「――断る。我らが
「…………っ!」
俺たちの暮らしていた
今、俺はその浮島の最も高い岩山の
相対するのは、それこそ小山のような巨体を持つ上位種――竜だ。
風竜族。
竜の一種であり、風の精霊の加護を得たものだ。その
同じ風の精霊をルーツに持つ俺たち
――しかし、俺の救援要請に対する風竜の長の返答は冒頭の通りだ。そこには何の情も義理も感じられなかった。
「お父ちゃん、もうちょっと話を聞いてあげてよ!」
そう声を上げたのは、俺の隣で俺を
彼女もまた風竜族の一人だ。今は俺に合わせて人の姿を取ってくれている。
「リタ、お前は黙っておれ」
雄々しい風竜は、ぎろりと娘を
イオロス――それが、この風竜の長の名前だ。
†
俺とフィオナが、風竜族の姫であるリタと
あれはこのときの約四年前のこと。俺とフィオナがジーロ島を探検しているとき、
『ごめんよーっ! エアロフィッシュが意外とすばしっこくてさ!』
地面に大穴を開けながら、けろりと起き上がったリタはそう言った。
それから、俺たちは友達になった。
†
「あたしは一人でも行くよ、父ちゃん」
イオロスの視線を物ともせず、リタはそう言ってくれた。
正直、めちゃくちゃありがたい。風竜族が一人でもいれば、戦力の面では人間らに劣ることはないだろう。もちろん、それだけで救出作戦が上手く行くとは限らないだろうが。
「ならん」
しかし、イオロスの返事は否だった。
「なんでさ!」
取り付く島もない父竜の言葉に、リタが
すわ親子
「お待ちください!」
声を上げたのは、俺だ。
風竜の父娘の視線がお互いから外れ、俺の居る場所で交点を結ぶ。
……さあ、ここからだ。
イオロスの言うことはもっともだ。とはいえ、まだ第一手で
もともと俺は、もっと言葉を
俺は改めて頭の中で考えを整理し、説得のための論理を組み立てる。
「人間は、欲深い生き物です」
俺はまず、この言葉から話を始めた。
「今回は俺たちが
俺が忠告めいたことを言うと、イオロスは鼻息を飛ばした。
「我らを狙うということか。フンッ! そのときは返り
彼の態度には、自分たちの力に対する絶対的な自信と
「……それは可能でしょうか?」
俺はそこに疑問を投げかけた。機嫌を
――案の定、イオロスの気配が変わった。
「貴様、我らが人間ごときに負けると申すか!」
イオロスの
さすがは風の王様だ。
……ぶっちゃけ、めっちゃ怖い。
しかし、ここが踏ん張りどころだ。
俺は、前世でサラリーマンをしていた頃の取引先との商談を思い出しながら、涼しい顔を
「負けます。今のままでは、確実に」
俺はあえて断言した。……実際にはそんなに簡単には行かないと思うが、人間の
「我らを
「父ちゃん、やめて!」
イオロスはいきり立って右の
カキィィン、と刃が弾ける音がした。
……あっぶね〜〜〜っ!! リタがいなかったら、今ので俺、死んでたぞ。
俺はこっそりとつばを飲み下し、さも何事もなかったかのように話を続ける。
「……そんな単純な考え方では、
イオロスは再び前肢を地に下ろし、悔しそうに
「ぐぬぬ……」
……意外と表情豊かだな、このドラゴン。
話が俺の思う方向に進んでいる――イオロスがそう思ってくれていれば、
「あなたがたは人間を知らない。ゆえに、手を取り合うのです」
俺は片手で握り拳をつくり、力強く言った。
「……汝らも人間にしてやられておるではないか」
「それはおっしゃる通りです」
痛いところを突かれたが、そんなことはおくびにも出さず、俺はイオロスの言葉を認めた。
その上で、
「長き平和の間に、俺たちは人間への警戒を
「情報」という言葉を多用した俺のセリフを聞き、イオロスは納得したかのように大きく息を吐き出した。
「……なるほどな。我らは地上では目立つ。情報収集については、汝らの方が適任であろう」
俺は彼の言葉に、ことさらに大きく
「ええ。それに私たちも全くの無力というわけではありません。風は私たちの友ですから。人間の一人や二人であれば、吹き飛ばすことも切り刻むことも可能です」
「ふむ。そうであろうな」
同じ風を操る種族として、イオロスは俺の言葉に理解を示した。
――いい流れだ。たたみ掛けるとしたら、ここだろう。
俺はここで、とっておきの情報を投下することにする。
「そんな俺たちが、なぜあっさりと捕らえられてしまったのか。その理由は、人間の持ち込んだ魔道具にありました」
「なにぃ! ……なんだ、それは?」
――掛かった。
俺は内心で口角を吊り上げた。