数日後。ウタハ先輩がゲーム開発部の部室を訪ねた。
「ミドリ、いるかい?」
「……はい」
「忘却光線銃を回収しに来たんだ。……そういえば誰かにこの銃を使ったかい?」
「…………いえ、使ってません」
嘘をつく。この秘密は誰にも言うつもりはない。
「ふーん、データを見ればわかることだけどね。まぁ何も言わないよ」
多分使ったことはバレてるんだろう。でも、誰に使ったかまでは気づかれてないはずだ。
「……あの、1つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「この記憶を消す銃。なんでこんなもの作ったんですか?」
「愚問だね。ロマンがあるからさ」
ロマン……?
「私達マイスターが情熱を注ぐのは、ものづくりだけじゃないよ。人間にも情熱を注ぐ。こんな危ない銃を作ったらどうなるか。未知の力を手に入れたら、人は何をしてしまうか。そこにはロマンが溢れてる」
「そんな理由でこんなものを作ったんですか……?」
「ああ、ミドリにとっては取るに足らないことでも、私にとっては大きなことだ。他人がやることは変に見えてしまうものだよ。ミドリがこの銃でおかしなことをしてしまったように」
「…………っ!?」
まるで私の行動を見たかのような発言。意表を突かれて変な声が出る。
「そんなに警戒しないでくれ。私は何も知らないよ。ミドリならこの銃を使ったと思っただけさ」
「ひ、人のことを勝手にわかった気にならないでください! 誰だって、消したい過去の一つや二つ、あるものでしょう!」
私の内面に土足で入り込む言葉に、声を荒らげてしまう。私の醜い一面も子供っぽい姿も隠したいものなのに。
「すまない、怒らせるつもりはなかったんだ。誰もミドリの過去を知らないから心配しなくていいよ」
「い、いえ! そういうことじゃなくて……」
誰も私の過去を知らない。それなのに私は何を後悔しているの。何かが私の心にずっと引っかかってる。記憶を消して良かったはずなのに。これからも今まで通りの関係性でいられるはずなのに。
先生と付き合えないのがそんなに辛かった? いや、わかってるはずだ。大人と子供は付き合えないことなんて。何を、一体何を。失態や醜態よりもっと大きなものが、私を引き止めている。
先生との時間を取り戻したい。本当の私を知って欲しい。作り上げた自分じゃなくて、醜い自分を受け入れてほしい。
子供みたいな想いが溢れてくるのを抑えようとする。そんなことしても、また拒絶されるだけなのに。こんな考えは捨てなきゃいけないのに。
「…………」
「またこの銃が使いたくなったら教えてくれ。私はいつでも歓迎するよ」
ウタハ先輩はそう言い残して部室を去った。
+
先生から連絡が来た。
『このキーホルダー、ミドリのものだよね? 時間がある時に取りにおいで』
写真も一緒に送られてくる。私が普段使っている銃につけているキーホルダーだ。
先生は、私が告白したことは忘れてるはずだ。だから、このメッセージに特別な意味はないはず。
また先生の元に行く。もう私の失態を知る人はいない。何も心配することはない。それなのにどこか胸騒ぎがする。
『すぐに取りに行きます』
そう返事をしてすぐに出かけた。
+
あの銃があれば私は失敗しない。失態も醜態も全て隠せる。先生への恋心も大人っぽく振る舞いたい幼稚な心も、全部なかったことにできる。
それなのに私は記憶を消したことを後悔してる。何かもっと大きなものを失った気がする。それが何かはわからない。私を駆り立てる何かがあるのを感じながら、シャーレへ向かう。
シャーレのエレベーターが止まり、先生がいる事務室の階に着く。以前来た時よりもずっと落ち着いてる。きっとそれは私が失敗を消したからじゃない。
「先生」
「やぁ、ミドリ。キーホルダーならそこに置いてあるよ」
机の上にキーホルダーが置かれている。これを持ってすぐ帰ることもできるけど。まだ先生と話したい。
「先生、仕事は終わりそうですか?」
「……うん、もうすぐ終わるよ」
「よかったです。ここで待ってます。大事な話があるんです」
「大事な話って?」
もう後戻りはできない。私が見せる醜い姿をもう隠すことはできない。私は、ふぅっと息を吸って、
「先生のことが好きです。異性として、愛してます」
+
先生は、まばたきひとつせずに私を見ていた。
もうごまかすことは出来ない。
「……え?」
「聞こえませんでしたか? 先生の彼女になれませんか、と言ったんです」
あぁ、きっと振られるんだろうな。そんなことは分かってたはずなのに。なぜこんなに胸が締め付けられるんだろう。
「……まずはありがとう。ミドリの気持ちはすごく嬉しいよ」
「……はい」
きっと次の言葉で断られる。わかってる。わかってるから言わないでほしい。告白しなければこんなに傷つくこともなかったのに。
「……でも、私達は付き合えないよ。私は先生でミドリは生徒だ。大人と子供は恋愛関係になることはできない」
「じゃあ、私が大人になったら付き合えるんですか? そういう意味ですよね?」
ああ、こんな恥ずかしい姿見せたくなかった。こんな言葉を言っても、先生が受け入れる訳ないのに。せっかく記憶を消したのに。
「いや、付き合えないよ。ミドリが大人になっても私達の関係は変わらない」
「私のどこがダメなんですか? 先生のためなら何だってします。彼女としてどんなお願いも聞きます」
本当の私はがめついんだ。幼稚で相手の都合を考えない。全然大人っぽくない。これが本当の私。
「ダメなものはダメだよ」
「ダメじゃ……ありません。ダメじゃ……ないはずです。ダメじゃ……」
はっきり断られて勢いを失う。こんな想いをするなら最初から告白しなければよかったのに。なんで私はまた告白したんだろう。なんでこんなことになっているんだろう。
告白しなければ私と先生は今まで通りの関係性だったのに。記憶を消したから、私の醜態を隠し通せたはずなのに。
「……先生は私のこと、どう思ってるんですか?」
「それは───」
私は黙って待った。
鼓動の音が耳にうるさい。
その沈黙が、答えよりも残酷に思えてくる。
「大切な生徒だと思ってるよ」
本当の私を受け入れて貰えた、そんな気がした。
もうちょい面白くしたかった!次に活かします