なんか同時期に入会したノリと勢いで「一緒にオリンピックで金メダル取ろうぜ!」って約束した友達が加速度的に成長してて約束を守れそうにないんだが 作:送検
「チュッ!痛いの痛いの飛んでけー!!」なんて魔法少女チックに言ってみたところで痛みなんてものは取れません。
餅は餅屋という言葉があるように、それぞれの問題にはそれぞれ解決するための施設や場所があるわけであって、ましてや俺のような大人の力を借りなければならない子どもは、そうした場所をいち早く見抜いて問題を解決しなければならないのです。
「チュッ!痛いの痛いの〜……!飛んでっちゃえ〜!!」
「…………?
…………あっ!と、飛んでったよ、ありがとう倉見君……!」
「泣いていいかな?」
「なんで!?」
さて、時刻は昼休みを過ぎようかというところ。
先程までミミズの権利を両手で侵害し、あろう事かミミズに怒鳴り散らかし、あまつさえおままごと大好き低学年のガキ共をとっ捕まえようとしていた悪人としての業を貪り尽くした俺。
そんな俺が何故保健室にて結束さんに「痛いの痛いの飛んでけ〜!」の魔法をかけているのかは、勿体ぶらないで正直に言いましょう。
フツーに結束さんが泣きそうになってたから道化を演じただけです。
誰が好き好んで魔法少女なんてやるか。
「あれ?でもお姉ちゃんは『痛いの痛いの飛んでけー』しか言ってなかったような……」
「……」
「……あっ、でもそれぞれのお家でやり方とかも違うよね。その、保健室に連れて行ってくれたり、おまじないしてくれたり……ありがとう、倉見くん」
死体蹴りかな?
しかしまあ、そんな俺の涙ぐましいお道化の甲斐があったのか、先程までとは違い結束さんは俺に話しかけてくれています。
先程までの会話が出来ない状態ではありません。レッドスターよろしく逃げたりもしません。なんなら、さっきまで治療を施してくれていた保健の先生から安静を命じられているため保健室からは逃げられません。
何やら犯罪臭のする展開ではありますが、関係ありません。
先程試みようとした会話のキャッチボール。
結束さんにもキャッチ出来るように、なんなら会話を行うべく、俺は赤い彗星イノリ・ユイツカに一球を投じるべく、振りかぶったのでした。
「結束さんってさ」
「……?」
真っ赤に燃える王者の印!!
巨人の星に──俺はなるッ!!
「意外とドジっ子なんだな」
「……!!(ショックのおと)」
う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!゛(失投)
すっぽ抜けでメンタルブレイクさせてどうすんだよぉ!!
ほらぁ、見てくださいよこの顔ォ!!なんかすっごい……こう、……しょげちゃってるじゃん!!
お前アホか!?瞳ちゃん先生に言われたこと右から左に受け流してたのか!?
早速、颯爽と道踏み外してんじゃん!!
そういうプレイなん!?
ワードチョイス下手すぎなんだよボケが!!
「そ、そう……だよね。私、よく転ぶし、宿題も忘れちゃうし、頼まれたことも、教科書も忘れちゃって……」
「いや、その。違くてな。少し雰囲気を和ませようとしただけなんだ。ドジっ子って言っても、ほら……色々種類があるだろ?その……まあなんだ。俺が悪かったよ、ごめんな」
「ごめん……」
「なんで結束さんが謝ってんだよシバき倒すぞ!?」
いや本当に!
ちょっと暴力的な表現になっちゃったけど、謝る必要ないのに謝られるのが1番困るんじゃい!
だから謝らなくていいから!その選択肢が1番俺を狂わせるから!パニックになってもっと変な選択肢選んじゃうから!!
「……」
……えー、はい。
まあそんな風に内心で慌て散らかしたところで状況が良くなるわけないので、ここは一度心を整えて失言を詫びましょう。
大丈夫、誠心誠意を以て謝意を示せば多分分かってくれます。
そしてまだ建て直すことだって可能です。
なんなら瞳ちゃん先生の予言が当たりまくって、地雷を踏み抜いた末路を辿っているような気がしますがメイビー大丈夫なはずなんです。
「……失言だったな。別に結束さんを揶揄している訳じゃないんだ。なんつーか、こう……可愛げがあっていいじゃないか、ドジっ子。何も悪くはないな、うん」
「……うん、ありがとう」
「けど、悪い風に捉えられても仕方ない言い回しだったよな。うん、まあ……はい、すいませんでした」
悪ィ、やっぱ
謝意を示したは良いものの、そんなゴミのような一言で印象がガラッと変わるはずありません。結束さんは現状に俯き、俺は未来に慄き、これにて結束さんと俺の関係は完結。
火を見るより明らかなBAD ENDですね。
今からでも戻れるセーブポイントはありますか?
「……あの」
「ん?」
しっかしまあ、こんな終焉という言葉が似合う場面においても女神様やら神様やらは手を差し伸べて頂けるようで。
目の前でめちゃくちゃしょげてた同じクラスの結束さんは、いつの間にかうつむき加減の視線を俺へと移し、一言。
「話しかけてくれたのに、逃げたりしてごめんなさい……」
そう言って、頭を下げたのでした。
恐らくなけなしの勇気だったのでしょう。それ以降、結束さんはうんともすんとも言わずに黙りこくってしまいました。できることなら頭くらい上げて欲しいものなのですが、そこまで言う権利も立場も俺にはありません。
俺は、
それにも関わらず、必要以上に追いかけ、選択肢の尽くを踏み違え、挙句の果てには会話を途絶えさせてしまうという体たらく。そんな馬鹿みたいな俺を、結束さんは会話を続ける事で救ってくれたのです。
「……」
もしかしたら、結束さんは俺のことが大嫌いなのかもしれません。
顔も見たくないのかもしれません。
それでも、結束さんは勇気を出してくれました。会話を続けてくれました。そしてなにより、こんな俺に謝ってくれたのです。
ならば、俺にもやらなければならないことがあります。
結果がどうなろうと、そこはもうどうでもいい。
なんなら、友達になれなくたっていい。問題はそこじゃないんです。
「俺が結束さんを追いかけてた理由」
「……え」
「話してもいいか?」
今、俺にできること。それを全うすること。
だって結束さんにそこまでさせといて、無言はダサ過ぎでしょ?
俺はタイムマシーンで過去に戻りたいと常日頃から思っているヤツですが、現在に生き恥を晒すような行為はもっと嫌いなんです。
※
「タイムマシーンどーこだー……」
「うわ出た」
「……」
黒い髪を伸ばした女と、母親譲りの金髪を短く切った男が、1人の変人の醜態を眺めていた。
時刻は午前の真っ盛り。1つのアイスアリーナにて行われる強化合宿に参加していた2人のフィギュアスケーターはお互いの認めた好敵手達と切磋琢磨し、こういった休憩の時間にそれぞれの状況を話し合っていた。
2人は、ほぼ家族同然の存在だった。
幼い頃、1つ屋根の下で生活を共にし、培ってきた友情があった。
故に、己の状況を語り合う。そこに男女の分け隔たりはない。
お互いを認め合い、尊敬し合い、それぞれの現状を語り合うのだ。
そして、語り合いの最中に視界の端に人影を見付け、揃って自販機の方向を振り向くと、そこには強化合宿に呼ばれる程の実力を誇る2人が認めるフィギュアスケーターがいて。
その姿に声をかけようとして、2人は思わず呆れた視線を向けたのだ。
「ねえ、理凰」
「?」
「前に遥人君と話した時、遥人君はこう言ったんだよ。『いのりに顔向けできないような生き恥は絶対に晒さない。タイムマシーン乗る以前の問題だ』って」
「うん」
「その言葉で、私は遥人君を見直した。言うだけじゃなくて、結果を何度も残した。
「……」
「だから、私は遥人君を認めている。遥人君の言うことなら、正しいんじゃないかって思ってしまう位に」
彼女が話した内容に嘘は無い。
群雄割拠の男子フィギュアスケート界に彗星の如く現れた綺羅星。
リンクの外では普通、たまに常軌を逸したタイムマシーン探しをする以外は至って平凡な男。
しかし、氷上では彼女の語ったように結果を残し、唯一無二のジャンプで魅了し、歴史を作る。
その歴史に刻み込んだのは決して生き恥の類ではない。
それは他ならぬ2人が。──そして、同期の仲間が知っている。
「……で、光はその判断を後悔しているって話?」
「……」
「今頃になって気付いたの?」
「…………」
「昔ッからこうだよ?コイツ」
だからこそ、光と呼ばれた少女は内心でズッコケた。
無論、光が実際にそんなヘマを犯すことはない。しかし、内心ではものすごーく頭を抱えたかったし、なんなら目の前の男の胸倉を掴んでしまいたい気分でもあった。
しかし、1度認めてしまった相手にそこまでの行為をするほどの非道さも持ち合わせていなかった光は、衝動を押し殺し言葉を紡ぐ。
若干怒りで震えた声を、家族同然のフィギュアスケーターはなんとなーく察知した。
「……普通気付かないよ。私の前で何度も啖呵切って、その尽くを有言実行してみせた勝負強さの塊みたいなフィギュアスケーターが、裏では歌いながら自販機でタイムマシーン探してるなんてさ」
「じゃあ今日から遥人は
良かったんじゃない?遥人の新しい一面を知れて」
「理凰。私が言うのもなんだけど、遥人君に毒されてない?」
「毒されてんのは光の方でしょ」
「というか生き恥の話は何処へ行ったのさ、遥人君」と語りかける声に、呼びかけられた男。──倉見遥人は応じない。
その代わりと言ってはなんだが、虚ろな目でなんか変な歌を歌い始めた。
光の眉間に青筋が立った。
理凰と呼ばれた男は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
「帰りたーい……帰りたーい……5歳の頃ホッピング、竹馬、トランポリンで無限に遊んでた馬鹿な俺が待っているー……」
「ねえ、理凰……これは紛うことなき生き恥じゃない?」
「遥人とエビ曰くセーフ」
「エビ……?」
「……いのり曰く『なんだかんだ結果出しちゃうから大丈夫』らしい。つーか、実際結果出す以上のことしてるから何も言えない。こいつマジで腹立つ」
「私はこの光景が生き恥かどうかの話をしてるんだけどなぁ」
問題は今、倉見遥人がヘタレで変態な現状なのだ。情けなく自販機に縋りついて「自販機ぇも〜ん!!!」と泣きじゃくる馬鹿の何処を見たら真っ当な人間に見えるのだろうか。
何より今は強化合宿の最中。こんなところでタイムマシーン探しをしていたら普通に叱られ、下手したら強化合宿から追放されるやも分からない。
時間が時間なら、顔に泥を思いっきりぶちまけてた所である。
少しは日の丸とトップ選手としての自覚を持って欲しいと思った光だった。
「……そもそも今の遥人君が過去に戻る必要なんてないでしょ。なんでタイムマシーン使いたがるかな……」
「習性でしょ。アイツの場合、もうタイムマシーンを探すことが日常の一部になってんだよ」
「そんな日常嫌だ」
「自販機ぇも〜ん!!」
「ほら、また遥人が馬鹿なことやってる」
「遥人君、ちょっと黙ってて」
まあそれはそれとして、早く遥人限定で名探偵にも特効薬にもなるいのりちゃんに来て欲しいと光は本気で思った。
不思議なことに、遥人の奇行問題は同期であり親友である結束いのりの投入によって即解決する。
それが、彼等の信頼関係から織り成す一種のコミュニケーションなのか。それとも暇を持て余しただけの遊びか。
それは、彼等の関係性を深く知っている訳では無い光には分からないのだが、少なくともこの事実はたった今、理解した。
『倉見遥人の今は、間違いなく生き恥だ』と。
そして、『いのりちゃんが居ないとこの事件は終わらない』と。
その事実を理解した光と、その事実を識っていた理凰は揃ってため息を吐く。
文字通り、この状況に匙を投げたのだ。
そして、漸く周囲の様子を察知した遥人が後ろを振り向き。
2人の姿を見付けると、氷上では魅せることのなくなった人懐っこい笑顔で笑いかけた。
「やい!さっきから黙って聞いてりゃチピチピチャパチャパと……って、なんだヒカルか。よし、お前も一緒にタイムマシーン探そう、運良く一緒にタイムリープ出来たら俺にスケートを教えてくれ……!!」
「もう遥人君に教えられるものないよ。逆に何を教えてもらいたいの?」
「ルッツゥ!!ルッツゥ!!!」
「えぇ……」
その笑顔に、2人が日常を取り戻したのも束の間。
「キミ、それ4回転で跳んでるじゃん」と独りごちた麗しき天才フィギュアスケーターは、お返しと言わんばかりに取り出し口を探し始めた遥人のケツにインステップキックをかました。
ぶっ転がしてやる!と遥人は立ち上がり、取り出し口に頭をぶつけた。