら、アネモフラムで充分消し飛ばす事が出来る。ただ中型は、それでもコアが生き残る事があるが。

 

前線を少しずつ進めながら、集まってくるフィルフサを、ウィンドルの戦士達とともに押し返す。負傷者が出る度にさがらせて、あたしが手当てをする。

 

カラさんは、凄まじい魔術を駆使して戦闘しているが、基本的に魔術をフィルフサに直撃させるのではなく、敢えて外して至近で炸裂させたり、至近から凍らせたりして、フィルフサの対魔術能力を生かさせない方向で戦っているようだ。

 

また、至近に蟷螂に似たフィルフサが迫ってきたときは、小柄な体からは考えられないほどの機敏で力強い動きで、一撃でけり跳ばして、あたしの歩幅二十歩ぶんくらいは吹っ飛ばしていた。

 

やっぱり格闘戦も凄まじいな。

 

感心しながら、戦闘を続ける。

 

昼少し前に、将軍が姿を見せる。業を煮やしてというよりも、護衛の部隊がそれだけ削られたと言う事だ。

 

真っ黒い装甲のいかにも強そうな将軍だ。確かに相当に強いプレッシャーを感じる。フィルフサの群れが次々に押し寄せてくるが、あたしは立て続けにメルトレヘルンを投擲して、更にそれをアネモフラムで爆破。

 

辺りを高熱の蒸気で蹂躙して、フィルフサを蒸し焼きにする。

 

孤立した黒い将軍に、接近戦組が向かう。雑魚は任せろ。リラさんが叫んで、雑魚をまとめて相手にしている。十体以上の弱体化していないフィルフサを同時に相手にしている手際は流石だ。

 

レントが雄叫びとともに一撃を叩き込むが、がつんと弾き返される。

 

将軍はそれぞれ特性を持っているが、こいつは防御を最重視したタイプか。フィルフサとしては異様に黒い装甲も、何かしらの生物の特色を取り込んでいるのかも知れない。

 

ともかく、此奴を潰せば一段落する筈だ。

 

あたしはクラウディアの援護射撃を受けながら、前衛に出る。

 

あたしの魔術も、フィルフサには効きづらい。だが、それはあくまで直接叩き込んだ場合の話だ。

 

猛攻を受け流しながら、激しい戦闘を続ける黒い将軍。

 

あたしはその懐に潜り込むと。

 

熱魔術で爆破を引き起こし、自分を加速。

 

踏み込みつつ、相手の装甲を蹴りでブチ砕いていた。

 

 

 

昼少し過ぎに戦闘は終わった。

 

将軍を倒して流石に疲れた。あたしも将軍を相手に、簡単に勝てるとは思っていない。出来れば雨を降らせて対応したいが、そうも行かないだろう。ウィンドルに大きな被害を出してしまうからだ。

 

フィルフサのしがいを片付ける。

 

オーレン族は、殆どの死骸を運河に放り込んでいるようだが。まあそれで正解ではあるのだろう。

 

フィルフサは元々は、ただの冬虫夏草だったと言う事が明らかになっている。装甲がフィルフサの本体だと言う事も。

 

水は、フィルフサに取って天敵だが。それは本来の肉体である装甲の結合を弱めるのが要因であるらしい。

 

装甲が本体なのだから、水は体を溶かす恐怖だったわけだ。

 

それを古代クリント王国の錬金術師達は知っていた。

 

そして、知っていたから利用した。

 

結果を予想できなかったのは、連中の思考回路が衰弱していたからというよりも。

 

むしろ、成功体験を拗らせて。失敗する可能性を想定できなかったこと。フィルフサを制御出来ると思い込んでいたからなのだろう。

 

コアを幾らか集めておく。このコアも、元はただの内臓の一つ。神代の錬金術師が調整して、フィルフサが邪悪な生物兵器になるためにこうなってしまったもの。更には資源にすることまで考えていた。

 

フィルフサは神代の錬金術師に取って「不愉快なもの」「見ていて気持ちが悪いもの」だとかレッテルを貼った存在を皆殺しにして全てを更地にするだけではなく。最終的には収穫して、資源にするための家畜でもあったわけだ。

 

何処まで性根が腐っているのか、本当にフィルフサの死体を片付けていても怒りが湧いてくる。

 

こうして戦わなければならないのは事実だが。

 

フィルフサもどちらかと言えば、犠牲者ではないか。

 

フィルフサは元はただの寄生生物。それがあの「蝕みの女王」のように、明確な悪意をもつようになったのも、神代の錬金術師のせい。

 

それにだ。

 

今になって思えば、王都近郊で戦った「伝承の古き王」は、恐らくはドラゴンの本能である此方の世界に渡るための行動に縛られていたのだ。

 

そんな本能、フィルフサには必要ないのに。

 

死体を一通り片付けて、それでアトリエに。休憩を入れて少し体力の回復に努める。ずっと最前衛で暴れていたリラさんは、無言でベッドに。そういえば、最初にあった時もソファでゴロゴロしていたな。

 

常にフルスロットルで動ける訳ではないのだろう。

 

一方植物魔術での支援に徹していたセリさんは、すっかり馴染んでスムージーを飲んでいる。

 

スムージーの淹れ方については、フェデリーカに教えてもいるようだ。

 

薬草で作ったものを以前は好んで飲んでいたようだが。今はそれ以外も口にしているようである。

 

この辺り、セリさんも保守的な行動から、ある程度受容的に変わってきているということなのだろう。

 

休む皆を横目に、あたしは薬と爆弾を少しでも補充しておく。

 

戦いはまだ続くのだ。

 

フィルフサも最終的には犠牲者であったとしても。とにかく今は繁殖を抑え。身を守らなければならなかった。

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