暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
緊急度が高い案件から片付ける。
これは火消しでは必須の行動です。
ライザはそれを膨大に経験してきていることもあり、こういう鉄火場での行動には慣れきっています。
王種の首をウィンドルの里に運ぶ。
まあ首と言っても、フィルフサの本体は甲殻だ。内部にあるコアを砕くと動けなくなるだけ。
ウィンドルの一角に蔵のような構造物があり。
其処に今まで倒した王種の一部が修められていた。雨に濡れて朽ちているそれらのなかに、さっきしとめた王種のものが加わった。
「これより我等は祖霊に祈りを捧げる。 そなたらは、戦力を再編制してくれ」
「分かりました。 手当てと物資の補給をしておきます」
「うむ……」
オーレン族の負傷者も手当てを済ませる。
祖霊への祈りが先だと言う者もいたが、カラさんが負傷を先に直せと一喝。そうすると、従うのだった。
思った以上に強権的な長老であるらしい。
ただそれも仕方が無いか。
混乱期には権力を集め。
安定期には権力を分散する。
タオが言うには、これが基本であるらしい。
オーレン族も似たような事をしているのだろう。ただオーレン族は、もともとこんな数で集まって暮らす種族ではないようだけれども。
アトリエに戻る。
手酷く傷を受けていたクリフォードさんだが、もう無事そうだ。空中戦で陽動をしている間に、何度か対空攻撃を貰ったのである。手傷は骨が見える程だったが、薬を塗り込んでもう回復している。
このウィンドルの里にはレベル違いの薬効をもつ薬草が幾らでもあるので、セリさんがそれを見つけて来てくれる。
あたしはそれを調合する。
それで充分に、皆を助ける事が出来る。
無心になって他の皆は食事をする。
フィルフサは食べる事が出来ないが、持ち込んだ燻製肉がなんぼでもある。というか、竜風の話をするべく一度フォウレの里に戻ったときに、更に燻製肉は補充してきたのである。
ウィンドルに来てから、小型の動物しか目にしていないが。
大型はみんなフィルフサに殺されただろう事は容易に想像がつく。
勘違いされやすいが、大型の生物ほど環境の変化には弱い。フィルフサによって土地の環境が根本から破壊された今のオーリムでは、ほぼ大型の生物は生きることが出来ないと見て良いだろう。
食事を終えた後は風呂にして。
それが終わったらさっさと寝る。
あたしもそうする。
起きだして、外に出ると、祖霊への祈りというのは終わったらしい。オーレン族の戦士達が、既に見回りだの何だので動き回っているのが見えた。
あたしは伸びをすると、まずは周囲を確認。
ウィンドルを囲んでいるフィルフサの群れはこれで六つか。八つあったうちの二つを潰した事になる。
西側はまだ層が厚いが、これで間近の危険はなくなった。
それに、だ。
調べて見た所、王種は基本的に自然発生しない。
王種は全てが元々作り出されたものだったのだ。神代の錬金術師達は、如何にしてフィルフサを滅茶苦茶に改造したのか、克明に記録を残していた。王種は基本的に全てがカスタムされたものであり。
それぞれ役割に応じて違う行動を取っていたという。
ただ、それはそれとして、母胎となる土壌から情報も吸収はするらしい。
しかも母胎となる土壌は、数千年ほどで全てクリアになり。フィルフサは勝手に死滅する仕組みになっていたそうだ。
要するに、フィルフサを家畜として収穫しやすくするための仕組みが全て整えられていたわけで。
このまま行けば、フィルフサも自滅は避けられないと言う事だ。
なんだかフィルフサが可哀想にすら思えて来る。
命を文字通り弄んだ連中は、あたしに鍵遊びを押しつけてきて。その後は一体何を目論んでいる。
頭に声が聞こえてくる。
前は殆ど聞き取れなかったが。
少しずつ、内容がクリアになって来ていた。
「汝選ばれしもの。 鍵もて万象の大典に至れ」
恐らく、そういう内容だ。
今までもたまに聞こえていたのだが。
要するにあの扉の先に来い、という意味なのだろう。
はっきりいってそうかそうか、という感じである。
扉の向こうに行ったら、貴様らの全てを焼き尽くし破壊し尽くしてやる。そう決めてもいる。
あの群島に集まった錬金術師達は、神代に憧れ、神格化し、そして辿り着く事を夢見ていたのだろう。
馬鹿馬鹿しい話だ。
全員ぶん殴って、目を覚まさせてやるべきだったのだろうか。
いや、それももう分からない。
いずれにしても、既に神代の思想を受けついだ錬金術師は、歴史の表舞台には存在していないのだから。
体操を済ませた後、アトリエに。
軽く起きだしてきた皆とミーティングをする。
カラさんもいつの間にか混ざっている。この人の隠行は凄いな。そうとしか言葉が出てこない。
「丁度カラさんがいるので聞いてみるけれど。 カラさん、状況はどうですか」
「まず西側の問題は一旦は落ち着いたな。 確認されている西側の群れは残り四つ。 これらのうち一つは南西に存在している事は明らかなのだが、それ以上の事はよう分かってはおらん」
「姿を殆ど見せないんですか?」
「そうなるな」
タオがそう聞き直すと、カラさんがその通りだと認める。
フィルフサの性質的に姿をあまり見せないと言う事は、それは要するに。
恐らく何かを守っているのだ。
錬金術師に命令されて。
「他の群れ三つは」
「比較的広めに散らばって、ゆっくり移動しながら包囲を作り続けておる。 以前は更に東に二つ、西に一つの群れがあったのだが。 これらは数百年を掛け、大きな犠牲を出して滅ぼした。 ただ我等の被害もそれで補填できておらん」
そうだろうな。
墓で弟はまだ五十歳だったのにと嘆いていた人がいた。
人間で言う十二~三歳くらいだったということだった。
そういう戦士が戦線にでるような状況だ。
状況が良いわけがない。
「ともあれ、西の圧力は減り、東に至っては完全に道が出来た……といいたい所ではあるのだがのう」
「まだ何か問題が」
「西側は危険すぎて、状況の確認が難しい。 これから精鋭を集って聖地の泉の様子を見に行く。 大事な水源の一つよ」
「それならあたし達がいきますよ」
勿論、最初からそのつもりだ。
カラさんは少し考え込むと、それでは頼むかと言ってくれた。薬の補充をまずは先に済ませておく。
爆弾は、ある程度余裕があるか。
出るのは昼過ぎになる。そう告げると、カラさんは一旦オーレン族との話し合いに戻って行った。
まずは薬を増やす。
セリさんは植物魔術で多数の植物を保全しているが、それも無限とはいかないらしい。種や株を魔術で自分の世界とでもいうべき場所に圧縮して保全して、それを展開しているらしいのだが。
それでもやはり、ウィンドルの質が高い薬草は、人間の世界で旅をする間に使い切ってしまっていたらしかった。
ウィンドルでまた採取し直して、しばらくはもつということだ。
薬草を提供してくれたセリさんは、少し外で仕事がしたいという。
内容については、人間界で品種改良を続けて来た、汚染除去用の例の植物らしい。
昨日潰した群れの母胎となっていた土壌は既に見つけているそうで、そこで実験をするとか。
レントが立ち上がる。クリフォードさんも。
「護衛するぜ。 あんたの実力は知っているつもりだが、それでも手数があった方がいいだろ」
「右に同じだ。 というか、少しウィンドルを見て回りたいんでな」
「ありがとう。 頼むわね」
セリさん達三人が出ていく。
タオは研究所から集めて来た文書の分析。アンペルさんは、主にエミルという錬金術師が残した資料の解析をしてくれている。
アンペルさんによると、今四割程度という事だ。
「日記などは既に解読が出来ている。 大半はくだらない雑事ばかりだが……サルドニカという街を復興させた話が記載されていたな」
「ああ、やっぱりエミルって人がやったんですねあれ」
「そうなる。 エミルはその時既に五十の坂を過ぎていて、相当に焦っていたようだ。 そんなときに神代から脈々と受け継がれてきた歪んだ特権意識をくすぐるような囁きを受けて、群島に向かったようだな」
「サルドニカから錬金術師がいなくなったのは、恐らくはそれが理由の一つでもあったんですね」
頷くアンペルさん。
実際、エミルと言う人は、小金を稼ぐ程度の事には興味も無かったらしい。
フェデリーカの家に伝わっていたペンダントの竜の紋章については、既にその存在を神代のものだと知っていて。
あこがれから彫ったものであるらしいことも分かってきていた。
つまりサルドニカと神代はなんら関係がなかったということで。
それが分かっただけでも進展だと言える。
ただ、サルドニカの鉱山などは、神代のものである可能性が高い。調査が必要になってくるだろう。
ボオスとクラウディアが、オーレン族と話に行くと言う。それを聞いて、リラさんも立ち上がっていた。
「私が護衛につく。 二人だけで話しに行けば、必ず問題が起きるだろう」
「分かりました、護衛をお願いします」
「私もついてきます。 今後オーレン族の人達と交流をするのであれば、私も状況を知っておく必要がありますので」
パティも立ち上がる。
ディアンは外で鍛錬をするという。
あたしが作った鍛錬用の魔物の形を外に出しておくので、技を幾らでもぶつけていいよと言っておく。
ちょっとやそっとでは壊れない。
後フェデリーカが残ったが、黙々と菓子を焼き始める。
焼き菓子は砂糖を多めに入れておけば殆ど腐る事はない。しかもコンテナに入れておけば、冷気魔術の事もあってまず傷まない。
頭脳活動で焼き菓子を大量に消耗する事を理解しているフェデリーカが、自分にできる事を率先してやっていくのは、とても良いことだとあたしも思う。
あたしは調合だ。
試行錯誤して、更に薬効成分を上げていく。
更には、皆に強化を更に掛けるための薬も作っておく。
こういう薬は体に悪影響を与える事も多いのだが。
あたしはそこら辺は調整して、体に悪影響が出ないように、しっかり調整を入れておく事にする。
無心で調合を淡々としていると。
やがて、セリさん達が戻って来ていた。
「どうですか、セリさん」
「様子見だけれども、根付きは悪くないわね。 このまま上手く行けば、フィルフサの母胎を滅ぼせる可能性が高いわ」
「セリさんの魔術、植物の育成を促進できるんだもんな。 農家の十数日分の苦労が一辺に終わるぜ」
「確かにそうだけれども、植物の生命力も消耗させるの。 強い苗が必要だったのは、それに耐えられるものを育てるためだったのよ」
レントとセリさんが普通に会話している。
クリフォードさんはうきうきでメモを出して、タオと話している。何やら面白そうなものを見つけたそうで、二人で盛り上がっていた。
続いてボオスとクラウディアが戻ってくる。リラさんが少し疲れた様子で、ソファでごろんと猫になる。
あたしは二人の話は特に聞くつもりはない。
クラウディアの話している内容の断片を聞くと、やはり商売関連らしい。ボオスはというと、此処でどういう社会体制が作られているのか、興味があるようだ。
ボオスとしても、クーケン島を今後どう変えていくのかが、大事なのだろう。
それはよく分かる。
一番拗らせていたときだって、将来の事をボオスは考えていたのである。
自分の行動の結果、ウラノスさんらを戦士として再起不能にしてしまって、それで大いに反省はして。
それにキロさんと出会って変わったが。
やはり当時歪んでいても、当時からクーケン島の事を第一に考えて行動はしていたのだろう。
今もそれは変わっていない。
ディアンが汗を掻きながら戻ってくる。
ウィンドルはかなり涼しいのだが、それでも大汗を掻くくらい鍛錬していたという事である。
フェデリーカはたんまり焼き菓子を作って、それをコンテナに入れる。
あたしも薬の補充は、ほぼ終わっていた。
「昼食にするよー」
「ああ、それならパイを作るね。 いい果物が手に入ったの」
「果物」
「ええ。 フィルフサの群れを潰すのに最大貢献したからって、オーレン族の人達がわけてくれたんだよ。 ええと、緑羽氏族の派生の氏族だって」
セリさんが顔を一瞬だけ上げたが。
興味を失ったようで、話には加わらない。
カラさんにちょっと説明を受けたのだが、なんでも氏族というのは総長老のカラさんですら把握できていないくらいあるそうで。
しかも皆が好き勝手に作るものだから、知らない氏族が作られているケースも想定されると言う。
それはまた、凄い話だなと思う。
しかもだ。それで争いがオーレン族どうしで起きないのだ。
あわない者は、氏族を別にしてしまって、それで関わらない方針を採るのだろう。
個として優れているオーレン族だから出来る生き方なのかも知れない。
そう、あたしは思う。
パイをクラウディアとフェデリーカが焼いてくれるので、それを待つ。このアトリエは、あたしが文字通りいちから全て作りあげた。全部知っている。何か不具合があったら直せる自信もある。
だから、安心して任せて、しばらく待っていると。
肉のパイと、果物のパイと。他にも色々出て来た。
実においしそうだ。
有り難くいただく事にする。
しばし食べていると、またいつの間にかカラさんが混じっていた。ただ、側近二人は、後から入ってきて。それで複雑そうな顔をしていたが。
「食事とトイレが終わったら、例の場所への護衛させていただきます」
「おう、任せるぞ。 それで、その二人もつれて行く」
「分かりました。 見た所、あたし達が護衛しなくても大丈夫くらいに強そうではありますけれど」
「いやいや、今のそなたは存分に強いぞ」
そう言って貰えると嬉しいが。
ただ、そんな風に面と向かって褒められると、どうせ調子に乗ってろくなことにならないだろう。
いや、そうやって試しているのか。
可能性はあるかもしれないな。
ともかく、食事を終えると、すぐに出る事にする。
フィルフサとの戦闘を昨日した事もあって、まだ地面はかなりぬかるんでいる。
群れが一つ潰れたこともあって、斥候が出て来ているようだ。
斥候は見つけ次第処分する。
将軍が斥候に出てくる事はなく、基本的に小物しかいないが。
それでも、一体でも生かして返すと、後が面倒なのである。
時々、数人でまとまって行動しているオーレン族の戦士と出会う。カラさんが話を聞いて、情報を交換。
やはり斥候が出て来ているようで、事前にそれを潰して廻っているようだった。
そういえばリラさんも似たような事をしていたんだったな。
四年も前の、クーケン島近辺での事だ。
オーレン族では、フィルフサ対策は周知だったと言う事だ。まあ千三百年も戦い続ければ、それはそうだろうが。
丘の方に行く。
空気が澄んでいる。というか、これ。
虹色に輝く塊を見つけて、あたしは思わず飛びついていた。
護衛の一人が訝しむ。
「どうしたライザ殿」
「これ、ひょっとして……間違いない。 セプトリエン!」
「おう、そういうものか」
「あたし達の世界では見つからない、最高純度の魔石です。 オーリムではこんな、その辺りに落ちているなんて」
ちょっと流石に驚いた。
調べて見ると、今まで集めたセプトリエンに比べると密度は決して高くはないようだけれども。
それでも充分過ぎる程の価値がある。
今までは使うとそれこそトラベルボトルに潜って、命がけで補充していたのだが。
フィーが物欲しそうに懐から見ているので。たくさん見つかったらね、と答えておく。
嬉しそうなフィー。
この間酷いものを見せてしまったから、まあご褒美も必要だろう。
他にも、高純度の鉱石など、ゴロゴロしている。
これは恐らくだが。
オーリムにわざわざ神代が侵攻したのは、こういった資源だけが欲しかったからだろう。そう、ものだけが欲しかった。
オーリムに生きている人は、全部神代の連中にとっては邪魔だった。
だから始末する算段を立てた。
本人達の言葉がそれを裏付けているが。
神代の連中を引き寄せた手つかずの資源を見ていると、語られなかった理由もまた見えてきてしまう。
これはロテスヴァッサに集まった錬金術師が、身の程知らずの侵攻作戦を考えるわけだ。これらの資源について、情報が神代から伝わっていたのだろう。まあ、根絶やしにされてよかった。
今後オーリムと上手くやっていくためにも。
此処にあるものを、オーレン族の財産と考え。
とっていいと言われたものだけ回収する。
それくらいの思考は、必要になる。
それに、考え無しに人間を入れれば、絶対に悪さをすると言う前提でものを考えなければならない。
最初は防げるかも知れないが、世代を重ねれば絶対にそれも上手く行かなくなる。
その辺りも、交流を前提に動くのであれば。
考えておかなければならないだろう。
「カラさん。 この辺りの魔石、いただいてもよろしいですか」
「とりすぎなければな。 そなたがそのような事をするとは思ってはおらんが」
「はい」
よし、とりあえずあたしが使う分程度は確保できるか。
途中で遭遇したフィルフサは全て片付ける。木も多少はあるが、殆どは手酷く傷つけられている。
身を寄せ合うようにして、フィルフサから隠れているちいさな動物たち。
小さい動物くらいしか生き残れなかったのだ。
フィルフサを始末すると、こわごわとこっちを伺っている者もいる。
あたしは嘆息すると、先に進む。
かなり坂が険しくなってきて、フェデリーカが音を上げはじめる。
「ちょっと、坂、きついです……」
「背負う?」
「いえ、歩きます……」
あたしの提案を、フェデリーカが断る。ただ、栄養剤は渡しておく。
坂道を延々と行くのは、結構しんどいのだ。戦闘がいつ起きてもおかしくないから、備えておかなければならないというのもある。
坂を登ると、皆がさっと構える。
辺りが荒らされている。周囲を念入りに確認するが、どうやらフィルフサはいないようである。
武器を降ろす。
「この辺りまでフィルフサが進出していたのだな。 水も多いと言うのに」
「それだけ西側での繁殖が著しかったということでしょう。 今回群れを一つまるまる始末できたのは良かった」
「ああ、そうであるな……」
カラさんと側近が、そんな風なことを話している。
あたしは周囲を一旦見て回り、フィルフサが何をしていたのかを確認しておく。これは、恐らくだが。
引きずられていった跡。
血の跡。
母胎の土に混ぜるべく、この辺りに住んでいた生物を、殺して回っていたのだろう。
そういう習性に造り替えられたのは分かっているが。
それを本能でやるように性質を造り替えた神代の錬金術師の、計り知れない悪意を感じてしまう。
「この辺りの生態系は……全滅ですね」
「そうか。 再建に時間が掛かろうな」
「先があるなら、そちらも確認しましょう。 ひょっとしたら、無事かもしれませんから」
「……」
あたしは促して、先に進む。
全ての可能性が失われたわけではない。
この先には大事な水源があると言う。水源というならば、フィルフサも簡単に立ち寄ることはできないだろう。
無言で歩く。
やがて、不意に空気が澄んだのが分かった。
辺りを見回す。
良い空気だ。
草もたくさん生えているが、セリさんが、前に出てある一株を手に取っていた。
「これは……ドンケルハイト!」
「!」
あたしも知っている。
確か日蝕の日にしか咲かないという凄い珍しい代物だ。あたし達の世界でも存在しているらしいのだが、同じ植物がこっちにもあるのか。人間と交配できるオーレン族といい、オーリムとあたし達の世界には何か関係があるのかも知れない。
いずれにしてもドンケルハイトだ。薬効成分がものすごいとかで、欲しかったのだが。
念入りに調べていたセリさんが、種を回収する。周囲にドンケルハイトの種があったらしく、それを集めてくれた。
「此処にあるドンケルハイトは触らない方が良いですよね」
「ええ。 絶対に触らないで。 私が育てて、出来た分を貴方に渡すわ」
「お願いします」
美しい泉が、周囲に拡がっている。動物もそれなりの数がいるようだ。
良かった。
どうにか無事なようだ。
しかし、至近までフィルフサが迫っていたのも事実である。これはもう少し間引かないとまずいだろう。
辺りを調査して、フィルフサの痕跡を調べておく。
先に退治した群れの痕跡で間違いないようだが。
それでも、時間を掛ければ別の群れが来るだろう。
セリさんが、提案する。
浄化の植物を、この辺りに植えておくと。
少し下の辺りは、フィルフサがあらして、かなり生態系がやられている。再建が難しい。
だったら防波堤にする必要があると。
ただ、ある程度面倒は見なければならないとも。
「緑羽氏族の者に情報を共有します。 ここまで護衛をお願い出来ますか」
「そなたがやらぬのか」
「私は元を断たねばなりません」
カラさんに、セリさんが断言する。
リラさんも頷く。
カラさんは、長老としての厳しい目で二人の様子を見ていたが。やがて、許可を出していた。
「分かった。 いずれにしてもこの聖域を荒らすものは許されぬ。 次の群れが来るにしても、数年は時間を稼げよう。 その間に、何か対策を練らなければな」
対策、か。
あたしは思う。
フィルフサは都合良く作られた存在だ。そもそも存在そのものが摂理だとかに反しているとみて良い。
神代の錬金術師の技術を解析し尽くせば。
或いは、まとめて滅ぼす事も可能なのではあるまいか。
いや、滅ぼすというのは少し違うか。
元々フィルフサは、ただ虫に寄生して、ほそぼそと乾燥した地域で存在していた寄生生物だった。
それも別に真社会性を構築していたわけでもなく、ドラゴンと戦えるような戦闘力を有していたわけでもない。
王種に至っては全てがカスタム個体であったことも分かっている。
下手をすると、生物をまるごと神代の連中が王種に改造した可能性もある。あの「蝕みの女王」は人型だった。
だとするとオーレン族の戦士や。
或いは神代の連中が見下していた錬金術師以外の人間を使った可能性もある。
それらの解析が完全に終われば。
こんないちいち被害を出しながら戦わずとも、フィルフサを皆殺しに……いや。もとの特に寄生する虫以外には害もない寄生生物に戻せるかも知れないのだ。それだって、寄生する虫と構築していた生態系で、文字通りの自然な姿であろうに。
泉から戻りながら、あたしはその可能性について考える。
ただ、皆に話すのはもう少し先だ。
もっと解析を進めて。
その結果、やらなければならない事だった。