意味深な事ばっかり言ってたら1000年後の未来に跳ぶ100人の英傑に選ばれた男 作:まだ早い
話を飛ばしてはいないのでご安心を
「ひ、ひええぇ! なんでこんな事に〜!」
『ガオオオオ!!』
迫り来る大鬼。
デカくて筋骨隆々でぶっとい棍棒を持っていて、家くらいなら簡単に破壊出来そうで怖くて。
とにかく、追いつかれたら絶対に死ぬ状況。
──私はカルレアの街に生まれてすぐ狼族の孤児院に捨てられていたそうです。
ですので親の記憶なんて当然なくて。
私の思い出はあの最悪な孤児院生活から始まります。
孤児院で唯一の狐族だった私は、他のみんなよりずっと弱かった。
加えて不器用で何もできず、いつもいつも孤児院の先生には怒られ、年下の子たちからも、弱くて何もできない狐の雌とバカにされてきました。
そんな場所ですから出来れば居たくなかったのですが、さりとて他で生きていけるわけもなく。我慢して過ごしていましたが13歳になったら追い出されてしまいました。
そうして仕事を色々試しましたが、ドジな私には結局皿洗いの仕事しかなくて。
その皿洗いも満足には出来ず、店長にはいつも怒られています。
皿洗いだけじゃ生活は苦しいので、休みの日には何でも屋として掃除したり、ペット探しをしたり、薬草を採取したり……子供でも出来るような事ばかりしていました。
そんなとある日。
私は滞った家賃の支払いのため、いつもより少しだけ実入りの良い仕事をしようと森に深入りしてしまい。
そうして、普段はこんな場所には居ないはずの大鬼に襲われているというのが現状になります。
「はあ……はあ……っ!」
息も絶え絶えになりながら逃げ続け、しかし体格と体力と身体能力の差から当然のように追い付かれます。
大鬼は棍棒を振り上げて。
『ゴオオオオ!』
あ、まずい。
これ、死……
「吹き飛びなさい」
『ギャオオオォ!?』
死を覚悟……覚悟なんて勿論出来ていませんでしたが、とにかく私を殺そうとした大鬼は魔法か何かによって吹き飛ばされていきました。
「はあ……はあ……な、何が……?」
息も絶え絶えの中、声のした方を恐る恐る見ると、そこには信じられない光景が。
どういう事かというと。
「はええ……す、すっごい美男美女……」
私の目の前に居たのは3人の存在。
3人とも今までの人生で見た事ないくらい美男美女揃いで、日陰者の私の目が光にやられそうになってしまいそうです。
ここは天国か何かなのでしょうか? 私はやっぱり大鬼にやられてしまったとか……
なんて考えていると。
「間に合ったようね。私はアリスリーゼ。魔王様でも良いわよ」
……!?
「ま、魔王!? 魔王って……ええと、あ、あの魔王でしょうか?」
突然自分の事を魔王なんて呼び始めた謎の美しい存在たるアリスリーゼ様に、思わず混乱してしまいます。
銀なんていう非現実的な色をした綺麗すぎる髪に、完璧なバランスを誇る顔。スタイルもあまりに良すぎて、足も長すぎてびっくりしてしまいますが、発言もまたびっくりしてしまうもので。
魔王なんて、もちろん御伽話にしか存在しない架空の存在で……というか、この天使みたいに綺麗な人は本当に一体何を言っているのか。
「あなたが言っているのがどの魔王か知らないけれど、私は唯一無二の至高なる存在だから」
「……も、もしかして……やばい奴……?」
自慢げにわけのわからない事を語る銀髪の美人さんを見て、もしやアレな人に助けられたのではと思っていたら。
「ふむ。まあ、俺たちの事は良い。とりあえず……お前は誰で何をしている奴なんだ?」
白髪の超イケメンが私に聞いてきました。
お前は誰で何をしている奴って……凄い聞き方ですね。
この白髪の人、3人の中で1番弱そうというか、何なら私と変わらないくらい弱そうなのに。
とはいえ。
「え、ええと……私はララと言います。普段はお皿洗いをしていて……」
「皿洗い?」
怪訝な表現をする私と同じくらい弱そうな白髪イケメンさん。
「でもそれだけじゃ生活できないから、偶にこうして出稼ぎを……」
「…………」
「あーっ! 今『やべえコイツ使えねえ……』みたいな目をしましたね!? そういうのわかるんですからね!!」
私が魂の叫びを上げると、白髪イケメンさんは少し気圧されたように。
「わ、悪い。だが、皿洗いに偶の出稼ぎでこの現状だとすると……お前は俺たちに救助の礼として何が出来るんだ?」
「そういう事言うなよ……心が抉られるだろ……」
落ち込んでいると、白髪イケメンと銀髪魔王様? は顔を見合わせて。
「ハズレを引いたようね……」
「ハズレを引いたようだな……」
「そういうのは心の内に留めてよ!」
泣くぞ! 憚らずに泣き喚くぞ! 良いのか!!
「はあ……はあ……」
息を整えて。
そうして落ち着いて辺りを見渡してみると、次に気になったのは。
「ええと、あなたは……?」
3人の中で何故かずっと何も話さない人が居ましたから。
なんか格好いい感じの眼帯を付けていて、やはり凄い美形の黒髪金眼の人。
まだ若い見た目なのに、鍛え上げられた身体を持つ歴戦の戦士のような風格を醸し出しています。
そんな眼帯の人は私の問いに対して首を横に振ってから。
「私の事は気にするな。そう喋る質ではない」
「え? あ、は、はい」
そう言ってから眼帯の人は黙り込みました。
え。もしかして、コミュ症仲間……!?
でもそれにしてはめちゃくちゃイケメンだし、さっきも思いましたがやたら鍛えてそうで強そうだし……性格以外私と全然違い過ぎて泣きそうなんですが?
それに、なんか声もめちゃくちゃ良いし……もうあらゆる物を全部持ってるんだから、喋らないなんて勿体無いな、なんて思ったり。
──気を取り直して。
私は3人の前に出てから。
「皆さんはカルレアに行きたいんですよね? なら、ご案内します。まあ私にはそれくらいしか出来ないですが……」
なんて言って自分で落ち込みながら3人の先頭を歩き出しました。
そのため。
「……フェルナンド。私が言うのも変だけれど……あなたのそれ、流石にどうかと……いえ、別に良いけれどね」
後ろでそんなやり取りが交わされている事は私にはわかりませんでした。
そうして、3人を連れて街に帰ってきたところ。
「テメェら今日こそぶっ殺してやる!」
「それはこっちのセリフだ! 覚悟しやがれ!!」
……目の前では狼族の『牙狼組』と『爪狼組』による争いが繰り広げられていました。
この街を牛耳る狼族は、その2つを例にいくつかの組に別れて日夜闘争をしています。そんな彼らに怯えながら、争いに巻き込まれないようにしながら私たち狐族は生きているわけなのですが。
「ひ、ひいいぃ! なんで今日はこんなのばっかり!?」
「ねえ。こいつらは?」
何故かやたら落ち着いた様子で聞いてくる自称魔王様。
いや、なんでこの人この状況で落ち着いてるの!? 怖くないの!?
「牙狼組と爪狼組ですよ! 目を付けられたら何をされるか!」
「ふうん……まあ少しだけ面白そうかしらね」
言いながらも全く面白いとか思ってなさそうな……というか凄い退屈そうな表情をする魔王? 様に対して、白髪イケメンさんが。
「俺もアリスと同じ意見だ。連中があからさまに弱そうなのが気になるな」
「え? で、でもあなたの方が弱そうじゃ……」
大鬼を吹き飛ばした銀髪美人さんと、歴戦の強者のような雰囲気の眼帯無口さんはともかく、白髪イケメンさんはあいつらに目を付けられたりなんてしたら絶対殺されてしまうでしょう?
と思ったら。
「なん……だと……?」
「ぷっ。ふふ……あ、あの三下共より弱そうなんて……あははは!」
何故か愕然とした顔をする白髪イケメンさんと、爆笑する銀髪魔王様。
眼帯さんも『何を言っているんだ?』と言いたげな表情で私を見ていて。
え。私、なにかおかしな事を言ったのでしょうか?
それに、そうして大きな声で笑ってしまっては。
「ああ? 何だテメ……うおっ!? めちゃくちゃイケメンに美人だな!?」
「1人普通の狐も居るが……」
「おい。普通で悪かったな」
失礼な事を言ってきた狼族を思わず詰め寄ってしまいます。
無礼な狼は慌てたように。
「いやまあ、お前も結構かわいいぞ? その3人がおかしいだけで」
「で、ですよね! ふ、ふひひっ……ありがとうございます」
やった! 褒められた。嬉しい。
なんていう風にかわいい私が喜んでいると。
「笑い方が気持ち悪いな……」
「極めて単純で愚かね」
味方側(でいいですよね?)からボロクソに言われているのですがそれは。
「それはともかく! テメエら、三下とかなんとか……舐めてんのか!?」
ひいいっ!
やっぱり絡まれたっ!
しかし、自称魔王様はどこ吹く風といったように。
「周りを見る限り……お前たちは悪者でいいのよね?」
怯えている一般狐族たちを見ながらそんな挑発をする魔王様。
いや、魔王なんだったらあなたも悪人なのでは……というか、狼族を挑発するだなんて、命が惜しくないの!?
「やっぱり舐めてやがるな!? ぶっころ……ギャアアア!?」
「はあ……やっぱり雑魚。つまらないわね」
牙狼組と爪狼組たちは怒りのセリフの途中で全員が吹き飛ばされました。
……って。
「え? いや、強っ!?」
私や町人の皆さんがアリスリーゼ様のあまりの強さと早業ぶりに驚き喚いていると、白髪イケメンさんが。
「この程度で何を騒ぐ」
「いや、私と同じくらい弱そうな白髪さんが言うセリフじゃないよ!」
『うんうん』
思わず叫んでしまった私の言葉に町人の皆さんも頷いています。
「もしや俺は本当に弱そう……なのか……?」
「ぷっ、ふふ……まあ、そんな事より」
何やら衝撃を受けたようにしている白髪イケメンさんを置いて、アリスリーゼ様が。
「こうわかりやすい悪党が居るのは良いわね。じゃあ今からこいつらのアジトに乗り込んで制圧、流れでこの街を支配しましょうか」
「!? え、支配って……本当に?」
ざわつき出す町人の皆さん。
いや。あまりにも当然すぎる話です。
いきなり現れて、争う狼族の集団を諸共吹き飛ばして、そしてそのまま町を支配って……
前半だけなら、苦しむ狐族の救世主みたいな現れ方なのに!
「それだけ強いんだから、正義の為にみんなを助けるとかないんですか!?」
「? おかしな事を言うわね。私は今正義のための行動をしているじゃない」
なんてよくわからない事を言ってから、突然アリスリーゼ様はその大きな胸を張って。
「私が正義よ」
「!?」
え。この人、何を言って……?
「世界征服をした暁には、私が法を敷く。まあ実際にはその辺りは王子たちに任せるのでしょうけれど」
「やばいよこの人……何言ってるのか全くわからないよ……」
困惑する私と町人たち。
いや、ほんと誰か解説して欲しいのですが。
「つまり、私の成す事は全てが正義になるという事よ」
「……でも、まだ世界征服してないじゃないですか」
私が正論にしか聞こえないであろう突っ込みをすると。
「遅かれ早かれに過ぎないわ。手始めにこの街を支配する姿を見せてあげましょう」
「待て。アリスだけに手柄はやれんぞ。俺にもやらせろ。世界を支配するのは俺だからな」
「やばいよー。この人たち、言ってる事が常軌を逸してるよー」
本気なの?
本気で世界征服とか、その1歩としてカルレアの街を支配とかする気なの?
私がもうずっと戦慄していると、それまで黙っていた眼帯さんが突然。
「流石だな、アリス。君の言う通りだ。正義とは本来、立場や法などによって変わる物だが」
一拍置いてから。
「世界を征服してしまえば、世界における唯一絶対の正義を創り出す事も可能だろうからな」
なんて、アリスリーゼ様たちに同意し出しました。
あなたは私の味方だと信じていたのに……!
「私が言った事ではあるけれど、でもそれは民に根付くまでには相当な時間がかかるんじゃない? 私たちが生きている間に成し遂げられるかしら?」
「そのための『新世界計画』だろう?」
「? どういう事よ?」
いや、そもそも新世界計画って何ですか?
「フッ……新世界計画の……君たちに施された若返りの効果だ。それを繰り返し、事実上の永遠の支配者として君臨すれば、絶対の正義をいずれ末端の民にまで浸透させる事も可能だろう?」
「……ねえ。若返りなんて初耳なんだけど?」
なんか全く話に着いて行けなくなってきたんですが……
この人たちは本当に何の話をしているの?
お次は白髪イケメンさんが
「なるほど。俺も疑問に思っていたんだ。俺たちは偉業を成した100英傑という割には年齢層が皆一様であり、そして若いという事を。だが……そういう事だったのか」
「……全く……こんなに重要な話をどうして今するのよ」
何やら呆れたような表情をするアリスリーゼ様。
そんな彼女に対して眼帯さんは。
「それは無論、これまで聞かれなかったからだ」
「……はあ……まあいいけれどね……」
……この人たちが何を言っているのかぜんっぜんわからない!
というか!
「ち、ちょっと! 私の事置いてけぼりにしないでくださいよ!」
なんて魂の叫びを上げると、アリスリーゼ様は酷く鬱陶しそうな顔をして。
「そもそもお前に向けて話をしていないわよ。何を勘違いしているの」
「え……?」
あまりに予想外の酷すぎる言葉に、私は思わず呆然としてしまい。
「というか、まだ居たのか? もう案内は済んだだろう。俺たちはわざわざお前の無い懐を探ったりなどしないから、帰って良いぞ」
「え、え……?」
2人のあんまりにもあんまりな発言に、私はそんな声を上げる事しか出来ません。
無意識のうちに、眼帯さんに顔を向けて助けを求め……
「ふむ。居る分には特に構わん……と言いたい所だったが、先のように余計な口を挟むならば邪魔だな」
「う……」
「う?」
「うえええ〜ん!!」
──なんて泣きながら狐耳娘は走り去った。
うん。さっきの余計な口挟みさえなければ、リアクション係としてはまあ悪くなかったんだけどなあ。
脇役ならば時に身の程を弁えて黙るというのも必要だからね。
加えて、あのギャン泣き逃走は正直ちょっと面倒臭いよね。
いやまあ追いかけて慰めたりなんてしないし、多分もう会う事もないだろうから別に面倒でもないか(鬼畜)。
なんて考えていると、アリスが吹き飛ばした狼耳共の生き残り(誰も死んでない)が。
「お、お前たちなんてあの助っ人に掛かれば!」
「助っ人?」
アリスが三下っぽい狼耳に聞くと。
「そうだ! 最近来たあのオレンジ髪の!」
「姉御に掛かればお前らなんて……!!」
やたら説明口調の狼人間たちの言葉を聞いて、またもや僕たちは顔を見合わせる。
「当たりを引いたかしら?」
「可能性は高いだろうな」
アリスとアルベルが言うように、僕たちは例によって世界征服と英傑の回収をするために長耳族の集落を離れてこの街に来たのだけど、今回のお目当ての存在はオレンジ髪の女の人だからね。
そのため、僕は2人に頷いて。
「ならば付いていくとしようか。彼女が居るかどうか……楽しみだ」
そうして僕たちはあの狐耳娘の事など刹那で忘れ、奴らの後をつけて姉御とやらの場所に向かう事にしたのである。