不遇水魔法使いの禁忌術式 すごくえっち!   作:ニーガタの英霊

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どうしてちゃんとした研究機関に行かずにこんな場所に来たの?

─帝国暦400年 フラウム魔法帝国辺土 ドゥーナス諸島 港湾都市オッシ─

 

「うおおおおおおおお!!!! 点火(イグニス)ゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 教えてくれ五飛、いつになったら俺は魔法が使える? ゼロは何も答えてくれない……。

 

「ここまで才能がないのも珍しいですね」

「かわいい顔してすげー辛辣なこと言うぢゃん……」

 

 もう少しオブラートに包んで欲しいのん。

 

「四属性全てが駄目……そうなると根っから魔法を扱う才能がないということになるんですけど……」

「ちなみに魔法が使えない人ってどのくらいの割合なんスか?」

「魔法の血統の保護や発掘に力を入れている魔法帝国でもおよそ一割の人が魔力親和性に乏しい人とされてます。他国であればおおよそ二割五分から三割といったところでしょうか」

「少ないけれども、極端に居ないわけでもないのか……」

「えぇ……ですが、天魔人の末裔を名乗る者として魔力に優れない、あるいは全く使えない人はその……」

「あー、おけまる。差別対象な訳か」

 

 サーシャは口には出さないものの、こくりと頷く。

 

「この世界クソっスね。忌憚ない意見ってやつっス」

「え、えっと……そんなに悲観することはないよ?」

 

 優しさが 岩に染み入る 蝉の声。

 

「こんな流刑地にいるとは思えないぐらい、思いやりに溢れた子で拙者困惑侍」

「──えっ」

 

 サーシャは驚きに顔を染めて俺の方を振り向く。

 

「いま、なんて……」

「困惑侍」

「ち、違います! なんで……ここが流刑地なんて」

「見りゃわかるお」

 

 まず地理。大部分が砂漠に覆われた場所であり中間地点のオアシスすらない立地。まともに住めるのは沿岸部ぐらいであり、点と線で結ばれた沿岸輸送や漁業ぐらいしかまともな経済活動がないこと。

 次に政治体制、街を治める領主層の姿がないことやまともな農耕技術の発展しがたい地政学的状況。産業基盤的に漁業に依存していることから漁業組合による民主的な自治が行われていることは手に取るように分かる点。

 最後に此処が魔法帝国の最東端であり、船の数に比べ港湾の整備自体はあまり熱心ではないことおそらくは地元の漁業者だけが利用するだけで輸送船や定期的な巡回船が居ないことを示す。

 

「以上のことから、田舎すぎて中央の統制が聞かないクソ部落か、産業基盤が詰んでるから統治の採算の合わない流刑地の二択になる、って考えたんだけど。違う?」

「……いえ、違わないです」

 

 サーシャの目はジトォと訝しげに俺を見つめる。もしかして俺に惚れちゃったのかな?

 

「ショージさんってもしかして頭いい?」

「わしバカに思われてたん? 酷くない?」

 

 貴様ーっ!! 俺を愚弄する気かあっ!!

 まあ、精子脳してるからバランスは取れてるんだけどね。

 

「……聞かないんですか?」

 

 サーシャは、杖を強く握りながら俺に問を投げかける。

 不安そうな、思うところがありそうな顔で。

 

「聞いてほしいのか?」

「それは……」

 

 それっきり、サーシャは黙ってしまう。

 

「言いたきゃ言えばいいし、いいたくなきゃ言わなくていい。君がどういう人間かなんて、結局のところ俺が見て俺が判断するしかねぇんだ」

「……もし、私が悪い人ならどうするんですか?」

「ふっ、いい言葉を教えてやろう──そんときゃそんときだ」

 

 サーシャはポカーンと呆気にとられたかのように口を半開きにして驚く。

 

「人と人の関係性なんてよぉ、結局のところそいつが好きか嫌いかでいいんだよ。自分にとって利益があるとか、こいつは悪いやつだから付き合わねぇとか。そういうことばかり考えてると俺は鬱になるからしねぇだけだし」

「……なんですかそれ」

 

 呆れを孕んだサーシャの声。

 強張った表情が霧散し、力が抜けたように彼女は笑う。

 はにかんだ小動物のような無邪気で野辺に咲く花のような笑みはとても綺麗だった。

 

「とりあえずさ、行動指針なんだけど……どうやったら俺はマイ・ワールドに帰れると思う?」

「あぁ……壊しちゃいましたもんね、遺跡……。うぅん、ちょっと待ってくださいね」

 

 サーシャは懐から大きめの羊皮紙を取り出すとそれを指で指し示しながら言葉を紡ぐ。

 

「今いるのがこのオッシです。諸島最東端でショージさんを発見したのが少し西に進んだどころです」

「なるほど……つまり千葉から東京ぐらいの感じね」

「どこですかそれ?」

 

 サーシャはツッコミつつも慣れたように俺の発言をスルーする。サーシャは俺によって汚れてしまった。このままお前はツッコミ芸人の道を進むしかないんだ。

 

「さらに西進するとチッタという都市があります。ここはドゥーナス諸島最大のオアシスになってます。そこから陸路で北西に進むとナーダという大運湖があります」

「大ウンコ!?」

 

 クソみたいな名前っスね。忌憚ない意見ってやつっス。

 

「そこから北に回ったところに巡回輸送船があります。これに乗れば魔法帝国本土とドゥーナス諸島の玄関口であるシンヨーに到着します」

「長崎の出島みたいやん、既視感があるわぁ」

 

 商業流通的に言えばシンヨーとナーダとチッタの三都市が活発なのだろう。

 

「どうしてナーダじゃなくてこんなところに来たの?」

「……理由は色々あるんですが、オッシというよりオッシから少し西に行ったところには大地人の大神殿があるという伝説があるんです」

 

 そう言うと、サーシャは地図上に指を差しながら興奮した面持ちで話し始める。

 

「世界の大地人たちはキューシュトゥと呼ばれる場所に地下大神殿を築いたとされているんです。このキューシュトゥはフラウム魔法帝国の北東部にもありますが、その内部に関しては不明な点が多いとされてるんです。ドゥーナス諸島はフラウムにあった神殿とは別体系の技術文化があったとされてるんです。フラウムよりも遥か西では幾つものキューシュトゥと呼ばれる大神殿が乱立している例外もありますが大地人の風俗や文化に差異があればあるほどキューシュトゥと呼ばれる大神殿がある可能性が高いんです!!」

「ちょっと待ってくれたまえ。言葉の洪水をワッと一気に浴びせかけるのは!」

 

 専門用語を増やさないでほしい。この分野に関してはあまり詳しくないのだ。

 

「三行ぐらいでよろ」

「ここに! ドゥーナスの! キューシュトゥがあるかも!!」

「おけまる水産」

 

 あいつ大地人のことになると早口になるの気持ちが悪いよな。

 

「それじゃあ、いつ出発する? 俺も着いていくぞ」

「えっ……?」

「えっ……?」

「えっ……着いてくるんですか? 危ないですよ?」

「駄目なのん? 俺が異世界・ワールドからマイ・ワールドに戻るためにはその大地人の神殿遺跡を調べるのが近道な気がするんだが?」

 

 サーシャは顎に手を当て思案する。

 

「私が一人で勝手に調べる分には私が最悪死ぬだけで済むんですけど、ショージさんが来たらショージさんの命が危険ですよ?」

「なんでそんな覚悟ガンギマリなの?」

「それに、砂漠という環境下だと水属性魔法は圧倒的に不利なんです」

 

 おすすめできないとサーシャは俺の神殿探索に否定的な意見を述べる。

 

「そういや、俺を脱水症状から救うためにわざわざややこしい手段をとってたよね……今みたいにぱっと使えないものなの?」

「魔法はあくまで魔力を使って現象を再現する方法でしかないんです」

 

 サーシャはわかりやすいように滔々と語る。

 

「世界には目に見えない力の流れがあります。場所によって有利に働く属性もあれば不利に働く属性もあります。例えば洞窟内部、暗い洞窟を探索するためには火の魔法が必要不可欠ですが、火魔法に必要な火を燃やし続ける空気が常に必要なのです。同様に水魔法にも大気に流れる目に見えない水の素となる力があります。洞窟であれば燃やす力が制限されますし、反対に燃やす力が強すぎて洞窟内で大爆発を起こしてしまう危険があります。港湾都市では海が近い分、大気から水の力を得るのは簡単ですが、砂漠の中ではそれを得るのはほぼ不可能なんです」

「……話がムズくて半分も理解できねぇわ。とりあえず砂漠がカサカサしてるから水素たんなくて水がつくれない、ってコト!?」

 

 なんというか魔法と言うには化学っぽい感じもする。

 随分と質量保存の法則とか無から有は生み出せない的な錬金術めいたものが魔術っぽい。

 万能の力などこの世には無いということなのだ。

 

「めちゃくちゃ不遇ぢゃん水属性。どうして近場の遺跡に行かずにこんな砂漠に来たの?」

「そこに遺跡があるからですね」

 

 ジョージ・マロリーだってもう少し考えるよ?

 

 渋るサーシャを説得し、俺達は砂漠の調査に向かうために準備を始めた。

 

「どうして本土にある遺跡に行かずにこんな場所に来たの?」

 

 オッシの街にいる棄民四世のクランシー神父は理解しがたいものを見る目でそういった。

 サーシャの目は曇った。

 

 クランシー家はオッシの街の名士でありフラウム魔法帝国から棄民としてドゥーナス諸島に送られた非魔法使いたちを率いてドゥーナス諸島の数少ないオアシスを開拓した知識人でありリーダーであった。

 初代クランシー司祭は聖教の司祭であったためクランシー家は街の神父と教会の管理者を代々名乗っているものの、実際に聖教の本場である聖都にで修行を積んだわけではないので自称神父であるらしい。

 

「初代クランシーの手記はありますが、それらしい記述はありませんね……。そもそも大地人の遺跡は地下に作るものですから、わざわざ砂を掘り起こして調査するほどの労力は当時にはなかったのかと思われます」

「成果なしヤンケ、どうすればいいんヤンケ?」

「砂漠自体に大地人の遺産である魔物も闊歩してますからね。陸路での砂漠の横断は危険ですよ。現地人でもセントール大砂漠には近づきません」

 

 サーシャが単独で遺跡を調査したことを言ったらドン引きするんじゃないんスかね、この神父。

 

「砂漠の魔物になると大蠍(おおさそり)砂蚯蚓(すなみみず)が危険ですよ」

「どういう生き物か聞いてもいいスか?」

「大蠍は全長2メートル、高さは成人男性の腰辺りの巨大な蠍です。外骨格が堅く非常に獰猛で縄張りに入ったり察知されると誰にでも襲いかかります」

「やべーぢゃん」

「でも美味しいですよ?」

 

 サーシャ、味は聞いてないんだ。

 

「砂蚯蚓は全長5メートルから10メートルの巨大な蚯蚓だ。歯があってなんでも擦り削るように丸呑みするため足や腕を失った例に枚挙がない。極度の興奮状態になると口から炎や雷を放出する、大砂漠で一番危険な生物だ」

「モンゴリアン・デスワームじゃねぇか」

「でも美味しいですよ?」

 

 何言ってんだろうこの女。

 

「我々砂漠の民からしたらご馳走だね。可食部位が多く、血液など多量な水分を含んでいるから栄養価も高い」

「もっとマトモな食事はないのかよ、えーーーっ!?」

「あったら蚯蚓なんて食べてないよ」

 

 さ、砂漠って過酷なんだな……。俺は早くこのクソ環境から抜け出したいぜ。

 

「砂漠は砂蚯蚓の奇襲に警戒を払いながら進むか、大蠍に追い回されるかの二択なんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

「どちらがまだ安全ですか?」

 

 ここまで聞いて諦めないのか……。心が強え女なのか?

 

「大蠍のほうがまだ対処出来るね。外骨格は堅く剣は歯が立たないけど、メイスの衝撃は通すんだ。隙をついて頭に思い切り打ち込めば気絶させられるよ」

「すみません。それって棍棒を打ち込める距離まで接近しなきゃならなくないですか?」

「ああ、だから尾の毒にやられる死亡報告も多いんだ」

「どっちみちクソゲーじゃねぇかよ、あーーーっ!!!」

 

 欺瞞だ……全てが欺瞞に満ちている……。

 

「あとは砂漠蜥蜴(さばくとかげ)がいるけどこいつはサボテンしか食わない草食動物だ。危険性はないし臆病だからまず人に近づかない」

「美味しいですよ」

 

 怒らないでくださいね、味の感想しか言わないなんて馬鹿みたいじゃないですか。

 

「蚯蚓の対処ほうはないのん?」

「ない。ただ天敵は大蠍だから大蠍がいるところには砂蚯蚓はまず居ないよ。我々は大蠍が倒した砂蚯蚓を横から奪い取って確保するからね」

「良く出来た食物連鎖スね、忌憚ない意見ってやつっス」

 

 っかしいだろ!! なんで情報を集めていくうちに結論が無理になっていくんだよ!!

 

「諦めるのは簡単です。でも私は諦めたくないんです」

「何が君をそこまで突き動かすの?」

 

 もしかして馬鹿になっちゃったの?

 

「だって、ショージさんは帰りたいんでしょう?」

 

 不思議そうにサーシャはそう言った。

 

「帰りましょうよ。貴方には、貴方を待っている人がいる。その手助けをするのは当然でしょう」

 

 たったそれだけ。サーシャが諦めない理由は俺を元の世界へと返す為だった。

 

「迷っていたら、手を引いて道を示すこと。怪我をしていたら手を当てて慈しむこと。泣いていたら撫でてやって慰めてやること。困っている人がいるなら一緒に悩んで答えを見つけること。人間ならやって当たり前のことでしょう?」

 

 ごく当然のように、当たり前の事を当たり前のようにやろうとサーシャは言うのだ。

 

「ショージさん、私は枯れそうな花に、水を注いでやるように。私がそうしたいから動いているんです。そうすべきだからやっているんです。ただそれだけですよ」

 

 サーシャという少女は、綺麗事を綺麗事としてではなく、行動として示すことができる。そういう魔法使いだった。

 

「君、やっぱ馬鹿だろ」

「なっ、ひどいですよショージさんっ!! 私これでも座学の成績は優秀だったんですよ!!」

 

 しらんがな。

 

「おっちゃん、ちぃっと教えてもらいたいことがあるんだけど。いいかね?」

「私に出来ることであれば、なんなりと」




クランシー神父
 元ネタはTDK編におけるクランシー柔術のクランシー兄弟。
 魔法帝国内部における非魔法使いの棄民政策に真っ向から反対し、棄民たちとともに帝国辺土にして砂漠しかない過酷なドゥーナス諸島に民衆を守り導くために立ち上がったガンギマリ聖職者の末裔。
 初代クランシーが帝国本土の玄関先であるシンヨーを開拓し、東進の結果、ナーダやチッタを開拓、最終的にオッシにたどり着き、その生涯を終えたドゥーナス諸島の文化英雄。
 民衆や困難の中にある人々には心を安定させるために宗教が必要と考え、聖教の教えを決して私利私欲で使わず、政治にも利用せず人々の生活の憩いとなる様に遺言を残し亡くなった。
 そのため代々クランシー家はオッシの名士であり有力者であるが現在の漁業組合により民主会議には参加せずに教会の守護者としての地位で今も砂漠の中に生きる人々の支えとなっている。
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