暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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フォウレの里に避難勧告を済ませました。

此処からはウィンドルでの用事を済ませる必要があります。

ライザ達が最も得意としていること。

荒事です。

まあ、フィルフサの間引きですね。

フィルフサがどういう存在か分かったとしても、それはやらなければならないのです。


希望の泉
序、連戦の先


二つの雨が降っている。

 

オーリムの聖地、ウィンドルに。

 

一つは普通の雨。

 

空に舞い上がった何かしらの核を中心として水が集まり。それが下に向けて降り注いでいく現象。

 

もう一つは。

 

血の雨だ。

 

正確には血は流れない。

 

生物兵器と改造されてしまったただの寄生植物が、砕かれ、壊され、そして水に放り込まれて溶けていく。

 

激しい乱戦の中で、あたしはまた、将軍を捕らえる。周囲の随伴を、セリさんの植物魔術が、足下から突き上げて、根こそぎ空へと放り上げる。

 

将軍は相変わらずの巨体で、口を四方に開くと。其処から何かを伸ばす。その先端に光が宿る。

 

砲撃型か。

 

だが、やらせない。

 

加速。一気に至近にまで迫る。更に速く、パティが敵へ突貫。数体のフィルフサから攻撃を擦られつつも、それでも闘志を捨てず。将軍の横を通り過ぎながら、抜き打ち一閃。奴の口から伸びた砲撃器官に傷をつけつつ、更には振り返りざまの渾身の太刀で、足を二本、斬り飛ばしていた。

 

体勢を崩す将軍。

 

更に、投擲されたもの。

 

いや、放たれたもの。全体的な援護を続けていたクラウディアが、速射したバリスタみたいな巨大な矢。

 

それが複雑な軌道を描きながら飛んで。

 

将軍の砲撃器官に、正面から突き刺さったのである。

 

魔術だけなら効果はなかっただろうが。

 

クラウディアの魔力矢は、放つ時に小石などを核にして撃っている。それが速度そのままに突き刺さればどうなるか。

 

突き出された砲口が完全に明後日の方向を向く。

 

あたしは気合とともに踏み込み。

 

今砲撃しようとしていた将軍の口を、文字通り蹴り砕いていた。

 

悲鳴を上げて竿立ちになる将軍。

 

更にあたしは地面に手を突くと、回転しながらの連続蹴りを叩き込み。更に跳ね起きると同時に踏み込んで、渾身の蹴りを叩き込む。

 

雨で弱っている装甲が吹っ飛んだ瞬間パティが動き、フィルフサの将軍のコアを貫いていた。

 

それで、将軍が停止し。

 

地面に倒れ、動かなくなった。

 

離散するフィルフサ達。これで、この群れの将軍は七匹目。負傷者がかなり出ている。一度撤退。そう叫ぶと、カラさんも迅速に撤退せよと、オーレン族達に呼びかけていた。

 

ウィンドルに戻る。

 

回復術の使い手も出てくるので、手傷が浅い人は任せる。深手を負っている人もいるので、それはあたしが薬を提供する。

 

溶けるように傷が消えるのを見て、皆驚く。

 

手足を失う事がないように、処置は急ぐ。

 

指くらいだったらその内再生するらしいオーレン族だが、手足まで失うとどうしようもないのだ。

 

リラさんも長い戦いの中で、何度も指は失っているらしいので。

 

違う基準で見ながら、手当をしていく。

 

見た感じ手傷がない人がいるが、頭を戦闘中に打った戦士がいた。これはちょっとまずいかも知れない。

 

カラさんに手伝って貰って、出血を確認。

 

やはりな。

 

頭の中で出血している。これは時間差で効いてくる事が多い。エドワード先生の所でも、頭を打った患者の処置は何度もしている。

 

本来は頭を開いて血を抜くケースすらあるらしいのだが。

 

流石に今それは出来ない。

 

その代わり、錬金術の薬の秘奥を用いる。

 

高度な薬草……セリさんから提供して貰ったものを含めて、体を復元するものを用いる。これは簡単に言うと、傷を治したり、治す仕組みを促進するものではない。体を少し前の状態に引き戻すものだ。

 

文字通り驚天の薬だが、それでも仕組みは理解しているから出来る。

 

淡々と処置をして、戦闘前の状態に体を復元する。その結果、頭の中で起きていた出血は、綺麗に収まっていた。

 

カラさんが、ふうと嘆息する。

 

オーレン族の戦士は、記憶の一部も失ったようだが、それはここ数時間程度の話だ。カラさんが説明をして、あたしを不審そうに見たが。その程度のことははっきりいって仕方が無い。

 

今はともかく、完璧に手当てをすませることだ。

 

ウィンドルの戦士達は、とりあえず一人も欠けていない。

 

ディアンの手傷がかなり深いので、手当てをした後アトリエで休ませる。如何に頑丈とは言え、あらゆる生物を殺戮し、特徴を取り込んで来たフィルフサとは流石に比べられないのだ。

 

パティの手傷も見る。

 

やはりかなり深めに幾つかの傷がある。ただそれよりも、パティは家宝にしている胸当てが傷ついている事が悲しそうだった。

 

「もう少し回避が上手になれば。 私の傷は勲章ですが、胸当ての傷は恥です」

 

「そう考えないの。 この程度の傷だったら、後で直しておくよ」

 

「お願いします……」

 

「うん」

 

なるほどな。

 

パティも別の意味で頑固になって来ているのかも知れない。

 

今はこれで良いのかも知れないが。自分のものは兎も角、人命よりものを優先するようになったらおしまいだ。

 

だから、タオに言ってちょっと忠告して貰う必要があるかも知れない。

 

いや、あたしが言うべきか。

 

まあとりあえず、今はそれよりも。怪我の手当てだ。

 

此処三日の戦闘で、フィルフサの群れ……今交戦している、ウィンドル西側に展開している群れの一つは、かなり減ってきている。将軍を複数仕留めている事もあるし、王種の居所もだいたい見当がついている。

 

今は雨だ。

 

それを利用して風羽といわれる偵察専門の氏族が、物見をしてくれている。

 

対空攻撃手段ももっている事が多いフィルフサが相手になると、あたしの跳躍しての偵察はリスクが高いのだ。

 

専門家に任せて、今は体力温存をするべきだろう。

 

戦士では無いオーレン族が、炊き出しをしてくれる。

 

戦闘の後は誰でも腹が減る。

 

フィルフサのしがいは、かき集めて運河に放り込んで置くとしても。フィルフサには食べる場所もないのだ。

 

とにかく野性的な料理が並べられる。

 

フェデリーカは若干抵抗がありそうだったが、パティが何の躊躇もなく何か分からない肉を焼いたものを食べ始めたのをみて、それで勇気を出したのだろう。フェデリーカはパティに強い影響を受けている。

 

黙々と肉を食べ始めるのを見て、あたしも少し安心した。

 

食事は、巨大な木の下で行う。

 

ウィンドルは巨大な木がたくさんあるから、それの下だ。

 

昔はもっとたくさん巨大な木があったんだろうな。

 

そう思うと、少し悲しくもなる。

 

食べていると、クリフォードさんが来た。

 

「ライザ、少し良いか」

 

「どうかしましたか」

 

「少し木の上の方に上がって、様子を見てきた。 フィルフサの群れがかなり減ってきている。 恐らく決戦は明日になる」

 

「よし……」

 

今、オーレン族にとって、最後の清浄な泉と呼んでいる場所が。フィルフサの群れに脅かされている。

 

今の群れを潰せば、ウィンドルの西側に展開している群れは残り四つ。これらがかなり縄張りを変更することは疑いない。そうなれば、元々リスクが高い水場に踏み込んではこなくなるだろう。

 

時間は稼げる。

 

まずは、ウィンドルのオーレン族との連携を取る。

 

そのためには、ウィンドルのオーレン族にとって必要な事を錬金術で手伝い、信用を勝ち取るしかない。

 

勿論正論が通じて、それで理解してくれる人もいるが。

 

残念ながらオーレン族も、聖人ぞろいというわけでもない。

 

オーレン族は人間とはだいぶ価値観が違う。

 

特にエゴで好き勝手世界を弄くり回して平然とするような思考は、持ち合わせていないようだ。

 

だがやっぱり頑固者はいる。

 

そういった頑固者達の意見も、全て無視はできないのである。

 

既にフィルフサの群れを一つ潰した。もう一つ潰せば、態度がある程度柔らかくなるとみて良い。

 

今回はオーレン族の精鋭奏波氏族もでてくれている。

 

今までウィンドルを囲んでいたフィルフサの群れと、千三百年も戦い続けて来た精鋭達である。

 

だったら、大丈夫な筈だ。

 

あたしはそう言い聞かせながら、食事を頬張る。クリフォードさんは、それよりもと、ウィンドルの隅にある、なにか石積みみたいなものを視線で指す。

 

「俺としては、あれにロマンを感じる。 後で時間を作って、見てきてもいいか」

 

「分かりました。 フィルフサの群れを片付けた後に、ちょっと交渉して見ましょう」

 

「そうか、ありがたい」

 

「いえいえ」

 

異世界の遺跡。

 

それも、恐らくは何かしらの精神的な意味を持つ場所。

 

それはロマンを感じるだろう。

 

ここのところろくでもない先達の遺産ばかり見せられていたクリフォードさんも、流石に辟易していたのかも知れない。

 

だから、デザート代わりにああいうものを見ると。

 

まあ、気持ちはわかる。

 

休憩を終えると、また出る。今日はもう一体くらい、将軍を仕留められるだろう。奏波氏族の戦士も参加してくれる。フィルフサの群れは雨で動きが鈍っており、今が削り取る好機である。

 

伝令に出て来た風羽氏族の戦士が戻ってくる。

 

カラさんに耳打ち。カラさんは腕組みしていた。

 

「ふむ……少しばかり考えどころか」

 

「何かあったんですか」

 

「将軍が数体纏まっておる。 恐らく王種が近くにいると見て良い。 今は此方も意気が上がっておるが、こう言うときが一番危ない。 ライザ、敵を分散させる策はあるか」

 

「考えます」

 

此処で求められているのは戦術ではない。

 

対フィルフサの戦術は、此処で千三百年戦い続けた奏波氏族の方がずっと上の筈だ。

 

錬金術を用いて、何かできないかという事を聞かれている。

 

それくらいは、突撃嗜好のあたしでも理解出来る。

 

しばし地形を読む。

 

タオがこの辺りの地形を今まで出来る範囲で地図にしてくれているが、少し高い所がある。其処を抑えられれば。

 

ただ、将軍が一体、守りについているようだ。

 

迅速に仕留められれば、或いは一網打尽を狙えるかも知れない。まだあたしも、手元に水を吸い上げる道具をもってきていて。

 

それには、あたし達の世界の川から、蓄えた水が入っているのだ。

 

提案をする。

 

カラさんも、それに乗る。これなら、水による被害も最小限に抑え込む事が出来るはずである。

 

即座に攻勢開始。

 

奏波氏族の戦士達も、敵を各個撃破する好機とみたのだろう。いずれにしても、獰猛に攻勢を仕掛ける。

 

坂を駆け上がる形だから苦戦はどうしてもするが、それでも雨で弱っているのが何よりも大きい。

 

激しい戦闘の末に、フィルフサを次々と撃破する。前衛のレントは、オーレン族の戦士達が瞠目するほどの暴れぶりで道を切り開く。パティも、もう速度でも鋭さでもオーレン族のベテラン戦士に負けていない。

 

勿論他の皆も強い。

 

フィルフサはまとまって、必死の抵抗を仕掛けて来るが。カラさんが地面に手を突くと、地面がいきなり隆起して、フィルフサが空に投げ出される。それを見て、セリさんが即座に植物魔術を展開。

 

縦横無尽に走った蔓が、多数のフィルフサを一気に拘束する。それで、完全に道が出来ていた。

 

走れ。

 

叫びながら、あたしは敵の隙間を縫う。

 

見えてきた。

 

将軍だ。

 

彼奴を出来るだけ速攻して、更には水を流す道具を使う。

 

此処からなら理想的だ。

 

というか、既に雨が激しいこともあって、小川くらいの流れが、フィルフサの群れが布陣している地点に向けて出来ている。フィルフサの将軍数体が纏まって防御しようとしているが。

 

それもこの地点を抑えて。更に激しい水流を叩き付ければ。そう苦労せずに仕留める事が可能な筈だ。

 

将軍が何か鋭い音を発するが、その半ばにあたしが跳び蹴りを叩き込んでいた。装甲が弱っていることもあって、拉げる。更に泥を蹴散らして踏み込むと、連続して蹴り技を叩き込む。

 

「はあっ!」

 

踏み込むと同時に渾身の蹴り。

 

装甲の一部が吹っ飛ぶ。

 

コアが見えない。ということは此奴は多分コアを固定しているタイプだ。一瞬遅れて反撃が来るが、バクテンして回避。

 

ずんぐりとした防御主体の将軍だが、隠し腕をもっていて、それには鋭い鎌がついていた。

 

初見殺しの反撃策だが。

 

あたしはフィルフサとはもうそれなりに戦っている。こんな攻撃、今更貰う事もない。それに此奴らは、戦闘に次ぐ戦闘で消耗している。

 

よく淘汰に晒せば生物は強くなるなんて話があるが、あれは大嘘だ。

 

潤沢な数の中から人間にとって都合がいい形質のものが出てくる場合はあるが、それは別に淘汰したから出てくる訳でもなんでもない。

 

淘汰すれば種として弱る。

 

農家をこれでも落ちこぼれとは言えやっていたのだ。

 

それくらいは知っている。

 

将軍が再び何か音を発する。恐らくは救援を求めているんだな。あたしは再び飛び出すが、連続して隠し腕を展開した将軍が、続けざまに繰り出してくる。その一つを、飛び出してきたパティが一刀両断。

 

更にはレントが、一つをパリィして弾き返す。

 

六本繰り出された隠し腕だが、二本失えばそれで充分。隙間が出来た合間を、あたしが抜けると。

 

奴の体内……装甲の内側に、フラムを放り込んだ。

 

まずいと判断したのだろう。

 

必死に逃れようとするが、起爆。装甲の内側で炸裂したフラムが、将軍を内側から粉砕する。

 

ただしそれでもフィルフサの装甲。

 

木っ端みじんになることはなく、全身から炎を噴き上げたが。

 

それで終わり、倒れ伏して動かなくなった。コアが破損したのは明らかだった。

 

将軍麾下の雑魚が逃げ出す。やはり今の将軍が発した音は救援を求めるものだったのだろう。

 

かなりの規模の群れが動いているのが見える。

 

好都合だ。

 

「カラさん!」

 

「うむ! 皆、追撃は中止! 其方に移動せよ!」

 

「分かりました!」

 

すぐに移動。敵を誘引する。フィルフサの群れがかなりまとまって突撃してくる。地形も何も踏み砕きながら。

 

この辺りは木々も残っている。それらも全て蹴散らしながら。

 

自分達だけで自己完結している生物だ。

 

自分達以外の生物は必要ない。

 

フィルフサが全てを蹂躙した後。

 

フィルフサからコアを収穫し。

 

「清浄な世界」だとか「美しい世界」だとかを神代の錬金術師は作るつもりだったのだ。それは色々なデータから明らかになっている。

 

これが、何が美しい世界だの清浄な世界だのか。全く逆だ。

 

殺戮と破滅だけが此処にある。

 

必要な犠牲だとかしたり顔で言うかも知れないが。

 

自分らは一切犠牲を出さずに何をほざくかという言葉しか出てこない。いずれにしても、駆逐する。

 

水を吸い上げる装置を逆転。

 

水を一気に放出する。ただし全部ではない。相応の量に調節はした。

 

大雨に加えて、大量の水が、濁流となって迫り来ていたフィルフサの群れを直撃する。

 

ただでさえ密集していたフィルフサの群れは、それから逃れる術が存在しなかった。文字通り押し流される。小型のフィルフサは、これだけでもはや動きを止める。中型も、もがいているうちに動けなくなる。

 

大型は耐えていたが、それでも体が崩れて行く。

 

王都近郊の門の先で戦闘した群れが如何に異質だったか、よく分かる。

 

将軍ですら、水には抵抗できず。必死に魔術などで水を散らそうとしていたが、やがては水の暴力に押し流されていった。

 

水をとめる。

 

フィルフサの将軍数体は綺麗に全滅。その麾下の群れも。

 

呼吸を整えると、負傷者の手当てをと叫ぶ。

 

あたしが薬を提供する。荷車にすぐにタオとフェデリーカが走り。負傷者に呼びかけた。負傷者は当然出ている。

 

カラさんが、顎をしゃくる。

 

今の濁流から逃れた、巨大なフィルフサ。

 

蟷螂に似ているが、ずっとずんぐりしていて、面構えも凶悪な奴が来る。オーレン族の戦士達が、一気に緊張するのが分かった。

 

王種だ。

 

だが、雨の中。

 

更に濁流で押し流されはしなかったものの、直撃を受けている。相当なダメージが入っているのは間違いない。

 

「体勢を立て直す前に潰す。 総力戦!」

 

「任せておけ!」

 

カラさんが、麾下の無事なオーレン族達に指示。

 

あたしも頷くと、最前衛に混じって突入していた。

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