空飛ぶ妖精に転生したから気ままに生きたい   作:卯月幾哉

5 / 5
最終話 〝はじまりの偉業〟

「――っていうことになったが、お前さんはそれでいいかい?」

「は、はい! 構いません!」

 

 イオロスとの調整を終え、改めて俺に問い掛けてきたヴィンフリートに対し、俺は上擦(うわず)った声で返事をした。

 ここからは彼が交渉の相手だ。一旦、イオロスの前を辞去して、彼と話の続きをすることになるのだろう。……と、俺は思った。

 

「よし。じゃあ話を聞こうか」

「はい!」

 

 ヴィンフリートはそう言って、俺をじっと見つめた。

 

「………………」

 

 沈黙が流れた。

 

 てっきり、どこかに移動するものと思ったのだが、誰ひとりとして動く気配がない。このとき、リタは俺の隣で、こてんと首をかしげていた。

 

 ややあって、ヴィンフリートが口を開く。

 

「……何もったいつけてんだよ。早く話せよ」

 

 (あき)れたようなその物言いは、俺を非難するものだった。

 

「えぇっ! ここでですか!?」

 

 慌てて問い返したところ、ヴィンフリートの俺を見る目が、やや残念な感じに変わった……ような気がした。

 

「当たり前だろ。いちいち移動する意味がどこにある?」

「い、いや……さっき報告って言ってたから、どこか他所(よそ)で話すのかな〜って……」

 

 そう。先ほどのイオロスの話では、ヴィンフリートが俺から情報を引き出して、それを彼に報告する、という段取りになっていた。

 その疑問に対する、ヴィンフリートの答えはこうだ。

 

「ただの二度手間じゃねぇか」

「そりゃそうですけど」

 

 隣のリタも、うんうんと(うなず)いていた。

 

 ……あれ? これ、俺だけ流れ読めてなかったってこと?

 ――ま、まあ、合理的と言えば、そうなのかな……。

 

 どこか釈然(しゃくぜん)としないものを感じながらも、俺は求められた情報の開示を行うことにした。

 

「……それでは、お話しします。俺たち風妖精(シルフ)族を次々に捕らえた、あの悪魔の道具について」

 

    †

 

 生まれ変わる前、前世の地球でこんなアニメを()たことがある。

 勇者の家庭教師を名乗る男が、瘴気(しょうき)(おお)われた小さな島の全土を囲むほどの大きな魔法陣を描き、島に棲息(せいそく)する魔物たちの正気を取り戻す、というシーンだ。

 

 今回、大型の飛行船で浮島(フォンド)に上陸してきた人間たちが持ち込んだ魔道具は、そこまで大掛かりな代物(しろもの)ではない。しかし、地面に陣地を作り、その陣地内で効果を発揮するという点で類似性があった。

 

 (くだん)の魔道具は、杭の形をしていた。人間らがいくつか――三本から多いときで十本程度――を打ち込み、何らかのきっかけを与えることで、杭で囲まれた内側の陣地が結界に変わる。

 

 結界の効果は、妖精の大幅な弱体化。陣地に囚われた仲間たちは、空を飛ぶことはおろか、ふつうに立って歩くだけでもつらそうな様子だった。一方で、人間たちは結界内を平然と歩き回っていたことから、妖精のような生物に特効を持つものだと推測される。

 

 地に打ち込んだ杭の本数によって、結界の大きさが変わるようだった。未確認だが、結界の強さも変わるのかもしれない。十本の杭が打たれたときには、集落内の広い範囲が結界に変わっていた。

 

    †

 

「……あの結界が、竜族にどれほどの効果を及ぼすのかは明らかではありませんが、俺たちのように弱体化させられるとしたら、軽視して良いものではないでしょう」

「そんな魔道具を持ってやがるのか……」

 

 俺があのとき見た魔道具とその効果について語り聞かせたところ、その場の三名の風竜族は何ら口を挟むことなく聞き入っていた。

 

 ヴィンフリートも(あご)に手を当て、真剣な表情で俺の話を吟味(ぎんみ)している様子だった。

 

「……なるほど、確かにそれは警戒して(しか)るべきだな。俺たちが風妖精ほど力を()がれるかはわからんが、なるべくなら結界に囚われないように立ち回るべきだろう」

 

 幸いにして、ヴィンフリートはあの魔道具の脅威をしっかりと認識してくれたようだ。

 ヴィンフリートが示唆(しさ)したように、彼らの力を借りる上で、風竜族に対する魔道具の効果を把握するのは重要な課題だ。

 そこで、俺は次のように言う。

 

「いずれにせよ、俺は仲間を助けるために人間たちの拠点に潜入するつもりでした。その過程で、やつらの持つ魔道具についてもより多くの情報が得られましょう」

「いいねぇ。そいつは気になる情報だ」

 

 打てば響くような反応だ。

 話が早いのは助かる。……仲間たちを助けるために、どれだけの時間的猶予(ゆうよ)があるかわからないからな。

 

「なかなか有益な話だったぜ。じゃあ、今度はこっちの出せる戦力の話だな」

 

 ごくり、と俺は固唾(かたず)を飲んだ。

 ヴィンフリートの裁定によって、囚われた風妖精(シルフ)たちの運命が決まると言える。

 

(リタ以外に、一、二頭の竜がいるだけでも、話は全然変わる)

 

 竜はこの世界で最強の一角だ。

 リタのような若竜が一頭では何とも言えないが、それが成竜を含む二、三頭ともなれば人間らにとって大きな脅威になるだろう。

 ヴィンフリートはぶつぶつと小声で何かを(つぶや)きながら、やがて考えをまとめた。

 

「……そうだな。とりあえず、成竜が三十頭(・・・)ぐらいいれば足りるか?」

 

 ヴィンフリートの挙げた数字を聞いて、俺は自分の耳を疑った。

 

「――はい……?」

 

 風竜は、俺が最初に思ったよりもずっと気前が良かった。

 

(これ、人間側は阿鼻叫喚(あびきょうかん)になるんじゃないか……。――まあ、自業自得だし、いっか)

 

 

 

    †††

 

 

 

 それからはトントン拍子(びょうし)――……とまでは行かなかったが、最終的に、風妖精(シルフ)の仲間たちは一人も欠けることなく助け出すことができた。

 

 ただし、後で風のうわさを聞いたところ、人間たちの間で俺に不本意な二つ名がつけられたみたいだ。

 

 「竜の調教師(ドラゴン・テイマー)」というのが、その二つ名だ。

 

 なんと懸賞金まで設けられたというから、恐ろしい話だ。……それも、悪賢そうな似顔絵のおまけ付き。

 

 いつか人間の世界も旅してみたいと思っていたんだけど……。これじゃあ、顔を出して人前に出ることはもう難しいかもしれない。

 

 

 ともあれ、今回の風妖精の危機は、風竜族の協力のおかげで解決した。

 

 これからは風竜族を含め、他の空の種族たちとも手を取り合っていく必要がある。

 人間が空の世界へ進出してきた以上、今後は彼らを始めとする地上の民たちと関わらざるを得ないだろう。

 それが本格的になる前に、空の種族全体で意思統一できていることが望ましい。

 

 そのために、これから風妖精と風竜族が合同で他種族らとの交渉に臨むことになった。――が、なぜかその使者を務めるのは俺、ということになっている。

 この点に関しては、俺以外の全ての風妖精と風竜の間で完全に意見が一致している。

 

 正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。……どうしてこうなった。

 

 

 ――これは、俺が〈空の盟主〉と呼ばれるようになる日から、(さかのぼ)ること五年前の出来事だった。

 

 

(了)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。