暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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原作では「処分」の一言で片付けられていた古代クリント王国製狂気の源泉。

しかしながら後で見つけた狂気の源泉は調査しており、説明が不足しているように感じました。

そのため、此処では原作の説明不足分を補っています。


3、鎖の回収

夕方近くになっていたが、急いで研究所から物資を回収する。その中には、大量の狂気の源泉が存在していた。

 

やはり、此処で研究していたのだ。

 

絶対に下手に触らないように。

 

フィルフサ用に作られた制御装置とはいえ、遠隔で、しかも1000年以上動くような代物である。

 

下手に触ると、文字通り何が起きてもおかしくないのだから。

 

無言でアトリエに研究所の中身を持ち帰って。研究所の入口は、レントとディアンに崩して貰った。

 

それでいい。

 

もう二度と、人は彼処には入らない方が良いだろう。

 

アトリエで、しばし無言になる。

 

「蝕みの女王」の時は、これが奴についていたのかは分からなかった。だが、「伝承の古き王」の時はどうだったか。何かついていたような気がする。

 

オーリムでこの間仕留めた王種には、確定でついていた。

 

王種によって、ついている場合とそうでない場合があるのかも知れない。

 

まず、あたしはコンテナに狂気の源泉のサンプルをしまう。その中から一つ狂気の源泉を無作為に取りだし、錬金釜でエーテルに溶かしてみる。

 

ふむ。

 

構造は相当に複雑だ。じっくり調べて行かないといけない。

 

命令は音声入力型だ。

 

呪文詠唱などの仕組みを利用した魔術的なもので、高度な音魔術と連動するようにしてフィルフサを支配する。

 

支配する過程で、音をフィルフサのコアに流して、ある程度の命令に沿った行動を与えるようである。

 

それだけじゃあない。

 

フィルフサは蟻のような真社会性の生物だが、それは神代の錬金術師が改悪した結果獲得した性質だ。

 

その真社会性の性質すらも、そもそもこの狂気の源泉と連動したシステムであるとしか思えない。

 

つまり最初から、特にフィルフサの王種は。

 

これをつけて制御されることが前提になっていた存在だった、というわけだ。

 

だが、王種はどれも姿が違った。

 

何より母胎というフィルフサを増やす土の存在もある。

 

どういうことだ。

 

其処まで考えて、思い至る。

 

そもそも王種が死ぬと群れが離散するというのがおかしかったのだ。あれはどう考えても異常な現象だった。

 

王種は。

 

神代の連中が、どれも一体ずつ作りあげたフィルフサ。

 

そしてそれに従うようにフィルフサは設計され。

 

更には王種には、神代の錬金術師が操作し、奴隷とするための構造が、最初から仕込まれていたと言う事だろう。

 

だが、妙だ。

 

これだと、セーフティがない。

 

順番に情報が頭の中に入ってくる。時々メモを取りながら、少し休憩する。フィーが懐で身をよじる。

 

クラウディアが、肩を叩いた。

 

「ライザ、夕ご飯にしよう」

 

「おっとごめん。 そんな時間だったんだね」

 

「……厳しい顔をしていたが、ろくでもない仕組みだったのかそれ」

 

レントの言葉に頷く。

 

ろくでもないどころじゃない。

 

奴隷として生物を操るための鎖。

 

それどころか、生物を奴隷として造り替えたのが前提の作り。

 

何もかも、心が徹底的に腐りきっていなければ出来ない設計。それが、あたしの解析でもわかった。

 

黙々と夕食を食べる。

 

心配そうに見ていたパティに、大丈夫と告げる。

 

今日は精神衛生的に良くない。

 

これ以上の調査は、止めておくべきだった。

 

 

 

翌朝。

 

外で軽く体を動かしてから、朝食にする。アンペルさんはエミルの暗号書解読で、今日は最後のスパートを掛けるらしい。

 

タオとクリフォードさんは、山頂の研究所から回収した物資と本の解読。

 

皆は自由行動にする。

 

あたしは今日は、「狂気の源泉」の調査だ。

 

二つ目のサンプルをエーテルに溶かして解析する。やっぱりだ。これ、何かが欠落している。

 

でも何なのだろう。

 

カラさんが、手元を覗いてきた。

 

「ライザよ、どうじゃ。 彼奴らめの作り出したおぞましき呪いの道具は、精密に分析できそうか」

 

「……仕組みについては分かりました。 これがどういうものなのかも」

 

「聞かせよ」

 

頷くと、順番に全て説明しておく。

 

カラさんは腕組みして考え込んでいたが。

 

表情はまったく読めなかった。顔に浮かんでいる表情と、感情は完全に乖離しているのが分かった。

 

リラさんが側に来る。

 

心配して来たと言う事は。

 

カラさんは。恐らく本気でキレている、とみて良いだろう。この人は魔術に関しては、あたしよりも格上。

 

錬金術の装備による強化があるからかろうじて並べているが、そうでなければ勝てっこない実力者だ。

 

それが全力でキレている。

 

リラさんも、それは不安になるだろう。

 

「総長老」

 

「……ライザに対しての怒りは無い。 それにしても、どこまでも人間という存在は腐る事が出来るのじゃな」

 

「オーレン族はこういった存在を輩出したことはありませんか。 だとしたら羨ましい話です」

 

「そうじゃな。 わしも全てのオーレン族を知っているわけでは無い。 だが……この悪意は、我等から見ると異質極まりない。 己の欲望だけを際限なく増長させると、どこまでも心は邪悪に穢れるのだな」

 

その通りで返す言葉も無い。

 

あたしだって全ギレしているが。

 

今は、それをぶつける相手がいなかった。

 

まあ、それはともかくだ。

 

このサンプルには、幾つかの問題点がある。

 

まず一つは、完成品だとは思えないのだ。

 

神代の頃から、フィルフサを操作するための道具としてこれが伝わった……特にあの群島を作り、オーリムでやりたい放題をした連中が残したのは、確実とみて良いだろう。

 

だが、現物が残ったのか。

 

違うと思う。あたしは、構造を解析して、そう思った。

 

「これは気取って暗号として書かれていたレシピを、古代クリント王国の錬金術師達が再現したものだと思います」

 

「ふむ……」

 

「何処かに不備があったのでしょうね。 暗号が不正確だったのか、それとも解読が不正確だったのか。 その結果、これをつけてもフィルフサは言う事を聞かなかった。 古代クリント王国の人間達は、家畜化し、使役すればオーリムを資源を奪いやすいように更地に出来ると思い込んでいたフィルフサに逆襲され、皆殺しになったんです」

 

自業自得だ。

 

だが、一つ問題がある。手元にある狂気の源泉が完成品でないとすると、フィルフサ王種につけられている完成品に対して対応が出来ないかもしれないのだ。

 

困ったことに、タオもクリフォードさんも研究日誌は見つけているが、レシピらしいものは見つけていないらしい。

 

そうなると、何処かで失伝したのだろう。

 

「完全なものを見つければ、これを遠隔で破壊できるかも知れません。 もしもこれがついている王種だったら、それで即死させる事が可能です」

 

「なんと」

 

「人で言う所の脳が壊れるようなものだからです。 しかしどちらにしても、これは未完成品ですね」

 

サンプルはどれもダメだ。

 

勿論残しておくこともしない。研究した後は、エーテルに溶かしてしまう。レシピも作ったりはしない。

 

これは、人の手に余る存在。

 

触ってはいけない技術だ。

 

それに、未完成品とすればなおさら。錬金術には善人の方が珍しいという事実をあたしは知っている。

 

だからこそ、絶対に残してはいけない技術だった。

 

よく技術に罪はないというが。

 

これはそもそも悪用以外に活用方法がない、鬼子のような技術である。絶対に、存在してはいけないものだ。

 

それに、解析して分かった。

 

これは恐らくだが、既に存在していた道具の発展改良型だ。

 

動物に使っていた可能性はある。

 

それだけだったら、倫理的に終わっているとは言え、まだ考えられる。

 

だがこれ、簡単に人間用に用途を変えられるのだ。

 

もしこれを人間相手に使っていたのだとしたら。

 

可能性を否定出来ない。

 

今まで明らかになった凶行の数々を考えると、そこまで狂ってはいなかっただろうなどとは、とても言えないのだ。

 

大きく深呼吸する。

 

神代の錬金術師達。

 

特にオーリムに侵攻してきた連中がゴミカスだったことは最早疑う余地が一切無いのだが。

 

その底辺まで落ちていたと思った評価が、更に底無しに落ちていくというのは一体どういう事か。

 

はっきりいって、こんなものをつくりあげた連中と生物種的には同じである、ということが。

 

今はあたしにとっては恥ずかしくてならない。

 

ともかく今は。

 

多少でも冷静にならなければならなかった。

 

「ライザ」

 

「うん。 助かる」

 

クラウディアが甘味を用意してくれていた。

 

早速いただくことにする。

 

プリンか。

 

パミラさんが好きな奴だ。あの人はミルクを主体に使ったものが好きなようだが、これ自体はかなり種類がある食べ物で。

 

中には保存用の固形のものとかもあり。

 

とても美味しいとはいえないようなものもあるらしい。

 

クラウディアが作ってくれたのは、牛乳をベースにした奴で、甘みをつけるのにこの辺りの蜂蜜を用いている。

 

この辺りはあのメイプルデルタもあって蜂蜜は取れるので(彼処自体にはできれば行きたくはないが)。

 

プリンの味が、少しは有り難かった。

 

アンペルさんもうまいとは言わないが、もぐもぐ食べている。まあこの人は、糖分を大量摂取して頭を回しているのだ。

 

虫歯にならないように、その分歯も念入りに磨いているらしいが。

 

まあ、体を壊さない程度であればいいだろう。

 

「あれ、これ蜂蜜以外にも甘みがありますね」

 

「ええ、微量ですが。 隠し味ですか?」

 

フェデリーカとパティが言う。

 

そうか。

 

そんな繊細な隠し味があったのか。あたしには分からなかった。

 

「うふふ、セリさんが甘い蜜を提供してくれたの。 育てている薬草の一つが、花を咲かせるととても甘い蜜を出す品種らしくてね。 でも、花一つでほんの少ししか蜜が取れないし、ちょっと独特のえぐみが出るから、それを消すのが大変だったんだ」

 

「レシピ見せてくれますか」

 

フェデリーカが立ち上がる。

 

レシピと言っても料理のはダメだ。あたしは、苦笑いしてその様子を見守るしかない。

 

ちなみにここのキッチンもアップデートはしてある。オーブンなどは、王都にあるものとは比較にならない程高精度に焼成などのコントロールが出来ると、パティのお墨付きである。

 

フェデリーカとパティがクラウディアの妹みたいにそばによって、わいわい料理の話をしている。

 

ボオスがあたしを茶化す。

 

「お前の終わっている女子力とは真逆だな」

 

「最悪錬金術で作るからいいもん」

 

「開き直りやがった……」

 

「ありがと。 多少気分も楽になったよ」

 

クラウディアもボオスも、憤怒に焼かれそうになっているあたしの気分転換をしてくれたのは分かっている。

 

だから、別に事実である女子力の終わりっぷりを指摘されても別にかまわない。

 

それよりも、だ。

 

「アンペルさん。 暗号の解読はどのくらいですか」

 

「徹夜をして良いなら今晩中、といっておく」

 

「徹夜はダメですよ。 明日の昼までに行けますか」

 

「何とかしてみよう」

 

リラさんが、徹夜しないように見張っておくと言ってくれたので、あたしとしてはそれで満足だ。

 

タオとクリフォードさんの方も順調で、もうそろそろ解析も完全に終わるという。

 

あたしはもう、エーテルに溶かした不完全品の狂気の源泉は、全部構造を把握してしまった。

 

ならば、精神を整えるためにも。

 

今は休むべきだ。

 

「悪いけど、今日はもう寝るわ」

 

「まだ昼過ぎだが、最近かなり厳しい調査をしていたようだしな」

 

「うん。 何かあったら起こして。 気にしなくていいからね」

 

ボオスが頷くと。

 

レントとディアンとともに外に出る。多分稽古をするためだろう。

 

パティとフェデリーカは、二人ともクラウディアの所でつきっきりで料理を学んでいるようだ。

 

カラさんはというと、ふらっと出ていった。

 

まああの人ほどの魔術師となると、文字通り世界最強を争うほどだ。しかもあたしの装備をつけて更に強化されている。

 

いちいち心配しなくても、この辺りの魔物相手だったら問題も無いだろう。

 

ベッドに潜り込むと寝る事にする。

 

酷使していた脳が、激務から解き放たれたことを悟ったのだろう。あっと言う間に眠気が来て。

 

昼過ぎだと言うのに深い深い睡りに瞬く間に落ちるのだった。

 

 

 

夢だ。

 

感応夢か、これは。

 

火山で、錬金術師数人が、わめき散らしている。

 

多分これが、狂気の源泉を隠した連中だろう。いずれもが、やたらと豪華なローブに身を包んでいたが。

 

明らかに不健康で。

 

無駄に着飾っているのが一目で分かった。

 

「孔雀野郎」と言われていたのは、恐らくクーケン島を奴隷を使い潰しながら作ったあの感応夢に出て来た下衆だろう。

 

此奴らはその下っ端だとすると。

 

古代クリント王国では如何に富をもっているかを見せつけるために、無意味に贅沢をしていたという事だ。

 

人が、今の何十倍もいた時代。

 

だが、その時代は人間の病みが限界に達していた。人間の偽りの繁栄の、最後の時代だった。

 

連中が何を話しているのか。

 

聞こえてくる。いずれも、ろくでもないものだった。

 

「なんでこうなった! あの蛮人共を騙すところまでは上手く行ったのに! 引き継いできたレシピ通りに作ったんだぞ! フィルフサどもはなんで言う事を聞かないんだ!」

 

「もう一度作り直せ! レシピが間違っている訳がない! 素材がまずいのか、腕が悪いのか、どっちかだ!」

 

「俺の腕に問題があるって言うのか! 俺は八百年続く家系の……」

 

「そうかよ。 だが効果が無いッてことは、大した家系ではないみたいだな」

 

激高した一人が、話していた相手に殴りかかるが。

 

どう見ても修羅場を潜った人間の動きじゃない。襲いかかられた方も。大した打撃にならない程度の拳なのに、大げさに転んで、ぎゃっとか悲鳴を上げる。野蛮人と言われて、更に激高した錬金術師が、何かの薬品が入ったフラスコを取りだすが。

 

そこで、アーミーらしい人達が来た。

 

皆血走った目をしていた。

 

「なんだ軍人風情が!」

 

「フィルフサを防いでいろ! こっちは研究中なのだ!」

 

「規定の日時までまった。 例の作戦を開始する。 お前達も当然参加して貰う」

 

「たかが軍人風情が、錬金術師である我等に……」

 

バカにしきった錬金術師は、次の瞬間首を刎ねられていた。

 

首から噴き出した鮮血が噴水のように飛び散り、糸を切られたマリオネットのように体が倒れる。

 

アーミーの要職らしい人は、凄まじい怒りに声を震わせていた。

 

「我々は最後まで反対していた! 異界に権力闘争を持ち込み、資源を略奪し、違う生活をしている人々を差別し、あまつさえ化け物を家畜にして戦争の道具にするだと! 我々の反対を鼻で笑い、骨抜きの王族を操っている貴様らがこの事態を招いた! しかも貴様らは何も事態を改善できていない! せめて最後の作戦で壁になって貰う!」

 

「ま、待て! 女だったら幾らでも都合してやる! 金だって、貴様の給金の百年ぶ……」

 

再びアーミーの要職らしい人が、喚いている錬金術師の右手を刎ね飛ばした。アーミーの人達が、悲鳴を上げる錬金術師達を捕らえると、つれて行く。

 

この中の一人の感応夢だったのだろう。

 

思考が流れ込んでくる。

 

なんでだ。

 

高貴な血筋の我等が、なんでこんな理不尽を味あわなければならない。

 

神代からこの世界は錬金術師のものだ。

 

この世界こそ錬金術師のために与えられた楽園だ。錬金術師以外は猿にも劣る家畜なのだ。

 

どう扱おうと自由ではないか。

 

それなのに、フィルフサをはじめとして、どうして言う事を聞かない。

 

家畜は家畜らしく、死ぬまで働いて錬金術師のためだけにあればいい。

 

そんな事を。

 

錬金術師は、最前線に放り出されて。フィルフサの空読みらしい個体の尻尾で串刺しにされて。

 

群れの中に放り投げられ。

 

踏みつぶされて粉々になるまで考え続けていた。

 

目が覚める。

 

朝までぐっすりだったようだ。

 

フィーが起きていて、あたしに抱きついている。じっと。

 

あたしは、大きく嘆息する。

 

フィーは分かっていたのだろう。あたしがあの狂気の源泉に関連する感応夢を見ていたことを。

 

あの狂った道具を作った連中は、自業自得の末路を迎えた。クズらしい最後だった。

 

今は、その後始末をしなければならない。

 

外に出ると、カラさんがいた。

 

凄まじい魔力で浮遊している。それも、短時間では無く、見た感じ幾らでも浮いている事が出来る様だ。

 

「おはようございます」

 

「ああ、おはよう。 ライザよ、相当な悪夢を見たようだな」

 

「ええ……」

 

「感応夢か。 わしも魔力を制御出来なかった若い頃はようみたわ」

 

そうか。

 

話してくれる。

 

カラさんは、若い頃から魔力が図抜けて強かった。肉弾戦を主体とする者が多いオーレン族で、魔術主体の戦闘をすることを考えるほどに。

 

セリさんだって、いざという時は肉弾戦をするということは、それだけ特化型の才覚だったのだろう。

 

あたしも魔力はあるほうだが。

 

カラさんのそれは、文字通り次元違いだったようだ。

 

「まだ魔力の制御は難しいのか」

 

「感情が高ぶると。 時々意図せずに感応夢を見ますね。 一時期は全く見ない時期もあったんですが」

 

「ふむ……」

 

「まあ、実生活に影響はありません。 ……今日の午後から群島に移ります。 荷物はまとめておいてください」

 

体操を終えて、パティが起きて来たのと入れ替えにアトリエに戻る。

 

比較的朝をゆっくり過ごす。アンペルさんはラストスパートだということで、ドーナッツを側に山と積み上げながら解読を続けていた。暗号書がべたべたにならないだろうかちょっと心配になる。

 

それに糖を取りすぎると、確か何かの病気になる筈だが。

 

エドワード先生によると、かなり辛い病気らしい。

 

まあ、あまりアンペルさんに無理はさせられないなと思う。だが、今は頼るしかないのだ。

 

程なくして。

 

アンペルさんの言葉通り、昼少し前。

 

クーケン島に所用で出向いたあたしが戻ると、もうアンペルさんは解読を終えていた。レントとディアン、ボオスとパティも。庭でやっていた訓練を切り上げて戻ってくる。フェデリーカはへろへろだが。

 

これはカラさんに、魔力量の上限を上げるべく、しごかれていたのが要因らしかった。

 

「よし。 皆に暗号の内容を説明する」

 

「待ってました!」

 

レントが言うと、アンペルさんは苦笑いしながら、順番に説明してくれる。

 

エミルと言う人は、百年少し前。王都での研究からアンペルさんを追放する陰謀に荷担した後、罪悪感が限界に達して、王都を出たそうだ。その直後に、王都の錬金術師研究のための施設が全滅した事を知ったらしい。

 

それに対して、淡々と私も罰を受けるべきだったと書いていたとか。

 

まあ、悪い意味で弱い人間の理屈だなと思う。

 

エミルと言う人は、天才だった反面。王都ではそれほど社会的地位も高くなく、貴族の中でも末端の出身だったらしい。

 

家族からは家の復興をと突き上げられ。

 

周囲からは貧乏貴族と侮られ。

 

街の人間からは露骨に嫌われていて。居場所も何もなかったそうだ。アンペルさんに近付いたのも、同類だと最初は思ったから。

 

だけれども、アンペルさんが不老に近い事を知ると、少しずつ嫉妬を感じるようになっていったとか。

 

それが、背中を押した。

 

陰謀に荷担したのは、アンペルさんを追い出したら、借金を肩代わりしてやると、貴族の一人に言われたかららしい。

 

エミルという人の家は、二代続いて放蕩者の当主が出ていて、もう家は潰れる寸前だった。

 

エミルと言う人には錬金術の才能はあったが財産運用の才能はなく、借金をどうして返せば良いか分からなかったらしい。

 

たまたま才能がある事が発覚した錬金術師に全てを賭けていたのだろう。

 

だが、周囲の「家柄がいい」錬金術師が優遇され。何もできないに等しいのに高給が支給され。

 

実際に錬金術の研究で成果を上げても其奴らの手柄にされる。

 

そんな状況に、エミルと言う人は心を病んでいき。

 

やがて。悪魔の囁きに乗ってしまった。

 

事故の後、エミルと言う人は家族に金だけ渡して、王都を出た。その時四十の坂をもう過ぎていた。

 

あてもなく彷徨ううちに、サルドニカに到達。

 

そこで復興作業をしているうちに。

 

不意に、「呼ばれた」らしかった。

 

なるほどな。

 

才能が遅咲きで。五十を過ぎてから、そんな事になっていたのか。

 

サルドニカの基幹産業を作ったにもかかわらず、権力争いに巻き込まれ、命が危なくなったエミルと言う人は、サルドニカを出た。

 

私には上に立つ才能がない。

 

そう、何度も手記には書かれていたらしい。

 

血涙とともに吐き出した言葉だったのだろうが。アンペルさんに此奴がやったことを思うと、自業自得だとしかあたしには思えなかった。それに、百年前の……いや百年前も王都は腐りきっていたこともよく分かった。

 

まあアーベルハイムがさっくり粛正してくれたから。

 

今後は変わる……と思いたいが。

 

ともかく、エミルと言う人はクーケン島近くに到達。群島に分け入る。

 

多数のゴーレムを護衛として引き連れ。

 

宮殿に辿りついたときには、エミルと言う人は死病に蝕まれていた。

 

体が一秒ごとに動かなくなる。

 

これもアンペルに。我が友にした仕打ちの報いか。

 

そう嘆きながらも、エミルと言う人は。老いたからだとそれを蝕む死病に苦しみつつ、研究を続ける。

 

エミルと言う人は、その時点で六十を過ぎていて。

 

もはや最後の炎を燃やしながら、執念を全てぶつけていたようだ。

 

そして、エミルと言う人は知る。

 

古代クリント王国の錬金術師が群島に辿りついたのは二回。そのどちらも、鍵を満足に使いこなせなかったと。

 

多分何処かで手記でも見つけたのだろう。

 

その後に来た錬金術師は、更にお粗末な成果しか出せなかったらしい。

 

勝った。

 

ザマア見ろ。

 

私には才能があったぞ。

 

そう書き殴っているエミルと言う人は、完全に狂ってしまっていたようだ。そして、エミルと言う人は。

 

二つの事実に辿りつき。

 

そして、力尽きた。

 

「力尽きたことがどうして分かったんだ?」

 

ディアンの言葉ももっともである。アンペルさんは、それに対して淡々と答えていく。

 

エミルと言う人は、死期を悟ると、あたしがアトリエを作ったあの塔がある島に移動して。

 

彼方此方に散らばっていた資料を、彼処に集めておいたらしい。

 

道理で。

 

更には群島の宮殿奧の扉の中の部屋に手記を放り込んでやると、書き残していたそうだ。

 

つまりエミルと言う人が、多数の手がかりを残した。

 

理由は、あたしにはわからない。

 

「エミルはあの宮殿のある島で死に、そして死体は海に流されたのだろうな……」

 

「何だか分からないけど、悪い事をした末に彼方此方彷徨って、罪悪感に蝕まれ続けて、頭までおかしくなったんだろ。 それだけ罰を受けたって事だな」

 

「ああ……」

 

アンペルさんが、手を見る。

 

エミルに台無しにされた手だ。

 

義手は、ばっちり機能している。だからこそ、今は色々複雑なのかも知れなかった。

 

アンペルさんは咳払いすると二つの事実を告げる。

 

「ライザ、鍵だが、その状態でも未完成のようだ」

 

「ええ、それは分かっています。 ……何か更に強化する方法があるんですね」

 

「正確には違う。 ライザが今使える鍵は、竜脈から力を吸い上げて、それを様々に使う分には完成型なんだ。 それを特化しないと、神代の者どもの所にはたどり着けない」

 

「む……」

 

なるほど。

 

エミルと言う人は、多分だけれども。それを探るまでが限界だったのだろう。

 

続けて話を聞く。

 

「エミルは描き残している。 扉の脇、とな」

 

「……ひょっとして宮殿奧の扉の脇にあったあの石版かな?」

 

「ともかく試してみる必要があるだろう」

 

あたしは頷く。

 

問題はもう一つだ。

 

「そしてエミルはもう一つの事に気付いている。 どうやら、その鍵はただの鍵であって、情報を入れなくてはいけないらしい」

 

「情報?」

 

「空間の座標だ」

 

座標。空間の。

 

アンペルさんが、丁寧に説明してくれた。

 

なんでも古代クリント王国が各地に開けた扉もそうなのだが、そもそも「何処に開ける」というのを設定して開けていたそうなのだ。

 

そうでなければ海の中や、空に扉が開いてしまう事もあったらしい。

 

しかも、神代の連中の住処は、どうやらこの世ならざる場所に存在しているらしいのである。

 

カラさんが、覚えがあると言った

 

「奴らの開けた門を抜けた先にあったのは、空も地面もない不思議な世界だった。 奴らの住処は、其処に浮かんで存在しておったわ」

 

「……整理しますね。 まずは鍵を強化する必要がある。 多分これ自体も大変で、普通にやっても出来ない。 出来るなら、古代クリント王国の錬金術師がやっていますからね。 そしてその鍵は、空間の座標を知らないといけない。 そうしないと、奴らの住処にたどり着けない」

 

「それは厄介だね。 鍵を作るのはライザは出来そうだけれど……そんな座標、分かるのかしら」

 

クラウディアが不安そうに言う。

 

あたしは咳払いすると、大丈夫と告げる。

 

恐らくだが。

 

奴らは、上から見ている。招いてやっていると考えている。そして出来るように情報を配置してやったと思っている。賢者で慈悲深いから、凡俗が真実にたどり着けるように。

 

それなら、つけいる隙がある。

 

奴らにとっても模範解答がある。それをついてやれば。奴らの懐に潜り込むことが出来る筈だ。

 

「まず、群島に移動しよう。 鍵を強化する事から、順番に考えていかないといけないだろうね」

 

あたしの提案に、皆が頷く。

 

そして、動き出す。

 

手詰まりだった所に、一気に手がかりが増えた。

 

世界を滅茶苦茶にし続けた連中ののど笛に。手が掛かる瞬間が見え始めていた。

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