かなり短めです。
「…………」
泥沼の中にいるみたいだ。体が重い。
「…………! …………っ!」
声がする。ここから出るべきなのかな。そもそも私、何をしてたんだっけ。眠気が強い。寝たい。
「…………?」
何かを忘れている気がする。私はなんで生きてるの? 外に何があるの? 意識が私の体を持ち上げる。
誰かいる。心臓の音が聞こえる。先生? そうだ、先生がいた。私は、暗い所にいた。出たい、ここから出たい。
泥沼から這い上がるような感覚に襲われた。
+
「…………あっ……」
知らない天井だ。声が出ない。
「ミサキ?」
頭を傾ける。
「姫……?」
「よかった、意識が戻ったんだね」
私の腕に点滴が繋がってる。体が鉛のように重い。ここは病院? 私、死ねなかったんだ。
「はいこれ」
「……?」
姫が私にオレンジジュースを差し出す。ファンシーなキャラクターが描かれた紙のパッケージ。
「目が覚めたら飲ませるように、お医者さんに言われてるから。ほら」
「…………これ、子供用だよね」
「うん。これしかなかったの。胃を慣らしておかないといけないから。ほら、飲んで」
アツコがジュースに刺したストローを私の口元に寄せる。
「……最悪」
断る気力がない。飲む。
「……待って、先生は?」
そうだ、先生。先生に会いたい。
「先生も、さっき目が覚めたよ。脱水症状だけで命に別状はないみたい。」
体を起こす。腕に刺さってる点滴を破る。
「どこにいるの?」
「落ち着いて。隣の部屋にいるから安静に……」
布団をめくってそばに置いてあったスリッパを蹴飛ばす。病室のドアを開けて廊下を駆ける。隣の部屋のドアを勢いよく開けた。
「……先生」
「ミサキ、目が覚めたんだね」
ベッドの上に先生がいる。ちゃんと生きてる。
「先生こそ。心配させないでよ」
「うん。これで落ち着いて話ができるね」
「……話?」
「こっちにおいで、ミサキ」
ベッドの上に、先生の足元に腰掛ける。
「腕を出して」
腕には何もつけてない。傷つけた跡が残っている。
「…………見せたくない?」
「別に、そういう訳じゃないけど……。何をするつもり?」
「確かめたいことがあるんだ」
「…………」
腕を差し出す。先生が私の腕を親指で優しく撫でる。傷跡の形がわかる。
「頑張って生きてきたんだね」
「…………。そういう言葉には慣れてない」
「そうなんだ、ごめんね」
「別に嫌とは言ってないでしょ。……どう反応していいか分からないだけ」
優しい言葉に一瞬気が緩む。下を向いて顔を隠す。
「素直な言葉が聞きたいな」
「…………嘘はついてない」
「多分ミサキが自分でも気づいてないことだよ」
先生が腕を親指でぐっと押す。
「ちょっと意地悪なことを聞くよ」
「…………」
「なんでリストカットしたの?」
じんわりと痛みを感じる。
「……パニックになるとしたくなる。生きてるかどうか分からないから、早くそれを確かめたくて」
「そうなんだね。それだけ生きたいという想いが強いんだね」
「違う。別にそういう訳じゃない。私はただ……」
言葉に詰まる。
「……ただ、死にたくないだけ」
「うん」
楽になりたかったはずなのに。
「苦しいと生きてる実感が湧くから」
「うん」
すべては虚しいだけなのに。
「人生に意味が欲しかったから」
「うん」
死にたかったのに。
「生きたかったから」
「…………」
先生がそっと腕を離す。
「そういえば、ミサキが私を助けてくれたんだよね。ありがとう」
「……うん」
先生も私も生きてる。
「心配させないで、先生」
もう腕の痛みは消えていた。
【今、死のう。ミサキ[完]】
次はミドリの話を描きたいですね