なんか同時期に入会したノリと勢いで「一緒にオリンピックで金メダル取ろうぜ!」って約束した友達が加速度的に成長してて約束を守れそうにないんだが   作:送検

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score10 将来とおっちゃんが黒い 6

 

 

 

 

 その後のことを少しだけお話しましょう。

 あれから、憧れの人をコケにされた俺は激怒しました。

 なんてったって、憧れの人を「その程度」と切り捨てられ、その道を目指すことに対して否定的な意見を述べられてしまったからです。

 挙句の果てにはお前よりも知っているアピールなるものを受け、俺の怒りのボルテージは最高潮。

 親切に入口付近で待ってくれていた瞳ちゃん先生を見つけると、一目散に彼女の元へと向かい。

 

『フン!フン!フンッ!!!』

『遥人君!随分遅かったけどどうしたの──』

『んがぁぁぁぁ!!!』

『遥人君!?』

 

 発狂魔人の名を欲しいままにした発狂で、瞳ちゃん先生を物の見事に困惑させてしまうのでした。

 さて、その後はトントン拍子に話が進んでいきます。

 緊張なんてものは既に通り越し、激おこゲージの膨張による怒張状態になってしまいました俺は、鬼の形相で初級バッジテストを通過しました。

 必須エレメンツであるハーフサークルやフォアストローク、クロスは瞳ちゃん先生と基礎の滑りっつーことで何度も何度も練習したスケーティングですからね。そりゃ最初は難しかったですけど、発狂しながら何度も何度も腐るほど練習すりゃ身体は覚えているってことで。

 

『うっひょおおおおおお!!』

『倉見さん、試験中は私語を控えるように』

『あっス……』

 

 堪えきれない思いが瞳ちゃん先生の頭を抱えさせた、そんな光景を視界の端に納めつつ、俺は次々と試験という名の敵を覚えた武器で薙ぎ倒し──え、長い?じゃあ短めに。

 無事に俺はバッジを手にすることが出来ましたとさ。

 はい、おしまい。

 

「んで、俺の頭の中で結束さんが言ったんだよ。『し、しんとう……めっきゃく、だよっ!』って」

「……し、しんとうめっきゃくってなに?」

「よしガチモンの結束さんだな。なんか俺、実家に帰った気分だよ」

「なんで!?」

 

 さて。

 非日常に囚われることもなければ異世界転生願望すら微塵もない俺の景色に、業間休みというごくごく当たり前な日常が帰ってきました。

 バッジテスト当日の自宅から目的地までの一人旅、スマホぶん投げおじさん、ブチギレダンス、そしてバッジテスト本番。

 その全ては俺にとって非日常的なもので、一日にそれらが畳み掛けるように来たもんで、俺の頭ン中は少しばかりおかしくなっていたと思います。

 いや、そこら辺で発狂している時点でもう頭おかしいのは確かなんですが、俺の言っているおかしいってのはそういう意味ではなく。

 

「いや、なんつーか……バッジテスト前にな?何度もエセ結束さんが俺の頭ン中に存在しない記憶を作ってきたんだよ。おかげで俺の頭はパンクしちまって……いや、パンクしたのはそれ以前だった……?」

「…………?

 ……ご、ごめんなさい?」

「よせやい、俺が悪かった。心と思考の隙が邪悪なる化身を生んだんだ。あれは結束さんじゃねえよ。強いて言うならゆいゆいつかさんだ」

「ゆ、ゆいゆいつか……」

 

「ひ、ひさびさに聞いた……」と感慨深げにそう呟く結束さんを見つめながら、俺はあの日──おっちゃんと出会った昨日の出来事を回想します。

 いやー我ながらあれは酷かった。

 山なりのスローボール並の速度ならともかく、全力ストレート級の勢いで襲いかかってきましたからね。

 多分オレンジ色の空の下でスマホが風切って襲い掛かるなんて経験二度と出来ないんじゃないんでしょうかね。

 

「で、でもすごいね!始めたばっかなのに、バッジテストの初級……?受かって……本当にすごいなぁ」

「もっと褒めてくれ」

「え?」

「さっきクラスメイトにめっちゃ煽られたから褒められ要素が不足している。瞳ちゃん先生に褒められるまでの繋ぎなんかじゃない。結束さんの褒め言葉だけで満たすことのできる幸福メーターを、結束さんの言葉でブチアゲてくれ」

「あ……あれ、あおられてたんだ」

 

『バッジテスト初級……つまり普通自動車の仮免許みたいなもんか?』

『仮免でリンク走ったらアカンすよ!!』

『お、その木の葉マークしまっとけよ』

『なんで助手席に友達乗せる必要があるんですか?』

 

 今日、俺がフィギュアスケートをやってんのは「遊びじゃねえんだよ、オラッ……!!」と証明するべく、散々俺のメンタルを言葉で抉りやがった最高のダチ達にバッジを見せつけた俺。

 さあ、今日こそは未知の経験をしてきた俺に称賛の言葉があって然るべきだろと思い、鼻高々にバッジを掲げた結果が先程の言葉の羅列です。

 このダチ共は俺がフィギュアスケートやってるのを普通自動車免許の取得と勘違いしているのでしょうか。

『免許を取ろう』ちゃうねんぞ。導入から無免許運転で赤切符食らったバカ主人公と一緒にすんなやアホ!ボケ!!

 

「まあ……確かに俺は木の葉マークが頭に付いてるようなフィギュアスケーターなんだけどな……」

「……?」

「それはそうと、結束さんは調子どう?フィギュアスケート、楽しいか?」

 

 もうこれ以上その話をしたり考えたりしたところで、どうにもならないことは分かっています。

 過去に想いを馳せたり、うじうじしたところでそれを変えられることなどできっこありません。

 なのでまあ、今の俺に必要なのは頭の切り替えってことで。結束さんに、改めてフィギュアスケートの話を振ると、彼女は首を縦に振ります。

 

「た、楽しいよ。フィギュアスケートは楽しい」

「そうか。それは良かった」

「それに、最近は倉見くんとフィギュアスケートのお話がたくさんできるから。前より今の方が楽しい」

 

 お、おお……思いのほか結束さんと友達やれてるじゃん俺!

 正直なところ、フィギュアスケートの話題から友情が始まったのは良いものの、会話があまりにもフィギュアスケートに染まっており、なんならその流れで熱くなりすぎてしまう場面もあったので、温度差を心配していたのです。

 なので、今の結束さんの言葉に俺は安心しました。

 つーか、嬉しかったんですよね。結束さんにちゃんと、そう言って貰えたことが。

 

「だはは、そんな楽しいなら今度一緒にスケートしに行くか」

「え。……いい、の?」

「おうよ!まあお金がかかっちまうからご両親には相談しないといけないけどな」

 

 しっかしまあ、そんな結束さんの言葉を真に受けた俺は相も変わらず悪癖のコンビネーションジャンプを披露します。

 調子乗り・地雷踏み抜き・発狂癖。

 その内の発狂癖こそ披露しませんでしたが、意図せずやらかしてしまったコンビネーションは、先程まで笑顔だった結束さんの表情を曇らせるには十分で。

 

「……ま、まあ?今すぐ決められる話でもないし。もし気が向いたら言ってくれよ」

「……うん」

 

 何故か曇ってしまった結束さんの表情。

 その表情の理由が、()()()()()()()()()()()()()()()()()当時の俺には全く理解出来ていなくて。

「あ、アレー?」と独りごちながら、俺は知らずのうちに踏み抜いてしまった地雷を脳内で必死に探し──俺は、ひとつの答えの可能性を思いつきます。

 彼女に対する理解の乏しさに目を背けながら得た答えを無理矢理作り出し、俺は彼女に質問をしたのです。

 

「結束さん、俺と話すの辛くないか?」

「……え?」

「無理しないで、嫌な時は嫌って言っていいんだからな。ほら、俺ってうるさいし、煽られるし、馬鹿だし」

 

 いや本当に。

 おっちゃんと会話した時もそうですし、ダチと会話している時もそうでしたが、基本俺はうるさくて、やかましくて、口と態度だけはデカい奴です。

 今は良きダチや先生、家族に恵まれ続けて人間関係の悩みや隔たりを感じることはありませんでした。ですが、こんな性格の奴が嫌いな人間なんてごまんといることも分かっていますし、いつかそういう日が来るってことも理解しています。

 もしかしたら、結束さんは『そういう人間』が嫌いなのかもしれません。

 考えたくはありませんが、そういう可能性だってあります。

 

「そういうこともはっきり言っていいと俺は思う。だってそれが友達の──」

「辛くないよッ!!」

「けん、りぃ……」

 

 だけど、結束さんはそういう俺の悪い所も見た上で友達になってくれたんです。

 苗字を間違えました。うるさい声出して、追いかけ回しました。無遠慮な発言も情緒不安定なとこも見せました。

 それでも手を差し伸べてくれた結束さんのことを。結束さんとの友情を、もっと俺は大切にしたいんです。

 さっき述べた悪癖は、俺が環境に甘えることなく頑張ればちゃんと治すことのできる悪癖です。

 大切にしているからこそ、努力で治せるものだからこそ、嫌なものは嫌だと結束さんにはちゃんと言って欲しい。そうしたら俺はちゃんと聞きます。治すように努めます。

 そんな思いから言った言葉だった筈なのですが。

 

「そういうことをお話できる友達、いなかったから……!!」

「……」

「だ、だから!辛くない!今、本当に楽しくて……!」

「お、おい!わかったわかった!そんな強く言わなくていい!ごめんごめん俺が悪かった!!」

 

 その結果が結束さんをさらに苦しませる羽目になっちゃったんだよなぁこれが!!

 いや嬉しいですよ!?正直、そこまでハッキリ言われるとは思ってなくて、超絶嬉しんですよ!?

 でも、少なくともそれは胸を抑えながら苦しそうに言う言葉ちゃうねん!

 なんで呼吸苦しそうなんです!?なんで俯いて心臓抑えてるんです!?

 ええい、衛生兵(保健係)はどこいったんや!

 エマージェンシー!エマージェンシー!結束さんが心臓を抑えて苦しそうにして──

 

「だか、ら……」

「……へ?」

「あ、あれ……?ご、ごめ……ぐすっ……」

「ほ、あ……が、がが……」

 

 な、泣いちゃっ……たぁ……!!

 ど、どうしよう……!遂に、遂に今まで絶対にやってこなかった一線を超えちゃった……!!

 今までこれだけはやっちゃダメだって父ちゃんや母ちゃんに言われてきたことを……女の子を泣かせちゃった!!

 

「あ、おい。倉見が女の子泣かせてるぞ(事実)」

「アカン業間休みが死ぬゥ!!(クレーマー)」

「倉見の兄です。この度は弟がとんだ失礼を……(視聴者数稼ぎ)」

「今野くん!今から肘打ちの練習していいかな!?(爽やか893)」

 

 うっさいんじゃい!

 さっきから後ろで事実陳列してきたり視聴者数稼ぎ動画ごっこしてたりよぉ!!

 つーか後ろの集団に衛生兵(保健係)いるじゃねえか!

 野次馬してねえで割って入ってくれよ!その役職はお飾りか!?

 

「ぅ……ごめ、なさ……」

「だからなんで結束さんが謝ってんだよシバキ倒すぞ!?」

 

 そして結束さんは謝らないでくれ!!

 前もそうだったけど、明らかに悪いことしてるの俺なのに結束さんが謝ると自業自得ながら俺の胸が痛くなるから!

 今俺、めっちゃ心が抉れてるから!!

 

 

 

「…………は、はは」

 

 乾いた笑い声が俺の口から漏れます。

 前には俺の馬鹿のせいでおいおいと涙を流している結束さん。後ろには囃し立てるダチ共。

 右には壁。左には飛び降りることの出来ない窓。

 頭上に救出用のロープは降りてきません。なんなら蜘蛛の糸ひとつありません。

 四面楚歌です。誰も助けてくれません。

 もうどうしようもない所まで、俺は道を踏み外してしまったのでした。

 

「……ごめん結束さん、1歩離れるね」

「ぇ……?」

「だから結束さんも1歩下がって。下手したら鼓膜死ぬから」

「こ、こう……?」

「そうそう。んで、ごめん。今からちょっと大声出すから」

「ぇ、……え?」

 

 ──もういいです、ヤケです。

 ここは一発派手にかましちゃいましょう。

 どーせ今の俺が策を凝らしたり考えたところで状況は変わりゃしないんです。だったら思いの丈をちゃんと、ハッキリ、誤解のないように余すことなく伝えた方が100倍マシです。

 あれよこれよと考えていた思考を深呼吸で吐いた息と共に全部ポイします。

 そして、俺は──この頃には我を忘れ、半ば自暴自棄の状態になりながら『発狂魔人』たる所以を惜しみなく発揮するのでした。

 

俺も(結束さんと過ごすこの時間が)楽しくて好きじゃァァァァァ!!!!

「!?!?!?」

「だから嫌いになるとかないから!!俺達の友情は!!不変じゃァァァァァァァ!!!!

 

 というか。

 後になってわかった事なんですけど、こんなことしなくても良かったんですよね。

 だって結束さん、俺が大声出し始めた頃には嗚咽は止まってたし、半分泣き止んでましたし。

 だから時間を置いて、そこから絡まった誤解の糸を解いていけばよかったんですよ。

 それにも関わらず、俺は大声を出し続けます。

友情の到来です。もうこの波に乗った俺を止めることは誰にもできません。

 

「ほら結束さんも一緒に言うんだよオラァッ!!!

友情の!!到来じゃァァァァァァ!!!!

「と、とうらい……?」

到来じゃァァァァァァ!!!!

「…………!

 と、とっ……とうらいじゃー!(便乗)」

 

 結束さんがなんだか知らぬ間に便乗して友情の到来を告げますが、そんなものはお構い無し。

 思いの丈をぶちまけた俺は、後ろのダチ共の「やりやがった……!」やら「バースト倉見……!」やらの声を背に、便乗し始めた結束さんの前で尽き果てるのでした。

 

 は?あれだけ大声で叫んだ結果?

 俺だけ職員室に呼ばれて怒られたに決まってんだろシバキ倒すぞ。

 

「教室で大声は出さない。倉見君、約束だからね」

「ッス……」

「後、その……色々控えるように」

 

 あーあ、このままじゃおっちゃんの黒に負けないくらい俺の学生生活も黒くなっちゃいますね!

 将来もお先も真っ暗ってか!だっはっは!面白い冗談ですね!

 

「…………。

 結束さんとの友情、到来したのかい?」

「…………へっへっへ」

 

 誰か助けて!

 

 

 

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