暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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聖地の中の聖地は守られました。

そして包囲が崩れた今こそ。

各地へ使者を送り、状況を確認すべき時が来たと言えます。


2、包囲網の突破

聖域の一つである泉の開放に成功。

 

ウィンドルに戻った後、その話をカラさんがする。やはり至近までフィルフサが迫っていたこと。

 

それを聞くと、オーレン族はみな怒りの声を上げていた。

 

それはそうだろう。

 

あたしだってこの立場だったらキレる。

 

あたし達に対する怒りだって向くかも知れない。

 

ただ、それについて刺激しないように、しばらくアトリエの中で様子を見守る。

 

「わし自身が側で見定めたが、今の時点であの者達は以前来た連中とは違う。 もし同じであればフィルフサと命がけで戦う事も、フィルフサをあのような姿にしたことで怒ることもなかっただろう」

 

「総長老。 しかし……」

 

「今は順番にものごとを片付ける。 風羽のものはいるか」

 

「はっ!」

 

前に出てきた、歴戦らしい戦士の一人。

 

名前の割りにはずいぶんとごっつい容姿だが、まあ長距離を走り回るのであれば、ガタイが必要だろうなと思う。

 

それに、何よりもだ。

 

単身で生き残らないといけないのだ。

 

だとすれば、個の戦闘力が高いのも当然だろう。

 

「フィルフサどもの包囲はこれで崩れている。 各地の聖地に伝令を出せ。 生き延びているようなら状況を確認せよ。 もしも少数しか生き残りがいないようであれば、ウィンドルへと集めよ。 この土地はもはや死地に非ず。 オーレン族の最後の希望であるとな!」

 

「ははっ!」

 

即座に数名の風羽氏族の戦士達が動き出す。

 

あたしはそれを見届けると、皆に先に話をしておく。

 

「さて、これからだけれども。 あたしの意見を先に言っておくね。 あたしはフィルフサの群れをもう一つ二つ潰したら、群島に戻って門をもう一度調べようと思う」

 

「理由について聞かせてくれ」

 

リラさんが、分かりやすく率先して声を掛けてくれる。

 

頷いて、あたしもそれに応じる。

 

「まず第一に、フィルフサの群れをもう一つ二つ潰せば、ウィンドルの戦士達は存分に此処を守りきれます。 今までも守りきれていましたが、優勢が決定的になると思うんですよね。 そうなれば、じっくり時間を掛けて、周辺の安全を確保していく事が出来るかと思うんです」

 

「そうだな、この場所にいる奴らはつええ」

 

「ああ、みんな竜巻みたいだったり大雨の川みたいだったりだ」

 

レントもディアンも同意する。

 

咳払いすると、あたしは続けた。

 

「アンペルさんの解読がそろそろ終わると思うんです。 そうなれば、あの群島の門で何を神代の連中が仕掛けたのか、分かる可能性も高い」

 

「……」

 

「あたしは、神代の連中を許せません」

 

皆を見回して、そうはっきり言う。

 

勿論内臓を引っ張り出すとか、脊髄を引っこ抜くとか、そういう話はしない。

 

あたしは散々戦闘をこなしてきた。

 

生きるために殺してきた。

 

だが、それでもだ。

 

遊んで殺した事は無いし。キショイからとかいう理由で命を奪った事もない。

 

神代はそれを平然とやり。

 

後代の錬金術師はその思想を受け継いだ。

 

思想というよりも驕り。

 

驕りを通り殺して呪いだろう。

 

呪いをばらまいた根元は、今、ここで。

 

全て滅ぼし尽くさないといけないのである。

 

「もしも神代の本拠地……カラさんが乗り込んだという場所につながる道だったりするのなら……あの扉を解析する価値はあります」

 

「ライザ。 その意見はもっともだが、問題は神代の錬金術師が、わざわざ鍵まで渡して来いと促していることだ。 扉を開けた先には罠がある可能性も高いぞ」

 

こう言うときに、リラさんがしっかり指摘してくれるのは嬉しい。

 

まあリラさんは猫みたいにソファに転がっているのだが。

 

この人は戦闘モード以外の時は意外とダラダラしているので、まあそれについては皆も黙っている。

 

多分、必要がない消耗はしない主義なのだろう。

 

それ自体は、ごくまっとうなことなのだから。

 

「罠上等。 全部喰い破って、その奧にいる奴らの喉を噛み裂くだけです」

 

「相変わらず例えが物騒だな……」

 

「私も許せません」

 

パティがボオスの言葉に続いて言う。

 

パティは王都で性根が腐りきった貴族を散々見てきた。だから分かっているのだろう。

 

それらの思想の根元になった連中がいるのなら。

 

この世から綺麗さっぱり消し去らないといけないと。

 

この世からでもだめだ。

 

あらゆる次元から、あらゆる世界から。

 

全て消し去らないといけないはずだ。

 

パティの考えは厳しいかも知れないが。文字通りの諸悪の根元である。

 

世の中には確かに正義と断言できるものも悪と断言できるものもない。それはあたしも分かっている。

 

クーケン島で物わかりが悪い老人達を相手にして説得を続けてきたから、嫌でも知っている。

 

だが、それでも。

 

神代とやらのやらかしたことは度が過ぎているし。

 

ずっとまき散らしてきた呪いと。

 

他の存在を見下して一切敬意を払わない行動は。

 

許せるものではなかった。

 

「とりあえず、僕は賛成する」

 

「タオ」

 

「僕も初めて人間を本気で許せないと思った。 神代の錬金術師の残したログは、調べれば調べるほど、際限なく甘やかされて他の存在を否定していいと考えた者達のそれなんだ。 そういう連中が何かの間違いで、最強の力を持ってしまった。 挙げ句自分達を神格化し、その神格化が後の時代まで悪い影響を与え続けた。 彼等がどうなったかは分からないけれども、墓があるなら文明の痕跡を残さず消し去る必要がある。 もし生きているのなら、一人残らず殺し尽くす必要がある。 この世界にいる全ての生物の敵だよ彼等は」

 

タオが此処まで過激な事を言うのは初めてかも知れない。

 

神代の錬金術師集団が何処かにいて。其奴らの家族やら子供やらがいるなら、その時はその時で対応を考えなければならないが。

 

いずれにしても、この狂った思想と呪いをばらまき続けるのなら。

 

その全ての排除が必須だ。

 

タオが言うとおり、この世界の。あたし達の世界も、オーリムも含めて。

 

世界全ての生物の敵だからだ。

 

神を自称するものは悪魔そのものに一番近い。

 

その生きた事例が、目の前至近にあるのだ。

 

「まあ、俺も概ね同意だ。 ぶん殴って済ませられる問題ではないな」

 

「ああ。 ちょっと許しがたい」

 

レントもボオスもタオも同意か。ボオスはリアリスト寄りの人間だが、それでも超えてはいけない一線はあると身を以て知っているのだ。

 

リラさんとセリさんは、言うまでもないという顔をしている。

 

アンペルさんは、重い口を開いた。

 

「最初にロテスヴァッサの王宮に招かれたときの事だ。 私はあまり幼少期の記憶がなくてな。 錬金術を覚えたのも偶然からだった。 周囲は私と同年代の筈だが、みんなずっと年上に見えた。 私が実年齢を言うと皆驚いて、それでその後に私を実験動物として見始めた。 それはもう……どうでもいいことだが。 当時、錬金術師達がずっと口にしていた事がある。 栄光の時代を取り戻せ。 我等の手で、世界を好き勝手に出来る夢の時代を取り戻せ、とな。 欲望にぎらついた目は、モチベーションを産んでいたが。 同時に私には、とてもおぞましいものにみえた」

 

そうか。

 

確かに身の程知らずのオーリムへの侵攻を目論むような連中だ。

 

当時のアンペルさんから見ても、反吐が出る連中だっただろう事は、容易に想像がついてしまう。

 

アンペルさんの言葉にある事が、今なら分かる。

 

まだ、呪いは残り。

 

継承され続けていたのだ。

 

なんでもかんでも好き勝手に世界を弄くることが出来る力。

 

それは要するに、神代の錬金術師が後の時代に残した呪いだ。

 

錬金術はただの技術。

 

使い方次第では、フィルフサから世界を守れるし、多くの人を幸せにすることが出来る。だけど、クズが使えば。

 

その時には、錬金術は最悪の凶器になる。

 

神代は、まさにそれだったのである。

 

恐らくだが、あまりにも大きすぎる力と、歪んだ成功体験が神代をそうさせたのだ。元より神代の錬金術師が生きた時代は、欲望を肯定し、強い人間は何をしても良いという思想が蔓延っていたようだ。

 

その影響を受けたのだとすれば。

 

人間は、無駄に数ばっかり増やすべきでは無かったのかも知れない。

 

今、世界中で数を減らした人間は魔物に押されている。だがその結果、ある程度皆で協力しないと生きていけないことが可視化されている。

 

王都みたいな井戸の底だと、現実を理解出来ていない貴族なんてアホ共がいたけれども。

 

あんな連中は、パティが全部地獄の底に叩き落とした。

 

このくらいの数で、人間は良いのかも知れない。

 

あたしはそう思う。

 

あたしがやるべきは、錬金術を良い方向で使う事なのだろうが。

 

それは恐らく、人間の社会を発展させて、魔物を全部駆逐させることではない。

 

そうすれば、神代がまた来るだけだ。

 

そうならないようにするために。

 

あたしは今から、この世界を最終的にどうするか、考えなければならないだろう。

 

「反対は、いませんね」

 

「……」

 

「あたしは、次の調査で門を開けるとまでは思っていません。 開いた先に何があるのかも分かりません。 しかし情報を集めて、必ず神代の錬金術師達か、その作りあげたものを全て滅ぼします。 それについては、此処ではっきりと言っておきます」

 

皆、頷く。

 

既に誰も。

 

あの所業の痕跡を見た後だと。

 

反対など、しなかった。

 

 

 

カラさんと合流して軽く話をする。まず、フィルフサの駆除だ。この辺りにいるフィルフサの群れで、害がありそうなものについて確認をしておく。

 

現在、西にある三つの群れは混乱中。

 

フィルフサは基本的に共食いをしない。性質からして当然だ。何しろ正体は甲殻なのだから。

 

食い合っても意味がないのである。

 

だから三つの群れは、伝令を交換しあっているようだ。

 

多分どう次に動くか決めているのだろう。

 

もう一つの群れは動きが分かっていないという。この混乱はしばらく続くだろうと、カラさんはいう。

 

東のフィルフサの群れ二つ。

 

北東のものは、遺跡らしいものに陣取って動く気配なし。

 

南東のものは広くウィンドルを包囲するように群れを拡げているが、間隙だらけで、充分風羽の戦士は突破出来るし。

 

なんなら、連日の攻勢で各個撃破出来ているという。

 

それならば、充分過ぎる状況だ。

 

一応確認するが、群れの駆逐は無理をしなくても大丈夫だそうである。

 

だとすれば、危険度が高い群島の宮殿と扉を優先して調べたい。

 

カラさんに、一度戻る事を告げる。また来るつもりだが、その時は恐らく三週間から二月後くらいになるとも。

 

そうすると、カラさんは、即答していた。

 

「わしもついていくぞ」

 

「大丈夫ですか。 此処をかなり長期間放置することになりますが」

 

「既に引き継ぎは済んでおる。 それよりもそなたが今後どうなるかを見極めなければならぬ」

 

「ああ、なるほど」

 

ずばりいうものだ。

 

カラさんはにこにこしているが、スペックは非常に高い。格闘戦も出来るし魔術に関してはあたしの世界に勝てる存在などいないだろう。そして膨大な経験値も積んでいる。頭も極めて優れている、ということだ。

 

あたしが今後。

 

神代のようにならないよう、監視しなければならない。

 

それが出来るのは自分のみ。リラさんとセリさんだけでは不足というのだろう。

 

カラさんは、笑顔のままで言う。

 

「錬金術師どもとの戦いの時、今のわしより優れた使い手など幾らでもいたが、誰も生き残る事はなかった。 ライザよ。 そなたの力はその錬金術師どもより現時点で既に上よ。 実際にあの戦いを見てきたから分かる。 だからこそ、そなたが変わると判断したら、誰かが倒さなければならぬ。 あの錬金術師どもの思想を受け継いだそなたが君臨したら、文字通り世界は終わる。 それもオーリム、そなたらの世界だけではすむまいて」

 

「そうですね。 確かにその自覚はあります」

 

「というわけで監視役よ。 なに、普段は全力で支援はする。 条件が整ったとは言え、既に六体か、そなたらが倒したフィルフサの王種は。 その数は、我等が千三百年掛けて倒した王種の数を既に超えておる。 それであれば、フィルフサをもしも全て倒せる機会が来たのであれば、そなたらと同行した方がいいという都合もあるでな」

 

「分かりました。 お願いします」

 

カラさんに頭を下げる。

 

なお、やはりカラさんは錬金術の装備については、つけるつもりはない、ということだ。ただそれも現時点では、である。

 

或いはその後翻意するかも知れない。その時には、身に付けて貰おう。

 

勿論、カラさんの側近二人にもきちんと話はしておく。

 

この辺りは、あたしも一応は大人だ。

 

やるべき事の手順は踏まないといけない。

 

フィーが、懐かしそうにウィンドルの方を見ていたが。ここに来るのは初めてである。

 

それを思うに、やはりオーリムの空気よりも、ドラゴンを見守る……奏波氏族は、そもそも渡りをするドラゴンを見守る氏族だったらしいのだが。

 

そんな氏族が聖地とした此処だからこそ、懐かしいと見ているのだろう。

 

仲間はみんな此処で殺され尽くした。

 

多分、フィーの種族の生き残りはもういないだろう。

 

最後の一人となったら、無性生殖ができない限りは、完全に詰みだ。

 

フィーの種族は、これで詰んでしまった。

 

研究所に積まれていた骨。

 

文字通りフィーの種族を使い潰しながら、門を開ける技術を神代の錬金術師は開発したのである。

 

それだけではない。

 

他の悪行の全ても。

 

あたしがこの手で償わせる。

 

門を潜る。フォウレの里に出向いて、また来る事。しばらく先になることは告げておく。フォウレの里は、それまでに引っ越しの準備を進める、ということだった。

 

それから港に出て、船の準備をする。クラウディアの話では、四日後に丁度航路があう船が来るそうだ。

 

ただし艦隊を途中で組むので、予定通りでもクーケン島には前回より少し長く掛かるらしい。

 

まあ、艦隊を組むのは安全のためだし、しかたがない。

 

「クーケン島近くから、グリムドルに行く事が出来ますが、どうしますか」

 

「いや、やめておく。 グリムドルには今風羽の者が向かっておるし、何より奏波氏族はオーリムでももう知っている者はそう多くは無いだろう。 それに無駄な危険を背負う事もあるまい」

 

なるほど、ドライだな。

 

ともかく、船を待つ間、近隣の魔物を片付けておく。特に港の南側、農村近辺の魔物を重点的に始末する。

 

海の方でも、大きめの魔物を誘引して、片付ける。

 

大きめといっても、それほど凶悪な奴ではなかったので。引き寄せて後は総攻撃しておしまいだ。

 

海の沖の方に行くと、とんでもないのがいたりするのだけれども。

 

流石にそれをわざわざ引っ張り寄せて倒す事もないだろう。

 

港が巻き込まれたら全損するし。

 

そういった魔物は、船なんかエサとも考えていないようだから。

 

とりあえず、これでフォウレの里近辺の、人間が住んでいる辺りに縄張りが被っている大物は、全部始末できたと思う。

 

今の時代、人間が魔物を絶滅させるのは数も質も含めて無理だ。後は魔物全滅作戦とか馬鹿な事でもやらない限りは、周辺にある程度の平和は来るだろう。

 

あたしに出来るのは。

 

ここまでだ。

 

これ以降は、森や海にいる魔物と、人々が上手く距離を取ってやっていくしかない。其処から先は、現地の人の仕事である。

 

四日はあっと言う間に過ぎ。

 

あたしも薬をかなり増やした。爆弾も。

 

死んでいなければだいたい助かりそうな薬も出来た。

 

ドンケルハイトの薬効成分が凄まじく。

 

セリさんが試作品だといってくれた分を使っただけで、ものすごいのが出来たのだ。

 

名付けるならエリキシル剤。

 

これこそ、最高の薬だろう。

 

ジェムを膨大に食うため、複製することすら困難だし。もう摂理を完全に超えてしまっているような患者は助けられないが。

 

船が来る。

 

後はクーケン島に一度戻り。

 

アンペルさんと戦いを経験したカラさんも交えて群島の宮殿に出向き。

 

そして、その場を再調査だ。

 

これで、更に恐らくは先に進む事が出来るだろう。

 

まだその先に、何があるか分からないが。

 

 

 

フェデリーカは、船室でため息をついていた。

 

目が回りそうだ。

 

あまりにも巻き込まれている事件が大きすぎる。それに、自分なんかが関わって良いのだろうか。

 

そう何度も思ってしまう。

 

ライザさん達が本気で怒っていた。それについてはよく分かる。確かにフェデリーカから見ても、神代という時代の錬金術師達は人倫を逸脱すること甚だしい。

 

錬金術師としてライザさんは破天荒極まりない存在であることが分かっていたつもりだった。

 

しかしそれは良い意味で、だったのだ。

 

もとの錬金術師が。命を弄ぶことをなんとも思わず、人間ですらも例外と思っておらず。世界そのものを滅ぼしても、自分達さえ良ければどうでもいいと思っていたのは確定だとみて良い。

 

頭に来るのはフェデリーカも同じ。

 

神代の錬金術師が、そういう思想が醸成される環境にいて。それでおかしくなっていったのも、話を聞いて理解は出来ている。

 

恐らく彼等と他の生物全てが相容れない事も。

 

人間ではないとか、そういう問題ではない。

 

向こうが、自分達を選ばれた特別な存在と考えていて。それで、まったく会話が成立しない雰囲気だ。

 

人間同士でも会話が成立しない事はいくらでもある。

 

工房長として多くの職人と接してきた。だからわかる事もある。会話が成立しない職人さんも結構いた。拘りが強かったり、自分の技術に絶対の自信があったり。それ以上に、高い技術を得たが故に、天狗になって他の人を見下したり。そういう人に限って技術は高かったりして、困らされたものだ。

 

神代の錬金術師は。

 

そういったフェデリーカが見てきた困った相手の、究極。それが極端な力を得た結果なのだと考える。

 

それでも。

 

だからこそ。

 

その規模が如何に無茶苦茶で。

 

如何に無茶な事に関わっているかも、フェデリーカには分かってしまうのだ。

 

文字通り世界を好き勝手出来る所まで技術を得ながら、完全に拗らせてしまった一族。そう矮小化すれば分かりやすい。

 

だが、だからこそ。

 

そんな高みにどうやったらたどり着けるのかフェデリーカには分からないし。

 

何よりも自分が職人で。

 

本質的に技術にプライドがあるから。

 

どこかで相手のことを理解出来てしまうと言うのも余計に混乱する理由なのかも知れない。

 

ため息をつくと、船室で寝転がる。

 

いるだけで戦略的な価値がある。

 

ライザさんはそう言ってくれるけれども。

 

世界を好き勝手に変えるような相手と、今後は戦いになる可能性が高い。

 

そんなときに役に立てるのか。

 

フェデリーカだけが違う。

 

他の皆が、それぞれ凄い技を持っている中で、フェデリーカだけが、皆に強化を与える事しか出来ない。

 

それではダメだ。

 

分かっていても、接している事が大きすぎて、尻込みしてしまう。

 

どうしてなのだろう。

 

頭一つ大きい、筋肉ムキムキの職人とかと、怒鳴りあいなんかいつもしていた。魔物だって怖いとは思わない。普通に戦える。

 

それなのに。

 

混乱するフェデリーカと違って、同じ船室にいるクラウディアさんは平然と帳簿を確認しているし。

 

パティは正座して、精神集中をしている。

 

剣の手入れは、船が揺れるからやらないとか。

 

その代わり、揺れる船の上で平常心を保てるようにと、ずっとああしている。まだ年もフェデリーカと変わらないのに。

 

パティは何倍も年上に思える。

 

年も近いから、同じように接してみては。そうライザさんに提案された。立場も近いから、という理由もあった。

 

だが戦闘での凄まじい前衛としての働き。攻撃、防御、カウンター、特にカウンターの冴えは凄まじい。戦闘ではこの面子の中では素人同然のフェデリーカでも凄まじさがよくわかる程だ。

 

タオさんに対しての対応もパティは凄い。

 

婚約者で大好きな相手というのは伝わってくる。

 

それでも、まだ若い体を完璧にコントロールして。微塵も心を乱している様子がないのである。

 

かなわない。そういう言葉しか出なかった。

 

かなうのは料理の技量くらいだろうか。

 

でもそんなもの、世界の危機の前に何か役に立てるか。

 

何とも自分に対する劣等感が苦しい。

 

たまらず船室を出る。

 

ライザさんは、甲板で熱魔術を使って、天候を読んでいるようだ。雨を降らせることもその気になれば出来ると言うし、この人ができない事が、逆にフェデリーカには想像できない。

 

レントさんとディアンは、揺れる戦場で組み手をしている。

 

アクロバティックな体術を見せるディアン。やっぱりレントさんの方が実力的に格上のようだけれども。

 

ディアンはめげずに挑んでいるし。

 

ぐんぐん上達もしているようだ。

 

フェデリーカだけが上達できていない。

 

戦闘でアタッカーになれたらなあ。

 

ぼんやりと海原を見ていると。

 

カラさんが話しかけてくる。

 

「どうしたのだ」

 

「いえ、すみません」

 

「……他の者に自分が劣って見えているのか」

 

「!」

 

ずばりか。

 

この人は見かけと裏腹に老獪極まりない。生物としてのスペックもとんでもない。

 

寿命がかなり近くて、そればかりはどうにもならないという事だが。それでも、人間と比べてあらゆる場面で立っている土俵が違うと感じる。

 

今も。

 

俯いてしまうフェデリーカに、カラさんは笑った。

 

「あれだけの苛烈な戦闘の中で、舞いを続けて皆の戦力を底上げする。 それだけでも、どれだけ役に立てているか。 それは考えれば分かるだろうに」

 

「しかしそれでは、置物です……」

 

「ふむ、いざという時には冷気を集めての攻撃以外もやってみたいのか」

 

「……」

 

分からない。

 

だけれども。今のままではダメなのも事実だ。

 

カラさんは少し考えてから言う。

 

「舞いを内向きに使った事は」

 

「元々この舞いは神楽というらしく、神を擬似的に降ろして力を発揮しているようなんです」

 

「違う。 それは力を外向けに発揮していると言う事じゃ。 そもその力を、自分に向けてみたことは」

 

「いえ……」

 

つまり。

 

強化魔術のように使う。ということだろうか。

 

カラさんが、見本を見せてくれるという。

 

カラさんの魔術も、舞いを使うことがある。何度か戦闘で見た。多分神楽舞と原理的には近いんだと思う。

 

それでも、一目で分かる。

 

これは。

 

するりするりと動いていたカラさんが、パンと手を合わせる。

 

同時に、カラさんの全身が、猛烈な魔力に包まれる。

 

ライザさんがこっちを見ているのが分かる。

 

いや、カラさんをか。

 

カラさんは手にしている杖を海に向けて。そして、詠唱もなしに巨大な氷塊を出現させていた。

 

これが魔術の極み。

 

それが出来る人の魔術か。

 

生唾を飲み込んでいると、やがてカラさんは強化状態を解除したようで。あふれ出ていた魔力も沈静化していた。

 

「魔術にはそれぞれ得意分野がある。 ライザは熱、多くの者は強化、クラウディアは音。セリは植物。 だがのう、結局は魔力を絞り出して使うのが魔術であることに代わりはないのだと思わぬか」

 

「確かに……」

 

「錬金術は仕組みを見せてもらったが、エーテルにてものを分解し、それを再構成しているものと判断した。 わしには幾つかの才能が欠けているからライザのようには出来ぬがな。 思うに神代の錬金術師どもも、ライザのように錬金術に適した才能を全ての分野で持つ者はおらず、それぞれ誤魔化しながらやっていたのだと思うのう」

 

この人は、魔術師として頂点にいる人だ。

 

だから話は聞かないといけない。

 

フェデリーカは明確にスランプなのだ。だから、余計に話は聞いておかなければならないだろう。

 

「今、わしがやったのは初歩、熱魔術。 ただその魔力量が大きいだけ。 そなたはその年で、それだけ舞いを極めておる。 それならば、舞いを内側に。 他人に見せる、他人を鼓舞するのでは無い。 自分を強くするために使って見よ」

 

「……分かりました。 試してみます」

 

「うむ」

 

カラさんに頭を下げる。

 

フェデリーカには、今の極みの魔術が理屈だけは理解出来た。理屈が分かるのと出来るのは別問題だが。

 

舞いに関してなら、出来るかもしれない。

 

船がクーケン島に着くまでに。

 

少し試しておこう。

 

そうフェデリーカは考えていた。

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