なんか同時期に入会したノリと勢いで「一緒にオリンピックで金メダル取ろうぜ!」って約束した友達が加速度的に成長してて約束を守れそうにないんだが 作:送検
今となっては思い返したくもないエピソードではありますが、俺──倉見遥人がフィギュアスケーターとしての道を踏み出すきっかけになったのは数分間の動画でした。
『トリプルアクセル!!これも跳んだァ!!』
『いやぁ、素晴らしいですねぇ……』
とある大会──ああ、あれは確か世界選手権でしたか。多くのフィギュアスケーターにとっての憧れのひとつである檜の舞台。
その舞台に立った1人の青年は、見るも鮮やかな跳躍と踊りで場内を魅了します。
気付けば、場内では手拍子が鳴り響き。そのリズムに合わせるように跳んだジャンプは『4回転サルコウ』。
着氷時に氷ひとつ飛ばない見事な着地も合わせた彼の芸術は、勝負を決めるには十分な技でした。
結果は言うまでもなく、圧勝。
得点を荒稼ぎした1人のフィギュアスケーターは、1位という称号を欲しいままに、どうだと言わんばかりのガッツポーズ。
その一部始終を見ていた俺は、その喜びように若干引きました。
当時の俺には熱中できるようなものがなく、あるとするならば外遊び、ゲーム、給食くらいのなんとも空虚な生活を送ってきていました。
そんな俺にとって、ひとつの事に熱中し、あまつさえガッツポーズをする程喜べる──そんな人の感情はまるで理解出来ず、熱意に押されるように『スン……』となってしまったわけです。
しかし、それと同時に。
俺には無いものを持っている目の前のフィギュアスケーターに対し、どこか羨ましいような。
ひとつの事柄に熱中できる、心の熱い人を『いいなぁ』と思ったのも事実で。
速い時分でそれに気付けた俺は、思い立ったが吉日。近所のスケートクラブの門をぶっ叩きます。
「こんにちはー!!」
「あら、こんにちは。あなたが倉見遥人君ね。お母さんから話は聞いてるわ」
そして。
この選択が後に大惨事を起こすことなどまるで分かっていないクレイジーでファニーな俺は、未来など知ったこっちゃない脳天気な笑顔で、目の前の美人なお姉さんに挨拶をします。
「見学に来ました!というかもう入会する気満々です!よろしくお願いします!!」
「あはは……元気いっぱいね」
ルクス東山FSC。
俺がしょっちゅうタイムマシーンを探すようになるきっかけとなる、そんな魔境のひとつに俺はホイホイと脚を踏み入れてしまったのでした。
はい、大惨事確定。
※
俺がルクス東山FSCを人生初めてのフィギュアスケートの場として選んだ理由は、単純に家から近かったからです。
これが割とバカにできません。家とスケートリンクの距離が離れているとやる気を失くしてしまう場合も無きにしも非ずですし。
因みに俺は目的地が遠いと、到着へのやる気を失くした挙句、喫茶店のデザート母ちゃんにおねだりし始めてシバキ倒されています。
だって疲れたら甘いもの食べたくなりますやん。つーかお腹減りますやん。食べ盛り舐めんな。
「まぁ……そう、だから徒歩数分のリンクを選んだってわけなんだけどな」
「ハルなにやってるのー、置いてくわよー」
さて、時は少し過ぎて体験レッスン終了後。
初めての相棒である貸靴にチュッ!ってやろうとして母ちゃんに止められた挙句、初めての先生である高峰瞳ちゃん先生になんとも言えない表情と視線を向けられた俺は、帰り道をえっちらおっちらと歩きながら、初めてのフィギュアスケートを行った余韻に浸っていました。
なんというか、こう……濃密だったんです。ついでに転びまくって脳ミソ出そうでした。なんなら頭がケツになりそうでした。
後……えーっと、そう、ひょうたんでしたっけ?リンクの上にひょうたんを描くように両脚を滑らすアレ。
みんなはできるであろう基礎の滑りでひょうたんを描こうとした俺の股関節は無事にバーストしました。
明日の俺の股間が心配ですね、はい。変な歩き方してズッ友達に笑われないようにしなければ。
『あら!ひょうたん上手くできたじゃない!』
とはいえ、痛い思いだけした訳ではありません。収穫だってありましたし、なんてったってリンクで滑るのは楽しいんです。
そう、言うなれば風にでもなったような感覚。リンクの上では、なんかこう。開放されたんじゃねえかってくらいのスピードが出たんです。
それがもう楽しくて楽しくて。まあ楽しみ過ぎた結果、転びまくって身体ボロボロなんですが、辞めようとは思えない──そんな楽しさがフィギュアスケートにはありました。
なので俺は余韻に浸っていたわけです。
初めてできたひょうたん。
バーストした股関節。
全身の軋む感覚。
その全てに快楽にも近い感覚を得た俺の未来は何故か明るい──そんな妙ちくりんな自信を抱きながら、俺はポケーっとしていたのでした、まる。
※
「ぎゃははは!!ハル、お前なんだその歩き方!!*1」
「そーゆーのが許されるのは小学生までだよねー!!*2」
「恥を知れっ!!*3」
余韻なんかねえよ、うるせえよ黙れよ。
どうも、みんなの笑いものであり鼻つまみものな倉見遥人です。
今の状況をざっくり説明すると、股関節バーストにより発生したクレイジーウォークが同級生のガキ大将兼友人共の腹筋をバーストさせました。
結果?
笑われてます。それ以上もそれ以下もありません。フィギュアスケートの『フ』の字も知らねーダチ共が筋肉痛で変な歩き方をしている俺を笑っているだけです。
マジふぁっきゅー。
「あのさぁ……流石に未経験を経験してきた勇者を嘲笑うのはアカンでしょ。俺の友達が無慈悲すぎて涙が止まらねえよ」
「ハルの歩き方の方がアカンすよ!」
「はいそこうっさい!!俺は勇者なんですー!笑ったら死罪なんですぅ!!!」
「大丈夫?ねえねえ、股間大丈夫ー!?」
うっせぇ!!
お前らが思っているより俺の股関節は健康で屈強なんだよシバキ倒すぞアホボケ!
頭の中でそんなことを考えていると、なんでしょう。俺の周りをかごめかごめしてる悪ガキ共にそれぞれ1発、ドギツイのを食らわせたくなってきました。
拳こそが正義ってのは聖書にも書かれていますしね。
何がとは言わんが潰した方が良いのではなかろうか……
「あーわかったわかった。未経験を経験して?それでお前の股間がバーストしたんだな。悪ぃなハル」
「お、それはそれとして現実見ようぜ。ほら見てみこの動画。ちっちゃな子達がダブルシザース?トラベリング?してんぞ*4」
「ひょうたん、得意なんです!*5」
うっひょおおおおおおお!!!!!*6
なんて感情を露わにして机の勉強道具を全部倒してしまえたらどれほど楽な生き方ができたのでしょうか。
しかし、俺の戦うステージはラーメン屋でもなく、動画の中でもなく、学校なのです。授業がもうすぐ始まるであろうこのタイミングで奇声と奇襲でダチを襲ったら俺の学校生活に規制がかかっちまいます。
学校での日常生活を生きるコツは我慢と解放のタイミングを違えないことです。授業中のような我慢の時間を、業間休みや昼休みで発散する。
それぞれの時間に応じたタイミングで、身体のバランスを取ることこそ肝要なのです。
「てなわけでフィギュアスケートについて語れる奴いない?」
「何がてなわけでなのかは知らんが、フィギュアスケートの本を持ってミミズ漁っている奴なら知ってるぞ」
「──Huh?」
何それ詳しく。
「おいなんだその興味をそそられるワードの羅列は。嘘かでまかせにしか聞こえんのだが?」
「事実を言ったまでなんだよなぁ。俺の聞いた話じゃ、フィギュアスケートに関する本をめちゃくちゃ読んで、めちゃくちゃミミズ漁って、もうむちゃくちゃやってるらしい」
傑物じゃないですか。
誇張ではありません。だって噂話のレベルではありますが、客観的に見て『めちゃくちゃ』フィギュアスケートの本を読んで、『めちゃくちゃ』ミミズ漁って、もう『むちゃくちゃ』やってるんですよね?
つまり一生懸命、一心不乱に自分のことをやっているってことです。
ちょっと前の俺なら『えぇ……』ってなってたかもしれませんが、フィギュアスケートを志すきっかけになった動画を見た今、そうは思いません。
何事にも一生懸命は素晴らしいですし、美しい。
今の俺なら純粋に、そう思えました。
「えっ、何それすごい。友達になりたい!」
「じゃあ話しかければ?」
「どこにいるんだ!そのむちゃくちゃさんは!というか名前はなんて言うんだ!!」
「ここ」
「ここ!?クラスメイトだったのか!くぅ〜!!なんで今まで見つけられなかったんだぁ!!」
「名前は確かゆい……ゆいつか、いのりさんだっけか?」
「ゆいゆいつかさんだな!分かった!!行ってくらぁ!!」
「え?ちが……おい!ゆいゆいつかさんじゃなくて──!!」
なのでまあ、道玄坂みたいな長さの苗字が気になるところではありますが、そんな子が本当にいるのならば1度声をかけてみたいと思いました。
何か後ろで友達が言ってますが知ったこっちゃねえですね。
どーせまた「ひょうたん、得意なんです!」とか言って煽ってくんだろ。
見てろお前。いつか5回転飛んでやるからな馬鹿野郎お前。
「……あれ、倉見君?あんなところでなにやってんの?」
「おい、アイツバカッ……誰か止めろ!」
「目の前で本読んでるの……結束さんだよね?」
「え、なになに。ちょー気になるー」
なので、まあ。
俺はお行儀よく席に座って、たくさんの文字を書き込んだ本を食い入るように見ている、そんな女の子の前に立ち、見下ろし。
ようやく差し込んだ影に気付いた彼女が俺を視界に収めると、俺は──
「ゆいゆいつかさん!!俺とフィギュアスケートの未来について熱く!!語り合おうぜッ!!!」
「!?!?!?!?!?」
まあその後の展開を長々と話すのもアレなんで、端的に説明すると。
苗字を間違えた俺は、喧しい声も相まってゆいゆいつかさん(仮)に酷く驚かれ、挙句の果てには逃げられて、極めつけに女子生徒をナンパしようとしたド変態として担任の先生に呼び出しを受けることになるのでした。
因みに件の騒ぎで俺がフィギュアスケートを始め、ひょうたんをやっとの思いで覚え、代償として股関節バーストをキメてしまったことは周知の事実となり、解放後はクラス中に煽り厨が大量発生する自体となったのでした。
倉見遥人、お前船降りろ。
「彼女の苗字は結束。結束いのりさんだよ。覚えようね、倉見君」
「はい……」
「繰り返し聞くけど、意地悪しようとした訳じゃないんだよね?」
「あっス……」
それはそれとして先生の説教がチクチク胸を突き刺してきます。
自業自得とはこのようなことを言うのでしょう。
聞けばゆいゆ………つかさんはほんのちょっぴりコミュニケーションが苦手なうっかり屋さんらしいそうな。
そうなるとコミュニケーションの取り方も変わってきますし、話し方なんかには特に細心の注意を払わなければなりません。ましてやファーストコンタクトで大声を出したり、大袈裟なリアクションを取るような愚行を行うなんて圏外、論外、問題外です。
聞けば簡単に手に入るような情報を事前に知っとかなかった俺が100パーセント悪いですね、はい。
これにて無事、ただでさえ接点がなく遠かった俺と結束さんの距離の間には壁ができたのでした。
うーん、アホくさ!!
「とにかく、次からは気をつけてね」
「ウッス!今度はコミュニケーションの取り方を考えて、その上で作ってしまった壁をシバキ倒しますッ!!」
「それはやめた方がいいんじゃないかな!?」
まあこれしきのことでパーフェクトコミュニケーションを諦めるほど俺は意志薄弱な人間じゃあないんですけどね。
ここを乗り越えれば学校でもフィギュアスケートの話が出来るかもしれないこのチャンス。
逃すような人間、フィギュアスケーターの風上にも置けねぇんですわ。
「ていう訳でさ、瞳ちゃん先生からも何かアドバイスちょうだい」
「T字ストップのこと?」
「ファーストコンタクトでやらかした子と仲良くなる方法」
「えぇ……」
さて、時は少し過ぎて放課後の楽しい楽しいフィギュアスケートタイム。
可能ならばタイムマシーンに乗ってこの時間を繰り返し続けていたいと思えるハッピータイムはあっという間に過ぎ去り、俺は転び過ぎにより割れたケツを擦りながらフィギュアスケート人生初の先生と呼べる人に人生の指導を仰ぐのでした。
途端、瞳ちゃん先生が苦笑しながら俺を見ます。
恐らくスケートのことを聞いてくるものとばかり思っていたのでしょう。優しい笑顔が良く似合う彼女らしからぬ笑みでした。
「そもそもの話、どうしてファーストコンタクトを間違えちゃったの?」
「苗字を間違えて勢いとノリで会話したんだ。そしたら選択ミスった。ついでに職員室行った」
「最早ミスを超越して明後日の方向に向かっちゃってるわね……」
「ははっ、今日の俺のスケーティングみたいに?」
「……」
因みに今日の俺の練習風景をハイライトでお送りしますと、前半35分にひょうたんの復習に打ち勝ち、喜びGOE+5のスーパーゴールを決めましたが、後半24分。次なる課題のT字ストップで自らの右足に、左足でニーキックをかますというオウンゴールをぶちかまし、痛み分けのドローとなりました。
(激痛で)熱いぜ右足!!(動悸で)震えるぜハート!!
まあ、それはともかく。
「お友達のことはこれからちゃんと、誠実に向き合って知っていけば良いと思うわよ?」
「それだけがヒントなのかよ。もっとこう……一気に距離を縮めるような……ほら、ステロイドみたいなのないの?」
「そんな危ない思考している内は多分その子とも仲良くなれないかもね……」
「ふぅ……」とひとつ、ため息を吐いた瞳ちゃん先生は、たかだか入会2日目にして人生相談を繰り広げたドアホウを目の前にして深くため息を吐きます。
彼女はきっと疲れてしまったのでしょう。
何せコーチとして色んな子に気を配りながら指導をして、最終的には貸し切り練習、子どもたちの大会同伴、etc……。
そりゃあ疲れますよね。
俺も瞳ちゃん先生にばっかり頼らずに自分の力で解決する力をいつか持たなければなりません。
というわけで俺のターンはエンド。
彼女の眼をじーっと見上げ、聞く姿勢を整えると瞳ちゃん先生は一言。
「向き合いたい人のことをよく考えて、知る。そうすることで、いつかその人が自分に興味を持ってくれる日が来る」
「……」
「そうして、向き合った人が自分を知ってくれれば他人じゃなくなって。その上で仲を深めていけば、そこで信頼関係が生まれる──って、先生は思うわ」
じゃあ俺は
なんてったって向き合う、考える、知るの3要素をスキップしていきなりフィギュアスケートの未来を語り出そうとしてんだもん。
そんなん傍から見たらヤバいやつじゃないっすか。そりゃあクラスで笑い者扱いされますって。
「先生、今からタイムマシーン探してきます」
「そんな都合の良いものないから」
「いや、ほら……自販機とかにないですかね?多分あると思うんですよ、ほら。瞳ちゃん先生も一緒に探そ?」
「ないから」
あっちゃ〜!狙いが外れた〜!!*7
し、しかし。しかしですよ。
仮にタイムマシーンに乗れなかったとしても、俺が終焉の運命を辿っていたとしても、まだまだ進行方向に抗いながら結束さんと手を取り合う方法はあると思うんです。
何せ俺はフィギュアスケートをやっていて、結束さんもフィギュアスケートの本を読んでいる。
フィギュアスケートという共通の話題がある限り、蜘蛛の糸は垂らされている可能性はあります。あってほしい。垂れていてくださいお願いしますッ、オラッ……!!
なのでまあ、俺が今出来る事といったら瞳ちゃん先生のアドバイスを聴きながら、九死に一生を得ることを結束いのりさんにお祈りするくらいしかないのですが……
「それを踏まえて今の倉見君の状況を私の目線で見ると」
「お?」
「初手から信頼関係を作ろうとして大失敗。苗字を間違えちゃって大火傷。相手は興味どころか倉見君に驚いて逃げてしまう始末」
「おっ、おっ……おおっ?」
「状況的には本当に最悪のスタート。後一歩間違えたらおしまい。正直手の施しようがない」
絶 望 し か ね え よ。
えー、はい。皆さん大切なお知らせです。どうやら瞳ちゃんアイズ的には最悪、1歩間違えたらおしまい。手の施しようのない状況みたいです。
これには流石の俺も笑えません。
なんてったって、結束さんと仲良くなってフィギュアスケートの未来を語れる、そんな明るい未来の崩壊が俺の一歩で決まるってんですからね。
どうしてこうなった。
「でも大丈夫、まだチャンスは残ってる。次間違えなければ万事解決よ」
いやそれ高難易度すぎるって!!
じゃあ聞きますけどさっきまで散々踏み間違えた俺の1歩が今更成功するとでも?
答えはハーフハーフどころかゼロヒャクなんだよ潰すぞボケ。
もうダメだ、おしまいだァ……!!
「それに……倉見君が初めてモノにしたひょうたん。短い時間だったけど、体験レッスンの時間を殆ど使ってようやくモノにしたでしょう?」
「はい……」
「人付き合いも同じ。ひょうたんと同じだなんて言えない。もっと時間がかかるかもしれないけど、しっかりと会話を積み重ねて。相手のことを知る時間を増やして。そうして相手との交流も重ねて。そうすることで友達になれるんじゃないかな?」
とはいえ。
未来のことは未来にしか分からないように、踏み出した結果も踏み出さなければ始まらないってのも事実っちゃ事実で。
なら踏み出してその先の未来とやら、拝んでやろうじゃねえか……!!なんて思いつつあった俺の心は完全な前向きに変貌を遂げます。
やるならやるで、前向きに。
前を向くなら、超積極的に。
そう決めた俺の心は、既に次へのステップに向けて歩みを寄せていたのでした。
「瞳ちゃん先生、ありがとうございました……!俺、正直踏み間違える未来しか見えないけど頑張ってみます!!」
「どういたしまして。
それはそうと倉見君。昨日から思ってたんだけど、私のことを瞳ちゃん先生っていうのはちょっと……」
「とびからスパイスをぶち込んだカレーのように辛辣な評価からのラッシーの如く甘い言葉で包み込む包容力……!
明日と言わず今日から!師匠と呼ばせてくださいッ!!!!」
「それより今日のT字、自分で自分の足蹴って悶絶してたけど大丈夫……?」
「ははっ、死ぬかと思った」
いい加減転ぶの減らさないとフィギュアスケーターになる前にスペランカーになっちゃいますからね。
何事もバランスよく、今日もいってみよう!と意気込む俺なのでした。
※
スポーツ雑誌『フィギュアスケート・ダイジェスト』
某特集、取材風景 一部抜粋。
──倉見選手は何時頃からフィギュアスケートを?
高峰:10歳の頃ですね。とはいっても最初はスクールでのスケート体験から始めて、そこから徐々に本格的なフィギュアスケートの練習を。
最初はひょうたんで転んで、今みたいに唸ってました。
──同じくルクス東山FSC出身の結束選手は当時の倉見選手のスケーティングやジャンプ。特に彼の代名詞であるアクセルジャンプを高く評価していました。その頃から才能の片鱗を?
高峰:才能の片鱗というか悪い意味で今の遥人君と変わらないです。
ジャンプ失敗した後にネガティブな思考になったり、変な声を上げるのは本当に昔からなんですよね。
後、変な呼び方とか……まあ色々なところで片鱗は見せてますね。
──す、スケーティングの片鱗は?倉見選手と言えば、ステップシークエンスの技術も世界的に評価されていますが……
高峰:うーん……当時はまだ基礎を固めて、ミスしては落ち込んでを繰り返していた時期でしたね。
──下積みと土台作りの期間だったと
高峰:そうですね。
──因みに結束選手の評価は……
高峰:贔屓目がちょっとだけ……いや、かなり入ってますね。仲が良くて何より「入ってません!」……本当に良い関係性なんです。お互いがお互いで競い合ってて、リスペクトもしていて。
昔からそうでしたね。
──入ってません!と後ろから声が聞こえたのですが
高峰:(ここで笑いを堪えきれなくなり一時中断)
〜〜〜
「絶対に贔屓目なんて入ってません!ハルくんは昔から綺麗に滑ってましたし、ジャンプだって姿勢も高さも文句なしで……いつもGOE+5です!!」
「ふっ、ふふふ……本当に、遥人君のことが大好きなのね……ほんと、お腹が……」
「ほら、見てくださいこれ!11歳の時に成功させたアクセルジャンプ!!どー見ても綺麗でしょうが!!私からしたらこのアクセルジャンプ、当時の光ちゃんにだって負けてませんから!!」
「待って、取材できな……とめ、止めてください……笑いすぎて、涙が……」
「……」
「あー……えっと。本当にお互いを尊重しあっているんだね、キミといのりちゃん」
「洸平先生、やめてくれよ……」
先ず、動画撮られてるなんて聞いてないし、いのりは俺のこと過大評価し過ぎだし、瞳ちゃん先生は笑いすぎだし、そもそも本人許可なしにいつまで動画垂れ流してんすか。
……え、つまり何が言いたいかって?
「本番のハルくんはいつだって、無敵で最強なんですッ!!覚えておいてください!!」
司先生!出番ですよー!!
お願いだから爆弾発言するまでにいのりを止め──
「夜鷹純さんにだって……勝てます!!」
「勝てなァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛イ!!!!」
誰か助けて!
〜〜〜
──改めて、高峰さんの思う倉見選手の長所。武器。多くのフィギュアスケーターと一線を画す点を教えてください。
高峰:良い意味で気負わない、負けない、背負いすぎないところが彼の最大の長所ですね。
普段は他の選手のジャンプやスケーティングに愕然としたりネガティブになってしまう事がありますが、リンクに上がった後は『スっと』落ち着ける。
そして、練習以上の結果を出すことができる。これが彼の好成績に繋がっていると思います。
──そのジャンプやスケーティングも決して他に劣る訳では無いと思うのですが。
高峰:本人には本人の考えがあります。私の方からその考えを直接、強く否定したり釘を刺すようなことはしません。
しかし、それと同時にもう少しリンクの外でも胸を張っていて良いとは思います。
考えがどうであれ、ここまでの結果を残して日の丸を背負うまでに至ったのは紛れもなく本人の力なんですから。
──倉見選手は『フィギュアスケートを始めてから今日までの結果は瞳ちゃん先生のおかげ』と。インタビュー等で語る機会も多く、良い信頼関係を築けていると思うのですが、何か秘訣が?
高峰:特にはないと思いますが……仮にそう思っているのなら、私のことを瞳ちゃん先生と呼ぶのはやめて欲しいですね。
──今シーズンはGPF、世界選手権で堂々の金メダル。オリンピックでの活躍も大いに期待されます。
高峰:怪我なく、格好良く、今日より強く。
倉見遥人らしいスケートで夢を叶えて欲しいですし、そのために私も微力ではありますが、力になれたらと思います。