「そんな俺たちが、なぜあっさりと捕らえられてしまったのか。その理由は、人間の持ち込んだ魔道具にありました」
「なにぃ! ……なんだ、それは?」
驚いたイオロスにそう問い返されて、――
「………………」
俺はあえて、すぐには答えなかった。
「答えよ! その魔道具とやらの詳細を」
予想通り、イオロスは
「……情報に対価をいただけますか?」
「なんだと!」
イオロスの周囲では風が逆巻いていた。きっと、彼の機嫌ひとつで俺の命はたやすく吹き飛ぶことだろう。
それでも、この言葉は言う必要があった。
「――俺たちが多くの
……実際には、
しかし、現時点で俺が彼らへの明確な「利」として提示できる手札は、これしかないのだ。
それに、風竜族の間で「情報」に価値をつけるという考え方が通用するものなのかもわからない。この点は、前世の常識で
「ぬぬうぅ〜……」
イオロスは小刻みに地面を踏み鳴らし、考えあぐねている様子だった。
――俺の言葉が考慮されている……?
そうだとしたら、賭けに勝ったと言えるかもしれない。
「父ちゃん、手を貸してあげようよ」
ちょうどいいタイミングで、リタが
まだ若竜の彼女がどこまでこの会話について来ているのかは定かではないが、ありがたいフォローだ。
「ぐぬっ……」
イオロスは俺たちの攻勢を受けて押し黙った。
ここらで、もう一押ししておくべきか……
俺が再び口を開きかけた、そのとき――
「――その情報、俺が買おう」
この
「ヴィンフリート!」
「兄ちゃん!? 聞いてたの?」
イオロスとリタが、その人物の登場に続けざまに反応した。
新たに現れた男は、リタと同様に緑竜の翼と尾を持っていた。どうやら彼はイオロスの息子で、かつ、リタの兄の風竜らしい。
ヴィンフリートと呼ばれたその風竜族の人間形態は、二メートルに届くほどの長身の
「なに、風のいたずらでな」
ヴィンフリートは洞窟の入口側から悠然と歩きながら、リタの問いを
……なかなか一筋縄では行かなさそうな相手だ。
俺は、新たな風竜族の登場に緊張を感じていた。
とはいえ、流れはこちらに向いているはずだ。
「情報を買う」――ヴィンフリートは今、そう言ったのだから。
ゆったりと見えたヴィンフリートの歩みは思いのほか早く、気づけば彼は俺の目前に立っていた。
俺はのけぞるように彼を見上げる。
「……対価として、何を提供していただけますか?」
俺が精一杯の
「それはもちろん、情報次第だ。情報の価値に応じてこちらの人員を動員しよう」
当然の言葉だ。やはり、簡単には行かないか。
だとしても、簡単にこちらの手札をさらすことはできない。
「……道理ですね。しかし、こちらとしては情報を出した後で『やっぱりやめた』と言われるのが最も困るのですが……」
「なるほどな」
俺の言葉に対して、ヴィンフリートは
「竜の誇りにかけて、そのような無体なことはしないと誓おう。……これで良いか?」
「――! 感謝いたします!」
俺は彼の言葉に深く
竜は誇りを重んじる種族のはず。そこまで言うのであれば、情報を聞き逃げするようなことはないと考えて良いだろう。
そんな俺たちのやりとりを見て、慌てたのはイオロスだ。このとき風竜の長は、腰を浮かせて首をもたげていた。
「待て待て! 勝手に話を進めるな!」
そんなイオロスに対し、ヴィンフリートは困ったように両手を広げて肩をすくめる。
「親父、俺がきょうだいに声を掛けてこいつらに手を貸すぐらい、別に構わんだろう? 何を恐れる?」
イオロスはそう問われて、べちんと
「別に恐れとりゃせんわ! ……だが、こんな
「……ほう。じゃあ、どうする?」
イオロスは再び腰を下ろしつつ、右前肢の指先で俺をさし示す。
「我が貴様に命じる。そこの風っ子の情報の価値を
――なるほど。
それを聞いて、俺にはイオロスの考えが読めた。
結局、ヴィンフリートが俺から情報を引き出して、その情報の価値によって手を貸すという流れに変わりはない。ただし、そこにイオロスの指示を
ヴィンフリートが、父竜のこの考えに異を唱えることはなかった。
「いいぜ。俺も別に派閥を作りたいわけじゃないしな」
……なんか、気づいたら話がまとまりつつあった。
いかんいかん。話はこれからだ。まだ、風竜の手を借りられると決まったわけじゃない。
俺は改めて気を引き締め直すのだった。