暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
塔の前に立つ。アトリエを作った島に突っ立っている塔だ。しばらく周囲を調べて確認したが、扉はあるが鍵穴はない。
石材で作られてもいない。
なんだこれは。
クリフォードさんが、身軽に登って。
そして、すっと降りて来た。
「見て来たぞ、上の方」
「どうでした?」
「何とも妙な塔だな。 最初灯台かと思ったんだが、どうも違うぜこれは。 だがロマンが刺激される不可思議さじゃねえ。 なんというか、近寄らない方が良いと思わせる不気味さを持っていやがる」
「……なる程」
クリフォードさんの勘は頼りになる。
普段ロマンを求めてそれに命まで賭ける変人だが。ロマンを本気で追い求めているのは事実で。
勘がそれで磨かれたのも事実なのだろう。
扉については、タオが色々と調べて見たが。
光学式のコンソールがある様子もないという。辺りの地面なども調べていたが、やがてタオが残念そうに首を横に振っていた。
「ダメだ、お手上げ」
「ブチ抜こうか、この扉」
「いや、止めた方が良いね。 これ、防衛装置がついていると思う」
「何かしらの対策は考えられるのか?」
レントが大剣を持ちだしたので、あたしがとめる。
そして、対策についても、あたしは考える。
クリフォードさんが上を見て来て分かったが、そもそも上から内部には入れない構造になっている。
壁が破れている形跡も無い。
ずっと塩水に浸かっていたのに、だ。
腕組みして、考え込んだが。
取りだしていたのは、例の鍵だった。
この鍵、ふわふわと不定形で、なんとも安定しないのだが。もしやと思ったのである。
これが神代の遺構の一つで。
そしてこの鍵を作るように何らかの方法で促され。
群島の浮上と無関係でないのなら。
まあ、そう考えるのが当たり前だ。
鍵を扉に向けてみる。
そうすると、いきなり吸い寄せられるようにして、鍵が扉に飛び。突き刺さっていた。
「!」
「総員、警戒!」
皆、飛び退いて戦闘態勢に入る。
中から何が出て来てもおかしくないからだ。
幽霊鎧の類は、元々古くの技術。多分神代由来。それも、後の時代に降るほど、どんどん性能が落ちている。
神代の頃の幽霊鎧が、どれだけの性能かは分からない。
他の兵器類についても同じだろう。
他にも、魔物が中にいる可能性もある。
緊張の一瞬を過ぎると。
扉が、ぱんと開いていた。
最初にレントが出向くと、石材を用いて扉を固定してしまう。それで頷いて、まずはタオとクリフォードさんが奧に入った。
あたし達は、まずは専門家に任せる。
程なくして、クリフォードさんが、来るように促す。
危険はない、ということだ。
奥に入って、周囲を見回す。
塔の内部は、灯りが存在している。
これは魔力を用いた灯りか。
何百年動いているのか、分からない程だ。錬金釜。はて。これは随分と傷んでいるように思う。
使えそうにないな。そう思いながら、周囲を確認。
本棚。
だが、本は殆ど残っていない。
「どうやら、ここに入ったのは俺たちだけじゃないようだな」
「クリフォードさん、どういうこと?」
「ああ。 前に此処が浮上したのが百年前って話だろ。 その時にも、誰かが入ったんだと思う」
「……」
そうなると。
多分そいつは、錬金術師だ。
確かアンペルさんは、その頃ロテスヴァッサの王宮で錬金術師をしていたはず。なんでそんなに長生きなのかは理由があるようだが。それについては、今に至るまで話してはくれていない。
アンペルさんが王宮で錬金術師をやっていた頃には、まだ錬金術師がいたはずだ。そういえば、アンペルさんが自分以上だと認めている錬金術師がいたとかいないとか、そういう話をしていたな。
アンペルさんの親友で。
裏切って、利き手を使い物にならなくした張本人。
まさかな。
アンペルさんの話では、その頃を最後に、錬金術師は世界から殆どいなくなったという話だが。この群島の浮上が、何か関係していたのかも知れない。
クリフォードさんが、手袋の残骸らしいものを、顎でしゃくって見せる。
「これは、多分百年前にもちこまれた物資だ。 床なんかは完璧に今でも磨き抜かれているくらいに綺麗なのに、すっかり傷んで駄目になっていやがる」
「これは恐らく、あたしが作るのと同じ……複数の魔術を身に付けるだけで発動できるタイプの装飾品ですね」
「ああ。 だが見た感じ、ライザの作るものより出来は劣るようだな」
クリフォードさんの身内の贔屓目かどうか。
確かに、ざっと見た感じ、造りが甘いようだ。
タオが、手を振って、来て欲しいと言う。
塔はそれほど内部が大きいわけじゃない。
レントは入口を見張ってくれていて、内部には踏み込まない。一応レントにも、中に入るときには鍵は渡しておいた。
「ライザ、これを見て欲しい」
「これは……」
腕輪だ。
恐らくは、錬金術で作ったもの。
しかし錆が目立っている。
見た感じ、ゴルドテリオンを混ぜた合金だったのだろう。普通だったら滅多に錆びることはないのだが。
これは、かなりのできばえだ。
「タオ、どれくらい経過していると思う?」
「三百年かな」
「三百年だって……」
「この群島、定期的に浮上していたんじゃないのかな。 そして、その度に錬金術師が来ていた」
ぼそりとタオがぼやく。
三百年前というと、もうロテスヴァッサ王国の時代だ。実際の領土が王都しかないとか、それはまあおいておくとして。
「仮に百年に一度浮上するとして、その度に此処に錬金術師が引き寄せられていたって事か?」
「なんともいえないよボオス。 それよりも、これ」
「なんだこれ。 食器か」
「これは古い古い様式の食器で、古代クリント王国のそれなりに偉い人間が使っていたものだよ。 つまり、五百年前のものだと思って良さそうだね。 それも、保存状態からして、此処に持ち込まれた時は新しかったとみて良い」
つまり、塔の中にそれだけ時代が異なるものが、色々あるということか。
なるほど、わからん。
あたしに雑音みたいに呼びかけた声。更には、あの鍵みたいなものを作らせた意図。
この塔で、錬金術師に何かするつもりだったのか。
ともかく、手を叩いて、一度注目を集める。
「必要な物資を回収して、アトリエに戻ろう」
「よし。 タオと俺で集めるのはやる。 運び出すのは、皆でやってくれ」
「荷車、運んできた」
「有難う、セリさん」
塔の入口にセリさんが荷車を運んできてくれたので、皆でそこに物資を放り込む。
幾つか本もあったので、タオが読みたそうにしていたが、此処で読むのは愚の骨頂である。
内部に骨や死蝋の類はない。
ということは、此処に閉じ込められて死んだ人間はいないということだ。
だが、それもどこまで安全性を担保するか、しれたものではない。
動かせるものは、全て回収してしまう。
そして、アトリエに引き上げる。塔の扉は。全員が出ると同時に、音もなくしまっていた。
もう入る事もないだろうが。
なんとも不気味だった。
それだけじゃない。
扉から抜けて、落ちた鍵は。青く染まっていたのである。
「ライザ、なんだそれ」
「後で解析してみる」
「分からない事だらけだね……」
クラウディアが、少し疲れ気味に言う。
ともかく、アトリエに戻って。
そこで、順番にやるべき事をやる。それだけだ。
本の解析に入ったタオとクリフォードさん。
壊れ物や私物は出来るだけ持ち込まないようにと皆には注意してあるので、クラウディアは作ったキッチンを使って直にお菓子を焼いていた。キッチンについては、四年間で散々色々研究してある。
今では温度の調整を自在に出来る窯もついているし。
任意の温度に熱することが出来るゴルドテリオンの板。
更には、水周りなども改良を済ませてある。
セリさんは外で土を耕している。
この辺りは塩水だらけの土だが。だからこそ、例の浄化植物の性能試験が出来ると思っているのだろう。
畑は好きにして良いとセリさんに言ってある。
セリさんは、少しずつ笑顔を見せてくれるようになっているが。
ちょっとだけ、それを聞いてにこりとしていた。
クラウディアがクッキーを焼いてくれたので、皆で分けて食べる。蜂蜜を上品に使ったとても美味しいクッキーだ。
「王都風の味付けが濃い食べ物も嫌いじゃないけど、やっぱりこっちが好きかな」
「ああ。 なんだか安心できるよな」
「ふふ。 やっぱり地元の味かなと思って」
「僕はもうちょっと甘い方が好みかも知れない」
タオが意外な事を言う。
というのも、タオは頭を使うので、糖分がもっと欲しいそうだ。明確に糖分が非常に欲しくなる時もあるらしい。
一度休憩を入れてから、あたしは調合を進める。ボオスはその間に、一度戻った。まだまだ、クーケン島ではやる事があるのだ。送り迎えは、クリフォードさんがやってくれた。ありがたい話だ。
爆弾やお薬は増やしておく。
こっちに持ち込んだ釜は、新しく調合したものなのだが。
グランツオルゲンをベースに、エーテルに溶けないように、何重にも強化してあるものだ。
今までは釜を持ち歩いていたので。
自作の新しい釜を用いて、調合が出来るかしっかり確認をしたかったのである。
調合は問題ない。
今までと同じものが普通に作れている。
あたしは無言で冷や汗を拭うと、薬の調合に入る。どんな薬も必要だ。特にセリさんが高品質の薬草を提供してくれたので、それを贅沢に使ってお薬にしておく。
一段落した所で、タオに進捗を確認。
「それで、どう本は」
「うん。 まずこれは暗号だらけだけれども、多分百年前のものだね。 暗号こそ使っているけれど、今の時代と文字が同じだ」
「暗号は解けそう?」
「ちょっと難しいかも知れない。 専門用語だらけの上に、もの凄く迂遠に文章を構築しているみたいだからね……」
そうか、タオでも無理か。
だとすると、一旦それは放置だ。
次だ次。
他の本は、年代はまちまち。
四百年ほど前らしい本は、ただの日記だという。書いたのはかなり年配の男性で、此処にやっとたどり着けた、みたいなことを書いていたらしい。殆どが愚痴でしめられていて、雇った護衛が役に立たないとか、目が霞んできていて文字が読めなくなっているとか、そういうので殆ど日記が埋められていたとか。
「四百年前というと、ロテスヴァッサ王国の初期の人物だよね」
「うん。 今はない街から此処まで来たみたいだね。 今はもう、魔物の巣窟になってしまっている遺跡だよ」
「ええと、そうなると、百年前、三百年前、四百年前、五百年前にここに来た奴がいるって事か」
「それだけじゃない」
更に古い本をタオが見せる。
それは、見た事がない装丁をされていた。
というか、触ってみて分かる。
これは、生半可なゼッテルじゃない。紙を構成するときに用いている繊維の細かさが、尋常ではない。
あたしも色々高品質のゼッテルを作ってきたから分かる。これを量産出来ているとしたら、それは神代の筈だ。
「装丁からして分かるだろ。 これは神代のものだ。 神代の人間も、ここに来ていたんだ」
「年代はどれくらい?」
「これは九百年くらい前のものだね。 僕も初めて名前を聞く国から、これを書いた人は来たみたいだ。 文字は何とか解読出来るけれど……殆どが意味不明の文章になっていて、或いは半分錯乱していたのかも知れない。 暗号では無いと思う。 時々ふと我に返って、故郷についてぼやいていたり。 或いは研究が進まないことを嘆いていたりしている」
それだけ聞くだけでも、この群島の闇深さが分かる。
そして恐らくは百年前に失われてしまったのだろうが。
錬金術師にとって。
この島は知られていたのだ。
だが、なんの場所として知られていた。
今より遙かに文明が進んでいた時代の錬金術師まで、ここに来ている。それは何が目的だ。
あたしは、エゴが極めて薄い希有な錬金術師だと、色々な人に言われた。
それについては、なるほどと思ったが。
逆に考えるべきだろう。
ここに来ていた錬金術師達は、何を求めていた。
恐らくあたしとは別種の人間だったはずだ。エゴに突き動かされて、栄誉やら金やら、もしくは力やらを求めていたはず。
それも自分に還元するための、だ。
此処にはそれだけの魅力があると言う事である。
危険な場所だ。
あたしはそう思う。
「クラウディア、もう一度念を押すけれど、私物は絶対に持ち込まないで」
「うん。 本当に此処、危険みたいだね」
「アトリエの中にいても安全とは言い切れないね。 このアトリエも、それなりに魔術的に守りは固めてはいるんだけれども」
それに関しては、そもそもあたしのアトリエ一号についても同じだ。
そこにいてもあの雑音みたいなのは聞こえたし。
鍵の発想もさせてきた。
そうなってくると。
此処には、世界を滅茶苦茶にしてもなんら顧みず。我欲を満たすために、何度でも愚行を繰り返してきた錬金術師達が。
それこそ喉から手が出る程欲しい何かがあったとみて良い。
しかも、此処を作った神代、それも古くの連中だろう。
それらは、錬金術師をエサで釣ったとみて良いだろう。
なんのエサを求めて、錬金術師達はここに来た。
それも、古代クリント王国の連中と同じ穴の狢どもがだ。
いずれにしても、調査を本格化させないと危ないだろう。
今日は、塔の調査についての結果をまとめて。
明日以降は、順番に本丸の周囲にある、幾つかの島を調査していかないといけないなと、あたしは思った。
順番に島を調べて行く。
元々は海に沈んでいたのだ。どの島も、植物は殆ど存在していない。それでも、もう植物が生え始めている島もある。
閉鎖的なクーケン島の民が、禁足地として入れないようにしていた地域にこの群島はあったが。
それでも錬金術師達は来たのだろう。
彼方此方で、痕跡が見つけられた。
ある島は、半分ほどが抉られ、消し飛んでいた。
恐らく浅瀬に住み着いていた魔物と、戦闘したのだと思われる。吹っ飛んだ部分は、なんだか見た事がない素材が覗いていて。抉られてそれが露出したのが分かった。
つまりこれらの群島は。
元々島ですらなく。何かしらの未知の素材で作られ。其処に土を被せた、ということなのだろう。
素材については、サンプルを回収しておく。
大きめの島に出向く。
珊瑚だらけだ。
これは、偽物ではないな。
クラウディアが大喜びしているので、あげる。別に珊瑚なんて欲しくもない。ただ、一応調合素材として、回収はしておく。
岸辺で死んでいる大きめの貝。
口を開いて、既に鳥がつついているが、大きな真珠が腐臭の中に浮かんでいた。手際よく、ひょいと杖を使ってあたしが回収する。
後は洗ってコーティングがいる。
真珠は鉱石寿命があって、百年ほどで輝きが褪せる。それを防ぐためには、コーティングが必要なのだ。
「信じられないくらいの大きな真珠ね……」
「クラウディア、欲しい?」
「欲しい!」
「そっか。 とりあえず、まずはコーティングをしないとね。 その後、バレンツには世話になっているからあげるね」
クラウディアは嬉しそうで何より。
あたしからすれば、ただのキラキラした珠だ。
人によってものの価値は変わる。
クラウディアの価値では、それこそ屋敷が建つくらいの価値があるのだろうが、あたしはそうじゃ無い。
それだけである。
他にも、幾つかの島を見て回る。
ドラゴンがいて、周囲を油断なく見回している島がある。
あれはちょっとばかり危険か。
戦って負けるとは思わないが、それでも他の島を優先した方が良い。
更には、一番大きな島もある。
そこにある宮殿みたいなものに迫るまでに、一応もっと情報を集めておいた方が良いだろう。
一日がかりで幾つかの島を周り。
回収してきた物資をコンテナに。
そして、わくわくしている様子のクラウディアに、真珠をコーティングして渡す。本当に嬉しそうにしているので、見ていて和む。
「時にクラウディア、それってずっと自分のものにしておくの?」
「宝石は殆どは売ってしまうんだ」
「へ、へえ……」
「でも、ライザから貰った宝石はとってあるの」
そっか。
それはそれで、別に友情の証だからいいか。
クラウディアは一度戻ると言うので、あたしが送っていく。
他の皆は、アトリエで一泊だ。
男女に分かれて、皆が休めるように内部は広く作ってある。
フィーが嬉しそうに飛び回っているのは。
恐らくは、この島々に満ちている、異様な魔力も原因の一つだろうなと、あたしは思うのだった。