暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3 作:dwwyakata@2024
四年前にライザがここに来たとき、精霊王「火」と接触する事になりました。原作でもある程度シナリオが進むと出現する一種のエンドコンテンツボスですね。
そういえば原作ライザシリーズでは、2以降精霊王は姿を見かけませんね。
竜脈に絡む話が展開されるのだから、出て来ても良かったのに。
まず、あたしは火山に上がると、頂上を目指す。最初にやるのは、できる事なら火の精霊王との接触だ。
いるかどうか分からない。
枷を外したからだ。
何よりも、今回も利害が一致するか分からない。
何かしらのややこしい契約がされている可能性があるからだ。
だからまずは、一番厄介な相手の様子を見に行く。戦うとなるとエンシェントドラゴンと同格か、それ以上ともいう相手だ。
だから最初に、その動向は確認しなければならなかった。
皆は……フェデリーカやパティ、ディアンは緊張した様子だったが。既に此処に来た事がある皆は落ち着いている。ボオスは嫌な事があった場所だが、それでも少なくとも表情に出さなかった。
まあ出したからといって、あたしは遠慮しないが。
お気持ち云々よりも優先度が大きいからである。
「かなり活発に動いていませんか、この火山……」
「前に俺が見た火山だと、噴火に巻き込まれたことがあってよ。 その時に比べると全然だぜ」
「ええ……」
レントの言葉に流石にパティも呆れる。
あの元公爵の首を容赦なく刎ねたパティと一緒に。まだ子供から抜けきれていないパティもいるわけだ。
そう思うと、微笑ましい。
「レントさん、分かってはいましたが、無茶苦茶を平気でするんですね……」
「いや、最近からだ。 色々あって吹っ切れて、なんでも経験してみようと思うようになってな」
「良い心がけだ。 だが死なないように気を付けろよ」
フェデリーカさんとリラさんが、それぞれの所感をレントに告げる。
あたしは別に言う事もない。
頂上に到着。
実はこの辺りは時々来て、厄介な魔物は見つけ次第駆除していた。それもあって、多分精霊王はいないだろうとも思っていた。
だが火の精霊王はとにかく気まぐれそうに見えた。
子供の姿をしていたのも、キャラ付けのためだけでもないだろう。いた場合が、問題なのだ。
幸い、いないようだった。
火口は暑く溶岩が満ちていて。あの浮かぶ岩もある。
だが跳躍して覗き込んでみても、精霊王の気配はない。
幸い、それほど強大な魔物もいないようだった。
まずあたしは、手を叩いて皆に告げる。
「精霊王はいないみたいだね。 此処からは、手分けして行動しよう。 クリフォードさん、タオ、アンペルさん。 この三チームに分かれよう」
いうまでもないが、これは遺跡調査などの知識があるメンバー同士での組み合わせとなる。
また、効率が落ちる可能性があるので、タオの班にパティは入れない。
これは暗黙の了解である。
ディアンは面白そうに周囲を見回していたが、暑さはなんともないようだ。
「ライザ姉、それで三チームに別れてどうするんだ?」
「総当たり」
「……?」
「此処の何処かに古代クリント王国の研究所があるのは、城の研究所を調べて確定したからね。 でも、この火山は大きくて、何処にあるか分からない。 幸い、この面子で総掛かりで対処しなければならないほど危険な魔物の気配もない」
なるほどと、ディアンは頷く。
素直でよろしい。
「それぞれの班長が行動を判断して。 あたしは人員を割り振るよ」
「よしきた。 まずは俺だな。 俺は頂上付近を探してみる」
クリフォードさんが挙手。
もっともこの中でアグレッシブなのはクリフォードさんだ。納得の行動と言える。
この位置からだと、狙撃要因が良いだろう。
クラウディアと、護衛役の前衛としてディアン、リラさんに残って貰う事とする。
続いてタオが提案。
「僕は集落跡を調べて見るよ。 前は何となくで集落跡だと考えていたけれど、良く考えて見ると、こんな山に住んでいたのは不自然だよね。 ひょっとすると、古代クリント王国の錬金術師の子孫の集落の可能性もある」
「分かった。 丁寧に調べてきて」
「了解」
レントとボオス、フェデリーカに護衛になって貰う。此処にはあたしも入る。何かあった場合、司令塔が中間点にいるべきだからだ。
最後はアンペルさんだ。
「私の得意なのは総当たりだ。 麓から順番に探ってみよう」
「しかし何か見つかりそうか?」
「なんとも」
カラさんがアンペルさんを見て目を細める。
なんだかアンペルさんを値踏みしているようだが。まあいいか。ともかく、此処にはカラさんとセリさん、パティに入って貰う。
これで一旦解散とする。
そうすると、皆慣れたものだ。クラウディアは音魔術を使って、多数の人型を呼び出して、空中に反射板みたいなのを展開する。
音を拾いやすくするためだろう。
何かあった時には、即座に皆に知らせてくれる、というわけだ。
この配置がベストである。
クラウディアは前にあったクリフォードさんとの確執も消えている。あたしは頑張ってなと手を振るディアンに手を振り返すと、山の中腹までタオと降りる。
この辺りは貧弱だがインフラの跡もある。前に来たときは、もっとみんな未熟だったな。そう思って、周囲を懐かしく見る。
麓まで降りるアンペルさんを見送ると、タオが声を掛けて、集落跡を調べて行く。レントがボオスとともに瓦礫をどかしていく。もうボオスも、こういう埃にまみれる仕事を嫌がっている様子はない。
あたしも邪魔な岩を蹴り砕く。タオは淡々と、調査の方針を告げて、それに皆が従っていく感じで進める。
「魔物は姿を見せねえな」
「あたしとカラさんが山に入った時点で大半逃げたよ。 この辺りにはワイバーンがたまに出るけれど、もしいたら来るかも知れない、程度だね」
「お前、どんどん人間離れしてきたな……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
あたしもいちいちそれで怒るつもりもない。
しばらく瓦礫を黙々と片す。
フェデリーカはもう役割をきっちり理解出来ている。淡々と舞い続けていて、皆の筋力が増強されるように動いてくれていた。
瓦礫がある程度片付いたところで。
タオが手を叩いた。
「よし、一旦止まって。 僕が目をつけた場所を、順番に調べて行こう」
「この短時間でもう目をつけたのか」
「うん、まあね。 この一年も色々と実践はしていたんだ」
レントが驚く。
やはりタオの成長は著しい。
アンペルさんがいうように、もうこの世界最高の学者と言って良いだろう。四年前にここに来たときとは、知識も経験も別次元、と言う訳だ。
すぐに何カ所かタオが指さし、あたし達が動く。
レントは力仕事に。
ボオスは周囲を見ながら、フェデリーカに指示。
舞う地点を変えさせる。
これは魔物の奇襲があった時に、対応をしやすくするためだ。
ボオスも戦略的にものを見る事ができるようになっているな。あたしはみんな成長している事を実感して、負けられないなと自分に言い聞かせる。
そして、すぐにタオが言った地点の掘り返しに移行していた。
「それでタオ、この辺りだってどうして思うんだ」
「まずこの集落そのものが、今見てみると違和感だらけなんだ。 人が生きていくための仕組みを最優先にしていない。 例えば此処が古代クリント王国の生き残りの暮らしていた土地なのか、先住の人達が住んでいたのを追い出して乗っ取ったのかは分からないのだけれども。 いずれにしても、建築学から見ても遺跡という観点から見ても、非効率なことを幾つもしてる」
ふむふむ。
タオが続けるのを、手を動かしながら聞く。
「この辺りは、なんでか水を引いていない。 この過酷な火山での生活だよ。 少しでも楽に過ごそうと思うのが普通だよね。 この辺りに水路があったら、利便性が段違いになる筈なんだ。 勿論何か僕が想定しているのと違う理由があって、非効率な事をしている可能性もあるけれどね」
「なるほどな……」
「タオさんは、一瞬でそんな事も分かるんですね……」
「うん。 まあ、経験と知識の積み重ねの結果だよ」
タオが掘り返した土を調べていて、それであっと小さく声を漏らした。
あたしもそれで気付く。
これは、確かに水路を敷かないはずだ。
この辺りの土壌は、毒性が強い金属を含んでいる。こんな所に水路を引いたら、飲めば確定で体を壊すだろう。
それだけじゃない。
ボオスが掘っていて、埋められた水路の跡を見つける。
それも、比較的新しいものだ。
即座にタオが方針を変えていた。
「集中的に深く掘ってみてくれる?」
「おう、任せとけ」
「フェデリーカ、この辺りで舞ってくれ」
「分かりました」
フェデリーカももう疑念を口にすることもできない。
ボオスの指示に従って、適切な位置に移動。
あたしはレントが掘り出した毒性の強い金属を含んだ土を、どんどん余所へどけていく。もう無人の集落である。
それに此処が今後有人になることもないだろう。
「どうだ、タオ」
「よし、此処は外れだね。 次に行こう」
「あっさり戦略を変えるんだな」
「この深さまで掘って何かしらの施設……特に地下施設の痕跡の一端もないからね。 恐らくこの辺りは、錬金術の実験で出た毒物か、邪魔な鉱石を捨てていたんだ。 後に水路を作った人は、それを失伝していたんだろうね。 恐らく死者も出たんじゃ無いのかな」
本当に迷惑な奴らだと、あたしは呆れる。
レントがさっさと穴を埋め直して、あたしは次に。
いや、その前に。
皆に薬を渡して、飲んで貰う。毒性が強い金属を吸い込んだかも知れないから、その対策だ。
火山用に、毒性のある金属や、毒ガスに対する薬はもってきてある。
一応、飲みやすいように味は調えておいた。
すぐに次に。
タオが示したのは、一見なんともない家屋だ。
四年前、ここに来たときに書物は回収していったのだけれども。タオはこの辺りの家屋は、全て覚えていたという。
凄い記憶力だが。
まあ遺跡探索をやっていれば、どうしてもそういう記憶力が身につくのかもしれなかった。
「まずはこの家だ。 床を調べるから、皆は周辺を警戒して」
「床の埃、焼き払おうか?」
「……そうだね、お願い」
頷くと、あたしは熱魔術の応用で、床の埃やゴミ、潜んでいる虫なんかを瞬時に焼き尽くしていた。
それが終わると、タオは手袋を嵌めて、床を丁寧に調べ始める。
「四年間気になっていたんだ。 この建物、他と違う。 倉庫みたいに扱われていたようになっていて、多分集落の末期には実際にそうだったんだけれども、作りとかが他の家屋と色々違うんだ。 ひょっとして敢えて倉庫にしたのかもしれない」
「クリフォードさんもこんな感じで調べ始めるかもな」
「ああ……」
ボオスは無言で警戒に戻る。
あたしは何度か跳躍して、周囲を確認。
今の時点で。
此方に仕掛けてこようと考える馬鹿な魔物は、見当たらなかった。気配もない。
他の皆も、淡々と調べているのか。
事前に決めている魔術を用いた狼煙が上がることもなく。
今は淡々と、皆が調べているのは間違いなかった。
昼少し過ぎて、フェデリーカが提案してくる。
体力はついてきたが。
流石に厳しくなったのか。
何しろこの山は暑いし。
あたしは皆と一緒に、次に調べる予定の家屋の邪魔なものを避けている最中だった。
「す、すみませんライザさん。 その、お昼に……」
「分かった。 あの家にトイレの跡があって、今も使えるはずだから、用は其処で足してね」
「ライザさんも覚えているんですか」
「いや、フェデリーカが舞ってる間に調べといた」
レントが淡々と荷物を出して、食べ物を並べる。
タオはクラウディアが焼いてくれたらしい焼き菓子を頬張り始めていた。まずは頭に栄養を補給か。
この辺りはアンペルさんの弟子だ。あたしと同じく。
他にもサンドイッチを中心に、持ち歩きやすいものを中心に昼飯が準備してある。防腐作用がある酸っぱい木の実をあたしは口に入れると、もぐもぐとして。飲み下していた。まあおいしいものではないが、ここの気温を考えると必須だ。
「で、どうタオ、今の家は」
「外れの可能性がありそうだね。 恐らくこの集落の長の家だったんだ。 でも集落で権力闘争の結果、長が交代して、多分あの扱いだと……良くて追放されたんだと思う」
「そっか」
良くて追放ということは。
あの元公爵の末路を思い出す。
だけれども、同情するつもりにはなれなかった。
あれは自業自得だった。
それに、此処にいたのが古代クリント王国の研究者どもの成れの果てだったとしたら。
同情をするつもりにはなおさらなれなかった。
しばし食事をする。
ボオスが驚く。
「ライザ、食う量減ったか?」
「そういえば前は俺も恐れ入るくらい食ってたよな」
「大げさな。 まあ、今日は大した運動をしていないからね。 ただそれだけの話だよ」
あたしはアンチエイジングで加齢から解放された。
そういえばだが。
最近は、食欲をコントロール出来るようになっているように思う。
十代の頃の、焼け付くような胃の欲求は、明確にコントロール出来るように変わってきていた。
もともと薄かった性欲が綺麗さっぱり消えて無くなったのと無関係ではないだろう。
これはあたしは。
或いは、さっきボオスが冗談めかして言ったように、人間ではなくなりつつあるのかも知れない。
だが、それに対する忌避感はない。
神代の腐れ外道どもは、人間が扱ってはいけない力を手にして、それを欲望を満たすために用いた。
古代クリント王国のカス共は、世界全部を支配しながらも、まだまだ足りないと異世界への侵攻まで企てた。
どれも身勝手なエゴからだ。
あたしはエゴなんてなくしてしまいたい。
だったら、欲望なんて無い方が良いに決まっている。
懐にいるフィーが、身じろぎする。
「どうしたの、フィー」
「フィッ! フィー!」
懐から出てくると、周囲を飛び回る。
それを見て、あたしは立ち上がった。これ、明らかに警戒している。
「みんな。 さっさと食べ終えて。 今は何もいないけど……」
「分かった!」
レントがさっさと全て食べてしまう。フェデリーカもむせながら。でも、ボオス以上にしっかり育ちが良いと分かる食べ方をしているのはまあ、飾りとは言えサルドニカの長ということか。
すぐに周囲を警戒するが、フィーはあたしの懐に戻ってくると、地面の一点を見つめているようだった。
「フィー。 其処に何かあるのか」
「フィッ!」
ボオスに、うんという感じでなくフィー。
なる程ね。
すぐにレントが掘り始める。タオは頷くと、続けて指示を出した。
「僕は床の調査に戻る。 レント、其処をお願い。 ボオスとライザは周囲の警戒を頼めるかな」
「ああ、任せておけ。 フェデリーカ、この地点で舞ってくれ」
「分かりました。 切り替え、早いですね……」
「みんなそれだけ死線をくぐってきたからね」
あたしも警戒に入る。
地面の下にとんでもない凶悪な魔物がいる可能性はある。
それも考慮しながら、作業を続ける。
太陽が直上から外れ。
だいぶ傾き始めた頃。
タオとレントが。同時に何かみつけていた。
タオがあたしを呼ぶ。
石畳の一つを外して、そこに何か魔術的な封印が掛かっているのを見つけたと言うことだ。あたしは頷くと、レントの方も見る。
レントは何かしらの金属……明らかに加工されたものを見つけていた。
これは恐らくだが。
地下室だ。
それも密閉型の。
すぐに穴から上がって貰う。
そして、あたしは魔術の解析に入る。最悪、カラさんを呼んで手伝って貰うか。だが、調べて見て分かった。
魔術は複雑だが、多分魔術を維持するための動力が駄目になっている。これは恐らくだが。
王都周辺の、封印と同じ状況だ。
あたしが封印を砕くと、地下室への扉が開く。頷いて、あたしとタオが先に入り、入口をレントが固める。
さっきレントが掘り出した様子からして、大した規模の地下室じゃない。
だが、降りて見ると。
灯りの仕組みはまだ生きていた。
大量の本がある。
さっと目を通したタオが、頷く。
「当たりだね。 古代クリント王国時代のものだよ。 しかもこの密閉空間にあっただけはある。 虫食いもない」
地下室は、十歩四方。天井はあたしの背の倍くらい。
奧にはデスクがあるが、これはどうみても資料庫として使われていた場所だろう。研究室ではない。
「どうだー!」
「正解! そろそろ時間だし、運び出しをまずやる準備を整えよう!」
「分かった! 信号弾を打ち上げるぞ!」
「お願いね!」
入口のレントに叫ぶと。
タオが調べている書物のうち、重要そうなのを順番に外に運び出す。少し脆くなっているようで、タオは気を付けるようにと何度か促してきた。
四半刻で、信号弾を見たクリフォードさんとアンペルさんがみなと一緒に合流してくる。
状況を説明した後、タオが荷車に本を積み込み始めた。これからあたしのアトリエに本をピストン輸送する事になる。
荷車に手慣れた様子でレントが本を固定すると、リラさんが側について、更に本を扱えるクラウディアもついて。麓に全力でダッシュ。
その間に、皆で話をしておく。
まず山頂付近だが。
クリフォードさんの話によると、墓らしい場所になにかありそうだという。
勘だそうだが。
伊達や酔狂でトレジャーハンターをやっているクリフォードさんだ。まあ、信用して良い筈だ。
「ただ、墓の辺りは色々と手を出しづらい。 どうも嫌な予感もしてな。 丁寧に調べているところだ」
「クリフォードさんの勘は当たりますし、信用しますよ。 それでアンペルさんですね」
「こっちは丁寧に調べて上がっているが、多分新しく見つかるものはないぞ」
「何も無いことが分かるのは、立派な進歩です。 それでかまわないですよ」
まあ、そうだなと。
アンペルさんはちょっとだけ苦笑いした。
アンペルさんは、激高すると口調が荒くなるのだが。最近はそういう事も減ってきていて、かなり穏やかになったように思う。
理由については、よく分からない。
他にも幾つか細かい引き継ぎをしていると、荷車が戻って来た。
本の第二陣を積んでまたダッシュ。
それを見送る。
「何往復でいけるかな」
「僕の計算だとあと三往復だね」
「そうなると、暗くなるくらいだね。 ぎりぎり間に合って良かった」
「フィー!」
懐でフィーが嬉しそうだ。
カラさんが、険しい表情で土盛りを見ている。
例の、毒性が強い金属を含んでいる土だ。
「カラさん。 あれは……」
「分かっておる。 オーリムでも奴らは毒性のあるものを平気でまき散らしていたでな。 此処でもやっていない筈がない」
「此処の住民は、それすらも気付いていなかったようです」
「寿命が短い事は劣っている訳でもないし、愚かなわけでもない」
カラさんは、淡々と言う。
例えば寿命が短い虫は、親から子へのサイクルを短くすることで、世界が激変しても短時間で対応するという。
それで得られる個の強さは少ないかも知れない。
だが長期的に見れば、決して間違った生き方では無い、という。
あたしも同感だ。
虫は世界中で大繁殖しているし、どんな場所にでもいる。
それを思うと、虫の生き方は間違っていない。
「オーレンの民はそなたら人に比べて長い時を生きるが、それで多くの知恵と力を蓄えられる一方、変化には弱い。 人は本来、短い時間で命をつないで次世代に託して、愚かな事間違っている事を繰り返させないことを……我等以上に容易く出来る筈であるのだがな」
「そうですね。 神代以降、それが出来た形跡はありませんね」
「愚かな話よ。 何処で間違ったのやら」
そのまま、幾つかの話をしているうちに、本のピストン輸送が終わる。
地下室を閉じると、山を一度降る。
山の頂上付近の事は気になるが、まずは本の解読からだ。
アトリエに戻ると、クラウディアがフェデリーカとパティを指導して、料理を開始する。ディアンはそれを物欲しそうに見ていたが、レントが外で訓練でもしようと誘って連れ出した。
タオ、クリフォードさん、アンペルさんは三角を作って座って、本の解読を始める。
食事が出来そうになったタイミングで、一応確認しておく。
「全部解読するのにどれくらいかかりそう?」
「三日、かな。 アンペルさん抜きでね」
「?」
「私はエミルの暗号書解読に戻る。 この二人は、古代クリント王国の言葉程度なら、もうすらすら喋るからな。 私よりも解読の速さには勝るだろう。 エミルの暗号書は、やはり重要な何かに行き着いている。 それを確認したいんだ」
ドアが開いて、入ってきたのはセリさんだ。
キッチンに行くと、何かハーブを渡していた。
このアトリエの畑も使って良いと言ってある。早速有効活用している、というわけだ。
料理が出てくると、汗を流したレントとディアンも戻って来たので、皆で食事にする。かなりの大所帯だが、喧嘩になる事もない。
昔の人間が見たら、瞠目するのでは無いか。
人間を信頼してくれているオーレン族がいて。
一緒に食卓を囲んでいる。
でも、リラさんもセリさんも、信頼を勝ち取るにはとても時間が掛かった。
カラさんは、まだあたしを心の底から信頼してくれてはいないと思う。
だが、いずれ信頼させて見せる。
あたしは、この奇蹟を壊してはならないと肝に銘じながら。体力を消耗した分だけ夕食を取り。
残る時間で、物資の調合と補給を進めるのだった。