不遇水魔法使いの禁忌術式 すごくえっち! 作:ニーガタの英霊
─帝国暦400年 フラウム魔法帝国辺土 ドゥーナス諸島 セントール大砂漠『旧■■湾』─
生きのいい丸々太った青魚。首を切り落とし、肛門から包丁を入れて内臓を取り出す。
三枚には下ろさずにあくまで開きを黙々と作り出して地面の上に置かれた
「ほわぁ……凄いですねぇ」
サーシャは解体されていく魚の姿に目を光らせて興奮した面持ちを見せる。
「ふっ、そう誉めるな……俺は料理の達人なだけだぜ!」
「いやぁ、お上手ですよ。私も料理はできますが、魚はあまり見たこともないので……」
料理のできる男はモテる。俺は川越シェフを見て料理を始めたんだ。
だがモテることはなかった。理由は簡単だ、女の子の前で料理をすることがなかったからだ。
シェフ……貴方の教え、俺は今実感してますよ。
「まあ、これだけ捌いてもまだ10倍ぐらいあるんだけどな」
「えへへっ、張り切っちゃいました」
オッシを出て、西進し海岸線を目指すこと四日。
クランシー神父の話を総括し砂蚯蚓の生態を詳しく調べたところ、どうやらこの蚯蚓は夜間は休眠状態に入ることが判明した。
そのあとは日中の移動は控え、夜間に移動することを徹底し魔物との遭遇を避け。俺たちは大地人のキューシュトゥを目指して探索するために海岸で拠点と物資の補給を行っていた。
「ほい、脱水お願い」
「はいっ、お願いされましたっ!」
サーシャは簾の上に置かれた開きに対し、幾何学模様の光を展開する。
「それってどういう仕組みなの?」
「これですか? これは術式ですね」
なんてことなさげにサーシャは答える。
「魔法についてはわかりますよね、あれはあくまで現象を再現する方法でしかありませんが細かい操作は聞かないんです。ですから、魔法を加工して細かい操作や一部の機能を増幅、あるいは切り捨てるようにして使いやすくしたものを術式──魔術となります。この術式の研究と開発を行う人を魔術師というんですよ?」
「魔法使いと違うのか?」
「資格の有無だったり、単純に研究機関に勤めているかというのもありますよ。……私はそこまでの術師ではないので……」
あれかな、魔法使いが大卒だとしたら魔術師はまんま博士号とか研究員とかそのクラスになるのか。
「あれか、自動車を使う人と自動車を作る人は別ってことか」
「私の先生は土属性の魔術師で、帝都で建築や街道の施設のための術式を発明していたりすごい人なんですよ」
「土建屋ヤンケ」
急に想定した規模からスケールダウンしたんだよね。
いやだが、ドリルを発明したり、ショベルカーみたいに瓦礫の粉砕と運搬を効率的に行う機械を発明したと考えるとやはりすごいのでは?
「もう……会えないでしょうけど」
そういったサーシャの声には一抹の寂しさのような鬱屈した感情が見て取れた。
「……腹減ったな、飯にするか」
「ご飯ですか? わかりました。今、火の準備を」
「いらねぇよ、生で食うから」
「生で食べるっ!!?」
サーシャは目を見ひらいて引き気味に答えた。
「だ、だだだ駄目ですよショージさん!! 魚は生で食べたらおなかを壊しちゃいます!! モーニンさんなんてそれで三日も寝込んだんですよ!!」
「誰だよモーニンって」
まあ、サーシャが言っていることは事実だ。
実際に海魚にはアニサキスといった寄生虫が潜んでいることが多いことは事実だからな。
「だから、
「なます……?」
「まずはこのアジ……こいつの三枚に下ろす。んでこいつに薬味を加えながらひたすら叩く」
「おさかなさんになんの恨みが……」
は? かわいいかよ。
「味噌があればなぁ……なめろうにできたんだが、ここにはないんでこいつを使う」
「お酢……ですか?」
「そう、こいつを皿に盛った膾にぶっかける」
「すっぱそう……」
お酢は酸性なので殺菌作用があり、目に見える寄生虫は膾にすることで物理的に殺し、目に見えない寄生虫は酸の海で殺す。こうすることで生魚でも比較的安全に食えるのだ。
「食ってみろ、飛ぶぞ」
「……いただきます」
サーシャは匙と皿を受け取り、恐る恐る口に運ぶ。
「あっ美味しい……。さっぱりしてていいですね」
「砂漠の環境下で疲労もあるし酸味で唾液腺が刺激されるからうめぇだろ」
「すごいですねショージさん!! さすがです!!」
「そう誉めるな、むふふ」
とっても嬉しいのん。
「確かにこれはイケるね」
「そうだろうそうだろう……」
細目で筋肉質な兄ちゃんも頷きながら膾を口に運んでいるのもみて異世界でも膾は受け入れられるんだなぁと俺は思った。
「えっ……誰!?」
誰!? 誰なのぉ!!? 怖いよぉ!!
突然、気配なく俺たちのパーソナル・スペースに潜り込んだ優男にビビる俺に対し、サーシャのとった行動は早かった。
サーシャは膾の皿を男に向かって投擲し弾幕を作るとそばにおいてあった杖を握り男の顔面にある人中に向かって突きを繰り出す。
「ああー、駄目駄目。勿体ない」
男はサーシャに向かって手を払うように扇ぐとサーシャの身体が浮き、水平に落下するかのようなスピードで弾き飛ぶ。
「せっかく作ってくれたんだよ、サーシャ。食べ物は粗末にしちゃいけないってティーガー・ルーニンは教えなかったのかい?」
「
ナイトハルトと呼ばれた男は大口を開けて膾を口に流し込む。うん美味い、と唇についた
俺は超展開すぎてついて行けなかった。
「わかっているだろう? サーシャ。竜魔公がお呼びだ」
「関係ありません。私とあの男は何の関係もありませんからっ!」
サーシャの余裕のない、それでいて嫌悪を滲ませる表情は始めてみた。
そして俺は竜魔公とかいう新キャラに戸惑っていた。なんじゃあ……この展開は?
「──ッ!」
瞬間、サーシャの姿が消えると、その姿はナイトハルトの頭を唐竹割するように杖を振り下げていた。
君のバトルスタイルってそういう感じなの!?
「やれやれ、お転婆だねぇ」
「チッ──!」
打つ、打つ、打つ、打つ──目にもとまらぬ杖の突きがナイトハルトに襲い掛かりナイトハルトはそれを撫でるように手を振るう。
「やめてくれサーシャ、本気で戦いたくない」
「竜魔公に尻尾を振った男が何をいうんですか!!?」
「ひどいこと言うなぁ、まぁ事実だから仕方ないけど……」
ナイトハルトが大きく手を振るうと砂埃が巻き起こり、砂の礫がボボパンッと、サーシャの肌を強く打ち付ける。
「やめようよ、サーシャ……兄妹喧嘩はしたくないんだ」
細く閉じられた瞳が開き、そこにはサーシャと同じ黄金色の瞳が輝いていた。
「半分血がつながってるだけで、兄妹もなにもないでしょう」
「それは、まぁそうなんだけどね。僕だって親と言われれば竜魔公じゃなくて
えらい嫌われている竜魔公なる人物。
「海岸という地理で私に勝てるとでも?」
「そうは思えないからやめようっていってるんだよね」
ナイトハルトは肩をすくめて、嘆息する。
「彼──巻き込みたくないだろ」
「私がそのようなヘマをするとでも?」
「僕がしちゃいそうなの!! もう、そういうところが頭ドラクリアなんだよ!!」
その言葉を聞いた瞬間、サーシャは杖を強く砂地に押しつけ、ナイトハルトに対してにこやかに笑う。
「死にたいみたいですね」
「男に逃げられるよ?」
海岸が暗く影が広がり太陽が隠れる。サーシャの後背にはまるで高層ビルのような海水の壁が大きく聳え立つ。
「ねぇキミ。本当にサーシャでいいの? あの子ちょっとドラクリアの悪い血引いてるよ。ガチで」
「すみません、ドラクリアがまず何なのかわからないんです」
「ちょっとぉ!! 何ショージさんに変なことを吹き込んでるんですかナイトハルトォ!! そこにいたらショージさんを巻き込むでしょうっ!!」
「そんな攻撃受けたくないからこの子の傍にいるんだよね。ねぇサーシャ本当やめない?僕は『天魔の再来』と争いたくないんだ」
「……その渾名は嫌いです。私は水如雨露のサーシャでいいんです」
ぷんすこ! と頬を膨らませて不機嫌そうに顔を横に向けるサーシャ。かわいいかよ。
「サーシャ」
「うっ、ショージさん」
バツが悪そうに、目を逸らすサーシャだがそんなことはどうでもいい、重要なことじゃない。
「君の後ろにある、それ」
「えっ……あっ、えっとぉ……こ、これは……そのぉ」
「右上のところ!! そこにいる魚っ!! 逃がさないでっ!!」
「えっ、右上!? えっ…なんで!?」
「まぐろだあああああああああああああああああああああああ!!!!」
海のブラックダイヤ、クロマグロ。こんな沿岸部にいることはまず珍しい。
しゃあっ今日は大トロ祭りだ!!
─帝国暦400年 フラウム魔法帝国辺土 ドゥーナス諸島 セントール大砂漠『旧■■湾』─
「いやぁ、本当美味しいねぇ……刺身というのは始めて食べたけどなかなかイケるもんだ」
「ぶへへへ、まぁ大トロなんてものは4,5切れほど食べたらあとは脂がきつくて食えたものじゃないんだ。残りはねぎま鍋とかにした方が良いよ」
「うー……」
頬を膨らめてぶっすーと不機嫌そうな面持ちを隠そうとしないサーシャ。
なんだかんだ二人旅をしていたところを邪魔されて随分とご立腹らしかった。
「サーシャも食べない? これ本当美味しいよ」
「おなか壊しちゃえ」
「ひどくない?」
ナイトハルトに対して塩対応のサーシャさん。
「今回はアニサキス対策として内臓に極力遠い部位を新鮮なまま捌いてるから寄生虫リスクは低いけど、今度刺身で食う時は一度冷凍処理を行うか、加熱処理してください。胃壁とか腸壁を破るんでガチで危険なんです」
「ふぅん、そういうことかぁ。サーシャ凍らせてくれる?」
「やっ!」
嫌々期かよ、かわいいなおい。
「ここまで嫌われてるなんて何したんスか内藤さん?」
「マーシオでいいよ、マーシオ・ナイトハルト。まぁ僕と言うより僕の上司だね。竜魔公ドラクリア・ロックアップ。周囲から滅茶苦茶嫌われてるんだ」
ナイトハルトはこの竜魔公の私生児であり、その縁もあって竜魔公の派閥であるナイトハルト家に入り婿として入った魔法帝国の貴族らしい。
そのため、立場上竜魔公の部下としていろいろと動かなければならないらしい。
「はっきり言って、怪物を超えた怪物とか悪魔とか言われてるけど父親としては蛆虫を超えた蛆虫なんだ。はっきり言ってかなりのクソ毒親で話になんないよ」
「ボロクソすぎてネタにもできねぇ……」
「性格は面倒だし、親として何かしてもらったことも記憶にない。けれど強さだけは本物だ」
ナイトハルトはサーシャに視線を向け、ゆっくりと口を開く。
「サーシャ、竜魔公はまだあきらめてないよ」
その言葉にサーシャは強く杖を握り、顔をしかめる。
「何しに来たんですか」
「説得だね、もちろん駄目で元々だったけど。これで応じてくれるなら楽な仕事はないんだけどねぇ」
「禁忌術式のことですか?」
「さぁ、そのへんは何とも言えない。とりあえず一番足が速い僕が様子を見に来たってわけだ」
ナイトハルトは黙々と大トロの刺身を口に運ぶ。
「竜魔公は強いよ、なにせ帝国の聖域だ。ルーニン殿もたぶん無事じゃすまないだろう」
「ルーニン先生は?」
「さぁ、でもぶつかるのは必至だろうね。サーシャはいい先生に恵まれた」
サーシャの瞳が曇る。
「うん、おなかいっぱいだ。いやぁいいもの貰ったよ。あまりはもちろん僕のお土産でいいんだろう」
「ああ、これから砂漠を横断するのにさすがにクロマグロは持っていけねぇからな」
「それはいい。僕はこのクロマグロがとても気に入ったよ、家内や義父さんにも食べさせるよ」
ナイトハルトはそういって身体を伸ばして首などをポキポキと鳴らす。
「ああ、そうだ。ショージくんって言ったっけ?」
「おん? そうだけど──」
「名前にカンジって使う?」
俺は目を見開いて、ナイトハルトに視線を向ける。
「……知ってるのか、アンタ」
「いや、僕は知らない。けど……竜魔公は知ってる」
カンジ──漢字はこの世界の文字とは大きく違う、中国や日本といった東アジアの特徴的な文字だ。
竜魔公ドラクリア・ロックアップはそれを知っているという。
「ショージさん?」
サーシャが心配そうな声で俺に声をかける。
俺はそれに対して返事を返す余裕がなかった。
「竜魔公より、伝言だ『コウキョを目指せ、そこにキューシュトゥはある』そうだよ」
「それは──」
「君が日本人ならわかるはずだ、そういってたよ」
嫌な予感がする。
一番当たってほしくない想定が、現実味を帯びてくる恐怖感が俺にはあった。
確かめなければならない。サーシャの為じゃなく、俺のために。
「さて、伝えることは伝え終えた。じゃあねサーシャ、ショージくん。壮健で会おう」
その言葉とともにナイトハルトはふわりとクロマグロとともに宙に浮かび、まるでジェット機が飛び立つような轟音を響かせ、空の彼方へ飛び去った。
「サーシャ、内藤さんってすごい人なのか?」
「……マーシオ・ナイトハルト。渾名は『
化け物ヤンケ。
マーシオ・ナイトハルト
ジェット枠。鬼龍の息子という忌み子。風属性も魔術師であり帝国最速の魔術師。
サーシャと本気で戦ったら初手で逃げて鬼龍を呼ぶぐらいのことをするのでだいぶ妹に優しいあまあまの兄。最もサーシャもこいつも私生児なので鬼龍ことドラクリアを父親だとおもったことは一ミリもない。
サーシャ・ルーニン
許せなかった! サーシャが鬼龍の娘なんて!!
最も本人自体鬼龍のことを嫌ってるんやけどな、ぶへへ。
実父からは『天魔の再来』と呼ばれているが本人は『水如雨露』と呼ばれる方を好む。
ティーガー・ルーニン
ティーガーは虎のドイツ読み。つまりオトン枠。
サーシャの師匠であり、ネグレクトをかました鬼龍の代わりにサーシャを育てた人格者。
サーシャの育ての親であり、血縁関係はないが実の娘のように育てた男。
弟子に朝昇枠と黒ちゃん枠がいる。
ドラクリア・ロックアップ
鬼龍枠。ドラクリアは竜公だったり悪魔と呼ばれたりするので鬼龍を表す。
魔法帝国最強の男であり、皇帝もこの強き者に強く言えない。
親としては蛆虫をこえた蛆虫。