意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男   作:まだ早い

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突っ走った1章と違って2章ではこんな感じの話もしていくつもりです。




外話1:苦労する兄さん

 

 〜『白髪理系』たちが族長を訪れる前〜

 

 

『突出水髪強者、北上』

『突出白髪強者と橙髪、西進』

 

 長耳族の族長ファルザン──長耳族の歴史上最高の存在と言われる彼は、南の集落の長ジャムランと東の集落の長から水晶に届いた魔法の報せを険しい表情で見ていた。

 

 この水晶は、遠隔地からの情報を伝える力を持つ秘宝……と言えば聞こえは良いが、実際には非常に使いづらい代物である。

 

 まず、扱えるのは優れた技量を持つ術者に限る。

 長耳族でも有数の強者。それこそ各集落の長を務める事の出来るくらいの実力が必要になる。

 そんな人材が大量に転がって居るならば、多くの話はもっと楽に運ぶなどとは言うまでもなく。

 

 次に、送信側の消費する魔力量が非常に多い。

 当然のように距離が離れるほど、伝えたい文字数が多くなるほどにその量は増える。

 具体的には、東や南の集落から先の一文を伝えるだけで術者はその日に魔法を用いて戦う事は困難になる程に。

 その結果として端的な情報しか伝える事が出来ないのだ。

 

 ……先程述べたように、長クラスの実力者でなければ使えず、そしてその人物が短い文を伝えるだけで約1日戦えなくなる。

 異種族たちからの防衛の観点から考えると、普段使いなど決してあり得ない代物という事になる。

 

 故に、これ緊急時にのみ使用する事になっていた。

 そして、これらの言葉はある種の暗号じみた意味合いを持っており。

 

「つまり突然現れ、此処に向かう存在はジャムランらでは敵わぬ程の強者という事を意味している」

 

「……どういう事でしょうか? 全く意味がわから……いえ、申し訳ありません」

 

 聞いてくるのはファルザンの妻エレーン。

 長耳族の中で族長家に次ぐ名家出身の極めて優秀な女性であり、ファルザンの幼馴染でもある。

 そんな彼女は自らを落ち着かせてから。

 

「何の前触れもなく突然一族有数の強者たるジャムラン様たちでは敵わない相手が複数出現。……そんな事が起きないからこそ、この世の秩序は成立しているのでは? それは本当に正しい情報なのでしょうか?」

 

 彼女の疑問は尤もだった。

 いきなり地面から南の長ジャムラン──長耳族の中でも10本の指に入る強者──を上回る存在が生えてくる世界。

 ここがそんな世界ではないからこそ、長耳族は現在も生きていられるのだから。

 

 しかし。

 

「我は……いや」

 

 族長は彼の癖である、一瞬目を閉じる動作をしてから。

 

「俺には、約1年前から皆に隠している事がある。……お前は既に俺が隠し事をしている事自体には気付いているかもしれないが」

 

 彼は口調を変え、族長ではなく1人の長耳族ファルザンとして妻に語り掛ける。

 すると、それに合わせて妻も口調を変えて。

 

「……それは、そうね。でも、族長ってそういう物でしょう? あなたが長になる前から、多分そうなるだろうってお義母様にも言われてたし……」

 

「そうだな。その通りだ。俺も昔は、父が誰にも何も相談せず1人で全て決める事に反感を抱いていた。俺は、ああはならないと」

 

 先代族長は誰も側に寄せず、重要な事を全て自らの意思を以て決めていた。

 人材登用や法の整備、落伍者の追放まで。

 ……独裁者以外の何でもなかった。

 

 若い頃のファルザンはそれに強く反発していた。

 何故、跡継ぎたる自分にすら何も言わないのか。

 それで失敗したらどうするのか。

 今はたまたま上手くいっているだけじゃないか。

 などと。

 

「あなたはずっと言っていたものね。『俺はみんなの意見を聞く族長になる』『俺はみんなと一緒に長耳族をより良くしてみせる』『どんな奴にだって役立つ道はある』って」

 

「……本当に、何も知らない愚者の戯言だな。事実として、俺はかつての父と全く同じ事をしている。……いや、俺の政策など全て父の踏襲に過ぎん」

 

 ファルザンは族長となってから、何故父があんな風に政治をしていたのか心底理解した。

 皆、自分や父のように種の発展を望んだり未来を見据えたりなどせず、自らの直近の欲望や生活のみを優先する……だけならまだマシだったという事実を。

 

 世の中には、本当に信じられない事をしでかす輩が……彼が考えていたよりも大勢存在する。

 

 例えば。

 魔力を持たない者でも、確かに使い道はある。

 家事や宿の経営などがそうだ。別に、魔法を使わない仕事など幾らでもある。

 しかし、問題の本質はそこではなかった。

 

 最大の問題は。

 類稀な魔力を持つ者が魔力を全く持たぬ者と番になる場合があるという事実。

 

 それを思い知った際──自らの従姉妹であり将来は北の集落の長にと期待される程に有望だった女が、魔力を持たぬ男に惚れて駆け落ちするという、一族を揺らがす大事件が発生した際──にファルザンは自らの認識の甘さを恥じた。

 結果論としては末妹の献身によりどうにかなったにせよ、本当にあれは、下手をすれば種の滅亡原因にもなり得た最悪の──

 

 思わず思考が横に逸れたことを自覚し、彼は気を取り直す。

 

「……今、その話はいい。重要なのは、俺はこの事態が……近い内に強者が多数出現する可能性が高いという事がわかっていた。そうあって欲しくはなかったが……」

 

「どういう事?」

 

 ファルザンは子を産んだとは思えないほど若く美しい妻の眼を見つめて。

 

「天帝の噂。どこまで聞いている?」

 

「天帝? ああ、3年前に突然何の前触れもなく現れた金髪の可愛らしい女の子が、龍帝様を倒して〜とかいうあの詩の事?」

 

 妻エレーンは詩に語られる話を虚言と断じた。

 先程から何度もの繰り返しになるが、そんな馬鹿げた事が起きる筈がない。

 

「まあ、確かに詩の出来栄え自体はかなりの物である事は認めるけれど……所詮は単なる物語でしょう?」

 

 突然現れた愛らしい少女がその細腕で世界最強の存在たる龍帝を倒す? 

 一体どんな空想物語を語っているのか。

 

 確かに、詩自体は素晴らしい物だった。

 エレーンが年甲斐もなく興奮し、自らの子供に語り聞かせるくらいには心を揺さぶる生涯出会って来た中で間違いなく最高の詩。

 

 しかし、詩の出来栄えとそれが事実かどうかというのは全く別の話である。

 仮に示す内容が事実だとしたら……民は狂乱し、世は動乱と化すだろう。

 が、勿論そんな事にはなっていない。

 それどころか、今は歴代で稀に見る程世界が安定しているのだから。

 

 そんな当たり前の、ファルザンとて全霊を以て頷きたい事を言う妻に対して。

 

「1年前、俺は中央に向かっただろう? 急な召集が掛かって」

 

 本当に突然。

 ファルザンは中央の……この島の中心地に呼び出された。

 種族間の諍いや道中の安全性、かかる費用などを完全に無視した至上命令。

 逆らえばどうなるかを予測出来ないほどファルザンは間抜けではない。

 

 故に、彼は手練れかつ口の固く信頼出来る護衛を引き連れて中央に向かった訳なのだが。

 

「ええ。……もしかして、その時?」

 

「ああ。俺は実際に天帝と会った。かの存在は、噂の通り天上の美貌を持ち……俺が生涯で見たあらゆる存在を遥かに超越して恐ろしかった。何故なら」

 

 あの時の事を思い出す。

 

「……俺は彼女を見て『何も感じなかった』。天帝によって戯れに放たれた恐るべき威力の魔法を見せられて尚、な」

 

「それって……」

 

 かつてファルザンが初めて龍帝を見た際には、かの存在の全身から迸る圧倒的な力に戦慄した。

 これが世界の頂点の存在かと思い、納得の思いすらあった。

 ここまでの強者ならば、自分たちの上に君臨するのは妥当な事だと。

 

 しかし、反して龍帝を超えた存在である天帝には何も感じなかったのだ。

 それが何より恐ろしい。

 

 自分が彼女を見て何も感じなかったのは、天帝があまりに弱いから? 

 馬鹿な。あり得ない。

 もしそうならば、ああして中央の覇者の証たる玉座に退屈そうな表情をしながら悠々座っているはずがない。

 

 ──つまりそれは、あまりに彼我の実力が乖離しすぎているが故に、実力を推し量る事すら出来ないという事を意味するのだろうと容易に想像出来るから。

 

「そしてその時に言われたのだ。1年後、天帝の同族が100名近く現れると」

 

「……え? ひゃ、100名?」

 

 戦慄したようにする妻に彼は頷いて。

 

「勿論、容易く信じられる話ではない。……龍帝を超える存在が100だと? それ即ち、世界の滅亡に他ならないだろう」

 

「え。で、でも。今その秘宝に……」

 

 エレーンの言う通り、秘宝は強者の襲来を示していて。

 

「……そうだな。少なくとも3名の謎の存在が現れてはいるようだ。ただ、どうやら即座に俺たちに攻撃をしたり従属を強いたりはしない存在のようだが」

 

「えっと……ごめん。まだちょっと情報を受け止めきれない。時間が欲しい」

 

 頭を抱えている妻を見て、彼はやはり頷き。

 

「だろうな。俺が今まで誰にも言わなかった理由もわかっただろう?」

 

「……そうね。こんなの、みんなに言ったら何が起きるか」

 

「とはいえ、これから白日の元に晒されるわけだがな」

 

 その言葉に対して如何にも『どうするの?』と聞きたげな顔をする妻に苦笑しながら。

 

「ふっ。そう不安がるな。まだ彼らが天帝の同種であると確定したわけでもあるまい」

 

 そうして一拍置いて。

 

「──では、彼らを迎え入れようか。なに。最悪の場合は……皆一斉に死ぬだけだ」

 

 

 などと言って、妻を更に不安がらせてから少しして。

 

「我は長耳族の族長ファルザン。よくぞ訪れた、3名の旅人よ」

 

 まずは自らが口火を切る。

 目の前の異邦人たちと自分たちの礼儀作法がどれだけ共通しているのかは定かではないが……少なくとも長耳族においてこれは『あなたたちの方が自分より上ですよ』というある種の敬意を表する物だ。

 すると。

 

「俺は『白髪理系』だ」

 

「僕は『オレンジ坊ちゃん』」

 

「ウチは『水色ギャル』! よろしくね〜!!」

 

 ──ファルザンは困惑した。

 

 何だその訳のわからん名前は。

 彼らは一体何を言っている? 

 俺の反応を試しているのか? 

 ならばどう対応するのが正解だ? 

 

 数秒の間とはいえ、思わず押し黙って考え込んでしまった。

 ……悪手。

 その自覚はあった。

 この数秒で目の前の存在の気分を害したら、失われるのは種の命運なのだから。

 故に、口を開こうとした所。

 

「俺たち3人は皆一様に記憶を失っていてな。暫定の通称と思ってくれ」

 

「……そうか……承知した」

 

 初っ端から肝を冷やさせてくる連中だった。

 まさかそれが本当に個人の名前なのか? そういう風習なのか? と疑ってしまった。

 

 そして、渾名のセンスは兎も角。

 ──記憶を失っている。

 それは天帝を讃える詩を紡いだ詩人がそうであったと聞いている。

 

 ならば、やはり目の前の3人は天帝の同種か? 

 ──彼らにそれらの情報を開示すべきかどうか。

 

 1つの判断ミスで失われるのは種族の命。

 故に、ファルザンは下手な事は口にしない事にした。

 まだ危険を犯すべき場面ではなく、一先ず信頼を構築するための足掛かりとなるべく行動すべき事など明らかだから。

 そのため。

 

「……貴殿らは我が民を救ったと耳にしている。誠、感謝申し上げる」

 

 まずは『水色ギャル』を案内してきたという長耳族が言っていた内容を話題に使う。

 

 軽く話した限り、渾名はともかく彼らにはある程度の長耳族の常識は通用しそうではあった。

 だからこそ、族長がこうして頭を下げる意味は理解して貰えるのではと期待して。

 

「ほう……なるほどな」

 

 頷く姿を見せる3人のリーダー格と思しき異様に整った顔をした白髪の男『白髪理系』。

 後方で感心したような表情をしているのは3名の中で最も年若いように見える、これまた整った顔をした橙髪の少年『オレンジ坊ちゃん』。

 とりあえず、この2人には意図が通じたようだ。

 

 3人目の、出る所は出て引っ込むべき所は引っ込んでいる女性としての魅力に溢れる身体をした美形の水髪少女『水色ギャル』は、何やらずっと楽しげに笑っているから判別が難しいが……特にこちらへ悪印象を持っていないように見受けられる。

 

 故に、次は事前に考えていた提案に踏み込む。

 

「貴殿らは何かと物入りかと思われる。それは正しいか?」

 

「そうだな。村長から金を貰ってはいるが……基本的な衣食住をこれから確保しようと考えている」

 

 3名がどこからともなく突如現れた事は知っている。

 だからこれは、事前想定通りの回答だった。

 だが。

 

「では、同胞救助の礼としてこの集落内最高の宿を提供する。案内人も付ける故、知りたい事があればそれに聞くが良い」

 

「そうか。感謝する。……とりあえず、落ち着ける場所は欲しかったからな」

 

 ありがたいといった雰囲気を出す『白髪理系』。

 

 この展開は全てファルザンが事前に考えていた、最も望ましい流れだ。

 全て彼の思い通りに進んでいる。

 

 しかし長耳族の族長は、自らの背中に流れる冷や汗を隠せているか不安だった。

 何故なら。

 

 ──『白髪理系』。

 こう至近距離かつ正面で話しているのにも関わらず、彼からは……『何も感じない』から。

 

 数多くの存在と相対してきたファルザンの経験から推測して。

『オレンジ坊ちゃん』は優れた力を持ってはいるが、どちらかというと前線で戦う男の顔はしておらず、後方支援役に見える。

『水色ギャル』は、極めて凄まじい力を……それこそファルザンを遥かに超えた実力を秘めていると感じるが、それは事前にジャムランからの知らせでわかっていた話だし、龍帝を始めとした『見てわかる』強者には慣れている。神獣や龍帝などの強者と比較してどうかというのは判断できないが。

 

 ただ、目の前の男。

 彼からは天帝と謁見した際の言い表せぬ恐ろしさを感じていたのだ。

 

 恐らく戯れに自らと種族全体を滅ぼせるだろう存在を前にして、自らの思惑通りに進んでいる事を喜ぶ余裕など、あるはずがない。

 

「では、案内を寄越そう。……我が妻エレーン。宿まで戦士たちを導くのだ」

 

「……承知いたしました。では、皆様……」

 

 側に控えさせて、これまで一言も発していなかったエレーンに宿への案内をさせる。

 長年連れ立った経験から、妻は僅かながら恐怖に引き攣る表情をしているのがわかる。

 恐らく彼女も彼らの異様さを感じ取っているのだろう。

 特に『白髪理系』の雰囲気は明らかに異常なのだから。

 

 故に妻には申し訳ないとは思うが、さりとて他に適役も居ない。

 

「へ〜! 族長の奥さんがウチらを案内してくれるんだ。王様待遇じゃんね」

 

「ふふ。同胞を救われた皆様であれば、このくらいは当然ですよ」

 

 微笑を浮かべて『水色ギャル』と話しながら3名を引き連れて部屋を出ていく妻。

 対話能力であればファルザンを上回る妻ならば、下手な事はしないだろう。

 つまり。

 

「……ふう。一先ず乗り切ったか……」

 

 ファルザンは思わず安堵の息を漏らす。

 とりあえず、即座に種を滅亡させる事にはならなさそうだと。

 

「思っていた以上に話は通じる。あの白髪の男は極めて恐ろしかったが……まあ、今は良い」

 

 自分の生物的本能を擽る存在。

 優れし者はその眼に力を持つとされるが……そんな次元の話ではない。

 何も感じすらしない中、ひたすらに生命の危機だけを本能が訴えかけてくるのだ。

 明らかに常軌を逸脱しており、ファルザンの背中は異常事態への戦慄による汗で塗れていた。

 

 とはいえ、客観的に見て第一陣を無事に乗り切った事もまた事実。

 

「1年越しに肩の荷が降りた気分だな。無論、安心し切るなどあり得ない事ではあるが」

 

 今後は緩やかに懐柔策を取るのか、はたまた別の策を練るか……いずれにせよ、即座に滅ぼされない事で策を練る猶予自体を生む事は出来たのだから。

 1年間ずっと内心で恐怖していた懸念から解放された心持ちだった。

 

 

 ──しかし次の日の朝。

 またもや宝玉が輝き出し。

 

『姫君と強者4名北上』

 

 という、暫く前に集落を飛び出した妹のミルネンが更なる強者4名を引き連れてくるという情報が南の集落から伝わって来た。

 

「頼むからもう勘弁してくれ!」

 

 ──そうして普段の冷静さを投げ捨てて頭を掻きむしる彼は、更なる厄介な男と出会う事になるのである。

 

 

 

 

 







次話も族長視点予定。
(というか1話に抑えきれなかったのが本音)

モチベのため感想と高評価よろしくお願い致します。
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