【命数《ゾマー・ボルトクス》】強制発生クエスト   作:智二香苓

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始まりの森

(17体目……っ!)

 

 陽光を遮る薄暗い森の中。飛びかかってきたホワイトウルフを切り裂きながら、胸中で仕留めた数を数える。

 屈んだ体制で剣を下から上に薙いだ瞬間、切り裂いた獲物の傷口から鮮血が飛び散る。真っ赤な血はその体ごとその色に染めると、次にこちらの体を同じ色に染め上げた。

 

 ……といっても、もう何十体も同じ敵を切り刻んでいれば、その肉体はすでに染めどころがないほど赤くなっており、今さら返り血の一つでは驚きもしなかった。

 

「――おわっ!?」

 

 と、やっとの思いで切り裂いた17体目の敵に嘆息していると、横から突進して来た同じ敵の前足が目の前を霞めた。あと少し反応が遅ければ、その鋭利な爪で目を潰されていただろう。俺は間一髪で視力を死守したことに震えながら、初心を取り戻す。

 

(そうだ、まだ討伐数はクリアしてないんだ。気を緩めるな!)

 

 気を入れ直すと自分を鼓舞し、目の前の敵を睨みつける。残りの敵はあと3匹。俺の前方と、その後方に2匹ずついる。狼たちはこちらに牙を剥きながら「グルル」と喉を鳴らし、俺が隙を見せるのを窺っていた。

 

 そんな俺たちの周囲には、これまで倒して来たホワイトウルフの死体が転がっていた。

 元は緑色であっただろう草や乾いていた土は、今や水溜りができるほどの敵の血に染まって真っ赤になっている。その上には鋭利な刃物で切り裂かれて臓腑を飛び出させた死体が転がっており、すでに屍と化していた。

 

「す――っ、は――っ、……」

 

 俺は過集中で狭まってきた視野を広めるべく、一度深呼吸を挟む。すると今まで受けてきた相手の攻撃による切り傷や打撲が明瞭になり、全身が酷く熱を孕んでいることに気がついた。

 

 どうやらこちらも限界が近いらしい。ずっと腕を使っていたせいか、いつもは平気で振り回していた剣も今は酷く重く感じられる。足も疲れのせいかガタガタで震えていた。

 

(次で仕留めなきゃ、こっちがやられる――!)

 

 直感で自分の死を予期する。このままでは目標討伐数達成の直前で息絶えることになるかもしれない。そう考えると、途端にこれまでの苦労が馬鹿らしく思えてきた。

 

 だから次の一撃で、一匹残らず仕留める。

 

 そう意気込むと向こうはこちらの覚悟を感じたのか、ホワイトウルフたちは一斉に「アオォ――ッ」と遠吠えすると、それを合図に3匹同時に飛びかかって来た。

 

 今さら攻撃を避けようにも反応が遅過ぎた。四面楚歌。もう逃げようがない。

 となれば、やることは一つ――

 俺は腹を決めると、重心を前に倒した態勢で剣を構えて叫ぶ。

 

「《スキル》発動――【一千全刃(いっせんぜっぱ)】!」

 

 技の名前を叫ぶと、俺は地面を力強く踏みしめたまま、その場で一回転して剣を振るった。

 刹那、切っ先から鋭い斬撃を放たれる。

 質量を持った斬撃は光輝をまとって敵の腹へ飛んで行くと、そのまま腹を掻っ捌いて背中へと突き抜け、後方へと消えて行く。

 

「キャウウゥン!?」

 

 空中にいた複数体の敵は斬撃を食らうとひ弱な悲鳴を漏らし、その場で一瞬痙攣した。そして次の瞬間には糸が切れたように地面にドサリと落ち、臓腑と一緒に血を流す。それ以降再び起き上がることはなかった。

 

「――ふうぅぅぅ~っ」

 

 間一髪で命拾いした俺は、敵が完全に息絶えたことを確認するとようやく緊張を解いた。それまで止めていた呼吸を久方ぶりに再開すると、肺に溜まっていた空気を一気に吐き出す。

 

深樹也(みきや)、大丈夫!?」

 

 無事戦闘が終了して脱力していると、それまで茂みに隠れていた幼馴染が飛び出して来た。

 

玲奈(れな)。おい、なにそんな慌ててんだよ。俺は無事だって」

「無事って、体中傷だらけじゃない! もう、いつも無茶な狩りするんだから」

 

 そう言って玲奈はぷりぷりしながら叫ぶと、持っていた杖をこちらに掲げた。

 

「《スキル》発動――【傷癒小(クリーフ)】」

 

 玲奈が唱えると、途端に俺の体が小さく光って、周りに光子が発生した。光子はゆっくりと俺の周りを旋回しながら輝きを放つと、みるみるうちに切り傷が塞がっていく。

 数秒と経たないうちに前進の切り傷は完全に癒えると、朝ここに来た状態に戻った。

 

「おいおい大袈裟だって玲奈。わざわざスキルを使わなくたって、こんな傷何日か寝てりゃ勝手に治るってのに」

「なにバカのこと言ってるの! 一緒にホワイトウルフ30体倒すって言ったくせに、無理してほぼ全部一人で倒しちゃうんだから。今だって危ないところだったでしょ!?」

「なっ!? ……なんのことかな? アレは全部俺の計算通りだったんだけどなぁ」

 

 ズバリ痛いところを突かれると、俺は明後日の方向を剥きながらそれっぽく言い訳した。だが腐っても長年一緒にいた幼馴染。そんな俺の釈明にもぴしゃりと言い放つ。

 

「そんなこと言って。足ガクガク震えてたくせに。全部見てたんだからね」

「げっ」

 

 まさかそんなところまで見られていたとは思わず、俺は思わず声を上げた。

 さすが、いつも冷静で周囲の観察が行き届いている幼馴染。俺がピンチの時でも冷静さは書くことなく、よぉく俺の状態を見ている。

 

「まったくもう。いつもそんなんじゃ、いくらヒーラーの私でも庇いきれないよ。少しは安全に戦うように配慮してよね」

「悪かったからあまりごちゃごちゃ言わないでくれよ。こっちは何十体も倒したばかりでへとへとなんだってば。ちょっとは労ってくれてもいいのに」

「だったら仲間も安心して背中を任せられるような安全な戦い方をしなさい! もお、深樹也(みきや)がいつもそんなんだと、いつか本当に命を落としちゃってもしらないんだからね!」

 

 そう言うと玲奈は頬を膨らませながらプイとそっぽを向いてしまった。おっと、これはマズい。この様子を見るに、かなりご立腹なようである。

 さて、どう宥めたものかと俺が頭を悩ませていたときだった。

 

『クリア条件達成を確認しました』

 

 頭上からそんな機械音声が響く。さっと情報へ目をやると、そこには『ホワイトウルフ30体討伐・達成』と表示された画面が浮かんでいた。

 さらに画面下には、今回入手したアイテムや報酬金額、得られた経験値が表示されている。

 

『クエストお疲れさまでした。また次回のクエストをお待ちください』

 

 機械音声は一方的にそう告げると、そのまま空中から消えていった。すると周囲に広がっていたホワイトウルフの死体の山もッ世に粒子となって消え、あれだけ真っ赤な血で汚れていた地面も元の背景色を取り戻していく。

 

「ちっ。なにが次回のクエストだ。俺たちはお前らのおもちゃじゃないんだぞ」

深樹也(みきや)……」

 

 俺が悪態をつくと、玲奈(れな)が心配げな表情でこちらを見た。

 そう。俺たちは好きで今回のクエストをクリアしたわけではない。

 すべてはあの謎の機械音声から告げられる命令に逆らうことができず、仕方なくなっていることなのである。

 

「……と、取り敢えずさ。無事クエストも達成できたことだし、今回手に入れたアイテムを売ったりしに行かない? ほら、報酬も結構出たし。これでパァーッと打ち上げでもしてさ」

玲奈(れな)……」

 

 おれが 一人むかっ腹を立てていると、玲奈(れな)は重苦しい空気をかえるように、わざとらしく明るい声を上げてそう言った。

 玲奈(れな)が心配する通り、今の俺は気が荒くなっているかもしれない。特に今回のクエストはいつものよりと比べて危険度が跳ね上がっていたし、少々殺気立っているかも。

 

「うん……そうだな。あれだけ危険な目に遭ったんだ。今日は豪遊して朝まで飲み明かそうぜ!」

「うーん。さすがに豪遊できるかまでわはわからないけど……いつもよりは高いものを食べられるかも? あ、そうそう。豪遊と言えば町に新しい喫茶店ができてね――」

 

 俺たちは揃って気分を変えようと意気込むと、その足で森の出口へと歩いて行くのだった。




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