意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男   作:まだ早い

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17話:最強の敵と新世界覇者

 

 

「アルベルっち、いくよっ!」

 

 ラナリアがギャルにあるまじき威勢のいい台詞を言いながら『白髪理系』アルベルに模擬剣を振り下ろす。

 その剣筋は担い手がギャルとは到底思えないくらい鋭い物で、凡人の目では完全に追えない速度だったが、アルベルは剣を右手の人差し指と中指で挟んで簡単に止める。

 

「うおらあっ!」

 

 その隙──軽い感じで指で摘んでる以上どう見てもあの伝説の『神殺し』の隙など作れていないが──とにかくラナリアと連携の練習を積んだカルロスによる間隙を縫うような攻撃をする。

 

 しかし、その一撃も左手の人差し指と中指で挟まれて止められた。

 

「『ライトニング』!!」

 

 両手が塞がれた状態ならばと──実際には軽く剣を突き放すだけで良い以上全く塞がれてなどいないが──ダークネスが魔法で攻撃を仕掛ける。

 電撃は一直線に飛んでいき……

 

「ふっ」

 

 アルベルが軽く息を吹きかける事によって明後日の方向へと弾かれた。

 

「……んん?」

 

 そんな感じでアルベルに3人が挑む形で行われる訓練を、僕の横で本を左目で読みながら右目だけで見ていた王子がその自らの右目を擦りながら。

 

「今、アルベルが『ふっ』って息を吹きかけたら電撃が飛んで行かなかった?」

 

「そうだな」 

 

 うん。どう見ても常軌を逸した怪奇現象だ。

 まあ片方の目を下に向けて本を読みながらもう片方の目を前に向けて観戦するという人間離れした事をする王子の姿もなかなかに気持ち悪……ではなく。

 

「……電撃ってそういう物なの?」

 

「アルベルにとってはそうなのだろうよ」

 

「そっか……」

 

 そんなやり取りをする僕と王子の隣で、なんかいきなり電撃をバチバチし始めた銀髪が。

 

「ふっ。──こんな感じね。私にも出来るわよ」

 

「出来るんだ……というかやるんだ……」

 

 謎にアリスがアルベルに対抗心燃やしてるの本当に面白いな。

 かつてのアリスは『神殺し』は完全に別次元の強さだとして、自分とは比較対象とは見做してすらいなかったからね。

 

「でも、仮に両手が塞がれた状況でどうするかというのは良い着眼点ね。悔しいけれどそこは認めざるを得ないわ」

 

「なんか悔しがりながら認めてる……」

 

 そうじゃなかろうかと思っていたんだけど……やっぱりアリス、新世界で過ごす内にどんどんアホになってきてないか? 

 面白いから良いんだけど。

 

 

 ──ティル・ナ・ノーグに帰還してから。

 

 しばらくは各所への通達などの事後処理に族長が奔走するらしく、僕たちは暇──もとい猶予時間を与えられたのだ。

 

 で、10傑の武人たるアルベルにカルロスが訓練を頼んで。それからラナリアも参加したいと言い、ならば自分もとダークネスが名乗りを挙げた結果が今に至るという話である。

 

 ……それにしても。

 10傑、ねえ。

 僕はアルベルと合流してからというもの、ずーっと気になっていたんだよね。

 何故みんなアルベルの具体的な順位を聞かないのか? と。

 

 ぶっちゃけ素直に教える気はないけどね。

 意味深なキャラとしてその辺の情報は可能な限り勿体ぶらなければならないのだ。

 しかもそれが序列1位たる『神殺し』アルベルの話となれば余計に。

 

 みんなからも、僕は教えないだろうと思われているからかもしれないな。もしそうなら引き続きキャラ付けの維持に成功出来ていて嬉しい。

 

 なんて考えていると。

 

「ライトニングを息で吹き飛ばすなんて……こんなのもう策も何もないじゃないですか」

「だよなあ。オレも本気で剣を振ったんだけどな」

「あは! さっすが『白髪理系』だよね〜!」

「ふっ……まあそんな所だ」

 

 訓練を終え、感想を述べながら歩いてくる4人。

 

 しかし『白髪理系』とかいう面白渾名をあの伝説の『神殺し』に付けるなんて、完全に頭のイカれた所業だよね。

 最初聞いた瞬間、僕は自分の感情を抑えるのにめちゃくちゃ苦労した。1000年前に意味深ムーブの為に表情筋を鍛えていて本当に良かったよ。

 

 そしてこう訓練していても気付かない物なんだね。

 アルベル、いくらなんでも強すぎない? って。

 彼はアリスと比べても明らかに異次元の強さなんだけどなあ。

 

 なんて考えていると、例によって我らが銀の蛮族が。

 

「ねえ。魔法使いはどこかに居ないのかしら? 私もこんな感じの訓練をしたいのだけれど」

 

「ほう……面白い。やはり君も疼くか? それでこそだな」

 

「……ま〜た気になる言い方をして……」

 

 いつものように頭に手を当てるアリス。

 

「かつての君は自らの師や弟子、好敵手たちと訓練する事を最も楽しんでいたからな。私としては感慨深い話だ」

 

「師匠や弟子に好敵手……ね。まあ皇女である以上は良い師匠はいたのでしょうけれど……私は弟子を取っていたの? 話を聞く限りだと意外に思えるわね」

 

 まあ確かに、あの時のアリスはあまり他者を自らに近付けない感じだったんだけど……とはいえ、例外はあるわけで。

 

 アリスはかつて、ルナという名前の金髪の女の子を弟子にしていた。

 

 なぜかというと、その子は『次代の神殺し』とか言われていたような人類史上屈指のとんでもない天才だったからなんだけど……僕としては、ルナは流石に年齢が若すぎて主人公候補からは外していたんだよね。

 見た目もアリスや女帝に匹敵するくらい可愛かったんだけど、やっぱり年齢による知名度の無さが祟って、理事長と女帝とアリスで構成される世界3大美女入りは果たせていなかった。

 

 とはいえ。

 

「ああ。ただ、その話は長くなるからまた今度にしようか。付近の魔法使いの英傑について話すとしよう」

 

「あなたから言い出した癖に……はあ。まあ良いけれどね」

 

 アリスはいつものように呆れたように頭に手を当てて、深く追及する事なく引いてくれてから。

 

「それで? この付近──島の南側にまだ誰か目ぼしい人はいるの?」

 

「安心すると良い。沢山存在している故、そう焦る事もない……と言いたい所だが」

 

「……?」

 

「君ほどの才気溢れる英傑は、やりたいと思った事があるならば即座にやるべきだ。これからの事を少し考えるとしよう」

 

 結構これは僕の美学の中でも大きな割合を占めている。

 主人公がやりたい事を我慢するなんてあり得ない。いつだって望みを叶えるべく爆進すべきなのだというね。

 

 だからこそ、僕は僕たちの世代における最強の英傑である『至天の槍皇』ランバートを主人公候補から外していたのだから。

 本当に彼は惜しかったんだ。

 けど性格があまりに良すぎたというか……なんであれだけの力を持ちながら、そんなに他人に気を遣ってしまうのか。

 

 僕の信じる主人公という存在は、周囲に振り回される苦労人ではない。

 

 アルベルと理事長以外でランバートに勝てる奴なんていやしないのに。

 その気になれば王子の妹を娶って王となり、『銀の暗黒女帝』を倒して帝国を支配……果ては世界征服だって簡単な話だったのに。

 

 だから僕は意味深な男のスタンスを多少歪めてまで、何度も何度も彼には方針の変更を打診したんだけど……

 

 なんて考えていると。

 

「次の冒険の話か? ならば俺も一枚噛みたい所だ」

 

「フッ……流石だな。勿論、君にも言える話だ。君ほどの男が冒険に出ると望むならば、そうすべきなのだから」

 

 アルベルが僕に話しかけてきたから、頷いて応える。

 やっぱり伝説の勇者アルベルは冒険をしてこそだからね。

 

 すると僕たちのやり取りを見ていた、訓練が始まってからずっと僕の横に居る王子が。

 

「3人でまた冒険をするの? それは良いんだけど……とりあえず、全体の方針の話をしない?」

 

「良かろう。というよりも、私たちのリーダーは王子だろう? ならば、いっそ王子が全て決めても構わないのだぞ」

 

「いやいやいや! そんな事はしないって!!」

 

 王子は首を横にブンブン振ってから。

 

「だって、もし冒険組に入れなかったらアリスが怖いし……」

 

「……王子様?」

 

「なんでもない!!」

 

 王子となぜか僕をジト目で思いっきり睨んでくるアリス。

 最早完全にいじられキャラが定着したな。

 

 しかもよりにもよってアリスが、あの王子からこんな扱いを受けるなんて。

 世の中何が起きるかわからない物である。

 

 

「それで、これからどうするかって話よね?」

 

 少しして、ジト目を辞めたアリスが王子に問いかける。

 

「うん。無難に行くなら、一旦エデン南側にいる人達を集めてから中央に向かうのが良いと思うけど、それでいい?」

 

 その言葉を聞いた、久しぶり──でもなく1日ぶりの頭脳派聖者ダークネスが頷いて。

 

「そうですね。何か焦らなければならない事態なども発生していませんし、ぼくは問題ないと思います」

 

「意味もなく変な事をする必要もないものね。そうでしょう? アルベル、フェルナンド」

 

 ん? なぜかいきなりアルベルと僕が名指しされたんだけど。

 

「そこで何故俺たちに問うのか聞きたい所だが」

 

「そうだな。私としても誠に疑問極まる話だな」

 

 僕とアルベルはお互いの顔を見て、やれやれ感を共有する。

 全く……本当にアリスはやれやれだよ。

 

「ほんっと、こいつら白々しすぎる……! 遺跡での事! 私は忘れてないわよっ!!」

 

「ふっ……だとさ。フェルナンド」

 

「フッ……そうだな。アルベル」

 

 僕とアルベルはまさしく意気投合していた。

 うん。やっぱりアルベルは良いよね。

 流石は史上最強の英雄『神殺し』だ。良くわかってる。

 

 なんか誰かが思いっきりこっちを睨んでいるような気がするけど……そんな事は僕たちの友情からすればどうでもいいよね。

 

「おお〜。3人ってばいつの間にかめっちゃ仲良いじゃんね」

 

「2人共、遺跡探索でアリスに何をしたんだ……? って言いたいけどよ、アリスって最近いつもこんな感じだよな」

 

「……カルロス?」

 

「い、いや! なんでもねえって!」

 

 余計な事を言ったアホのカルロスを睨むアリス。

 うん。これは間違いなくカルロス君が悪いな。

 僕は悪くない。

 

 ──少し経って落ち着いてから。

 相変わらず周囲の空気を読む能力に長けた王子が、気を取り直すかのように。

 

「それで、南側のどこかの村とかに残っている人を回収する役と、ティル・ナ・ノーグに留まって、向こうから訪れるであろう人を待つ役に分かれるのが妥当だと思うけど、いい?」

 

「そうですね。異論はありません」

 

 王子とダークネスが言うように、普通に考えたらそうなるであろう、妥当すぎる案だ。

 けれども。

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

 わざとらしく考え込む僕をちゃんと見逃さずに、旧世界からの良い相棒たるアリスが話しかけてくれる。

 

「君たち程の英傑が6人集まって、無難な行動を取る……か」

 

「……」

 

「フッ……気にする必要はない。現状何か他に案があるわけでもないからな。どんな英雄譚にも、休話は必要なのだろうよ」

 

「……そう」

 

 うん。良い感じに考えてるね。

 

 1000年前も僕はこんな風に

『本当にそれで良いのか?』

 みたいな意味深な事を言ってアリスたちを煽っていたな。

 

 新世界ではあまりやってなかったんだけど、旧世界ではむしろ僕は大体こんな感じだったのである。

 懐かしい。

 

 

 ──そして、僕たちは話を通す為に族長の屋敷に行き。

 

 何故か真っ先に僕の方を見つめてくる族長から。

 

「済まないが問いたい事がある。構わぬか?」

 

 どうぞ。

 

「……貴殿らの事を、我らはどの程度まで吹聴しても許容出来る? 少なくとも、神獣の死は隠すにも限界がある故に」

 

 めちゃくちゃ緊張して冷や汗を流しまくっている族長の第一声は、僕たちの情報を隠す隠さないの話だった。

 

 まあ、確かにそういうのを気にする人も居るかもね。

 面倒事を避けたいとかなんとかで。

 

 ただ。

 

「フッ……そんな物は決まっている。そうだろう? アリス、アルベル」

 

「そうね。間違いないわ」

 

「そうだな。これに関しては俺も言われずともわかる」

 

 いつものように2人に振ってみると、思った通り良い感じの回答が来る。

 

「私たちに、隠す事なんて何もないわ」

 

「ああ。恥ずべき事など一切行っていないからな」

 

 そうだろうなとは考えていたけど、やっぱりこの2人は僕の思う偉大な英雄って感じだね。

 

 くだらない策略なんて力で捩じ伏せてしまえばいい。

 弱者が如何に喚こうがビクともしない。

 それでこそ僕の望む主人公候補である。

 

 それに、そもそも族長とロリはその為に不毛な神獣の炭掘りをしていたような? 後になって冷静になってから、情報をどうするかに思い至ったのだろうか。

 

 それはともかく。

 僕も2人に便乗して……

 

「という事だ。矮小な泥棒のように怯えて生きるなど、彼らのような偉大な英雄には相応しくない。……これで構わないか? 族長」

 

「そうか……承知した。やはり、我に貴殿らを推し量る事など到底叶わぬようだな」

 

 むしろ英雄譚というのは広く伝わってこそとも言える。

 例えばあの『勇者の挑戦』という旧世界において最も有名な詩によって、アルベルの偉大さが知らしめられていた一面もあるわけで。

 まあ勇者アルベルの名声は、仮にあの詩がなかったとしても世界中に広がってはいたのだろうけど。

 

 ……この世界が現実である以上、主人公なんて居ない。

 しかし『神殺し』アルベルは、旧世界において間違いなく主人公に最も近い男だった。

 

 惜しすぎる事に、僕とアルベルは世代が違ったのだが……もし彼と僕が同世代……せめてあの伝説の戦いの際に僕の年齢が15歳程度あれば……と思えてならない。

 

 だからこそ、僕はアルベルの仲間であり『勇者の挑戦』を唄った吟遊詩人のグランという英傑が──とてもとても。非常に。とんでもなく──羨ましかったのだ。

 

 いや、むしろ嫉妬しているとすら言える。

 仲間として勇者と旅をする、戦う力を持たない賑やかしの男。

 ──その立ち位置は、僕が1番欲しかった物なのだから。

 

 まあ真なる理想を言うならば、最初から仲間なのではなく、暫くは勇者に対して役に立たないヒント擬きの台詞だけ言って立ち去り、終盤にようやく仲間になるような意味深な男なのだが……さりとて、やりようなど幾らでもあるわけで。

 

 いいさ。

 何故なら、今アルベルは全盛期の姿で僕の隣に居る。

 僕たちはとても気が合う仲間になった。

 

 グラン翁。あなたが居るのは中央だ。

 どうやっても僕に先んじてアルベルの冒険を詩になど出来まい。

 

 あなたの偉大さは僕が1番良く知っている。

 いや、ある意味ではあなたこそが僕の1番の憧れの英傑とも言えるのかもしれない。

 

 だが。

 

 この勝負、僕の勝ちだっ!! 

 

 

「……もう一つだけ聞きたい。貴殿らは3年前に『詩人』と共に突如現れ、当時最強の存在だった龍帝を下し、この島の覇者となりし者……『天帝』ルナという存在を存じているか?」

 

 

 なん……だと……? 

 

 

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