風が気持ちいい。
どこを見回しても、大半が青。
空と海の色だ。
俺は自分の身ひとつで、風をまとって自由自在に飛び回る。
急降下からの急上昇、旋回やきりもみ飛行もお手の物さ。
「――アハハハハッ……!!」
なんて素晴らしいんだろう。
このまま、空の果てまで飛んで行きたいぐらいだ。
一通りのアクロバットを楽しんだ後は、背面飛行で空を見上げる。
どこまでも広がる蒼天に、すっと吸い込まれてしまいそうで。
ああ、最高だ。
――鳥にでもなったかって? ……違うね。
――じゃあ、VR? ……いいや、
ほら、見えるだろ。
白雲にまぎれて、空にぷかぷかと浮かぶ緑の島々が。
こんなの、そっちの世界じゃありえないだろ。
そう。
つまり、ここは異世界さ。
そして、俺は「シルフ」と呼ばれる風の妖精。
見た目は大して人間と変わらないが、体は少し小さめで、体重は驚くほど軽い。
風の妖精の名の通り、この透き通るような四枚羽で、空を思うままに飛び回ることができるのさ。
シルフ族の瞳や髪の色は明るいものばかり。俺はどちらもスカイブルーだ。
「――もう! 待ってよ、ソラ」
おっと。いけね。
また、あの子を置いてきちまった。
俺たちが暮らす浮島――「フォンド」と呼ばれる――の方から、ひらひらと空を飛んで来たのは、俺と同じ
名前はフィオナ。瞳と髪の色はライムグリーンだ。
「あんまり遠くに行っちゃダメだって言われたでしょ」
「悪い、フィオナ。でも、この辺りなら安全だろ?」
ぷりぷりと怒る彼女を、俺はそう言ってなだめる。
……精神年齢はこっちの方が
俺が風妖精としてこの世に転生して約十年になるが、前世ではその三倍近くの年を生きてきた。
――あぁ、そうだ。俺は転生者なんだよ。元は、あんたらと同じ世界の人間さ。
死因は、スカイダイビング中の事故。不幸な出来事ではあったが、そのおかげでこんな風に転生できたと思えば、それほど悪い気はしない。
……生身でこんなに空を心ゆくまで味わえるなんて、前世じゃ考えられなかったからなぁ!
「――あ、あれ。何かしら?」
フィオナの指差す先には、銀色に輝く人工物があった。一見するとトビウオのようなフォルムで、機体の上面に長い物差しのような主翼が取り付けられている。
俺は前世の知識から、ひと目見てそれが何なのかわかった。
「……飛行機だ」
「ヒコーキ? ヒコーキって何?」
問い返されて、俺は失言に気づいた。
まだ
「――あ、いや……。なんとなく、言葉を思いついただけ」
「ふーん、変なの」
とりあえずはごまかせたらしい。
「人間が作ったモノで、ここまで飛んできたんじゃないか?」
俺は、ほぼ確信していることを推測として言った。
飛行機はせいぜい二人乗りぐらいの大きさで、俺たちのいるところより高度はかなり低かった。
たぶん、まだ
……来れるとしたら、おそらく――
「そうなんだ! 人間ってスゴいね!」
フィオナが
どうやら、事の重大さがわかっていなさそうだ。
「フィオナ、帰ろう」
俺は飛行機が高度を上げないことを確認しながら、それに背を向けた。
「え、もう? 私、いま来たばっかりだよ」
「……今日は島の方で遊ぼう。マルス島とかさ」
「マルス島? ……悪くないかも! じゃ、あっちまで競争ね」
そう言うとフィオナはさっと振り返って、俺たちが暮らす
(――切替え、早っ)
「あ、こら!」
俺は焦った声を上げながら、それでもまだ飛行機に気を取られていた。
ちらと後方を見下ろすと、飛行機は向きを変えて高度を下げていた。
……もし、人間が
――たぶん、争いが起こるだろう。
そんな俺の予感は、悪い意味で当たっていた。