暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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4、引っ越しの準備

竜風の被害範囲が書かれた地図が残されている。老人達が引っ越しを嫌がった際に、散々揉めたが。

 

地図が破られるようなことはなかった。

 

験者は無言で腕組みして、何処に引っ越しすべきかを考えていた。

 

実の所。

 

引っ越しに批判的な老人が多かった理由は、この土地を神聖視しているから、ではない。

 

ライザ殿が指摘したように、此処は竜脈の真上。

 

魔術使いには、非常に心地が良い場所なのだ。

 

験者も魔術使いだから、それは分かっている。

 

何より、引っ越しはとにかく体力を使う。里全てが引っ越すとなると、魔物が多くいる地点も通る事になるし。襲われる事だってあるだろう。

 

フォウレの里の戦士達は勇敢だが。

 

それでもライザ殿が来るまでは、多くの強力な魔物を相手に、手も足も出なかったのが実情だ。

 

聖地への道に陣取った巨大マンドレイクに、どれだけの戦士が食われたか。

 

森の中で襲われて、もう行方も知れない戦士だって多い。

 

今でこそ、大物はあらかたライザ殿が片付けてくれたが。

 

あの御仁は摂理に反しない魔物の存在にまで手を掛けるつもりはないようで。まだまだ森の中に、子供が踏み込んで生きて帰れる状況では無いのだ。

 

デアドラが来る。

 

デアドラについても、実は縁談を用意しようと思っている。

 

今、デアドラ以上に有能な戦士がいない。それが不安要素だった。だが、ディアンが近々それに変わろうとしている。

 

現状のディアンの能力はまだデアドラに劣る。

 

それは事実だ。

 

だがライザ殿の装備に身を固めた状態なら、既に戦力はデアドラよりも上だろう。

 

やがて、素の状態でもデアドラを凌ぐ。

 

あの子は、ライザ殿の手によって、急激に強くなりつつある。心も体も、だ。

 

それが強力な魔物との戦闘による結果なのか。

 

それ以外の理由なのかは何とも言えないが。

 

もしも、だ。験者が若い頃に世界中を旅して、それで色々な経験を得て。漠然と感じていた里への不満が、具体的にどうして不満を感じていたのか理解するまでの過程。つまり知る事による軛からの脱出であるのだとすれば。

 

ディアンがその段階に今いるのであれば。

 

大変に好ましい話であるのだった。

 

ライザ殿が残してくれた薬を、体に塗る。

 

とにかく本当に効く。

 

怪しい呪いだので作られた薬なんかは論外。

 

回復術師はフォウレの里にもいるが、回復術だとどうしても限界がある。医師は港町まで行かないといない。

 

フォウレの里の閉鎖性は港町でも知られているようで。医師がフォウレの里に来てくれるという話は流れてしまった。

 

だいぶ楽になったので、験者はリラックスして椅子に背中を預ける。

 

デアドラが来る。

 

椅子から立ち上がる。

 

ゆっくり喋る。

 

出来るだけ動作は遅くする。

 

それが威厳を出すコツだ。

 

そんな馬鹿馬鹿しい事ばかり、フォウレの里に戻ってから覚えたような気がする。験者としてできる事をしてきたつもりだったが。

 

それも、ライザ殿が短期間でやってのけたことには、とても及ばない。

 

「験者様、失礼します」

 

「うむ、どうかしたか」

 

「一部の老人達がおかしな動きをしています。 ライザ殿のアトリエに火をつけようと目論んでいるようです」

 

「そうか、愚かしい事だ。 監視しておいて、鎮圧しろ」

 

頷くと、デアドラが戻る。

 

そうか、そこまでの行動に出たか。

 

どうしても理性的に行動的でなくなると人間は惨めだな。そう思う。

 

感情を剥き出しに暴れれば、周囲がそれに合わせてくれる。幼児と同じだが。いつの間にか、そういう風になってしまう老人は多い。

 

いや、老人だけではない。

 

周りが自分の機嫌を常に伺ってくれる状況にいた人間は、簡単にそうなる。

 

他の場所でも見て来た。

 

人間は簡単にダメになる。

 

若い人間には苦労をさせろとか言う話があるが、勿論その言葉には色々な意味がある。少なくとも、周りがその人間の機嫌を伺い続けるようなことがあれば、そいつは最終的に凶獣になる。

 

だから、今。

 

膿出しをしなければならないのかも知れなかった。

 

やがて、数人の老人が捕まって、連れてこられる。

 

凄まじい目で験者を睨んでいたその中には、先代験者の弟もいた。

 

ため息をつくと、験者はデアドラに、彼等を牢に入れるように指示。老人共はわめき散らす。

 

「若造が! ずっと験者である事を認めてやっているのに、それなのにこのような恩知らずを働くか!」

 

「あのような呪い師にほだされおって! 体で懐柔でもされたか!」

 

「だまれ」

 

験者の低い声。普段出さない怒りの声を聞いて、老人共が黙り込む。

 

明らかに勝てない相手の声だ。

 

それで、即座に震え上がっていた。

 

「ライザ殿が本来は全く関係ないこのフォウレの里のために、あんな危険な魔物と命がけで戦ってくれた事を忘れたか。 里総出でも手も足でも出せなかった巨獣を二体も仕留めてくれた事を忘れたのか。 それどころか種にも機具にも改良を入れてくれた。 そんな恩人が、更には里のために教えてくれた事だ。 年ばかりとって、目の前も見えなくなったようだな」

 

完全に黙り込んだ老人達を、デアドラがつれて行く。

 

もう、死ぬまで牢の中で良いだろう。

 

もうあの老人達は、どうしようもない。

 

生きていても、呪詛と不安と、何よりも不和をまき散らすだけだ。

 

験者は大きく嘆息すると決める。

 

引っ越し先は水に問題がある。水はあるのだが、あまり質が良くないのだ。

 

具体的な引っ越しの計画はそれほど難しく無い。現地は密林にもなっていないからである。

 

後は家を建てるだけ。

 

そして水周りの確保だけだ。

 

ライザ殿は、此方が言い出すまで支援はしないという雰囲気だった。それもそうだろう。フォウレの里が、自力でどうにかしなければならないのだから。

 

分かっている。

 

自力で出来る範囲の事はどうにかして。後は、験者が頭を下げるしかなかった。

 

 

 

(続)







験者さんも難しい立場にいます。

原作からして限界集落な因習村を束ねている割りにはとても理性的な人ですが、この人は若い頃は外を行脚して見聞を広めていた事ですし、頭が硬い連中の暴挙には苦しい思いをしているはずです。

フォウレの里を捨てなかっただけでも、立派でしょうね。
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