暗黒錬金術師伝説11 暗黒!ライザのアトリエ3   作:dwwyakata@2024

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勘違いなさらないように言っておきますが、本作での神代錬金術師への苛烈な描写は決して原作とそれほど違うものではありません。

原作で流されている描写をやっているだけの事です。

原作でも非道の限りを尽くした歴代アトリエシリーズにおける間違いなく最悪の錬金術師集団だということは事実なのです。その上とんでもなく無責任という……。


3、偽りの星空

調合を続ける。

 

石碑を小型化して、完全再現。クラウディアの音魔術もあって、内部構造もばっちり再現出来た。

 

魔術の回路が通っている場所だけ、文字は彫り込む。

 

とにかく微細な作業が続くが。

 

アンペルさんに最初錬金術の基礎を習ったあと。

 

あたしはずっと、たゆまぬ努力を続けてきた。途中スランプにはなったが、これについては誰にも文句は言わせない。

 

今は、その全てが生きている。

 

だから、微細な作業を続けられる。

 

それだけの話だった。

 

黙々と作業を続けて、石碑の仕上げを行う。こっちについては、特に問題はないと言えるだろう。

 

此処からだ。

 

座標を引っ張り出すには。どうすればいい。

 

まず石碑に流れる魔力量を調整してやる必要がある。

 

これについては動力源を用意してやればよい。

 

そして、魔力が流れる先だが。

 

あたしは。球体を取りだしていた。

 

これは、何回か見つけた古式秘具。

 

オーリムから水を奪い取った代物だ。

 

あの塔にしまわれていて。クーケン島にブルネン家の先祖が持ち帰り。長らく水源になっていたのと同じもの。

 

今までに此方の世界で何度か、あたしは門を閉じ、その向こうにいたフィルフサの群れを殲滅したが。

 

それらの際にクーケン島のも含めて三回、この水を奪う道具を発見している。

 

全て破壊済だが。

 

そもそも王都での戦いの時に既に技術は再現出来ていた。

 

今回は水を吸い上げるのではなく、魔力を吸い上げる作りに再構成すればいい。

 

それだけの話である。

 

連日調合を続け、ついに完成する。

 

完成すると同時に、流石に腰が抜けた。時間の経過も良く分かっていない。とにかく食事と風呂。

 

外が夜になっていたことだけは分かったが、それだけだった。

 

一休みしてから、まずは実験に取りかかる。

 

カラさんとセリさんを中心に、防御魔術を展開。レントも皆の前で、守りの体勢に入る。

 

結局、当初の予定通りに出来たのかも不安だが。

 

まずは石碑に鍵を指す。

 

鍵が今までにない光を放つ。

 

それで、どうにか壊れずに済んだ。

 

鍵の素材は非常に頑強に固めたのだが、それでもどうにかだ。やっぱり今のグランツオルゲンではダメか。

 

ともかく、この鍵を、用意しておいた球体に突き刺す。

 

これで、いけるはずだ。

 

凄まじい光とともに、球体が唸り声のような音を上げ、アトリエの中が魔力の嵐に包まれる。

 

フィーが懐で怖がっているのが分かった。

 

だが、あたしを信頼してくれているのも。

 

無言で作業を続行。

 

やがて、嵐は収まり。

 

球体には、ちいさな光が点っていた。

 

これが、座標か。

 

「よし。 鍵はこれで大丈夫。 魔力を補給すれば、幾らでも再利用できるよ」

 

「なるほどな。 それでこれをこの辺りで繰り返して、座標のデータをまず取る所から、だったな」

 

「そうなるね」

 

まずは、ここまでだ。

 

次はこの鍵の真の力である、小型の門を発生させる所だが、それには鍵の出力が足りていない。

 

鍵の強化がいる。

 

それに、である。

 

タオに球体を任せる。

 

この球体の座標をどう読むのか、ちょっとあたしには分からない。タオはある程度見当はついているらしいので。

 

それに任せてしまうしかないだろう。

 

さて、情報収集だ。

 

まずは塔から。

 

他にも、彼方此方に出向いて、情報を集める。それと、今回は必要な事だ。グリムドルにも行く。

 

毎回、球体に星が増えていく。

 

まるで星図だなと思った。

 

「ライザ、この道具なんだけれど、だいたい座標の傾向が分かってきたよ。 後でデータにしてまとめるね」

 

「俺たちに分かる言葉でまとめてくれよ」

 

「分かってる。 出来るだけかみ砕いてみるよ」

 

レントが呆れ気味だ。

 

タオも、それにはちゃんと応じている。

 

パティも周囲をしっかり警戒してくれている。タオを取られて寂しいと言う風を見せないのは、流石と言うべきだろう。

 

黙々と調査を続行。

 

クーケン島の周囲を調査していくが、やはり誤差レベルでしか座標の光は増えていかない。これは恐らくだけれども、世界的に見ているからで。 この光の密集ぶりは、いま歩いている辺りが世界的な視野からして如何に小さいか、の話でもあるのだと思う。

 

淡々と調査を続けて行く。

 

やがて、二十五箇所での調査が終わる。

 

最初に星を作った地点は、魔力を多めに流してあるので、その地点の星は分かりやすく輝いている。

 

全体的に星はかなり密集しているが。

 

どう読んだものか、さっぱり分からない。

 

とりあえず続いて、グリムドルに出向く。

 

門をあっさり開けるのを見て、ボオスは呆れ気味だ。

 

「偉そうにイキってやがった古代クリント王国の錬金術師なんて、ライザに比べたら子供も同然なんだな」

 

「古代クリント王国なんて神代の模倣者に過ぎない。 神代でもライザに比肩する錬金術師なんてまずいなかっただろうし、それは当然の事だ」

 

「そいつらがみんなまともだったら良かったのに」

 

ぼそりとセリさんが呟く。

 

全くだ。

 

人間という生き物はたくさん見てきたが、まともな方が少ないという結論に、あたしも至る他無い。

 

それくらい、まともな人間なんてものは少ない。

 

だからこそ、あたしは力の使い方を間違えてはいけないのだ。

 

ボオスには、覚悟を決めておいてと事前に話した。

 

門、復旧。

 

まずは、フィルフサが飛び出して来ないことをしっかり確認しておく。それから、レントとリラさんが先頭に、オーリムへ。続いてみんなでなだれ込む。

 

久々のグリムドルは、大丈夫だ。

 

フィルフサはいないし、だいぶ空も綺麗になっており。

 

緑もかなり増えていた。

 

一度土壌を完全に押し流したのだ。

 

其処から再建したとしては、かなり上手く行っている方だと言える。

 

カラさんが前に出ると、此方に気付いて集まって来たオーレン族達は、えっと声を上げていた。

 

「貴方は……まさか奏波氏族の」

 

「おう。 長老であるカラだ。 近況を聞かせよ」

 

「はっ! 総長老!」

 

一斉に姿勢を正すオーレン族のみなさん。

 

見た所、風羽氏族とやらの人はもう来たのだろう。

 

キロさんはいない。

 

ボオスが、少しだけ寂しそうにしていた。

 

近況を話してくれる、此処を任されたらしいオーレン族の老人。かなり背が低いが、カラさんよりは大きい。

 

つまり、今後もっと縮むのだろう。

 

「現在ここには、霊祈氏族のキロどのを頂点として、43名のオーレン族が集い、再建作業にいそしんでいます。 土地の緑化は雨が戻った事により順調であり、フィルフサも近付こうとしません」

 

「良き事じゃ。 木はまだ少ないのう」

 

「は。 いずれ木を育て、住居を其方に移すつもりです」

 

「……そうじゃな」

 

それが必要ない状況にしたいものだ。

 

老人とは別に、子供のオーレン族もいる。

 

こっちはこっちで小さいが。明らかにあたし達を警戒している。あたしのことは何度か顔を出しているから分かるのだろうが、他の人間は警戒して当然なので黙っておく事にする。

 

セリさんが、浄化用の植物について、提供を申し出ると。

 

副長老らしい老人は喜んでいた。

 

「ありがたい! 雨が行き渡った土地でも、どうしてもフィルフサの縄張りには植物が生えにくく……」

 

「案内して。 緑羽の者はいないかしら」

 

「残念ながら」

 

「そう……」

 

セリさんが別行動。

 

あたし達は。せっかく来たのだから、近辺のフィルフサを掃討していくことにする。

 

流石にあたしも、単騎でフィルフサの群れを相手にするのは厳しい。だが、この面子であれば。

 

先にオーレン族の皆と話して、今後の緑化予定地点を優先的に行く。風下になっていて、川の沿岸地帯だが。

 

確かにフィルフサが点々といる。

 

将軍を仕留めないと、埒があかないだろう。

 

座標集めもある。

 

移動しながら、見つけ次第フィルフサを屠る。群れにでもならない限り、この辺りで散らばっている雑魚なら、フィルフサでもどうにでもなる。

 

それでも油断はしない。

 

倒していると、やはりそれなりの数が集まってくる。

 

魔術が効かない。

 

それを念頭に戦っていくしかない。

 

何度か戦闘をこなしていると、セリさんが合流してくる。そして浄化に使う植物を、手際よく植え始めた。

 

この辺りの土は、フィルフサの母胎として汚染されてしまっている。

 

それを、この植物は覆すのだ。

 

今までも何度もこの植物は実績を作っており。

 

それどころか、更に更に品種改良を続けている。

 

すぐに根付く。

 

それどころか、あっと言う間に増え始める。

 

そして、フィルフサを片付けた後は、他の植物に場所を譲って消えていく。そういう造りなのだ。

 

かなりまとまった数が来る。レントとパティが前に出るが、もうフィルフサのこの程度の群れなら慣れたものだ。

 

あたしは様子を見ながら、時々支援に爆弾を。

 

それもフラムやレヘルンでいい。それを投げ込んでいくだけだ。

 

勿論地中や視界の彼方からの奇襲も警戒しなくてはいけない。そのため、ずっとクラウディアが気を張ってくれていた。

 

「座標、集まって来たよ!」

 

「後は将軍を仕留めておきたいけれど……」

 

「ライザ。 将軍見つけた。 でもずっと遠いし、この辺りを守っている将軍ではないと思う」

 

「だとすると今まで仕留めたのは斥候かな。 ……いずれにしても後退しよう。 深追いは危険だからね」

 

皆、それで下がりはじめる。

 

ある程度さがった所で、セリさんの作業を支援するパートに移る。せっせと緑化を続けているセリさんを、全員で護衛。

 

他のオーレン族の人達は、グリムドルの守りを固めて貰う。

 

「オーリムって、彼方此方からいけるんだなライザ姉!」

 

「そうだね。 それが仲良くするために出来た通路だったら、良かったのにね」

 

「なんだかわかんねえ。 俺って強くはなりたいって欲求はあるけれど、他の人のものまで取りあげて自分のものにしたいとはおもわねえ。 港にもそういう奴は時々いたけれど、はっきりいって反吐が出たよ」

 

「……」

 

ディアンは無欲だな。

 

みんなディアンみたいだったら、こんな邪悪なファーストコンタクトを人とオーレン族はしなくても済んだのかも知れない。

 

しばしして、セリさんが浄化用の植物だけではなく、別の植物も植え始める。

 

覇王樹だ。

 

それも、ウィンドルにたくさん生えているのを見た。

 

「セリさん、その覇王樹は」

 

「これはちょっと特殊な覇王樹でね。 単純に土地そのものを、頑丈にすることを目的に植えているのよ」

 

なるほどね。

 

母胎になりかけている土地だ。

 

そういう手伝いが必要だ、ということだろう。

 

その間にも、座標は集めておく。

 

タオに聞いた話だと、座標の散らばり具合からして、オーリムはあたし達の世界とはやはりかなり違う場所にあるようだ。

 

見せてもらうが、球体の表面近くに最初の頃集めた座標の星が浮かんでいるのに対して。

 

グリムドルで集めた星の情報は、球体の奥の方に浮かんでいる。

 

これは、ちょっと球体の造りを失敗したかな。

 

だが、タオは読めるから大丈夫、というのだった。

 

カラさんが、興味深げに球体を見る。

 

「恐らくこれは、球体の深度が次元の壁を現しておるのじゃな。 そして表層はそなたらの世界。 オーリムは次元を隔てて別にあるから内側になると」

 

「流石ですカラさん。 その通りです。 それでこの位置については……」

 

「ふむふむ」

 

スイッチが入ったタオに、カラさんは全く臆していないどころか、平然と話を理解してついて行っている。

 

かなりの年配だと言う事だが、頭も呆けていないしこれだけ新しいものに興味津々になれるのは凄い事だとあたしは思う。

 

だから、そのまま見守る。

 

しばしして、セリさんに頼まれる。この辺りに、雨を降らして欲しいと。

 

あたしは頷くと、持ち込んだ道具を取り出す。

 

何度か研究して、空に雨のもとを撒く効率的な手段を見つけ出したのである。これは、その一つ。

 

爆弾ではあるのだが。

 

破壊を目的とはしておらず、単に膨大な煙をまき散らすことだけを目標としているものだ。

 

これを十二個、周辺の空に打ち上げる。

 

煙の成分も、有害なものではない。

 

通称雨雲の石。

 

踏み込むと、あたしは全力で、空に投擲していた。

 

あたしのフルパワーでも、雨が降るのに適した位置までは届かないが、この爆弾は三角錐をしており。

 

投擲して起爆ワードを唱えると、後は空高くへと自分で飛んでいき、それから炸裂する仕組みだ。

 

皆にも投擲して貰う。

 

作成コストも、殺傷力を考えていないので安い。

 

ちなみに煙の正体は、ある植物の花粉を無害化したものだ。実験は済ませており、しっかり雨が降る事も確認済みである。

 

投擲した雨雲の石が、次々に爆発していく。

 

カラさんが長時間詠唱をしていた。

 

これも打ち合わせ通り。

 

ほどなく、空に向けて、カラさんが杖を振るい上げると。空に拡がり始めていた巨大な煙に、膨大な水分が注ぎ込まれていく。

 

あっと言う間に雨が降り出し。

 

やがて、滝のような雨へと変わっていた。

 

グリムドルに戻る。

 

グリムドルにもう作られ始めている住居の一つで雨宿りする。蜂蜜を使ったお菓子を出してくれるので、助かる。

 

こういうものを作れるくらい、余裕が出来ているということだ。

 

「この地を取り戻す時もそうでしたが、相変わらずの凄まじい驚天の技。 感服する次第にございます」

 

「ありがとうございます副長老。 ただ今回は、カラさんにも手伝って貰いました」

 

「流石は総長老にございますな」

 

「何、わしは最後の手助けをしただけよ。 本当に……この者が、ライザが最初に来てくれたのなら、あのような無益な争いなど起きなかっただろうにな」

 

カラさんが寂しそうに言う。

 

雨は数日は続く。

 

それで浄化植物はしっかり根付くし、またフィルフサはこの辺りに近づけなくなる。小物のフィルフサは、むしろ数を減らすだろう。雨は連中にとっては死病と同じなのである。

 

そわそわしているボオスの事を考えて、キロさんの事を確認する。

 

副長老は、丁寧に話してくれた。

 

「キロどのは、少し前に風羽の戦士に話を聞き、この土地を発ちました。 状況次第では、ウィンドルへの移住も考えていたようですな」

 

「ウィンドルはまだまだ安全じゃないんです。 複数のフィルフサの群れに囲まれていて……」

 

「伺った通りですな。 何、グリムドルも立派な聖地の一つ。 此処を立て直し、皆が笑って暮らせる土地にするのがこの老骨の仕事ですわい」

 

「お願いします」

 

あたしは、迷惑を掛けた過去の人間の分も頭を下げる。

 

情報は集まった。

 

課題もわかってきた。

 

まず、アトリエに戻る。

 

群島のほうじゃない。

 

あたしの家になっている、小妖精の森にある方にだ。

 

それは、何度目かのクーケン島を離れることを意味している。

 

出立前に、確認をしておく。

 

「まず、鍵の強化のために、金属を探す。 サルドニカ、東の地、そしてネメド。 これらを経由して、更にウィンドルにも行く。 この過程で、座標を集めても回るよ」

 

「よし。 サルドニカにまず船で行くようだが、クラウディア、大丈夫か」

 

「ええ。 既にライザの仕事の状況を見て、船を手配してあるわ」

 

「流石だな」

 

レントの言葉に、クラウディアがふふっと笑った。

 

出立は明日朝。

 

サルドニカに出向く途中でも座標を集め、向こうについたらまずはサルドニカの街にでむく。

 

サルドニカ周辺には大きな鉱山が多数存在しており。

 

それだけではなく、神代のものらしい鉱山も……中に誰も入れないとは言え、存在している。

 

何かしらの金属がある可能性は高い。

 

それに、サルドニカの巨大な歯車なども、今回の逗留で直してしまいたい。

 

テクノロジーが少しずつ復興している貴重な街なのだサルドニカは。

 

また機械を自力で作れるようになるまで。

 

あたしが、時間を作らなければならないだろう。

 

街の政治に関わるつもりは無い。

 

それはフェデリーカをはじめとした、サルドニカの人達次第だ。勿論、サルドニカの人達が腐敗しきるようなら。

 

そう考えたときに、ふとあのメイドの一族の事を思い出す。

 

あの人達は、もうサルドニカに入り込んでいる。

 

何よりも王都。

 

あんな普通だったらいつ潰れてもおかしくない場所も、あの人達が守っていたことを考えると。

 

いや、あの人達の目的は分からない。

 

それでは、仮説に仮説を重ねることになるか。

 

咳払いをすると、もう一つ重要な話をする。

 

「鍵を強化する事を実現できれば、恐らくアトリエどうしをつなげて、自由に行き来できるようになると思う」

 

「なんだって……」

 

「おいおい、すげえな」

 

「いや、それが本来の門の使い方だったんだと僕は思う」

 

タオが補足してくれる。

 

あたしも、同じ意見だ。

 

門は侵略のための道具じゃない。

 

竜が命の終わりを迎えるために通る道だった。ただ、最初はそれだけだったのだ。

 

もしも人々の為に使うのなら。

 

これ以外に、使い路などないだろう。

 

「これから順番に強化を重ねるから、何が出来るようになるかは新しい状況にならないとわからない。 だけれども……間違いないのは、これ以上奴らに好きかってさせてはならないって言うことだよ。 だから止まれない。 何があっても、何がいてもね。 奴らの手は世界中に遺ってる。 それをこれ以上増やさせるわけには行かないんだ」

 

これだけは、事実。

 

誰にも譲れないことだ。

 

皆もその言葉に同意してくれる。この中に、神代の肩を持つ者なんていない。誰もが、その所業に。腐りきった性根に。怒りを感じている。

 

それでいいのだ。

 

さあ、奴らを滅ぼし、骨の欠片までも消し去るために。

 

まずはサルドニカに行く。

 

明日までの自由時間は、各自自由に過ごす事にする。あたしは実家に、一晩だけ戻る事にした。

 

またサルドニカに行くと言うと、父さんはそうかといい。母さんは溜息を大きくついた。

 

母さんはまだ認めてくれないな。

 

でも、それは仕方が無い事でもあるな。

 

そう、今のあたしは。

 

分かるようになりはじめていたかも知れない。

 

 

 

船に乗って、クーケン島を離れる。

 

去年から、こうして何度もクーケン島を離れた。だから、もうあたしにとって長旅は珍しいものでもなくなった。

 

荷物を忘れるようなこともなくなったし。

 

旅先での対応もなれてきた。

 

ディアンがフェデリーカにサルドニカはどういう場所なのか聞いている。都会だと聞いて、面白そうだと言ったのは。

 

手練れがたくさんいると思ったからかも知れないが。

 

残念ながら、此処にいる面子以上の手練れは、彼処にはいないだろう。

 

船に揺られて、あたしは水面を眺めて楽しむ……というわけにも行かず。

 

ずっと今までに入手したセプトリエンの解析を進めていた。

 

通常では生成し得ない魔力の塊。

 

どうしてそれがウィンドルや、それにオーリムでは生成出来るのか。あの世界の魔力が濃いとは別に思わなかった。

 

何よりも、カラさんは向こうと同じように魔術を使えている。

 

それらの状況証拠が、此方の世界にはなくてオーリムにある何かがセプトリエンをはじめとする稀少資源を作っていると結論させる。

 

それは魔力の濃さではないことも分かる。

 

しかし、解析すればするほどわからないのだ。船が時々揺れる。エーテルをしっかり制御して、物質化しているエーテルを零さないようにする。何度か解析を続けていると、パティが来る。

 

「ライザさん、少し良いですか」

 

「うん、どうしたの?」

 

「お父様から手紙が来ていました。 しばらくは現在の王を形式上の王にしておく事で決まりだそうです」

 

「ふうん……」

 

あたしに話に来たと言う事は。

 

何かあるということだ。

 

少し悩んでから、パティは言う。

 

「ライザさん、また王都に時間が出来たら来ていただけますか」

 

「良いけど、あたしを呼んで何かあるの?」

 

「ライザさんの名前、多分ライザさんが思っている以上に知られているんです。 爆炎の魔女とか呼ばれたりしていて」

 

爆炎。魔女。

 

まあ、そういえば王都の南に集まっていた大量の魔物を、グランシャリオで消し飛ばしたっけ。

 

他にも王都で機械類の修復を行って、だましだましで動いていた機械類を殆ど直しもした。

 

それにパティが意図的に情報を流しているようだが。

 

農業区の待遇改善。

 

高品質のインゴットやゼッテルの流通。

 

高所得者向けの宝石などの加工など。

 

様々な所で名前が出ることから、あたしの知名度はどんどん上がっているそうなのである。

 

なんでもクーケン島は匪賊の類の間ではアンタッチャブルになっているとかで。

 

近付いたら死ぬとか、色々噂が流れているそうだ。

 

なるほどね。

 

「新体制の安定のために、あたしとのコネを見せるために動いて欲しい、とでも言うところかな」

 

「察しの通りです。 今、古い権力層の処理と不平等だった富を再分配している所ですが、どうしてもこう言うときに悪辣な動きをするものが出ます。 出来るだけ穏当に話を進めたいのですが……」

 

「最初の一歩で躓きたくは無いと」

 

「そうなりますね」

 

頭を下げられる。

 

パティにとっては、腐敗を知っていても大事な場所なのだ王都は。

 

三十万の人間が内部と付近に暮らす、人類にとって最後の砦と言える場所でもある。魔物に数を減らされ続けている王都は、人類にとってとても重要な戦略的拠点でもあるのだ。此処を失う訳にはいかないのである。

 

長期的な戦略、展望がない人間は想像以上に多い、とパティは言う。

 

国家百年の計と良く言うが。

 

実際には目先の事しか見えていないのに、権力を何かの間違いで持ってしまった輩は、どうしても存在しているそうだ。

 

それは、まあ悩みの種にはなる。

 

その手の輩を抑えたいという気持ちはわかる。

 

あたしは数秒考えた後、答える。

 

「いいよ。 この件が終わった後、「爆炎の魔女」として王都に行くわ」

 

「……ライザさんとしてではなく、ですね」

 

「そういうこと」

 

あたしはパティを信頼している。ヴォルカーさんだって同じ。

 

だが、王都の人間全部は信頼していない。

 

あのメイドの一族が、アーベルハイムのクーデターに荷担したのは、状況証拠から明らかだ。

 

元公爵は、明らかにメイドの一族の人に捨てられて、クーケン島で果てることになった。

 

だから、アーベルハイムと連携して。

 

恐れの対象と化している「爆炎の魔女」が動いている事を見せる。

 

同時に。

 

王都の状況も見せてもらう。

 

あたしはパティに約束した。

 

手は貸すけれど、もしも古代クリント王国の連中のような真似をするなら、首を貰うと。その約束は、今も変わっていない。

 

人間は変わる。

 

パティが腐敗するとはあたしは思いたくは無いが。

 

最悪に最悪が重なれば、年老いた頃に権力の亡者となるパティという構図が出来上がってしまうかも知れない。

 

その時の為にも。

 

あたしは王都を自分の目で見ておかなければならないのだ。

 

それについても、パティには話しておく。

 

パティの剣士としての力量は、あたしの仲間として遜色ない。世界で最高峰の実力者の一人だ。

 

だから、最悪あたしとパティがぶつかる未来だってあるだろう。

 

そんな未来が来ないように。

 

あたしは打てる手は、全て打つのである。

 

「分かりました。 私もライザさんとの約束は忘れていません。 ただ、政治的な訪問の後は私人としても迎えさせてください」

 

「んー、いいよ。 でも一応警戒しちゃうな」

 

「まさか。 「どんな手を使っても」の上で、確実にライザさんを倒せる人間なんてもういませんよ」

 

「そっか。 そう見えるか」

 

あたしは寿命は克服したが、別に不死じゃない。

 

寿命を克服した代償として、自分の腹で子供を産む事ももう出来ないだろう。

 

何かを克服すると、代償はある。

 

克服が大きければ、代償だって大きくなる。

 

それだけの話だ。

 

ただ、それが大きな脅威に周りには見えるのかも知れない。パティの目には、絶対の信頼と、同時に畏怖もある。

 

まあ、爆炎の魔女というのも悪くは無いか。

 

「次に行くときは、パティとタオはもう夫婦だよね」

 

「ええと、そのタイミング次第ですが……。 この一連の事件が解決して戻ったら、タオさんは学者として論文を幾つも出すでしょうし、それで実績も出来ます。 後は王都の様子を見ながら……二~三年……以内に」

 

ちょっと語尾がしどろもどろになる。

 

可愛いもんだな。

 

敵を容赦なく切り捨てる剣士という一面だけではなく、こう言う面もパティはしっかりもっている。

 

だからこそ。

 

人間性を少しずつ失いつつあるあたしには嬉しい。

 

それにだ。

 

錬金術をきちんと使わないといけないという使命感以上に。今あたしを人間に引き留めているのは、焼け付くような怒りだ。

 

神代のカス共に対する。

 

だから、爆炎という二つ名は案外悪くない。

 

「結婚指輪、作っておこうか?」

 

「あ、それはもうありますので」

 

「用意が良いね」

 

「お母様の嫁入り道具です。 お父様も、タオさんに譲ることを決めていて、サイズの調整は職人が後でやります」

 

まあ、それならいいか。

 

後は幾つか話した後、パティは部屋を出て行く。最初の頃、パティはタオとあたしが恋人だと思って可愛い焼き餅を焼いていたが。それももう懐かしい。あたしはパティとタオの事は全力で応援して祝福している。

 

嘆息すると、また調査を続ける。

 

サルドニカにはしばらく掛かるから、これはもう仕方が無い。調査を続けていると、フェデリーカが来る。

 

ギルドについての懸念事項を幾つか聞かれたので、出来る範囲でアドバイスしておく。もうボオスやカラさんとも話してきたらしく、少しフェデリーカは考え込んでいた。

 

「カラさんは奔放、ボオスさんはああ見えてとても穏健。 ライザさんはとにかく正面突破ですね……」

 

「まあ、そういう性分だしね」

 

「いえ、私はどうしても現状維持を考えてしまうので。 色々な意見を聞くのはとてもためになります」

 

「サルドニカも変わると良いね」

 

フェデリーカは黙り込む。すんと、息を吸う。

 

緊張しているのかも知れない。

 

それはそうだ。

 

フェデリーカはそれほど怒っている様子はなかったけれど、それでもあんな人の業を見続けたのだから。

 

「何とか変えて見ます」

 

それだけ言って、フェデリーカは船室を出る。

 

さて、これからは。

 

少しずつ、あたしは人間社会から距離を取ることを考えなければならない。そしてやがては。

 

魔王として怖れられるようにならなければならなかった。

 

人間を、神代のように。

 

増長させないためにも。

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