なんか同時期に入会したノリと勢いで「一緒にオリンピックで金メダル取ろうぜ!」って約束した友達が加速度的に成長してて約束を守れそうにないんだが 作:送検
上には上がいて、頂点を極めるためには『上』を『下』にしなければならない。
そして、上を下に蹴落とすためには人の何倍もの努力を重ねなければならない。
重ねて、重ねて、重ね続けて。
時には結果が出ず、挫折することもあるだろうけど。
頂点を極めるためには、その苦痛すら重ねて人よりも多くの重畳を行っていく。
そうして、誰よりも経験を重ねて、その重ねた物が
上に行くためには、何度でも重ね、己を高めていかなければならない。
いつか
「……いや、そんなことはどうでもいいんじゃい!!」
「……は、ハルくん?」
「そんな分かりきったこと頭の中で考えるな、リトル倉見……!!俺が言いたいのは、もっと根本的な話……!!」
「ハルくん!?」
えー、はい。
そんな至極当たり前の事なんてどうでもいいので、取り敢えず俺の今の状況を聞いて頂けませんか?
難しい事なんて何も話しやしません。偉そうなことを言う事もありません。ただ、俺のちょっとした話を、5分かそこら聞いてもらいたいだけなのです。
そんなことすら聞きたくないって人の方が大半かもしれませんし、なんなら10人中9人がそっぽを向いてしまうくらいの与太話であるってことも自覚してます。なんなら俺がその立場なら秒で寝ますし。
ただ、聞いてもらいたいのです。
俺の今の状況、現時点での立ち位置っつーか、運命というか。……まあ、その。
とにかく色々。
「……いのり。俺は今、モーレツに帰りたい」
「えっ……ど、どうしたの?その、体調悪いの?」
「なんかさ、突発的にタイムマシーン探したくなってきたんだ。ほら、見てみ。周りを見れば見るほどさ。……分かるだろ?」
「…………。…………?
ご、ごめん。分からない」
「いのり、一緒にタイムマシーン探しに行こう。あわよくば5歳くらいに戻れるやつ」
「急にどうしたの!?」
「タイムマシーンなんてないよ!」と隣の女性が目をぐるぐるさせています。
本来ならば、この機に乗じて思春期男子の必殺技『気になる子にチャレンジ!いたずら大作戦!』を実行したいところでしたが、流石の俺でもこの状況に巫山戯るなんてこたぁできません。
なんてったって俺とこの子、日の丸を背負ってますからね。なんならさっきからいるかパイセンが俺の20センチメートル先でガン飛ばしてますからね。
パーソナルスペースもクソッタレもありません。
というか親友と話しただけでなんで俺ガン飛ばされてんの?
「お前遊びに来てんの?」
「いるかパイセンもタイムマシーン探してくれる……かな?」
「あ゛?」
「ひぃ」
そして日の丸を背負ってからというもの、俺の日常は刺激的でファンタスティックなものへと変貌しました。
4回転や3回転なんて当たり前、そんな魔境に俺は脚を踏み入れてしまったのです。
ほら、今だって会話の流れでいるかパイセンに胸ぐら掴まれてますからね。刺激的でファンタスティックでしょう?
いやほんと、ははっ。どうしてこうなった?
「……って、ててっ……ていうのは冗談でさ。いのりにはちゃんと話したいことがあって」
「な、なんだ冗談かぁ……良かった。で、話したいことって?」
「タイムマシーンの存在って信じてる?」
「冗談じゃなかったの!?」
まあ、あの子が日の丸を背負っているっていう感涙必須な展開はともかく、俺が日の丸を背負っているなんて話はどーでもいいんですけどね。
そこは大して重要な話ではありませんし、野郎の成果やアチーブメントなんて自ら進んで話す必要なんてないんです。
問題は、
んで、その問いに関する答えなんですが……あ、もう目の前にいるんで答え合わせしちゃいますね。
正解は──
「た、タイムマシーンなんて使わないで!一緒にオリンピックで金メダル!」
「…………」
「諦めないで、最後まで。一緒に、……頑張って、取ろうよ……」
「うん頑張る頑張る、めっちゃ頑張る。だからそんな顔しないで。死ぬ気で頑張るからッ!」
俺と同時期にスケートクラブに入会した癖に、現在既に4回転を2回跳んでて、あまつさえ恐ろしい成長曲線を描いている──そんな女の子と
…………え、長い?
じゃあもっと分かりやすく──
「だから、いのり!!一緒にオリンピック出て金メダル取るぞッ!!!(ヤケ)」
「!」
「いのり返事ィッ!!」
「──うんっ!!」
オリンピックで金メダル取るって約束したからです。
しかも日の丸を背負う所まで来てしまったので、撤回しようにもできません。
つまり詰みゲーです。ここまで来たら約束を守るための努力をするしか最悪の未来を防ぐ術はないのです。
因みに最悪の未来はあの心優しいいのりさんに『約束破りが許されるのは小学生までだよねー!!』って言われることです。
そこまで言われたらもう俺はシューズを脱ぎます。引退です、引退。
勿論、そうならないための努力は惜しみません。それこそ約束を守れるなら守りたいですし、叶えることで守られる素敵な笑顔もあるわけで。
なにより、オリンピックで一緒に金メダルを取りたいって言うのは紛れもない俺自身の願望なんです。
だから俺は諦めたりはしません。
ここまで来たら、もうやるしかねえわけです。
まあ、俺は4回転2回とか跳べないですし、なんならこの魔境の中にいる誰よりも下手くそなんですけどね初見さん。
そもそも約束したの、スケートを始めて間もない下手っぴ以前の問題の時なんですよね。
その時の俺が何故、あんな約束を交わしてしまったのか。それが分からない。
「決まった──4回転サルコうわぁぁぁぁぁ……!!!!」
「……お前さ、ジャンプ失敗した後に奇声上げんのやめろよ」
「リオウ……!!俺は諦めねえからよ……お前も止まるんじゃねえぞ……!!」
「こっち見んな」
ともあれ。
そんな約束をしてしまった俺は、今日も今日とて嘘つきの烙印を押されないため、産まれたての子鹿のようにガクガク震えるまでスケーティングの練習を行い、転んだ後に起き上がれなくなるまでジャンプの練習をするのでした。
全ては約束のために。
全ては結束いのりさんのために──
「俺の戦いは……これから始まるってな……」
「そういえばアイツ、4回転また跳んだってよ」
「…………は?」
「……負けてられねえな」
「…………ッピ」
「遥人?」
みんなでタイムマシーン探そうぜ。
助けて。