なんか同時期に入会したノリと勢いで「一緒にオリンピックで金メダル取ろうぜ!」って約束した友達が加速度的に成長してて約束を守れそうにないんだが   作:送検

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Inside2「いのり」

 

 

 

「ハルくん!いのりだよ〜!!」

『さっすがいのり!今日もエナドリいのり〜!』

 

 とあるフィギュアスケート選手の日課のひとつに、定期的な青年への通話がある。

 タブレットを用いたウェブ会議サービスのアプリケーション。それらを用いることは珍しいことでは無い。この機能を用いた会話は、国際大会時の連絡手段として用いる事が多く、また国際大会出場経験のある2人にとっては手馴れたものであった。

 国境を跨いだ会話は、文明の発達による進歩でもある。

 文明の利器にあやかり、2人はハイテンションでピースサインを送った。

 

『2人ともテンション高いね……』

『洸平先生、深夜テンションっす』

「こっちは夜だよ〜!」

『こっちはお昼だよ〜!!』

『いのりちゃんはともかく遥人君のテンションは深夜じゃないからね!?』

 

 青年のコーチとして、国際大会に出場する青年に付き添う鴨川洸平が彼等のハイテンションに一石を投じるものの、2人の気分は上々どころか国境の壁をブチ破ってしまう程。

 諌めるなど到底できるはずもなく、洸平は「程々にね」とだけ言い残し一時的に部屋から退出する。

 国境を超える2人のハイテンションぶりだけが、その空間には残った。

 

「……ぷっ」

「……くすっ」

 

 その様に、『倉見遥人』と『結束いのり』(2人のフィギュアスケーター)はお互い顔を見合わせた後に吹き出した。

 

 

 

 

 2人の会話の殆どはフィギュアスケートに関することであるが、何もそれだけを話す訳では無い。

 遥人もいのりもフィギュアスケーターである前に、1人の人間だ。様々なものに興味を持つことは悪ではない。

 永久に歩みを止めずに突き進む事が出来る人間など皆無に等しい。燃え盛る程の熱意を持つ人間も、何処かでその炎を途切らせないために薪を焚べる必要がある。

 炎を燃やすために元気という名の燃料を蓄え、程よいタイミングでその燃料を投下する。

 それが、努力の継続に繋がるのだ。

 故に2人は取り留めのない話をよくする。

 勿論、フィギュアスケートの話はする。お互いの技術を教え合うこともする。その上で、2人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()話を数年前から行うようになった。

 

『2人とも、フィギュアスケートに対する熱意は100点満点。この歳で明確な目標もある。そして、それぞれに4()()()という世界に振り翳すことのできる武器もある。──あなた達は、周囲の助力もあり素晴らしい階段を駆け上がっている最中なの』

『当たり前だよな?俺の……ゲフンゲフン!!みんなの瞳ちゃん先生の助力のおかげで俺はここまで来れたんだ。明浦路先生と洸平先生、金弓先生共々、大須には4人の銅像を建てて然るべきだね』

『ど、銅像……!わ、私も!私も司先生と瞳先生、洸平先生と美蜂先生のおかげでここまで来れたんです!もっと凄いフィギュアスケーターになって銅像建てます!

『見なよ……皆の瞳ちゃん先生を!!』

『司先生を!!』

『話は最後まで聞いてね。……素晴らしい階段を駆け上がっているからこそ、貴方達にはもう一度『休息』について考えて欲しいの』

 

 きっかけは大須での練習中に主に遥人をコーチする高峰瞳の話であった。

 勝利への執念が並外れており、金メダルを常に狙い続けるフィギュアスケーター、結束いのり。

 自販機からのタイムリープに活路を見出しつつも、陰で誰よりも努力を重ね、オリンピックでの金メダルを高らかに宣言したフィギュアスケーター、倉見遥人。

 幼い頃から見てきた、2人のフィギュアスケーターの才能は周囲の助力もあり、何より本人の努力の甲斐あり覚醒の一途を辿っている。

 それぞれがそれぞれの氷上で瞬き、輝き、期待値の尽くを超えていく様を近くで見てきた瞳にとって、その事実は涙を流す程喜ばしいものである。

 出来ることならば、この先もずっと。太く長い選手生命を生き、その眩しさを見せ続けて欲しい。

 その想いを抱いているからこそ、瞳は()()()()()()()()()()2()()に『待った』をかけたのだ。

 

『うわぁ!瞳ちゃん先生の『待った』攻撃が上から来るぞ!気をつけろぉ!!』

『遥人君、本当に上から攻撃するわよ?』

『ッピ……』

『で、でも!もっと頑張りたいです!本当なら学校だって休んで毎日練習したいくらいなんです!それなのに休息……も、勿論学校も休息も大事ですけど!練習できる時間は練習に費やしたいです!!』

『話は最後までちゃんと聞いてね、いのりちゃん』

 

 しっかしまあ、絶賛反抗期盛りの頑張り屋共はああ言えばこう言う。こう言えばそう言う。話の要点だけを掻い摘んで、その時点で自分の意見を述べる。

 遥人に関しては信頼するトレーナーの下、親愛の元に成り立つ悪ふざけを敢行し、見事なカウンターを食らっている。

 とはいえ瞳はルクス東山FSCのヘッドコーチであり、子供たちの扱いには慣れており、ましてやこの2人に関してはこういった話を何度もしてきた。

 今更彼等の反抗期やら悪ふざけやらに戸惑うことなどない。

 終始平静を保ち、瞳は言葉を続けた。

 

『いのりちゃんも遥人君も、1つ1つの大会に死力を尽くして勝ちに行く。その時点であなた達は蓄えたものを全て使い果たしたような状態でしょう?』

『は、はい!終わった後はいつもくたくたです!!』

『そのような状態で次の目標に向けて突き進んだ場合、何も蓄えていない状態からのスタートになるわよね?そうなると何が起こるか、分かる?』

『なるほど。つまりハラヘリってことか……そりゃ力が出ないっすね』

『ほぼ正解』

 

 特に目標に一直線な選手ほど、気付かない内にフィギュアスケートの事だけ。それだけを考え続けてしまうことが多い。

 それだって、悪いことでは無い。高みを目指すためには惜しみなく練習をしなければならない。一つ一つの技術に拘らなければならない。その上で、少しでも多くの飛び道具(ジャンプ)を覚え、磨かなければならない。

 考えて、考えて、考え続けて。そうして見つけた蜘蛛の糸を、手放すようなことはあってはならないのだ。

 

『空腹の状態で走っても、力は出ないの。それはアイスダンスもフィギュアスケートも、どのスポーツも同じ。

 だから先ずは、規則正しい生活で身体を休めてね。その次に、フィギュアスケートとは切り離した気分転換をして欲しいかな』

『き、気分転換……ですか?でも──!』

『前に司くんや金弓先生が言っていたような事の繰り返しになってしまうけど、休んだり遊んだりすることも前進する為の1歩を力強く踏み抜く為に必要なことなの。

 目標に行き詰まった時、その事ばかり考えてても突破口は浮かばない。逆に、なんでもない事をぼーっとしながらやっていると、良いアイデアが浮かんだりするのよ?』

 

 しかし、それだけを考え続けて目に見えない心身の疲労を放置することはできない。

 これから遥人やいのりがより高みを目指していくために戦わなければならないものは相手であり、自分自身でもある。

 その自分自身の中に含まれる『怪我』や『病気』は目に見えない疲労の蓄積により、自身の気付かぬ間にその身体を蝕んでいく。

 そして目に見えない爆弾が積もり積もって爆発した時、選手生命は取り返しのつかないことになる。

 そうなる前に、数日に一度、遅くとも数ヶ月に1度。少しでもいいから視点を変えなければならない。

『目標』から『自分』へ。自分の身体の一つ一つと向き合う時間を作る必要があるのだ。

 

『考え方は今の2人と同じ。今までいのりちゃんや遥人君は、目標に向けてフィギュアスケートを頑張ってきた自分をとても大切にしてきた。練習や大会、ずーっと頑張ってここまで来た』

『先生……』

『だけど、そのせいか2人とも肩の力が入り過ぎてる。今の状態で突っ走っても、必ず何処かで限界が来る。

 そうなる前に、何処かで蓄えないといけない。息を抜かなければいけない。取り返しのつかないことになる前に、2人にはフィギュアスケート以外の自分も大切にして欲しいの』

 

 高峰瞳は、自分の教え子がフィギュアスケーターとして死ぬ様を見たくない。

 それは、どのコーチとて同じだ。フィギュアスケーターとして高みを目指す教え子の近くで喜怒哀楽を分かち合い、練習メニューに四苦八苦して、挑戦と失敗を繰り返して。

 その結末が最低の結末だなんて許せるわけがない。考えたくもない。終わらせられるわけがない。

 だからこそ、各選手のコーチは教え子を守る。

 怪我から、失望から、悪い大人から。

 そうして、彼等は教え子の手を引く道標となる。

 教え子の望む道へ、松明を片手に。

 

『フィギュアスケートから自分を切り離した休息を少しでも良いから作って欲しい。そして、蓄えが出来たら目標に向かって全速前進!

 そうすることで、2人はもっと良いパフォーマンスを発揮できるって私は信じてる』

『瞳先生……』

『瞳ちゃん先生……分かった。じゃあ……折角だから!俺はあの赤い自販機に突撃するぜ!!』

『遥人君?』

『っぴ……』

 

 それでも尚、恩師の気持ちを悟ることの出来ない約1名のクソボケは、選手を守り、手を引く道標としての役目を果たそうとした瞳にとんでもないことを言い出した!

 何を隠そう、このフィギュアスケーター。オリンピックでいのりと()()()金メダルを取る事を目標に日々を全力で生きる傍ら、タイムマシーンとの邂逅に活路を見出している正真正銘のアホボケなのである!

 最近は国際大会の連続出場により行動範囲が広くなった分、海外の自販機に希望を見出し始めており同国に派遣された親友にトゥキックをお見舞いされていた。

 そこまでのことをされても尚、自販機に活路を見出す遥人の熱量は1周回って賞賛されるかもしれないものだが、正直今はタイミングじゃない。

『は、ハルくん!今真面目な話してるんだよ!』といのりの制止が入り、瞳の笑顔が遥人の自販機大冒険を終わらせた。

 2名の保護者の制止に、遥人はしょげた。

 

『兎に角!今日と明日は一日休んでね。そして、思いついた遊びを何となくでいいからやってみて。映画、スポーツ、音楽、食べること、なんでもいい、フィギュアスケートから切り離して心身の緊張を解いた上で休息を取ること!』

 

 とはいえ、瞳は遥人の奇行っぷりを見て心底心配に思うことは無い。

 理由は明白。高峰瞳は、倉見遥人というフィギュアスケーターを心底理解しているからである。

 あーだこーだとふざけ倒し、ちょっとでも相手のストロングポイントを見つけたら簡単に落ち込むスーパークソザコメンタル。

 それでも瞳は、遥人が何処まで行ってもフィギュアスケートのことになると大真面目になるということを知っている。

 

『次の目標に向けて舵を切る。そのために、先ずは蓄える。そうして、蓄えた後はフィギュアスケートに全力を尽くす。

 ──あなた達は今、蓄える段階に身を置いているのよ』

 

 だからこそ、信頼して遥人の奇行にツッコミを入れられる。

 これがフィギュアスケートまでも問題児なら、いい加減一喝せねばならない状況ではあるが、誠に残念ながら氷上の遥人は常識と記録を超えるだけのフィギュアスケーターだ。

 それに関しては一喝する必要すらない。むしろ、異次元の勝負強さを買って他の教え子にはさせないような『超』が付く挑戦的で常識外れのプログラムと振付を認めているのは自分自身である。

 そこに関して怒ることは、今の瞳には出来ない。できるはずもなかった。

 

『で、でも……急にそんなこと言われても何をすればいいのか……』

『いのり、そういうのは考えたら負けなんだよ。直感でいい、取り敢えず今日はどっかのコンビニで買い食いでもしようぜ』

『!──私、肉まん食べたい!』

『じゃあ俺はあんまん!』

 

 ニコニコ笑顔のダブルピースで本日の日程を決めるいのりに、白目でダブルピースをキメる遥人。

 傍から見れば年相応の子供のように見えるが、フィギュアスケートという競技になると途端に彼等は大人になる。

『これがフィギュアスケートになると勝負強さの塊になるのよね……』と、そんなことを思いながら倉見遥人の恩師は、彼の奇行にツッコミを入れつつ、怒りとは無縁の穏やかな表情で見守るのであった。

 

『ともあれ、言いたいことは分かりました。つまり俺はいのりとオリンピックで金メダルを取るために気分転換をすると!そういうことですね!?』

『!……そういうことなんですか、先生!!』

『遥人君は先ずフィギュアスケートから自分を切り離してね?

 公私の切り替え、分かるわよね?』

『瞳ちゃん先生……俺!世界一のオリンピアンになります!(確信)』

『なります!(便乗)』

話 を 聞 い て ?

怖すぎるッピ……!

 

 と、まあ。

 そんな大須スケートリンクでの一幕もあり、遥人といのりはこうして取り留めのない話をすることで気分転換をしたりするのだが、何も特別なことを意識している訳では無い。

 ごくごく自然に、それらしい会話をしながら時間を潰す。それがどのようなことであろうとも、彼等の間に緊張や苦痛の類は無い。

 延々と無駄話をしていられる、そんな関係。

 いのり(遥人)にとって、遥人(いのり)は特別を意識せずに、気楽でいられる──かけがえのない仲間なのだ。

 

「アメリカ、どう?何か面白いもの見つけた?」

『ハンバーガーとカラフルお菓子の鼓動を感じた』

「インタビューでそういうこと言っちゃダメだよ?去年の二の舞になっちゃうから」

『日本の自販機が恋しいよ……』

 

 画面越しに『よよよ……』と涙を流す遥人を見て、苦笑するいのりの脳内には昨年行われた全日本の舞台が蘇る。

 自身の代名詞となるジャンプを決め、氷のような冷たさの残る表情で氷上を降りた遥人。

 関係者席にてその演技を見届けたいのりは、何処か虚ろな目で虚空を見上げる遥人を見て『名前の通りになっちゃったなぁ』という感想を抱いた。

 

 ── 研ぎ澄ました技術力!!異次元の勝負強さ!!そして、誰に成し得ることのできない技で、今!!

未知なる道を!!遥かに続く道を、確かに切り拓いて見せました!!

 

 遥か先を見通し、その場所へ追いつけない程の速度で駆け上がっていく。

 そうして倉見遥人は、到達点など悠に超えた精神力と技術、体力を手に入れた。

 その3つを以てして構成されるプログラムは、いのりにとっては衝撃的且つ革新的で。

 諸刃の剣を振り翳し、憧れを超えていくその様は【凄くて、かっこよくて、強い】フィギュアスケーターそのもので。

 

『金メダルの重みは如何でしょうか?』

『?……首にかけられるくらいの重さです』

 

 そんな凄くて、かっこよくて、強いフィギュアスケーターは、インタビューにて本日最大のピンチを迎えてしまったのだった。

 

『え、ステップシークエンスとコレオシークエンス?あ、えと……ジャンプ以外の技術も高めないと振付師さんに……えー、色んな人にジャンプぴょんぴょんするだけの子って思われちゃうので、そこら辺は瞳ちゃ……コーチと頑張って練習しました』

『な、なるほど……練習の成果が上手く発揮されたということですね』

『はいしょ゛ッ*1……はい、そうですね』

『全日本の舞台で会心の演技です。今のお気持ちをお聞かせ願いますか?』

『会心……そうですね。会心の演技でこれなんで、もっと練習しないといけないなと思いました』

『パーソナルベストを更新する点数を叩き出したのは今後の自信に繋がるのでは?』

『人生で1番ひどい出来でした、もっと頑張ります』

 

 倉見遥人は、インタビューが大の苦手である。

 それは、彼というフィギュアスケーターを深く知る者程理解している周知の事実。

 その挑戦的な構成や勝負強さ、常に自販機を探す開拓精神に満ち溢れた生活とは程遠く感じる程に、遥人のインタビューはトリッキーで、エキセントリックで、クレイジー。

 それをわかっているからこそ1級遥人使いであり、遥人マスターな結束いのりはやんわりと釘を刺す。

 仕方ないのだ。ここで釘を刺しておかないと今度はインタビュー中に自販機を探す旅に出るかも分からない。

 前回の国際大会時に発生した『ジハンキ=サン』呼称事件の二の舞だけは勘弁して欲しい彼女にとっては、必要な一刺しであった。

 

『いのりは?第3戦に向けての調子はどうなの』

 

 先程まで涙を流していた遥人が、いのりに問いかける。

 まるで先程までの巫山戯きった会話を誤魔化すような会話で、且つフィギュアスケートから自分を切り離せていない会話であったが、当の本人達はまるで気にしていない。

「ふっふっふ……!」と意味深長そうな笑みを零すと、いのりは一言。

 自信ありげに、誇らしげに、恐れるものなど何一つないと言わんばかりの声色でハッキリと告げる。

 

「バッチリ!ハルくんに追いつけ追い越せの勢いで、第3戦勝ちに行くから!」

『……お。──おう、頑張れ。待ってるぞ』

「うん!」

 

 相対する画面の奥の遥人の言葉が濁る。

 その姿に先程までのハイテンションっぷりはなく、心做しか遠い目を浮かべている始末。

 ここで感情の機微に聡いいのりは、遥人の感情に気付くものの言葉を撤回することはせず。むしろ内に秘める熱を更に燃やし、漏れ出た熱が更に遥人を困惑させた。

 

(どうせ自分なんてーって思ってるのかもしれないけど、私にとってのハルくんはいつでも凄くて、かっこよくて、強いフィギュアスケーターなんだよ)

 

 いのりから見た遥人は、誰よりも遠い場所で道を切り拓く開拓者だ。

「俺が世界を変える」と、そう言わんばかりのフィギュアスケートで他を魅了し、人の心に土足で踏み入り、感動の2文字を勝手に突きつけ、過去を振り返ることなく次の高みを目指す。

 そこまでの過程に一切の妥協はない。

 最後の最後までもがき苦しみ、本番で道を拓く。

 その姿はいのりにとって、果てしない程に遠い。本番で競い合うことがなくても、彼女はとうに理解していた。

 その背中がどこまでも遠い場所で蹲って、立ち上がって、時に涙を流しながら、それでも最後は笑って、期待値を超える様を。

 

(遠くて、──本当に遠くて見失ってしまいそうになるけど、ハルくんは忘れない。いつだって私を見てくれるし、諦めないでいてくれる)

 

 だからこそ、結束いのりは並び立ちたい。

 定めた憧れの先で時折蹲ってはタイムマシーンを探す遥人をただ後ろで眺めるだけの結末で終わらせたくない。

 まだ自分が何者でもなかった時、馬鹿にすることなく対等に接してくれた。そして、同じ夢を見てくれた大切な友達。

 そんな存在が独りで苦しんでいる時、結束いのりは()()()()()()()()()()で満足出来なかった。

 今までの遥人がそうであったように、自分も馬鹿にすることなく対等でいたい。苦しんで蹲っているのなら、手を差し伸べ、助けられる距離にいたい。

 ──隣で。()()()()()()同じ夢を見たい。

 

(だから私も絶対見失わない。もっと上手くなって、ハルくんの隣で同じ景色を見るんだ……!)

 

 だからこそ、彼女は決心する。

 あの日決めた夢を叶える為に、親友の隣に立つことを。

 そして、同時期に入会したノリと勢いがものすごく、加速度的に成長していく親友と「一緒のオリンピックで金メダルを取る」と。

 その祈りが史上最強の好敵手(狼嵜光)への挑戦状だということは既に理解している。

 それでも彼女は堂々と、臆面もなく宣言する。

 あの日の涙を振り払い、飽くなき向上心と勝利への執念を抱き、祈りを力に変えて。

 そうして貫いて来た純真たる決意を、遥か先で待つ一人のフィギュアスケーターへ真っ直ぐに届けるのだ。

 

「ハルくんと一緒のオリンピックで金メダルを獲る!光ちゃんにも勝つ!!」

『!』

「絶対叶えようね、ハルくん!」

『……ああ、忘れたことなんてない。絶対叶えるよ』

「うん!一緒に頑張ろう!」

 

 幾重に結び、束ねられた祈りの緒は誰にも断ち切れない。

 結束いのりの覚悟は、既に決まっている。

 

 

*1
カミカミ

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