意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男   作:まだ早い

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13話:大体の話は環境によるよね

 

「神獣は、決して斃せぬ相手ではないのだ」

 

 今朝になって合流してからというもの、何故かずっと僕の隣を歩いている族長が話しかけてくる。

 ファルザンという名前だと言っていた彼は苦虫を噛み潰したような顔をしながら。

 

「……100の兵と50の精鋭。その8割を使い潰せば、な」

 

「ほう……なるほどな」

 

 ふむふむ。一般兵と精鋭を足して150人。

 その8割って事は、族長の目算だと神獣の討伐には120人の長耳族の犠牲が必要って事か。

 ナチュラルに会話の中でこういう計算させるのやめてくれ。アリスやダークネスと違って僕は凡人だぞ。

 

 いやまあ、流石にこれくらいの計算なら出来るけど……とはいえ会話の最中で一瞬で計算するのって結構難しくない? 

 簡単? そっかあ……

 

 なんていう事を頷きながら思っていると。

 

「……ああ。貴殿の言う通りだ。得られる成果と比較して余りにも割に合っておらぬ。年1人の贄の赤子と120の兵の命。前者を選ぶ者は最早為政者とは呼べぬ故に」

 

 彼は一瞬目を閉じてから。

 

「生贄の赤子が成長し、精鋭を超える存在に必ずなるというならば話は変わるが、ここは現実。そのような絵空事など決してありはせぬ」

 

 うん。とりあえずの疑問として。

 族長にとって、さっきの僕は一体何を言ったというのだろうか。

 なるほどと言っただけなんだけど。

 

 いやまあ、今族長が言っていた赤ちゃんの育成話については理解できるけど。

 

 なにせあの理事長も

 

『人材育成というのは極めて難しく非効率であり、新たな魔法を作り出す方が余程効率的だ。まあわたしの立場ではあまりそうも言っていられないのだけれどね』

 

 なんて、教育者にあるまじき事を言ってたし。

 しかもその後に

 

『もしキミがわたしにもっと積極的に協力してくれるならば話は変わるのだけれども……キミは歴史を揺らがすレベルの天才にしか興味を示さないからなあ……』

 

 なんていう、やっぱりわけのわからない事を言っていたけど。

 僕が協力して人材育成の何が変わるというのか。

 というか、僕としては既にあの人には全面的に協力していたつもりなんだけど。なにせ僕は彼女からの雇われ人の立場だったわけだし。

 

 いやまあ理事長が言っていたのが、僕が主人公候補にくっついて回っていたという事を揶揄した話だったというのならば、それは確かに正しいんだけどね。

 

 とか考えていると、僕と族長の話を聞いていたらしい我らが緑髪ロリが、さっきの族長と同じように苦虫を噛み潰したような表情をして。

 

「……兄上。あまりそういう言い方は……」

 

「お前とて、既に理解している筈だ。我ら為政者にとって命は決して平等などではないと。お前は落伍者を率いて、精鋭を育成する事が叶ったか?」

 

 この兄妹は一体何の話をしているのだろうか? 

 ええっと……落伍者を率いた? この緑髪ロリが? 

 もしかして前に少し考えたように、あの村ってそういう感じなの? 

 だとしたら次は、わざわざ何でそんなわけのわからない事を? ってなるんだけど……

 

「……そう、じゃな。今ならば、ワシにも理解できる。……はあ。兄上が正しいと認めようぞ」

 

 ロリはため息を吐いてから。

 

「魔法の素養を持たず弱いというだけで罪なき同胞を追放する。たまたま運悪く生贄に選ばれただけで物心つかぬ赤子が命を落とす。──そんな馬鹿げた話など、許してなるものかと思ったが……今ならば、理解出来る」

 

「……そうか。それならば、良い」

 

 うん。この2人の間にあった事が大体わかった。

 

 要は族長による子育ての一環だという事か。

 

 ロリがわけのわからない事を言って騒いだから、怒った族長が頭を冷やさせるためにロリを一時的に家から追い出して成長を待った、と。

 

 いやだって……弱かったり運が悪かったりする奴が追い出されたり死んだりするなんて、至極当たり前すぎる話でしかないからね。

 仮に僕が自らの身内から、

 物が上から下に落ちるという事が許せない! 

 などと騒がれたら、僕はきっと、こいつは一体何を言っているんだ? と困惑するだけだろう。

 

 族長が、犠牲を生む割には役に立たない神獣を殺したいというのは理解出来る。

 しかし、繰り返しにはなるけどロリが主張しているような、そもそも弱かったり運が悪かったりする生物が死ぬ事そのものは当然の摂理でしかないからね。

 

 今回相手がたまたま神獣だったというだけで、ロリの村ではそれより弱い小鬼に村人が殺されたりしているわけで。

 こっちだって同じだ。恐らく神獣を倒せる戦力を持っているから、じゃあ今から殺しに行こう! みたいにしているわけで……

 いや、本当にさっきから至極当然の一般常識事項しか言っていないな。

 

 ──とはいえ、子供は得てして意味不明な理不尽を言って騒ぐ物だ。きっとロリの親代わりだったであろう族長は、癇癪を起こすロリに対してどうしようかと向き合う必要があったわけで。

 

 つまり。

 族長、子育て大変だったんだね……(ホロリ)。

 

 僕は苦労人のお兄さんに心から慈悲の笑みを送った。

 

「……ミルネンの言う通り、やはり底知れぬ御仁だな……」

 

 うん。彼は一体何を言っているんだろうか。

 

 

 ──という感じで、エルフ兄妹と雑談しながらしばらく歩いたところ。

 

「へえ……あれが」

 

 アリスが呟くように、僕たちの眼前には1匹の巨大な獣が寝ている姿があった。

 

 黄金の立髪を持ち、4本の太い足には銀の爪。

 黒く大きな角は悪魔を想起させる迫力を持つ。

 まだ距離は遠く、そして寝ているから概算にはなるが、恐らく10メートル程度の体長を誇るその生物は、確かに恐ろしく強大である事が伺える。

 

 うん。僕1人じゃ絶対に勝てないというか、そもそも1人で挑もうなんて考える時点でおかしい相手だ。

 

 1匹の獣に150人で狩りをするなんて非効率では? とさっき族長の話を聞いた時には思ったんだけど、この大きさならば納得である。

 確かに恐らく150人くらいが適正人数なのだろうと僕も思うからね。

 

 これならば、僕が確かめたいと考えていた事を確認する事ができそうだ。

 

 しかし。

 そんな神獣よりも、僕は奴が守っている遺跡の方が気になっていた。

 何故なら、あれは……

 いや、気にするのは神獣を倒した後の話だ。

 

 とにかくそんな獣の姿を見て、まずダークネスが。

 

「あれが神獣ジャガーノート……確かに恐るべき獣ですね。ここまで遠くからでも見える巨体……これまで出てきた相手とは次元が違う強さを持っているだろう事を感じます」

 

 奴はこれまで新世界で1番強い敵だった悪魔より間違いなく強いだろうからね。繰り返しにはなるけど、フィジカルがあまりに違いすぎる。

 あの悪魔ならば僕でも10回やれば2〜3回くらい勝てるんじゃないかなと思うけど、神獣には仮に1万回戦おうと勝てる気が全くしないくらいにはレベルの違いを感じる。

 

「単純にでかくて迫力が凄えな。……正直言って、オレ1人じゃ厳しい気がするな……」

 

「うーん? 確かにデカいけど、ウチは割とイケると思うけどな〜!」

 

 カルロスはあまり自信なさげだけど、ギャルのラナリアはかなりノリノリなご様子。

 いくらギャルとはいえ、やはり彼女も100英傑という事だ。

 同じ騎士団の見習い騎士と副団長とでは現時点の実力に差があるのは仕方ない話だろう。

 ……うん。このギャル、騎士団の副団長なんだよね……

 本当に今でもまだ信じがたいんだけど。

 

 なんて思っていると、いつものように我らが銀髪の蛮族が。

 

「ラナリア、あれは私の獲物よ。アルベルも。手を出さないように」

 

「……まだ俺は何も言っていないが」

 

 憮然とした様子の『白髪理系』。

 うん。突然とばっちりを受けるの困るよね。

 昨日僕もびっくりしたからよく分かるよ。

 

「だって、あなたも私と同じく10番以内の強者なのでしょう? なら、自分の力試しをしたくて仕方ないはずよ」

 

「ふっ……そうだな。今回はアリスに譲るとしよう」

 

 そう言って『白髪理系』は後ろに引いた。

 へえ……意外だな。あのアルベルがこんなに素直に譲るなんて。

 彼、僕が思っていたよりずっと話がわかるというかなんというか。

 

 そんな感じで話が纏まった事を見計らった王子が。

 

「族長からの情報通り、ぐっすりと眠っているね。アリス、どうするの?」

 

「とりあえず、先制攻撃と行きましょうか」

 

 そう言いながら彼女は魔法で何かを作り上げていく。

 

 ──すぐにそれは1本の槍の姿を形取り、そしてどんどん大きくなっていく。

 どれくらいかというと、人間が持てるようなサイズはとうに超え、そして周りに見える木よりも大きくなっていて。

 

「え、まだ大きくなるの?」

 

 王子が思わずといった感じで漏らすが、それでも槍が大きくなるのは止まらず。

 最終的には。

 

「……アリスっち、これデカくね?」

 

 ギャルのラナリアが言うように、気付けば神獣と変わらないくらいにクソデカい槍が形成されていた。

 ちなみに、こうして表現をすると槍がゆっくり形成されていたかのように思うかもしれないが、アリスがそれを創り出すのにかけた時間はほんの数秒でしかなかった。

 

 王子が『まだ大きくなるの?』という言葉を言い終えるくらいの時には既に今くらいのデカさになっていた感じ。

 

 うん。相変わらずだね。

 まあ旧世界でのアリスの全力はこんな程度じゃなかったけど、さりとて知識を失ってなおこれだけの大魔法を凄く簡単そうに使うなんて、やっぱりアリスって感じだ。

 それに……仮に旧世界のアリスが全力を出した日には、多分余波でこの場の面子はアルベルとアリス自身以外全員死んじゃうし。

 

「……なんだこれは? あり得ぬ魔力量に加え、一体どれほど高度な複合魔法を……我は今、何を見ているというのだ?」

 

「兄上はアリス殿の魔法を初めて見るものな。……と言いたいところじゃが……ワシもこのような魔法は初めて見るのじゃが……」

 

 ロリ兄妹が即堕ち2コマの前振りをしているぞ。

 やっぱりこの2人兄妹だね。

 

「これだけだと芸に欠けるから……」

 

 言ってからアリスは指をパチンと鳴らす。

 すると『ボッ』という感じの音がし、立ち所にクソデカ槍が燃え上がった。

 彼女はそれを見て満足そうに頷き。

 

「まあお手並み拝見としてはこんな物かしらね」

 

 アホみたいにデカい炎の槍が物凄い存在感を放っている。

 うん。明らかにこれはお手並み拝見のレベルの魔法じゃないと思うよ。

 

 僕と同じ事を思ったのか、族長が再度戦慄したように。

 

「……アリスリーゼ殿にとっては、これもまた児戯だと言うのか……」

 

 何故か彼は僕の方を見て言ってきたから、僕は頷いて。

 

「アリスならば、この程度造作もない事だ。彼女はまだ全く本気を出していない。……そうだろう?」

 

「ええ。流石、よくわかっているじゃない。こんな物は所詮小手調べの魔法よ」

 

「……そうか……」

 

 うん。族長もいいリアクションするね。

 歴代最高の長耳族というスペックもあるし、彼は100英傑の織りなす英雄譚の観客として申し分ないな。

 

 そして。

 

「じゃあ、行きなさい」

 

 アリスの言葉に従ってヒュゴォ! という音と共に、目で追えない程の凄まじい速度で放たれた槍は、一瞬で奴に着弾し……

 

 ズガン! 

 

 と音を立てて、寝ている神獣の頭からお尻まであっさり貫通した。

 

 ……どこからどう見ても死んだな、これ。

 

「……え? もしかしてこれで終わり? 肩透かしも良い所なのだけれど」

 

 自分でやった事のくせに無茶振りをする戦闘狂アリス。

 まああれだけ仰々しく持ち上げられてたのに1撃で終わっては確かに消化不良なんだろうけど。

 

 改めて、神獣が寝ていた方角を眺めてみると。

 

 ──彼女が魔法で作り出したクソデカい槍の1撃で頭からお尻まで貫通され、身体の8割くらいの大きさの穴を開け、そして残った身体も炎によって炭になっていく神獣ジャガーノートだった物の姿があった。

 

 ……まあ、こうなるよねえ。

 はっきり言って予想通りだったんだけど、それ故に……

 

 とりあえず、周囲を見渡してみると。

 

「す、凄いね……アリスってこんなに強いんだ……」

 

「あは! アリスっち、ヤバすぎ!!」

 

「俺の役割、なかったな」

 

 初めてアリスの力を見て各々の感想を述べる面白渾名組。

 

「流石はアリスさん。まあ、ぼくにとってはともかく、アリスさんにとっては神獣は容易い相手だろうとは思っていましたが」

 

「やっぱアリスってオレより遥かに強えよなあ……修行しねえとまずいな」

 

 改めてアリスの力を見て、更に敬意を深めていそうな元預言者ダークネスに、力不足を感じる主人公っぽいムーブをする期待の育成枠カルロス。

 

「「一撃……だ(じゃ)と……?」」

 

 1撃で神獣が死んだ光景を口をポカンと開けて見つめる兄妹。

 

 そして。

 

 うん。これはやっぱり……まずいな。

 

 恐らくこの中で僕1人だけが、とある危機感を抱いていた。

 

 勿論それは、目の前であっさりと玩具にされた神獣の事ではない。

 

 僕が確かめたかった事。

 僕が危惧していて、そしてそれが事実だったと理解出来たのは……

 

 アリスたち最上位組があまりにも強すぎるために、他の英傑、特にカルロスの経験値が一切貯まらない点。

 同じく最上位の英傑にとって、新世界の敵はあまりに弱すぎる点。

 

 この2点である。

 

 とりあえず、最初の懸念について。

 

 ──知っての通り、僕はカルロスの事を新世界における主人公候補と考えている。

 むしろ現時点では、彼の事はアリス以上に有力視すらしている。

 

 そのため僕としては、カルロスには成長して物語を紡いで貰わなければならないわけで……

 

 うん。

 ……アリスやアルベルと、カルロスは引き剥がすか……。

 

 これが、僕がこの神獣戦にて得られた教訓というか、結論というか……とにかく、どうにかしてそうなるようにしなければならない優先事項と定めたのである。

 

 まあ、アリスだけでなく王子やアルベルとも合流した今となっては、必ずしもカルロスを無理して育成しなければならないというわけではないんだけど……さりとて粉をかける人材が多いに越した事はないだろうからね。

 

 

 そして2番目の問題について。

 

 これ、ほんとどうしようかな……

 当たり前の話だが、英雄譚には強敵の存在は決して欠かせない物だ。

 

 けれど、多分エデンにおいてアリスたち10傑の敵になりそうな奴、この感じだと居なそうだよなあ……

 うーん。ちょっとすぐには回答が思い付かない。

 一旦保留し、落ち着いてからまた考えなければならないな。

 

 ──アリスは確かに世界最強ではない。

 

 ただしそれは、1位が神話を超えた存在であり、2位も1位さえ居なければ天上の領域に到達した歴史上最強の天下無双と称されるような怪物なだけであって、アリスは『人類』3位なのだ。

 その辺の村や街や都市や国の3位とは次元が違う。

 

 この新世界において、彼女は随分と優しく親しみやすい性格をしているから、ともすれば勘違いされがちなのかもしれない。

 しかしアリスは数多くの英傑たちを圧倒し、全反射能力者を空間ごと破壊し、未来予知能力者を超広範囲攻撃で完封し、エデン程度の島ならば容易に破壊できる超越者なのである。

 

 






 フェルナンドやミラは旧世界ではめちゃくちゃ穏健派。
 アリスは国1つが舞台の物語であれば無敵最強キャラ。

 と思ってくれたら。

 ちなみに、この作品では物体が超高速で動く際の衝撃波さんなどには都合の良い存在になってもらいます。
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