なんか同時期に入会したノリと勢いで「一緒にオリンピックで金メダル取ろうぜ!」って約束した友達が加速度的に成長してて約束を守れそうにないんだが   作:送検

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score8 将来とおっちゃんが黒い 4

 

 

 

 突然のスマホぶん投げ事件から時は過ぎ、俺はおっちゃんの後ろをストーキングしていました。

 無論、許可は得ています。つーか黙認されています。許可なしにおっちゃんの後ろなんて歩きません。それこそ、目的もなしにおっちゃんの後ろを歩くくらいなら走って逃げます。

 それにも関わらず、俺がこうしておっちゃんの後ろを歩くのには理由があって。

 まあ、端的に言うと不可抗力ってやつです。

 それ以上でもそれ以下でもありません。

 そして相変わらずおっちゃんは無口です。金のシャチホコなんじゃねえかってくらい何も喋らないです。

 そのような無言の空気に耐えることは俺には難しく、俺はひたすら前を歩くおっちゃんに声を掛けます。

 

「な、なあ。おっちゃんは俺の目的地に用でもあるのか?」

「……あったら君に何か問題でもあるの?」

「いや、むしろなかったら申し訳ねぇなって思って……」

 

 先程は助けて欲しいとお願いした欲しがりで手のひら返しが得意な俺ではありましたが、こうしておっちゃんに余計な手間をかけさせていることを考えると、それはそれで心が痛くなってきます。

 おっちゃんのことを深く知っている訳では無い俺とて、おっちゃんにはおっちゃんの予定があるということは当然知っています。

 そして、急な俺の乱入によっておっちゃんの予定が狂ったことも確かっちゃ確かで──その点に関して俺が謝罪をしようとすると、不意に立ち止まったおっちゃんが、前を向いたまま。

 

「君は何か勘違いしているみたいだね」

「へ?」

「君みたいな小さな存在が、道に迷う程度の些細な問題を押し付けたところで、僕は困窮しない」

「……えーっと」

 

 そんな言葉を投げかけ、またしても歩き出すのでした。

 えーっと、つまりおっちゃんの存在感はトールでラージなベンティーだから、俺みたいなショートな奴の迷惑なんて気にならないってことっすかね?

 いや、それでも迷惑をかけていることには変わりないんで勘違いはしてないと思うのですが……そこまで気にしなくていいって遠回しに言っているのでしょうかね。

 だとしたら、俺が言わなきゃいけないことはひとつ。

 

「そっか」

「……」

「あんがとな、おっちゃん」

 

 おっちゃんへ送る言葉、たったひとつ。

 それ以上の言葉は要りません。歩き始めたおっちゃんの背を追いかけながら、俺は会場への道を辿るのでした。

 

 

 

 

 

 

「ここ」

「お、おおっ……!おおおおおッ!!!」

 

 俺がナビアプリに見切りを付けた時点で、俺と目的地である邦和みなと&スポーツカルチャーの距離はそこまで遠くはありませんでした。

 なのでまあ、ここら辺の土地勘を持っている人が道案内をしてくれるという鬼に金棒状態の今の俺なら、数分で目的地に辿り着くことなど容易く。

 おっちゃんが立ち止まり、目的地に到着したことを告げると同時に俺の興奮度合いはMAXになりました。

 

「おっちゃん!おっちゃん!!」

「……」

「おっちゃぁん!!」

 

 おっちゃんの目の前にて、狂喜乱舞。ワルツジャンプでもしてるんじゃねえかってくらいの回転を加えながら飛び跳ね、今の感情を表に出し続けます。

 それでもおっちゃんは無言です。金のシャチホコです。ビリケンさんです。

 しかし、それでも構いません。今のおっちゃんは俺にとって神様であり、超高精度ナビアプリであり、生死を共にした相棒なのです。

 たかが無視程度気にしません。

 俺はチピチピチャパチャパと喜びの舞を踊るだけです。

 今はそれだけでいいのです。

 

「ありがとなおっちゃん!おっちゃんは命の恩人だ!おっちゃんがおっちゃんじゃなくて、スマホをぶん投げてくれなかったら、おっちゃんにも出会えず、俺は道に迷い続けていた!!」

「……」

「本当にありがとなおっちゃん!これで俺、フィギュアスケート頑張れるよ……!!」

 

 改めておっちゃんに礼を言い、頭を下げます。

 投げられたおっちゃんのスマホくんにとっては不本意かもしれませんし、なんなら直前の俺も不本意どころかブチギレの舞を踊っていましたが、思い返せばあの八方塞がりの上京を文字通りクラッシュしてくれたのはスマホクラッシャー未遂をしでかしたおっちゃんなのです。

 故に俺は感謝の言葉を何度も伝えます。

 今の俺の興奮度合いと先程のワルツジャンプが、言葉では伝えきれない感謝の気持ちを鮮明に現していました。

 

「……」

 

 さて、そんなスーパーヒーローでビリケンさんなおっちゃんは、俺の最大級の感謝を目の前にして、終始無言でした。

 まあ、問われた質問に時々無言を貫くくらい無口なおっちゃんですので、分かりきってはいましたが。

 とはいえ、おっちゃんはなんだかんだ道案内をしてくれましたし、道中にて俺の放った質問に答えでしっかりと返してくれていました。

 おっちゃんは悪い人ではないのです。

 とはいえ、これからも仲良くは……多分できないんだろうなぁと。若干複雑な心境でいると、不意におっちゃんがサングラス越しに俺を見下ろします。

 

「……君は」

「?」

 

 威圧を感じる低い声色と姿。

 ふたつの要素は、依然としておっちゃんの黒系統の衣服と絶妙に絡み合い『恐怖』そのものを演出します。

 その様が怖いという訳ではありません。俺の、おっちゃんに対する恐怖の感情は先程までの茶番劇とおっちゃんの優しさで霧散しました。

 今は怖いとかないです。ですが、普通の人が見たら──それこそ結束さんとかがおっちゃんを見た日には、多分心臓止まっちまうんじゃねえかなと思うわけです。

 兎にも角にも、そんな様でおっちゃんは言葉を続けます。

 今度は視線を合わせることなく、見下ろした状態で淡々と。

 

「何故」

「?」

「フィギュアスケートを?」

 

 問われた質問には、何かしらの意味があります。

 おっちゃんにとっては、歩く騒音マシーンな俺が何故フィギュアスケートをやっているのか。その理由を聞きたかったのでしょう。

 故に問われた質問。

 その質問に対する()()()()()()()は、考える必要も悩む必要もなく、俺の心の中に明確な文字として存在していました。

 

「動画の人に憧れて始めたんだ」

「……」

「俺はさ、ガキの頃から色んな遊びに手ぇ出してきて……その度に新しいものに目移りしてきた」

 

 嘘はついていません。

 俺は、一般の家庭よりもそういった機会を父ちゃんや母ちゃんに多く与えられていたという自覚があります。

 今昔を問わない様々な遊び。近場では体験できないようなスポーツ。特にボール遊びに関しては、父ちゃんの職業柄キャッチボールが大好きになりましたし、そういった機会や舞台は沢山用意されてきたと思っています。

 そうした両親の教えの甲斐あって、色んな運動ができるようになって──それでも人生をかけて熱中できるものまでは見つけられなかった中で見つけたひとつの動画が、俺の人生を変えたのです。

 

「その中で、1ヶ月くらい前かな。とある人のフィギュアスケートを見たんだ」

「……」

「綺麗なジャンプだった。真似したいと思った。だから始めたんだ」

 

 それは、人生の中で初めて感じた衝撃でした。

 動画越しに伝わる熱量。そのフィギュアスケーターの一挙手一投足。

 高難易度のジャンプ。ステップ、スピン、コレオ。

 それら全てが流れる曲とシンクロし、意味を持つように動き出す。

 ただ高得点を取るために難しいジャンプを跳ぶだけではない、ひとつひとつの技や動きを磨き続けた職人技。

 

 ──そして、その上で難しいジャンプを。日本で誰も挑まなかったジャンプに拘り、追求し続けた圧倒的な上昇志向。

 その全てに俺は魅せられ、フィギュアスケートを始めたのです。

 

「すげぇんだぜ?高難度のジャンプをいとも容易く跳ぶんだ。しかも跳ぶだけじゃない。曲に合わせて、華麗に、美しく、格好よく。それでいて、一つ一つの動きを次の要素へ自然に繋げていくんだ」

 

 数百回と見返し、印象に残った振り付けを身振り手振りでおっちゃんに見せます。

 スケーティングの中で魅せるターン。モホーク、チョクトウ、ロッカー。こうした技術を陸地ではありますが、見様見真似で演じ、アクセントとして入れるキック等のパフォーマンスも忘れずに入れて。

 そして──

 

「特に、前向きのジャンプ。あれは凄かったね。直前にブラケットをいれて、そこから──」

 

 レフトフォアインから、外を向いてバックアウトへブラケット。

 その流れで、俺は憧れの人と同じように『そのジャンプを』跳びます。

 何度も何度も挑戦し、失敗したジャンプ。

 それでも、地道にコツコツと。ワルツジャンプから始めて、そうしてひたすら動画の憧れの一挙手一投足を観察し、模倣した事で唯一会得した今の俺の一番の武器。

 

「……それ」

「なんだと思う?」

 

 他のジャンプよりもより一層意識しなければいけないのは、身体の中心軸の意識。

 これがないと、遠心力の影響を受けて身体が外に傾き回転が遅くなってしまいます。

 なので、これは絶対に意識。プライオリティってやつです。これが出来なきゃ先ず他のジャンプより半回転多く跳ばなければならない()()()()()()は跳べません。

 無理ゲーって奴です。

 

「答えは──」

 

 だけど、それ以前に先ずは基本を意識しましょう。

 先ずは先程のブラケットの流れで。

 カーブの軌道を描きながら、レフトアウトサイドエッジで踏み切り。

 最後にスケート靴のギザギザ、トウピックを氷にひっかけ、右足を振り上げて跳躍。

 振り込んだ足と振り上げた足を入れ替えるように回転することを意識、最後は右脚で着氷。

 この流れを意識して──

 

「ダブルアクセルだ!!」

 

 俺は、おっちゃんの前で()()()()()()に挑みます。

 勿論、陸地なので凄いもクソもありません。ただの参考程度にしかなりません。フィギュアスケートで跳ぶためのジャンプなんですから、氷上でそのジャンプを跳べなければ意味が無いのは、確かにそうです。

 ですが、今はおっちゃんにそのジャンプをどうしても見せたくて。

 できることなら、俺の今の全力を()()()()()()()()おっちゃんに見てもらいたくて。

 故に、俺はバッジテストがあることも忘れて陸地で無駄に体力を使うようなジャンプを跳び。

 

「っとと、とまあ。こんな感じに──」

「……」

「おっちゃん?」

 

 いつの間にか、サングラスを外し。()()()()()()()()()()()()()()()()()の目の前で。

 俺は、陸地にてダブルアクセルをキメてしまうのでした。

 

 

 

 

 

 

「初めて跳んだダブルアクセル?ははっ、あー……それはいのりの目の前で跳んだ奴じゃないっすね。おっちゃんの目の前で跳んだダブルアクセルです。あれがおっちゃんに常時睨まれるきっかけになって、そこから逢う度に無理難題を言い渡されて……この前は、勢いとノリで2重マスクでランニングするって言っちゃって……うぼぇ……

「お前なにやってんの?」

「インタビューの練習」

「お前合宿で何やってきたの?」

 

 辛辣な言葉に、日の丸を背負うエースががっくりと肩を落としていた。

 日本全国から優秀な選手を数人集め開催される全日本合宿。その殆どが強化選手であるため、見知った顔が名を連ねるその合宿は、倉見遥人の自信を喪失させるには十分過ぎるものであった。

 

『み、見て遥人くん……あの子4回転フリップ跳んでるよ……高難易度だよぉ……』

『うぼぇ……み、見てくれよすーくん。リオウが4回転ルッツちゃ、チャレ……チャレ……挑戦してるぜ……イカれてやがる……』

 

 練習中は専らズッ友であり、()()()()()()()()()()()()()()()()のフリップを継承する兄弟としてよろしくやっている鵯朱蒴と肩を寄せ合い絶望し、それぞれのコーチに励まされていたのだが、今回のそれは少しばかり状況が違う。

 単純に遥人が自身の苦手なインタビュー練習にて、過去を思い起こした結果ナーバスになってしまっているだけの自業自得なのである。

 

「隙自語自爆野郎。いつまで灰になってんだよ、とっととインタビューの練習するぞ」

「リオウ……俺の墓標にお前の4回転コンビネーションジャンプで花を添えてくれ。遺言は『あなた達を高難易度ジャンプ跳びすぎ罪で逮捕します!理由は勿論お分かりですね!?あなた達がこんなスーパージャンプで俺と朱蒴君を絶望の淵に叩き込んだからです!』で頼む……」

「それで花添えられんのお前だけだから。後遺言長すぎるし朱蒴君を巻き込むなって」

 

 故に、普段男子に対して温厚な鴗鳥理凰は今の遥人に対して辛辣で在った。

「だはは、またやってるよ」と同僚や仲間の視線の大半を集める遥人の伝統芸。自分の()()()()()()()に関しては目もくれず、人の得意なジャンプの良いところのみを探し、勝手に絶望する行為。

 その称賛により、大きな成長曲線を描いた選手は計り知れず。また倉見遥人という選手自体が誰よりも遠い場所で、その遥かに連なる道を開拓し続けることで、日本男子フィギュアスケートは魔境と化した。

 そんなことを堂々と、臆面もなくやっている癖に当の本人は()()()()()()()()()()()絶望している。

 その環境を、自分が作り上げたという自覚すらなく倉見遥人は膝をつき、手を置き、おいおいと涙を流すのだ。

 

「……はぁ」

 

 日本男子フィギュアスケートの特別強化選手として名を馳せる3人の若き至宝。

 その中で、抜群のセンスと細部にこだわる洗練された技術で場内を虜にする鴗鳥理凰は、紛れもなく日本のトッププレイヤーである。

 完成度の高さに於いて彼の右に出るものはいない。フィギュアスケートという競技が100点満点のテストならば、常に95点を叩き出すことのできる──それでも、多少のリスクを承知の上ならば100点を意図して出すこともできる、紛れもない天才。

 

「またエビに助けてもらわないとダメかぁ……」

「自販機行こうぜ」

「もうすぐインタビューだって。行くなバカ」

 

 そして、そんな青年が一目置く青年はプレテストで25点を叩き出し、テストで120点を取るバケモノである。

 その事実を本人が分かっているからこそ、遥人の現在に対して理凰は内心げんなりとしていた。

 大体こういうのはエビの役目だろ。なんで俺がこんなバカの面倒見てるんだ。そもそも明浦路先生は何処だ。まだこの合宿で1度たりとも会ってないんだが?と理凰の脳内で想いと悩みの字幕が流れるように浮かんでくる。

 それでも、本人はこの役目を放棄することはない。

 鴗鳥理凰は今日も今日とて、倉見遥人というフィギュアスケーター(親友)の奇行に呆れ、エビに助けを求め、頂の先に待つ光を追い求める。

 

「お前最近なんて呼ばれてるか知ってる?自販機マンだぞ自販機マン。ちょっとは特別強化選手としての自覚持てよ」

「あれ……自販機マン()まだ高校生だったよね?」

「そういう問題じゃないってば!!」

 

 まあそれはそれとして、プライベートでの遥人の奇行っぷりに相対し続けている理凰は、この自販機マンの将来を周囲の大人以上に心配しているのだが。

 つーかクソオヤジを含めた周りの大人はコイツに何を教えてきたんだと理凰はガチのマジでブチギレた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……えっと、チャレ、チャレ……チャレチャレ……難しい構成ではありますけど、そういうのはいつもやってる事なので……まあ、昨シーズンみたいに4回転フリップとか使って、その上で新しい挑戦もできたら良いと思います」

『ワン・タン・メンのワンの部分と位置付けた昨シーズン、絶好調でしたね。今シーズンの意気込み等ございましたら、教えてください』

「忘れてくだしゃ……はい、将来はオリンピックで金メダル取りたいので。ライバルの映像とか見て……今日も頑張るぞって感じで、日々を積み重ねていきたいです」

 

 そして、蛇足ではあるのだが。

 その後のインタビューは奇跡的に遥人が唯一マトモにインタビューを受けられる、フィギュアスケートを良く知るアナウンサーがインタビュアーとして来たため、問題なく進んだ。

 

(今遥人くん「チャレンジング」ド忘れした?*1)

(4回転フリップ『とか』ってなんだよハッ倒すぞ*2)

(オンとオフの切り替え……かっこいい、かっこいいよ遥人君……!!*3)

(そうそう、いつもやってること!練習の成果が出てるんだよ!!もっと自信持ってー……!!*4)

(なんでこの子達、我が子を見守るような感じで遥人君のインタビュー見守ってるんだろう……*5)

 

 問題なく、進んだ。

 

 

*1
狼嵜

*2
理凰

*3
朱蒴

*4
いのり

*5
瞳ちゃん先生

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